福岡県弁護士会 裁判員制度blog

2010年3月16日

裁判員裁判・傍聴記(その8)


 2月下旬、ある裁判を傍聴しました。
 検察官の論告・求刑そして弁護人の最終弁論があります。
 検察官は主任ではなく、女性検事が立ち上がりました。証言台の前に立って、左手に原稿を持ち、右手にパワーポイントを操作するためのペン型のスティックを構えます。
 本件は公訴事実に争いはなく、量刑が問われています。パワーポイントによって場面を次々と切り換えて話を進めます。被告人に有利な情状にもあえて触れます。被告人が若いこと、前科・前歴のないことは、あたりまえのこと、ごくごく常識的なことだと切って捨てました。
 そして、求刑として懲役12年としました。
 傍聴席からすると、この時点で初めてパワーポイントの画面によって求刑を知るわけですが、実際には、裁判員の手元にはA3ペーパー1枚が配布されていますので、気の早い人はペーパーを手にしたときに求刑が12年であったことを知ったことでしょう。
 論告のとき、多くの裁判員は手元のパーパーに目を向けていて、検察官のほうを注視している人のほうが少ないように見受けられました。
 求刑があったので終わりかと思うと、検察官は、つい先ほどの被告人質問をふまえて、次のように付言しました。
 被告人は、先ほど「後悔していない」と述べました。これは犯行直後の供述調書と同じ言葉です。検察官は、今日の時点で、被告人が謝罪の言葉を述べることを期待していたのですが・・・。
 このときには、もちろん、あらかじめの原稿があったわけではありません。用意していたペーパーは証言台の上に置き、裁判員の顔ぶれをしっかり見ながら語りかける口調でした。裁判員も検察官のほうをじっと見つめて、考えている気配です。やはり、このようにして裁判員との交流があったほうが効果的ではないかという印象を持ちました。
 次の弁護人による最終弁論に移行する前、裁判長は検察官の配布していたペーパーに誤記があるのを指摘していました。もちろん、直ちに検察官はそれを認め訂正手続をとることにしました。
 弁護人の最終弁論は、直前にペーパー1枚を配って開始しました。
 これから弁護人の意見を申し上げます。その内容は終わった直後にペーパーを配布しますので、裁判員の皆さんは、私の話をよく聞いてください。
 このように言って弁護人は熱弁をふるいました。
 パワーポイントは使わず、OHPです。両手を証言台について、裁判員たちを順繰りに見つめながら大きな声で最終弁論を展開していきます。キーワードを2つに設定して、それぞれにもとづいて展開するというやり方は、初めて見ましたが、裁判員の興味・関心をひきつけるうえでは有効だろうと思いました。
 最後に、結論として、弁護人は量刑として懲役6年が相当であると結びました。弁護人は裁判に対して、ペーパーを2種類配ることになります。そして、弁論用の原稿も別に用意していました。
 双方の意見が終わって、次の手続に移ると思っていると、突然、裁判長が大きな声で傍聴席に向かって話しかけます。
 「傍聴席の最前列の人」という呼びかけには、私も最前列にいましたから、ドキッとしました。そして、裁判長の次の言葉を聞いてある意味で安心しました。
 「寝るのなら、廊下に出てからにして下さい」
 えっ、何のこと、誰だろうと思って左のほうを見ると、なるほど、60歳ほどの背広を着た男性が大口を開けて眠りこけています。恐らく、本件とは関係のない人が暇つぶしを兼ねて軽い気持ちで法廷に入ってきたのでしょう。それにしても、ひどい話です。人が殺されたという事件で、弁護人が熱弁を奮っているのに大口を開けて最前列で居眠りするなんて信じられません。公開の法廷というのは、ときにとんでもないことが起きるものです・・・。(な)

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