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ITコラム〜メールサービスに見るプロバイダ比較

カテゴリー:月報記事

有限会社アイビージー 代表取締役 大神 与志雄

こんにちは、ホームページ委員会を通じて、福岡県弁護士会の仕事に携わらせていただいてます有限会社アイビージーの大神 与志雄と言います。今回が月報への寄稿は二回目となります。よろしくお願いします。

ADSL、光サービスなどここ数年で Internet への接続サービスはブロードバンド花盛りとなり、大きなデータも簡単にやり取りができる時代になりました。少し前までは一MB程度のデータをやり取りするのも大変だったことを考えると、時代は大きく変わってきたなと感じています。

そんなブロードバンドの時代へ変遷しても、あまり変わってない世界が各プロバイダが提供する電子メールの環境です。今回は各プロバイダが提供する電子メール環境について、述べさせていただきます。

まず、個人的に一番注意が必要と思われるOCNの電子メール環境です。ここの電子メールの利用者は注意が必要です。ホームページによると最大容量は二五MBです。しかし、一週間で五MBを超える部分が古いメールから消えていきます。つまり、ちょっとした旅行などで一週間以上メールが利用できない場合、古いメールは消えてしまう可能性が高いのです。そのため、旅行に行かれる際は Yahoo メールなどの大容量のメールが利用できる無料サービスを利用して、転送させるような設定をしておくべきです。

続いて、ひどいなと思うのがDION(KDDI)のメールサービスです。ここは最大容量が一〇MBという容量ですが、ユーザーからの申請に基づいて一〇MBのサイズが利用できると言うことです。何もしないで放置しておく場合は、三MBしかありません。私自身が弁護士会のメーリングリストを管理していて、もっとも容量オーバーになって管理者の元に送られてくるメールもこのDION利用者が一番多いです。DION利用者の方は是非、サポートに連絡をして容量アップの申\請をしてください。

容量を気にせずに利用できるのはso-netです。基本的に容量は無制限です。但し、保存期間は二ヶ月のためいつまでも古いメールを残せるというわけではありません。

@nifty は容量が二〇MBと制限はありますが、ここは送受信できるメールのサイズに制限がありません。一五MBのファイルなど大きなサイズでも送信は可能です。但し、メールの場合、相手先の容量制限や受信制限がありますので、誰にでも送信できるとは限りません。送信先の受信環境を配慮して、送るようにしましょう。

YahooBBは後発のプロバイダらしく、メール環境は一番充実しています。(決して、Yahooをおすすめするわけではありませんが)メールを利用する上では優れた環境といえます。但し、送信できるメールサイズは一〇MBとの制限はありますが、普通のメールであれば全く問題は無いと思います。

最近はYahooメールやlivedoorのギガメールなど無料で大容量メールボックスサイズをもったメールサービスが登場しています。自分の通常利用するメールアドレスから大容量メールサービスのメールアドレスに転送させるなどして、上手に使い分けるのが良いかと思います。メールを上手に活用して、仕事効率アップを目指しましょう。

最後になりましたが、コンピュータウィルスの伝播は電子メールを介して行われるものがほとんどです。最近のコンピュータウィルスは一昔前の愉快犯による犯行から、金儲け主義者による犯行へと時代が変わって、非常に高度化しています。現在においてウィルスに感染してしまうと、犯罪の片棒を担ぐ羽目になりかねませんので必ずウィルス対策ソフトの導入と更新を徹底するようにお願いします。

釜山地方弁護士会訪問

カテゴリー:月報記事

国際委員会 副委員長 安 武 雄一郎

七月一七日から一九日にかけて、川副会長夫妻をはじめとする総勢二四名の訪問団で釜山を訪問し、恒例の釜山地方弁護士会(黄翼会長)との交流会を開催しました。今回の訪問の目玉は「韓国における捜査の可視化を『可視化』する」と題した見学ツアーであり、韓国の捜査における「可視化」の現状を見聞するというものです。刑事弁護等委員会の有志が、八月上旬にソウルの「可視化ツアー」を企画しておりますが、今回の釜山訪問はそのプレツアーの意味もありました。

七月に入ってから大雨続きの福岡でしたが、出発当日は天気も良好で、午後一時前に釜山に到着しました。一七日は日曜日ですが、街のあちこちに「太極旗」が掲揚されていました。この日は憲法記念日(制憲節)で祝日なのです。もっとも、韓国には日本のような振替休日がありませんから、翌月曜日は休みではなく、日本人からすれば休日を一日損したような感覚になります。翌一八日は一日中公式行事が入っていますので、実質的なフリータイムは初日の午後のみでしたが、釜山の金周學弁護士の案内で、釜山博物館と国連墓地を見学し、夕方は韓定食の店で前夜懇親会を催しました。数年前、釜山随一の若者スポット「広安里」を臨む海上に「広安大橋」という長大な吊り橋が架けられ、我々一行も市内見物の行き帰りにバスで通りましたが、夜景の美しさは抜群です(残念ながら、福岡都市高速の荒津大橋では太刀打ちできません)。これから釜山に行かれる方には是非お勧めです。

一八日はメインの可視化ツアーです。まず、宿泊したホテルロッテ釜山の近くにある釜山鎭警察署を訪問し、一般面会室、弁護人接見室、ビデオ録画装置を備えた女性児童調査室を見学しました。一般面会室の構造は日本と大差ありませんが、弁護人接見室が、警察官(刑事)の執務室の中にあり、執務室とガラスで仕切られただけで、素通しになっていることに驚きました。しかも、被疑者が座る場所と弁護人が座る場所の間にアクリルの仕切り板がなく、全くの個室に机がひとつ、椅子がふたつ置いてあるだけです。日本の少年鑑別所の面会室の構\造に似ていますが、警察官の執務室から丸見えである点が大きく違います。もっとも、このガラスは防音強化ガラスであり、執務室から接見室の中の会話は全く聞こえません。説明によれば、被疑者と弁護人の間に仕切り板がないので、危険防止のために警察官の執務室から見えるようになっているが、秘密交通権の確保のため会話が聞こえないようになっているとのことです。完全に隔離された個室だが、被疑者との間に仕切り板がある(日本)のがよいのか、警察官から姿が丸見えだが、被疑者との間に仕切り板がない(韓国)のがよいのか、究極の選択のような感じがしました。また、性犯罪事件等を取り扱う捜査課で、ビデオ録画装置を備えた女性児童調査室を見せてもらいました。通常の調査室(取調室)にビデオカメラがセットされており、隣のモニター室からビデオカメラを通して事情聴取の模様がパソコンのモニターに映し出され、これを録画することができる構\造になっています。我々は、犯罪被害者である少女の事情聴取が実際に行われている模様がモニターに映し出されているところを見せてもらいました(事情聴取の実施中なので、人権の問題がありますから写真やビデオ撮影はしないで下さいと言いつつ、実際にモニターを見るのは可、というところが「ケンチャナヨ(大丈夫)」精神の韓国らしいところと思いました)。韓国では、性暴力犯罪の処罰及び被害者保護に解する法律により、年少(子供)被害者と女性の性犯罪被害者については、事情聴取を録画するように義務づけられており、録画したビデオに証拠能\力が認められています。これにより、被告人がこれらの被害者の供述調書を不同意にした場合でも、法廷で被害者を再尋問する必要がなくなり、セカンドレイプを防止できることになっているとのことでした(もっとも、弁護人の立場からすれば、反対尋問が事実上制限されるのですから、この点は問題にならないのだろうかというのが疑問です)。現在のところ、警察では、被疑者の取り調べは録音・録画されておらず(場合によっては、性犯罪の女性の被疑者の取り調べではビデオ調査室を使うことがあるとのことです)、警察大学校で、その実施を具体的に検討しているとのことでした。

次に、釜山地方検察庁を訪問し、やはりビデオ録画システムが設置されている女性児童調査室と検事尋問室(電子調査室)を見せてもらいました。検察庁の女性児童調査室は、機能的には警察署のものと同じですが、釜山地方検察庁の女性児童調査室は、壁面の色が薄い茶系統のクリーム色に統一され、中央に丸テーブルが置かれるなど、事情聴取の雰囲気を和らげる工夫がされていました。また、検事尋問室(電子調査室)は、一二畳ほどの広さの個室ですが、壁側に検事が座る椅子とテーブル(法壇のような造りで立派です)が配置され、これに対峙する格好で窓側に被疑者と弁護人(!)が座る椅子とテーブルが配置されています。そして、検事のテーブルの端に検察事務官が座っており、そこに設置されたパソ\コンのモニターに、ビデオカメラ(防犯カメラのような格好です)を通じた室内の模様(取り調べの状況)が映し出されており、これを録画できるようになっています。日本の裁判所の勾留質問室を格段に立派にしたような造りですが、特徴的なことは、検事の取り調べに弁護人の立ち会い(参与)が認められていることです。韓国では、憲法裁判所の判例が取り調べに対する弁護人参与を権利として認めており、現在は、弁護人が希望すれば、検事の取り調べに立ち会うことができるようになっています。もっとも、被疑者国選弁護が制度化されておらず、起訴前の弁護人選任率が低い韓国では、弁護人が実際に立ち会った事例はそれほど多くないとのことです。また、どのような事件の処理に電子調査室が使われるかということですが、個々の検事の判断で使うかどうかを決めるようにしているものの、取り調べ時には自白しているが、公判で否認することが想定されるような事件で多く使われているのではないか、とのことでした。警察署でも、検察庁でも、被疑者の人権保護が重要であると強調していたことが非常に印象的でした。

盛り沢山の見学コースが終了した後、午後三時三○分から釜山地方弁護士会で討論会が開催されました。釜山側の報告(鄭勝允弁護士)は、当会の希望により「弁護人参加制度と録音・録画の現実」であり、当会は、伊藤巧示総務事務局長が「福岡での法科大学院の概要および弁護士会の連携態勢の実情とその問題点」を報告しました。鄭弁護士の報告では、人権保護のため弁護人の立ち会いや取り調べの可視化に対する捜査機関の対応について一定の評価が示されつつ、立ち会いをより活性化するための弁護士側にも努力が必要であり、取り調べの録音・録画については、制度の実務的な運用が固まっておらず、録音・録画が公正に行われたかの制度的担保がないこと、録画物の証拠能力の存否が立法的に解決されていないなどの問題点があることが紹介されました。また、伊藤事務局長の報告では、当会と県内四大学の連携が紹介され、今後のロースクールのあり方などが紹介されましたが、釜山側から「新司法試験の合格率が低くなる見込みであり、日本のロースクールは失敗したとの報道がなされているが、本当のところはどうなのか」という厳しい質問がありました。韓国も三年後を目処にロースクール制度を導入するとのことであり、実務法曹に与える影響の大きさを懸念している様子が見受けられました。

討論会終了後、有名なカルビ専門店で懇親会となりました。総勢六○人以上の大懇親会であり、顔なじみも多く、大いに盛り上がりました。今回も通訳として同行された本村さんの韓国語教室(「韓塾」)で、訪韓直前のレッスンとして、川副会長御夫妻をはじめ数名が韓国語での簡単なあいさつを勉強されていましたが、懇親会でそれを披露すると、釜山側から大きな拍手となりました。また、宴会にあたり、韓国の女性声楽家がソロを披露するなどの出し物も用意されておられました。歓談の最中、韓塾の生徒代表\として、宮下業務事務局長の奥様や、相島会員の奥様とお子さんなどが韓国語でスピーチを行い、これも拍手喝采でした。懇親会終了後、訪問団のうち一部は二次会、三次会に繰り出しましたが、韓国名物「爆弾酒」の味は格別でした。

最終日の一九日は、早朝にホテルを出発し、一二時前に福岡空港に無事到着し、短かった二泊三日の釜山訪問が終了しました。

今回の可視化ツアーを通じて、韓国の法律実務家、特に官側の意気込みを感じました。普通の日本人(これは実務法曹もそうですが)には、心の底では韓国には学ぶところがないと思っている方が多いのではないでしょうか。私が「韓国好き」だから言うのではありませんが、韓国に学ぶべきところはたくさんあります。少なくとも、アジアに最も近い福岡の実務法曹は、声を大にしてそのことを全国に発信すべきです。 今回も釜山の先生方には本当にお世話になりました。一○月ころに釜山地方弁護士会一行が福岡を訪問予定です。川副会長もその気になっておられますので、例年以上に「熱烈歓迎」したいと考えています。

裁判官評価アンケート報告

カテゴリー:月報記事

野田部 哲也

一 はじめに

福岡県弁護士会では、平成一四年より、裁判官評価アンケートを実施してきましたが、このたび、平成一七年のアンケート調査を行い、集計結果がまとまりました。

二 アンケート調査の概要
1 対象裁判官

裁判官評価アンケートは、司法の利用者である市民の目線に立って、裁判官の客観的評価をなし、もって「市民の司法」を築こうとの目的ではじめられたものです。

平成一七年度の裁判官評価アンケートの調査対象となる裁判官は、福岡高等裁判所の民事(一六名)及び刑事裁判官(八名)、福岡地方裁判所の本庁及び各支部の民事(三九名)及び刑事(二二名)の単独事件裁判官、福岡家庭裁判所本庁及び小倉支部の家事(九名)及び少年(一一名)裁判官です。

平成一六年四月一日現在の配置で行ないました。

アンケートは、平成一七年二月から六月にかけて回収されましたが、回答頂いた会員数は合計二三三名にも及びました。

回答頂いた会員数は、平成一四年七九名、平成一五年一六四名、平成一六年は一七〇名であり、飛躍的に伸びているといえます。アンケート結果の客観性、信頼性はその回答数の多さに比例しますので、裁判官評価アンケートは、年々その客観性、信頼性を増していると言えます。

2 アンケート方法とその評価

アンケートは、民事、刑事、家事、少年に分け、後掲の分析表のとおり、民事一四項目、刑事、家事及び少年はそれぞれ一〇項目について、「大変良い」(五)、「良い」(四)、「普通」(三)、「悪い」(二)、「大変悪い」(一)の五段階評定としました。

また、わからない裁判官や項目については、空欄のまま回答してもらいました。つまり、アンケート回答用紙に記載の裁判官及び項目のうち、評価できる裁判官や項目についてのみ回答することもできるようにしました。

評価の対象とすべき期間としては、平成一六年四月以降とし、その期間における経験をもとに回答することを原則としましたが、当該期間に事件がかからなかった裁判官については平成一六年三月以前の経験で回答することも可能としました。

また、再任審査の対象となる二八期、三八期、四八期の裁判官については、回答用紙の名前に★印をつけ、特に回答を頂くよう配慮しました。

評価項目以外にも、別欄を設け、特記すべき事項がある場合には記載できるようにしました。

なお、回答については、アンケートの正確性を担保するため、回答者の氏名の記入を求めています。

三 分析方法について

1 上記のような方法を採ったことから、裁判官によって、回答数にばらつきが生じ、一番多い裁判官では一〇五でした。

回答〇という裁判官も三名おられましたが、いずれも着任後間もないことなどから会員に当該裁判官に当たった経験がなかったためと推測されます。

回答数が一桁台の裁判官は一六名でした。

回答数の多寡と評価の良し悪しは、必ずしも関連しませんが、回答数を多数確保した裁判官については、会員にとって、一定の印象を与えた裁判官と言え、それ自体が評価に値すると思われます。

2 アンケートの分析をするにあたっては、アンケート結果の客観性が必要と考え、また、平成一六年等のアンケート結果との対比を可能にするため、高裁民事、高裁刑事、家裁家事、家裁少年の裁判官については、五名以上の回答のあった裁判官を対象とし、地裁民事裁判官については一〇名以上、地裁刑事裁判官については、八名以上の回答のあった裁判官を対象としています。

3 別表に記載のとおり、各裁判官について、回答数、全ての評価項目での回答の平均点、また項目毎の平均点を記載しています。

アンケート結果については、若手会員で構成した裁判官評価アンケートチームを基本に、司法改革推進本部のベテラン会員などからも参加頂き、協議を行いました。

四 裁判官全体について

1 裁判官全体の平均点をみると、高裁民事裁判官三・四六(平成一六年三・六二)、高裁刑事裁判官三・四五(同三・四〇)、地裁民事裁判官三・四三(同三・五四)、地裁刑事裁判官三・四四(同三・五七)、家裁家事裁判官三・三四(同三・五一)、家裁少年裁判官三・二一(同三・二二)という結果でした。

全ての裁判官毎の平均点は三・〇(普通)を超えており、また全ての評価項目毎の平均点も三・〇を超えており、福岡の裁判官は高裁、地裁、家裁のいずれも基準ラインを超えていると評価できます。また、前回アンケートに比べて、高裁刑事が平均点を上げています。

平均点が三・〇に満たない裁判官も、高裁民事二名、高裁刑事一名、地裁民事四名、地裁刑事二名、家裁家事二名、家裁少年二名(なお、家事、少年の二名はいずれも同じ裁判官)いることから、個々の裁判官レベルでは普通以下の評価を受ける人もいます。

2 全体的な傾向として、総合的に平均点のよい裁判官は、概ね全ての項目についてよい評価を受けており、一方、総合的に平均点の悪い裁判官は、いずれの項目についても悪い評価を受けているといえることは、これまでと同様です。

また、同じ部の中でも、裁判長よりも右陪席や左陪席の裁判官の方が高い評価を受けることもままみられました。単独事件や争点整理、和解等で受命裁判官の印象が強いように思われます。

五 民事裁判官について

1 全体的な印象として、高裁は、部によって良し悪しの評価が分かれているようです。

地裁は、本庁については、大部分の裁判官は平均的な評価を得ているといえます。支部についても、ほぼ平均的なレベルといえますが、三・〇点に満たない裁判官がありました。

2 次に項目毎にみてみると、高裁では「当事者に高圧的な態度をとっていないか」三・六八、「熱意をもって取り組んでいるか」三・六四と高く評価されています。一方、評価の低い項目は、「判決書が説得的か」三・一〇、「判決はすみやかに言渡されているか」三・二一となっています。

地裁では、「当事者に高圧的な態度をとっていないか」三・五六、「記録はよく読んでいるか」三・五五が高くなっており、「訴訟指揮に思い込みはないか」三・三一、「判決書は説得的か」三・三二が基準点は越えていますが、低い評価となっています。

高裁及び地裁とも、「判決書が説得的か」が最も悪い項目又はそれに次いで悪い項目となっており、厳しい評価となっています。負けた代理人がいれば勝った代理人もいるのですから、敗訴判決を受けたから評価が低いのだとは言えないと思います。勝敗の結果と同時に、当事者・代理人は結論に結びつくより説得的な判決書を求めていると言えます。

「当事者に高圧的な態度をとっていないか」という項目がいずれも一番高く、また前回と比べても平均点がアップしており、裁判官が当事者や代理人と接する際、一定の配慮をするようになってきていると言えるのではないでしょうか。

但し、高裁及び地裁で平均点の低かった裁判官については、本項目「訴訟指揮に思い込みはないか」、「自分のした争点整理に固執しないか」等の項目が特に低い評価となっています。評価の低い裁判官は、全体的な傾向に反して、高圧的な態度を堅持し、訴訟指揮も強権的であると思われる面がありそうです。

六 刑事裁判官について

1 全体的な特徴として、高裁、地裁とも、裁判官毎の評価にばらつきが少なく、平均的な範囲にほぼ収まっているといえます。総合的な平均点も高裁三・四五、地裁三・四四と基準レベルを〇・四ポイント以上上回っています。

2 項目毎にみると、高裁では、「判決はすみやかに言渡されているか」三・七五、「判決書はすみやかに交付されているか」三・六九に続いて、「熱意をもって取り組んでいるか」三・五三、「被告人・証人に高圧的な態度をとっていないか」三・五三の評価が高く、「量刑は適切か」三・二二、「判決は説得的か」三・二三、「十分な審理(証拠の採用)をすすめているか」三・三二が基準レベル以上ではありますが、低い評価となっています。

地裁では、「熱意をもって取り組んでいるか」が三・六三と一番高く評価され、反面「事実認定能力は優れているか」三・二五、「判決は説得的か」三・二五が低い評価となっています。熱意を持って取り組んではいるが、事実認定能\力や判決の説得性に疑問があるというのは如何に解すべきなのでしょうか。

高裁において、地裁に比べ、「十分な審理(証拠の採用)をすすめているか」の項目が三・三二と低いのは、事後審としての性質上やむを得ない評価なのでしょうか。

また、刑事事件において重要な「量刑は適切か」という項目は、前回の調査より、高裁では、〇・〇四ポイント下降しましたが、地裁では、さらに〇・一六ポイントも下がっており、重く感じる量刑判断が増えている傾向にあるようです。

七 家事裁判官について
  1. 家事

    全体的に三・五〇前後の評価を受けている裁判官が比較的多く、項目については「当事者に高圧的な態度をとっていないか」三・五〇、「当事者の意見はよく聞くか」三・四四、「熱意をもって取り組んでいるか」三・四〇、「記録はよく読んでいるか」三・四〇が高い評価を受けています。

    ところが、総合的な平均点が三・〇を割っている裁判官は、「当事者に高圧的な態度をとっていないか」、「当事者の意見はよく聞くか」、「熱意をもって取り組んでいるか」、「記録はよく読んでいるか」等、他の裁判官では評価の高い項目について、かなり低い評価を受けています。これらの項目は、家事事件では、とくに基本中の基本といえるものばかりで、その成否を決めるといっても過言ではなく、これらについて評価されない裁判官はやはり総合的な面でも基準レベルを割っているといえます。

  2. 少年

    ここでも、概ね三・五〇前後の評価を受けている裁判官が比較的多く、その中で、家事で評価の低かった裁判官は、少年でも同じく三 ・ 〇を大きく下回る評価に甘んじる結果となっています。項目別でも「少年・証人に高圧的な態度をとっていないか」、「審判は説得的か」、「熱意をもって取り組んでいるか」等の項目で、かなり低い評価は、少年審判においては、問題が大きいと感じます。

八 特記事項について

会員が記載した特記事項は、当該裁判官に対する思い入れの強さを感じさせるものが多いようです。

その一部を後掲の別表に記載しています。

なお、裁判官が特定される記載のある部分については、変更、省略しています。

九 平成一六年等のアンケート結果との比較

過去のアンケート結果との対比は別表のとおりです。全体的にみると、平成一六年の評価に比べ、若干下がっているものの、例年とほぼ同様であり、裁判官の審理や判決に向けた姿勢は、評価できるものと思われます。

しかし、平成一六年と比べ、評価の下がった項目としては、「判決が速やかに言渡されているか」(高裁民事三・四一↓三・二一)、「事件の筋を見通す理解力はあるか」(地裁民事三・五七↓三・四四)のほか、地裁刑事では、「熱意をもって取り組んでいるか」(三・八三↓三・六三)、「被告人・証人に高圧的な態度をとっていないか」(三・六五↓三・四三)、「十分な審理(証拠の採用)をすすめているか」(三・六二↓三・四二)、「判決書はすみやかに交付されているか」(三・五九↓三・五二)と評価を下げ、家裁家事でも、「当事者に高圧的な態度をとっていないか」(三・五二↓三・五〇)、「争点整理は十\分か」(三・五三↓三・三二)、「十分な審理をすすめているか」(三・四七↓三・二三)、「審判はすみやかに言渡されているか」(三・四八↓三・一八)となっています。

一〇 福岡高裁地裁への申入れ等
  1. 高裁長官等への申入れ\

    今般の裁判官評価アンケートの集計結果については、裁判官の研鑽と人事評価の資料として役立てて頂くべく、福岡高裁長官、福岡地裁所長に対して伝えております。

  2. 評価結果の開示

    今回実施したアンケート結果についても、これまでと同様に、裁判官本人の申出があれば開示し、今後の審理・判決に役立てていただくようにしています。

    前回も複数の裁判官から開示の申し込みがありました。

    所定の用紙で開示申込をして頂いたり、弁護士会の執行部、職員、私に声をかけ、口頭で申\し出て頂き、多くの裁判官にアンケートの結果を活用頂けたら幸いと考えます。

一一 おわりに

1 回数を重ねる度に、回答数が増え、より客観性、信頼性が高くなっていることは大変喜ばしいことです。

テレビの世界では、視聴率が大腕を振って歩き、番組の存続をも決しているようですが、視聴率のデーターは関東地区約一五八〇万世帯に対し、六〇〇世帯程度であり、約二万六三〇〇世帯に一世帯程度の割合です。

これに対し、今回のアンケートは、会員総数六六五名中二三三名に回答頂き、三五パーセントを超える協力を得ており、その信頼性はますます高くなっているものと自負しております。

ご協力頂いた会員の皆様には心より御礼申し上げます。

2 今回も、メンバーの力強いサポートを受け、裁判官評価アンケートの分析においても、熱心な議論が繰り広げられました。

裁判官評価としての分析においても、多数の回答を得ている裁判官は、その評価の良し悪しに関わらず、それだけの仕事をしていることになるのではないか等、新鮮な意見も多数出されていました。また、アンケートの結果の活用についても、もっと有効利用をするべき方法を検討するべきであり、アンケート結果を実名で公表するべきではないか等の意見も出され、今後も議論が必要と考えます(なお、裁判官評価アンケート結果そのものを実名で公表\することについては、アンケートの回収において、実名の公表を前提としておらず、また、弁護士と裁判所との適切な共同関係を形成することを目指すべきであり、消極的に考えています)。

さらには、アンケート方法それ自体についても、必ず、記名してもらうようにするとか(この点も、回答者数を多くすることを目指し、記名の有無は二次的に考えてよいように思われます)、地裁四民の裁判官について、一般的な民事裁判官と同様の質問事項でよいのか、家裁家事事件についても、離婚訴訟に関して管轄が家裁になったことから、一般的な民事裁判官と同じ質問をしたほうがよいのではないか等、種々の問題提起がされていました。

3 ある懇親会の席で、裁判官同士で裁判官評価アンケートに話題が及んだ際、ある裁判官が後輩の裁判官に対し、「弁護士の評価に基づいたアンケートなんか気にする必要はない。そんなことを気にする時間があったら、記録を読み、信念を持って判決を書けばいい。」ときっぱりと言い切り、たしなめる場面に遭遇したことがありました。しかし、このように言い切った先輩の裁判官に対するアンケート評価は極めて高いものでした。

後輩の裁判官は、やはりアンケートの開示を求めました。当初は、その裁判官の評価は、あまり芳しいものではなはありませんでしたが、その後、次第に評価を上げられ、最終的には著しく高い評価を得るに至っておられます。

いずれも立派な裁判官に思われてなりません。このアンケートの実施そのものやその結果が何らかの形で、役に立ったら幸いです。

4 おわりに、事件の相手方を評価するときに、弁護士が心得なければならないことについてのアラン・ダショーウイッツ・ハーバード・ロースクール教授の話を引用して、本稿を締めたいと思います(「若き弁護士への手紙」小倉京子弁護士翻訳)。

「絶対に相手方を甘く見てはいけません。少なくとも、自分と同じくらい優秀だと推定して下さい。彼らと同じように考えようとしてみて下さい。彼らの頭や、心や、皮膚の中に入り込もうとしてみて下さい。相手が少しでもまともな弁護士なら、彼らも同じことをするでしょう。」

「相手方弁護士の知性、モチベーション、正義感を評価するときは、疑わしきは相手の利益に解さなければなりません。準備不足より、準備しすぎが悪かったためしはありません。」

この教えは、弁護士が相手方の弁護士を評価するときのみならず、相手方の検事、裁判官を評価するときにも思い出すべき話ですし、相手方の検事や裁判官が弁護士を評価するときにも思い出すべき話といえるのではないでしょうか。

5 最後に、アンケートの回収やその分析に尽力してくれた裁判官評価アンケートチームのメンバーと集計作業に尽力してくれた職員の荒木さんに対し、この場を借りて心より感謝致します。

〈高裁民事 特記事項〉
  • まじめで熱心で謙虚で良い。
  • 争点整理能力、事実認定能\力、当事者の利害関係を調整する能力、いずれもすばらしい。
  • 裁判官としての能力が高いこともさることながら、思慮深さや人柄の良いことが訴訟指揮や和解等にも反映されており、裁判官自身が説得力を持っている。
  • 自分のノウハウ等スキルを同じ部の後輩の裁判官にも上手に伝え、いい後進の指導をしている。実際にも、同じ部だった若い裁判官が頭角を現している。
  • 第○民事部は、できるだけ一期日に一事件という処理をしていることを聞いて感服した。高裁という性質上、双方の主張を聞く姿勢は評価に値する。
  • ・第○民事部は私の事件で最高裁で破棄差戻された。実に記録を読んでいないかが分かる。
  • 記録を読んでいないのに読んだふりをして和解に臨むなど。和解案もコロコロ変える。当事者からの信頼もない。代理人として、依頼者に対する説明に困る。
  • 思い込みがひどすぎる。
  • 原判決は間違っていると断定し(当事者と代理人の前で)、判決の結論を示しながら和解を試みる。これでは和解に応じざるを得ない状況となる。(特に相手方も同席する席上でのことだけに決定的である。)交替前の前任裁判官の和解方針とも完全に異なり、この点でも不信を倍加している。
  • 高裁においても、真実を発見し、紛争を解決しようという熱意がすばらしい。
  • 高裁と最後の事実審として充分に機能させている。
  • 記録を丹念に読み、求釈明等を行い、高裁の口頭弁論を活性化している。
  • 事件についての予断を最後まで絶対に変えない。その予\断に従わない当事者や証人と法廷で喧嘩をする。
  • 本筋でない細かな所にこだわる所があるように思われる。
  • 第○民事部について、判決言渡期日の変更が多すぎる。
  • 判決が極めて遅い。いったん決めた判決期日を延期して、一年待たされました。
〈高裁刑事 特記事項〉
  • 第○刑事部は量刑が重すぎる。
  • ○○裁判官は、勉強熱心な人。弁護士に電話し、法理論について協議する。
  • 事案を冷静に分析し、問題意識を持って事実認定に取り組んでいる。
  • 事実認定が客観的かつ説得的である。
〈地裁民事 特記事項〉
  • 丹念に記録を読んで、オーソドックスな裁判をされ、安心して裁判ができる。
  • ○○裁判官はひどい。常識に欠けている。
  • 人格・能力とも資質は高いと思われる。
  • ○○裁判官は素晴らしい。事件の見通しの立て方が迅速。
  • ○○裁判官は、訴訟の進行で特に問題があるとは思わないが、非常に理由付けの粗い納得できない判決を出した。(類似事件で別の部では勝訴。勝訴を抜きにしても理由付けがひどかった。)
  • 証拠調べをしたがらなかった。(不倫の事件で損害請求)
  • 紛争の実態とは離れて書きやすい判決をする傾向が顕著。
  • 和解の進め方が少し強引なところがある。
  • ○○裁判官はバランスがいい。
  • 実に細やかに記録を読んでおり、感心させられる。
  • 問題意識が自然かつ合理的で、これが不利益な判断に結び付いたとしても、理解はできる。
  • ○○裁判官は、全般的に優れた裁判官である。信頼できる。
  • ○○裁判官の判決和解は安心できる
  • やる気を感じない。
  • ○○裁判官は緻密でいい。
  • 証拠の整理に時間がかかる。不当ではないが、介入は多い。
  • 若い裁判官ではあるが、当事者の立場や気持ちを配慮した訴訟指揮や和解ができる。
  • ○○裁判官はぼっとしているがよく分かっている。
  • やる気がない。声の大きい側になびく。
  • ○○裁判官はものすごく形式的で、紛争の妥当な解決という視点が欠如している。
  • 個別審尋の際、当事者のことを「あんた」と呼び、事実を問い質す際に高圧的で、当事者を精神的に追い詰め、泣かせたことがある。当事者は言いたいことを言える情況ではない。
  • 企業VS個人の事件で企業に偏見を持っている。
  • 思い入れが激しすぎる。
  • 人格・能力ともに資質は高いと思われる。
  • ○○裁判官はますます頑固になっている。
  • 頑固一徹。正義感が強い。
  • 予断大。うちが勝ったからいいようなものの相手方が可哀想。
  • 指揮がやや強引。実体的真実追求型だが丁寧ともいえる。
  • 方言があるので、当事者にはわかりにくい。
  • やる気乏しい。思い込みに従い、説明責任を果たさない。
  • ○○裁判官は、ほのぼのしていて、牧歌的な雰囲気にしてくれそう。
〈地裁刑事 特記事項〉
  • ○○裁判官は、独自の価値観に基づき事件を見る傾向がある。
  • 否認すれば執行猶予事案も実刑になる。
  • ○○裁判官は、弁護人の弁護活動について不服があると、それを他の事件の量刑等で報復する。又その弁護人について国選弁護をさせないという対応をしている。又予断排除について無神経であり、刑事裁判官として不適格である。
  • 人間の弱さに対する理解が欠けている。
  • ○○裁判官は、刑事裁判官として真面目で丁寧である。立派な裁判官である。
  • 熱意を持って事件に取り組むのは評価できるが、感情的に訴訟指揮をしたり、介入尋問をすることは、止めて欲しい。
  • 被告人の主張に基づいて、弁護人がその利益を擁護する発言をすると、とたんに不機嫌になる。裁判所の意には沿わなくても、弁護人は、被告人の利益を擁護するため活動する立場にあることを理解して欲しい。
  • 人間の弱さに対する理解が欠けている。
  • ○○裁判官は、被告人に対し、人間味ある説諭をしていただき、弁護人としても大変救われる思いをしたことがありました。
  • ○○裁判官は、民事のように手続を簡略化しすぎている。被告人は納得いかない様子。(適正手続上?)
  • 被告人に丁寧に手続の説明をしている。
  • ○○裁判官は、刑事部の良心だった。戻ってきて欲しい。
〈家裁家事 特記事項〉
  • 審判が二年半になるも出せないでいる。
  • ○○裁判官は、すばらしい。
  • 逆送する少年に対し、「言いたいことがあったら裁判で言うように」と一言いっておわった。非行少年をきらっているとしか思えない。
  • 少年に「神を信じるか?」ときいたり、「人間は何かによって作られた」といったり。中絶をきらい、望まない妊娠でも出産をすすめるような言動あり。
  • ○○裁判官は、結審から審判までが長すぎる。(二年になろうとする事件あり)
  • 審判以外でも、観護措置なども弁護士の意見をきかない。取消についても自分で責任を持とうとしない。
〈家裁少年 特記事項〉
  • ○○裁判官は思い込みが強すぎる。
  • ○○裁判官は、少年に対してはそうではないが、付添人に対して高圧的。少年の気持ちをきく前に頭ごなしに自分の意見を付添人に押し付けるのはやめて欲しいと思う。(審判そのものが問題という訳ではないのだが……。)
  • ○○裁判官は、保護観察処分になった少年について、審判後も付添人に現在の生活状況をわざわざ電話で尋ねてくださったりして気にかけてくださっており、大変にうれしく思っています。
  • 担当事件が逆送され、不起訴処分となった。五頁くらいの意見書を三回くらい出したのに全く理解がなく、同じものを読んだ検察官は不起訴にして釈放した。
  • 少年審判で、黙秘権の告知をしない。物言いや質問の仕方が高圧的。処分も重い。審判も説得的でない。
  • 黙秘権・抗告権の告知がない。事実関係に関する質問はほとんどない。やる気が感じられない。

学生無年金訴訟について

カテゴリー:月報記事

千綿 俊一郎

一 はじめに

皆さん、学生無年金訴訟というものをご存じでしょうか。

今回、福岡地裁で、勝訴判決を頂きましたので、新聞報道もなされましたが、問題点が分かりにくいのと、今後の社会福祉訴訟への誘いも兼ねて、御報告させて頂きます。

二 福岡訴訟が目指したもの
  • 原告の主張

    我々原告弁護団は、平成元年改正前の国民年金法が、学生らが障害を有するにいたった場合に備えて救済手段を何ら講ずることなく、漫然と学生を強制適用の対象から除外していた点で、憲法第一四条、第二五条に違反することを、主張してきました(いわゆる「憲法問題」)。

    また、同時に、福岡訴訟の原告については、二〇歳になる前の時点で、発症し、医師の診断を受けていたことを主張してきました(いわゆる「初診日問題」)。二〇歳になる前の時点で、初診を受けていたことが認められれば、障害福祉年金(昭和六〇年改正後は、障害基礎年金)を受給することができるのです。

  • 福岡での立証活動

    憲法問題について、九州大学名誉教授の河野正輝先生に御証言をいただき、熊本学園大学助教授の?倉統一先生に意見書を作成頂きました。その他、国会議事録や委員会審議録、立法担当者による文献など、大量の資料から、制度の矛盾、問題点を見て取ることのできる箇所をピックアップして、整理、検討しました。同時に、学生無年金者や家族、全国脊髄損傷者連合会などが、国に対して様々な働きかけをしてきたにもかかわらず、国がこの問題を放置してきたことを明らかにしてきました。これらの作業は、全国弁護団の驚くべき程に精力的な立証活動に大きく依拠するところでした(言うなれば、福岡弁護団はおんぶにだっこ)。

    また、初診日問題については、西南学院大学講師の平直子先生に御証言をいただきました。平先生には、精神疾患の特有の問題として、発症段階では他の内科疾患等との区別が付きにくいこと、偏見や制度の未整備などのため受診が遅れる傾向にあること、そのため、初診日の認定実務の際に問題が多いことを論じて頂きました。

三 各地の判決結果

学生無年金訴訟は、二〇〇四年三月の東京地裁判決を皮切りに、各地裁で判決が出されています。東京地裁は、改正前国民年金法が憲法第一四条に違反していたものとして、原告らに損害賠償を認める原告勝訴判決を下し、続けて、二〇〇四年一〇月の新潟地裁でもほぼ同様の原告勝訴判決が出されました。さらに、二〇〇五年三月の広島地裁は、さらに一歩進んで、改正前国民年金法が憲法第一四条に反していたことを理由に、原告に対する不支給決定を取消す判決を出しました。

しかしながら、東京地裁判決に対する控訴審判決(東京高裁)は、二〇〇五年三月二五日に原告敗訴の逆転判決を下しました。この判決は、国会の立法裁量の範囲を広く認め、改正前国民年金法の内容も、この国会の立法裁量の範囲内であるとしたものでした。そして、判決は、「障害による稼得能力の喪失に対する備えは、本来、各個人又はその扶養義務者においてもなすべきものであり」とまで判示しており、障害者の生活実態や家族の苦悩を全く理解しない、冷たい判決でした。

四 勝訴判決と国側の控訴断念について
  • 福岡判決の言渡

    二〇〇五年四月二二日、福岡地裁第三民事部(一志裁判長)は、判決の言渡しをしました。その内容は、原告の二〇歳前初診を認め、不支給処分の取消を命じるものでした。

    立法不作為による損害賠償については、これを認めませんでしたが、これは、憲法問題等に関する原告の主張を退けたものではありません。上記の通り、我々は、立法不作為の内容として、「二〇歳以上で初診となった学生と二〇歳未満で初診となった学生との間の差別」を主張していたところ、裁判所は、本件原告について「二〇歳以上での初診」ではなく、「二〇歳未満での初診」を認めたために、差別の問題については立ち入るまでもなく、原告が救済されることとなったものです。

    私は、原告や家族の苦労やこれまでの立証活動の大変さが報われたことが思い返され、同時に、福岡訴訟の裁判体が、東京高裁判決後であったにもかかわらず、原告勝訴判決を出してくれたことに対して、深い感動を覚え、退廷後、思わず涙を流してしまいました。

  • 判決言渡し後の活動

    勝訴判決後は、厚生労働省や社会保険庁の担当者と控訴断念の交渉をなしました。国会議員にも御報告とお願いのために、原告のご両親が上京され、我々弁護団からも、厚生労働委員会の議員の方に、委員会で取り上げてもらうようFAXや電話でお願いをするなどしました。そして、ゴールデンウィーク中の五月二日に、無事、社会保険庁の担当者が、控訴を断念することを発表しました。 五 今回の弁護活動について

    今回の福岡弁護団は、津田聰夫団長と山崎あづさ事務局長を中心として、皆、他の仕事に振り回されながらも頑張ってきたなあと思っています。当初は、「保険料も払っていない人がどうして年金をもらえるんだ」という冷たい指摘もある中、ドンキホーテのような気持ちで裁判所での弁論に望んでいました。しかし、全国の弁護士のすさまじい仕事にやり方にカルチャーショックを受けながら、どうにか、やってきました。福岡訴訟は、訴訟の審理を迅速に進めたい裁判所、訟務検事とたびたび対立してきましたが、弱腰になりがちな我々弁護団の尻を叩いていただいたのは、野林豊治弁護士でした。初診日問題は安部尚志弁護士が担当し、不屈の精神で頑張られたため、見事勝利投手となりました。平田広志弁護士は、さすが、社会福祉訴訟の専門家で、学者や国との接し方は見事でした。

    社会福祉訴訟は、障害者の生活の厳しさを目の当たりにして、制度の矛盾を突いて裁判所に説得していくという、なかなかやりがいのある仕事だと思います。皆さんも、社会福祉訴訟に是非関心を持って頂きたいと思っています。

刑事模擬裁判奮闘記

カテゴリー:月報記事

山 内 良 輝

一 苦労の始まり

「ちょっと模擬裁判の弁護人役をやってくれないかな」

古屋勇一刑弁委員長のお誘いの電話を二つ返事で引き受けたことが苦労の始まりでした。「ちょっと」とか「簡単だから」などという前置きのあるお誘いこそ要注意と承知していたはずなのに。

二 刑事模擬裁判とは?

昨年、刑事訴訟に関する二つの大きな制度改革が行われました。一つは、いわゆる「裁判員法」の成立であり、平成二一年五月までに裁判員制度が施行されることになりました。もう一つは、刑訴法の改正により、裁判員裁判を円滑に実施するための公判前整理手続が新たに導入され、本年一一月一日に施行されることになりました。

刑事模擬裁判は、裁判員制度に先行して始まる公判前整理手続に焦点を当て、法曹三者が模擬裁判の形式により起訴から判決までの一連の手続を実験的に行ってみて、制度の具体的なイメージを共有し、発生しうる問題点を洗い出そうとする試みです。

従前の証拠開示の実務は、昭和四四年の最高裁判決により、証拠調べの段階に入った後に、厳格な要件の下に裁判所の訴訟指揮権の発動として認められるだけでしたが、公判前整理手続では、検察官が請求を予定する証拠以外の証拠についても、証拠調べ前に、弁護人が一定の要件の下でその開示を請求する権利が認められました。

我が弁護団(団長は不肖当職、団員は平岩みゆき会員と五十川伸会員、被告人役は東拓治会員)は、証拠開示請求権を駆使して刑事弁護の新境地を切り開く意気込みで、裁判所(裁判長は川口宰護上席裁事)と検察官(主任は矢吹雄太郎総務部長)が待ち受ける公判前整理手続に臨んだのでした。

三 なぜ弁護団は押されてしまったのか?

事件は、被告人と被害者が飲酒の上、些細なことから喧嘩となり、被告人が包丁を持ち出して被害者を刺突して傷害を負わせたが、被告人は殺意を否認しているという設定です。

第一回公判前整理手続(六月一三日)では、(1)検察官が裁判所と弁護人に証明予定事実陳述書を提出し、(2)検察官が裁判所に証拠を請求し、(3)検察官が弁護人の請求に応じて証拠を開示し、(4)弁護人が裁判所と検察官に事実上・法律上の主張を明示するなどの手続が行われました。

第二回公判前整理手続(六月二八日)では、被告人が従前の供述を翻し、「実は私に犯行を唆した黒幕がいる」と告白するというハプニングがあったことから、弁護人が主張を変更するなどの手続が行われました。

これら二回の手続を通じて、我が弁護団は検察官に押されてしまいました。その一因は、主任検察官の勢いにもあったのですが、より本質的な原因として、今回の模擬裁判では証人尋問を被害者一名と目撃者一名に限るという前提があったため、弁護団が当初は不同意を幅広く主張したものの、結局は不同意を順次撤回していったという展開にありました。これは、弁護人として証人尋問を要すると考えた証拠については不同意を貫徹し、あくまで証人尋問を要求する姿勢を徹底しないと、本番の公判前整理手続でも検察官に押されてしまうという今後の教訓になることでした。

四 裁判所に見られた変化の兆し

第三回公判前整理手続(七月一四日)では、新しい動きが裁判所に見られました。それは、裁判所が(1)凶器の写真撮影報告書、(2)被告人の犯行再現報告書、(3)被告人の古い判決書について、「裁判員に不当な予断を与えるおそれがある」という理由から検察官の請求を却下したことです。従来の実務であれば、刑訴法三二一条三項、三二三条一号により容易に採用されていた証拠ですが、裁判所の中にも、裁判員裁判を見据えた新しい動きが出てきたようです。

五 最後に

実は第一回と第二回の模擬裁判が終わった後、会員数名に意見を聞いてみたのですが、「こんな難しい手続なら、自分はやりたくない」という声が大多数でした。しかし、第三回の模擬裁判を終えてみて、直接主義・公判中心主義に向けた土俵作りを整備するための新しい息吹も感じられました。

次回の模擬裁判(九月二七日午前九時から午後五時)では、冒頭手続、証人尋問、被告人質問、論告弁論、判決宣告まで行われます。会員の傍聴をお待ちしております。

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