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あさかぜ基金だより

カテゴリー:月報記事

あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 石井 智裕(72期)

事務所の移転から1年がたちました

令和6年2月5日に事務所が移転してから、1年たちました。執務室・会議室ともに以前よりも狭くなりましたが、支障はありません。

以前は南天神でしたので、赤坂に事務所のある弁護士と共同受任したときは、移動するのが大変でしたが、今は移動するのが楽になりました。

パソコンが新しくなりました

令和元年にリースをしたパソコンのリース期間が満了したため、令和6年12月にパソコンが新しくなりました。

いままでのパソコンはハードディスクを使用していたため、起動するのに時間がかかり、Windows Updateがある日にはフリーズが起こっていて、非常に使いにくかったです。今回新しくリースしたパソコンはSSDにかわったので、起動するのが速く、Windows Updateがあってもフリーズせずに使えるようになりました。

また、本体の大きさもコンパクトになり、モニターの下にパソコンの本体を置くことができるようになり、机を広々と使えるようになりました。

パソコンが新しくなったことに伴い、Microsoft officeも新しくなりました。ExcelではXLOOKUP関数やIFS関数など、いままで使えなかった新しい関数が使えるようになり、わくわくしています。業務で使える場面はないか模索をしています。

本棚がいっぱいになりつつあります

約2年前から、あさかぜ基金法律事務所では、事務所で図書を購入できるようになりました。当時は、本棚に僅かしか書籍がありませんでしたが、今は本棚がいっぱいになりつつあります。版の古い書籍も新しい版になり、高くてなかなか手が出なかったコンメンタールなども買いそろえることができ、これまで以上に業務の質を向上させたいと考えています。

長崎でじっくり勉強

1月10日に、あさかぜ研修として、長崎の山下・川添総合法律事務所を訪問しました。

山下俊夫弁護士からは、九弁連における司法過疎対策の歴史的経緯をじっくり話していただきました。「私の田舎では山でイノシシは見たことがあるけど、生の弁護士を見るのは初めてです」と言われたという話から、法律相談センターを離島に設置し、公設事務所を各地に新設して、九州のゼロワン地域の解消につとめてきた経過を聴いて改めて勉強になりました。

今後の課題として、壱岐・対馬のような定着困難地域があること、一度定着した地域であっても再びゼロワン地域になってしまう心配があることも教えていただきました。

池内愛弁護士からは、事務所を開設するときの物件や内装、備品調達、事務員の採用について体験にもとづき具体的な話を聴くことができました。また、業務をするうえで、事務員との連携することが大切なこと、そしてその難しさについても、教えていただきました。

中田昌夫弁護士からは、あさかぜ研修の工夫についてお話をいただきました。弁護士から話を聴くだけではなく、オフィス用品メーカーを訪問して、オフィスの省コスト化のための工夫について、研修を実施したそうです。

依頼者に対してまめに連絡をすることを心がけているそうです。まめに連絡することは自分の身を守ることにもつながるとのことで大変参考になりました。

司法過疎地赴任に向けて

私は令和2年1月にあさかぜに入所し、司法過疎・偏在地域への赴任に向けて、あさかぜで養成を受けてきました。まだ赴任先は決まっていませんが、司法過疎地に赴任するにあたっては諸先輩の体験も生かしながら、日々の業務に精進していきたいと考えています。皆様どうぞあさかぜへの応援をよろしくお願いします。

『ヤングケアラー研修会』(1月24日)開催報告

カテゴリー:月報記事

子どもの権利委員会 委員長 池田 耕一郎(50期)

1 2025年(令和7年)1月24日(金)16時より、福岡県弁護士会館において、NPO法人「SOS子どもの村JAPAN」の横野陽子さんを講師にお迎えして『ヤングケアラー研修会』を開催しましたので、報告します。

近時、「ヤングケアラー」という言葉を見聞し関心を抱いているものの、弁護士としてどのように向き合うべきなのか、どのような関わりができるのかについて明確な方向性を見いだしがたいと思われている会員も多いのではないかと思います。

子どもの権利委員会では、ヤングケアラー支援の分野で弁護士ないし弁護士会が果たせる役割を見いだす第一歩として、ヤングケアラーの実態、支援の現状、関係機関の連携状況などを知ることから始めるため今回の研修会を企画しました。研修会には、会場、Webをあわせ、多数の会員に参加していただき、関心の高さをあらためて感じました。

2 国は、2022年度(令和4年度)から、「ヤングケアラー支援体制強化事業」に基づく地方自治体における実態調査や関係機関研修、支援体制構築等の取組みを開始しましたが、ヤングケアラー支援に関する法律上の位置づけが明確ではありませんでした。そこで、「子ども・若者育成支援推進法」の改正により、ヤングケアラーについて「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」という定義が置かれ(同法第2条7号)、国・地方自治体等が各種支援に努めるべき対象として明確化されました。

横野さんは、精神科でソーシャルワーカーとして勤務している中で、精神疾患、依存症アルコール性認知症の方のご自宅を訪問した折りに、義務教育過程にいるお子さんが、家族の療養のため、日中にもかかわらず自宅で過ごしている様子や転居を余儀なくされるなどといった現場を幾度となく見てきて、医療制度でも介護制度でもなかなか解決できないテーマに歯がゆい思いをしてこられたそうです。そのような経験を実践に活かすために、ヤングケアラーの支援を担う現在の職場に転職したとのことでした。

3 横野さんが所属する「SOS子どもの村JAPAN」は、福岡市の委託でヤングケアラー相談窓口を開設しています。その活動目標は、継続した相談支援体制を構築することによって、関係機関や支援団体等とのパイプ役となること、ヤングケアラーとその家族を社会資源につなぐこと、ヤングケアラーの社会的認知を向上させることにあります。その観点から、相談業務(電話相談・面談・訪問支援・ヤングケアラー支援ヘルパー派遣)、啓発活動(関係機関研修・地域の勉強会・広報物発行)、子どもの居場所活動(オンラインサロン・イベント・居場所支援)を展開しています。

福岡市ヤングケアラー相談窓口では、ヤングケアラー・コーディネーターとして、電話・面談などで対象者の状況を把握し、本人への情報提供、支援機関との連携などを行います。

福岡市ヤングケアラー相談窓口の2021年(令和3年)11月から2024年(令和6年)12月末までの統計によれば、相談者は、ヤングケアラー本人が10.4%であるのに対し、スクールソーシャルワーカーや養護教諭などの学校関係者が33%、病院や介護事業所などの関係機関が34%、その他、近隣住民や地域包括支援センターなどが14%となっています(ヤングケアラーの家族からの相談も9.6%あります。)。

福岡県弁護士会 『ヤングケアラー研修会』(1月24日)開催報告

講師の横野陽子さん

4 ヤングケアラー支援ヘルパー派遣制度は、利用は無料で、基本的に6か月、最長で1年となっています。まずはヤングケアラーの負担を軽減して、その間に生活環境をいかに改善するかが重要になります。制度の情報が行き渡っていない実情があること、ヤングケアラーないしその親族において公のサービスを受けるのに拒否感があるなどといった課題があるほか、大きな問題として、ヘルパーを派遣する事業所の人員不足の現実があり、解決されるべき課題の一つとなっています。このような課題はあるものの、まずは、制度の周知と利用拡大が目指されるべきところです。

ヤングケアラーにとっては、社会に家族を助けてくれる人がいるとわかれば、それで社会への信頼感が生まれ、安心感につながるといえます。

5 ヤングケアラーの支援を進めていくうえで、一部の支援者のみが活動するのではなく、周囲の大人が理解を深め、家庭において子どもが担っている家事や家族のケアの負担に気づいてあげることが重要です。そのために、民生委員児童委員、医療や介護の現場のスタッフ、学校関係者等々、ヤングケアラーの存在にいち早く気づくことができる立場にある人たちへの研修があります。そのほか、広く市民に周知するために、各地域の公民館などの小規模なコミュニティの中で研修会や講座を開くなど地道な活動をされています。

社会の耳目を集めることにも目配りする必要がありそのための大きなイベントとして、2024年(令和6年)11月10日、福岡市中央区天神のレソラホールで「福岡市ヤングケアラー市民フォーラム」が開催されました。私たち子どもの権利委員会のメンバーも参加しましたが、会場を埋め尽くす聴衆を目の当たりにして社会の関心が高まっていることを再認識しました。

6 以上のようなヘルパー派遣などの直接的支援や周知活動だけでなく、子ども自身が子どもらしく過ごせる時間を提供することもヤングケアラー支援の重要な活動の一つです。

現在、「こども食堂」など、子どもの居場所づくりの輪が広がっています。それは、ヤングケアラーの家事負担を減らすだけでなく、出会いの機会を豊かにする意義があります。

しかし、ヤングケアラーは、日常的に家族の世話をしているので、なかなかそのような場所に出向いていくことが難しいという面があります。また、ヤングケアラー自身が積極的にそのような場所に足を向けないという実態もあります。福岡市ヤングケアラー相談窓口では、オンラインサロンを開催するほかに、徐々にリアルでの集まりが可能になってきた状況をふまえて、クリスマス会を開いて子どもだけで参加できる企画を立てたり、公民館で子どものたちとその友達のための行事をしたりするなど工夫しているそうです。積極的に顔を出してくれないときには、「クリスマスの飾り付けをしたいけど手伝ってくれる人がいないから、来てくれないかな」「お弁当やお菓子があるから来ない?」など、個々の子どもが置かれた状況やその子の感性に合うような誘いかけをしているとのことです。

2024年(令和6年)10月にある校区の自治協議会主催のイベントブースでくじ引きやアンケート「ヤングケアラーについて知ってる?」を行ったところ、約400名の子どもや大人がアンケートやくじに参加したそうです。

7 ヤングケアラーについては、その背景に虐待があるのではないかという視点で見てしまうかもしれません。実際に虐待と疑われる案件もあり、本来は専門機関の対応が求められますが、即時に対応されないこともあるため、ヤングケアラー支援として虐待問題への対応を行っているような場合もあるとのことでした。

もっとも、ヤングケアラーの問題を直ちに虐待と結びつけて一概に子どもを「被害者」として位置づけるべきではなく、慎重にみていく必要があります。どんな境遇でも、親が好きで、自分自身が虐待を受けていると認めたくない気持ちを持つ子どもは多く、そのような子どもの自尊感情を損なわないよう配慮することも必要と思われます。子どもが成長に伴い少しずつ力をつけてくると、あるとき親と子の力関係が逆転する時期が訪れる、そうなる前に、子どもが、信頼でき安心できる大人を見つけること、相談する術(すべ)を知ること、子どもに、誰かが力になってくれると学習してもらうこと、それによって社会への信頼感が醸成されることが大事である、との指摘もありました。

8 ヤングケアラーの子どもたちは、家族のケアに自分自身の存在意義を見いだしていることや、自分の家庭しか知らずに育つことが多く自分を客観的に見ることが難しいこと、大人に助けられた経験が少ないため人に頼ろう相談しようという思いに至らないことなどの事情から、SOSを発信するのが難しい状況にあります。

まずは、ヤングケアラーとその家族を孤立させないことが大切であり、子どもが子どもらしく、暮らし、育ち、学べる環境づくりを促進することが目指されるべきです。そのためにできることとしては、ヤングケアラーについて知ること、社会全体の問題と認識すること、子どもが信頼できる大人がそばにいて話を聞いてあげる機会を増やすことが重要です。横野さんは、支援すべき子どもに気づいたときは、子どもに声をかけてほしい、子どもたちが信用できる大人となってあげてほしいと訴えておられました。

私たち弁護士は、日常の弁護士業務の中で、子ども本人の事案でなくても、ヤングケアラーの存在を認識し得る立場にあると思います。そのような場面になったときにどのような支援が考えられるか、どのような関係機関につなぐべきか(つなぐことができるのか)といった基本的な情報を備えておくことに意味があると思います。当面、支援が必要と思われる子どもがいれば、相談窓口(今回ご講演いただいた横野さんの所属する「SOS子どもの村JAPAN」など)と連携することが考えられます。

また、将来的には、関係機関につなぐだけでなく、たとえば、ヤングケアラーとして支援すべき子どもの親が法律問題を抱えている場合などに弁護士がその解決に向けて積極的に関わることも検討されるべきかもしれません。関係機関から弁護士がそのような支援者の立場に立ち得ることを認識理解していただけることを目指して、今後、ヤングケアラーの支援の現場、各機関・団体の支援活動の状況を知る活動を続け、弁護士ないし弁護士会としてのあるべき実践活動を探求していきたいと思います。

福岡県弁護士会 『ヤングケアラー研修会』(1月24日)開催報告

会場の模様

市民とともに考える憲法講座 第十四弾「101年前、いま、みらい~朝鮮人虐殺からヘイト問題を考える」ご報告

カテゴリー:月報記事

会員 朴 憲浩(67期)

1 はじめに

2024年12月13日、福岡県弁護士会館にて、ノンフィクション作家の加藤直樹さんをお招きし、市民とともに考える憲法口座第十四弾「101年前、いま、みらい~朝鮮人虐殺からヘイト問題を考える」を開催いたしました。

当行事は、2022年5月27日に当会が定めた「ヘイトスピーチのない社会の実現のために行動する宣言」の実行のために発足した、「ヘイトスピーチ問題対策WG」が中心となって企画されました。

県下においてヘイトスピーチを規制する自治体がないという現状のなかで、市民の皆様とヘイト(民族差別的言動)の問題性、規制の必要性等に関する認識を共有する機会を得るべく、本企画を催すこととなりました。

2 内容

表題の「朝鮮人虐殺」とは、今から101年前の1923年9月1日に発生した関東大震災に伴って行われた朝鮮人虐殺のことを指します。ご講演いただいた加藤直樹さんは、著書に『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(2014年)等があるノンフィクション作家です。加藤さんにはヘイトの最たる形態である「朝鮮人虐殺」(ジェノサイド)が発生した当時の状況や理由、現代においても残る同根の問題など様々な点についてお話しいただきました。

関東大震災における朝鮮人虐殺と言えば、その原因として有名なのは、「朝鮮人が井戸に毒を入れた。」と言った流言飛語、いわゆるデマです。加藤さんによれば、緊急事態において理解しづらい現象が起きたときに、その理由を想像で埋めるべく、デマが発生するということでした。

例えば、関東大震災時には相当な広範囲、いたるところで火災が起きていました。その理由は、当時現地には強風が吹いており、広範囲に運ばれた火の粉が次々と別の火災を生んでいったことにあると現在では解明されています。しかし、それを知る由もない、緊急事態に置かれた当時の人々は大規模火災の理由を、「社会主義者や朝鮮人が各地に火をつけて回った」という想像で埋めてしまうことから、デマが発生していくということでした。
通常、大震災を想定して放火をする準備をしておくことなどなかなか考えられないわけですが、デマが広がるにつれ、「準備をしているのを見た」などと言うようにディテールが加わっていき、メディアも取材結果をそのまま報じていくことで、朝鮮人虐殺の下地が出来上がっていったのでした。

そして、それを信じた警察がさらにデマを拡散し、「不逞鮮人」の取り締まりを強化するなどした結果、民間による朝鮮人虐殺が発生しました。

加藤さんは、このような虐殺が発生した大きな理由の一つとして、「差別の論理」が存在していたと指摘します。震災時に広まったデマは、社会主義者に関するものよりも、朝鮮人に関するものの方が多かったといいます。こういったデマが発生するときに「悪者」にされやすいのは、差別を受けている人たち、すなわち朝鮮人であったということです。マジョリティである日本人にとって、朝鮮人は差別の対象であると同時に、いざというときにはどんな抵抗をされるかわからない、恐れの対象でもあり、根拠のないデマでも真剣に受け取ることができたわけです。

3 現在を見ると

現在の社会状況はどうでしょうか。石原慎太郎元都知事の「三国人」発言は、外国人による災害に乗じた犯罪に対する治安維持を意識して発言されたものでしたし、小池百合子都知事は関東大震災の際に虐殺された朝鮮人犠牲者の追悼式典への追悼文の送付を辞めました。昨年8月には、松野博一官房長官が関東大震災をめぐる朝鮮人虐殺について「政府内において事実関係を把握する記録は見当たらない」と記者会見で述べました。今後、101年前と同じようなことが起きないと信じることはできませんし、加藤さんも同様なご認識を抱いておられました。

再発を防ぐためには、普段から民族差別を許さない社会を作ることができているかが肝要だと加藤さんは述べていました。上記の他にも、議員を含め、ヘイト発言がなされる例は後を絶ちませんが、例えば弁護士会として一定の声明を発出するなど、私たちができることも多くあるように感じました。

過去を否定するのではなく、向き合って反省し、民族差別の解消のための努力をすることが、将来の悲惨な事態を防ぐことにつながると信じています。

LGBTQ+当事者についての理解を深めるために

カテゴリー:月報記事

LGBT委員会 委員 太田 信人(74期)

1 はじめに

2024年12月8日、福岡県弁護士会館にて「医療・教育の視点から見るLGBTQ+対応」と題する講演会が開催されました。当日は、事前の予想を大きく超えた50名の参加があり大盛況となりました。

当該講演内容について、簡単にですがご報告させていただきます。

2 LGBTQ+ガイドラインの説明

当会会員の皆様の下には、既に届いているかと思いますが、当会では、LGBTQ+に関する知識や状況、日々の業務において留意すべきことを記載した「LGBTQ+ガイドライン」が発行されています。これに基づき本講演会の前半部では、増永真希先生(76期)が当該ガイドラインの説明をしてくださいました。

増永先生は、LGBTQ+当事者は限定された場所にいるのではなく、どこにでもいるということを常に意識すべきということを冒頭にお話されました。というのも、現代社会において、LGBTQ+への社会的差別は依然として存在していることから、LGBTQ+当事者が他者にカミングアウトをしていない状況は往々にしてあり、カミングアウトされていないからといって周囲にLGBTQ+当事者が存在しないわけではないとのことです。そのため、私たちの無意識の差別的発言により当事者を傷つけている可能性があり、カミングアウトをされていなくても自分の周りにはLGBTQ+当事者がいるかもしれないということを意識しておくことが大切とのことでした。

弁護士として、相談業務を行う中でも、相談者の恋愛対象が異性であることを前提に話をしてしまうなど、私の無意識の言動により当事者に対して辛い思いをさせてしまっているかもしれないと改めて反省しました。

また、アウティングについても、細心の注意を持つことが重要と注意を促されました。アウティングとは、当事者の同意を得ずに、その人の性的指向や性自認などを他人に暴露する行為のことをいいますが、このアウティングによって、自死を選択する当事者も存在するなど、アウティングは命に係わる重大な問題であること、アウティングによって一度流出した情報は、コントロールができず、二重、三重のアウティングが行われ、事態はより深刻になるとのことでした。

その他、SOGIハラスメント(性的指向、性自認を理由としたハラスメント)や、弁護士として注意すること等、ガイドラインを引用してご説明してくださいました。

福岡県弁護士会 LGBTQ+当事者についての理解を深めるために

3 日高庸晴教授によるご講演

本講演会の後半部では、宝塚大学看護学部の日高庸晴教授をお招きして、「医療・教育の視点から見るLGBTQ+対応」と題して、日高教授によって行われたLGBTQ+当事者を対象とした26年間にも渡る研究データの説明、LGBTQ+当事者の医療機関や教育現場で置かれる状況、同機関等に求められる対応等をご講演いただきました。

(1) 性的指向と性自認に関連する国の主な動き

まず、「性的指向と性自認」に関連する国の動きについて、ご説明いただきました。我が国において、2015年以前は、LGBTQ+問題について、積極的に取り組まれていませんでしたが、2015年に文部科学省が「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施などについて」との通知を出し、学校に対して適切な対応を求めたことを皮切りに、LGBTQ+に関連する様々な通知や法改正等がなされ、直近(2023年)では「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(理解増進法)」が制定されるに至るなど、徐々に取り組みが開始されたとのことです。

(2) 教育現場での問題

上記のとおり、LGBTQ+に関する問題については、2015年以前は、国においてあまり積極的に取り組まれていなかったため、教育現場でもLGBTQ+の問題は優先度が低いとされていました。しかし、2015年以降の動き、とりわけ2022年に生徒指導提要が改正され、性的少数者の児童生徒への対応に関する項目が盛り込まれたことにより、LGBTQ+の存在を視野に入れた取り組みが行われるなど、優先度が高まってきたとのことです。

また、教育現場に関連する研究データも細かく示されました。例えば、「特に用事がないのに、保健室に行ったこと」、「与えられた制服に対する嫌悪」、「いじめ被害・不登校・自傷行為 生涯経験率」、「アウティング被害状況」等の詳細な研究データが示され、当事者が置かれる状況や、教育機関において当事者が安心できる居場所の重要性等についてお話がなされました。LGBTQ+当事者の「用事がないのに保健室に行った」割合が高いというデータから、当事者は、短い時間ですら教室にいることができない状況にあるとのお話は印象的でした。

いじめの問題も深刻でした。LGBTQ+当事者は、いじめ被害率・不登校率・自傷行為率が非当事者に比べて非常に高いというものです。当事者が受けるいじめの被害の内容も、「ホモ・おかま・おとこおんな」などの言葉によるいじめの他、服を脱がされて写真を撮られ、しかも現代では昔と異なり、その写真がSNSにアップされ、一生消すことの出来ない状況が続くなど悪質ないじめが実際に起こっているとのことでした。

増永先生のお話でもあったように、LGBTQ+当事者はアウティングや社会的差別のおそれから、自身のセクシャリティや悩みを打ち明けることが難しく、生きづらさを感じている当事者が多くいます。そのため、このような壮絶ないじめを受けても、いじめられている事実を誰にも打ち明けられずに苦しんでいる当事者が結果として自死を選択せざるを得ないのではないかと考えさせられました。

(3) 医療機関での問題

医療機関での問題も研究データとともにお話されました。多少の体調不良については、医療機関に行くことを我慢している(受診控え)LGBTQ+当事者が多くいるとのことです。

当事者が受診控えをするに至ったエピソードとして、ゲイである当事者が医療機関に行ったところ、洗いざらい説明させられた上で、他の医療機関に行くように言われたり、トランスジェンダー当事者が受診拒否にあうなど不適切な対応がなされたとのことでした。

私たちが当然のように受診している医療機関も、LGBTQ+当事者にとっては大きな壁になっているという現状も学ぶことができました。

4 さいごに

当会でも、LGBT電話相談を行っておりますし、近年、LGBTQ+問題がメディアでも取り上げられることが多くなってきていることからすると、私たち弁護士のもとにLGBTQ+に関する相談が来る可能性は高まっているといえます。また、相談者の中には、LGBTQ+当事者であるが、そのことを弁護士には伝えていないケースも多々あると思います(今までもあったかもしれません。)。そのため、当事者からの相談が来たとき等、無意識の差別的発言により当事者を傷つけないために、さらなる勉強が必要だと改めて実感させられ、本講演会は、非常に貴重な機会となりました。

日高教授は「LGBTQ+の健康レポート」という書籍も発行されており、本講演会の研究データの詳しい内容が記載されています。ご興味のある方は是非読まれてください。私も購入しましたので勉強したいと思います。

福岡県弁護士会 LGBTQ+当事者についての理解を深めるために

公害紛争処理制度

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公害・環境委員会 髙峰 真(57期)

1 公害紛争処理制度とは

皆様は、公害紛争処理制度をご存知でしょうか。公害紛争処理制度とは、公害紛争の迅速・適正な解決を図るために公害紛争処理法に基づいて設けられているADRです。

この公害紛争処理制度は、公害問題を解決する上で、その専門性や費用面などで有用な制度ですが、制度があまり浸透しておらず、利用率も低いのが現状です。

そこで、昨年11月19日、「公害紛争処理制度研修」を実施しました。今回は、その研修の内容をご報告しながら、公害紛争処理制度をご紹介したいと思います。なお、この研修の動画を会員専用ページの「TOP>研修・登録名簿>研修動画」からもご覧いただけますので、研修の詳しい内容をお知りになりたい方は研修動画もご覧ください。

2 公害紛争処理制度の概要

公害紛争の迅速・適正な解決を図るため、司法的解決とは別に、公害紛争を処理する機関として、国に公害等調整委員会が、各都道府県に公害審査会等が置かれており、それらの機関で、公害に関する調停や、因果関係を判断する「原因裁定」、法的責任の有無等を判断する「責任裁定」などの制度を利用することができます。

ここでいう「公害」とは、環境基本法第2条第3項に定められている、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって人の健康又は生活環境に係る被害が生ずること、ということになります。この「相当範囲にわたる」という文言から、かつての四大公害のような大規模なものだけが公害と考えがちですが、被害者が1人の場合でも、地域的広がりが認められる場合は、公害として扱われます。最近は、都市型・生活環境型の公害の比較的規模の小さな事件が増え、紛争内容も多様化しています。例えば、

  • 建物の解体・建替えによる騒音や振動
  • 事業者や飲食店からの大気汚染や悪臭
  • 廃棄物の不法投棄による土壌汚染や水質汚濁

といった小規模な公害も公害紛争処理制度の対象になります。

このような公害問題について、公害紛争処理制度を利用するメリットとしては、公害紛争の解決に必要な専門的知見・ノウハウを用いた紛争解決が図れることが挙げられます。都道府県の公害審査会等及び国の公害等調整委員会の委員は法律、公衆衛生、臨床その他の医学、産業技術といった、各分野の有識者から構成されます。そして、職権による調査の実施が可能であるため、必要に応じて、委員自ら資料収集等の調査を行うことができ、それらの費用は当事者が負担する必要がありません。これはかなりのメリットだと言えます。

公害紛争処理では、あっせん、調停、仲裁、裁定の4つの手続を設けていますが、あっせん、仲裁の申請例はほとんどないとのことですので、以下、調停と裁定について説明します。

福岡県弁護士会 公害紛争処理制度

研修のスライドより

3 調停について

調停とは、調停委員会が紛争の当事者を仲介し、双方の互譲による合意に基づき紛争の解決を図る手続です。委員3人から構成される調停委員会が、紛争当事者に出頭を求めて意見を聴くほか、必要に応じて現地の調査を行い、また、参考人の陳述を求めるなどにより、適切妥当な調停案を作成・提示するなど、合意が成立するように努めます。この調停手続は原則非公開です。

調停の申請は、被害者、加害者のどちらからでもすることができます。被害には、既に発生しているもののほか、将来発生するおそれがあるものも含まれます。
調停委員会は、相当であると認めるときは、最終的な調停案を作成して、当事者に対して、30日以上の回答期間を定めて、受諾を勧告することができます(公害紛争処理法第34条第1項)。

調停の結果、当事者間に合意が成立した場合には、民法上の和解契約と同一の効力を持ちます。この合意には執行力はありませんが、義務に違反した場合は、義務履行勧告の申出が可能です(公害紛争処理法第43条の2)。

4 裁定について
(1) 責任裁定

裁定には、責任裁定と原因裁定があります。

責任裁定は、公害紛争のうち、損害賠償に関する紛争を裁定委員会が法律的判断を下すことによって、迅速、適正に解決するための手続です。対象は損害賠償に限られ、差止め(操業の停止等)を求めるものは対象になりません。

責任裁定も原因裁定も、公害等調整委員会だけが行う手続で、県の公害審査会等は行いません。

責任裁定を申請することができる者は、公害の被害者(損害賠償を請求する者)に限られます。

裁定委員会は、主として公開の審問廷での審問(当事者の陳述、証拠調べ)に基づいて事実を認定し、これに法を適用して、損害賠償責任の有無及び賠償すべき損害額を判断します。責任裁定は、民事訴訟と異なり、裁定委員会が法律だけでなく各方面の専門的知識、経験を有する者で構成され、弾力的、能率的な運用を図ることができるようになっており、事実関係の資料収集について職権主義を採り入れるなど、民事訴訟とは異なった特色があります。

裁定があった場合、不服のある当事者により、裁定書の正本が送達された日から30日以内に当該裁定に係る損害賠償の訴え(責任裁定に係る損害賠償の全部又は一部を訴訟物とする民事訴訟)が提起されないとき、又はその訴えが取り下げられたときは、その損害賠償に関し、当事者間に裁定と同じ内容の合意が成立したものとみなされます。

(2) 原因裁定

原因裁定は、公害をめぐる因果関係の存否の争い、すなわち、加害行為と被害の発生との間の因果関係の存否を判断し争いを解決するための手続です。

原因裁定は、責任裁定と異なり、被害者、加害者の双方が申請することができます。
また、公害に関する民事訴訟が継続している裁判所も公害等調整委員会に対して、原因裁定の嘱託をすることができます(公害紛争処理法第42条の32)。

申請や嘱託があったときの処理の手続は、責任裁定とほぼ同じです。裁定委員会は、公開の審問廷での審問に基づいて事実を認定し、因果関係の存否について判断します。

原因裁定によって因果関係があると判断されても、それだけでは当事者間の権利義務(損害賠償責任等)は定まりません。しかしながら、当事者としては、原因裁定によって因果関係の存否が明らかになれば、その他の争点については直接交渉や調停等の手続によって解決したり、場合によっては、原因裁定手続で得られた資料を利用して訴訟による解決を図ることもできることになります。

福岡県弁護士会 公害紛争処理制度

研修のスライドより

5 終わりに

公害紛争処理制度は、各分野の専門家で構成された調停委員会や裁定委員会が、時には柔軟な対応をしながら紛争解決に向けて調停や裁定をするものであり、公害に関する紛争の解決にとって非常に有用な制度であるといえます。費用についても、申請の手数料は数千円程度であり、委員の調査費用を当事者が出す必要がないため、利用しやすい制度です。

会員専用ページの研修動画には、上記の制度の説明だけでなく、実際の解決事例も紹介されていますので是非ご覧ください。

これから、騒音や振動、悪臭など公害に関する相談を受けた時には公害紛争処理制度の利用をご検討いただけると嬉しく思います。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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