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「アンドレア・パラさん講演会・シンポジウム」のご報告

精神保健委員会 委員 植竹 克典(66期)

令和6年10月26日、コロンビア共和国からアンドレア・パラさんをお招きし、精神保健に関するシンポジウムを開催しましたので、ご報告いたします。

1 アンドレア・パラさんって?

アンドレア・パラさんのことを御存じない方は多くおられるかもしれません。
アンドレアさんは、障がい者の支援活動などを精力的に行い、中南米諸国で成し遂げられた成年後見制度や強制入院制度改革に深く関与されたコロンビア共和国の弁護士です。今回は、日弁連の強制入院制度の廃止に向けた取組みの一環として来日されました。

2 アンドレアさんの基調講演…中南米での後見制度の廃止

アンドレアさんは、自国であるコロンビアや、その他中南米各国における後見制度の廃止に向けた取組みとその成果を中心にご講演されました。その概要は次のとおりです。
コロンビアは、人口4000万人、60年にわたって続いていた武力紛争が2016年に終結しましたが、その武力紛争に起因し、障がいを負った人も多数生活しています。
従来の制度では、家庭裁判所の判断により後見人が選任され、多くのケースでは、親族が後見人を務めていました。そして、後見人には、本人に関する全面的な権限を付与され、その一方的な判断(代行的意思決定)により、本人に不妊手術を受けさせてしまう、本人の財産を遣い込んでしまう、施設入所を強制してしまうといった人権侵害が横行していました。

コロンビアでは、2011年に障害者権利条約を批准し、この条約批准をふまえ、条約の趣旨、とくに第12条(障害者の法的能力の享有など)を忠実に実現する方向での制度改正が進められました。その結果、2019年までに、後見制度は全面的に廃止され、それに代替する「支援による意思決定」の枠組みが整備されました。

支援による意思決定は、(1)本人と支援者との支援合意、(2)特定の法律行為について、本人の支援者を家庭裁判所が選任する手続、(3)本人による事前指示の3つの枠組みがあり、いずれについても、代行的な意思決定が排除され、本人を中心に据え、本人の意思決定を支援する制度とされています。
このような後見制度の廃止など障害者権利条約の趣旨を実現する活動は、アンドレアさんらを中心とする中南米各国をまたがる権利擁護に関するネットワークの尽力により、中南米の各国で進められているとのことでした。

3 パネルディスカッション…強制入院の廃止に向けて・・・

パネルディスカッションでは、アンドレアさんのほか、精神障害がある人の地域生活を多職種チームで支援をしているQ‒ACTの須田竜太さん、精神科病院の強制入院の廃止に向けた日弁連の取り組みの中心メンバーである東京の池原毅和弁護士をお招きし、当会の田瀬憲夫会員のコーディネートのもと、強制入院の廃止に向け、それぞれの立場から熱い意見が交わされました。

本項の執筆者の力量の問題と紙幅の都合により、その全容をご報告することはできませんので、とくに印象に残った部分をご報告いたします。
アンドレアさんからは、かつては「奴隷から逃れたいという考え」が精神疾患と考えられていたなど、診断する側の主観的な判断で精神疾患との診断がされてしまう、本人の感情的な苦痛については、施設への収容による一般的な対応ではなく、個々人の問題として、軽減策を考えることが必要であり、その検討にあたっては、創造力を発揮した医療以外の対策(芸術を楽しむ、カラオケを楽しむなど)が重要と考えているとの発言がありました。

須田さんからは、Q‒ACTの取り組み事例として、強制入院を繰り返してきた男性の支援事例がご報告されました。危機的状況になった場合の対応策を、事前に本人と話し合っておき、調子が悪いとどうなるのか、どうすれば落ち着けるのか(状態が「黄色信号」であれば、「壺に向けて大声を出す」、状態が「赤信号」になれば「入院する」など)、周りの人にしてほしい支援・してほしくない支援を事前に話し合い、支援者間で共有する、この対応策については、何度も見直しをし改善していきながら支援を行っているとのことでした。

また、池原弁護士からは、強制入院中は大便を壁に塗ってしまうことを繰り返していた方が、退院後は、その行動もなくなり、一人で遠方に旅行に出かけたりするなど、社会内で順調に生活を送れるようになった、問題行動は本人なりの抵抗だったのではないかと考えているとの体験談のご報告がありました。

4 雑感

登壇された皆様のご発言を通じ、本人の話をしっかり聞く、そして、支援を一般化するのではなく、個々の当事者本人に適した方法で、寄り添った支援を行うことが重要であると感じました。こうした方向の先に、精神障害者の脱施設化の更なる展開もあるものと思います。

私自身も、今回も学んだことを活かし、今後の成年後見人としての業務や、精神保健当番弁護士などの支援活動により注力していきたいと強く感じました。

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