法律相談センター検索 弁護士検索

◆憲法リレーエッセイ◆

カテゴリー:憲法リレーエッセイ

会 員 迫 田 登紀子(53期)

○ある少女の話○

私が登録して間もなくの2002年2月、全国に先駆けて福岡県弁護士会で当番付添人制度が始まった。おかげさまで、50名を超える少年たちとの出会いの機会を戴いた。

中でもA子さんのことは、とりわけ強く記憶に残っている。出会った頃のA子さんは17歳。背の高い、健康的な美人で、清潔感にあふれ、礼儀も正しい。およそ鑑別所に似合わないな、というのが第一印象だった。

非行事実は覚せい剤の自己使用。痩せる目的で、売人から短期間に頻回に購入しては、自分で注射したという。

面会を重ねるにつれて、彼女が幼いころに、実父から種々の凄まじい暴力を受けたことを知った。生きることに意味が見いだせないでいること、深い孤独をかかえていることなどが分かった。私は、母親が彼女のことを愛しているというメッセージを発し続けることしかできなかった。

審判結果は、残念ながら少年院送致。罪滅ぼしに、少年院でも面会を続けた。

1年後、帰ってきました、と電話をもらった。昼食を、と誘った席で、彼女は少しずつ話をしてくれた。

“先生。私、少年院に行ってよかったと思っているよ。覚せい剤を注射されたお母さんネズミが、赤ちゃんネズミを食べる映画を観て、怖かった。覚せい剤をやった子たちが、輪になって、自分たちのことを話し合った。ああ、私とおんなじなんだって分かった。みんな、さみしいんだよね。とっても勉強になったし、もう覚せい剤はしない。

でもね、本当の勉強は今からだと思っている。だって、これからは、家族と喧嘩になったり、好きになった人から嫌われたりするかもしれない。たぶん、たくさん辛いことがあるよね。その時がきても、薬とかに頼らないで、乗り越えるね。それが、私の本当の勉強。”

わずか1年あまりで、生きる力を取り戻した彼女に、私はただ感服するしかなかった。

そして、それが実現したのは、鑑別所、家庭裁判所、少年院等の彼女に携わった多くの公務員の方々が、彼女に対して「個人として尊重する」という姿勢を貫いてくださったおかげだと感じている。憲法13条は、今も確かに根づいている。

○私の実感○

借金、離婚、生活保護、学校や職場でのいじめ、刑事事件。弁護士として日常的に接しているこうした事件。その背景に、何らかの暴力が絡んでいることが多い。

誰かからの暴力が、受けた者の生きる力を奪う。生きる力を奪われた者は、引きこもり、社会から逸脱し、時に死に追いこまれる。あるいは、別の誰かに暴力をふるうことでしか自己回復ができない。

このマイナスの連鎖を食い止める手立ては、1つしかない。暴力を受けた人も、振るった人も、周囲から人間として承認され、安心して自らの思うところにしたがって自己決定できる主体として回復していくこと。

これらのことに、客観的根拠があるかは分からない。しかし、A子さんをはじめとする依頼者の方々との出会いを通じて、私が確かに感じている実感である。

そして、多くの法曹の方々も同じような体験をお持ちではないかと推測する。

○平和を考えるにあたって○

平和の問題を考えるとき、国家を人間から切り離されて存在する得体も知れない力と考えることは危険ではないだろうか。

国家の三権を担っているのは公務員という名のつく生身の人間であるし、国家を構成しているのは言うまでもなく個々の国民である。とすれば、現実の国民の集合体が国家であると考える方が自然である。

個々の国民に対する暴力が、その個人を身体的・精神的のみならず社会的にも破滅させるのならば、国家に対する暴力も、その国家の構成員を、身体的・精神的・社会的に破壊することになる。そして、その構成員は、いずれ別の誰かに暴力をふるうことで回復を図ろうとするのではないだろうか。

武力による紛争解決は決して平和をもたらさない、と思えて仕方がない。
暴力と人間と国家の関係。司法という国家権力の一部に関わっている体験を、今こそ、多くの人に語らないといけないと感じている。

給費制維持緊急対策本部だより 「司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める福岡集会」の報告

カテゴリー:月報記事

司法修習費用給費制復活緊急対策本部 副本部長
千 綿 俊一郎(53期)

1 はじめに

福岡県弁護士会では、平成26年9月6日土曜日、福岡市中央区天神のエルガーラホールにて、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会、ビギナーズネットとの共催により、「司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める福岡集会」を開催しました。

当日は、「給費制」というマイナーな問題であるにも関わらず、たくさんの市民の方を含め170名を超える、エルガーラの中ホールがびっしりと埋まるほどの参加者がありました。

改めて、ご協力いただいた関係各位の皆様に感謝申し上げる次第です。

2 基調講演

当日は、法政大学教授の山口二郎先生から、「法律家育成という社会的作業」という基調講演を頂きました。

司法の位置づけとして、「多数決原理に対するブレーキ」という意味で「権力分立の柱」であること、公害事件や薬害事件のように「裁判が政策形成を担っている」という点を強調されました。

そして、「司法への市民参加」や「市民感覚を持った法律家の育成」という司法制度改革の目指すべき方向自体は正しかったけれども、経済的支援が見送られたために、格差社会を反映して、法律家になることをあきらめる若者が続出してしまっていることなどの問題点を指摘されました。

また、具体的データを用いて、現在の日本の経済情勢を分析されており、「企業収益と雇用者報酬」が逆方向に進み、富める者はさらに富み、困窮するものがさらに困窮するという状況があり、教育や人材育成という場面にしわ寄せがきているとのことでした。

安定した収入のない若者に対して、「自己責任」という名の下に、義務や負担だけを課すのは相当でないこと、高等教育については、特に「自己責任」という感覚が強いかもしれないが、経済的理由で高等教育を受けられないのは、やはり社会にとって損失であることなどを指摘されました。

さらに、国際比較をした上で、子どもの貧困の問題、特に高等教育での格差の深刻度が日本では著しいことなどをご説明いただき、「社会的共通資本」である法律家を育成するのが、社会の安定や経済の発展のためにも必要であるということを述べられました。

最後に、「なぜ、修習生だけ優遇するのか」などと言われることがあるが、そのような意見ばかり言っていては「高等教育・法曹育成における格差」を是認するだけであり、妥当ではない、修習生のこの問題こそが高等教育における機会均等実現のための突破口であるとの意見を述べられました。

3 関係団体や市民の皆様からのエールなど

福岡県医師会、福岡県社会福祉協議会、企業経営者、消費生活アドバイザーの関係団体や市民の皆様から、「法曹を目指す者への経済的支援が必要不可欠である」という熱いエールをいただきました。

それぞれ、日ごろの弁護士らとの関わりから、具体的体験に基づいてお話しいただき、非常に心強いメッセージでした。

それに引き続き、大学生や大学院生からは、これからの司法の担い手を目指す熱い思いを語っていただきました。

4 国会議員のご参加

国会議員ご本人にも複数ご参加いただきましたので、以下、ご紹介します(発言順)。

河野正美議員(衆議院、日本維新の会)は、ご自身が精神科医であるということで、「市民のための権利擁護という点で共通する、しっかり、養成していくべきだ」ということをご発言いただきました。

また、野田国義議員(参議院、民主党)からは、「今、問題となっている格差是正という意味で取り組むべき課題と思っている」、「市長をしていた経験から行政にも弁護士職員が必要と考えている」というご指摘をいただきました。

仁比聡平議員(参議院、共産党)は、「参議院の法務委員会で給費制問題を取り上げたこと、その際、3回のどよめきが起こった((1)1回で期限の利益を喪失して、14.6パーセントの遅延損害金が付くこと、(2)保証会社がオリエントコーポレーションであること、(3)国税庁の調査で弁護士の年の所得が70万円に届かない人が2割に上っている)」、「議員としても実態に目を向けなければならない」という意気込みをお話しいただきました。

原田義昭議員(衆議院、自民党)は、「この運動は長く続いてきているが、そろそろ具体的な方針を出さなければならないと考えている。以前の給費に戻すという案も財政上の問題から難しい面はあるが、他の諸々の援助、支援もあり得るので、例えば、研修医に準じた経済的支援など、具体的な案を出す段階であると考えている、日弁連の具体的運動も工夫して欲しい、また『なぜ弁護士だけが』という声を乗り越えていかなければならない」という説明がありました。

また、国会議員秘書、地方議会議員からも多数ご参加いただき、ご欠席の国会議員からも多数のメッセージを頂戴しました。

5 今後

自民党が、今年の4月に「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」を出し、「司法試験合格者数は、まずは、平成28年までに1500人程度を目指すべき」などと、司法改革審議会路線の修正を打ち出しています。これに引き続き、今年度中に、法曹養成についても、さらに踏み込んだ意見がなされるのではないかとも予想されています。

同じく、与党である公明党は、今年の4月に「修習手当のような制度を創設すること」「研修医に準じて経済的支援を行うべきこと」「貸与金の猶予、免除の要件を緩和すること」なども提言しています。

このような政治情勢の中、弁護士会としても、より一層の意見表明、積極的運動を継続していかなければならないと思います。
引き続きのご理解、ご協力をどうぞよろしくお願いします。

「転ばぬ先の杖」(第8回)~離婚事件の「転ばぬ先の杖」って何だろう~

カテゴリー:月報記事 / 転ばぬ先の杖

会 員 東 敦 子(52期)

「転ばぬ先の杖」というお題で・・とある弁護士にお願いしたのに、「私は転んでばっかりだから、そんなテーマは書けませんねえ。」ときっぱり断られてしまいました。ということで投げたボールが上手いこと打ち返されたため、東が担当させていただきます。
さて、私が受ける相談の多くは離婚(女性、たまに男性)。離婚のときの「転ばぬ先の杖」って何でしょうか?
離婚については、インターネットで検索すると様々な情報が出ており、弁護士に相談に来る前に予備知識を持っている方が多くなりました。ですが、情報が多すぎて、不安になっている人が増えた気がします。また、相談に来られる方の多くは、弁護士には「はい」か「いいえ」を求めておられるのですが、どうして、そんな質問をしているのか、どんな事情があるのかを聞かないと簡単には回答できないことばかりです。
普段の相談を振り返ってみますと・・・

Aさん「離婚したいって、先に言い出したら不利になるんですよね。」
このAさんタイプの質問をはじめて聞いたとき「都市伝説・・・?」と思いました。先に言い出したから、不利ってことはないしなあ・・・。こんな場合はどうでしょうか。~Aさんは単純に夫との性格の不一致で離婚がしたかった、ところが、Aさんの夫には浮気相手がいてAさんと離婚したいと思っていた。Aさんは、夫の浮気を知らないまま、本来、慰謝料が請求できるのにそれに気づかないまま離婚。夫の方はしばらくして再婚し、内心ラッキー~。まあ、先に言い出したから不利になったというわけではありませんが、いつのタイミングで切り出すのか、相手に離婚を切り出す前に、弁護士に相談しといてよかったわあと言っていただくこともあります。

次は、限りなく心配性のBさんです。
Bさん「私はずっと専業主婦です。夫から『お前は子どもを育てられないから、親権は取れないぞ』って、本当ですか?」
わたし「まだお子さん小さいですよね。生まれてからも、今も、お世話しているのはお母さんでしょう?」
Bさん「でも、夫は『お前と別れて、再婚でもして、その女性が育てるからいい、俺の親が育てるからいい、家事なら家政婦雇うからいい』って言うんですよ。」
わたし「再婚相手も義母も家政婦さんも『お母さん』の代わりはできないし。」
Bさん「でも、でも、私は何の資格もないし、子どもを大学に行かせられないかも。」
わたし「まだね、赤ちゃんだし、大学はもう少し先のことですよね。今、お子さんが小さいうちに、お母さんも仕事のこと頑張ってみませんか。離婚して、生活基盤が弱くても、母子を支援する制度もあるし、就業支援もありますよ。私の依頼者の方で、専業主婦だったけど、県外の母子寮に入って、看護師になった人もいるし、保育士になった人もいますよ。」
Bさんは、子どもの生活のことを思うから、将来のことを思うからこそ、自分が育てていいのか、悩みます。「子どもさんのことを、こんなに真剣に考えて悩んでいるあなたこそが、親権者にふさわしいのですよ。」Bさんは大泣きして、そのあと笑顔になって、帰っていきました。人生の大きな転機を迎えて、不安で押しつぶされそうなとき、励ましたり、支援機関につないだりすることも弁護士の仕事です。

最後に、DV加害者のCさん(男性)です。ある日、とても暗い表情で、訴状をもって相談に来られました。Cさんの暴力で大けがをした妻から届いた訴状でした。Cさんの相談は「僕は離婚したくありません。」でした。
わたし「ごめんなさいね。あなたの希望にそう結論は出せないと思うから、私は代理人になれません。」
Cさん「どうしてですか?僕のことを軽蔑するからですか?あなたが女性だからですか?」
わたし「そうではありません。この事件の内容では、私がどんなに頑張っても、離婚しないという結果を出すことはできない、それを私がわかっているから、あなたに正直に伝えているのです。」
Cさん「僕は、妻のことが大切だ。ちゃんとやり直せる。」
わたし「あなたはそう思っている。でも、奥さんはそう思っていない。私には奥さんの気持ちを変える力はない。そうなると最終的には裁判所が判断するのです。私は、裁判所は離婚を認めると思います。だから、離婚したくないというあなたのお役には立てない。ごめんなさいね。」
こんな会話が1時間、いえ、2時間は続いたでしょうか。Cさんは「わかった。僕は、あなたに代理人を頼みたい。離婚する方向で話し合いをするが、自分の意見も伝えてほしい。」と真剣に言われました。「私が代理人でよいのですか?もし、途中で気持ちが変わったら、言ってください。」と私も腹をくくって受任しました。もちろん、Cさんが簡単に割り切れたわけではありません。訴訟は離婚の方向で話し合いを続けたものの、その後の打ち合わせのときも、Cさんの気持ちは揺れ続けていました。寂しい、僕だけが悪いのか?僕が妻に手を挙げたとき、僕なりの理由はあったんだ・・・。普段は、妻の代理人をすることが多い私ですが、Cさんの立場からみた夫婦の関係、妻への思いを、一つ一つ受け止めていきました。Cさんにとって、とても苦しい時間だったと思います。Cさんは、私を解任することはなく、裁判所の和解離婚も受け入れました。Cさんが苦しみながらも離婚を受け入れた理由は「これ以上、妻に嫌われたくない。離婚したいっていう妻の希望を叶えてあげることにした。離婚は嫌だけど、受け入れる。」でした。
私は、Cさんの「転ばぬ先の杖」にはなっていませんが、転んでしまったけれど、次に進むための小さな杖にはなれたかもしれません。

シリーズ―私の一冊― 「空の如く 海の如く」(新田純子著 株式会社毎日ワンズ発行)

カテゴリー:月報記事

会 員 三 浦 啓 作(22期)

はじめに

日経か、朝日の書評で見た本である。

普段は、俳句関係の本しか読まない私が新聞の書評に惹かれて、最近の作家の本を読んでみた。

著者の新田純子は、1983年に中央公論女流新人賞を受賞した作家で、他に浅野総一郎の伝記を扱った「その男はかりしれず」などがある。

本書は、空海の幼児期から晩年までを丹念に辿った一代記である。

一代記であるから、登場人物が多く、また時間軸も長い。できれば弁護士お得意の登場人物の関係図や年表などを作りながらお読みになることをお勧めする。

司馬遼太郎との比較

空海については、以前に司馬遼太郎の「空海の風景」を興味深く読んだことがあった。

司馬遼太郎の「空海の風景」が一々証拠や傍証をもって論証していくのに対し、本書は、ほとんど証拠傍証を援用することはない。あたかも神の目で空海の一生を眼前に見ているような書き方である。

先ず、この本を読んで感じたことは、文章のスピード感である。1文平均20字ないし30字くらいであり、そのスピード感は読みながら小気味良いくらいである。

次に、ほとんど半頁か1頁くらいで場面が転換する。いわゆる映画やテレビのモンタージュ手法である。この場面転換の速さが文章のスピード感と併せて読者を飽きさせない。

また、本書の文章はほとんど現在形で書かれている。それによって一層臨場感が出ている。

空海の母方は宗像族と関係

空海は幼名を「真魚(まお)」といい、西暦774年、讃岐国多度の郡(こおり)の長(おさ)・佐伯善通の五男として生まれた。

善通の妻、つまり空海の母親の実家の阿刀(あとう)氏は、九州の宗像一族との関わりが深い。冒頭に、空海と宗像一族との関わり合いが出てきたので、この本に引き込まれた。

東大寺大学寮に入る

空海の母方の伯父に、桓武天皇の次男である伊予親王の教育係に抜擢された阿刀大足(あとうおおたり)なる者がいた。聡明な空海は、満15歳の時に、その伯父に連れられて奈良の都に出る。

18歳のとき、伯父阿刀大足の助けもあって、東大寺大学寮に入る。しかし、そこでの修行に飽き足らず、渡来僧の菩提僊那(ぼだいせんな)を知っている大安寺の僧戒明(かいみょう)に出会う。戒明の示唆もあり、菩提僊那から伝えられた宇宙の普遍的波動に自分の魂を同化することができる「虚空蔵求聞持法(こくぞうくもんじほう)」の修行に入る。空海は厳しい苦行の末に終に虚空蔵求聞持法を習得する。

その後、空海は密教の根本を習得するためには、唐に渡って密教の正当な第一人者から教えを受けなければならぬと考えるようになった。

遣唐使船に乗る

伯父大足の斡旋で、空海は、運良く遣唐使船に乗ることが出来た。

空海と同じ機会の遣唐使船に乗った者の一人に最澄がいた。当初、4隻で出発した遣唐使船は、空海と最澄が乗った2隻のみが無事に唐に辿り着いた。

密教第一人者恵果(えか)との出会い

唐の長安では、密教の正当な承継者である恵果と、まるで仏が引き合わせでもしたかのように出会う。恵果は、他の弟子達を差し置いて、空海に対し、真言密教の第一人者となる灌頂の儀式を授けた。それによって、それまで金剛頂系の流れと大日経系の流れの二つに分かれていた密教の教えは一挙に空海という一人の人物に伝授されることになった。第一祖龍猛菩薩から数えて、恵果は第七祖であり、空海は第八祖に当たる。恵果は空海に教えを伝授すると、程なく亡くなってしまう。

その頃、折良く唐の徳宗帝が崩御し、日本から国使が派遣されることになり、空海は、その帰りの船に便乗して帰国することができた。

歴史の襞

空海の帰国の道程として、途中、唐の越州についた後、太宰府に到着するまでの間に4ヶ月の空白期間がある。

この4ヶ月の間に、空海は越州で膨大な仏典を集めさせていたことになっているが、著者は、この4ヶ月間に空海が秘かに佐渡或いは能登に帰国し、密教の道具類を、安全のために佐渡と能登に上陸させたと書く。今で云えば、密航である。これによって佐渡と能登は真言密教有縁の地となった。この部分は、今まで誰も書かなかった著者の創作である。

高野山の建設

その後、帰国した空海が高野山に一大伽藍を建築し、最後に、そこで、入定するまでが詳細に描かれているが、それから先はお読みになってのお楽しみとしておこう。

空海は、真言密教の第一人者として、多忙な日々を過ごしながら、全国津々浦々を巡っていわゆる空海伝説なるものを残している。

筑後川のエツ

筑後川の河口付近にたどり着いた空海が、向こう岸に渡るのに、舟を見つけて、船頭に渡してくれと頼む。船頭は二つ返事で乗せはしたが、金を払ってもらえるかどうかが心配であった。渡り終えると、案の定、空海は船賃に関しては素知らぬ顔。しかし、岸辺近くの葦の葉を小刀で切り取り、それを河に浮かべた。すると、その葦の葉は、銀鱗を閃かせて泳ぎ始めた。これが筑後川のエツである。その後、その船頭は季節になると、エツを捕って暮らしたとのことである。

最後に(最澄との関係)

もう一つ本書で読み応えがあるのは、同時代に生きた最澄との関係である。同じ機会の遣唐使船で唐に渡った最澄と空海は、最澄が空海より7歳年長である。最澄は既に都において朝廷の力を背景に仏教界における第一人者としての地位を築きつつあった。それに対し、空海は一介の私度僧(しどそう)に過ぎなかった。また、最澄は、唐における滞在期間を当初から1年間と決めていた。それに対し、空海は、当初は7,8年を予定していたが、まことに都合良く、密教の正統な承継者第七祖の恵果に巡り会い、正統な密教を伝授され、密教の第八祖となる僥倖を得たので、当初の予定を切り上げて2年で帰国した。

帰国後の空海に対する最澄の微妙な態度の変化も見所である。

◆憲法リレーエッセイ◆ 憲法市民講座のご報告

カテゴリー:憲法リレーエッセイ

会 員 上 野 直 生(66期)

1 はじめに

去る平成26年7月11日、福岡県弁護士会北九州部会主催の「憲法市民講座」を開催いたしましたので、ご報告させて頂きます。

2 開催の経緯

「憲法市民講座」は、当部会の憲法委員会が企画し、8年前から年2回のペースで開催しています。市民の方々を対象とした公開講座で、各界から講師をお招きし、憲法に関連する課題や問題について学習します。

今回は、「集団的自衛権は必要か~日本をめぐる国際情勢と日本外交を概観しながらの検討~」というタイトルで、シンクタンク「New Diplomacy Initiative(ND:新外交イニシアティブ)」事務局長であり、第2東京弁護士会所属の弁護士でもある猿田佐世氏を講師としてお招きし、講演を行っていただきました。

猿田氏は、アメリカへの留学経験及びニューヨーク州弁護士資格を活かし、ワシントンをベースに日米の議員・学者・報道関係者のサポートを行い、米議員・研究者の紹介や面談・取材設定などを行われています。最近のご活動としては、稲嶺進名護市長の訪米行動(今年5月15日から9日間)を企画し、同行しました。

3 講演内容

猿田氏より、「集団的自衛権行使の是非」及び「閣議決定を通じた憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認の可否」という2つの論点について、分かりやすく解説していただきました。

まず、平成26年7月1日に行われた集団的自衛権行使容認の臨時閣議決定以前の、集団的自衛権行使に関する政府見解をご紹介いただいた上で、解釈改憲による集団的自衛権行使容認の問題点について、立憲主義の視点より詳しく解説していただきました。

次に、7月1日の閣議決定の内容を踏まえ、集団的自衛権行使による外交上及び安全保障上の問題点について、アメリカによる湾岸戦争介入などの事例に基づき具体的に説明していただきました。歴史的に見て、集団的自衛権の名の下に、経済大国から中小国に対する軍事行動が一方的に行われたこと、それにより国家間の軋轢が生じたことを顧みる必要があるのではないかとの問題提起がありました。

さらに、猿田氏のワシントンなどにおける活動経験に基づき、日本の集団的自衛権行使に関するワシントンにおける議論状況やアメリカの政治家及び有識者の見解を分析し、その上で、新しい形の日米外交の必要性を説明していただきました。「日本通」として知られる知日派の米議会議員でさえ、今回の集団的自衛権の問題については十分理解しておらず、在沖米軍普天間基地の問題に触れても、「沖縄?そこには2万人くらいは住んでいる?」との返答が帰ってきたというエピソードの紹介もあり、政府や官僚主導による外交のみでは、外交の内容が偏り、質が劣化してしまうのではないかと考えさせられました。

4 参加者のご感想

新聞のイベント欄で告知していたこともあり、講座には約70名の市民の皆様(弁護士20名程度を含む)に参加をいただきました。

参加者からは、「ワシントンから見た日本の集団的自衛権行使容認に対する評価が理解できた」、「政府間レベルの外交だけでなく、市民レベルでの新しい形の外交があることがよく分かった。」等のご感想をいただきました。

5 最後に

参加いただいた市民の方々より、「法律の専門家として、市民の権利を守る先頭に立って欲しい。」、「今後も、弁護士会による憲法市民講座の継続を希望します。」等の声が多数寄せられました。

このような市民の皆様の声により、改めて弁護士が果たすべき社会的責任の重さに気付かされると同時に、次回憲法市民講座開催に向けての大きな励みとなりました。
今後も、市民の皆様と一緒に、日本国憲法についてしっかりと考える契機となる憲法市民講座を継続していきます。会員の皆様もぜひご参加下さい。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.