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東日本大震災復興支援対策本部・災害対策委員会報告

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災害対策委員会
宮 下 和 彦(46期)

今回は、これまでの福岡県弁護士会における東日本大震災に関連する相談状況のご報告とごく一部ですが最近の震災関連の立法状況のご報告です。

県弁では大震災発生直後に東日本大震災復興支援対策本部を設置し、県内19カ所の各法律相談センターにおいて、30分の相談枠を1時間に拡大して無料法律相談を開始するとともに、1昨年9月からは、無料出張法律相談も実施しております。また、平成23年12月を第1回として、平成25年5月26日まで計9回にわたり天神弁護士センターにおいて、原発賠償問題を中心とした東日本大震災被災者のための相談会(当初は説明・相談会)を開催してきました。以上の相談結果について集計しましたところ、これまでの累計相談数は62件(福岡地区52件、北九州地区6件、筑後地区3件、飯塚地区1件)となっています。その相談内容は東京電力に対する賠償関係が半数以上を占めるものの、雇用問題、ローン問題、津波の被害、親族間のトラブル(離婚を含みます)、生活保護受給の是非、健康保険料の多寡など極めて多岐にわたっております。相談件数そのものについては、復興庁が把握しているだけで福岡県内に700名以上、自主避難者数を含めると2000名以上と推定される避難者数に比し、必ずしも多いとは言えないかもしれませんが、原発賠償問題について3年の消滅時効の適用が取りざたされていることなど考え合わせますと潜在的な需要は否定できないと思います。今後も執行部にご協力いただきさらなる広報、PRに務めたいと考えています。

近時、原発賠償に関する特例法(原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律)が成立し、一般に時効後も原発賠償の提訴が可能になった旨の報道がなされました。しかし、この特例法は、原子力損害賠償紛争解決センターにADRを申し立てて不調になった場合が対象とされているに過ぎず、根本的な解決とは程遠いばかりか、かえって「時効は関係ない」との誤解を招きかねないと思われます。1日も早く抜本的な対策が求められるところです。

また、災害対策基本法が改正され、災害時要援護者の名簿作成が市町村に義務付けられ、災害時には同意なしで外部に提供できることとなりました。個人情報保護法の悪しき萎縮効果が弱まり、障害者ら要援護者に対するきめ細かな支援が可能になることが期待されます。さらに、大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法が制定され、震災復興時に制定された罹災都市借地借家臨時処理法が廃止されました。加えて、大規模災害からの復興に関する法律が新設され、復興に関する諸行政手続の特例がひとまとめにされました。その他被災地域のより迅速、適正な復興を図るべく種々の法整備が進められている状況です。

今後も、災害対策委員会では、震災関連、原発賠償に関する勉強会を継続し、関連諸法令に対する知見を深め、より適切に会員の皆様への情報提供にも努めたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

給費制復活緊急対策本部だより 司法修習給費制を巡る現状報告

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会 員 鐘ケ江 啓 司(63期)

1、政府の「法曹養成制度検討会議」は、本年4月12日に司法修習生に対する貸与制維持という意見を含む、法曹養成制度全体について検討した「中間的取りまとめ」を発表しました。新聞やテレビのニュースで「合格者3000人の計画撤回」「法科大学院の統廃合を進める」などといった見出しで取り上げられていましたので、ご存じの会員も多いことと思います(この原稿を書いている5月13日(月)が中間的取りまとめに対するパブリックコメントの最終期限でした)。

おそらく、パブリックコメントに給費制維持の意見を寄せて頂いた会員もいらっしゃると思いますので、まずはここで一言お礼を述べさせて頂きます。ありがとうございました。福岡県弁護士会においても、弁護士会名義で給費制を復活することを求める意見書がパブリックコメントとして提出されています(意見書の内容は、5月13日に福岡県弁護士会の全会員メーリングリストに紹介されています)。

今後、中間的取りまとめに提出されたパブリックコメントの検討を経て、検討会議からの最終提言がなされ、内閣の「法曹養成制度関係閣僚会議」において、この最終提言を踏まえて平成25年8月2日までに検討を経て一応の結論を出す、という予定となっています。

この短期間しか残されていないスケジュールそのものから分かるように、今回の「中間的取りまとめ」は最終的な閣僚会議の結論に大きな影響を与えることが予想され、今後の弁護士業界がどうなっていくのかを考えていくにあたって重要な資料です。

さて、この記事では、この中間的取りまとめに記載されている給費制の論点について、取りまとめの内容や議論の経緯を説明させて頂いた上で、今後の給費制本部の活動について述べたいと思います。

2、中間的取りまとめは、「第1 法曹有資格者の活動領域のあり方」「第2 今後の法曹人口のあり方」「第3 法曹養成制度のあり方(小目次として「1 法曹養成制度の理念と現状」「2 法科大学院について」「3 司法試験について」「4 司法修習について」「5 継続教育について」)という構成になっています。それぞれの部分につき、現状認識や今後の方針が書かれていますが、内容については、白紙から客観的データに基づいて今後の方針について議論したといったものではなく、民主党政権下での「法曹の養成に関するフォーラム」の「第一次取りまとめ」(一昨年8月)や「論点整理(取りまとめ)」(昨年5月)の内容を踏まえた上での議論がされたものです。

このうち、給費制の問題については、「第3の1(3)法曹養成課程における経済的支援」にて取り上げられていますが、残念ながら、「司法修習生の修習期間中の生活の基盤を確保し、修習の実効性を確保するための方策として、司法修習生に対する経済的支援を行う必要がある。そして、具体的な支援の在り方については、貸与制を導入した趣旨、貸与制の内容、これまでの政府における検討結果に照らし、貸与制を維持すべきである。」ということで貸与制を維持すべき、という内容となっています。さらに、続けて「その上で、司法修習生に対する経済的支援については、司法修習の位置付けを踏まえつつ、より良い法曹養成という観点から、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないよう、司法修習に伴い個々の司法修習生の間に生ずる不均衡への配慮や、司法修習生の修習専念義務のあり方などを含め、必要となる措置を本検討会議において更に検討する必要がある」とされています。要するに、あくまで貸与制を前提とした上で、個別の不公平については対処するというものです。

この中間的取りまとめからすると、まだ給費制復活のための道は半ばであると言わざるを得ません。

3、もっとも、議事録を見ていくと、検討会議発足に際して新しく加入された和田吉弘委員(弁護士)や国分正一委員(医師)、田島良昭委員(社会福祉法人理事長)が検討会議で給費制を復活させるべきという立場から積極的に発言をしたことなどにより、前身の法曹養成フォーラムが平成23年8月に発表した「第一次取りまとめ」の時期よりも大分議論の雰囲気は変わってきて、給費制復活に向けての方向性は見えてきました(法曹養成制度第8回会議の議事録などを見ると、委員の間で激しく意見が対立して、議論が白熱していることが伺えます)。

もともと、貸与制については、国家的財政難を背景に、(1)司法制度全体に対する国民負担の点から多すぎると国民の納得が得られない、(2)司法修習生の数が給費制導入時より増えている、(3)公務員でない者に給与を支給するのは異例である、といった理由から導入がされたものです。

ここで、フォーラムの時は、貸与制への反対意見が挙げる、(1)経済的負担の増大により法曹になれない人が出ること、(2)法曹志願者が減ること、(3)給費制が公共心を養うこと、(4)給費制が、司法修習生が修習専念義務や身分上の制約を受けることの代償措置であること、といった意見は、十分な根拠がないとか、弁護士の所得は高いとかいった理由でばっさり切り捨てられていました。

しかし、実際に貸与制に移行して修習生間に経済的負担の格差が生じてきたことや、法学部生や法科大学院生を対象としたアンケートで経済的不安から法曹への道を断念した人が多くなっていること、現実に法科大学院志願者の減少傾向が止まらないこと(平成25年度の法科大学院全体の志願者は延べ計1万3924人(前年比4522人減)で、合格者は延べ計5619人(同903人減)となり、当初の7万2800人の2割以下に落ち込んでいます)などもあり、法曹志願者の経済的負担の問題は軽視出来ない問題であるという認識は、共通認識になってきています。

実際、貸与制の支持者からも「一昨年の議論はいろいろな事情があったとは思いますが、給費制か貸与制かという二者択一的な話が非常に強くて、いわばバサッと切り捨ててしまうような雰囲気もなかった訳ではないと思います。(第8回における伊藤鉄男委員(弁護士(元次長検事))の発言)」として個別の実情に合せての対応はすべきではないか、といった方向の発言がされるなど、現実の状況の変化は貸与制を主張している委員でも無視できなくなっているようです。

現在、一部の法科大学院関係者は給費制復活に強く反対していますが、今後、現実が積み上がって、議論の俎上に乗っていくことで、貸与制の維持を主張し続けることは、予備試験への流出が多くなり法科大学院にとっても不利益だ、といったことになっていけば、更に議論の流れは変わっていくはずです。

4、この月報記事が掲載される頃には、全国から投稿されたパブリックコメントがインターネット上で掲載され、またパブリックコメントの内容についての法曹養成検討会議が開かれる予定です。また、ビギナーズネットでは、給費制から貸与制への移行について、憲法訴訟を起こす予定だとの新聞報道もあっています。

元々、私の個人的意見としては、一年間も人を無給で拘束することを正当化する理由など存在しないと思っていますが(現行の貸与制の修習制度であれば、存在しない方がまだマシだとすら思っています)、実際に貸与制に移行したことで、その不合理さはより明らかになってきています。給費制本部においても、貸与制の不合理さ、給費にて法曹を育てる必要性について市民の理解を得るための活動を継続して進めていく予定です。会員の皆様におかれましても引き続き暖かいご支援を頂けるように、よろしくお願いいたします。

最後に一言、貸与制の下で修習をされた、新65期の方々は是非一度委員会にお立ち寄り下さい。賛成・反対問わず是非皆様のご意見をお伺いしたいと思っています。歓迎いたします。

福島を訪れて

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会 員 吉 野 隆二郎(51期)

3月1日から2日にかけて福島に行き、貴重な体験をさせていただいたと思いましたので、その報告をしたいと思い、月報に投稿させていただきました。

私が最初に福島県に行ったのは、2002年10月に福島県郡山市で開催される人権大会で、湿地に関するシンポジウムが企画されていましたので、それを見に行くためでした。その後、そのシンポジウムの参加などを契機に有明海の問題に取り組むようになり、現在に至っています。東日本大震災後、なかなか機会はなかったため、初めての福島行きとなりました。

私が、福島県に行くことになったのは、福島県弁護士会から「公害紛争処理制度の活用に関する学習会」の講師として呼ばれたからでした。私は、諫早湾干拓事業に関する原因裁定手続きの事務局長をしていたこともあり、日弁連の中でも公害紛争処理、特に原因裁定手続きに詳しい弁護士という扱いになっていました(2010年には近弁連の勉強会の講師をしました)。福島県弁護士会の方からの要請に対して、福島の被害に対して、何か私で役に立てることがあればと思い、講師を引き受けました。勉強会は、3月1日の午後5時30分から2時間程度行われました。参加申込者が36名と聞き、福島県弁護士会の会員の人数を調べましたところ、156名でしたので、かなりの割合の方が参加されるのだと身の引き締まる思いがしました(実際には、8名が修習生でしたが、それでも28名の会員に対して話しをしたことになります)。原発賠償のADRの限界が見えだしているところで、裁判以外にも何か福島の被害を回復するための手段がないかとの思いからの企画とのことでした。私なりに原因裁定手続きを行った経験をふまえた話しをさせていただきました。同日は、懇親会も開催していただき、本田哲夫会長を始め何名かの会員には2次会までお付き合いしていただきお世話になりました。

翌日は、日弁連の公害環境委員会の委員でもある福島県弁護士会の湯坐聖史会員に案内していただいて、現場の状況について関係者の話しを聞くことができました。今回の勉強会を開催するきっかけは、湯坐会員が、福島県の内水面に水産関係の被害の問題について公調委を利用できないだろうかという問題意識から始まったとのことでした。それなら湯座会員が念頭に置いている事案の現場を見れば、より的確なアドバイスができるのではないかと考えたことから、翌日である2日に現場の案内をお願いしたところ、快く引き受けていただきました。午前は、矢祭町(合併をしない宣言をした有名な町です)にある河川の内水面漁業者のお話を聞くことができました。河川のある場所は、福島県の中では線量の低い方の場所なのですが、山を経由して川にセシウムが流れ込んでいて、イワナから基準値以上のセシウムが検出され、国による採補等の禁止措置がなされたりするなどの被害を受けているとのことでした。川の様子だけ見ると、山の間を流れるきれいな川で、とてもその川の魚がセシウムを体内に蓄積しているとは思えませんでした。午後は、雪が降る中を、郡山市にある鯉の養殖(食用)の業者のお話を聞くことができました。鯉は、養殖池の底の部分の泥を食べるため、底に集まっているセシウムを体に取り込んでしまうとのことでした。国の基準値を超えているわけではないようですが、セシウムが検出されるということで、イメージダウンは大きいようです。そのため、福島県が鯉の養殖の日本一の生産地だったのが、現在は茨城県が1位だそうです(しかし、茨城県も霞ヶ浦などにはセシウムがたまっており、福島県と同様の状況にあるようです)。どちらの例でも言えることは、山に降ったセシウムが、川などを伝わって徐々に、下ってきており、その影響から、特に内水面の漁業は深刻な状況にあるということでした。セシウムの半減期等から考えると、このような状況はかなり長期間及ぶことが予測されます。福島における被害はずっと継続し続けるということを実感することができました。貴重な機会を与えていただいた福島県弁護士会へ感謝するとともに、福島県の被害の問題について、今後も私なりに何らかのお手伝いができたらと思っております。

毛利甚八さんが語る「弁護士のかたち」 ~5月22日定期総会記念講演のお知らせ~

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業務事務局長 知名健太郎定信(56期)

毎年、定期総会に先立ち行われる記念講演ですが、今年は、5月22日午後1時から、漫画「家栽の人」(小学館・1987~96)の原作者である作家の毛利甚八さんにご講演いただくことになりました。そこで、ここでは、簡単に毛利甚八さんのご紹介をさせていただきたいと思います。

1 毛利さんは、雑誌のライターとして生計を立てていた28歳のころ、ビックコミックオリジナルの編集長に声をかけられ、家裁の裁判官を主人公にした漫画の原作を手がけることになりました。法律的な知識がほとんどなかった毛利さんは、はじめて手にした六法に書かれていた「審判は懇切を旨として、和やかに行わなければならない。」(2000年改正前少年法22条1項)を文字通りうけとり、そこからあの桑田判事が生まれたのでした。

家事・少年事件という一見して地味なテーマを扱いながら、人間の本質を描くストーリー展開は、今見ても色褪せることはありません。また、裁判官や弁護士といった法曹関係者が読んでもまったく違和感のない正確な描写にも頭が下がります。まだ、読んだことがない方は、ぜひ講演の前にご一読されることをお勧めします。

余談になりますが、福岡県弁護士会所属の大谷辰雄弁護士、八尋八郎弁護士がモデルと言われる登場人物が出てくる点も、当会会員にとっては見所と言えるでしょう。

「家栽の人」が、司法というものを市民に分かりやすく伝え、身近なものにしたという功績は、非常に大きかったと言えます。

2 他方で、毛利さんは、自らが描いた「家栽の人」の世界と実際の裁判所のあり方のギャップに悩むこともあったといいます。

そのようななか、現実の裁判所がどういうところかを確認し、また、司法はどうあるべきかを訴えかけるため、毛利さんは、裁判官へのインタビューを中心とした「裁判官のかたち」(現代人文社・2002年)を書かれました。この他、自ら中津少年学院において篤志面接委員を務めている経験も踏まえて、「少年院のかたち」(現代人文社・2008年)なども書かれています。

3 法曹人口の増加や相次ぐ不祥事などにより、弁護士が置かれた状況は、「家栽の人」の時代から大きく変化しました。

このような時代のなかで、市民は弁護士をどのように見て、何を期待しているのか。また、弁護士は、市民の信頼を回復し、自分たちの活動を理解してもらうためにどのような情報発信をすべきなのか。

司法をわかりやすく市民に伝えつつ、他方で、司法がどうあるべきかを問い続けてきた毛利さんだからこそ、激動の時代におかれた弁護士が新しい「弁護士のかたち」を見つけるためのヒントをくれるかもしれません。

これまで日弁連や各弁護士会で、数多くの講演を経験された毛利さんですが、”弁護士”をテーマに講演をするのははじめての試みということです。ぜひみなさん、奮ってご参加ください。

<毛利甚八さんのその他の法律関連著作>

・漫画原作

「裁判員になりました」、同PART2、

同番外編(日本弁護士会連合会)

裁判員の女神(実業之日本社)

研修「DV被害及びDV被害者支援と法的処理の基礎知識」のご報告

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両性の平等に関する委員会
相 原 わかば(55期)

1 はじめに

去る2月14日、精神科医の佐藤真弓先生と、当会会員の松浦恭子先生に講師を務めていただき、表記の研修会を行いました。

これは、犯罪被害者の支援に関する委員会、両性の平等に関する委員会が共催して行ったものですが、当会が、平成25年度に実施を目指すDV被害者支援制度の相談担当弁護士名簿の登録要件とすることを予定した研修でした。なお、その後、DV被害者支援制度が正式に発足した後、当日の研修のDVD録画を上映する形で、改めて登録研修を実施することになっております(福岡部会で4月8日と17日に実施予定、他各部会にて実施予定)。

DVについては、2001年にDV防止法が実施された後、2度の改正を経ておりますが、行政機関における認知件数、裁判所への保護命令申立件数も増加しており、深刻な被害も後を絶たない状況です。DV被害が家庭内という密室で生じ、被害者が孤立させられがちであることに鑑みれば、まだ法的支援にアクセスできていない被害者の存在も少なくないと考えられます。このような現状から、当会では、DV被害者が法的支援にアクセスできるよう広報等を充実させると共に、上述のDV被害者支援制度として、保護命令を検討し得るようなDV事案について無料相談制度を創設すると共に、今回の研修を企画した次第です。

本研修では、松浦恭子先生から、「DVが問題となる事件の実務について」と題して、DV支援に関する行政・司法の制度と実務の現状を、佐藤真弓先生から、「DV被害への理解と留意点」と題して、DVの背景・被害者心理などにつき、ご講義いただき、この種事案に対応する上で大変実践的な内容でした。

2 DV事件の実務について

松浦先生のお話では、まず、相談時の留意点として、被害者の中には、正確に出来事を話せなかったり、どうしたいのか考えがまとまらなかったりする人も少なくないけれど、それこそがDVの影響と理解できるということです。

DVによって、支配されたり、尊厳を奪われた状態に置かれていると、自分の言うことや自分の考えを持つことさえ封じられてしまいます。また、ひどい目にあったのだから記憶している筈というのは正しくないこと、被害者は必ずしも別居・離婚を希望したり決意したりしてはいないかもしれないことに留意が必要です。

相談に当たる上では、被害者が安心して話ができるよう受け止めることが大切で、また、私達弁護士ら支援者にあたる者は、その人自身の意思決定のスピード、タイミングを大事にして、その人自身が持っている力で回復できるよう手助けするスタンスが必要ということです。また、相談者の安全な生活を確保することが大事で、殊に、居所等の情報の取扱いには注意を要するところです。

また実務では、法的手続の他、新たに健康保険に加入したり、世帯主に支給されていた児童手当等をつけかえたりする手続について相談されることが多々あります。これらについても、例えば、健康保険の場合には、配偶者(例えば夫)の健康保険の被扶養者から抜けて、新たに国民健康保険に加入するには、通常、被保険者(例えば夫)によって資格喪失証明書を得てもらわなければなりませんが、DV事案の場合には、行政の援助証明書を得ることで、被保険者の協力なしに手続ができます。また、児童手当は、離婚を前提とする別居事案では、受給者の付け替えができますが、児童扶養手当の方は、本来、「1年以上遺棄されていること」との要件が必要であり、このため多くは離婚後にしか受給できない実情にありました。しかし、平成24年の政令改正で、保護命令を受けた事案については、「保護命令確定証明書」をもって受給できる扱いになった旨教えていただきましたが、この点、あまり知られていないのではないでしょうか。

その他、保護命令制度の要件や運用実態のご説明と共に、申立人の居所などの情報の取り扱いを誤り、申立人を危険にさらすことがないよう配慮すべきポイントをご教示いただきました。

3 DV被害の理解について

佐藤先生からは、最初に、DVの本質・背景につき、お話いただきました。

重要なのは、DVが決して個人間の問題ではなく、それを生じさせ、助長させていく背景として、性別役割分業の強制、結婚に関する社会的通念(「結婚して一人前」)、世帯単位の諸制度、子どもをめぐる社会通念(「一人親はかわいそう」)、経済的自立の困難、援助システムの不備などがあるということです。

これらが、外部社会の状況が、社会装置として働いて、DVの様々な力と支配の形態―身体的暴力の他、心理的暴力、経済的暴力、性的暴力、子供を利用した暴力、暴力等の過小評価・責任転嫁、社会的隔離など―を支え、助長させていくとの指摘は、具体的で大変分かりやすい内容でした。
DVの形態につき、具体例を挙げれば以下のようなものです。

心理的暴力:いわゆる暴言の他、「あーいえば、こーいう」式で追いつめ女性が切れると攻撃する、欠点等を執拗に言い、言われた方が気が変になったのではないかと思わせる、罪悪感を抱かせる等

経済的暴力:女性が職に就いたり仕事を続けることを妨害する、家計管理を独占する、支出を事細かく問いただす等

性的暴力:望まない性行為、性欲を満たす対象とする、避妊に協力しない、子供に分かるのに性交を強要する等

子供を利用した暴力:母親として至らないと思わせ正当な権利や要求を封じ込める、子供に母親の悪を吹き込み子供に責めさせる、子供の前で暴力を振るい侮辱する、子供を虐待し(または虐待すると脅し)しかもそれを女性のせいにする、「子供を渡さない」と脅し別れる力をそぐ等、

暴力等の過小評価・責任転嫁:暴力の深刻度や女性の不安な気持ちを過小評価する、相手のせいにする、「お前が怒らせた」等

社会的隔離:仕事・社会活動を制限する、事細かく問う、会う相手の悪口を言ったり嫉妬心をむき出しにして女性の方から人に会うのを断念させる、行動制限の理由を愛情によると正当化する等

また、佐藤先生は、DVの理由は往々にして誤解されているとおっしゃり、「アルコールのせい、怒りが抑えられないせい、ストレスがたまっているせい、言葉で表現できないせい」等というのは間違いであると共に、DVが正当化される事由はないと指摘されます。DVが振るわれる理由は、加害者がジェンダーや人権に歪んだ価値観をもっていること、暴力を甘く見ていること、自分の感情が育っていないこと等だといい、実際の事案を通して実感されると言います。

そして、DV被害者は、何をしても無駄だと学習し、自分が無価値なものと洗脳される結果、本来その人に備わっていた筈の諸々の力が奪われます。また、時にPTSDにみられる症状に悩まされるといいます。

さらに佐藤先生は、DVは子供に深刻な影響を及ぼすことにつき、児童虐待防止法が、DVの目撃も心理的児童虐待に当たる旨定めていることを挙げて強調されました。人格の成長に不可欠な安全・安心・安定が決定的に不足すること、自尊感情が不十分な大人になること、加害者の価値観や行動を学習したり、被害者を見下したり、自分の安全との選択を迫られたりし、長期的に深刻な影響があるといい、現在の実務で監護者や親権者の判断においてDVが過小評価されているのではとの疑問も示しておられました。

そして、支援者に必要なことは、「それはDVで、あなたは被害者である。NOという権利がある。しかし、何事もあなたの決断を待ってから。一緒に考えていきましょう」というスタンスであり、「支援者が最善の方法を考えてあげる」のではないということです。この点は、松浦先生のお話にも出ていましたが、被害者の立場を理解して、無力化された被害者が自分自身の力に気づき、取戻していくことを支援する、回復の方向、スピード、方法を選択するのは被害者自身だということです。

佐藤先生には、時間の関係で全てをご説明いただくことができませんでしたが、大変詳しいレジュメをご用意いただいております。

4 研修を終えて

私自身も、DV事案を扱っていますが、今回の研修は、本質を言い当てて、よく整理していただいており、大変分かりやすい内容でした。

DV事案では、相手方への対応は勿論、情報管理や依頼案件以外の付随事務に神経や労力を使いますが、被害者の心が定まらなかったり、話にまとまりがなかったりして苦労することも少なくありません。そんな風に苦労して支援しても、加害者の下に戻ってしまう例も中にはあります。が、何度も躊躇して、ようやく踏み出せる一歩があります。私達弁護士は、「こんなことで相談していいのか」「私の話なんか聞いてもらえるのか」という不安のトンネルを抜けて、やっとたどり着いた「支援機関」です。その決意に敬意を払うと共に、もし本人が事態の打開を決意できなくても、望む時にはいつでも支援の手があることを知ってもらうことが大切です。また、DVの背景となる価値観につながる言動を不用意にしていないかどうかも注意しなければなりません。

また、DV事案は苦労も多いですが、両先生が述べておられたとおり、被害者自身が力を取り戻していく過程に立ち会うのは、感動を覚えますし、やりがいがあります。

DV被害者支援制度に登録していただくと否とにかかわらず、本研修を多くの会員に受講していただければ幸いです。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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