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精神保健当番弁護士22周年記念公開シンポジウム「改正法における早期退院と弁護士の役割」報告

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会 員 寳 耒  隆(66期)

1 はじめに

2月21日、セントラルホテルフクオカにおいて、精神保健当番弁護士22周年記念公開シンポジウム「改正法における早期退院と弁護士の役割」を開催しました。

2014年4月施行の改正精神保健福祉法では、医療保護入院の見直しとともに、入院患者の早期退院・地域生活への移行の促進が大きな柱とされました。本シンポジウムは、改正法施行10か月余の経過を踏まえ、早期退院・地域生活への移行に向けた取り組みについて、弁護士を含めた各関係者の役割について議論することを目的としたものです。会場には土曜日にもかかわらず約110名もの参加者が集まりました。

2 基調講演

基調講演では、長らく包括的地域生活支援(Assertive Community Treatment)を実践してこられた藤田大輔さん(医師、ACTゼロ岡山、以下「ACT」)にお話しいただきました。

藤田さんは、勤務医時代、最大限環境調整をすれば薬を使わなくとも早期退院は可能なのではないか?という疑問を持たれていたそうで、現在はそれを実践されています。ACTの理念は、「人や医療と穏やかに出会える」というものであり、これは患者は人や医療と急激に出会いすぎている、という懸念に由来しています。診療所、訪問看護ステーション、NPOから構成されるACTでは、医師や精神保健福祉士といった専門家が患者の生活の場に出向き(アウトリーチ)支援を行っており、事例報告では、急性期の患者であっても在宅での支援を行うことで、疲れたら母親のそばで眠るなどの、入院していては絶対に不可能な生活をさせつつ、早期に職場報告が可能となった、との例も紹介されました。

患者さんに人間としての楽しみを与えてあげたい、そのことが回復にもつながるんだ、と笑顔で語られる藤田さんがとても印象に残りました。

3 パネルディスカッション

その後のパネルディスカッションでは、藤田さんのほか、早渕雅樹さん(医師:香椎療養所院長)、今村浩司さん(精神保健福祉士・社会福祉士:西南女学院大学保健福祉部准教授)、和田幸之さん(こころの病の患者会うさぎの会副会長)、田瀬憲夫会員をパネリストにお迎えし、コーディネーターを八尋光秀会員が務め、退院後生活環境調整に向けた取り組みの現状及び課題、早期退院に向けた精神保健当番弁護士活動や精神医療審査会のあり方等につき、議論・意見交換を行いました。弁護士への要望としては、外部に力になってくれる人がいることは患者にとってとても大切なことであるので、患者とのコミュニケーションを大切にしてほしい、継続的に関わってほしい、当事者保護の姿勢を法制度へ反映させるよう動いてほしい、などの声が挙げられました。

4 まとめ

藤田さんも、このようなシンポジウムが開催され多数の弁護士が参加することは素晴らしい、とおっしゃられていたとおり、多くの先生が参加されていました。このような取り組みが、患者さんのいっそうの権利向上の一助になれば幸いです。

取調べの可視化シンポジウム

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刑事弁護等委員会 委員長 德 永   響(50期)

第1 平成27年2月14日(土)午後1時30分から、「それボク」は過去の話?~取調べの可視化の現在(い ま)~と題して、取調べ可視化のシンポジウムが開催されました。
言うまでもなく、「それボク」とは周防正行監督の映画「それでもボクはやっていない」を指していて、シンポジウムに法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会委員を務められた周防正行監督をお呼びして、広く市民への参加を呼びかけた結果、レソラ天神5階「レソラNTT夢天神ホール」に150名を超える参加者を集めることができました。
刑事弁護等委員会では、当番弁護士発足○周年というシンポジウムや可視化のシンポジウムを複数回開催していましたが、久方ぶりのシンポジウム開催となりました。
この時期に大規模なシンポジウムを開催したのは、2014(平成26)年7月に新時代の刑事司法制度特別部会の改革案がとりまとめられましたが、可視化の対象となる事件が極めて限られていることなどから、国会審議を前に市民を巻き込んだ大きな議論をしておく必要があるからに他なりません。

第2 シンポジウムは3部構成で、第1部は冤罪被害者(「バス痴漢冤罪事件」「爪ケア冤罪事件」)の方々のインタビュー形式による体験談(インタビューアーは当会の丸山和広弁護士・天久泰弁護士)、第2部は袴田事件の冤罪被害者である袴田巖さんのビデオレター(説明者は当会の美奈川成章弁護士)、第3部はパネルディスカッションという構成です。
1 冤罪被害者の方々の話は、体験した者でなければ語り得ない生々しい被害の実情を訴えかけるもので、冤罪被害者の苦しみ、絶望感、疎外感を参加者に感じさせる内容でした。
バス痴漢冤罪事件では、捜査官が「私の仕事は君を有罪にすることだ」「認めないの?なら出さない。」「君が罪を認めないと裁判で苦しむよ」と告げられ、自分の言い分を信じてもらえないことに絶望する心情が語られ、「車載カメラに(犯行が)写っている」「目撃者がいる」と自白を迫られる状況が赤裸々に語られました。爪ケア冤罪事件では、明日のことすらわからない状況におかれる被疑者が、弁護士ではなく、むしろ刑事の方が自分のことを分かってくれるかのような錯覚に陥って自白してしまう危険性が明らかにされました。
取調べの全過程が録音録画によって可視化されていれば、冤罪被害の発生を防止しえたことも明示されて、取調べの可視化の必要性がはっきりと参加者に伝わりました。

2 パネルディスカッションでは、周防正行さん、大阪弁護士会で特別部会委員の小坂井久弁護士、当会の天久泰弁護士、元裁判官の立場から当会の陶山博生弁護士がパネリストとして参加され、当会の甲木真哉弁護士がコーディネーターとして議論を進行させました。
周防さんは、調書が捜査官の作文であるにもかかわらず、重要な証拠となることに驚きと同時に恐怖を感じたことに加え、検察のあり方をきっかけに議論を始めたにもかかわらず、警察はこれまでの捜査で悪いところはないというスタンスに立ち、有識者意見を無視しようとする動きに危機感を覚えたことをお話いただきました。
その他のパネリストからも、冤罪事件は虚偽自白とセットになっていること、可視化されていない取調べにおいて刑事の見立てに逆らう供述をすることは困難であること、調書の任意性に関する水掛け論は可視化するしかなく、可視化で裁判は変わること、可視化したDVDを有罪認定のための実質証拠とすべきでないことなどの意見が出されました。

3 最終とりまとめでは、取調べの録音録画の対象とされる事件が少なく、冤罪を防止するためにはあまりにも不十分なものであることが確認され、より広い範囲での取調べの全過程の録音録画が必要であることを参加者に訴えかけ、制度改革が少しずつしか実現しないとしても、改革の歩みを止めてはならないことを確認してシンポジウムは幕を閉じました。

第3 有識者として特別部会に参加された周防さんの話は、まさしく一般市民の感覚に裏付けられた視点であると同時に、自らのなまった感覚を戒めるものでした。この月報が出るころには「それでもボクは会議で闘う」というような題名で特別部会の様子を出版されるようで、楽しみにしています。
一般市民の感覚を持って、特別部会に参加した周防さんは、「対象が小さくとも、取調べの全過程の録音録画を法律で導入できれば、その価値は小さくない。」、「今後は、対象事件の拡大と共に、普通の判断を普通にできる裁判官に大きな期待を持っている。」と話されていたことが強く印象に残りました。
密室での取調べと調書裁判からの脱却には実務家が取り組まねばならないと決意を新たにしました。
なお、紙幅の都合で、パネルディスカッションの中身等を明らかにすることはできませんでしたが、現在、本シンポジウムの詳細な内容を冊子にして会員に配布する作業中ですので、ご期待ください。

「転ばぬ先の杖」(第12回)  顧客情報外部流出への備え

カテゴリー:月報記事 / 転ばぬ先の杖

ホームページ委員会 委員
是 枝 秀 幸(60期)

1 顧客情報外部流出

昨年起きた大きな出来事の一つとして、大手通信教育業者が保有していた顧客情報を外部へ多数流出させたことは、皆さんも記憶に新しいと思います。

顧客情報は、事業規模にかかわらず、多くの事業者において、営業活動のための情報として、日々、取得・使用されています。

もし顧客情報が外部へ流出してしまえば、流出を食い止めたり情報を回収したりすることは困難で、事業者は、相当期間にわたり、顧客情報を保有していたことによる競業他社に対する優位性を喪失するとともに、顧客からの信用も著しく失墜することとなるでしょう。

とはいえ、顧客情報は、事業者において、日々、取得・使用しているもので、外部へ流出することを完全に防止することはできません。

本稿では、顧客情報外部流出の発生の機会や影響をできるかぎり限定するための備えについて、何をすべきか、簡単に紹介したいと思います。

2 機密書類に「秘」印を押しておけばよい?

顧客情報外部流出への備えとしては、不正競争防止法上の営業秘密として管理することや個人情報保護法上の安全管理措置を講じること等が考えられ、経済産業省もガイドラインを公表しています。
経済産業省の営業秘密管理指針によれば、概ね、次のとおりです。
(営業秘密管理指針より、一部変更のうえ、抜粋)

【秘密管理性の判断要素として着目すべき点】
  • アクセスできる者が限定され、権限のない者によるアクセスを防ぐような手段が取られている(アクセス権者の限定・無権限者によるアクセスの防止)
  • アクセスした者が、管理の対象となっている情報をそれと認識し、またアクセス権限のある者がそれを秘密として管理することに関する意識を持ち、責務を果たすような状況になっている(秘密であることの表示・秘密保持義務等の設定)
  • それらが機能するように組織として何らかの仕組みを持っている(組織的管理)
【Aに関する具体的な管理方法】
  • アクセス権者の限定
  • 施錠されている保管室への保管
  • 事務所内への外部者の入室の禁止
  • 電子データの複製等の制限
  • コンピュータへの外部者のアクセス防止措置
  • システムの外部ネットワークからの遮断
【Bに関する具体的な管理方法】
  • 社員が秘密管理の責務を認知するための教育の実施
  • 就業規則や誓約書・秘密保持契約による秘密保持義務の設定等
【Cに関する具体的な管理方法】
  • 情報の扱いに関する上位者の判断を求めるシステムの存在
  • 外部からのアクセスに関する応答に関する周到な手順の設定

以上のとおり、秘密管理性等は、具体的な管理方法等を踏まえ、総合的に判断されるものです。

機密書類に「秘」印を押しておけばよい、という簡単なものではありませんので、注意が必要です。

3 弁護士にご相談を

顧客情報外部流出への備えを実施するためには、情報技術的な事項に関してIT事業者に相談するとともに、秘密保持義務の設定等の法技術的な事項に関して弁護士に相談することが望ましいでしょう。

秘密管理性等は、具体的な管理方法だけでなく、事業規模、業種、情報の性質、侵害態様等を踏まえ、総合的に判断されることになります。
顧客情報外部流出への備えは現実的に可能な範囲で一応実施しているという場合には、弁護士に法的観点から検証してもらうとよいかもしれません。

片山昭人判事講演会

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会 員 岡 田 美 紀(66期)

1 はじめに

昨年平成26年12月5日、福岡高裁の片山昭人判事による講演会が行われました。

片山判事は、昭和62年に判事補任官、平成2年からは弁護士としてご活躍された後、平成19年に弁護士任官で判事に任官されました。

実は、片山判事には一昨年もご講演いただいたのですが、その際のお話が大変好評を博し、再度ご講演いただきたいとの要望が多く寄せられたことから、今回の講演会を開催する運びとなりました。昨年1月号の月報にも片山判事が執筆された記事が掲載されておりましたので、ご存じの先生方も多いのではないでしょうか。

講演会当日は、師走の大変忙しい時期、しかも金曜日の夜だったにもかかわらず、弁護士会館3階ホールの席が足りなくなるほどの大盛況でした。中には県外から足を運ばれた先生もいらっしゃったようで、片山判事のご講演に対する期待の大きさが窺われました。

2 講演

片山判事には、「”後発”は明確に優れていなければならない~若手弁護士への期待」をテーマにご講演いただきました。

(1) 人間力

まず冒頭で、一流の法律実務家に必要な実力とは、知力・胆力・体力を総合した「人間力」であるとのお話しがありました。若手は自らを鍛え、この「人間力」を高めていかなければならないのですが、成長する上で大切なのは、大変な状況に置かれたときに、弁解や不満ではなく「HOW(どうすればいいか?)」を考えることだといいます。「厳しい制約の中でこそ成長の余地がある」という片山判事の言葉に、苦しいことから逃げ出してしまいがちな私は大変反省させられました。

(2) 訴訟追行能力

続いて、我々弁護士にとっても気になる、訴訟追行のポイントについてのお話しがありました。

訴訟追行とは、裁判所を説得することであり、説得の方法、説得材料である証拠収集の方法、収集した材料を基にしたプレゼンテーションの方法等について、ご自身の経験談も交えながら具体的に解説していただきました。

日本の訴訟制度上、証拠収集には様々な制約がありますが、片山判事はそれをカバーするために様々な工夫をされており、経験の少ない若手弁護士にとっては大変勉強になりました。裁判所の説得にあたっては、核心を突いたシンプルな主張を行うことが大切なのですが、シンプルな主張をするためには、時間をかけて十分に証拠を収集・整理し、事案を分析しなければならないのだということを改めて実感いたしました。

(3) 弁護士任官

冒頭でもご紹介したように、片山判事は弁護士任官者でいらっしゃいます。片山判事は、弁護士任官制度の意義として、裁判官が体験しないことを体験している弁護士が任官することで、裁判所に複眼的な思考をもたらすことなどを挙げられていました。今回の片山判事のご講演も、裁判官・弁護士双方の立場を踏まえた多様な視点からの内容で、弁護士任官者ならではのものだったように感じます。

今後、弁護士任官者が増え、裁判の質がさらに向上していくことを願っております。

3 おわりに

片山判事は、抽象的な事柄であっても、端的なキーワードを使ってわかりやすく説明されており、すっと頭に入る上、記憶にも深く残りました。ご講演の内容はもちろんですが、巧みな話術は、まさに「説得する力」にほかならないと感じました。
片山判事をはじめ、優秀な諸先輩方から学ぶことができるのも、”後発”である私たち若手の特権です。多くを学び、人間力を高めて、優れた法曹実務家を目指していきたいと思います。

紛争解決センターだより ~医療ADRを「おススメ」する、3つの理由~

カテゴリー:月報記事

あっせん・仲裁人 弁護士
南 谷 敦 子(51期)

昨年夏、福岡県外に住む当事者(患者遺族)が医療ADRを申立てました。申立てを受けたのも、県外の病院です。九州の他県の弁護士会には医療ADRがないため、患者遺族は当会の医療ADRを利用したとのこと。

3名の会員弁護士が関与し、4回にわたるあっせんの末、事件は和解が成立し、病院側は一定の謝罪をするとともに、和解金の支払いにも応じることとなりました。

医療側に立つ私としては、当初、一定の抵抗も感じはしましたが、和解が成立すると何とも表現しがたい、シンプルに言えば「嬉しい気持ち」になるものです。

さて、当会の医療ADRを「おススメ」する3つの理由を挙げます。

理由(1) 患者側・医療側の専門性を利用できる。

医療ADRは、3名の弁護士があっせん・仲裁を行います。うち1名は、元裁判官の弁護士が委嘱されることが多く、残る2名は、患者側代理人として活動する弁護士と、医療側代理人として活動する弁護士。その3名が一体となって協力し、解決のために知恵を絞ります。

当事者は、この3名のそれぞれの専門性を利用することができます。

理由(2) コストが圧倒的に安い。

申立手数料は金1万円。3人の弁護士が1回あたり数時間かけてADRに臨むこと、天神弁護士センターの比較的ゆとりある空間を利用できること、等を考えると、申立人のコストは圧倒的に安い。手数料減免手続もあります。

理由(3) 弁護士に依頼しなくても、本人がひとりで利用できる。

弁護士に着手金や報酬を支払って依頼しなくても、本人がひとりで手続きを利用できます。カルテや診断書、損害を裏付ける資料の準備は最低限必要ですが、それが揃えば自分でできる。

会員の先生方も、患者側あるいは病院側から医療過誤関連の相談を受けたとき、受任をためらうことがあるかもしれません。そんなときこそ、医療ADRをご紹介下さい。

ところで、医療ADRである以上、相手方の出頭は任意であり、強制力がない点は致し方ありません。司法手続でない以上、どんなADRにも内在するものです。

そんなADRながら、世に起きる人と人との紛争は、いずれ解決する時が来るものです。

紛争が解決する、たった一つの「条件」

それは、当事者双方が、「ここで解決したい(してもいい)という思いがあること」に尽きます。

3名のあっせん委員弁護士は、双方にこの「思い」があることを感じ取るや否や、一体となり連帯感を持って、解決へ向けて力を注ぎます。

この思いが、あっせん委員弁護士の連帯感も伴って、遂にひとつの意思の合致をみるとき、そこに何ともいえない気持ちのいい調和(ハーモニー)が生まれると私は感じています。

複数の人間が同時に「ラーーー♪」という音声を発生するとき、当初、音はバラバラで不協和音を生みますが、不思議と、ある瞬間から一つの同じ音程になりますね。

普段は医療側の立場で交渉・訴訟を遂行する私も、今回のADRでは第三者の立場からこの調和(ハーモニー)が生まれたことに、安堵と小さいながらも暖かい喜びを感じました。

今回、特にご尽力いただいた小林洋二先生も、暖かく成立まで粘っていただいた宮良允通先生も、きっとそうですよね?お導き、ありがとうございました。

*仲裁手続きについて、補足*

あっせん以外にも、仲裁手続きがあります。これは、あらかじめ、当事者が仲裁合意(紛争解決を仲裁人に委ね、かつ、その判断[仲裁判断]に服する旨の合意)をする必要があります。この場合、確定判決と同一の効果が得られます。

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