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拡がれ!『法教育』の輪! ~懸賞論文で優秀賞を受賞しました!~

カテゴリー:月報記事

法教育委員会 委員 春田 久美子(48期)

1 懸賞論文に応募した経緯
私は、法務省が昨年初めて実施した「法教育懸賞論文」に応募し、平成23年1月、思いがけず、優秀賞を受賞しました。
テーマは「学校現場において法教育を普及させるための方策について」。この懸賞論文の存在を知ったのは、応募締め切りが約2週間前に迫ったころでした。偶然見かけた法テラスの広報誌(ほうてらす)の裏表紙にあった「締め切り迫る!!」「学校現場において法教育を普及させるための…」との文字が目に飛び込んできたのです。当時、手詰まり感を感じていて、ずっと何か法教育を拡げていくためのアイディアはないかな~と考えていたので、私は、これまでにやってきた活動を振り返りつつ、とりあえず自分が思っていることをまとめる良い機会だと思い、応募してみることにしました。

2 法教育と私
私が小学生を含む学生さんの相手をするようになったのは福岡地裁小倉支部に左陪席として働いていたときのことです。福岡地裁本庁を始め、裁判所全体が(一般の市民向けの)”広報”というものを意識し始めた頃だったと思います。初めのうちは、一体何をやったらいいんだろう、という感じでしたが、本庁にいらっしゃった広報上手な職員の方にアイディアを色々教えていただいたり(模擬裁判の体験と子供たちとの質疑応答・お話など)、他の庁の子供たち向けの取り組みの工夫例を色々調べたりするうちにドンドン楽しくなっていきました。一番忘れられないのは、小学校3年生くらいの子供たち10数人を担当したときのことです。引率をされた女性の先生が(感動しました!ということで)、後日、子供さんたちの可愛い感想文を郵便で届けて下さったのです。簡単な模擬裁判をやってみたのですが、『検察官と弁護人の言い分を聞いていると、どちらもそう思えるところがあるから、どうしていいかますます分からなくなりました…』という感想が忘れられません。また、時間内には出来なかった質問等も書かれていたので、嬉しかった私は御礼も兼ねて返事の手紙を出しました。今でもそのときの感想文は私の宝物です。もう一つ、私が法教育というものを続けていこう、と思ったエピソードがあります。毎年5月位に、最高裁判所の裁判官が全国各地の裁判所を訪問する、という企画があるのですが、山口繁裁判官がお見えになった際、昼食会の席上で予定の話題が意外と早く終わってしまったため、支部長が突然、私に話を振り「子供さん向けの相手をしている判事補です」と私に何か話をするよう向けられたのです。私はドキドキしながら活動の様子を報告したのですが、その後、山口裁判官が各裁判官室を回って来られた際、「さっきの方ね。これからは、若い人向けの裁判の世界の紹介、是非お願いしますね。」とお言葉をかけていただいたのです。あ~やっぱり大切なんだ、この活動は!と素直に嬉しく思えました。

3 論文に書いたこと
論文には、法教育にはどのような意義があるのか、どういう魅力が詰まっているのか、その有意義さと楽しさを踏まえ、それなのに学校現場(教師の方々)になかなか拡がっていかない理由は何なのか、などを私なりに考え、それを解消するためにやった方がいいと思うことを先ず書きました。そして、やはり、具体的に、じゃあ、どんな風に意味があるの?という疑問に応えるべく、授業例の紹介や、授業で取り扱う際の切り口の数々を思いつく限り書いてみました。自分の中で、クライマックスの部分は、NIE(教育現場に新聞を)とのコラボレーションの部分です。法教育の意義は、その捉え方によって様々あるようですが、詰まるところは、民主主義を支える将来の子供たちを育む、という点でNIEが目指すところと一致すると思えたのと、コラボ出来れば、メディアを介して法教育自体も拡がっていく可能性に魅力を感じたのです。

4 応募と発表、そしてその後
締め切り直前の日、もうキリがないよね、と事務員さんとも話して、論文を取り上げられ(!)、中央郵便局に速達で出しに行ってもらいました。発表は12月下旬となっており、御用納めの日までに何も連絡がなかったので、ダメだったのかな~と思っていたら、年明け、少年鑑別所での面会を終えて帰ってくる途中、携帯に電話がありました。最優秀賞(1名)と優秀賞(2名)の受賞者は、法務省にて授賞式が行われることになっていました(平成23年3月15日)が、東日本大震災の発生直後だったため急遽取りやめになりました。ですが、この受賞をきっかけに、色々なところから法教育について何かを書かせていただいたり、メディア(特に新聞)からの取材を受ける機会が増え、学校現場の先生方や教育委員会等に法教育についての広報に伺う際、一つの話題とすることが出来るようになったことは嬉しいことでした。

5 法務省でお話してきました
平成23年11月4日(金)、法務省の「法教育推進協議会」というところに招かれ、法教育の取組みについてお話をさせていただく機会を得ました。論文を書いてからちょうど1年が経っていましたので、当会の法教育の車の両輪としての”法教育センター”と”法教育研究会”の活動内容を含め、今、直面している課題等についてもお話してきました。
法教育、と一口に言っても、法務省・裁判所、そして司法書士等の隣接業のそれぞれが法教育に取り組んでおり、学校現場の先生方にとっては選択肢があり過ぎるように受けとめられ、何と言っても”何だか難しそう…”と思われているのが現状です。私自身は、今、日本全体で問題になっている、子供たちの言語能力の向上や対話力、コミュニケーション能力のスキルアップの観点からも、この法教育は有用なのではないか、と信じており、さらには、立場が異なり利害がシビアに対立する場面で普段仕事をしている私たち弁護士だからこそ伝えられる何かがあると思っています。その魅力を、法教育研究会に集まってきて下さる学校現場の教員の方々等と一緒に知恵を出し合い、良い教材を開発しながら、今後も地道に伝え続けていこうと思っています。

6 結びにかえて‐会員各位へのお願い
お子様を学校に通わせていらっしゃる世代の会員の皆さま、子育てはもう終わったけれど、教員に知り合いがいらっしゃるという皆さま、私たち法律家が日ごろから思っている知恵などを子供たちにも伝えたいという理念に共感して下さる方、PTA役員である方はもちろん、顧問先として学校現場の先生方にお知り合いがいらっしゃる皆さま、どうか、当会の法教育センターの、弁護士の出張授業のことをお知り合いの学校の先生、あるいは保護者の方に「これやってみませんか?」とご紹介いただけませんでしょうか!それを期待しまして、間もなく皆さまのお手元にレターケースを通じて法教育センターのチラシを一枚ずつお届けする準備をしています。今年度は80クラス無料キャンペーン実施中ですので、金銭面では学校の負担はありません(そこも売り込んで下さいね。)。世界一受けたい法教育の授業を開発するべく、私たち法教育委員会のメンバー皆頑張っています。福岡から「生きる力」を持った子供たちをたくさん育むため、法教育の輪が拡がっていくために、お知恵やお力を貸していただけましたら幸いです。あっ、そうそう!肝心の受賞論文は、法務省のホームページに載っていますので、ご一読いただけましたら幸いです。

◆憲法リレーエッセイ◆  筑後部会・憲法講座実行委員会 第7回 市民のための憲法講座「君が代・日の丸と憲法」(11月5日)

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会 員 木 下 宗一郎(63期)

1 はじめに
平成23年11月5日、福岡県弁護士会筑後部会会館において、憲法講座実行委員会の活動の一環として、第7回市民のための憲法講座「君が代・日の丸と憲法」が開催されました。
筑後部会の若手弁護士が「公立学校の卒業式の際に、日の丸を掲揚し、君が代を起立して斉唱することを強制するのは合憲か、違憲か」というテーマで、合憲派(田上晋一先生・吉田星一先生・渡辺麻以佳先生)と違憲派(塗木麻美先生・小松宏吉先生・木下宗一郎)に分かれ、討論をしました。

2 憲法講座の具体的内容など
全体の司会進行は寺田玲子先生が務められました。
そして、高峰真先生が開会の挨拶をされました。
さらに、永尾廣久先生がコーディネーターを務められるということで挨拶をされました。
また、寺田玲子先生より、特別ゲストとして久留米大学の日野田浩行教授(憲法学)に来ていただいているとの紹介がありました。
その後、田上普一先生及び塗木麻美先生より、合憲派・違憲派それぞれの主張に関するプレゼンテーションが行われました。
そして、討論が始まりました。
まず、合憲派は、国民の大多数は日の丸と君が代に対して、特別な感情を抱いておらず、スポーツの国際大会等において違和感なく用いられている、日の丸・君が代と思想良心の自由は関係ないなどという主張を行いました。これに対して、違憲派は、日の丸と君が代は過去の大日本帝国の軍国主義・全体主義のイメージから完全に抜け出せていない、特に植民地支配を受けたアジアの諸国の人々からすればそうである、日の丸・君が代と思想良心の自由は関係があるなどという主張を行いました。
次に、合憲派は、卒業式において日の丸を掲揚し君が代を斉唱するのは国際化のなかで自国のことや他国のことを考える教育の一環としての意味があるなどという主張を行いました。これに対して、違憲派は、卒業式と日の丸・君が代は関係がなく、様々な考え方のある日の丸・君が代を卒業式に持ち込むから卒業式が混乱するなどという主張を行いました。
さらに、合憲派は、国旗国歌法という法律ができているし、条例には職務命令違反の場合は懲戒処分を受けるというルールが明記されているなどという主張を行いました。これに対して、違憲派は、法律には敬えとか歌えとかまではあえて書かれていないし、思想良心の自由を侵害する条例は違憲無効であるなどという主張を行いました。
その後、参加者の市民の方々により、合憲派の主張と違憲派の主張のどちらが説得的であったか、投票が行われました。投票の結果は、合憲派17票・違憲派12票となり、合憲派の勝利となりました。
さらに、日野田浩行教授による解説がありました。
最後に、憲法講座実行委員会委員長の中野和信先生より閉式の挨拶がありました。
その後は、日野田浩行教授にもご参加いただいて、弁護士会のメンバーで打ち上げを行いました。市民の方にはアンケートを書いていただいており、打ち上げの場で回し読みがされましたが、ご意見としては、日の丸・君が代を強制しても合憲という方が相当多い状況でした。なお、アンケートの感想のところに、「弁護士ってカッコイイなと思いました」と書かれたものがあり、誰のことを指しているのかという話題で盛り上がりました。

3 最後に
会場に集まった市民の方は、若い方が多く、若い方でも憲法問題への関心が高いことを意外に思いましたが、安心もしました。
また、先輩や同期の先生方(上でお名前を挙げていない先生方が多数関与しておられます)と協働してひとつのイベントを作り上げていくという経験は貴重なものだったと感じています。

◆憲法リレーエッセイ◆「湯上り談義」

カテゴリー:憲法リレーエッセイ

会 員 中 野 林 豊 治(13期)

時は1945年秋ぐらいの頃、台湾台北市に居た、小学校6年生の私が体験した珍しい経験について話します。
日本のポツダム宣言受諾による敗戦で、台湾は、当時の蒋介石政権下の中華民国へ返還されることになり、その先遣隊として陳将軍指揮の中国国民軍が進駐してきました。
その頃から、台北市街には、以前には多く見かけていた日本国の憲兵や日本の警察官の姿は、ぱったりと消失したかのように見かけなくなりました。日本の台湾軍の兵たちは兵営内にこもりっ切り、街で見かける日本兵は、丸腰の疲れ切った姿で、話によると兵営を離脱した脱走兵らしいということで、たまに一人、二人見かける程度でした。
しばらくして、中華民国の黄土色の制服を着た警察官が、派出所に駐在するようになりましたが、その直前までの台北市街の生活風景にのぞき見た、日本人、台湾人、中国人を混じえた台北市民社会の「秩序」のことが本題です。
憲法を土台としたあらゆる法現象の中核をなす、「社会秩序」は、「国による統治、権力支配による秩序の維持が欠ければ、当然のことながら、崩壊し乱れることとなる」。これが私の法律を学び始めてからの大前提らしき考えでした。「統治なければ秩序なし」「権力なければ治安なし」の原理ともいえましょう。ところが、私が目にした台北市街の情景は、この大前提原理に反する事態でした。
もちろん日本語は、特別な台湾の人たち専用の例えば、龍山寺市場などを除いて、通用していました。通貨は、台湾銀行(日本側の)発行の銀行券が未だ通用していましたし、商品は、統制経済が打ち切られたこともあって、豊富で価額もはなはだしいインフレではなかったかと記憶しています。
私は、母の番犬のように買物のお伴をさせられていましたが、龍山寺市場をはじめとして、どこへ行っても日本人だからと言って差別されることもなく、自由に買物ができました。むしろ敗戦前よりは、品物も豊富で自由な暮らしができていた様に想います。
もちろん、日本人は職を打ち切られ、次々と引揚げていく順番待ちの様な生活で、経済的にも将来が不安に包まれていたと推測します。
港では、街頭トバクの掛け金を、ピストルをつきつけた元日本兵が奪って逃走した話や、戦時中に、苛酷な取調べをした元日本警察官が、台湾の人たちから吊るし上げを喰って制裁を受けていた話を、伝え聞いたことはありました。それでも、ほとんどの台北市民(日本人、台湾の人々、中国人、若干の韓国義勇軍の人たち、すべて台北の市街で生活を営んでいた人々)は、相変わらず普段どおり市場を介して、生活を営んでいました。
ふしぎに思えて仕方がありません。しかし、一定の文明段階に達した人たちでつくる社会は、一定段階の国家権力が無くても、分業にもとづき、市場を介して商品売買を循環させながら、共同生活を続けていく基礎的な関係にもとづく、経済秩序に支えられた生活秩序を保持することができる現実を目の当たりにしたのです。それが人間の歴史の実態なのかもしれません。私たちの考えや理論には、国家権力による護持があってこそ社会秩序は成り立つといった神話的感覚がこびりついているのかもしれません。ニンゲンとその営む社会、すなおに生きていく仕組みさえ生み出せば、捨てたものではないのかもしれません。きっとそうなのです。もっとニンゲンの築いて来た文明に自信をもってよいのではないでしょうか。
なお、とうとつながら、希望をひとつ。かつて福岡県弁護士会をあげて、未曾有の取組み(会員請求署名を集めて、開催された総会とそこでの決議の歴史過程)を、宮本康昭裁判官再任拒否事件と弁護士、法学者らの取組んだ姿として、どの機会かに、収録しておかないと、関係した方たちが、亡くなっていくとともに風化し兼ねないので、よろしく御配慮いただきたいと念じます。

講演会「いま、原子力発電を考える」のご報告

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会 員 中 鐘ケ江 啓 司(63期)

1 本年9月29日、天神ビル11階にて長崎県立大学講師(元・慶応大学助教授)の藤田祐幸先生の講演があり、その後、福留英資会員から原発問題と憲法上の人権の関係についての報告がありました。

2 藤田先生からは、原発の問題点として、(1)大事故の危険性、(2)労働者被曝、(3)放射性廃棄物の3点が存在するとの説明があり、それぞれについての詳細と、福島原発事故後の放射能汚染についての現状、玄海原発の問題点、今後のエネルギー政策についての講演がされました。

3 (1)については、チェルノブイリの現状と、福島第一原発の現状が話されました。福島については、汚染が沿岸部だけではなく内陸部にまで及んでおり、広い範囲でチェルノブイリの強制避難区域レベルの放射線が観測されていることや、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)での放射能拡散の試算結果から、気流にのって全国に放射性物質がまき散らされたことなどの話がありました。そして、日本政府は福島だけが汚染区域のように言っているが、EUでは「福島、群馬、茨城、栃木、宮城、長野、山梨、埼玉、千葉、東京、神奈川、静岡」の各県の出荷物につき放射能検査が行われており、これは観測データとも一致するので正確な汚染地域と見るべきとの話がありました。全県について輸入規制をかけている国も複数あるとのことです。

4 (2)については、藤田先生がライフワークにされている、原発に従事している「最下層労働者」の話がされました。原発の点検時に施設内にたまった放射性物質を除染するために日雇い労働者が大量に動員されており、多重下請け構造の下で犠牲になっているという話です。作業員に放射能計測装置は持たされるけれど、付けていたらすぐ限界になって仕事にならないので、付けずにやることになり健康を害して補償もされていないという話でした。原発が構造的に被爆者を生み出し、差別を生み出す構造になっているというのです。

5 (3)については、放射性廃棄物はガラスに閉じこめて、ステンレス筒に詰められて地中深く処分されることになっているが、無害になるまでには数万年単位の時間が必要であり、非現実的だという話がありました。この点に関して、藤田先生から処分場を巡るエピソードが話されました。藤田先生が慶応大学の助教授だった当時、東京大学の教授が3万年はこの方法で保管できると主張したのに反論して反対運動をしていると、役所の担当者が住民に対する説明会で「あちらは慶応、こちらは東大。どちらが信用できるか。」と説明しており、「どちらが正しいではなくて、どちらが信用できるか、では科学ではなくて宗教ではないか。」と思ったそうです。

6 玄海原発については、1号機の圧力容器の脆性遷移温度(金属の性質変化)が全国で一番高い98度に達しており(通常は−30度程度で、中性子があたることの劣化により温度が上昇していきます)、冷却時に破損する可能性があり、極めて危険な状態にあるそうです。

7 そして、今後のエネルギー政策について、現状から再生エネルギーなどでの代替という話は非現実的とのことで、火力発電(原発を作るときは必ずバックアップで同出力の火力発電所を設置しているので、こちらを稼働させれば補えるそうです)や水力発電の稼働率を上げること、民間の自家発電を解放して市場化を進めること、発電効率の良いコンバインドサイクルの導入を進めること、を提案されていました。

8 これらの話は、全て政府か電力会社が提供しているデータに基づいての説明であり、煽るような形ではなく淡々と説明されているからこそ、原発被害の問題が深刻だということを理解することが出来ました。

9 その後、福留会員から日弁連が原発に関して1976年から運転中止や廃止を度々求めてきたこと、原発が幸福追求権、生存権、国民主権、知る権利、居住移転の自由、財産権、地方自治の本旨など多くの憲法上の権利と関わりがあることの説明がされました。

10 今回の講演会の内容はいずれも興味深いものでしたが、その中で一番印象に残ったのは、藤田先生の「法律が扱えるのは3世代までと聞くが、放射能は数万年の単位で残る」という趣旨のお話でした。
原発の問題を、電力会社や立地自治体、周辺自治体の住民との利害調整の問題と捉えた場合、上関町の町長選で原発推進派の町長が三選したように、原発の立地自治体の住民にとっては、原発により得られる利益の方が、原発により受けるリスクを上回るということがあり得ます。
しかし、福留会員の発表にもあったのですが、原発については、放射性廃棄物や事故により実際に放射線の影響を受けるのは原発を誘致した世代以降が中心となるという特徴があります(原発の老朽化や放射性物質の蓄積、若年層ほど放射能の影響を受けやすい等)。そのようなものを現役世代の利害調整だけで決めて良いのでしょうか。
憲法上の人権については「他者の人権でなければ制約できない」などと説かれるので、その考え方だと生まれてもいない人の人権などを考える必要はない、となりそうです。しかし、憲法の判例で、ため池の破損、決壊の原因となるため池の堤とうの使用行為について、「憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外」(昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁)として何人も当然使用行為の禁止を受忍しなければならないとされているものもあります。原発についても、少なくとも福島原発の事故後は、安全性に問題があることがわかった以上、もはや原発の稼働は憲法上保障されている財産権の埒外になった…と考えることも出来るのではないでしょうか。
原発の危険性や現状だけでなく、通常の公害問題との相違点を意識させられる素晴らしい講演でした。藤田先生の講演はインターネット上でも見られますので、興味を持たれた方は是非ご覧下さい。

給費制維持緊急対策本部だより「第7回災害復興支援に関する全国協議会in神戸のご報告」

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会 員 中 村 亮 介(63期)

1 はじめに
平成23年9月28日(水曜日)午後0時から1時20分まで、参議院議員会館1階講堂で、院内集会が盛大に行われました。
院内集会には、鴻池祥肇議員、米長晴信議員をはじめ、多数の国会議員が参加され、約20名もの国会議員からのご挨拶がありました。
院内集会は、清水鳩子先生による開会宣言で始まり、その後、順に、法科大学院修了生、国会議員、大学学部生、日弁連から次々と発言がなされ、最後は、宇都宮健児日弁連会長による閉会宣言で集会は終りました。
発言の要旨は、以下のとおりです。

2 法科大学院修了生の声
アベケイイチさん(立命館大学法科大学院修了生)
自分は、宮城県仙台市出身で、今年の3月に法科大学院を修了し5月の新司法試験に向けて準備をしていた。しかし、受験の直前に震災が起き、過度のストレスのため今年の受験を断念した。その後、震災の影響で実家からの経済的援助が受けられなくなり、合格後は貸与制に移行し、就職難が待ち構えているという状況から考えて、弁護士になること自体を諦めざるを得なくなった。
貸与制になると、人のために役に立ちたいと思って弁護士になろうと思っても、裕福な人しか弁護士になれなくなる。お金のない人は、弁護士になりたいという夢を奪われる。
自分と同じような思いをする若者がこれ以上出ないように、貸与制への移行はするべきではない。

3 発言された国会議員の発言要旨
(1) 大口善徳議員(公明党)
給費制維持の問題については、3党協議も呼びかけている。法案成立に向けた時間は切迫しているが、給費制の維持に向けて頑張っていきたい。
フォーラムは、内容のない形だけの議論をしただけで、一時とりまとめをした。法曹養成は危機的な状況にある。根本的な議論の必要性がある。その議論をすることなく、財務的な問題があるからといって、貸与制にするのは、問題がある。なによりも他学部、社会人からの志望者が減っているが、このことこそ問題とするべきである。平岡大臣には、フォーラムの内容を否定して欲しい。フォーラムを継続するのであれば、根本的なところから議論して欲しい。
(2) 井上哲士議員(共産党)
フォーラムは、弁護士の5年目の年収のことしか検討していない。そもそも司法試験を受けることすら断念するという状況を全く見てないし、給費制の意義についても、検討していない。
戦後の厳しい中でも、給費制を実現したことを考えるならば、むしろ今こそ、給費制は必要なのではないか。
(3) 福島瑞穂議員(社民党)
給費制廃止は、大反対。法曹養成が借金が前提になると、日本の司法制度全体が崩れていく。
法律家養成だけの問題ではない。社会の人材育成の問題。
もんじゅは、1日5,000万円、年間200億円も維持費がかかっている。給費制のことくらいけちけちするなといいたい。
(4) 照屋寛徳議員(社民党)
法曹志望者が経済的な理由で法曹になることを断念するようなことがあっては絶対にならない。それは国家の大きな損失になる。
沖縄銀行は、琉球大学法科大学院の学生を支援して7名合格者を輩出した。民間が支援しているのになぜ国が支援しないのか。
私は、1970年から72年まで司法研修所で勉強した。家族は9人兄弟で貧乏だったが、旧司法試験ではそのような私も司法試験に合格することができた。現在のように、法科大学院修了が受験資格である新司法試験制度だったら、私は司法試験に合格することができなかった。
(5) 今野東議員(民主党)
莫大な学費がかかり借金を前提とする法科大学院に行こうとする人がいなくなっている。
そもそも、小泉時代の司法制度改革が破綻している。そのことから議論を始めるべきではないか。法曹養成制度全体のことから議論を始めるべきであり、給費制の議論はその後にするべきである。議論の順番が逆になっている。
(6) 吉田忠智議員(社民党)
法案成立に向けた日程がタイトである。厳しい状況ではあるが、給費制を見直すことには問題がある。給費制は絶対に存続していかなければならない。
(7) 山本剛正議員(民主党)
借金が増えていくと心がすさむ。これから法曹となる者に借金を課してくことは、道理として許すことはできない。法曹界が目指すべきは、質の高い弁護士を育てていくことである。
(8) 松野信夫議員(民主党)
私は現在、法務部門会の座長をしており、給費制問題の責任者である。
法曹養成をどうするか、という姿勢を示していかなければ、単に給費制、貸与制の二者択一の議論にしてはいけない。
7年前の司法制度改革において、法科大学院は大きな柱であった。しかし、現実にはうまくいっていない。法曹志望者が激減している。新司法試験の合格率も低迷している。
お金がない人でも、志のある人は立派な法律家になってもらう、そんな仕組みを作る必要がある。とにかく、経済的な負担があるために法曹を断念することがないようにする。
(9) 仁木博文議員(民主党)
当面給費制の継続をみんなで一緒に勝ち取っていきたい。
(10) 横粂勝仁議員(民主党)
裁判員制度をはじめとした司法制度改革は、明らかに理念に逆行している。
現状は厳しいが、諦めたらそこで試合終了。諦めずに頑張っていきましょう。
(11) 牧山ひろえ議員(民主党)
私はアメリカで弁護士をしていた。アメリカのロースクールで学んでいたとき、友達のほとんどは借金していた。どういった経済状況であっても夢が実現できる、そんな社会にしなければならない。
(12) 道休誠一郎議員(民主党)
私は医療の現場から議員になった。医療も法曹界も、パブリックインフラとしてとらえていく必要がある。弱者を守っていくための弁護士を育てる必要がある。政治も志が必要だが、法曹界も志ある人がなる必要がある。
(13) 中屋大介議員(民主党)
私は、今33歳になる。ちょうど法科大学院が始まった頃には大学院に在籍していた。学部と大学院で併せて数百万円の借金があった。その頃、自分に万が一のことがあったら借金のことで親に迷惑がかかると思い、生命共済をかけた記憶がある。
若い人にとって、数百万円というお金がどれだけ大きなお金か、もう一度改めて考えてみる必要があるのではないか。
(14) 姫井由美子議員(民主党)
給費制がなくなるのは、国益を損なう。
この国はどうやって人の権利と財産を守っていくのか、というところから議論していきたい。
(15) 荒木清寛議員(公明党)
我が国は人材に対する投資を惜しんではいけない。
(16) 広野ただし議員(民主党)
よい人材を育成するためには、給費制は絶対に必要。日弁連の活動には、全面的に賛同します。
(17) 穀田恵二議員(共産党国会対策委員長)
今朝の宇都宮先生の話を聞いて、改めて給費制を守る意味合いの深さに気づいた。

4 大学学部生
ナガセヒロアキさん(青山学院大学法学部生)
学部、大学院、司法修習でお金を借りて、就職難も待ち構えている。そんな道を選ぶ人が果たしてどれだけいるだろうか。
貸与制移行は、司法修習生になった後にも、親のすねをかじるか、それができない者は国からお金を借りるという選択を迫るもの。そんな状況で、果たしてどれだけの人が法曹になる道を選ぶだろうか。
どうか、この国の若者の夢を崩さないでほしい。

5 日弁連からの報告
(1) 川上明彦会長代行
数字には表れていないが、なんと、高校生が法学部を目指さなくなってきた。これは非常に問題がある。
国会の日程から考えると、10月に給費制が法案には出ない状況で、厳しい。
1年6ヶ月たっても、まだ結論が出ない。長期戦になっている。われわれ自身との戦いになっている。
(2) 宇都宮健児会長
こういう集会をあと何回かやらないといけない。
フォーラムで決まったからもうだめだ、と思ったらそこで終わり。われわれは諦めない。給費制の問題は、国が財政難だからということで、やめていいという話ではない。
貸与制にするということは、弁護士の資格が個人のものになるということを意味する。それは、それまで公共的な役割を担ってきた弁護士の性格が変わることを意味する。
この運動は、日弁連だけではなく、市民団体も一緒に戦ってくれている。市民が政治に参加している。これこそが民主主義ではないか。
またビギナーズネットの皆さんと一緒にやってこれたことはすばらしい。
最後まで諦めないで、ビギナーズネットの皆さんと一緒に戦っていきたい。

6 おわりに
院内集会に参加して、ますます給費制維持の必要性を感じたとともに、諦めなければ、給費制維持は必ず実現できるのだという思いを強くしました。今後も、この給費制維持活動に積極的に参加して参りたいと思います。

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