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あさかぜ基金だより ~壱岐ひまわり基金法律事務所引継式~

カテゴリー:月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 河 野 哲 志(67期)

はじめに

1月にあさかぜ基金法律事務所に入所しました河野哲志です。

滋賀県出身で、修習まで関西で過ごしました。とある出来事から法の支配が十分でない現状を考えるようになり、また、九州を旅行し、料理と人の温かさに心動かされ、あさかぜに入所させていただきました。

さて、去る2月23日に壱岐ひまわり基金法律事務所引継式が開催されました。あさかぜ出身の松坂典洋弁護士が退任し、同じくあさかぜ出身の島内崇行弁護士が赴任されるため、後輩として引継式に出席しましたので、報告いたします。

壱岐ひまわり基金法律事務所

壱岐市は、人口2万7000人、面積138km2、福岡市から北西80kmに位置し、高速船で1時間です。海の幸が豊富で、稲作も盛んな豊かな土地です。麦焼酎発祥の地としても知られています。

壱岐ひまわり基金法律事務所は、平成22年に開設、梶永圭弁護士(現・宮崎県弁護士会)が初代所長として活躍し、平成24年、松坂弁護士に引き継がれ、今年、島内弁護士が赴任することになったものです。

引継式

引継式は、長崎県弁護士会公設事務所支援委員会の山下俊夫委員長の司会で進行し、九弁連の森雅美理事長、日弁連の山崎博副会長、長崎県弁護士会の梅本國和会長、松坂弁護士、島内弁護士が登壇されました。そして、松坂弁護士が任期中の感懐を、島内弁護士が今後の抱負を述べられました。

松坂弁護士は、平成24年相談件数303件(うち受任件数238件)、平成25年143件(76件)、平成26年103件(84件)を取り扱いました。初年度の件数が多いのは、大規模カード詐欺事件の影響です。

松坂弁護士は、争いの顕在化を好まない壱岐の島民性に配慮し、当事者の関係性が継続することを踏まえた解決を心がけたそうです。もっとも、権利の実現のため必要な場面では、法的解決について具体的なメリットを丁寧に説明し、背中を押す場面もあったとのことです。また、25回もの講演会を開き、市民への情報発信にも熱心に取り組みました。たとえば、カード詐欺事件で、高齢者が多く、人の善い島民性を狙われたという背景を踏まえ、「悪徳業者から高齢者を守る方法」をテーマに講演をしたとのことです。このような誠実かつ親身な松坂弁護士の姿勢が評判となり、口コミから受任に繋がるケースが着実に増えていったそうです。

島内弁護士は、身近に弁護士がいないことで困ったという自身の経験を踏まえ、福岡に何度も足を運ばなくても身近に弁護士がいると頼りにしてもらいたい、という思いを述べました。また、ひまわり所長ということで、気軽に話しかけてもらえることが多く、前任者が培ってきた信頼を引き継ぐことの責任を痛感したそうです。高齢や島民性に付け込むような消費者問題に対し、成年後見制度をより周知させ、市民の誤解を解くなどして、高齢者の財産管理を積極的にできるようにしたい、との具体的な抱負も述べていました。

披露会

続いて引継披露会では、壱岐市長、市議会議員、商工会議所など地元関係者、長崎地裁壱岐支部長や九州各地の公設事務所関係者が多数出席され、地元マスコミの取材もありました。松坂弁護士が、地域の方々や裁判所から信頼を得ていて、島内弁護士への期待も大きいことがうかがわれました。

披露会では、壱岐の魚介類をふんだんに使った料理も振舞われました。壱岐の料理は評判以上のものがあり、とくにブリは脂がのってとても美味しく、あっという間になくなってしまいました。

公設事務所支援委員会

披露会のあと、長崎県弁護士会の公設事務所支援委員会が開かれ、所員も許されて、出席しました。各地の公設事務所の事件処理や運営状況の報告など、赴任する際の事務所運営面で有意義な情報を得ることができました。

事務所見学

帰福便までの間、壱岐ひまわり基金法律事務所を見学しました。

松坂弁護士から、密接な人間関係での注意点などを聞き、利益相反という赴任先で必ず直面する問題について大変勉強になりました。

松坂弁護士は、ふたたび福岡県弁護士会に登録されます。私たち「あさかぜ」の所員にとっては、赴任経験者の先輩が身近に増えたことになり、大変心強く思います。

おわりに

今回、壱岐ひまわり基金法律事務所が、市民に本当に頼りにされ、法的な悩みを抱える方々にとってなくてはならない存在になっていることを実感しました。赴任に向け、先達が勝ち得た信頼を積み重ねていけるよう、さらに研鑽を続けねばならないと決意を新たにしました。
最後に、壱岐ひまわり基金法律事務所のますますの発展を祈念して、本稿を閉じたいと思います。

ITコラム VPNのご紹介 (仮想プライベートネットワーク)

カテゴリー:月報記事

IT委員会委員 緒 方  剛(57期)

IT委員会の隠れ委員の緒方です。本稿では、会員の皆様の業務に多少とも参考になるお話をさせていただきたいと思います。

私が利用しているもので、他の会員の先生にも一定の利用価値があると思われるVPN(Virtual Private Network仮想プライベートネットワーク)を利用した業務方法についてご紹介させていただきます。

既に、VPNをご利用になっておられる会員の方もおられるかもしれませんが、今のところ私の周囲にはあまりご利用になっておられる会員の方はいないようです。簡単に言えば、インターネットを使って、事務所内のパソコンやサーバーに接続し、事務所外のパソコンから遠隔操作で書面等のデータを取り出したり、修正、加工などを外部から直接行えるようにする技術と言ってよいかと思います。

ウィキペディアによると、VPNとは「インターネットのようなパブリックネットワークを跨ってプライベートネットワークを拡張する技術である。VPNによってコンピュータはパブリックなネットワークを跨って、まるで直接接続されたプライベートネットワークにつながっているかのようにプライベートネットワークの機能的、セキュリティ的、管理上のポリシーの恩恵を受けつつデータを送受信できる。これは2つの拠点間で、専用の接続方法や暗号化を用いることにより仮想的な接続をつくり上げることで実現される。」と表現されています(出典:ウィキペディア)。

さて、技術的なことはさておき、どのような場面でこのようなことを行うと便利なのかということについて述べます。例えば、出張などで一定の時間事務所から離れる場合に、移動時間など余裕のある時間に仕事をしたいと思う場面があろうかと思います。出張先で使う記録以外の訴訟記録などの資料を、出張先に持ち運ぶとすればそれなりに大変です。ただでさえ、出張に重い記録を持っていくのに、これに加えて別の記録を持っていくのは気が重くなりますよね。

そこで、まず出張先で見たいなと思うような資料を事務所内のサーバーやパソコンに電子データとして保存しておきます。そして、出張先に持ち出したノートパソコンやタブレットから事務所のサーバー等に接続し、読み出せるようにしておくのです。このような下準備だけをしておけば、重たい記録を運ばなくてもインターネット経由でVPN接続をし、書面等の閲覧や加工・修正ができるようになります。

ただ、VPNの設定をするのは私でも業者さんにお願いしていますので、VPNの設定までする気はおきないという方もおられるかもしれません。そこで、私がたまに利用するのは、使用したいデータを自己宛にメールにて添付ファイルで送付しておくという方法です。もちろん、大量の資料を送付することは困難ですが、何種類かのファイルさえ見られれば一定の仕事ができるという場合には、自分のパソコンでなくても仕事が出来ますので、出張先では重宝する方法です。

外出先で、大量の資料をPDFファイル等で閲覧したい場合には、インターネットディスクやクラウドストレージサービスなどインターネット上にてファイルを保存するという手段もあります。(これらの詳細は本稿の目的ではありませんので説明は割愛いたします。)この場合も、事前にクラウド等にデータをアップロードしておかなければなりませんが、それさえしておけば世界中のどこにいても大量のファイルの閲覧・加工・修正が可能です。
皆さんも、出張時にはこれらのサービスを試してみませんか。

シンポジウム「自死をなくすために」のご報告

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自死問題対策委員会委員 吉 野 雄 介(64期)

1 はじめに

今回は、自死問題対策委員会より、平成27年2月7日に天神ビル11階10号会議室にて開催された、シンポジウム「自死をなくすために~生きぬく知恵をともに考える~」についてご報告させていただきます。

自死問題対策委員会における自死問題への取り組みとして、「自死遺族法律相談」「自死問題支援者法律相談」といった法律相談のほか、研修会・講演会・シンポジウムを毎年開催しております。今年のシンポジウムでは、北九州出身の小説家である平野啓一郎氏を講師にお招きし、基調講演とパネルディスカッションを行うことになりました。

2 基調講演「生きぬくための知恵~複数の自分を生きる~」

平野啓一郎氏は、京都大学法学部在学中に発表した小説「日蝕」により芥川賞を受賞され、その後も数々の作品を発表されておりますが、その中で、アイデンティティや人の生死というテーマに取り組んでこられました。そして、生きづらい現代社会に対応するための処方箋として、対人関係ごとに異なる自分があるという「分人」という考え方を提案されています。今回のシンポジウムにおいても、この「分人」という考え方をテーマとして基調講演を行っていただきました。

基調講演においては、平野氏自身の生い立ちから、学生時代を経て小説家になるまでの経緯を軸に、当時の社会背景にも触れつつ、「分人」という考え方が紹介されました。私は平野氏と同い年でしたので、平野氏が講演の中で語られた1980年代、1990年代当時の社会情勢は、私も同じく学生時代を過ごした時期であり、平野氏の話を聞きながら、自分の過去も振り返っておりました。

「分人」という概念は、「個人(individual)」という概念に対比されるものです。「個人」という概念は、日本においては、近代になって入ってきた比較的新しい概念ですが、「分けられないもの」を意味する6世紀ころのラテン語が語源であるそうです。この「個人=分けられない存在」というイメージは、現代の日本社会においても一般に浸透している捉え方だと思います。その一方で、人は社会生活における様々な対人関係において、複数の異なる顔を持ちます。しかし、従来の「個人」概念からすれば、「本当の自分」はたった一つであり、それ以外の顔は表面的なもの、周りにあわせた偽りの姿、という捉え方になります。こうした捉え方に、色々な顔を持つことに対するネガティブなイメージが相まって、「本当の自分」は何かと思い悩んだり、「人と接するときの自分は本当の自分ではない」という思いから対人関係を空しく感じることにつながっていきます。また、自分を分けられない存在と捉えれば、いやなこと、辛いこと、苦しいことがあるとき、それは自分全体の問題と捉えることになり、自己そのものの否定につながってしまいます。

平野氏は、こうした「個人」概念から生ずる問題点を指摘したうえで、社会生活において、様々な対人関係の中で、それぞれの関係に応じた複数の顔を持つことはむしろ自然であり、その中のどれか一つが「本当の自分」というわけではなく、すべてが「本当の自分」であるという捉え方から、その複数の顔の一つ一つを指す概念として、「分人」という考え方を提唱されました。自分をこのようにとらえることで、複数の「分人」のバランスを取りつつ、より幸福な人生を送っていくことが可能となるのではないか、というのが平野氏の基調講演の結論でした。

こうした平野氏の「分人」という考え方は、従来の「個人」概念に対する発想の転換ですが、人が他者との関わりなしに生きることはなく、むしろ社会の中において、他者との関わり・関係性の中でその人の自我も形成されていることを思えば、むしろ自然な考え方だと感じます。私たち弁護士も、人と人との関係がまさに業務の対象であり、そこでの判断も、それぞれの関係ごとに相対的になされます。そうした点からも、平野氏の考え方は、共感できるように感じました。

以上が平野氏の講演についての私のつたない理解・感想ですが、平野氏の「分人」についての考え方は、『私とは何か 「個人」から「分人」へ』(講談社現代新書)に詳しく書かれております。関心を持たれた方は、同書をご参照ください。

3 パネルディスカッション

パネルディスカッションにおいては、パネリストとして平野氏に加え、福岡大学病院精神神経科の医師である衞藤暢明氏、福岡市精神保健福祉センターの臨床心理士である志岐景子氏をお招きし、自死問題対策委員会副委員長の松井仁先生がコーディネーターを務めました。

まず、衞藤氏、志岐氏がそれぞれの立場から自死問題への取り組みについてお話しされ、その後、平野氏の「分人」主義を軸に、パネリスト間でのディスカッションが行われました。日頃から自死問題の最前線で患者や相談者に接しておられる衞藤氏、志岐氏の体験からも、「分人」という考え方に通ずる点があることが示されました。

4 参加者の声

シンポジウム当日は、市民75名、弁護士32名の合計107名の方々にご来場いただきました。ほんの一部ではありますが、参加者の皆様から寄せられた本シンポジウムの感想をご紹介いたします。

  • 平野さんの講演を聞くことができてよかったです。中学生・高校生の頃の、今思えば小さい事柄を、自分が押しつぶされてしまうくらい大きく感じていた感覚、自分が嫌いで、どうしても好きになれなかったこと、自分だけではないと思うことができました。あの頃、死を選ばず、今生きている自分がいるから悩んでいた自分をよく頑張って生きてきたと言える気がします。
  • 平野氏、衞藤氏、志岐氏、皆さんのさまざまな視点での意見が聞けて参考になった。専門用語の羅列でなく、分かりやすく、拝聴させていただいた。ありがとうございます。
  • 弁護士、精神科医、臨床心理士、小説家という一見それぞれの職業でどこが接点があるのかと思ったが、一人の人間を救う時、それぞれの立場で関わること(つながること)の大切さをこのパネルディスカッションで分かった。
  • 私の身近な周囲にも、何人かの自殺者がおり、「何であの人が」と思うこともあった。自殺のサインは発信されていたと思うが、本日のシンポジウムを通して自殺者の心理要因、背景等が少しイメージできた。今後、できればゲートキーパーとして自殺防止の役割を果たしていくことができればと思う。
  • 自死問題は向き合うことが難しいテーマです。自分の学びの為には大変ありがたい企画でしたので、ソーシャルワーカーという分人の立場で役割を考えたいと思います。

精神保健当番弁護士22周年記念公開シンポジウム「改正法における早期退院と弁護士の役割」報告

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会 員 寳 耒  隆(66期)

1 はじめに

2月21日、セントラルホテルフクオカにおいて、精神保健当番弁護士22周年記念公開シンポジウム「改正法における早期退院と弁護士の役割」を開催しました。

2014年4月施行の改正精神保健福祉法では、医療保護入院の見直しとともに、入院患者の早期退院・地域生活への移行の促進が大きな柱とされました。本シンポジウムは、改正法施行10か月余の経過を踏まえ、早期退院・地域生活への移行に向けた取り組みについて、弁護士を含めた各関係者の役割について議論することを目的としたものです。会場には土曜日にもかかわらず約110名もの参加者が集まりました。

2 基調講演

基調講演では、長らく包括的地域生活支援(Assertive Community Treatment)を実践してこられた藤田大輔さん(医師、ACTゼロ岡山、以下「ACT」)にお話しいただきました。

藤田さんは、勤務医時代、最大限環境調整をすれば薬を使わなくとも早期退院は可能なのではないか?という疑問を持たれていたそうで、現在はそれを実践されています。ACTの理念は、「人や医療と穏やかに出会える」というものであり、これは患者は人や医療と急激に出会いすぎている、という懸念に由来しています。診療所、訪問看護ステーション、NPOから構成されるACTでは、医師や精神保健福祉士といった専門家が患者の生活の場に出向き(アウトリーチ)支援を行っており、事例報告では、急性期の患者であっても在宅での支援を行うことで、疲れたら母親のそばで眠るなどの、入院していては絶対に不可能な生活をさせつつ、早期に職場報告が可能となった、との例も紹介されました。

患者さんに人間としての楽しみを与えてあげたい、そのことが回復にもつながるんだ、と笑顔で語られる藤田さんがとても印象に残りました。

3 パネルディスカッション

その後のパネルディスカッションでは、藤田さんのほか、早渕雅樹さん(医師:香椎療養所院長)、今村浩司さん(精神保健福祉士・社会福祉士:西南女学院大学保健福祉部准教授)、和田幸之さん(こころの病の患者会うさぎの会副会長)、田瀬憲夫会員をパネリストにお迎えし、コーディネーターを八尋光秀会員が務め、退院後生活環境調整に向けた取り組みの現状及び課題、早期退院に向けた精神保健当番弁護士活動や精神医療審査会のあり方等につき、議論・意見交換を行いました。弁護士への要望としては、外部に力になってくれる人がいることは患者にとってとても大切なことであるので、患者とのコミュニケーションを大切にしてほしい、継続的に関わってほしい、当事者保護の姿勢を法制度へ反映させるよう動いてほしい、などの声が挙げられました。

4 まとめ

藤田さんも、このようなシンポジウムが開催され多数の弁護士が参加することは素晴らしい、とおっしゃられていたとおり、多くの先生が参加されていました。このような取り組みが、患者さんのいっそうの権利向上の一助になれば幸いです。

取調べの可視化シンポジウム

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刑事弁護等委員会 委員長 德 永   響(50期)

第1 平成27年2月14日(土)午後1時30分から、「それボク」は過去の話?~取調べの可視化の現在(い ま)~と題して、取調べ可視化のシンポジウムが開催されました。
言うまでもなく、「それボク」とは周防正行監督の映画「それでもボクはやっていない」を指していて、シンポジウムに法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会委員を務められた周防正行監督をお呼びして、広く市民への参加を呼びかけた結果、レソラ天神5階「レソラNTT夢天神ホール」に150名を超える参加者を集めることができました。
刑事弁護等委員会では、当番弁護士発足○周年というシンポジウムや可視化のシンポジウムを複数回開催していましたが、久方ぶりのシンポジウム開催となりました。
この時期に大規模なシンポジウムを開催したのは、2014(平成26)年7月に新時代の刑事司法制度特別部会の改革案がとりまとめられましたが、可視化の対象となる事件が極めて限られていることなどから、国会審議を前に市民を巻き込んだ大きな議論をしておく必要があるからに他なりません。

第2 シンポジウムは3部構成で、第1部は冤罪被害者(「バス痴漢冤罪事件」「爪ケア冤罪事件」)の方々のインタビュー形式による体験談(インタビューアーは当会の丸山和広弁護士・天久泰弁護士)、第2部は袴田事件の冤罪被害者である袴田巖さんのビデオレター(説明者は当会の美奈川成章弁護士)、第3部はパネルディスカッションという構成です。
1 冤罪被害者の方々の話は、体験した者でなければ語り得ない生々しい被害の実情を訴えかけるもので、冤罪被害者の苦しみ、絶望感、疎外感を参加者に感じさせる内容でした。
バス痴漢冤罪事件では、捜査官が「私の仕事は君を有罪にすることだ」「認めないの?なら出さない。」「君が罪を認めないと裁判で苦しむよ」と告げられ、自分の言い分を信じてもらえないことに絶望する心情が語られ、「車載カメラに(犯行が)写っている」「目撃者がいる」と自白を迫られる状況が赤裸々に語られました。爪ケア冤罪事件では、明日のことすらわからない状況におかれる被疑者が、弁護士ではなく、むしろ刑事の方が自分のことを分かってくれるかのような錯覚に陥って自白してしまう危険性が明らかにされました。
取調べの全過程が録音録画によって可視化されていれば、冤罪被害の発生を防止しえたことも明示されて、取調べの可視化の必要性がはっきりと参加者に伝わりました。

2 パネルディスカッションでは、周防正行さん、大阪弁護士会で特別部会委員の小坂井久弁護士、当会の天久泰弁護士、元裁判官の立場から当会の陶山博生弁護士がパネリストとして参加され、当会の甲木真哉弁護士がコーディネーターとして議論を進行させました。
周防さんは、調書が捜査官の作文であるにもかかわらず、重要な証拠となることに驚きと同時に恐怖を感じたことに加え、検察のあり方をきっかけに議論を始めたにもかかわらず、警察はこれまでの捜査で悪いところはないというスタンスに立ち、有識者意見を無視しようとする動きに危機感を覚えたことをお話いただきました。
その他のパネリストからも、冤罪事件は虚偽自白とセットになっていること、可視化されていない取調べにおいて刑事の見立てに逆らう供述をすることは困難であること、調書の任意性に関する水掛け論は可視化するしかなく、可視化で裁判は変わること、可視化したDVDを有罪認定のための実質証拠とすべきでないことなどの意見が出されました。

3 最終とりまとめでは、取調べの録音録画の対象とされる事件が少なく、冤罪を防止するためにはあまりにも不十分なものであることが確認され、より広い範囲での取調べの全過程の録音録画が必要であることを参加者に訴えかけ、制度改革が少しずつしか実現しないとしても、改革の歩みを止めてはならないことを確認してシンポジウムは幕を閉じました。

第3 有識者として特別部会に参加された周防さんの話は、まさしく一般市民の感覚に裏付けられた視点であると同時に、自らのなまった感覚を戒めるものでした。この月報が出るころには「それでもボクは会議で闘う」というような題名で特別部会の様子を出版されるようで、楽しみにしています。
一般市民の感覚を持って、特別部会に参加した周防さんは、「対象が小さくとも、取調べの全過程の録音録画を法律で導入できれば、その価値は小さくない。」、「今後は、対象事件の拡大と共に、普通の判断を普通にできる裁判官に大きな期待を持っている。」と話されていたことが強く印象に残りました。
密室での取調べと調書裁判からの脱却には実務家が取り組まねばならないと決意を新たにしました。
なお、紙幅の都合で、パネルディスカッションの中身等を明らかにすることはできませんでしたが、現在、本シンポジウムの詳細な内容を冊子にして会員に配布する作業中ですので、ご期待ください。

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