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カテゴリー: 月報記事

偽装質屋被害者110番と消費者委員会の 取り組み

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消費者委員会 河 内 美 香(57期)

1 110番実施の状況~台風に負けました

平成26年8月10日(日)、「偽装質屋被害無料電話相談会」を実施しましたので、まず、その結果を、簡単にご報告します。

110番当日の電話の件数は「4件(うち、偽装質屋関係の電話は、2件)」でした。

今回の110番は本当に残念な結果でした。事前に(2日前の8月8日、なお、この日は業者及びその代表者に対する刑事判決言渡日でした。)、記者レクを行った際の記者の方々の関心は「高い」と感じていたので、正直、がっかりしました。おそらく、週末に迫っていた台風報道に110番報道が吹き飛ばされてしまったようです。

110番自体は極めて低調で、ご報告できることはこの程度です。

とはいえ、今後、本件に関し、被害者の方から、法律相談を求められる場合もあると思われます。そこで、「偽装質屋」問題と消費者委員会における取り組み及び破産手続の状況を説明いたします。

2 「偽装質屋」問題と消費者委員会における取り組み

平成24年10月、福岡県警が、福岡県内及び近隣の県で質屋営業を行っている業者(2社)に対し、貸金業法違反等の容疑で捜索・差押えを行いました。

当時の報道によれば、上記業者は、高齢者等に融資を実行する際、貸付金に対し担保価値のない安価な物品を預け入れさせつつ、一方で、年金等公的給付が振り込まれる口座から口座振替させるなどの方法で返済を受け、実質的には年金等公的給付を担保に貸付を行っていたとされています。この業者は質屋営業であることを理由に、金利は、月8%もの高金利(年利96%)を受け取っていました(質屋営業法上の上限金利は109.5%)。この事件は、新聞・テレビ等で大きく取り上げられ、このような形態をとる業者は、以後、「偽装質屋」という名称で報道されるようになりました。

この報道により、上記業者から貸付を受け高利の利息を支払っていた被害者の相談が顕在化するのではと予想されたことから、消費者委員会所属の弁護士が中心になり、同年11月、北九州・福岡・筑後の3カ所で、被害者説明会や無料電話相談会を実施しました。その後、黒木和彰消費者委員会委員長が団長となり、違法質屋被害者弁護団が立ち上がりました。

3 上記業者の破産事件の状況

福岡地方裁判所において、上記2社の破産手続きが進行しています。破産手続の進捗状況は、以下のとおりです。

  • 平成25年2月 債権者破産申立
    *この破産申立は、破産法23条(国庫仮支弁)の適用が初めて認められたケースでもあります。
  • 平成26年1月7日 破産手続開始決定(破産管財人 髙松康祐弁護士)
  • 平成26年7月31日 債権届出期間及び債権調査期間の決定
4 最後に

今回の110番の広報のため、対外広報の関係で、原田直子先生、塗木麻美先生に多大なるご助力をいただきました。この場をお借りして、お礼申し上げます。

奨学金問題研修会のご報告

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会 員 清 田 美 喜(66期)

1. はじめに

生存権対策本部では、去る7月30日、東京弁護士会の岩重佳治先生を講師にお招きして、奨学金問題研修会を開催しました。この研修会には一般の方も参加が可能で、行政機関から聞きに来られた方もいたようです。また当会からも、事前に呼びかけを行った子どもの権利委員会、消費者委員会、生存権対策本部を中心に、大勢の先生方にご参加をいただきました。当日の様子と、奨学金問題の概要をご報告申し上げます。

2. 日本の奨学金制度とその問題点

日本の奨学金には、日本学生支援機構のもの、行政が行っているもの、他の民間団体が行っているものがあります。そして、これらのほとんどは貸与型、すなわち将来返済をしなければならない奨学金です。日本では、奨学金を返済することは当たり前のように思われていますが、諸外国では、学費を無償化することや給付型(返済不要)の奨学金によって進学費用を援助しており、貸与型の奨学金はそれらを補うものにすぎません。海外では、貸与型の奨学金は奨学金ではなく、「学資ローン」と呼ばれています。

日本では、高等教育にかかる学費が高額であることに加え、雇用環境の変化に伴って家計が厳しくなり、学生の多くが奨学金を借りざるを得ない状況にあります。それにもかかわらず貸与型の奨学金が多いということは、進学するためには否応なく借金をしなければならないということを意味します。

さらに、現在の日本の社会状況では、借りた奨学金を返済していくことは、さほど簡単なことではありません。非正規雇用など不安定で低賃金の働き方を強いられている人が多く、返済に十分な収入を得られない人も少なくありません。加えて、多くの奨学金の貸し手である日本学生支援機構が、返済の免除の要件を非常に厳しくしていることや、延滞金が発生すると免除が認められないこと、容赦ない取り立てを行っていることなど、借り手にとって非常に厳しい制度設計・制度運営をしていることから、多くの若者がこの問題で苦しんでいると考えられています。

3. 声を上げにくい問題

他方で、奨学金の問題は、これまでなかなか顕在化してきませんでした。それは、奨学金の返済に苦しむ人が、声を上げることを躊躇してしまうためだといわれています。岩重先生も講義の中で、「当事者が声を上げられない状況を打破したい」とお話しされていました。なぜ声を上げられないか、ということに対する岩重先生の分析は、借り手が自分は助けてもらう価値があると思えないと感じていることと、相談する価値がない話だと感じていることにあるのではないか、というものでした。「勉強するために借りたお金だから、多少無理をしてでも返さないといけない」という借り手の真面目さが、この問題を人目に触れにくくしていると言えると思います。

現状を打破するために、岩重先生が提案されていたのが、相談できる窓口を作ること、相談されたら何とかなるということを示すこと、返せないのは自分のせいではないということを周囲が理解できるようにすること、でした。

相談窓口の一つとして、本年6月15日に当会でも実施した、奨学金問題に関するホットライン(電話相談)が挙げられます。このとき、私自身は電話を取る機会はありませんでしたが、他の先生方の対応を聞いていると、子どもが借りた奨学金のことで高齢の親が相談してくるなど、連帯保証人からの相談もあったようです。

奨学金を借りる際、保証人は自然人保証と機関保証とが選べるようになっていますが、ここで自然人保証を選ぶと、借りた本人が破産しても保証債務が残り、連帯保証人になってくれた親などに迷惑をかけることになるため、破産が事実上できないという問題があります。そのような奨学金ならではの問題に直面した場合、どのような点に注意し、また対応すればよいのかについて、研修会では詳細なQ&Aを配布していただきました。奨学金は多くの人が抱えている可能性の高い負債です。弁護士のところに相談が持ち込まれる場合もあると思います。どのような場合に返済期限の猶予や返還免除が認められるのかなど、弁護士も奨学金制度についてきちんと把握していく必要があると言えます。

4. 社会的な課題の解決に向けて

現在負債を抱えている人が、現状の制度を活用して、少しでも状況を改善することも急務です。それに加えて、奨学金問題は、学費が高額である、奨学金のほとんどが貸与型である、労働環境が悪いといった日本の社会構造に起因しているものですから、その社会構造を変えていく必要があります。学費にもっと公費を投入し、生まれた家庭の経済状況にかかわらず、子どもたちが十分な教育を受けられるようにすることや、給付型の奨学金を増やすこと、非正規雇用の増大を止め、労働環境を向上させること―いずれも困難な課題ですが、若者が安心して勉強でき、安心して社会に出ていけるようにするには、不可欠な取り組みであると言えます。
私の周囲でも、多くの同級生が当たり前のように奨学金を借りていましたし、「司法試験に合格できなかったら奨学金はどうやって返せばよいのだろう」と途方に暮れていた姿も記憶に残っています。若者に借金を強制することがおかしいということに、日本の社会がなかなか気づかないのは、これまでそれが当たり前と思われていたことにも原因があるのだと思います。若者は社会の未来の担い手であって、その学びや成長は、個人の利益にとどまらず、ひいては社会全体の利益につながります。教育に対する考え方が変わり、学費や奨学金のあり方を変える日が、一日でも早く訪れてほしいと思います。

あさかぜ基金だより

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会 員 西 村 幸太郎(66期)

いわゆる「若者問題」、すなわち、多額の支出を強いるロースクル制度の是非と、法曹人口増加による若手の就職難等の問題が叫ばれて久しく、現在も、活発に議論がなされているようです。一方で、いわゆる「司法過疎偏在問題」は、一時に比べると、議論も落ち着いてきたようで、ゼロワン地域が解消されたことによって、同問題は解決済みだとする見方もあるようです。しかし、ゼロワン地域が解消されたことが、イコール司法過疎偏在問題の解決というわけではありません。そもそも、ゼロワン地域とは、「地方裁判所の支部が管轄する地域区分内に、法律事務所などを置く弁護士の数が、1名しかいない、あるいは全くいない地域」を指すところ、この定義から分かるとおり、便宜上、裁判所の支部を基準に設定されたものであり、裁判所の支部がない地域であっても、リーガルサービスを必要としている過疎地域は存在するのですから、ゼロワン地域の解消によって、弁護士会の当面の目標は達成したとしても、司法過疎偏在問題が解決したとみるのは、早急に過ぎると思います。司法過疎偏在問題は、古くて新しい問題であり、今なお取り組むべき重要な問題であると考えています。

ところで、私は、司法過疎偏在問題への取組みの起源を、司法制度改革にあるものと理解しています。司法制度改革は、2000年頃から着々と進められてきたものですが、意外と、その内容をよく理解している人も少ないのではないかと感じているところです。私も、細かい議論にまで精通しているわけではないですが、以下では、私なりにかみ砕いて理解している、司法制度改革の概要についてお話させていただこうと思います。

日本は、従来から、行政が、護送船団方式によって、強力な事前規制を行うことによって、事後的な紛争を避け、適正な経済活動を担保していました。しかし、不景気の影響もあり、事前規制は抑制し、ある程度自由な経済活動を行わせつつ、紛争が生じた場合は適切な事後的解決を行うことによって、適正な経済活動を担保していくという方向性にシフトしていくべきではないかという風潮が強くなっていきます。そして、ついに、いわゆる「規制緩和」がなされることになります。これが、行政改革です。その後、立法の分野でも、小選挙区比例代表並立制が採用され、より民意を反映できるように立法改革がなされます。残るは司法改革ですが、規制緩和を行った日本では、事後的な紛争解決の制度として、司法の役割が益々大きくなっていきます。そこで、司法制度改革では、(1)ロースクールの設立と(新)司法試験、(2)法テラスの設立、(3)裁判員裁判の開始を大きな柱として、改革を進めることとなりました。具体的には、(1)良質な法曹を育成するため、実務をにらんだ教育機関であるロースクールを設立し、実務家としての資質を図るために、試験内容も大きく検討し直すことになりました。また、合格者を増やすことで、法曹人口の増加を図り、マンパワーを確保し、リーガルサービスの行き届いていない地域にも、これを行き届かせようとしたのです。そして、(2)法曹と市民の距離感を縮め、法曹による紛争解決が望まれるケースを拾い上げるために、公的な機関として「法テラス」を設立することになりました。更に、(3)これまで、日本では、市民にとって、裁判の世界が縁遠いものであるという風潮があったので、市民が裁判に参加し、裁判の世界を身近に感じられるようになることで、市民が法曹による紛争解決について興味を持ち、法曹と市民の距離感を縮めようという狙いがあって、裁判員裁判が開始されたものといえるでしょう。こうした取組みにより、紛争解決の砦として「司法」が機能し、より身近にリーガルサービスを提供できるようになるとともに、全国津々浦々に、満遍なくリーガルサービスを提供できるようにしていこう、としたのが「司法制度改革」といってよいと思います。
以上述べた司法制度改革のスローガンは、「法の支配の国民的浸透」でした。つまり、法による紛争の解決を、日本の全国民が受けられるようにしていこうということです。この過程で、司法過疎偏在問題についての取組みの必要性が叫ばれるのは必然のことであり、私は、司法制度改革で掲げられたスローガンの達成のために、今なお取り組んでいくべき重要なテーマだと認識しています。

先日、当事務所の所員である島内崇行弁護士が、壱岐ひまわり基金法律事務所へ赴任することが決まりました。同じ所員として大変喜ばしいことだと思っております。当事務所は、司法過疎偏在問題に正面から取り組み、所員各人が、日々、赴任に向けて、精進しているところです。67期の2人を採用していただくことも決定し、これからも、司法過疎偏在問題の解決に取り組んでいく所存ですので、どうぞ宜しくお願いいたします。

長々と書いてしまいまして本当に恐縮ですが、本稿が、司法過疎偏在問題に興味をもつ一助となり、また、先人達が、いかにして司法過疎偏在問題に取り組み、成果を上げていったかを知るひとつのきっかけとなれば、幸いです。

給費制維持緊急対策本部だより 「司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める福岡集会」の報告

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司法修習費用給費制復活緊急対策本部 副本部長
千 綿 俊一郎(53期)

1 はじめに

福岡県弁護士会では、平成26年9月6日土曜日、福岡市中央区天神のエルガーラホールにて、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会、ビギナーズネットとの共催により、「司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める福岡集会」を開催しました。

当日は、「給費制」というマイナーな問題であるにも関わらず、たくさんの市民の方を含め170名を超える、エルガーラの中ホールがびっしりと埋まるほどの参加者がありました。

改めて、ご協力いただいた関係各位の皆様に感謝申し上げる次第です。

2 基調講演

当日は、法政大学教授の山口二郎先生から、「法律家育成という社会的作業」という基調講演を頂きました。

司法の位置づけとして、「多数決原理に対するブレーキ」という意味で「権力分立の柱」であること、公害事件や薬害事件のように「裁判が政策形成を担っている」という点を強調されました。

そして、「司法への市民参加」や「市民感覚を持った法律家の育成」という司法制度改革の目指すべき方向自体は正しかったけれども、経済的支援が見送られたために、格差社会を反映して、法律家になることをあきらめる若者が続出してしまっていることなどの問題点を指摘されました。

また、具体的データを用いて、現在の日本の経済情勢を分析されており、「企業収益と雇用者報酬」が逆方向に進み、富める者はさらに富み、困窮するものがさらに困窮するという状況があり、教育や人材育成という場面にしわ寄せがきているとのことでした。

安定した収入のない若者に対して、「自己責任」という名の下に、義務や負担だけを課すのは相当でないこと、高等教育については、特に「自己責任」という感覚が強いかもしれないが、経済的理由で高等教育を受けられないのは、やはり社会にとって損失であることなどを指摘されました。

さらに、国際比較をした上で、子どもの貧困の問題、特に高等教育での格差の深刻度が日本では著しいことなどをご説明いただき、「社会的共通資本」である法律家を育成するのが、社会の安定や経済の発展のためにも必要であるということを述べられました。

最後に、「なぜ、修習生だけ優遇するのか」などと言われることがあるが、そのような意見ばかり言っていては「高等教育・法曹育成における格差」を是認するだけであり、妥当ではない、修習生のこの問題こそが高等教育における機会均等実現のための突破口であるとの意見を述べられました。

3 関係団体や市民の皆様からのエールなど

福岡県医師会、福岡県社会福祉協議会、企業経営者、消費生活アドバイザーの関係団体や市民の皆様から、「法曹を目指す者への経済的支援が必要不可欠である」という熱いエールをいただきました。

それぞれ、日ごろの弁護士らとの関わりから、具体的体験に基づいてお話しいただき、非常に心強いメッセージでした。

それに引き続き、大学生や大学院生からは、これからの司法の担い手を目指す熱い思いを語っていただきました。

4 国会議員のご参加

国会議員ご本人にも複数ご参加いただきましたので、以下、ご紹介します(発言順)。

河野正美議員(衆議院、日本維新の会)は、ご自身が精神科医であるということで、「市民のための権利擁護という点で共通する、しっかり、養成していくべきだ」ということをご発言いただきました。

また、野田国義議員(参議院、民主党)からは、「今、問題となっている格差是正という意味で取り組むべき課題と思っている」、「市長をしていた経験から行政にも弁護士職員が必要と考えている」というご指摘をいただきました。

仁比聡平議員(参議院、共産党)は、「参議院の法務委員会で給費制問題を取り上げたこと、その際、3回のどよめきが起こった((1)1回で期限の利益を喪失して、14.6パーセントの遅延損害金が付くこと、(2)保証会社がオリエントコーポレーションであること、(3)国税庁の調査で弁護士の年の所得が70万円に届かない人が2割に上っている)」、「議員としても実態に目を向けなければならない」という意気込みをお話しいただきました。

原田義昭議員(衆議院、自民党)は、「この運動は長く続いてきているが、そろそろ具体的な方針を出さなければならないと考えている。以前の給費に戻すという案も財政上の問題から難しい面はあるが、他の諸々の援助、支援もあり得るので、例えば、研修医に準じた経済的支援など、具体的な案を出す段階であると考えている、日弁連の具体的運動も工夫して欲しい、また『なぜ弁護士だけが』という声を乗り越えていかなければならない」という説明がありました。

また、国会議員秘書、地方議会議員からも多数ご参加いただき、ご欠席の国会議員からも多数のメッセージを頂戴しました。

5 今後

自民党が、今年の4月に「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」を出し、「司法試験合格者数は、まずは、平成28年までに1500人程度を目指すべき」などと、司法改革審議会路線の修正を打ち出しています。これに引き続き、今年度中に、法曹養成についても、さらに踏み込んだ意見がなされるのではないかとも予想されています。

同じく、与党である公明党は、今年の4月に「修習手当のような制度を創設すること」「研修医に準じて経済的支援を行うべきこと」「貸与金の猶予、免除の要件を緩和すること」なども提言しています。

このような政治情勢の中、弁護士会としても、より一層の意見表明、積極的運動を継続していかなければならないと思います。
引き続きのご理解、ご協力をどうぞよろしくお願いします。

「転ばぬ先の杖」(第8回)~離婚事件の「転ばぬ先の杖」って何だろう~

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会 員 東 敦 子(52期)

「転ばぬ先の杖」というお題で・・とある弁護士にお願いしたのに、「私は転んでばっかりだから、そんなテーマは書けませんねえ。」ときっぱり断られてしまいました。ということで投げたボールが上手いこと打ち返されたため、東が担当させていただきます。
さて、私が受ける相談の多くは離婚(女性、たまに男性)。離婚のときの「転ばぬ先の杖」って何でしょうか?
離婚については、インターネットで検索すると様々な情報が出ており、弁護士に相談に来る前に予備知識を持っている方が多くなりました。ですが、情報が多すぎて、不安になっている人が増えた気がします。また、相談に来られる方の多くは、弁護士には「はい」か「いいえ」を求めておられるのですが、どうして、そんな質問をしているのか、どんな事情があるのかを聞かないと簡単には回答できないことばかりです。
普段の相談を振り返ってみますと・・・

Aさん「離婚したいって、先に言い出したら不利になるんですよね。」
このAさんタイプの質問をはじめて聞いたとき「都市伝説・・・?」と思いました。先に言い出したから、不利ってことはないしなあ・・・。こんな場合はどうでしょうか。~Aさんは単純に夫との性格の不一致で離婚がしたかった、ところが、Aさんの夫には浮気相手がいてAさんと離婚したいと思っていた。Aさんは、夫の浮気を知らないまま、本来、慰謝料が請求できるのにそれに気づかないまま離婚。夫の方はしばらくして再婚し、内心ラッキー~。まあ、先に言い出したから不利になったというわけではありませんが、いつのタイミングで切り出すのか、相手に離婚を切り出す前に、弁護士に相談しといてよかったわあと言っていただくこともあります。

次は、限りなく心配性のBさんです。
Bさん「私はずっと専業主婦です。夫から『お前は子どもを育てられないから、親権は取れないぞ』って、本当ですか?」
わたし「まだお子さん小さいですよね。生まれてからも、今も、お世話しているのはお母さんでしょう?」
Bさん「でも、夫は『お前と別れて、再婚でもして、その女性が育てるからいい、俺の親が育てるからいい、家事なら家政婦雇うからいい』って言うんですよ。」
わたし「再婚相手も義母も家政婦さんも『お母さん』の代わりはできないし。」
Bさん「でも、でも、私は何の資格もないし、子どもを大学に行かせられないかも。」
わたし「まだね、赤ちゃんだし、大学はもう少し先のことですよね。今、お子さんが小さいうちに、お母さんも仕事のこと頑張ってみませんか。離婚して、生活基盤が弱くても、母子を支援する制度もあるし、就業支援もありますよ。私の依頼者の方で、専業主婦だったけど、県外の母子寮に入って、看護師になった人もいるし、保育士になった人もいますよ。」
Bさんは、子どもの生活のことを思うから、将来のことを思うからこそ、自分が育てていいのか、悩みます。「子どもさんのことを、こんなに真剣に考えて悩んでいるあなたこそが、親権者にふさわしいのですよ。」Bさんは大泣きして、そのあと笑顔になって、帰っていきました。人生の大きな転機を迎えて、不安で押しつぶされそうなとき、励ましたり、支援機関につないだりすることも弁護士の仕事です。

最後に、DV加害者のCさん(男性)です。ある日、とても暗い表情で、訴状をもって相談に来られました。Cさんの暴力で大けがをした妻から届いた訴状でした。Cさんの相談は「僕は離婚したくありません。」でした。
わたし「ごめんなさいね。あなたの希望にそう結論は出せないと思うから、私は代理人になれません。」
Cさん「どうしてですか?僕のことを軽蔑するからですか?あなたが女性だからですか?」
わたし「そうではありません。この事件の内容では、私がどんなに頑張っても、離婚しないという結果を出すことはできない、それを私がわかっているから、あなたに正直に伝えているのです。」
Cさん「僕は、妻のことが大切だ。ちゃんとやり直せる。」
わたし「あなたはそう思っている。でも、奥さんはそう思っていない。私には奥さんの気持ちを変える力はない。そうなると最終的には裁判所が判断するのです。私は、裁判所は離婚を認めると思います。だから、離婚したくないというあなたのお役には立てない。ごめんなさいね。」
こんな会話が1時間、いえ、2時間は続いたでしょうか。Cさんは「わかった。僕は、あなたに代理人を頼みたい。離婚する方向で話し合いをするが、自分の意見も伝えてほしい。」と真剣に言われました。「私が代理人でよいのですか?もし、途中で気持ちが変わったら、言ってください。」と私も腹をくくって受任しました。もちろん、Cさんが簡単に割り切れたわけではありません。訴訟は離婚の方向で話し合いを続けたものの、その後の打ち合わせのときも、Cさんの気持ちは揺れ続けていました。寂しい、僕だけが悪いのか?僕が妻に手を挙げたとき、僕なりの理由はあったんだ・・・。普段は、妻の代理人をすることが多い私ですが、Cさんの立場からみた夫婦の関係、妻への思いを、一つ一つ受け止めていきました。Cさんにとって、とても苦しい時間だったと思います。Cさんは、私を解任することはなく、裁判所の和解離婚も受け入れました。Cさんが苦しみながらも離婚を受け入れた理由は「これ以上、妻に嫌われたくない。離婚したいっていう妻の希望を叶えてあげることにした。離婚は嫌だけど、受け入れる。」でした。
私は、Cさんの「転ばぬ先の杖」にはなっていませんが、転んでしまったけれど、次に進むための小さな杖にはなれたかもしれません。

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