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ITコラム 〜すべては記憶の減退から〜

カテゴリー:月報記事

森 竹彦

記憶の減退に悩む

五〇歳を過ぎて記憶の減退がひしひしと迫ってきた。何を頼まれている? それはどこまで準備した? 何をしなければならない?

何しろ弁護士が依頼を受けている“問題”は、大は訴訟事件から小はちょっとした調べ物まで、どれをどうした? あれはどうした? 克明にメモしたつもりでも、どこか抜けてしまうのではないかという不.安。

パソコンを勧められた。データベースソ\フトを使いなさい。

当時はNECのPC九八全盛時代。パソコンもソ\フトも高価だった。思い切って買った。全部で五〇万円以上。この投資が無駄になるのでは? と不安でいっぱいだった。 データベースソフト

データベース。最初に、「あなたが求めているのはデータベースソフトです」と教えて貰った。が、どうやって操作するのか判らなかった。しかしまた、データベースこそコンピュータの花形のような気がした。究極の目的=自分の事件管理をどうするか、について“先輩”はデータベースソ\フトをマスターせよ、といった。もちろんこの“先輩”はわたしよりずいぶん年下なのだ。記憶力の減退を補うためにパソコンを買ったのに、そのためにさらに新しい知識の吸収を強いられる。とんでもない話だと思うものの、やり始めると面白くもある。バッチファイルの作成。config.sys の書き換え(そういえば数号前に辻本さんが同じようなことをやっていたと書いていたな。結構面白かった)、マクロ(ソ\フトウエアの中での簡易プログラミング)の作成と進んでくると、ある程度は使いこなしが可能となってきた。

ITの活用

いま、私の事務所の事件管理はデータベースソフトによる自作のマクロ処理である(このマクロは何人かの方に提供、今も使って貰っている?)。

一台のPCをホストコンピュータとして、これにデータを蓄積、全てのPCをLANで接続、ルーター経由で光ファイバーでインターネットへ(これを全部私がやったというところが“趣味”か)。

仕事のデータを一度入力さえすれば、並べ替え、ピックアップはお手のもの。その日の仕事の進行を入力すれば報告書のプリントへ。日付順に並べなおして一覧で進行具合を管理する。金銭管理も、住所管理も。データベースソフトはこれらを連結して取り扱える(リレーショナル)ところに妙味がある。(エクセルはデータ処理が出来るソ\フトであるが、リレーショナルではない)

おかげでさらに進んだ“記憶の減退”にかなりの部分対応できていると思う。

いま、IT活用の方向は、一つは事務所内LANによる情報の一本化と集積、活用、他の一つはインターネットによる外部情報の収集・活用と情報発信であるが、はたして“活用”されているだろうか?

みんなが徒歩で歩く社会に、自動車を用いることが出来る者がはいれば、誰が勝つかは明らかだ。ITを使いこなせるかどうかもこれと同じことだろう。他方、ITといっても活用にはノウハウがずいぶんある。会員のノウハウを持ち寄って皆で生かすことも考えていいのではないだろうか。IT委員会にはぜひその方法を考えて頂きたいと希望しているのだが。

英国便りNo.2 イギリス賃貸契約体験記(2003年9月14日記)

カテゴリー:月報記事

松井 仁

刑弁委員会の皆様、松井です。

今回は、英国で体験した賃貸契約の実務をご紹介したいと思います。

7月末に無事ビザをもらって英国入国を果した後、私たちは仮住まいの大学寮に入りました(夏休みで学生がいなくなったところを旅行者に提供しているのです)。ところが、二人部屋といいながら、日本でいう8畳くらいしかないワンルームで、シャワー室も海の家のような粗末なもので、あまりにも侘しいのです。

当初私は、留学費用節約のため、9月からの寮の手配を大学に申し込んでいたのですが、せっかく長年の夢を実現して留学したのに、侘しい生活は嫌だと思って、急遽キャンセルし、民間の賃貸住宅を探すことにしました。

とはいうものの、現地の不動産屋と英語でやりとりするだけの勇気はなく、(多少悔しい思いをしつつ)日系の不動産屋に日本語で申込をし、紹介された物件のなかから選びました。日系といっても、英国賃貸協会に加入している業者だったので、契約書等は英国の法律にもとづいて英語で作成されています。条項は日本の一般的契約書に比べれば詳細で、賃借人の義務も細かく書かれています。

最も異なっているのは、1年を期間とする契約でも、開始後4ヶ月たてば、賃貸人、賃借人ともに、2ヶ月前の告知により契約を自由に解約することができることです。つまり、賃貸人からの解約に、日本のような正当事由はいらないことになっているわけです。念のため法律にもあたってみると「Housing Act」という法律の、「Assured Shorthold Tenancies」の項に、上記のような規定がありました。つまり特別な短期賃貸借のようなものですね。

Deposit(敷金)は家賃の1か月分のみ、不動産屋の手数料は約50ポンド(約1万円)と、日本より良心的です。

もうひとつ、日本にはない手続として「Inventry Check」(財産目録調査)というものがあります。これは、入居前に、賃貸人と賃借人立会いのもと、公平な第三者たる「Inventry Clerk」という人が、対象物件の状態や家財の内容について、くまなく調査し、一覧表をつくるというものです。これは、家具付きの物件が多くを占めるという英国において、退去時の紛争防止を目的としたものです。例えば、「ワイングラス5つ」と目録に書かれていて、退去時に4つしかなければ、賃借人は1つ割ったものと推定され、弁償(敷金からの差引)をさせられるわけです。

ですから、私たちも、Inventry Check のときは、気合を入れて、「ここに傷がありますので記録しておいてください」などと指摘しました。日本では、レンタカーを借りるときに事前に傷の状態をチェックすることはありますが、賃貸借契約では、普通、Inventry Check のようなものはありません。これは、家具つきの物件がほとんどないことや、退去時に畳や襖や壁紙など、全部張り替える習慣があるので、チェックする意味がないからだろうと思います。

しかし、日本も近時、通常損耗は賃貸人の負担という判例が多数出ています。とすると、退去時に、壁の汚れが通常損耗なのか過失による汚損なのかというような争いが増えるでしょう。そうなってくると、紛争防止のために、入居時にInventry Check を行う必要が出てくるかも知れませんね。

シリーズ仲裁人に聞く

カテゴリー:月報記事

松村龍彦

平成一四年一二月、当弁護士会に紛争解決センターが設立され、およそ半年が経過しました。そこで、紛争解決センター運営委員会では、今後、定期的に仲裁人にインタビューし、月報に掲載することにしました。

第一回は、岩崎明弘会員にお話を伺いました。同会員は、仲裁人として、紛争解決センター設立後、初めて和解が成立した事件をご担当になられました。

Q 紛争解決センターの設立について、どのような感想をお持ちですか?

A 私は、一五年以上も前の月報に、当会でもADRを設立すべきだという意見を掲載したことがあります。

紛争の「公平な」解決機関が裁判所だけというのは裁判所にとっても荷が重いでしょうし、「紛争を公平かつ迅速に解決したい」という国民の需要に応えるには、弁護士が仲裁に当たることが不可欠だと考えていたのです。

Q 和解成立第一号事案は、どのような事件だったのでしょうか?

A 貞操権侵害を理由とする慰謝料請求事件でした。当事者双方に弁護士は就いておらず、「慰謝料の額」が主たる争点となりました。

Q 仲裁人として、どのような点に留意されたのでしょうか?

A 「公平な」専門家であることについて各当事者の信用を獲得、維持することや履行を確保することに注意しました。また、「迅速な」解決を目指して、期日を集中的に入れました。

Q 差し支えない範囲で、和解成立の経緯についてご教示下さい。

A 申立人は、相手方の処罰を望む一方で、できれば早期に解決したいという希望を抱いていました。そこで、私は、常識的な範囲内での金銭賠償で満足する他ないことを丹念に説明しました。

その結果、第二回期日で、ほぼ合意に達したのですが、解決を急ぐと、相手方が不満を覚え、履行を確保できないおそれがあったので、相手方に対し「ご納得頂いたら、次回、和解金を持参して下さい」と告げ、第三回期日を指定しました。

相手方は、第三回期日に和解金を持参し、和解成立の席上で、これを支払いました。

Q 申立てからどのくらいの期間がかかりましたか?

A 申立てから第一回期日までが二週間余り、申\立てから和解成立までが約一か月でした。

Q 随分、迅速な解決でしたね。同席調停の形はおとりになったのでしょうか?

A 事案の性質上、同席調停は行いませんでした。各当事者には別個の控室を与えて、顔を合わせることがないようにしました。もっとも、和解成立の席では、当事者を同席させ、和解の内容とくに清算条項について十分に説明しました。

Q 「和解成立第一号」ということで、ご苦労なさった点は?

A 慎重に、和解条項を作成しました。特に、仲裁費用の負担条項は前例がなく、また今後は先例にもなるので、気を遣いました。

Q 紛争解決センターの今後について、どのようなご意見をお持ちですか?

A 大いに発展させたいと考えています。そのためには、会員や利用者となり得る市民に、制度の存在、目的等について知ってもらうことが重要でしょう。

岩崎明弘会員には、ご多忙のところ、約一時間にわたってお話を頂き、誠にありがとうございました。

当会における弁護士過疎解消に向けて

カテゴリー:月報記事

石渡一史

  1. 熊本県弁護士会の弁護士過疎解消に向けた取組み  当会月報三月号に、長弁護士が日弁連ひまわり基金による熊本地方裁判所八代支部管内の公設事務所へ赴任するにあたっての記事を寄せている。その八代で、八代ひまわり基金法律事務所の開所式と披露パーティーが五月一〇日に日弁連副会長、九弁連理事長、熊本県弁護士会会長、八女市長等が出席して、盛大に行われた。  私は、かねがね弁護士過疎地域に行く弁護士こそ、優秀な弁護士が行くべきだということを持論としており、その意味でもふさわしい弁護士を送り出すことが出来たと思っている。長弁護士が、八代の地でつつがなく派遣弁護士としての任務を全うされるよう願う次第である。  九弁連だより四月号には、やはり当会から玉名ひまわり基金法律事務所に行った田中裕司弁護士が記事を寄せており、熊本県弁護士会の弁護士過疎地域克服に対する積極的な取組みがうかがえる。
  2. 当会に弁護士過疎はないか  同じく九弁連だより四月号に当会筑後部会の弁護士過疎対策についての記事も掲載されている。この記事によれば、多数の若手の定着が筑後部会の最大かつ最善の「過疎対策」であり、おそらく本当の過疎地域から見れば筑後はもはや過疎地域ではないと言われるかもしれないとのことである。しかし、この見解には、にわかには賛同し難い。まず、筑後部会に五二名の弁護士がいる(日本弁護士連合会会員名簿平成一六年度版による)ことからどうして筑後地域全体が過疎でないという結論が導かれるのであろうか。(ちなみに、久留米市から八女市、大牟田市は、公共交通機関とタクシーで裁判所へ行くとどちらも四五分であるが、大牟田市の弁護士が〇になった時も弁護士過疎はないということになるのだろうか。)
  3. 弁護士が足りているかどうかは住民の視点からも検討が必要  私は、弁護士がその地域に必要であるかどうかは、弁護士の視点だけでなく、住民の側の判断にも委ねるべき問題であると考えている。(九弁連だより四月号で田中裕司弁護士が言っているように、弁護士が常駐することにより、いままで眠っていた事件や、知識不足ゆえに不当な扱いをうけたりするケースも発掘される。私たちは街中まで相談に行けばいいじゃないかと思うが、そういう風に考えられるのは行動範囲が広い一部の人たちで、実際は地元から出たことがない人も多いし、ましてや何のものかも分からない遠方の弁護士のところに相談に行くのは一大決心で躊躇してしまう人も多いのであるという意見には同感である。)  私は、弁護士過疎であるかどうかを判断するにあたって裁判所の管轄のみが基準になるとは思わないが、弁護士会の部会が基準になるとも思わない。ちなみに、平成六年の久留米部会の弁護士数は三二名(うち久留米市二四名、大牟田市五名、八女市一名、柳川市〇名、その他二名)、同一六年度では、五二名(うち久留米市四一名、大牟田市六名、八女市〇名、柳川市一名、その他四名)である。つまり、増えているのは久留米市だけと言ってもよい
  4. 当会の弁護士過疎問題について積極的な議論を望む  九弁連だよりの筑後部会の弁護士過疎対策に関する記事では、部会制度という福岡県弁護士会の独特のあり方や公設事務所の評価に関する理念的な問題とも絡むため、もう少し議論を整理しながら、あるべき方向性を見いだしていきたいと述べられており、結論として八女、柳川への公設事務所の設置を否定している訳ではない。  もし八女や柳川に公設事務所が設置されても、住民のニーズがなければ、住民は公設事務所には行かず、久留米市の弁護士のところへ行くだけであろう。(全国の例で言えば、公設事務所は盛況であり、やはり地元に法律事務所があることを住民は望んでいる。)最初から弁護士過疎はないというのではなくいろいろな角度から弁護士過疎対策をやってみていいのではないか。  法律相談センターを久留米に最初に作ろうとしたとき、当時の久留米部会では、積極論と消極論の対立があったが、現在では、急速な弁護士増加の原因の一つとして揚げられるほどになっている。また、弁護士実務修習を久留米支部で制度的に実施するに至った目的は、筑後部会全体の弁護士過疎の解消ではなく、筑後部会内の各地域の弁護士過疎の解消にもあると考えるべきではなかろうか。

英国便りNo.1 苦労した学生ビザ取得(2003年8月16日記)

カテゴリー:月報記事

松井仁

これから時々、近況やイギリスの法律事情など報告したいと思います。  ロンドンへ到着する飛行機を降りて、今までの海外旅行では経験したことのない緊張を覚えました。入国審査で学生ビザをもらえるかどうか不安だったからです。  学生ビザの取得のためには、

  1. 入学を許可されたことを示す大学からの手紙
  2. 銀行の残高証明書
  3. 帰りの航空券

が必要ですが、それがそろっていても認められない場合があると言われています。  同じ飛行機を降りた観光客が皆簡単に入国審査をすませているなか、私と妻は、案の定、入国審査官から専攻科目や滞在先などについていろいろ質問され、なかなかビザの判を押してくれません。  特に、妻のほうは、大学からの入学をオファーされた手紙は持っていたものの、返事を出す時間がないまま渡航しており、入学許可証明書が完全ではなかったため、「あなたはなぜまだ返事を出していないのか。」と、明らかに疑いの目で見られていました。私たちは必死で、「大学から手紙が来たのが直前で、自分たちの引越も重なって、時間がなかったんです。」、「行き違いになったら困るので直接大学に返事を出したほうがいいと思ったんです」などと説明したのですが、渋い顔は変わりません。 その間、私の頭の中には、(もし拒否されたら、異議申立をしようか、いや、観光ビザで入って大学の手紙を取り直して変更申\請か・・・)などと、英国の入管手続など知らないくせに考えがぐるぐる回っていたのですが、最後は、私たちの銀行残高証明書を見て、ようやくパスポートに1年間の学生ビザの判子を押してくれました。不法就労目的ではないと納得してくれたのかもしれません。  今まで、弁護士として何度か外国人依頼者のビザの変更や更新の手続を手伝ったことがありましたが、ビザをもらったときの嬉しい気持ちが、はじめて身に染みて分かりました。

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