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シンポジウム「再生可能エネルギーの可能性(先進事例から考える九州の未来)」報告

カテゴリー:月報記事

公害環境委員会委員 中藤 寛(59期)

本年1月20日、九州弁護士連合会及び福岡県弁護士会共催のシンポジウム「再生可能エネルギーの可能性(先進事例から考える九州の未来)」が開催されました。大変興味深い内容でしたので、その概要をご報告いたします。

1 基調報告「九州における再生可能エネルギー普及の取組み」

まず、当会公害環境委員会の埋田昇平先生より、「九州における再生可能エネルギー普及の取組み」について基調報告が行なわれました。

日本の再生可能エネルギーの導入がヨーロッパ諸国に比べて大幅に遅れていること(日本6%、ドイツ24.5%、スペイン26.1%)、国内では都道府県別の再生可能エネルギーの導入比率(水力除く)で大分県が1位であること(40%弱)等が報告されました。

また、再生可能エネルギーについての弁護士会の取組として、福岡県弁護士会館及び北九州部会会館における新電力導入、北九州部会のエコアクション21認証取得などが紹介されました。

2 基調講演「地域が中心となった再生可能エネルギーの普及」

特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也様より、「地域が中心となった再生可能エネルギーの普及」と題する基調講演が行われました。主な内容は以下のとおりです。

(1) 再生可能エネルギーへの産業革命規模の大転換(破壊的変化)

デジタル技術の急速な進歩によって銀塩フィルムのカメラが短期間でほぼ100%デジタルカメラに置き換えられたように、世界では、化石(火力)・原子力の既存エネルギーから風力・太陽光などの再生可能エネルギーへの急速な転換(破壊的変化)が起きている。風力・太陽光発電、蓄電の技術革新がIT革命並のスピードで急激に進んでおり、風力・太陽光の発電コストが急速に低下しているからである。

このような急速なコスト低下により、全世界の発電量に占める割合が、風力発電は10年で10倍、太陽光発電は6年半で10倍に増えており、今後、そのスピードはさらに加速することが予測される。実際、現時点においても、世界的に見れば、風力・太陽光による発電量は、いずれも既に原発の発電量を超えている。

(2) 「ベースロード電源」から「フレキシビリティ」へ

風力・太陽光は、発電量が気象の影響を受けるため安定供給が課題とされ、原発や火力などの既存エネルギーが「ベースロード電源」として重視されてきた。しかし、風力・太陽光発電も、気象予報、水力等他の発電による調整、他地域との電力融通、需要側での調整、蓄電池の活用などの柔軟な需給調整(フレキシビリティ)によって、安定供給という課題は解消できる。

(3) 日本の現状

日本では、固定価格買取制度(FIT)により、太陽光発電が普及し、電力小売自由化も実現したが、以下の課題がある。

すなわち、土地利用規制や環境アセスメントがなく、地域参加が優遇されなかったために太陽光発電開発で事業者と地域の対立が深刻化しつつあること、送電線を独占する既存の電力会社が化石・原子力による「ベースロード電源」にこだわり、変動型電源である太陽光・風力発電について送電線への接続を忌避・抑制しつつあり、太陽光・風力の日本における市場が急激に縮小しつつあること、日本の太陽光発電は世界の水準と比較して未だ2~3倍の高コストであることなどである。

日本において再生可能エネルギーをさらに普及させるには、これらの課題の解決が必要であり、特に、送電線を道路と同様に公共財として競争主体から分離する完全な発送電分離、完全にオープンな市場の実現が不可欠である。

(4) 地域からのエネルギー・デモクラシー

既存の発電は大規模・中央独占型であるのに対し、太陽光・風力などの再生可能エネルギーは、必ずしも大規模な設備が必要ではなく、小規模・地域分散型である。いわばエネルギーの地産地消が可能であり、誰もが発電することが可能である。日本でも各地に小規模分散型のエネルギーシステムで自立を目指す「ご当地エネルギー」が次々と誕生している。

このような発電の担い手の広がり、多様さは、「エネルギー・デモクラシー」というべきものである。

3 パネルディスカッション「地域の力でなしうる取り組み」

パネリストを飯田所長、みやまスマートエネルギー株式会社(みやま市)代表取締役の磯部達様、大分県商工労働部工業推進課エネルギー政策班の渡辺康志様、コーディネーターを当会公害環境委員会委員長緒方剛先生として、パネルディスカッションが行われました。

(1) 大分県の施策

まず、渡辺様から、再生可能エネルギー導入比率全国一位の大分県における施策と実績、及び他の都道府県と異なり、太陽光・風力以外にも大分県特有の地域資源を活かした地熱・バイオマス・小水力など多様な発電方式を導入していることが報告されました。このような再生可能エネルギーの普及は、大分県のエコエネルギー導入促進条例を契機としたものであるとのことでした。

これについて、飯田所長より、地方自治体が条例によって再生可能エネルギー導入促進を図ると、それが他の自治体にも広がっていき、さらには国レベルでの施策につながっていくことから、県レベルでの施策が重要であるとの指摘がなされました。

(2) みやまスマートエネルギーの取組み

みやま市は、多くの地方自治体と同様、人口減少・高齢化による活力減退という問題を抱え、また、電気代として市外へ年間約40~50億円が流出していました。そこで、地域資源を活かし、地域で電力を作って地域で売ることで、安定した雇用を生み出すとともに、その収益を地域に還元する(子育て支援など生活支援に充てる)ため、みやま市が筆頭株主となり、地元企業に呼び掛けて、みやまスマートエネルギー株式会社が設立されました。

実績として、出資者に年間8%の配当ができており、また、大分県豊後大野市、同県竹田市などの自治体の再生可能エネルギー導入支援も行なっていることが報告されました。

再生可能エネルギーの課題である需給調整についてコーディネーターより質問がなされましたが、専門家ではない地域住民を雇用して需給調整を行なっているが、特に問題は生じていないとのことでした。

4 最後に

以上のように、コスト低下により、太陽光・風力を初めとする再生可能エネルギーは急速に普及しており、現在、同時進行しているグローバルなエネルギーの大転換は、大規模・集中・独占型から地域分散・ネットワーク型への移行という点に大きな特色があるようです。

飯田所長がこのような大転換を、「パワーエリート」から「民衆のパワー」へ、「核による戦争」「石油を巡る戦争」から「太陽による自立・平等・平和」へ、と表現していたのが非常に印象的でした。

広報関連委員会だより ~ライジングゼファー福岡とコラボしました!~

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対外広報委員会委員・対外広報委員会戦略PT委員 南川 克博(67期)

1 はじめに

平成30年1月20日(土)、福岡市民体育館にて、プロバスケットボールリーグBリーグ2部(B2)のライジングゼファー福岡とコラボしたA5サイズカレンダーを1000部配布しました。

弁護士会とBリーグの(おそらく)全国初のコラボについて、僭越ながら、ご報告させていただきます。

2 コラボが実現するまで

これまで当会は、より弁護士会を身近に感じてもらうことを目的として、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスや、Jリーグのアビスパ福岡など、地元のプロスポーツチームとコラボした広報活動(グッズの配布)を行ってまいりました(詳細は月報547号、551号をご参照下さい)。

当会の公式twitterアカウント(@fben2016)でこれらの活動を報告したところ、「ライジングゼファー福岡とも是非コラボしませんか」という連絡(リプライ)をいただきました。その主は、ライジングゼファーの取締役も務められている、当会の八尋光良会員でした。中高バスケ部だった(今は面影ないですが・・・)私は、是非コラボできればと思い、ここからライジングゼファー福岡とのコラボプロジェクトが始動しました。

そして、冒頭にお話したように、チームの選手の写真と、弁護士会のロゴや電話番号、QRコード等が記載されたオリジナルのA5カレンダーを製作し、ホームでの試合の際に配布することとなりました。

3 試合当日

試合開始は18時ですが、熱烈なファン(ブースターといいます)の方は良い席を確保するため15時から入場するとのことでしたので、我々弁護士会有志も15時から配布を行い、無事試合前に目標の1000部を配布することができました。2時間以上立ちっぱなしでの配布でしたが、手に取って喜んでくれるブースターの皆様の様子を見て、(少なくとも私の)疲れは吹き飛びました。ちなみに、配布にご参加いただいた某先生は、年間シートをお持ち(しかも2席!)の熱狂的なブースターで、会場スタッフの方とも気さくにお話をされており、私は憧憬の念を禁じ得ませんでした。ご協力いただいた先生方、本当にありがとうございます!

カレンダー配布については当会の公式twitter(@fben2016)でも事前告知・当日の実況を行っておりましたが、チームの公式twitterでも告知していただいたこともあり、ネット上の反応も上々でした。試合後の報告ツイートに対して、一般のブースターの方から「今日は観戦できなかったけれど、貰った方は嬉しかったと思います。」という連絡をいただき、とても嬉しかったです。

試合も西地区1位の力を見せ、福岡が奈良に快勝しました。

4 さいごに

今後も、対外広報委員会は、地域の皆様にとって弁護士会が身近な存在になるように、様々な形で情報発信を行って参ります。会員の皆様におかれましては、所属される委員会のイベントや情報について、我々がよりよい形での広報のご提案やご協力をさせていただきますので、ぜひ対外広報委員会及び対外広報戦略PTをご活用ください。

あさかぜ基金だより

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会員 小林 洋介(70期)

自己紹介

このたび、あさかぜ基金法律事務所へ入所しました、所員弁護士の小林洋介です。私は、長崎県佐世保市で生まれ、高校までを過ごしました。長崎は、大小様々な島があるとともに、大村湾で東西が分断される地理的特徴があり、加えて、北は平戸、南は島原半島が突き出る形となっていて、県内各所の交通アクセスが非常に不便な県でもあります。

長崎県には、長崎市と佐世保市が中核市としてありますが、私が住んでいた当時、佐世保には中心市街地にわずかに弁護士がいるというくらいで、身近な存在ではありませんでした。

私は母子家庭で育ちました。母子3人で古アパートに住んでいましたが、ある日、退去要請通知が送られてきました。アパートを壊すから出て行ってくれというものでしたが、母の収入だけで家計を支える家庭にとって、新しく住む場所を探し、引っ越しをするということは、経済的にも時間的にも容易なことではありません。しかし、無知とは酷なもので、私たち一家が正当事由や立退料など知るはずがありません。むしろ、貸主から出て行けといわれれば出て行かなければならないのが当然という認識です。母は、仕事をしながら家を探したり引っ越し準備をしたり、時間的にも経済的にも大変だったと思います。そのため、とうとう体調を崩してしまいました。

法律家へのアクセスが容易でない地域では、法の支配は後退し、人治による紛争解決が横行します。ひとたび紛争が生じると、当事者の社会的力関係がそのまま反映されてしまい、力のあるものが有利な立場に立ち、弱いものが不利な立場に立たされるという、まさに、強いものが勝つ世界です。

私はこのような経験から、弁護士が身近にいることの重要性を身をもって感じるようになりました。弁護士の存在を必要とする地域がまだまだあり、弁護士が近くにいるだけで救われる人々が必ずいる。そういう人々のために仕事をしたいとの思いから、司法過疎地域への赴任を考えるようになりました。就職活動も、法テラスと公設事務所に絞り、最終的には自分が生まれ育った九州の地で貢献していきたいとの思いから、あさかぜ基金法律事務所への入所を決めました。将来の赴任先はまだ分かりませんが、故郷である長崎に貢献できる日が来ればありがたいなという思いを抱きつつ、あさかぜで弁護士としての第一歩を歩み始めたところです。

あさかぜ基金法律事務所の紹介

あさかぜ基金法律事務所は、司法過疎地域へ派遣する弁護士を養成するために設立された都市型公設事務所です。所員弁護士は、2、3年の養成期間を経たあと、九弁連管内の司法過疎地域に赴任することになります。2017年1月には、中田弁護士が壱岐ひまわり基金法律事務所へ、河野弁護士が島原中央ひまわり基金法律事務所へ赴任したのに加え、2018年春からは若林弁護士が対馬へ赴任することが決まっています。当事務所は2008年の設立以来、九州各地の司法過疎地域へ弁護士を派遣していますが、派遣弁護士の定着により公設事務所としての役目を終える事務所も増えてきているなど、司法過疎の解消に着実に成果をあげています。

当事務所では、債務整理、家事事件、国選弁護事件を多く扱っています。また、法テラスの利用が多いのも当事務所の特徴といえます。生活保護受給者については、法テラスの立替金が免除になる場合もあり、そのことを説明するとほっとした表情を浮かべて依頼者の方は帰って行かれます。このような依頼者の姿を見るにつけ、法律扶助制度の果たす役割の重要さを感じます。

入所後の抱負

弁護士数が少ない過疎地域では、都市部と異なり数ある中から弁護士を選ぶことができません。地域の人々の法的権利が守られるかどうかは、赴任した弁護士の力量にかかっているところも大きいと思います。養成期間を過ごすにあたっては、このことを肝に銘じ、真摯に誠実にひとつひとつの事件にあたるとともに、日々研鑽を積んでいきたいと考えています。

また、あさかぜ基金法律事務所は、九弁連や福岡県弁護士会会員の支援をはじめ、あさかぜ出身弁護士のこれまでの尽力により支えられている事務所です。これまで受け継がれてきたバトンをしっかりと受け取り、引き継いでいけるよう努めていきますので、引き続きのご指導ご鞭撻をよろしくお願いします。

弁護士知財ネット 九州・沖縄地域会主催 知的財産を活用した高付加価値農林水産物の開発と展開セミナー(第2回)~農林水産知財の横断的解説と活用例の分析~@福岡

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弁護士知財ネット九州沖縄地域会事務局 網谷 拓(63期)

平成29年12月20日、弁護士知財ネット九州沖縄地域会主催、知的財産を活用した高付加価値農林水産物の開発と展開セミナーを、特別後援をいただいた株式会社NCBリサーチ&コンサルティング様のセミナールームにて開催しました。

当日は、約50名の方にご参加いただきました。

司会は松本幸太先生が務め、まず、弁護士知財ネット九州沖縄地域会幹事の柴田耕太郎先生から挨拶がありました。

その後、基調講演として、九州経済産業局地域経済部知的財産室室長の横田之俊様から「農水知財制度の解説」を、沖縄で活躍されている弁理士の大久保秀人先生から「農水知財取得・活用の実務」を、有限会社緑の農園専務取締役の早瀬憲一様から「農水知財活用企業の実例報告「つまんでご卵®」」を、それぞれお話しいただきました。

横田様からは、農林水産分野においても知的財産が関係すること、このことを踏まえ、知的財産を意識した取り組みが重要であることをご説明いただきました。

また、知的財産に関係したトラブル事例の紹介とトラブル対策として、どのような措置を講じるべきか、また、国として、どのような支援を行っているかについて、説明、紹介をいただきました。

次に大久保先生からは、商標法による権利保護、種苗法による権利保護の違い、それぞれの権利取得までに要する時間が異なるために生じる問題等について解説いただきました(「商標追い越し問題」等。農林水産省でも重要論点として解説しておりますので、気になる方は農林水産省のHPをご参照ください。)。

また、平成27年6月1日から施行された特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)に基づく地理的表示保護制度(GI)についての説明もいただきました。

大久保先生は、GIの登録申請をサポートするGIサポートデスクのアドバイザーを務めており、実務家として、日々の業務の中で感じる問題点について聞けて勉強になりました。

早瀬様からは、つまんでご卵のこれまでの歴史(「早瀬さんの美味しい卵」から「つまんでご卵」になるまでの歴史)、どのようにして卵を生産しているのかについて、お話いただきました。つまんでご卵は、「にわとりの幸せ」を追求した飼育方法で生産されているそうです。

一度、糸島に行かれる際は、つまんでご卵直売店に行かれてみてはいかがでしょうか。

その後、弁護士知財ネット九州・沖縄地域会幹事である田中雅敏先生をモデレーターとして、基調講演にてお話しいただいた方々で、パネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、活発な議論がなされました。例えば、海外進出を念頭に、どこの国に進出するのか、どこの国で、どの程度権利を取得し、ブランドを保護するのか、ブランド戦略について意見交換がなされました。

また、他方で、権利取得を目指すよりも、営業秘密として情報を秘匿しておくべきではないかといった議論もなされました。

この議論にて、農林水産事業について、いずれ海外進出を念頭に事業を行う必要があること、その進出にあたり、国も、弁理士、弁護士等の専門家も支援していくこと、その体制を整えていかなければならないことが確認されました(と私は感じました)。

来年度も、このような機会を提供できればと思いました。

筑後地区ジュニアロースクール2017 −アリとキリギリスを題材とした主権者教育−

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日弁連市民のための法教育委員会委員
県弁法教育委員会委員・筑後部会法教育委員会委員
廣津 洋吉(60期)

1 はじめに

平成29年12月2日、筑後弁護士会館において、福岡県弁護士会主催、九州弁護士会連合会共催、福岡県教育委員会・久留米市教育委員会後援の下、筑後地区ジュニアロースクール2017が開催されました。参加者は7名(高1女子1名、中3男子1名、中2男子1名、中1男子1名、中1女子3名)と若干少なめではありましたが、以下のとおり充実した討論と発表が行われました。

開講の冒頭において、参加者の緊張をほぐしてもらい、また法曹への興味や理解を深めてもらうべく、法曹三者のバッチに関するクイズが出されました。テレビドラマなどの影響もあり、やはり弁護士バッチの認知度は高いものがありました。それぞれのバッチに込められた意味の説明にも興味をもって聞いてもらうことができました。

2 今回のテーマはアリとキリギリスを題材とした主権者教育

今回のジュニアロースクールにおいては、アリとキリギリスを題材として、団体での食料の分け方を巡る、ものの考え方・決め方(民主主義の仕組み、少数者への配慮)について学んでもらう主権者教育を実施しました。

筑後部会においては、例年、刑事模擬裁判をテーマとしてきましたが、18歳選挙権の実施により主権者教育が盛り上がっていること、高等学校における新しい学習指導要領において「公共」が必須科目となり、その中で、自立した主体として国家・社会の形成に参画し、他者と協働することが求められているなど主権者教育が重視されていることなどから、趣向を変え、主権者教育に取り組むことにしました。

今回の題材であるアリとキリギリスのあらすじは、「ある冬の日、アリの群れに空腹のキリギリスが食料を恵んで欲しいとやってきた。キリギリスをかわいそうに思った女王アリが食料を分け与えることを他のアリたちに命じたところ、他のアリたち(働きアリ2匹、兵隊アリ1匹、老人のアリ1匹、病気のアリ1匹)から反発が出た。」というもので、女王アリが食料全てをキリギリスに与えることを一人で決めることの是非(テーマ1)、アリたちで食料の分け方を決める場合の適当な決め方(テーマ2)、多数決で決める場合のあるべき参加者(テーマ3)、病気のアリに分ける食料を少なくすることが多数決で決まった場合の問題点(テーマ4)、多数決で決めて欲しくないもの(テーマ5)について、福井弁護士会法教育委員会作成の寸劇DVDを鑑賞の上、討論と発表を行ってもらいました。

3 充実した討論と発表

まず、テーマ1の、「女王アリが食料全てをキリギリスに与えることを一人で決めることの是非」については、独裁制と民主制の違い、すなわち、集団で物事を決める際にはメンバー全員の利益を確保するため、一部の者が独断で決めるのではなく、全員で決める必要があることについて考えてもらうものでしたが、参加者からは、「女王アリとしてはキリギリスを助けるために良いことをしているので問題ない」という結果を重視する意見や、「働きアリの立場に立つと理不尽」という食料確保者の立場に立った納得し得る意見、「食料はアリみんなのものだから女王アリが一人で決めるのは問題」というみんなのことはみんなで決めるべきという民主主義の発想に基づいた意見、「女王アリが決めるのではなく話し合いの場を設けるべき」という話し合いを重視する意見などが出ました。テーマ1の最後に、筑後部会法教育委員会委員長である吉田星一先生より、前記趣旨説明の他、女王アリが選挙で選ばれたのか、血筋で選ばれたのかによっても考え方が変わり得るなどの講評がなされました。

次に、テーマ2の、「アリたちで決める場合の適当な決め方」については、じゃんけん、話し合い、全員一致、多数決など様々な決め方があること、そのメリットデメリット、全員一致とならない場合の次善の策として多数決があることについて考えてもらうものでしたが、参加者からは、「食料を集めることができる力の強い者が決めるべき」「年寄りは経験豊富だから年寄りが決めるべき」などの意見が出た他、「働きアリ、老人のアリ、病気のアリなどの利益代表を出して多数決を採るべき」などの高度な意見も出ました。テーマ2の講評では、利益代表という考え方は政党の考えにつながるとの説明などがなされました。

また、テーマ3の、「多数決で決める場合のあるべき参加者」については、女王アリ、働きアリ、兵隊アリ、老人のアリ、病気のアリの中で多数決に参加すべき者を全て挙げさせ、その理由を問うものでした。参加者からは、「食料を取ってきた働きアリと兵隊アリが多数決に参加すべき」という意見が出たのに対して、「老人のアリも若い時は働いていたのだし、病気のアリも元気な時は働いていたのだから、老人のアリと病気のアリも多数決に参加すべき」という意見も出ました。また、「食料は全員で食べるのだから全員参加すべき」という意見も出ました。このテーマは、主権者、有権者の範囲や普通選挙・制限選挙について考えてもらうものであり、きちんと整理しようとすると難しいところもありますが、参加者は前述のとおり、当年の食料確保の功績を重視したり、食料確保は当年に限らず過去、未来においてもなされることを重視したり、食料の分け方は全員の問題であることを重視したりするなどして、様々な意見を理由とともに発表してくれました。テーマ3の講評では、女王アリが多数決に参加すべきか否かに関して、天皇には選挙権がないが総理大臣には選挙権があるということが紹介され、多数決に参加すべき者を考えるにあたって、参加者にとっての新たな視点が提示されました。

また、テーマ4の、「病気のアリに分ける食料を少なくすることが多数決で決まった場合の問題点」については、多数決により切り捨てられる少数者の保護、多数決にも限界があり個人の自由を優先させるべきことがあることについて考えてもらうものでした。参加者からは「多数決をするにしてもみんなの意見をきちんと聞いた上でするべき」、「多数決では少数意見が通らないので多数決で決められないこともあるはず」、「病気のアリが少ない食料しか分けてもらえていないのは平等ではないので問題だ」という意見が出るなど、多数決の問題点について人権・平等の観点から深く考えてもらうことができました。

また、テーマ5の、「多数決で決めて欲しくないもの」については、多数決でも侵害することができない人権について考えてもらうものでした。参加者からは「自分の住むところ」「自分の仕事」「自分のライフスタイル」「自分の髪型」「病気の人の扱い方、待遇」などの意見が出ました。「病気の人の扱い方、待遇」という意見は、テーマ4の少数者の保護を意識したものとなっていました。テーマ5の講評において、憲法には多数決のやり方(憲法56条等)や、多数決では奪ってはいけない人権について書かれていること、「自分の住むところ」、「自分の仕事」については憲法22条、「自分のライフスタイル」、「自分の髪型」については憲法13条に規定があることなどの説明がありました。

4 アンケート結果

アンケート結果においては、すべての参加者が「おもしろかった」と回答するなど高評価を得ました。また、難易度については「難しかった」「やや難しかった」とする者が多く、多数決や人権というテーマが刑事模擬裁判などと比べるとなじみが薄いことが影響したものと思われました。ただそれでも、「多数決についていろいろ考えさせられた」「多数決で決めていいこととダメなことがあることが分かった」など今回のテーマを評価する感想が多数寄せられており、主権者教育についての有意義なイベントとなったのではないかと思われます。

5 最後に

今後の課題として、参加者増加とそのための広報、テーマ選定(主権者教育か刑事模擬裁判かその他か)、寸劇実演などがありますが、次回も有意義なジュニアロースクールとすべく委員会での検討を進めていきたいと思います。また、本年10月に久留米で開催される九弁連大会のシンポジウムのテーマが主権者教育ですので、今回のジュニアロースクールの成果を当該シンポジウムに活かし、より充実したシンポジウムにしていけたらと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。

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