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カテゴリー: 転ばぬ先の杖

「転ばぬ先の杖」(第17回) 困ったときの生活保護

カテゴリー:月報記事 / 転ばぬ先の杖

生存権の擁護と支援のための緊急対策本部 事務局長 城 戸 美保子(60期)

ある日、事務所に一人の男性が借金のご相談にみえました。見るからに思い詰めた様子です。

聴き取りにより、自営業のため多額の借金があり妻が連帯保証していること、スーパーの乱立で売上は減少の一途をたどっていること、毎月の返済額が売上を大きく上回っていること、買掛金の滞納のため現金でしか仕入れできなくなったこと、現金で仕入れたものを売って生活費を工面していること、家賃滞納のため明け渡しを迫られていることなどがわかりました。男性の語り口から商売への思い入れと返済への強い気持ちを感じました。しかし、これ以上経費を切り詰めようがないとのこと。そこで、売上回復の見込みがないのであれば廃業した方がいいこと、就職しても返済は無理なので破産したほうがいいこと、就職し収入が得られるまでは生活保護を利用できること、自宅の明け渡しを迫られていることを保護課に伝えれば引越費用などを出してもらえること、保護課に対応してもらえなかった場合は弁護士が同行申請すること、弁護士費用は国の立替払制度を利用できるので心配しなくていいことなどを説明しました。

男性は、野宿しなくてよいこと、返済や生活費に頭を悩ませる必要がないことなどが分かり、安心されたご様子でした。

後で分かったことですが、男性はこの日活路が見いだせない場合は自殺しかないと思い詰めていたそうです。自分のアドバイスで自殺を食い止められたことを知り、生活保護の知識を持っていたことに感謝せずにはいられませんでした。

後日、ご夫婦で事務所に来られた際、すでに生活保護を申請したことを確認し、改めて破産手続等について説明しました。

その後、離婚したいとの妻からの電話を受けたため、事務所にお越しいただきました。話しを聞くと、連帯保証に対する誤解などから、夫のせいで破産させられるというお気持ちを持っていることがわかりました。そこで、離婚は当事者の自由なので破産申立代理人がとやかくいえる筋合いではないと断った上で、連帯保証契約を理由に返済義務が生じるため離婚によって破産を免れるわけではないこと、離婚すると保護費が減ること、返済を希望するのであれば保護は受けられないこと、返済を希望するのであれば直ちに就職活動を始めた方がいいことなどをアドバイスしました。その上で、よく考えた上で最終的に離婚するかどうか連絡して欲しいと伝えました。なお、離婚の決意が変わらない場合、先に夫の破産の相談を受けているため、利益相反の観点から、今後の破産や離婚の相談は別の弁護士にしてもらう必要があると付け加えました。

後日、妻から電話がかかってきて、就職活動を始めてみたが面接すら受けさせてもらえないこと、離婚を希望したのは連帯保証債務を誤解していたことが大きいので、離婚を思い直したと伝えられました。

その後、破産手続開始申立準備中に多少のすったもんだはありましたが、そのつど辛抱強く説得を続け、申立を行い、無事、破産手続開始決定及び免責許可決定を受けました。

今回、男性を自殺から救え、離婚危機も回避できたのは、日頃から、代理人弁護士として、債務整理や生活保護や離婚事件を受任し、活動していたおかげだと思います。

自殺や虐待や一家心中のニュースを聞く度に、「弁護士に相談してくれさえいれば、救えたかもしれないのに。。。」と思わずにはいられません。福岡県弁護士会も数多くの無料法律相談のメニューを持っています。ぜひ、お気軽にご相談ください。

「転ばぬ先の杖」(第16回)

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会 員 中 野 俊 徳(56期)

1 はじめに

一般市民の皆様に弁護士の必要性を考えていただくためのリレーコラム「転ばぬ先の杖」ですが、今回の執筆は筑豊部会から私が担当させていただくこととなりました。

日頃、主に個人の方を相手に法律相談・依頼を受けている中で、「もっと早く弁護士にご相談いただいていれば」「弁護士に依頼されていればもっとうまく話が進むのに」と感じることは多く、今回は相続の場面をテーマに、そのような話をさせていただきます。

2 遺言書の作成

法律的なトラブルはいったん発生してしまうと、放置していても自然に収まることは少なく、問題が複雑化・拡大してしまうものです。

例えば、子ども達の間で親の面倒を誰が見るのかという問題があった場合、親と一緒に(あるいは親のすぐ近くに)住み、親の財産の管理を手伝いながら親の面倒を日常的に見た子と、親から遠く離れた場所に住み、金銭的な援助はしつつも、親の財産の詳細を知らないままの子との間では、親が亡くなった後の相続のトラブルに複雑化・拡大しやすいものです。

親から離れて暮らしている子は親と一緒に住んでいる子が親の財産を使い込んでいるのではないかと不信感を持つことが多く、親と一緒に住んでいる子は親の世話というお金に換えられない苦労を負わされた自分が遺産を多く相続するのは当然だと思うことが多いからです。

最近、そうしたトラブルが自分の死後に発生することを心配して、遺言書の作成を考えられている方が増えているように思います。

しかし、遺言書はその作り方次第ではトラブルを防止できず、かえってトラブルを拡大してしまうこともあります。

例えば、いつも自分の世話をしてくれる子に遺産の全部を渡すという内容の遺言書を残した場合、それでも残りの子には遺留分という遺産の一部を受け取る権利がありますから、その遺言書がトラブルを防止する役割を果たすとは限りませんし、遺言で遺産をもらえなかった子から恨まれることにもなりかねず、感情的にもトラブルが拡大してしまいます。

その他にも、遺言書はその作成方法が厳格に規定されていたり、記載の仕方によっては無効になったり、記載内容をどのように解釈するべきかでかえって相続人の間でトラブルの元になったりしますので、遺言書の作成をお考えになった際には、ぜひ弁護士にご相談いただきたいと思います。

3 遺産分割の話し合い

相続人の間で遺産分割を話し合う場面においても、弁護士にご相談ご依頼いただいたほうが、自分の権利を守れたり、話がスムーズに進むということが多いように思います。

遺産分割と言っても、今残っている遺産を法定の相続分(相続割合)に従って分ければ済むという単純な話ばかりではありません。

例えば、亡くなった方が生前に多額の贈与をしている場合、それがいつ誰に対してどのような目的でなされたものか、によって、遺産分割に影響を与える話になりうるのです。

遺産分割は、そのような意味で、単に遺された財産を分けるという話ではなく、亡くなった方と相続人らとの間の長い期間における家族関係の財産的な清算という意味合いもあり、そうした長い期間の膨大な事実の整理と、それぞれの事実の法的な意味の確認をするうえで、弁護士にご相談ご依頼される意味はとても大きいと思います。

4 インターネットの情報

インターネットが発達し続けている現在、インターネットで調べるだけで様々な情報を極めて低廉な費用で入手することが可能であり、最近では法律相談に来る前に、弁護士の多くも知らないような細かな情報を確認してきている相談者の方も珍しくありません。

しかし、インターネットの情報は正確性・信頼性が必ずしもあるとは言えず、また、特定の事案にしか該当しない断片的な情報であることも多いので、インターネットで得た情報を信じるのはかえって危険な場合もあることに注意しましょう。

「転ばぬ先の杖」(第14回) 「相続放棄という制度もあります。」

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会 員 吉 武 みゆき(59期)

1 はじめに

この「転ばぬ先の杖」シリーズは、月報をご覧になられた一般市民の方向けに弁護士相談の必要性を紹介するコーナーです。

今回は、日頃法律相談を受けていて意外に知られていないと感じる、相続放棄の制度についてご説明します。なお、条文や判例を示しての説明を好まれる方もおられますので、簡単に触れています。

2 相続放棄とは

相続では、通常+の財産だけではなく−の財産も相続します。+の財産も−の財産もひっくるめて相続自体がなかったようにする方法が相続放棄です。

3 手続

相続放棄をするには、被相続人が亡くなったことを知り、かつ自分が相続人になったことを知ってから3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する必要があります(民法938条、民法915条1項本文)。

家庭裁判所に行けば相続放棄のための所定の用紙をもらえますし(最高裁判所のHPからダウンロードすることもできます。)、戸籍等必要な添付書類も教えてくれます。遠方の役所から多数の戸籍の取り寄せが必要になって間に合わなければとりあえず事情を説明の上申述書を先に3ヶ月以内に提出し、後日添付書類を提出することもできます。

家庭裁判所は調査の上、要件を欠くことが明白でなければ相続放棄の申述を受理します。

4 申述期間の伸長

+の財産が多いのか−の財産が多いのか、遺産があるのかないのかさえ不明で、相続放棄するべきかどうかわからず、遺産調査が必要なこともあります。また、事故や過労死の場合など相続人が亡くなった責任を第三者に追求できる可能性があり相続放棄するかどうか慎重に検討すべき場合もあります。

このような場合には家庭裁判所に申立てをして、原則3ヶ月とされる熟慮期間を伸長することができます(民法915条1項但書)。調査に時間を要することが判明した場合にはその旨家庭裁判所に申立てをして再度期間を伸長してもらえることもあります。

5 熟慮期間の起算点の繰り下げ

遺産はないと思っていて何も手続をせず熟慮期間である3ヶ月を経過した後に、督促状が届いて多額の借金(多額の遅延損害金がついていることもあります。)を抱えていたことがわかったという場合、相続放棄ができないと諦めてしまうのは早計です。

最高裁判所は、熟慮期間の起算点について「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時またはこれを通常認識しうべき時から起算するべきである。」と述べています(最高裁判所昭和59年4月27日判決)。

先の事例でも、熟慮期間の起算点を遅らせて督促状が届いた時とみることができれば、まだ熟慮期間である3ヶ月以内の要件を満たすとして相続放棄が認められる可能性があります。

起算点の繰り下げは個別事情が考慮されますので、見通しについて事前に弁護士と相談してみてもよいでしょう。

6 弁護士への相談

相続人になった場合ひとまず弁護士に相談に行き、一緒に問題点を整理してみられてはいかがでしょうか。

「転ばぬ先の杖」(第13回)「固定残業代払いの行方」 ~企業の経営者・総務の方、あるいは労働者の方へ~

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労働法制員会 委員 松 﨑 広太郎(66期)

1 はじめに

この転ばぬ先の杖シリーズは、一般市民の方向けに弁護士相談の必要性をご紹介するコーナーだそうですが、とはいえこの媒体上、読み手は弁護士の方が多いのではないかと思いますので、少しだけ前振りをさせてください。

私は66期ですので詳しいことは分かりませんが、労働法制員会は比較的新しい委員会のようで、若手会員の割合も高く、すごく和気藹々として、若手会員も発言しやすい雰囲気を作って頂いています。井下先生のお優しい雰囲気に、光永先生の突破力が絶妙なハーモニーを奏でる委員会です。また、杉原先生を始め、使用者側の先生方も多く参加して頂いており、私のように、節操なく労使双方の事件を受けている者にとっては非常に勉強になります。

本来であれば私のような弱卒が執筆を担当するのは僭越なのですが、上記のような、和気藹々とした雰囲気を受けて、私が筆を執ることになりました。

2 固定残業代制度

最近、労働者側、使用者側の双方から未払い残業代の請求に関するご相談を多く頂いています。中でも「営業手当は残業代扱いとする」「残業代は固定で月5万円を支払う」等と記載された労働条件通知書を使っている会社を非常に多く見かけます。

この固定残業代の主張が認められると、例えば

  • 基本給17万円(わかりやすいように、ざっと時給1,000円と換算)
  • 固定残業代5万1,000円
  • 残業時間は月50時間

の労働者がいたとすると、残業代を計算すると、6万2,500円(1,000×125%×50h)の残業代の支払いが必要になりますよね。

ここで、固定残業代が有効であれば、会社はすでに、5万1,000円を支払っていますから、差額1万1,500円を追加で支払えば良いことになります。

しかし、固定残業代の合意が無効と判断されると、残業代計算の基礎賃金から除外できる項目は住宅手当などの一部に限られることから、会社が「固定残業代」として払っていた手当すらも、基礎賃金にカウントすることになります。

そのため、先の例だと、

  • 基本給22万1,000円(時給換算およそ1,300円になる)、
  • 既払い残業代0円
  • 残業時間は同じく50時間

という扱いになるんですね。

そのため、計算は、8万1,250円(1,300×125%×50h)となります。

そして、残業代は一切払われていないことになるため、控除できるものがなく、この金額を全額支払う必要があります。

このように、固定残業代合意が有効となるか、無効となるかで請求金額は大きく変わってくるのです。

3 裁判所の判断

裁判所では、以前から、支払われている固定残業代と基本給を明確に区別できなれば無効だという要件を提示してきました。つまり、「残業代は基本給込み」等の曖昧な規定ではダメだという判断を示してきました。この明確性の基準だけでいくと先の「5万1,000円は固定残業代とする」という規定は有効なように見えます。

しかし、最近の東京等での裁判例では、

  • (1)明確性の要件に加えて、
  • (2)当該手当が残業代としての実質を兼ね備えていること
  • (3)固定残業代額が実際の残業代の額を下回るときに、不足額を支払う合意をしているか、現実に不足額を支払っていること

という要件を要求するものが増えてきています。(3)の要件について少し説明すると、先ほどの例でも、1万1,500円の差額が出ていましたが、これを現実に毎月補填していなければ、固定残業代の合意は無効になりますよということなのです。仮に不足額補填の合意だけをしてみても、結局現実に不足額を補填していなければ、裁判所はそのような合意は否定するでしょうから、結局のところ、現実に不足額を補填していなければ、無効になるように感じています。

経営者の方からみればこれはかなり厳しい要件に感じると思います。ある意味、固定残業代のメリットは、労働者の労働時間、残業代の計算の手間を省き、毎月固定額で支給すればよいという効率の良さにあります。しかし、裁判所はとにかく毎月不足額を計算し、それを清算することを求めていることになります。

本当は3つの要件につき、もう少し丁寧に検討したいところなのですが、紙面の都合上、この程度で今回はご勘弁ください。

4 まとめ

以上のように、今、固定残業代合意の有効性の判断は相当に厳しくなっています。これを使用者の方から見ると、「基本給17万円であれば、毎月ちゃんと残業代も含めて給与を払うことはできたよ。でも残業代として考えてた5万1,000円が基本給に計上されてカウントされたら経費が足りないよ!」ということになります。ですから、固定残業代の規定を就業規則や、労働条件通知書に定めている方は、訴えられる前に、是非弁護士にご相談いただき、それぞれのケースに応じて対策を考えて頂きたいと思います。

逆に、これを労働者の方から見ると、使用者に「うちは残業代は固定だからこれ以上払わないよ」と言われても、すぐに諦めるのではなく、弁護士に相談してみた方がいいということになります。
固定残業代の件で、おやっ、と思うことがあれば、是非とも弁護士にご相談ください。

「転ばぬ先の杖」(第12回)  顧客情報外部流出への備え

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ホームページ委員会 委員
是 枝 秀 幸(60期)

1 顧客情報外部流出

昨年起きた大きな出来事の一つとして、大手通信教育業者が保有していた顧客情報を外部へ多数流出させたことは、皆さんも記憶に新しいと思います。

顧客情報は、事業規模にかかわらず、多くの事業者において、営業活動のための情報として、日々、取得・使用されています。

もし顧客情報が外部へ流出してしまえば、流出を食い止めたり情報を回収したりすることは困難で、事業者は、相当期間にわたり、顧客情報を保有していたことによる競業他社に対する優位性を喪失するとともに、顧客からの信用も著しく失墜することとなるでしょう。

とはいえ、顧客情報は、事業者において、日々、取得・使用しているもので、外部へ流出することを完全に防止することはできません。

本稿では、顧客情報外部流出の発生の機会や影響をできるかぎり限定するための備えについて、何をすべきか、簡単に紹介したいと思います。

2 機密書類に「秘」印を押しておけばよい?

顧客情報外部流出への備えとしては、不正競争防止法上の営業秘密として管理することや個人情報保護法上の安全管理措置を講じること等が考えられ、経済産業省もガイドラインを公表しています。
経済産業省の営業秘密管理指針によれば、概ね、次のとおりです。
(営業秘密管理指針より、一部変更のうえ、抜粋)

【秘密管理性の判断要素として着目すべき点】
  • アクセスできる者が限定され、権限のない者によるアクセスを防ぐような手段が取られている(アクセス権者の限定・無権限者によるアクセスの防止)
  • アクセスした者が、管理の対象となっている情報をそれと認識し、またアクセス権限のある者がそれを秘密として管理することに関する意識を持ち、責務を果たすような状況になっている(秘密であることの表示・秘密保持義務等の設定)
  • それらが機能するように組織として何らかの仕組みを持っている(組織的管理)
【Aに関する具体的な管理方法】
  • アクセス権者の限定
  • 施錠されている保管室への保管
  • 事務所内への外部者の入室の禁止
  • 電子データの複製等の制限
  • コンピュータへの外部者のアクセス防止措置
  • システムの外部ネットワークからの遮断
【Bに関する具体的な管理方法】
  • 社員が秘密管理の責務を認知するための教育の実施
  • 就業規則や誓約書・秘密保持契約による秘密保持義務の設定等
【Cに関する具体的な管理方法】
  • 情報の扱いに関する上位者の判断を求めるシステムの存在
  • 外部からのアクセスに関する応答に関する周到な手順の設定

以上のとおり、秘密管理性等は、具体的な管理方法等を踏まえ、総合的に判断されるものです。

機密書類に「秘」印を押しておけばよい、という簡単なものではありませんので、注意が必要です。

3 弁護士にご相談を

顧客情報外部流出への備えを実施するためには、情報技術的な事項に関してIT事業者に相談するとともに、秘密保持義務の設定等の法技術的な事項に関して弁護士に相談することが望ましいでしょう。

秘密管理性等は、具体的な管理方法だけでなく、事業規模、業種、情報の性質、侵害態様等を踏まえ、総合的に判断されることになります。
顧客情報外部流出への備えは現実的に可能な範囲で一応実施しているという場合には、弁護士に法的観点から検証してもらうとよいかもしれません。

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