福岡県弁護士会 裁判員制度blog

2008年3月17日

裁判員裁判における証人尋問

 最新の判例タイムズ(1259号)に高野隆弁護士による含蓄深い指摘がなされていました。大変参考になりますので、ぜひ本文を読んでみてください。少しずつ紹介します。(な)

 証人尋問は、他のすべての公判手続きがそうであるように、事実認定者の共感を獲得するためのプレゼンテーションである。証人尋問は公判廷で「見せ、聞かせる」ために行うものであって、「調書に残す」ためにやるのではない。
 証人尋問といっても、自分の証人や依頼人の尋問(主尋問)と相手方やその証人の尋問(反対尋問)とは、まったく異なる。両者はおよそ正反対のことを目的としている。主尋問と反対尋問は、まったく異なる二つの手続である。
 法廷活動はすべてプレゼンテーションである。法廷に立つ弁護士にとって、公判は真実を発見するところではない。公判は、事実認定者をあちら(検察側)ではなく、こちら(被告側)の意見に同調させるための活動を行う場所である。証人尋問は、証人から真実を教えてもらう手続きではない。それは、弁護人が、証人とのあいだで行う問答によって、事実認定者に被告側の主張が正しいことを理解させ受け入れさせる手続である。
 弁護人は、証人の答えをあらかじめ知っていなければならない。証人がどう答えるか知らない問いを発してはならない。
 弁護側のセオリーとの関連があいまいな尋問、関連があるとしても瑣末すぎる尋問はすべきではない。なぜなら、それは事実認定者に弁護側のケースセオリーを理解させ受け入れさせるという究極の目標の達成を妨げるからである。
 証人尋問においては、事実認定者の理解を促進し、その共感を獲得するための工夫が必要である。すなわち、ここでも、「物語」「初頭効果」「新近効果」「繰り返し」「視覚装置」は有効であり、弁護人はこれらの積極的な利用を心がけなければならない。
 裁判員裁判では「調書に残す」ことは証人尋問おける目標ではない。証人尋問の目標は、尋問をしているその場で、弁護人と証人のコミュニケーション全体を通じて、事実認定者を説得することである。公判廷におけるパフォーマンスこそが証拠であり、公判調書はその一部を記録した不完全な「訴訟記録」にすぎない。

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2008年3月19日

裁判員裁判における証人尋問

判例タイムズ1259号の高野隆弁護士の指摘を引き続き紹介します。今度は主尋問のすすめ方です。(な)

 主尋問の主役は証人である。弁護人は目立ってはいけない。弁護人席から尋問したのでは、弁護人が事実認定者の視界に入りすぎる。法壇の端近くまで移動すれば、事実認定者の視界から消えることができる。
 証人尋問は芝居ではない。決して、覚えてきたセリフを話しているように見せてはならないし、弁護人が用意した項目を順次語らせているように見せてもいけない。
 弁護人による問いかけとそれに対する証人の応答(インタービュー)として、リアリティのあるものでなければならない。そのためには、弁護人は尋問の際に、決してメモを見てはいけない。常に証人に対するアイコンタクトを保った状態で尋問しなければならない。
 メモに視線を落としていると、証人の動作を見過ごしてしまい、それに対応することができなくなる。
 良いインタビューは決してやみくもに合いの手を入れないものである。
 主尋問では誘導尋問をしてはならない。証人にリアリティのある物語を語らせるために重要なのは、物語の流れ(フロー)を維持することである。そのためには、時系列で聞くこと、ディテールを省くこと、そして、舞台を設定してから動作の尋問をすることである。一切の誘導なしに個々の動作を証人に語らせることによって、聞いている人は明確なイメージを脳裏に描くことができる。尋問者が事実を提示して証人が「はい」と答えるだけではイメージは生まれない。
 問いは、できるだけ簡潔に一つの具体的な事実を問うものではなけばならない。評価ではなく、事実を尋ねる。

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2008年3月24日

裁判員裁判における証人尋問

判例タイムズ1259号の高野隆弁護士の論文より紹介します。3回目の今回は反対尋問です。(な)

 反対尋問の主役は弁護人である。反対尋問は弁護人と証人との対決である。
 弁護人は、証人とともに、事実認定者の視界の中心に立つ必要がある。
 証人とのアイコンタクトを保つこと、そして、決してメモを見ながら尋問してはいけないことは、主尋問の場合と同じである。
 反対尋問では、原則として誘導尋問しかしてはいけない。
 反対尋問は弾劾の手続であり、弾劾の物語を支える事実を証人に認めさせること、あるいは、それを認めることを拒否する証言が信ずるに足りないことを事実認定者に示すことがその目的である。だから、弁護人の問いは、すべて、「はい」と答えさせるように尋ねていることが事実認定者に分かるような問いでなければならない。それは尋問というよりは、弁護人の供述である。
 弁護人の方から裁判長に介入を求める(「裁判長、証人に質問に答えるように命じてください」)べきではない。証人に圧力をかけていると事実認定者に感じさせることになるからである。証人が質問に答えなくてもかまわない。単純に答えられる質問に答えない証人の態度を事実認定者に示すことができれば、尋問の目的は十分達したのである。
 同様に、証人に対して「はい、か、いいえ、で答えてください」と念を押すのも避けるべきである。証人には答えについて完全な自由が与えられていることを、事実認定者に示すべきである。
 最後に高野弁護士は次のように指摘しています。
 証人のタイプは様々であり、法廷技術というものは本を読んだり名人の話を聞いたりしただけでは決して上達しない。適切な指導者の下で練習をする場が必要である。

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