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『国際ロマンス詐欺』にご注意! 悪質サイト・国際ロマンス詐欺無料電話相談(10月5日実施)のご報告

カテゴリー:月報記事

消費者委員会 委員 井口 夏貴(61期)

無料電話相談会を行いました!

消費者委員会の企画により10月5日(火)午前10時から午後4時まで、悪質サイト・国際ロマンス詐欺の被害に関する無料電話相談を行いました。

国際ロマンス詐欺ってなに?

みなさんは、「国際ロマンス詐欺」をご存知でしょうか。

今年6月、兵庫等の4県警が、「国際ロマンス詐欺」グループ指示役とみられる外国籍の男を逮捕したとの報道がありました。

報道によれば、男は、今年3月、他のメンバーと共謀して、イエメン在住の韓国人医師と偽り、女性に「あなたは理想の相手だ」「新型コロナウイルス対応で大変な日本の医療機関に寄付したい」とSNSで虚偽のメッセージを送るなどし、現金の配送料や遅延金名目で約370万円を詐取したという被疑事実で逮捕されたようです。

上記のように、「国際ロマンス詐欺」とは、SNSやマッチングアプリなどインターネットで知り合った(自称)外国人と親しく連絡を取り合ううちに、様々な名目で送金を迫られるというものです。

国民生活センターは、昨年2月13日付報道発表で、「-愛のギフトを受け取ってほしい!?- それってもしかして「国際ロマンス詐欺」?」と題して、注意喚起を行っています。

上記発表によれば、消費生活センターへの相談は、2018年末頃から見られたようです。

送金の名目はいろいろありますが、荷物等を送るので代わりに受け取ってほしいと言われ、受け取る際に通関料や運送保険料などの料金を請求されるというものや、近時では、結婚資金作りのためなどとして投資を勧誘し、暗号資産などを送金させられるというものも急増しており、国民生活センターも、今年2月18日付で「出会い系サイトやマッチングアプリ等をきっかけとする投資詐欺にご注意を-恋話(コイバナ)がいつの間にかもうけ話に-」という発表を行って、注意喚起しています。

相手方とはSNSだけのやり取りしかなく、加害者の特定が困難であり、また、海外送金や暗号資産での送金をしてしまうと、その後の追跡も難しいということで、現状では、注意喚起して、送金の手前で被害者に気づいてもらう以外に有効な対策がないところです。

しかし、被害者には恋愛感情があり、相手方に騙されているという自覚を持ちにくく、周囲の注意にも耳を傾けにくいという状態にあることもしばしばであり、未然に被害を防ぐのも簡単ではありません。

そこで、消費者委員会は、今回、注意喚起と被害実態の把握、場合によっては被害の回復につなげることを目的に、国際ロマンス詐欺に関する無料電話相談を企画し、実施しました。

あわせて、新型コロナウイルスの感染拡大の状況下で、インターネット上の取引利用が増えたためか、悪質サイトによる被害の相談も増加傾向にあることから、悪質サイト被害についても、相談対象としました。

相談の結果

今回の無料電話相談は、事前に西日本新聞と朝日新聞に記事を掲載していただいたということもあり、合計11件の相談を受け付けました。

内訳としては、ロマンス詐欺類型が4件、その他の投資詐欺類型が2件、ロマンス詐欺ではありませんが国際貨物の運送保険料名目での詐欺類型が1件、ギャンブルの必勝法詐欺1件、インターネット求人広告被害1件、その他2件でした。被害金額が数百万円に及ぶものも、複数ありました。ロマンス詐欺や投資詐欺の6件のうち、3件は決済手段が暗号資産でした。

ロマンス詐欺、投資詐欺のいずれも、FacebookやLINEで知り合い、その後、LINEでのやり取りを通じて、最終的には投資資金名目で送金をさせられており、投資の結果が良好であるように見せかけられ、次々にお金の追加投資を勧誘され、出金しようとすると手数料や税金を支払わないと出金できないなどといわれて、お金が戻らない、という構造のほか、SNS以外のつながりがなく、加害者の特定が困難という点が共通していました。

今回の相談で見えてきたこと、感じたことなど

今回の相談結果は、近時、SNS等から投資詐欺につながる事案が急増しているという上記の国民生活センターの発表を裏付ける内容となりました。

LINEなどのSNS以外の連絡手段がないにもかかわらず、相手方を信用し、多額の金銭を支払ってしまう、というのは、奇異にも思えますが、IT化の進展に伴い、SNSを介した交流が一般的となり、SNS以外では現実に会ったことがない人ともつながりがある(と思っている)のが昨今それほど珍しくないことを考えると、このような傾向が止むことはないのではないかと考えています。

また、暗号資産という匿名性の高い決済手段の利用は、今後、ますます一般にもなじみとなっていくと思われ、消費者被害が発生した場合を想定して、救済のために法律等による規制が必要ではないかと感じました。

なお、一つ意外だったのは、送金先に、調査がある程度可能な国内の金融機関口座が指定された例もそれなりにあったということです。おそらく、不正に売買された口座が利用されており、容易に加害者にはつながらないと思われますが、口座の入出金状況から何らかの追跡が可能な場合も考えられ、このあたりを突破口にできる場合もあるのではないかと感じました。

注意喚起にご協力をお願いします

上記のとおり、ロマンス詐欺の類型は、いったん被害に遭うと回復が困難です。この記事を読まれたみなさまにも、周囲の方への注意喚起にご協力いただければと思います。

国際ロマンス詐欺については、国民生活センターのウェブサイトに注意喚起用のチラシが掲載されていますので、適宜ご利用いただければと思います(下記URLを参照ください。)。
http://www.kokusen.go.jp/mimamori/pdf/shinsen375.pdf

福岡県弁護士会『国際ロマンス詐欺』にご注意! 悪質サイト・国際ロマンス詐欺無料電話相談(10月5日実施)のご報告

弁護士に会ってみよう!

カテゴリー:月報記事

法科大学院運営協力委員会 委員 古賀 祥多(69期)

盛況でした!

2021年(令和3年)8月23日、福岡県弁護士会館にて、「弁護士に会ってみよう!」をオンラインで実施しましたので、ご報告します。

本企画は、当初、裁判傍聴をした後、会館に集まって直接弁護士と懇談するという企画で、中高大学生を対象に参加者を募集していましたが、多くの方の参加申込があり、開始前から大盛況でした。しかし、誠に残念ながら、7月下旬頃より新型コロナウイルスの感染者数が増大し、8月になっても勢いが衰えることなく、ついには8月20日より福岡に緊急事態宣言が発出されたため、裁判傍聴企画を中止し、弁護士との懇談企画もすべてZoom形式で実施するなどして、リアルでの企画をすべてオンライン企画に切り替えざるを得ないこととなりました。

ただ、急遽オンライン開催に変更になったにもかかわらず、当日は、27名の方に参加いただき、大変盛況となりました。

第1部 弁護士に聞いてみよう!

まず、第1部として、佐渡麻奈美委員の司会のもと、稲場悠介委員長、中谷正太事務局長、山之内明委員の3名の対談方式で、弁護士の仕事のことや、弁護士になるための流れ等について説明がありました。

今回の登壇者委員は、弁護士経験がそれぞれ12年、5年、2年で、若手から中堅という構成となっており、自身のこれまでの経験等から、弁護士の仕事を魅力的に語っていました。たとえば、仕事内容や忙しさについては、登壇者の弁護士経験年数や、事務所での立場(イソ弁なのかどうか等)も異なっていて、若手のときは忙しくて仕事が大変だが、ある程度弁護士として経験すると少しずつ変わっていったりするといった具体的な話もされました。

また、各登壇者から、弁護士を目指そうとしたきっかけ、弁護士を目指そうと思った時期について話があり、大学学部生のときに法律家を目指そうと思った登壇者もいれば、小学校のときや、子供の頃に弁護士を目指そうと考えたという登壇者もいて、それぞれの目指すきっかけはさまざまで大変興味深く思いました。

さらに、事務所に弁護士が何人いて、どんな感じで仕事をしているのか、といった具体的な話もされました。

途中、実際に弁護士になるための方法について、法科大学院と予備試験などの司法試験受験資格に関する制度や司法修習制度について、委員より説明がありました。アンケートを見てみると、具体的な進路のことはあまり知らなかったので、今回の企画で大変勉強になりました、というご感想がありました。

最後に、司会より弁護士はオススメの職業なのか、と聞かれたとき、登壇者全員が、オススメの職業です!とハッキリと回答していたのが印象的でした。

第2部 弁護士と話してみよう!

次に、各参加者と弁護士がいくつかのグループに分かれ、個別の小グループでの質問タイムが開かれました。私も、松井仁副委員長とともに5名の学生と話をしました。各参加者からは、なぜ弁護士になったのか、弁護士の仕事で失敗したことやつらいことはあるか、弁護士になる前にどんなことを勉強しておけば良かったと思うか、といった話や、企業内弁護士はどんな仕事をしているのか、といったことまで、様々な質問を受けました。

私は、あまり含蓄のある話ができませんでしたが、これまでの弁護士経験のなかで経験したことなどをお話しました。たとえば、弁護士は依頼者に寄り添って、依頼者に近いところで事案の問題点を探し出し、裁判官を説得する、そして説得活動が功を奏し、こちらの言い分を理解してもらうことができたときはやりがいを感じる、もちろん、ときには弁護士が一生懸命やっていても依頼者から強くあたられるときはあるが、それは自分を信頼してくれていることの裏返しと思って、自分を励まして仕事をする、というような話をしました。

松井副委員長は、非常に魅力的で、とてもためになる話をされていました。たとえば、参加者より「日弁連とは何か」という質問をされた際、弁護士自治・弁護士の独立について、他国と比較しながら、端的に、かつ、わかりやすく丁寧に説明されていました。また、松井副委員長が、これまでの実務家経験の中で、先輩の実務家から聞いた話をされて、「裁判官になるには世間を知らないといけない。世間を知らないまま裁判ができるのか。」といった話や、「負けたときに感謝される弁護士を目指しなさい」といった格言を聞くことができました。さらに、ADRのことや、組織内弁護士(企業・自治体)のことなど、弁護士が様々な場面で活躍していることを、具体的な場面に触れながら、かつ、その魅力にも触れながら話をされていて、私自身、非常に勉強になるとともに、弁護士の魅力を再確認することができました。

今度はリアル企画で!

本企画実施後のアンケートでは、参加者の方より、「普段知ることのできない弁護士の仕事を具体的に知ることができて勉強になった」「直接弁護士の方とお話ができて法曹への興味がでてきた」といったご意見を多数いただきました。きっと、今回本企画に参加していただいた皆様には、「弁護士」という仕事の魅力を知っていただけたのではないか、と思います。私も、今回、本企画に出席し、弁護士のことを知らない学生に対して自分の仕事について話をしたり、あるいは、他の弁護士の仕事のことについて話を聞いたりすることができ、あらためて「弁護士」という仕事がどんな仕事なのか、再確認することができました。

ただ、今回、緊急事態宣言により当初の企画を中止・変更せざるを得なかったのは心残りでした。特に、参加者の中には、裁判傍聴を心待ちにしていた方々が多数いらっしゃっていたようで、私が第2部で参加したグループのメンバーだった5名の方は、全員、実際に裁判傍聴をしてみたいというご意見でした。また、本企画のアンケートでも、緊急事態宣言のなかで本企画が実施されたことについて感謝の言葉をいただいた一方で、やはり直接弁護士と会って話を聞きたかった、裁判傍聴企画が実施されなかった、というご意見も寄せられました。

昨年から続く新型コロナウイルスの流行により、直接面談での企画がなかなか難しい中、オンライン会議システム等を利用して実施することにより、様々な企画を実施することができるようになりました。しかし、他方で、やはり直接会って見聞きすることができる企画には普遍的なニーズがあるものと実感しました。

今年は残念ながらオンライン開催となりましたが、新型コロナが沈静化した後、改めてリアルでの企画を実施したいと思いました。

委員会の一冊 番外編 広報委員会からの一冊

カテゴリー:月報記事
うさこちゃんとたれみみくん
広報委員長 服部 博之(57期)
ディック・ブルーナ 作、松岡 享子 訳
福音館書店 2007年

私は、ミッフィー(nijntje、miffy、うさこちゃん)が好きである。ミッフィーと生みの親であるディック・ブルーナを語るには、いかに月報製作責任者として与えられた権限を逸脱・濫用しても足りぬところではあるが、きっと、ミッフィーとブルーナの偉大さは、皆が認めるものであろうと信じる。ブルーナは、ミッフィーをはじめとし、たくさんの作品を世界に生み出し、2017年2月に89歳で逝去した。人の命には限りがあり、惜しむべきものであるが、生み出した作品は永遠である。

私のようなミッフィー好きの公言者も少なくはないが、実は口には出さないまでも実はミッフィー好きであるとの人は、おそらく会員が考えているよりももっと多い。毀誉褒貶あることはキャラクターの宿命というべきものであるが、少なくとも私は「ミッフィーが嫌いだ」という人を見たことがない。また、ミッフィーを描けないという会員もきっといないであろう(一定の絵心があれば格別、私のように絵心がない者は、「うさぎ」を描くことになれば、きっとミッフィーの特徴である長い耳・2つの目と「×」(この「×」はうさぎの「鼻と口」が表現されたものである。)を描くことになろう。)。さらに、ミッフィーとの一切の接触を断って、人生を送ることは不可能であると言っても過言ではない。特に、子育ての過程においては、ミッフィーは常に生活の一部となる。思い返してみると、私のミッフィーとの出会いも、物心が付く前、兄からのお下がりのタオルケットにミッフィーが描かれていたというものであった。

ブルーナの数多くの作品の中で1冊に絞ることは難しいことであるが、弁護士会の月報ということもあり、ここでは「うさこちゃんとたれみみくん」を挙げておくこととする。ミッフィーは常に正面を向いて語りかけてくる。ミッフィーには大人となった今だからこそ感じるべきものがある。

ノルウェイの森
前委員長 桑野 貴充(55期)
村上 春樹 著
講談社 1987年

「ノルウェイの森」にまつわるアレコレ
「この1冊を」と問われてこれを選ぶのは、余りにも「ベタ」な選択と言われそうで気恥ずかしくもある。それほどの大ベストセラーであるが、今までに一番読んだ本がこれなのだから仕方ない。初めて読んだのは中3か高1の頃だったと思うが、その後少なくとも20回以上は読んだし、学生のときには英訳本も読んだ。ただ、何度も読んで原文が殆ど頭に入っていたため、読んでいるそばから原文が頭に湧き出てきて、全く英語の勉強にならなかったのを覚えている(因みに、その次に読んだ回数が多いのは「羊をめぐる冒険」で、これも20回は読んだと思う。どうやら私は村上春樹が好きなようだ。)。

この本が発売された当時、本の帯には「100%の恋愛小説」と書かれていたが、私は、作者のことを堂々と本音を書くような人だと思っていなかったので、むしろこの本は恋愛小説ではない、恋愛小説の形を借りて別のテーマに取り組んだ小説だと受け取った。そう思って読み進めると、いわゆる羊3部作や「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」などのそれまでの作品に連なるテーマが扱われているように読めて、そのテーマからさらに1歩前に踏み出そうとしていると感じたものであった。もちろん、それまでの作品のテーマというのも、作者による公式見解があるわけではなく、私が勝手に感じたものに過ぎないが。ここでこれらの小説の解釈論を語りだすと、とてもではないが誌面が足りないし、私の解釈など誰も興味がないと思うので、ここでは踏み込まないでおく。

主人公は大学生となり上京して、とある学生寮に入るが、この学生寮は実在する(大学、出身地を問わず入寮可能)。そして、私も大学入学当初、親からこの寮に入れられた(因みに、当会の某会員は寮の先輩で、弁護士になって再会した。)。「入れられた」と書いたのは、本当は一人暮らしをしたかったのだが、スネをかじらせてもらう手前抵抗もできず、渋々入寮したからである。入寮後間もなく、寮の先輩から「ノルウェイの森は読んだことあるか?」と問われ、「一番の愛読書です」と答えたら、「ここは、あの小説に出てくる寮だ。村上春樹もここにいたらしい」と聞き、とてもとても驚いた。親の言いつけには従ってみるものだなとも思った。私が学生のころには毎朝の国旗掲揚はなかったが、隣のホテル(かの有名な椿山荘)が夏に蛍を放していたような記憶はある。かといって、隣のホテルから蛍が飛んできたというような心温まる出来事はなかった(因みに、このモチーフは「蛍」という短編小説で先に書かれ、これを下敷きにノルウェイの森は書かれた。)。

主人公は2年ほどで退寮し、吉祥寺の郊外に引っ越すが、私は8か月ほどで退寮し、吉祥寺のわりと街中に引っ越した。主人公を意識したわけではなかったが、偶々そうなった。偶然だが小説の世界をトレースしたようで、今振り返っても不思議な感じがする。

このようなこともあり、この小説の背景については、時代は異なるものの妙にリアルに感じることができる。これも、この小説が私を捉えて離さない理由かもしれない。村上春樹の最近の小説は繰り返し何度も手に取ることはないが、初期の作品群は今も折に触れ読み返す。おそらく、これからもそうだと思う。

チューダー王朝弁護士 シャードレイク
副委員長 松本 幸太(61期)
C・J・サンソム 著/越前 敏弥 訳
集英社文庫 2012年

私からは、弁護士モノをご紹介。
とはいっても、我々弁護士の日常が描かれているとか、裁判の様子が忠実に再現されている、といった類のものではなく、「チューダー王朝」という冠のとおり、歴史小説になります。ちなみに、著者は、作家になる以前は弁護士(ソリスタ)として活動していたそうです。
物語は、かの有名なヘンリー8世(チューダー朝の第2代イングランド王。6人の妻を娶り、離婚したいがために宗教制度を変えたという話が有名で、童話「青髭」のモデルという説もありますね。)の時代が舞台です。

ヘンリー8世の側近であるトマス・クロムウェルの命令で、主人公のマシュー・シャードレイクは、ある修道院で起きた殺人事件の調査を開始します。しかし、その命令の裏で、修道院を解散することを修道院院長に承認させるようにとの密命をクロムウェルから与えられたシャードレイク。

様々な欲望が渦巻く修道院や、陰鬱で生々しい時代背景。王政の財政回復のために修道院を解散させ、その土地・財産を没収したという史実。弁護士として有能ではあるものの、障がいを持ち、決して華やかではないシャードレイクの人間臭さ。女性から少し優しくされるだけで、「自分に好意を持っているのでは!?」と勘違いする、奥ゆかしくもチャーミングなシャードレイク。魅力的な脇役やセリフの妙。

最初は読むのに時間がかかりましたが、読み進むにつれ、臨場感ある当時の時代背景の描写にはまり込み、正しくありたいと思いつつも当時の価値観に制約され葛藤するシャードレイクの心の揺れ動きを感じ、読み終わると、なんとも言い難い、複雑な気持ちになります。
また、一冊では物足りない読書家の皆様には、続編として、「暗き炎-チューダー王朝シャードレイク」(またもクロムウェルからの命を受けて頑張るシャードレイク)、「支配者-チューダー王朝弁護士シャードレイク」(クロムウェル失脚後の話。表紙はヘンリー8世です。)が刊行されており、さらにイギリスでは、第7部まで続編があり、読み応えは十分です。残念ながら日本語翻訳版は第3部までしか刊行されておらず、翻訳を待ち望んでいる日本の読者は少なくありません。

イギリスの歴史が好きな人もそうでない人にも、秋の夜長におすすめの一冊(シリーズ)です。

あさかぜ基金だより

カテゴリー:月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員 石井 智裕(72期)

○先輩弁護士

あさかぜ基金法律事務所は、平成20年9月22日に設立された事務所です。

設立以来あさかぜ基金法律事務所には29人の弁護士が入所しました。

このように、たくさんの先輩弁護士がいることがあさかぜ基金法律事務所の良いところと思っています。

○共同受任

他の弁護士から紹介を受けた事件のうち、その2割から3割があさかぜ基金法律事務所の先輩弁護士からの紹介事件であり、共同受任をして事件処理を進めています。

その中で、依頼者にどのように伝えればわかりやすいのか、書面で強調すべきポイントは何かなどを教えていただき、また議論を掘り下げるようにがんばっていています。

○所内研修

あさかぜ基金法律事務所では、事務所独自の研修(あさかぜ研修)で先輩弁護士の事務所を訪問することがあります。

最近では、ひとよし法律事務所の中嶽修平弁護士や豊前総合法律事務所の西村幸太郎弁護士には事務所を開設する準備や事務所経営を軌道に乗せるための工夫、そしてどんな苦労をしたのかについて、話を聴きました。

このように、先輩弁護士が実際に過疎地でどのようにして開業し、事務所を運営していったのか知ることができることによって、近い将来の私自身の過疎地への赴任に向けて具体的なイメージを持つことができます。

○保管記録の活用

あさかぜ基金法律事務所には先輩弁護士の事件記録が残っています。この記録を見ることが事件を進めていくうえで参考になっています。

たとえば、私が入所してすぐのころ、破産申立書の書き方について、所内のチェックを受けたとき不十分だという指摘を何回も受けました。それで私は、過去の事件記録を読んで破産申立書の書き方を一生懸命に勉強しました。

また、少年事件を初めて受任したときは、服部晴彦弁護士のデータにあった検討事項書をみることができ、何を検討しなければならないのか、いつの時期までにどのような活動をしなければならないのかを把握することができました。さらに、古賀祥多弁護士が残していった記録には事件をどのように進めたかが細かく書かれていて、どのように事件を進めていけばよいのか、どんな点をポイントとすべきなのかを具体的につかむことができました。

○所内ゼミナール

今年度から新しく運営委員の光安正哉弁護士や井口夏貴弁護士が主催するゼミナールが所内で開かれています。

第1回のゼミでは、交通事故の証拠収集の方法、民事保全の手続について学びました。第2回、第3回のゼミでは、要件事実の整理をどのように訴状や準備書面で活かすかということを解説してもらいました。

○先輩弁護士とのつながり

あさかぜ基金法律事務所は指導担当弁護士など事件紹介をしてくれる弁護士だけではなく、これまで在籍していた先輩弁護士のつながりが強く、先輩弁護士の尽力により支えられている事務所です。

セミナー「この人に聞く コロナ時代に打ち勝つ経営」

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中小企業法律支援センター 委員 山本 恭輔(71期)

1 はじめに

令和3年7月20日、株式会社タケノ代表取締役・竹野孔氏、エンドライン株式会社取締役・石谷莉沙氏のご両名を講師としてお招きし、「この人に聞く コロナ時代に打ち勝つ経営」との題でご講演いただきました。本セミナーは、「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」の一環として行われたものです(詳しくは後記2をご参照ください。)。本年は、新型コロナウイルス感染症の影響により、エルガーラホール7階中ホールを主会場としつつ、Zoom配信も併用する形で開催されました。

本年は、中小事業者の方々をはじめ、大企業の社員の方、弁護士や隣接士業の先生方などから多数のご参加を賜り、会場参加が約70名、Zoomによる参加が約30名と、合計約100名程度にご参加いただく盛況ぶりとなりました。

本稿では、本セミナーの内容と、本セミナーに関連する中小企業法律支援センターの取組みについて報告いたします。

2 「一斉シンポ」について

中小企業法律支援センターでは、例年、日弁連の要請により、全国の弁護士会と共に「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」を開催してきました。

中小企業庁は、令和元年より、中小企業基本法の公布・施行日である7月20日を「中小企業の日」としましたので、昨年からはこれに合わせ、7月に「一斉シンポ」が開催されています。本年は、「中小企業の日」当日、7月20日に開催することができました。

伊藤会長の開会挨拶

伊藤会長の開会挨拶

3 セミナーの内容

本年は、新型コロナウイルス感染症の影響が継続している状況に鑑み、中小企業の方々に実践的にお役立ていただくため、実際にコロナ禍と闘いながら企業の舵を取られている経営者の方々にご講演いただくというコンセプトで、標記のようなタイトルにてセミナーを実施することとなりました。

私も参加のうえ拝聴して参りましたで、以下にそれぞれのご講演内容を私の雑感と共にまとめさせていただきます。

(1)第1部(竹野氏ご担当)

第1部は、「博多ぐるぐるとりかわ」などが人気の居酒屋「竹乃屋」をはじめ、福岡県を中心に12業態44店舗を展開する飲食チェーン、株式会社タケノの竹野孔社長にご登壇いただきました。テーマは、「コロナ時代に打ち勝つ経営」です。

同社は、酒類を提供する飲食事業を中心とするため、やはりコロナ禍で業績は大きく落ち込んだとのことです。竹野氏は、誰にも答えが見えず、勘に頼らざるを得ない意志決定の連続であったとこれまでのコロナ禍を振り返りました。その中で、竹野氏が改めて思ったこととして、①内部留保と金融与信による事業継続力の強化②お客様、ご縁のある方の支え③業態と業種の多角化によるリスクヘッジ④事業継続計画(BCP)の策定等による危機管理といった4点の重要性を挙げられました。

このうち、③の「多角化によるリスクヘッジ」については、株式会社タケノでの取組みをかなり具体的にご紹介いただき、掘り下げてくださいました。同社は、竹野氏のモットー「完璧よりもスピード」にのっとり、この一年でなんと6つの新規事業を立ち上げたそうです。元々の主軸であった店舗事業、店舗事業に付随した農業事業に加え、通販事業、催事事業、食物販事業、発酵食品事業、FC事業、ヘルスケア事業を立ち上げることで、コロナ禍に対応できる多角化体制を目指されていることが理解できました。元来事業の中心であった店舗事業についても、売上げの苦戦による撤退だけでなく、コロナ禍の中、過去最多の出店計画を立てており、本年上半期だけで9店舗をオープン済みで、以降も16店舗をオープン予定とのことです。このお話を最初に伺った際には、コロナ禍の影響で赤字が拡大するかもしれない中、積極路線をとることに驚きました。しかし、竹野氏からは、スクラップアンドビルドによる事業の再構築であるとの説明があり、コロナ禍への対応、そしてその先を見据えた経営戦略なのだと得心いたしました。

最後に、「人生もビジネスもご縁、出会いで決まる」「挑戦すれば答えは二つ 成功か学びか」の二言と、「まだまだ当社は大変な状況だが、この挑戦の答えは1年後に出る。挑戦しなければ失敗はないが、成功も学びもない。」という熱いメッセージにて、セミナーは締めくくられました。

全体を通して、コロナ禍で苦境に立たされながらも挑戦を続ける竹野氏の姿勢が印象的で、聴いているこちらも前向きになることができるセミナーでした。このようなセミナーで、コロナ禍で試行錯誤する企業の実態を知ることは、企業と接する弁護士業務にも役立ちますし、竹野氏の経営に関する視点は事務所経営にも活きてくるように思われます(「完璧よりもスピード」などは、何事もつい二の足を踏んで後回しにしがちな私にとって胸に刺さるお言葉でした。)。竹野氏は、終始ユーモアを交えながら語る一方で、お世話になった方とのご縁の話題になるとやや感極まられるなど、まさに笑いあり涙ありのセミナーになり、会場も非常に盛り上がっていた印象でした。

コロナ禍の振返りをされる竹野氏

コロナ禍の振返りをされる竹野氏

(2)第2部(石谷氏ご担当)

第2部は、エンドライン株式会社取締役の石谷氏に講師をご担当いただき、「コロナに打ち勝つ 超アナログ会社のDX実践術!!」をテーマにセミナーが行われました。「DX」とは、Digital Transformationの略で、ITの浸透が人々の生活をより良いものへと変化させるという概念のことです。

エンドライン株式会社は、「モリアゲアドバイザー」をキャッチコピーに、住宅・工務店・各種店舗の集客サポートや、スポーツ会場の装飾などを手掛ける会社です。石谷氏は、今回のセミナーでもまさしく「モリアゲアドバイザー」として、同社商品であるのぼり旗を背負って登壇され、会場は大いに沸きました。

同社は、かつてはあらゆる資料を紙媒体で管理し、人事評価は社長次第という「超アナログ会社」だったそうです。しかし、書類の管理が負担になること、出張・外回りで業務が滞る不便さから、ペーパーレス化などITを活用した業務改善を平成29年頃からスタートさせました。その結果、昨年の新型コロナウイルス感染症の流行を受け、昨年4月・5月を完全在宅勤務にするなど、スムーズにコロナ禍に対応できたということでした。

セミナーでは、エンドライン株式会社でのDXに関する取組みを、具体的に多数ご紹介いただきました。一例を挙げると次のとおりです。

  1. 社内コミュニケーション
    会議をオンライン化することはもちろん、次のように在宅勤務に対応している。

    • 社員各自のスマートフォンからの発信で会社の電話番号を相手に通知し、電話代は会社に請求されるアプリを活用する→在宅でも電話対応が可能に。
    • 在宅での業務依頼・管理依頼には、内容と期日が表示されタスク管理が可能になるアプリを利用。
    • 様々なデザインの「サンクスカード」を贈りあうアプリの導入→社内コミュニケーションが希薄になるという在宅勤務の難点を緩和。
  2. 営業活動
    商談のオンライン化、電話代行や名刺管理アプリの活用をはじめ、営業資料をクラウドで共有するなどしている。
  3. 勤怠管理
    システム上で出社退社の打刻ができ、残業・有給申請にも対応したアプリを導入し、在宅勤務に対応している。
  4. 経費申請
    領収書をスマートフォンで読み取って経費申請ができるアプリを活用している。
  5. 人事評価
    評価のポイントを決定して公開し、各々のポイントについての従業員の自己評点、評価者による評点と評価の理由を相互に「見える化」することで、在宅でも公平な評価を実現している。

以上のほか、SNSによる情報発信についても簡潔にご紹介がありました。

ITの導入に関する話題でしたが、石谷氏は、まったく小難しくなることなく、全体を通して明るく楽しくお話してくださいました。内容としても、機能が完成されたアプリをインストールして運用するという取り組みやすいものが多く、IT化の遅れが指摘されている弁護士にとっても、大変役立つセミナーだったと感じました。個人的には、「IT化=効率化」というイメージを持っていましたが、人事評価をIT化することで公平さを担保できるといった視点が特に興味深かったです。

のぼり旗を背に講演される石谷氏

のぼり旗を背に講演される石谷氏

4 セミナー終了後のイベントについて

本セミナー終了後には、質疑応答が行われました。竹野氏にはメニュー開発やマーケティングの裏側、石谷氏にはIT化の際の社員からのハレーションなど、踏み込んだ内容にもお答えいただき大変ありがたかったです。

その後、株式会社日本政策金融公庫の中嶋氏より、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」につきご案内いただきました。

当会からは、当会の本年5月27日付け「中小企業・小規模事業者の経営を支援することにより、経営者、従業員とその家族の生活、取引先の経営を守る宣言」を紹介し、セミナーは閉会となりました。

セミナー閉会後は、無料法律相談会が開催されました。会場には4つのブースが設置されていたところこれが満席となり、Zoomでも4件の相談をいただくなど、多くの方々が活用してくださいました(私も法律相談員を担当させていただき、とても勉強になりました。)。

5 おわりに

以上のとおり、本セミナーは、中小事業者の方にとっても弁護士にとっても、大変有意義なものになったのではないかと考えております。

私自身も、本セミナーで得た知見を活かして、今後の中小企業支援に還元していきたいと考える次第です。

満席の会場の様子

満席の会場の様子

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