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遺言セミナー・無料相談会(11/12・11/25) ~どんな方が参加するのか・どんなセミナーにすればいいのか~

カテゴリー:月報記事

法律相談センター運営委員会委員 井手上 治隆(60期)

1 はじめに

平成29年11月12日(日曜)と25日(土曜)、天神弁護士センターにて、一般の方を対象とした遺言セミナーと無料相談会を開催しました。

当初は12日のみの開催を予定しておりましたが、朝刊3紙(毎日・朝日・西日本、掲載順)にセミナーの記事が載ったこともあり、12日分が定員(20名)に達したため、急遽、25日も開催することになりました。

当日は、まず、遺言・相続の基本的事項についてのセミナーを1時間行い、その後、希望者に対し無料相談会を実施しました。セミナー講師は、千綿俊一郎会員(12日)と吉永裕介会員(25日)が担当しました。

会員の皆様もこの種のセミナーの講師を務める機会があるかと思いますので、その際の参考になればとの視点から、以下報告させていただきます。

2 どんな人がやってくる?(参加者の実像)

年齢層でみると、やはり高齢者の方が多く、何らかの問題に直面している方が多かったようです。また、ご夫婦や親子での参加も一定程度ありました。

当然かもしれませんが、皆さん、「そろそろ」から「すぐにでも」と幅がありますが、遺言書を作成することに対する意識が高い方ばかりでした。なかには、遺言書の文案を自ら作成して持参され、相談時にこれで問題ないかと質問される参加者もいらっしゃいました。総じて、「ちゃんとしておきたい」という想いを共通して持たれているように感じました。

ただ、遺言・相続に関する知識・情報量及びその正確性については、かなりの幅があるように見受けられました。

3 どんな心配ごと?(疑問・悩みの中身)

各参加者の置かれている状況により、疑問・悩みも異なります。ただ、以下のように、いくつか共通する点もありました。

  • まず、どうしたらいいのか、何から始めないといけないのか。
  • 自分で作成する場合に、形式面で注意しなければならない点は、どのようなことか。
  • 自分の希望する内容の遺言が本当にできるのか、その遺言で問題が生じないのか。
  • 費用がいくらかかるのか(公正証書遺言を作成する場合や弁護士に依頼する場合など)。
  • 相続税はどうなるのか。等々

ここのところは、日々の法律相談で会員の皆さんが実感されているところと、大差ないと思います。

4 セミナーをより良くするには?(セミナーの向上)

セミナーでの参加者の質問や反応、またアンケート結果から、気づいた点・感じた点は以下のとおりです。

(1) 声と文字は大きく

参加者には、高齢で少し耳が遠い方もおられます。声は、少し大きいかなと思うくらいで丁度よい感じです。

資料は細かい字で書いてあると、なかなか読んでもらえません。文字の大きさは、少なくとも、高齢者が拡大鏡などの補助器具なしで読める程度にしておかねばなりません。

(2) 気軽に質問ができる雰囲気作り

今回は、講師の絶妙な雰囲気作りが功を奏し、参加者の皆さんは、セミナー中も、気兼ねすることなく、自由に質問されていました。講師が説明している途中でも、疑問に思ったら、割り込んで質問をするという状況でした。今回の規模くらいだと、「あとで質問時間を設けます」ではなく、「適宜、自由に質問してください」という形式でよかったように思います。この点は参加者にも大変好評でした。

ただし、講師にとっては、流れが断ち切られたり、時間配分などが予定どおりにいかなくなったりするため、大変ではあります。

(3) 導入部分と遺留分

今回は、導入部分で、「遺言があれば揉めなかったのに」という身近な事案をいくつか挙げて説明し、その後、相続と遺言の基礎知識について解説していきました。いきなり用語等の説明から入るより、身近な具体例から入った方が、興味が湧き、また、基礎知識の説明の糸口にもなるため、この構成は良かったです。

ただ、遺言作成を考えている方は、法定相続分と異なる配分を意図し、相続人間の不均衡を気にされている方がほとんどです。今回のセミナーでも、導入部分の段階から、遺留分についての質問が出ていました。あとで説明しますと講師が言っても、その後も遺留分についての質問が何度も出ていました。皆さん、遺留分については非常に気にされているようでした。そのため、遺留分については、一般の方にとっては難しい概念かもしれませんが、比較的早い段階で説明しておいた方がいいと思いました。

(4) 基本的事項もかみ砕いて丁寧に

「嫡出子」「検認」など我々が日々接している用語でも、一般の方にとってなじみの薄い言葉については、丁寧に補足説明をしなければ、理解してもらえないなと感じました。

また、参加者の年齢層によるものかもしれませんが、参加者の中には、あまり配付資料を見ずに、話しだけを聞いているという方も一定数いました。説明する側は、文字(漢字)も当然の前提としていますが、聞く側にとっては、そうではない場合もあるんだなと気づきました。例えば、自筆証書遺言は、全て自分で書かないといけない、「じしょ」しなければならないと口頭で説明した場合、その段階で、条文の文言どおり「自書」の意味で受け取ってもらえる方もいます。その反面、それだけの説明だと、署名だけ自分で書けばよい「自署」を想定されている方がいるようでした。それに続く補足説明(内容が複雑だと全て手書きすることがいかに大変か、訂正することがいかに面倒か等)をすることにより、「あ~、何から何まで自分で書かないといけないってことね」と理解される方もいたようでした。

対象とする参加者の構成にもよりますが、基本的な事項もかみ砕いて、丁寧に説明する必要を再認識しました。

(5) どこまで説明するか

遺言の説明をするには、前提として相続の知識についても説明する必要があります。ただ、どの程度の知識まで説明するかは、時間との兼ね合いで難しいところです。あまり細かいことを話してもしょうがないので、ある程度割り切って、遺言に必要最小限の範囲にうまく絞る必要があります。

今回、配布資料については、一通りの基本的な知識を網羅したものを作成したものの、記載している事項を全て説明しておりません。資料については、セミナーの冒頭で、細かい事項も記載しており、全て言及しない旨を述べ、この資料はおみやげ的なものとお考えくださいと説明しております。この方法も良かったと思います。

(6) セミナーと相談会の役割分担

参加者の皆さんは、単に遺言・相続の基礎知識を修得することだけが目的ではなく、自分の悩みや疑問を解消するためにセミナーに参加されています。そのため、場合によっては、セミナーでの質問が個別具体的な事情に基づくものとなり、他の参加者とってあまり有益ではない場合も出てきます。

個々の参加者特有の事情に基づく質問は、セミナー後の相談で質問してもらうように冒頭で誘導しておいた方がいいかなと感じました。

(7) 課題(広報と集客、実施方法)

今回は、対外広報PTに尽力いただき、セミナーの開催が新聞に掲載されたこともあり、盛況となりました。しかし、掲載前は、県弁のHP等で広報をしていたものの、申込者が3名しかなく、どうしたものかと気を揉んでおりました。今後、このようなセミナーを継続的に開催するとした場合、毎回、新聞に掲載してもらえるとは考えづらいので、どうやって広報し集客していくかが課題です。

また、実施方法については、弁護士会の施設に来てもらうのではなく、コミュニティセンター等へ弁護士が出向いていくことも検討していかなければならないと考えております。

5 おわりに

今回は福岡部会での企画でしたが、各部会でもこの種のセミナーが開催されております。特に、筑後部会では先進的な取組がなされており、今回もいろいろ参考にさせていただきました。

現在、高齢者・障害者等委員会と法律相談センター運営委員会の有志で、遺言や相続に関する関連業務について、試行的にPTを立ち上げ、研修会や、継続的な遺言セミナー・相談会等の実施を検討しております。また、今後、会員の皆さんがセミナー講師を担当される際に利用いただけるようにレジュメ等を改良してサンプルを提供したり、法律相談センターでの遺言相談が増加するような取組を重ねていきたいと考えています。

まだ試行段階ですが、本格的な実施に至った場合には、会員の皆様にもご協力をお願いすることになると思いますので、その際は、よろしくお願いします。

中小企業法律支援センターだより 創業応援セミナー~創業時のお金のハナシ~

カテゴリー:月報記事

中小企業法律支援センター副委員長 牧 智浩(61期)

1 はじめに

みなさま、明けましておめでとうございます。新年最初のセンターだよりですので、少し夢のあるハナシ(=創業支援のハナシ)をしようと思います。

昨年の11月10日に、「創業応援セミナー~創業時のお金のハナシ~」を、福岡市スタートアップカフェにて、九州北部税理士会、日本政策金融公庫、福岡県信用保証協会と共催しました。この4機関でセミナーを共催することは初の試みであり、企画会議を重ね、最終的に、4機関で共催することによる相乗効果を最大限に引き出すために、講演、パネルディスカッション、交流会・相談会の3部構成でセミナーを開催いたしました。

2 第1部(講演)について

まず、最初に、「創業時の資金調達のポイント」というタイトルのもと、日本政策金融公庫福岡ビジネスサポートプラザ所長の高橋秀彰氏と福岡県信用保証協会保証統括部創業・経営支援統括課課長代理の馬場健氏に金融機関の立場から見る資金調達のポイントについてご講演いただきました。

高橋氏によれば、創業計画書の作成における留意点は、(1)簡潔に読みやすく記載すること、(2)具体的に記載すること、(3)自分の強みをアピールすること、(4)事業意欲を伝える重要な書類であることから丁寧に書くこととのことでした。また、創業計画書を第三者(弁護士、税理士、金融機関)に確認してもらい、何度もブラッシュアップしてほしいとのことでした。

また、馬場氏からは、創業時の融資審査の際には、(1)経験・ノウハウ・意欲があるか、(2)事業計画が過度な計画になっていないか、(3)自己資金が十分か、また、その形成過程に問題がないかをチェックしているとのお話がありました。

参加者の大半がメモを取るなどして真剣に講演を聴いており、参加者の資金調達に対する関心度の高さを感じました。

3 第2部(パネルディスカッション)について

次に、「専門家に聞く!これだけは知っておきたい創業のイロハ」というテーマでパネルディスカッションを行いました。高橋氏、馬場氏に加え、九州北部税理士会所属の寺井博志税理士、当会の日隈将人弁護士がパネラーとして登壇しました。

パネルディスカッションでは、まず、第1部の講演内容の掘り下げを行いました。寺井税理士や日隈弁護士からの突っ込んだ質問に対し、高橋氏や馬場氏が、はぐらかすことなく真正面からこれに回答していたため、他では聞くことのできない創業時の融資審査の実態を垣間見ることができました。

なお、寺井税理士、日隈弁護士からの質問の一部をご紹介すると、「初年度赤字の損益計画書でも大丈夫なのか?」、「創業計画あるいは事業計画に士業が関与している場合、融資審査の際の信頼度が上がるのか?」、「法人と個人とで融資の受けやすさに違いがあるという噂は本当か?」といったものでした。

他方、高橋氏や馬場氏からは、弁護士や税理士の創業時の支援活動の内容、弁護士や税理士へのアクセス方法などについて質問がありました。

日隈弁護士が、無用な法的トラブルを避けることの重要性を概説したうえで、契約書やビジネスモデルに対するリーガルチェックなど具体的な支援活動を複数紹介しました。参加者や金融機関を含む関係者各位に、我々弁護士の創業支援活動を知っていただくいい機会になったと思います。

セミナー後に回収したアンケートの回答結果をみると、パネルディスカッションに対する満足度が非常に高く、4機関共催によるシナジーを最大限に引き出せたのではないかなぁ、と思いました。

4 第3部(交流会・相談会)について

セミナーを開催した会場で、そのまま参加者と登壇者との交流会を、同刻に別会場で相談会を開催しました。

交流会場では、各登壇者のところに参加者が集まり、色々と個別に話を聞いているようで、各所で盛り上がっていました。

また、相談会場では、相談ブースを5つ設け、合計10件のご相談をお受けいたしました。相談会では、4機関がそれぞれ個別のブースを設けるのではなく、各ブースに日本公庫、保証協会、税理士、弁護士が同席して相談を受ける形をとりました。

守秘義務等の関係からブースの設置をどのようにすべきかについては悩みましたが、4機関で共催することによる相乗効果を最大限に発揮するため、上記のような形で行いました。

なお、相談の内容については、当初の予想どおり、ほとんどが融資に関するご相談でした(苦笑)。私も1枠担当させていただいたのですが、事業計画についての相談がメインでした。もっとも、その相談をお受けする中で、事業計画に潜在する法的リスクについて簡単にご説明したところ、非常に喜んでいただけました。

また、別のブースでは、パネルディスカッションを聞いて、契約書に関するご質問をされた相談者もあったようです。

個人的には、相談会も成功だったと思いますが、1枠の時間が30分しかないため、4機関が同席しても、各機関から十分な説明ができなかった部分もあったのではないかと思います。これは次回への反省としたいと思います。

5 最後に

当初、参加人数がどれくらい集まるか不安であった創業応援セミナーも、約40名(関係者を除く)の参加者があり、盛況のうちに終わることができました。

本セミナーを開催するにあたっては、多くの方にご協力いただきました。

特に、釜山地方弁護士会との交流会当日という非常にお忙しい時であったにも関わらず開会のご挨拶をいただきました作間功会長、執行部との橋渡しにご尽力いただいた内田敬子副会長、広報面での多大な援護射撃をしていただいた対外広報戦略PTの吉田純二先生、南川克博先生には、この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

当センターでは、今後も、創業支援を含む法的支援を通じて、中小企業事業者の方たちに、弁護士をより身近に感じてもらえるように努めたいと思います。みなさま、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

憲法リレーエッセイ 「加憲」をめぐる寒中問答

カテゴリー:月報記事

会員 永尾 廣久(26期)

トランプ君と大の仲良し

アベくんが得意そうに小鼻をひくひくさせます。
「トランプ君の来日をしっかり歓迎できて良かったね。日本の地位がますます高まったし、これで日本の平和も万全だよね」

「えっ、そうなの・・・」
ヒロくんはポカンと口を開けたまま首をかしげました。

「だって、何回も一緒にステーキ食べて話した日本の首相って、ボクが初めてじゃないかなあ。レストランにだって、同じ大統領専用車に乗っていったんだよ」
ヒロくんは首を元に戻しません。

「一緒に鯉にエサやってるときのボクをちゃんと見てれたかな・・・」
ヒロくんが、「ゴルフも一緒にやったんでしょ?」と言うと、アベくんの笑顔が少し曇りました。

「ゴルフ場でずっこけたんだってね」

「そんな嫌なこと思い出させないでよ。体操選手みたいに一回転して見事だったって、トランプ君はほめてくれたんだよ。それにプロと一緒に仲良く回れたしね」

「でもさ」とヒロくんは渋い顔をして問いかけます。

「北朝鮮の危機が目の前にあるから、その国難打開のために総選挙をやったわけでしょ。その直後に、何時間もゴルフ場にいて優雅にプレーするなんて、ちょっと矛盾してないかなぁ?」

アベくんは口を尖らせます。
「たまにはいいじゃない、たまにはさ。トランプ君だって日本でゴルフをやれて良かったと喜んでいたんだよ」

ヒロくんは納得せずに、次の問いを投げかけます。
「アメリカの大統領が羽田空港じゃなくて横田基地から入って出たって初めてのことなんだよ、どうして羽田とか成田を使わなかったのかなあ・・・」

アベくんは額に汗を浮かべています。
「だってさ、首都東京の守り手として横田基地があるんだから、便利でいいじゃないの。そんな小さいことなんか気にしないでほしいなあ」

北朝鮮を挑発してない?

アベくんは元気を取り戻したようです。
「北朝鮮って、ひどいことばっかりするじゃないの。こらしめてやんないといけないよね。お尻ぺんぺんのお仕置きが絶対に必要だと思うでしょ?」

ヒロくんは首を今度は反対側に大きく曲げました。
「でもさ、軍事的対応って危険なんじゃないかなあ?」

これを聞いてアベくんは右手を大きく突き出しました。
「そんな弱腰でどうするんだよ。無茶する連中には言ってきかせたってダメなんだ。ピシッと制裁して、やつらを抑え込む必要があるに決まってるだろ」

ヒロくんは、腕を組んで真向から反論します。
「だけど、北朝鮮がミサイルを日本に打ち込んできて、それが原子力発電所に当たったらどうするの?」

アベくんは、ふふんと鼻でせせら笑います。
「そんなことさせないために日本海にアメリカ軍の空母がいるんだし、日本の海上自衛隊もいるわけさ」

「でも・・・」ヒロくんは納得しません。

「たくさんの原発が日本海側にあるんだから、一斉にミサイルが飛んできて、そのどれかが当たったら、放射能汚染で日本はどこにも住めなくなるんだよ」

アベくんは突き出していた右手を左右に大きく振ります。
「大丈夫、大丈夫だよ。そのためにアメリカ軍から今度また最新式のF35も買うし、地上型のイージス機器も買うことになっているからね、心配のしすぎは、よほど健康に良くないよ」

ヒロくんは、ますます心配そうな顔になりました。
「F35って、アメリカでも欠陥機だって騒いでいるし、地上版のイージスシステムがあってもミサイルは妨げるはずはないもの・・・」

「いやいや」とアベくんは首を横に振ります。「心配しなくていいんだよ、アメリカがぼくらのバックについているんだからね」
ヒロくんは、まだ納得せず不満顔です。

「アメリカなんて、北朝鮮のミサイルは本土まで飛んでこないので安心しているんじゃないのかなあ・・・」

「加憲」って必要なの?

ヒロくんの目が輝きました。
「そうだ。アベくんは今の自衛隊は憲法違反だって考えているのかい?」

アベくんは、首を大きく左右に振ります。
「とんでもない。合憲に決まってるじゃないの、20万人もいる自衛隊が憲法違反のはずないよ」

「だったら、憲法をわざわざ改正する必要ないでしょ?」

「いやいや」アベくんは悲しそうに顔をしかめます。

「このあいだも言ったけど、日本の憲法学者が悪いんだよ」

「でもさ、憲法に首相は擁護する義務があるって書いてあること知ってるの?」

「ええっ、そんなこと憲法のどこにも書いてないよ、条文をよく読んでよ」
アベくんは得意気に鼻をうごめかします。ヒロくんはすぐに反論しました。

「憲法99条に国務大臣は憲法を尊重し擁護する義務を負うって、明記してあるんだよ」

アベくんはヒロくんにつきつけられた条文を指して勝ち誇ったように言い返しました。「ほら、首相って書いてないだろ」

Jアラートは何のため・・・?

「そんなことより、国を守るのがぼくの使命なんだよ」
こう言いながらアベくんは胸をはりました。

「Jアラートって、国民を守るために役立つかしらん?」
ヒロくんは小首をかしげています。

「ミサイルが飛んできて、その破片に当たってケガしたら痛いでしょ、だから机の下にもぐり込んだり、大きな建物のなかに逃げ込んで身を守るんだよ。何ごとも日頃から訓練しておいたほうがいいからね」
アベくんは、一人で、うんうんと満足そうです。

「だけど、北朝鮮のミサイルって、宇宙空間まで上がって太平洋に落ちたんでしょ。そんな訓練しても意味ないじゃないの」
ヒロくんは納得しません。

「いやいや、北朝鮮のミサイルは怖いって、みんなが実感できるところに大きな意味があるのさ。おかげで先制攻撃しようという声だって高まってきているから、ぼくはうれしいんだ」
アベくんは喜色満面です。

「ええっ、そのためのJアラートだったの・・・」
ヒロくんは、アベくんをきっとにらみつけます。アベくんは目をそらして、まずいことを言ってしまったな・・・と、声のトーンを落とします。

「なにしろ、国あっての国民だからね。それでいいじゃない。何が悪いのさ」
アベくんは完全に開き直りました。ヒロくんは、呆れたという顔をして、アベくんの顔を見つめます。

「国民の幸福とか安全が最優先のはずじゃなかったの・・・。軍隊が国民を守るためのものじゃないってことは、日本でも戦前の沖縄で壕に入った住民を軍人が追い出したっていうんで明らかだと思うよ」

「あれ、また、お腹の調子が何か変になってきたよ。じゃあ、これで失礼するね」
アベくんが足早に立ち去っていくのをヒロくんは腕を組んで見送ります。

転ばぬ先の杖(第37回) 契約書って重要!

カテゴリー:月報記事 / 転ばぬ先の杖

法律相談センター運営委員会 副委員長 松尾 佳子(55期)

このコーナーは、弁護士会の月報を読まれる方に向けて、役に立つ法律知識をお伝えするものです。

■契約書を作らなくても契約は成立します

法律相談の際、例えば、「契約書がない場合でも契約は有効ですか?」と質問されることがよくあります。

原則として、書面がなくても契約の「申込」と「承諾」の意思表示が行われた時点で、契約は成立します。

もっとも、金銭消費貸借契約の場合には、実際に金銭の交付がなければ契約は成立しませんし、保証契約は書面等によらなければならない等の例外はあります。

■なぜ契約書を作成するの?

それでは、なぜ契約書を作成する必要があるのでしょうか。

(1) 契約内容の確認のために

契約は、書面がなくても、言葉で決めただけでも成立します。

ですが、言葉で決めただけでは、「いつ」、「どこで」、「誰が」、「何を」、「どのようにするか」等の取り決めを忘れてしまいます。複雑な取り決めは、契約した当事者本人でも正確に覚えることはできません。

そこで、契約の当事者が、自分がどのような内容で取り決めをしたか確認するために契約書を作成するのです。

契約内容を書面で定めておかなければ、契約の記憶が曖昧になり、言った言わないの争いになることは珍しくありません。

契約書を作成しておくと、言った言わないの争いを、ある程度未然に防止することができます。

(3) 証拠を作る

相手方との間で争いとなっても、契約書があれば、無用な争いを防止できます。

仮に裁判となった場合、契約書があれば、裁判所は、契約書を一つの証拠として、どちらの当事者の主張が正しいかを判断します。

ですが、契約書がなければ、証拠となるものがありませんので、自分の主張を根拠づけることが極めて難しくなります。

契約締結の有無、また、契約内容や合意事項を証明することができるようにするために、契約書を作成しておくのです。

この点、「契約書」という表題でなくとも「合意書」、「確認書」、「念書」など、合意内容を示すものであればよいです。

取引の相手に契約書の作成をお願いしにくいという場合では、証拠を残しておくという点から、単なる口頭合意ではなく、例えば、発注書に取引の条件を記載し、相手から承認を得ておくという方法もあります。また、メールやFAXを活用し、合意内容を証拠として残しておくと、将来証拠として役立つことがあります。

■契約書作成時の注意点

契約書を作成するとき、以下のことに注意しなければなりません。

  1. 契約当事者及び契約の目的が明確であること
  2. 文章ないし文言の意味が平易かつ理解しやすいものであること
  3. 内容が適正であること
  4. 当該契約類型における法律上の要件を満たしていること
■特に契約書を作成すべき契約について
(1) 損害賠償の危険がある場合

受任契約、業務委託契約、下請契約など、相手からの依頼で業務を行う場合には、依頼どおりに業務を履行しないと、相手から損害賠償を請求されることがあります。

(2) 無償でモノ・金銭等を譲り受ける場合

無償で相手からモノや金銭を受ける場合、相手方が心変わりする可能性がありますし、相手方の相続人と紛争が生じる危険があります。

(3) 自分が相手方を監督できない場合

たとえば、将来判断能力が低下したときに備えてする「任意後見契約」や、死亡後に効力が発生する「遺言」などは、相手が自分との約束をきちんと守ってくれているか、自分では監督できません。

以上のような場合は、特に契約書を作成すべき要請が高いといえるでしょう。

■弁護士等の専門家へ相談するかどうか

契約書作成について、弁護士等の専門家に相談、依頼するかどうかは自由です。

しかし、例えば、契約内容が定形のものであっても、過去に一度でも紛争が生じた経験のある相手方との契約であれば、弁護士等へご相談される方が無難な場合があります。また、契約内容が特殊ないし専門的なものであれば、定型的な書式では対応ができません。

少しでも契約内容に気になる点がある場合には、積極的に弁護士等の専門家へ相談されることをお薦めいたします。

■法律相談センターを積極的にご利用ください

弁護士会では各地で法律相談を行っています(事前予約制:ナビダイヤル0570−783−552(ナヤミココニ))。是非ともご利用ください。

「LGBTと制服」を終えて ~小石を置いていませんか?~

カテゴリー:月報記事

LGBT小委員会 委員 入野田 智也(69期)

1 はじめに

平成29年10月14日、西南学院百年館において、「LGBTと制服」と題したシンポジウムを、子どもの権利委員会とLGBT小委員会の共催で開催しました。福岡市教育委員会の名義後援も得て行ったこのシンポジウムは、結果として教師の方などをはじめ180人近くの方に来ていただけ、大成功のシンポジウムとなりました。

今回は、僭越ながら、シンポジウムの振り返りと今後の弁護士業務を行うにあたっての留意点について記載させていただこうと思っています。

2 LGBTと制服の問題とは

LGBTという言葉は少しずつ社会に定着してきており、弁護士の間でも少しずつ認知されてきているとは思いますが、おさらいとして確認しますと、LGBTとは、L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダーの頭文字をとったものです。しかし、現在では性的少数者を総称する用語としても用いられています。

LGBTと制服の問題ですが、性的少数者、特にトランスジェンダーにとっては、自分の自認する性と異なる性を前提とした制服を着用させられることが苦痛であり、自己を否定されているような気持ちを持つ方もいるという現状が有ります。性自認が男性の方は、無理やりスカートを履かされたらどうかを考えてみると分かりやすいかもしれません。

このようなLGBTを取り巻く制服の現状や、制服を男女で分けている学校の制度に問題意識を持ち、今回は「LGBTと制服」という題目でシンポジウムを行いました

3 シンポジウムの内容について

シンポジウムは、第一部がLGBTの子どもたちの交流会や電話相談などをしているFRENS代表の石崎杏理さんの基調講演及び実際に制服で悩んだ経験のある子どものビデオメッセージで、第二部は石崎さんに加え、佐賀大学教育学部の吉岡教授、福岡女子商業高校の柴田校長、そして当会の松浦弁護士の四名の方によりパネルディスカッションを行いました。

(1) 「小石の上」を歩く当事者

第一部は、日頃からLGBTの子どもたちの悩みを聞いており、自身も制服に悩んでいたトランスジェンダーである石崎さんにしか語れないであろう貴重な内容でした。講演では、LGBTの基礎的な知識から、当事者が普段の生活の中で周囲の人からいじめにあったり、自己の性自認とは異なる言動や格好を強いられたりと、たくさんの悩みを抱えていることをお話されていました。また、当事者は、悩みを相談したくても、相談する相手が理解してくれるのか不安でカミングアウトができず、誰にも相談できずに抱え込んでしまい、人付き合いをうまくできないという現状もあるとお話していました。

その講演の中でもLGBTの子どもたちが普段の生活の中で痛みを感じていることを、「毎日、裸足で小石の上を歩いている」という例えで説明していましたが、その例えはLGBTの子どもたちが普段の生活の中でいかに痛みを受けて傷ついているのか、傷ついている事自体が当たり前のようになってしまっているのかといった現状を的確に示していると感じました。

また、性別は女性であるけれども性自認は男性(いわゆる「FtM」)のビデオメッセージは、「制服を着る」ことが自分の性自認とは異なる「女性」というレッテルを貼られることになり、自己を否定されているような学生時代を過ごした当事者の苦しみを、鮮烈に伝えてくれました。制服を着なければ同級生から奇異の目で見られ、着たくないと訴えても教師にも分かってもらえない、そんな自身の痛み苦しんだ体験を生々しく語っているビデオメッセージであり、石崎さんが語っていた小石が実際にどのようなものなのかをよりリアルに教えてくれたと思います。

(2) 悪気なく小石を置く「鬼」になってはならない

石崎さんの講演でもお話がありましたが、多くの人は、知識がないがゆえ、知らず知らずに当事者の生活にこの小石を置いているのです。石崎さんの例えを借りれば、それまで「良い人」だったのが突然「鬼」のようになるそうです。

ただ、私たちには知識がない場合にどのように「鬼」になるかはわかりません。石崎さんは「牛乳アレルギー」を例えにこのことを参加者のみなさんに分かりやすく伝えていました。

牛乳アレルギーについての知識を全く持っていなかったとしたら、私たちは、「牛乳を飲めない」子に対して、何も理由を聞かずに「牛乳を飲まない」子だと思い、その子に対して、「わがままだ」とか言ってしまうかもしれませんが、アレルギーというものがあると言うことを知っていれば、この子はアレルギーなのかもしれないという思いに至ることができます。知っている人から見れば、アレルギーの子に「わがまま」だと言っている人は、鬼のような人だと思うことでしょう。

参加していた方の中には、石崎さんの話やビデオメッセージを聞いて、自らが、知らずにその小石を置いてしまっていることに気づいた人も少なくなかったのではないかと思います。私たち弁護士も、普段の法律相談の中で小石を置いてしまっている可能性もありますから、弁護士も最低限の知識を身に付けることは怠らず、「鬼」とならないように努めることが必要です。

(3) 個別対応すればよい?

第二部のパネルディスカッションでは、学校が男女を分けるシステムになっており、現在までに少しずつ改善をしているものの、未だに問題を抱えていることを確認することから始まり、シンポジウムの題目である「制服」に焦点の当てられた議論がなされました。

なお、制服は、着ることが強制されているように思っている人も多いですが、法令等で決められているわけではなく、正確には着用義務のない「標準服」だそうで、標準服をどうするかは学校長の裁量で決められているものだそうです。

パネリストの一人である柴田校長が現に取り組まれてきた「制服の選択制」はLGBT問題に取り組む際に、制服問題に限らない視座を与えてくれます。

柴田校長は、すでに福岡女子商業高校において、女子生徒がズボンを選択できるようにし、今なお制服がどのようにあるべきかを考えていらっしゃるとのことでしたが、そのきっかけは、人権研修会で石崎さんの講演を聞いたときに制服で悩む子どもがいるということを知ったことだったそうです。また、多くの生徒が自転車通学する姿を見て、「冬にスカートでは寒いのではないか」ということも考え、LGBTに対する配慮という面だけではなく、防寒の面からも制服の選択制を導入されたようです。

福岡女子商業高校では、制服をどうするかということは校長や教師に申告する必要はなく、その理由も問わない、つまりLGBTかどうかというのは無関係に制服を選べることにしているそうです。これを読んでいる方の中には、選択制ではなく、申告制にして個別対応すれば十分ではないかと考える人もいるかと思います。しかし、柴田校長は、この点について、制服を選ぶことでアウティング(自分が当事者だと表明すること)になる可能性を指摘し、アウティングを強いられてしまうのでは選択制にする意味が無いとおっしゃっていました。

柴田校長は、生徒に対しても、制服の選択制を説明する際にLGBTへの配慮であるということは言わず、制服の選択制を導入した理由について、「スカートでは寒いから」「ズボンのほうが動きやすいから」といった説明をしているそうです。

私たちは安易に個別対応でよいのではないかと思ってしまうこともありますが、個別対応では当事者の痛みは消えず、また小石を新たな小石にすげ替えただけになってしまう可能性もあります。しばしば聞く例えですが、LGBTの方々に配慮しますと言って、会社にLGBT専用トイレと明言したトイレを作ったとしたら、そのトイレを使うことは自分がLGBTだとアウティングすることになってしまい、それでは本当に使いたい人が使えないことになってしまいますよね。このような柴田校長の視点や配慮は、制服だけに限らず、LGBT問題やその他の人権問題を考えていくにあたって必ず必要な視点となるでしょう。

(4) LGBTに限らない「制服」の問題

今回のシンポジウムは、LGBTと制服という題目ですが、松浦弁護士からは制服の問題はLGBT当事者のみの問題ではないことや、日本が子どもの権利について十分な施策を取ってきていないことの指摘をいただきました。また、吉岡教授からは、名簿の順番や家庭科の授業の履修などで学校内で男女が分けられてきたその歴史を語っていただき、改善された点や残された問題点について指摘していただきました。

そして、石崎さんや柴田校長も制服の問題をLGBT固有の問題とは捉えておらず、このシンポジウムのパネリストの方々の共通認識として、男女を分ける学校の制度そのものへの問題意識があったと思います。

今まで当たり前のように男女を分けていた制度を取り除き、子どもが自分自身で選べる力を身につけることのできる制度にすることが子どもの成長につながるように思います。現に、柴田校長は制服を選択制にするにあたり、子どもの意見を取り入れ、子どもにどのような制服が良いかを考えてもらっているようで、子どもの主体性を育んでいるともお話されていました。

4 終わりに

今回は、LGBTと制服という題目でシンポジウムを行いましたが、前記のとおり、制服の問題はLGBTに限らない問題ですから、子どもたち一般の問題としても考えていく必要があります。そもそも、男子生徒は詰襟、女子生徒はセーラーにスカートというのは、昔ながらの価値観の押しつけであって、制服の選択制はやはり取り入れるべきであり、弁護士会としても、議論を深め、教育関係機関に働きかけていくべきではないでしょうか。来場者に対するアンケートでも、制服について、選択制を取り入れた方が良いという声がほとんどだったようです。

もっとも、制服をなくすということには反対の意見も少なくなかったようです。その反対の理由は、学校への同窓意識や貧困への配慮(私服が買えない人への配慮)というものがあったようでした。これらの意見については、様々な意見があると思いますが、必ずしも制服がないといけない理由にはならないように思います。

私は、「制服をなくすべきか」という制服ありきの問いを見直し、「子どもたちの成長のためには学校がどうあるべきか」という視点の中で、制服が子どもの成長に与える影響を語るべきだと思っています。石崎さんのアレルギーの話でもありましたが、今まで子どもたちの「わがまま」で切り捨ててきたものを、なぜ子どもが制服を着ないのがわがままなのか、子どもには制服を選択する権利があるのではないかということを弁護士が中心となって考える必要があるでしょう。

福岡の中では、義務教育において制服の選択制を取り入れている学校はほとんどありませんが、今回のシンポジウムには教育関係者の方々にも多くご参加いただきましたので、今後、教育関係機関がこの制服問題にどのように取り組んでいくのかは楽しみなところです。弁護士会の中でも、このシンポジウムを契機に「福岡市の制服を考える会」が発足しており、同会は今回のシンポジウムの結果に満足することなく、制服を含めた教育における子どもの問題により一層取り組む準備をしているので、私も微力ながらその一助となれればと考えています。

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