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会員のひろば 穂積重遠と石田和外に14条

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会員 吉野 大輔(64期)

1 はじめに

御多分に洩れずハマっています、「虎に翼」。

「虎に翼」の魅力は、語るとキリがないです。まずは、魅力的なキャラクター造形。法曹にありがちな空気が読めず一言多い主人公の寅子、男装のよねさん、司法試験でお腹が痛くなる優三さんなど魅力的なキャラクターが次から次に出てきます。また、各所に散りばめられた法律関係のトリビア。分かる人にだけは分かるところが、法曹関係者のオタク心を掴んでいます。ちなみに、個人的には、寅子が受験勉強に使用していた憲法の基本書が上杉慎吉だったシーンがツボです(ⅰ)。

私にとって最も魅力的な点は、史実を組み込んだプロットです。この点で、私が注目しているのは、小林薫が演じる「穂高重親」と松山ケンイチが演じる「桂場等一郎」の動向です。私がこの記事の執筆を依頼された理由は、おそらく、私が、委員会の懇親会で、「虎に翼」を見る際に、この二人に注目すべきと一席ぶったからでしょう。

2 「虎に翼」のプロット

もともと、私は、NHKの朝ドラを熱心に見続けているわけではないのですが、「虎に翼」が、清水聡の「家庭裁判所物語」(ⅱ)を軸に、女性初の弁護士・裁判官である三淵嘉子を主人公にした物語と聞いていたので、久しぶりに見てみようかなくらいに思っていました。

「家庭裁判所物語」は、設立当初にあった家庭裁判所の理念型がどのようなものであったのかを描いた本です。家庭裁判所の理念型が、「虎に翼」のプロットの一つの軸になることは間違いないと思います。私の母は、家庭裁判所の調査官であり、内藤頼博(ライアンこと久藤頼安のモデル)や三淵嘉子(主人公のモデル)らの謦咳に直接触れた世代の調査官でした。そのため、私は、母から戦後の家庭裁判所の理念や雰囲気を聞かされていたこともあり、「虎に翼」が、失われつつある家庭裁判所の理念型を再確認するきっかけになればいいなと期待しています。

しかしながら、私は、「虎に翼」を見始めたところ、すぐに、「家庭裁判所物語」だけではなく、より野心的なプロットの存在に気づいてしまいました(妄想かもしれませんが)。それが、穂積重遠(穂高重親のモデル)と石田和外(桂場等一郎のモデル)の物語です。この二人の物語は、「虎に翼」のプロットの根幹を形成していると思います。この見立ては、現在のところかなり当たっているのではと密かに思っています(ちなみに、本記事の執筆時は、令和6年6月下旬です。)。

以降は、ネタバレ(主に歴史的事実ですが)を含むかもしれないので、歴史的事実なんか知らなくて、純粋にドラマだけを楽しみたいという方は、読むことを控えていただいたほうがいいかもしれません。

3 穂積重遠(ⅲ)

小林薫が演じる「穂高重親」には、モデルがいます。その名前から明らかですが、そのモデルは、民法学者の穂積重遠です。

穂積重遠は、1883年に、いわゆる「華麗なる一族」のメンバーとして生まれます。親族について少し触れておくと、父が民法を起草した民法学者穂積陳重、叔父が「民法出でて忠孝滅ぶ」で有名な憲法学者穂積八束です。加えて、母方の祖父が新一万円札の渋沢栄一です(ⅳ)。

穂積重遠は、旧制第一高等学校、東京帝国大学に進学し、卒業後、民法(特に家族法)の研究者として人生を歩んでいくことになります。同世代の民法学者は、末広厳太郎や末川博です(ⅴ)。その下の世代の民法学者が我妻栄や中川善之助と言えばイメージが湧きやすいでしょうか。

穂積重遠は、民法学者として学究に勤しむだけではありませんでした。祖父の渋沢栄一の影響もあり、社会教育や社会事業も「法」であるという信念の下、熱心に社会活動にも勤しみます。具体的には、明治大学女子部の創設、東京帝大セツルメントでの法律相談活動、関東大震災の被災者支援などの社会活動が有名です。これらの社会活動は、両性の平等、法教育、法律相談、災害対策など、現在の弁護士会の活動にも通じる社会活動です。

これらの業績を総体として見ると、穂積重遠は、大正デモクラシー期のリベラルな民法学者であったと評価することができると思います。

「虎に翼」では描かれませんでしたが、穂積重遠は、東宮大夫・東宮侍従長として仕えて、1945年8月15日を皇太子(現在の上皇)とともに迎えます。

そして、戦後、穂積重遠は、紆余曲折あり、1949年に最高裁判所裁判官に就任します。

石田和外(ⅵ)

松山ケンイチが演じる、甘い物好き(ⅶ)の「桂場等一郎」にも、モデルがいます。そのモデルは、名前だけからは分からないのですが、第5代最高裁判所長官の石田和外です。

石田和外は、1903年に福井市に生まれ、第一高等学校、東京帝国大学を経て、1928年に東京地方裁判所の予備判事に就き、判事として人生を送ることになります。

戦前、石田和外は、東京地裁の裁判官時代に、帝人事件(ⅷ)を左陪席として担当します。その際に、事件を「空中楼閣」と評して、「水中ニ月影ヲ掬スルガ如シ」という名文句で、被告人16名を無罪としたことで注目を浴びます。

戦後、石田和外は、司法省人事課長、最高裁人事課長、人事局長、事務次長、東京地裁所長、最高裁事務総長、東京高裁長官、最高裁判事といわゆるエリートコースを歩み、第5代最高裁長官まで上り詰めます。

石田和外は、ある世代の法律家からは、蛇蝎の如く嫌われている人物です。石田和外の最高裁判所長官時代には、青法協所属の司法修習生の任官を拒否する事件、宮本判事補の再任を拒否する事件などが起こります(ⅸ)。いわゆる、「司法の危機」、「ブルーパージ」などと呼ばれた時代です(ⅹ)。

また、石田和外は、最高裁判所長官時代に、リベラルな判決と評価されていた全逓東京中郵事件判決、いわゆる「二重の絞り」で有名な都教組事件判決及び全司法仙台事件判決について、全農林警職法事件を皮切りに、これらの判例変更を実現していきます(ⅺ)。

退官後は、英霊にこたえる会会長や元号法制化実現国民会議議長も務めました。

これらの業績を総体として見ると、石田和外は、いわゆる保守派の裁判官であったという評価は否めません。

5 日本国憲法14条

水と油で決して混じり合わないと思われる二人ですが、その架け橋になるのが、日本国憲法14条です。

「虎に翼」は、第1話の冒頭、日本国憲法14条の朗読から始まります。その朗読は、寅子が一度は諦めた法律家の道から復帰して、裁判官を目指すきっかけになります。そのほかにも、轟法律事務所の壁に日本国憲法14条の文言が書かれているなど、ドラマ内の各所に日本国憲法14条が散りばめられています。日本国憲法14条が、「虎に翼」のプロットの根幹であることは明らかです。

穂積重遠は、最高裁判所裁判官として、尊属殺規定の合憲性を争う事件に対峙します。

1950年10月、最高裁判所大法廷判決(刑集4巻10号2037頁、2126頁)は、旧刑法205条2項(尊属傷害致死)、同200条(尊属殺人)を憲法14条に違反しないと判断しました。しかしながら、穂積重遠は、多数意見に与することなく、反対意見として、これらの規定が憲法14条に違反するという論陣を張ります。穂積重遠は、上記判決から数ヶ月後の1951年7月29日、心臓変性症で逝去します。反対意見を遺言とするかのように。

ご存知の通り、それから23年後、旧刑法200条(尊属殺人)の合憲判決は、判例変更されます(最大判昭和48年4月4日刑集27巻3号265頁)。この判例変更により、日本国憲法下で初の法令違憲判決が誕生します。この法令違憲判決を主導したのが、当時、最高裁判所長官であった石田和外です。

ドラマの終盤で、桂場等一郎が大法廷の真ん中で法令違憲判決を朗読し、穂高重親の回想シーンが流れて、寅子が涙する姿が浮かびませんか。

6 さいごに

穂積重遠と石田和外の人生を軽く振り返ってみました。この二人の人生に日本国憲法14条を組み合わせることで、大きな物語が描けることが理解できたと思います。これだけ綿密なプロットを描いている「虎に翼」の脚本家やスタッフが、この構図に気づいていないはずがないと思います。

ここまで来れば、桂場の名が「等一郎」であることまで、意味深長に感じられるのではないでしょうか。

私の妄想はここまでです。はて、「虎に翼」の物語は、どうなるでしょうか。

——

  • 意味がわからない方は調べてみてください。ヒントは、天皇機関説事件です。意味が分かると、「虎に翼」の脚本家やスタッフによる作り込みの本気度が伝わると思います。
  • 清水聡「家庭裁判所物語」(日本評論社、2018)は、失われつつある家庭裁判所の理念型を再確認する上でも読まれるべき本です。
  • 大村敦志「穂積重遠―社会教育と社会事業とを両翼としてー」(ミネルヴァ書房、2013)に依拠しています。名著です。是非、皆様に読んで欲しい本です。東宮大夫としての臣穂積重遠、天皇機関説事件時代の東京帝大法学部長穂積重遠、家庭人穂積重遠など、「虎に翼」では描かれない多様な穂積重遠像が描かれています。
  • そのほかに、親族には、日露戦争の総参謀長児玉源太郎、総理大臣寺内正毅、戦時中の内大臣木戸幸一、画家のレオナール・フジタこと藤田嗣治などがいます。大村敦志「穂積重遠」に穂積重遠の家系図が掲載されていますが圧巻です。
  • この世代の特徴として、概念法学を批判する自由法学の影響があります。「虎に翼」でも権利濫用で解決される民事事件が描かれましたが象徴的です。なお、伊藤孝夫「大正デモクラシー期の法と社会」(京都大学出版会、2000)(p12)によれば、「概念法学の凋落」をもたらした「自由法学乃至社会法学」の代表者の一人として穂積重遠が挙げられています。概念法学と自由法学については、「ブリッジブック憲法」(信山社、2002)の石川健治「第14講義」を参照。
  • 山本祐司「最高裁物語(上)・(下)」(講談社+α文庫、1997)と「憲法学から見た最高裁判所裁判官 70年の軌跡」(日本評論社、2017)の早瀬勝明「第6章 激流に立つ巌-石田和外」に依拠しています。「最高裁物語」は「虎に翼」の種本の一つです。
  • 「最高裁物語(下)」(p146)によると、沢村一樹演じるライアンこと「久藤頼安」のモデルである内藤頼博が、石田和外の「追想集」で、石田和外の思い出話として、「東京地裁の頃の石田さんは斗酒なお辞せず酔うと悪戯が激しかった。いきなり人の股ぐらに手を突っ込んで褌を引っ張り出す癖があった。また物を噛む癖があって、某貴族院議員のバッジを噛んで曲げてしまった。…おしまいには、やかんにじかに入れてお燗をした酒に小便を混ぜた。悪戯は徹底的に痛快であった。」と語っています。「桂場等一郎」の人物造形を考える上で興味深い文章です。
  • 「虎に翼」において、主人公の父が被告人となった「共亜事件」のモデルです。
  • 福岡県弁護士会会員である元裁判官の西理先生は、「司法行政について(上)」(判例時報2141号)において、同時代の自らの経験を記録として残しつつ、石田和外を含む当時の司法行政の為政者に対し、「これらの施策を推進した人たちが裁判所史上に遺した汚点の大きさとその責任の重大さを改めて心に刻むのである。しかし、これらの人たちの責任は歴史が審判するに違いにない。」(p4)と論じています。
  • 黒木亮「法服の王国(上)」(産經新聞出版社、2013)では、石田和外は、黒幕として実名で小説の登場人物となっています。
  • 全農林警職法判決については、憲法学者からは評判が悪いですが、再評価の機運もあります。例えば、千葉勝美「憲法判例と裁判官の視線」(有斐閣、2019)の「第2部Ⅲ 保革の政治的対立と公務員労働事件をめぐる司法部の立ち位置-横田喜三郎長官らと石田和外長官らが見ていた世界の相違」。

インクルーシブ教育勉強会のご報告

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子どもの権利委員会 委員 鶴崎 陽三(69期)

1 はじめに

本年6月6日、福岡県弁護士会館及びzoomで、新潟県弁護士会の黒岩海映弁護士(日弁連人権擁護委員会・障害者差別禁止法制特別部会座長)をお招きしてインクルーシブ教育勉強会が開催されました。

インクルーシブ教育とは、障害の有無などのさまざまな違いや課題を超えてすべての子どもが一緒に学ぶ教育のことです。

以下、講義内容について、あたかも私が解説しているかのように説明していきます。

2 講義の内容
(1) 合理的配慮

2006年に障害者権利条約(以下「条約」)が採択され日本は2014年に批准しました。

障害に基づく差別に関する規定の中で出てくる言葉として特徴的なのが「合理的配慮」です。

「合理的配慮」とは、障害者がすべての人権及び基本的自由を享有又は行使することを確保するために必要かつ適当な変更及び調整のことです。

人種や性別など障害以外を理由とする差別と障害を理由とする差別の根本的な違いは、前者が同じものを差別的に扱うことであるのに対し、後者は違うものを差別的に扱うことであるということです。

障害がある・ないという違いがあるため、障害のある人を障害のない人と同じように扱っても平等は実現できず、「合理的配慮」(=変更及び調整)を加えてはじめて平等を実現することができるのです。

(2) 条約24条

条約では24条がインクルーシブ教育について規定し、同条1項は、締約国が「障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保」すべきことを定めています。

「包容」(=インクルージョン)は「排除」、「分離」、「統合」との比較で説明されます。

「排除」、「分離」と「包容」の違いは容易に想像できますが、「統合」との違いは理解が必要です。

「統合」とは、障害のある子どもを何の支援も合理的配慮もなく普通学級に入れることです。

これに対して、「包容」には、障壁を克服するための教育内容、指導方法などの変更と修正を具体化した制度改革のプロセスが含まれます。

この点、条約一般的意見4号では、インクルーシブ教育の基本的特徴として「全人」的アプローチや多様性の尊重と重視などが定められているほか(パラ12)、一般的な教育制度からの排除を禁止すること(パラ18)や、インクルーシブ教育は施設収容と相容れないこと(パラ66)など示されています。

(3) 日本の法制

2011年障害者基本法改正では、社会モデルが採用されるとともに合理的配慮が必要であることが定められ、子ども及び保護者の意向を可能な限り尊重しなければならないことが明記されました。

2013年障害者差別解消法においても医学モデルから社会モデルへの転換が図られています。

「社会モデル」とは、機能障害と社会的障壁(バリア)の2つの相互作用により社会的不利益が生じていると考える障害概念のことです。

たとえば両足に麻痺がある人が入口に段差のある図書館に入れないという事象で、図書館に入れない理由を医学モデルでは両足の麻痺と考えますが、社会モデルでは入口の段差と考えます。

(4) 日本の教育制度

1947年に制定された学校教育法では分離教育制度が確立し、1979年までの各都道府県での養護学校等の設置が義務づけられました。

その後、分離別学を維持したままながら例外的、限定的に統合教育の動きが進み、2007年学校教育法改正により改正前の特殊教育から特別支援教育へと転換しました。

その後、2011年障害者基本法改正、2013年学校教育法施行令改正など統合教育の動きがさらに進み、2013年の文部科学省の通知で保護者の意見を可能な限り尊重しなければならないこととされ、2016年差別解消法で合理的配慮が義務化されました。

しかし、実際には本人や保護者の意見が尊重されているとは言い難い状況が続いています。

(5) 地域のインクルーシブ教育実践

国とは別の流れで、関西を中心とした一部地域では、1970年代以降、世界に誇れるインクルーシブ教育が実践されており、特別支援学級に在籍させつつ通常学級での学習を実現するために複数担任制や原学級(交流学級)保障などの工夫がされています。

他方、文科省は特別支援教育の推進がインクルーシブ教育であるとの独自の解釈により、2022年4月27日、「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」なる通知で、特別支援学級に在籍している児童生徒が週の授業時数の半分以上を目安として特別支援学級で授業を行うことを求めました。

同通知は分離を固定させる政策であり、大阪では地域の小学生児童及びその保護者らが申立人となり文科省の通知に対する人権救済申立てを行った結果、大阪弁護士会から文科省に対して上記通知を撤回するよう求める勧告が発出されるに至っています。

(6) 人権モデル

医学モデルや社会モデルと異なる新しい概念として人権モデルがあります。

障害は社会によって作られるというのが社会モデルでしたが、社会によってではなく機能障害そのものから生まれる制限もあります。

この点、人権モデルとは、機能障害を含めた「ありのまま」を人権として、尊厳として、多用性として、価値あるものとして認める概念で、あるがままに地域社会が受け入れその尊厳を保障すべきであるとします。

(7) 視察報告

まず、スウェーデンやノルウェーでは特別教育を受けることは権利であり義務ではないとされています。

また、たとえば教室の脇に子どもがいつでも逃げ込める小部屋が設置されていたり、周りの目線を遮りたい子どものために誰でも使えるパーテーションが用意されていたりなど、色んな子どもにとってすごしやすい環境を作る工夫がなされています。

次に、大阪府豊中市の小学校では、車いすで全盲の子やダウン症の子なども通常学級で一緒に生活しており、算数の授業や体育の授業などを一緒に受けていました。

そこでは、車いすで全盲の子どもでも一緒に体育の授業を楽しめるよう、子どもたち自身が考えて様々な工夫が施されていました。

(8) まとめ

日本の「特別支援教育」について文科省は、特別支援学校、特別支援学級、通級という連続性のある「多様な学びの場」を用意していると言いますが、子どもに必要な多様性とは、自身が在籍する教室の中に多様性が確保されている状態をいうはずです。

また、本人・保護者の意向を最大限尊重という方針も守られておらず、真のインクルーシブ教育の構築と原則化が急務です。

そのために私たち弁護士・弁護士会ができることは、たとえば地域の学校に行きたい本人・保護者の相談を受け学校と交渉することや、スクールロイヤー、オンブズとしてインクルーシブ教育へ向けた相談対応や関係調整をすることなど様々です。

3 おわりに

インクルーシブ教育の成り立ちや内容、日本の現状や文科省の考え方などに加え、インクルーシブ教育の実践を知ることのできた非常に充実した勉強会でした。

インクルーシブ教育は来年の長崎人権大会のテーマ候補のひとつですので、それに向けての第一歩にもなりました。

なお、翌日、私を含む3名の会員と黒岩先生で筑後特別支援学校に視察に行きました。同校は、障害があっても可能な限り地域の学校に通うための方法を模索するという考えで運営されており、福岡でもインクルーシブ教育の実現を目指して活動しておられる方がいらっしゃることを心強く感じました。

今後、我々の住む地域が誰にとっても暮らしやすい社会になることを祈念して、報告を終えます。

インクルーシブ教育勉強会のご報告
インクルーシブ教育勉強会のご報告

中小企業の準則型私的整理に関する研修会

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倒産業務等支援センター委員会 委員 西田 裕太朗(71期)

第1 はじめに

令和6年5月31日(金)に開催された、中小企業の準則型私的整理に関する研修会についてご報告します。本研修は、倒産業務等支援センター委員会と中小企業活性化協議会(以下「協議会」と言います)が共同で開催したものです。

協議会は、産業競争力強化法の規定に基づき、すべての都道府県に設置され、中小企業の財務状況等に応じた様々な支援を実施する公的な機関です。

第2 登壇者のご紹介(敬称略)

次の4方にご登壇頂きました。

【司会進行】
倒産業務等支援センター委員会 委員 佐藤 雄介

【パネリスト】
中小企業活性化全国本部 プロジェクトマネージャー
浅沼 雅人(東京弁護士会)
福岡県中小企業活性化協議会 統括責任者 補佐
吉松 翔(福岡県弁護士会)
倒産業務等支援センター委員会 副委員長
管納 啓文

第3 研修の内容

前半では私的整理の基本的な考え方やスキームの説明等、後半では具体的な事例を参照しながらの解説が行われました。

1 私的整理とは

今回の研修では、そもそも私的整理とは何か、という点から説明がありました。私的整理は、破産などの法的整理と異なり、債権者の同意を得て債務整理を行うことが特徴です。法的整理にも、民事再生、会社更生といった再建型の手続がありますが、近時は、取引先の喪失や商圏の劣化の懸念等から、会社側、金融機関の双方が私的整理を望む傾向にあるようです。

2 私的整理のスキーム

私的整理のスキームとしては、対象債権者と相対で手続を進める純粋私的整理や、公表された一定のルールに則って手続きをすすめる準則型私的整理等があります。今回の研修では、準則型私的整理の代表例である、協議会スキーム、中小企業の事業再生等に関するガイドラインが取り上げられました。

協議会スキームでは、企業が直接金融機関と交渉するのではなく、協議会が企業と金融機関の間にたって金融調整を行います。協議会は公的機関であること等から、金融機関に基本的には協力的な姿勢で臨んで頂けます。

中小企業の事業再生等に関するガイドラインは、令和4年3月に策定されました(その後一部改訂されています)。コロナ融資により過剰債務を抱えた中小企業が増加し、事業再生等に対するニーズが高まる中で、協議会以外の受け皿として機能することが期待されています。

3 弁護士の役割

私的整理の代表的な手法としては、債務の支払い期限を繰延べてもらう方法(リスケ案件)と、過剰な債務の一部をカットしてもらう方法(カット案件)の2種類があります。リスケ案件における弁護士の関与は限定的ですが、カット案件では、事業再生計画の作成や、事業再生計画の妥当性の検証を弁護士が行います。

パネリストからは、私的整理のやりがいとして、事業、従業員を守ることができる点や、多様なスキームがあり創造力が試される点が挙げられました。

協議会の立場からは、私的整理に関与する弁護士を増やしたいという話がありました。企業から廃業方向の相談を受けた際に、私的整理の道がないかを是非ご検討頂き、適宜協議会の窓口相談(無料)をご活用頂ければと思います。

第4 おわりに

閉会挨拶の中で、倒産業務等支援センター委員会委員長の髙松弁護士より、私的整理関与の入り口としては、経営者保証に関するガイドライン単独型の利用が良いのではないかという話がありました。単独型とは、経営者保証に関するガイドラインによる保証債務整理の一類型であり、主債務者である法人とは別個の手続において債務整理を行うことを指します。代表的なケースは、主債務者である法人は破産し、保証人である個人は経営者保障に関するガイドラインによる債務整理を行うかたちです。

今回の研修では保証債務の整理は対象とされませんでしたが、本年7月30日(火)に、北九州部会において、単独型に関する研修が予定されています(皆様のお手元に本月報が届くころには終了しているかもしれません)。

あさかぜ基金だより

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弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 石井 智裕(72期)

人吉に見学にいきました

あさかぜ基金法律事務所の所員弁護士の石井です。あさかぜは、弁護士過疎偏在問題の解消のため、弁護士過疎地域で働く弁護士を養成する公設事務所です。あさかぜで養成を受けた弁護士は九弁連管内のひまわり基金法律事務所や弁護士過疎地に所在する法テラス7号事務所(総合法律支援法第30条第1項7号)に赴任していますが、日弁連の支援を受けて、弁護士過疎地で独立開業した弁護士もいます。中嶽修平弁護士(66期)は、平成28年3月にあさかぜを卒業して、熊本県人吉市にて「ひとよし法律事務所」を開業しました。

私たち所員は、去る4月5日に、ひとよし法律事務所を訪問、見学し、中嶽弁護士から開業までの苦労話や開業してからの弁護士活動の実情をつぶさに聴くことができました。

人吉では豪雨災害からの復興が進んでいます

私が泊まった誠屋という宿は、令和2年7月の豪雨での被害をうけて休業していた漬物屋が元の場所に再建されて、新たに宿を併設して開業したところでした。

また、豪雨災害以降、人吉では多くのカフェがオープンしたそうです。

開業にあたって

中嶽弁護士は開業準備で苦労したこととして、複合機はリースだったが、その他の什器備品類は、新品で購入することになり、初期費用が高くなってしまった。福岡と違って、中古でオフィス用品を揃えるのが難しいので、過疎地での開業では什器備品は新品で揃えるか中古だったらどこで入手するのか情報入手に注意と工夫が必要とのことでした。

また、事務職員についても、応募が少なく、経験者がおらず、事務職員は自前で養成する覚悟が必要だということでした。

受任経路の工夫

中嶽弁護士は人吉で3人目の弁護士として開業しました。そのため、受任経路の開拓には工夫をしたそうです。たとえば、ホームページの作成や人吉球磨地区のすべての税理士と司法書士に挨拶へいったりしたそうです。やはり、隣接職種との共同は大切のようです。

令和2年7月の豪雨災害を受けて

人吉の豪雨災害を受けて災害に対するリスクマネジメントの必要性を中嶽弁護士は強調していました。

たとえば、ハザードマップを活用し、その地域における浸水や土砂崩れなどの災害リスクをあらかじめ把握しておいて、万一のときに備えること、個人情報はハードディスクとクラウドを利用したデュアルでの保管を行い、紛失を防ぐこと、固定電話、FAXや携帯電話など複数の連絡手段を確保して、外部との連絡が途絶しないよう工夫しておくことなどです。

司法過疎地赴任に向けて

私は令和2年1月にあさかぜに入所し、司法過疎・偏在地域への赴任に向けて、あさかぜで養成を受けてきました。まだに赴任先は決まっていませんが、司法過疎地に赴任するにあたっては中嶽弁護士の話も参考にして、日々の業務に精進していきたいと考えています。皆様どうぞあさかぜへの応援をよろしくお願いします。

DV防止法の改正に関する研修を受けて感じたこと

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両性の平等に関する委員会 委員 西田 舞季(76期)

76期の西田舞季と申します。
新緑清々しい5月14日(火)に、両性の平等に関する委員会主催で、山崎あづさ先生を講師としてDV防止法の改正に関する研修が開催されました。拙筆ながら、研修を受けて感じたことを報告いたします。

1 DV防止法及び今回の改正についての概要

DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者(以下、「配偶者等」とします。)から振るわれる暴力のことをいいます。DV防止法は、配偶者からの暴⼒の防⽌及び被害者の保護を図ることひいては⼈権の擁護と男⼥平等の実現を目的としており、様々な体制を整備しています。

DV案件の多くは、刑事事件として処理されることはありません。そこで活用手段となるのは配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下、「DV防止法」とします。)に規定された保護命令です。被害者の安全確保があってこそ、手続を進め、結論へと進むことができます。

今回のテーマである2023年(令和5年)改正では、保護命令の対象及び種類・期間の拡大、厳罰化等が定められました。実際の講義では、山崎先生が内容の差異も含めて改正点についての詳細を大変わかりやすく説明してくださいました。

2 DVに対応する際の軸とは?=その本質を知ること

講義の初めに、DVの本質についての説明がありました。DVの本質は、配偶者等を暴力により支配・コントロールをすることです。支配は、複数の行為を積み重ね、長時間かけて行われることが多くあります。したがって、個々の行為に対しそれぞれDVにあたると判断し主張するのではなく、配偶者等の行為を総合的に考慮してどこにDVの本質があるかを見極めることが求められます。

私自身はまだDV被害の法律相談を受けたことはありませんが、先生方のお話を聞くと、相談者の中には、自分がDVを受けている状態であることを理解していない方が多数存在するそうです。親密な関係を前提として行われるDVは、外から見てすぐに判断できるものとはいえません。また、家庭や恋人関係の中には、その関係特有の思い出、雰囲気、ルール、考え方等が存在しています。それらの要素の存在は、当事者がDVにあたるかを判断する際に影響を与えることがあります。被害者は、配偶者等から受けた行為に対してもやもやする思いを感じながら、何か理由があったのではないかと悩み、自責し、現状から抜け出せないでいます。そんな状況の中、救いを求めて相談に来た被害者の不安と勇気は如何ばかりかと考えてしまいます。

だからこそ、弁護士は、相談を受けた際にはDVに対してしっかりとした軸を持ち、配偶者等のペースにのまれないようにしなければなりません。具体的には、まず、配偶者等の行為がDVにあたるのか(支配なのか)を冷静に判断することが重要です。DVを正当化されないために、「当事者にしかわからないこと」に流されるのではなく、「当事者だからこそわからないこと」「外部の者だからわかること」をもとにDV該当性を客観的に判断できるようにならなければなりません。そして、相談者に対して、結論とその根拠を明確かつ説得的に伝える必要があります。

軸をしっかり持っている姿勢が、自分の選択に迷いと不安のある相談者に安心を与え、DVを受ける環境から抜け出せる一歩につながると思いました。

…つらつらと必要だと思うこと、重要だと思うことを述べたとはいえ、実際に相談の場で理想通りにきちんと対処できるのだろうかと不安を感じています。しかし、新人だとしても、相談者にとってはひとりの弁護士です。求められている役割に応えられるようになりたいと思います。

3 得た知識を武器にする責任

保護命令の種類によって対象や要件が異なっています。また、文言の解釈の必要性が生じたり、必要な証拠を集めることが求められます。手続を進める際に的確に判断し説明できるように、制度についての知識を実際に使いこなせるようにしておく必要があります。

判断を誤った場合に不利益を受けるのは、依頼者です。場合によっては、生命身体への危険が生じる可能性もありますし、依頼者のその後の人生に影響が生じる可能性も考えられます。「弁護士なら何とかしてくれる」と信頼してくださった依頼者に不利益が生じないように、弁護士が知識を学び能力を磨き続けるのは一つの義務であると感じました。

よく先輩方から「弁護士は一生勉強だよ」と教えていただきましたが、常に変化する社会情勢と価値観やそれに伴う法改正に対応できるようになるためには絶えず知識や能力の研鑽が必要になるのだと、改めて先輩方のアドバイスの重みを実感しました。自分にできることとして、日々書籍を読んだり、可能な限り弁護士会や日弁連の研修を受講していますが、先生方はどのように研鑽を積まれていらっしゃるのでしょうか?機会がありましたら、ぜひ教えていただきたいです。

4 資料や講義内容の在り方についての学び

上述のとおり保護命令の種類によって対象や要件が異なっており、全体を把握するのは大変です。

しかし、講師をしてくださった山崎先生が、とても分かりやすい資料をつくってくださいました。文字の色、記号、比較表等を活用して、制度や要件の差異や今回の改正点を把握しやすい資料となっていました。

また、講義全体として、改正の要点を掴みつつ実務での活かし方を学べる構成となっていました。特に書面の記載例や具体的な証拠の種類については、書面作成時のお手本になるだけでなく、書き方や判断に迷った時に参考にできる資料にもなり、大変ありがたいものでした。先生の穏やかで説得力のあるお話の仕方も相まって、多くの知識を身につけることができました。今後、自分が人前で何かを発表する際は、ぜひ先生のスタイルを参考にさせていただきたいと思いました。

5 今後もがんばります

講演が終わった後、研修を受けていた先生方から、たくさんの質問がありました。先生方が業務の中でDV問題と向き合い生じた疑問を共有し合い、非常に充実した時間となりました。

研修を受け、多くの学びがあったと同時に、自分の能力の青さを感じました。得た知識や経験を実際に実務で活かせるように精進してまいります。お読みくださりありがとうございました。

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