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カテゴリー: 月報記事

「転ばぬ先の杖」(第27回) 福岡入国管理局に弁護士を派遣する制度ができました

カテゴリー:月報記事 / 転ばぬ先の杖

会員 丸山 明子(61期)

今年6月から、福岡入国管理局に収容されている外国人のために、弁護士を派遣して、相談を実施する制度の運用が始まりました。この制度は、福岡入管局に収容されている外国人が、弁護士の助言を必要とする時に、入管の職員に申し出れば、48時間以内(土日祝を除く)に弁護士が入管に出向き、無料で相談に応じるというものです。

入国管理局内の収容施設に収容される外国人は、退去強制事由に該当すると疑うに足る相当の理由があるとして、主任審査官という入国管理局の職員が発布する令状に基づき収容されており、電話などで連絡を取ったり、施設内で家族などと面会したりすることは可能ですが、施設外に出ることができません。その後の手続で退去強制令書が発布されれば、そのまま国外に退去させられてしまいます。

日本では、退去強制事由に該当すると疑うに足ると判断された外国人は全件収容するという全件収容主義が取られているのですが、収容された外国人でも仮放免許可を受ければ、施設外で生活をしながら退去強制手続を受けることができるため、この仮放免許可の申請手続で弁護士の助言や代理が必要な場合が想定されます。仮放免許可が出される場合、300万円以下の保証金を納める必要がありますが、弁護士が身元保証となる場合や出頭義務の履行に協力を申し出る場合には、仮放免許可の判断にあたり積極要素として適正な評価がされるとともに、保証金の決定に当たっても最小限の額となるよう配慮されるようになっています。

また、退去強制事由自体を争う、退去強制事由に該当するとしても在留特別許可を取ることにより退去強制を免れる、難民としての認定を求めるという場合も想定されます。この場合、その後の退去強制手続で予定される違反審査、口頭審理、異議申立、訴訟等の手続において、弁護士の助言や代理人としての活動が必要な場合が想定されます。この他、一般的な民事や刑事の法律相談にも応じています。

中国や東南アジアからの観光客の増加に加え、外国人の創業を促進するため福岡市が国家戦略特区に指定されたことも相まって、福岡を訪れる、または滞在する外国人の数は年々増加しています。万が一のため、新たに始まったこの弁護士会の取り組みについて、身近な外国人の方にお知らせください。

関野秀明先生講演会 「アベノミクスの現状と私たちの対抗策―賃上げ、社会保障充実、平和」に参加して

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会員 南正覚 文枝(67期)

平成28年9月2日から同3日にかけて、生存権の擁護と支援のための緊急対策本部の合宿が、かんぽの宿別府で行われました。

その中で、下関市立大学教授の関野秀明先生の講演会「アベノミクスの現状と私たちの対抗策―賃上げ、社会保障充実、平和」が行われましたので、そのご報告をさせていただきます。

1 関野秀明先生のご紹介

関野先生は、下関市立大学の経済学部の教授で、マルクス経済学原論、独占資本主義論、現代日本経済論を専門分野とされています。今回先生には、政府や省庁、OECDなどが出している各種統計資料などに基づいて、経済の素人である我々にもわかりやすくかつ説得的なお話をしていただきました。

2 講演の概要

まず始めに、アベノミクスの現状について、各種統計を示して、詳しくご説明いただきました。アベノミクスにより国民の経済状態が上向きになっているかのように言われていますが、実際は、平成27年までの世帯人員別標準生計費は概ね低下しています。この背景には、労働規制の緩和により、正規社員が減少し非正規社員が増え賃金の低下を招いているという事実があります。その結果、「正規と非正規との対立」を利用した資本と貧困の同時蓄積が生じているとのことです。

次に、このような現状を生じさせているアベノミクスに対抗する具体的な方法をお話しいただきました。

日本においては、生産性が上がっても賃金が下がっている現状にあり、まずは最低賃金を大幅に引き上げる必要があるとのことです。そのためには、雇用維持のための中小企業に対する支援が不可欠ですが、それは現在大規模企業支援に使われている3兆円の予算の一部を中小企業支援予算に回せば可能であるとのことです。

さらにアベノミクスに対抗する方法として、社会保障削減を阻止することが挙げられました。日本は高齢化率が世界一高いので社会保障を下げなければならないなどと言われていますが、日本の社会保障支出は対GDP比でみるとドイツやフランスなどより低いそうです。また、日本の社会保障費の負担は企業よりも労働者の方が大きいのに対し、ヨーロッパの社会保障費の負担は企業がメインとなっています。今後日本においても、巨額の資産を有する大企業による社会保障費の負担増が図られれば、社会保障削減を阻止することが可能であるとのことです。

最後に、国内の貧困、長期停滞が多国籍大企業の海外自由市場拡大を要求し、その結果、日本が戦争をする国への道へ突き進む恐れがあることが指摘されました。即ち、日本企業が海外に進出した場合、その日本企業の権益を守るため軍事力の需要が増大し、日本が国際的な責任を果たすために、自衛隊を海外に送るべきという流れになっていくということが考えられます。

海外進出を拡大し戦争をする国になるのか、内需中心の新しい福祉国家を作っていくのかという、わが国の大きな方向性が問われる時代になっているとのまとめで講演は締めくくられました。

3 講演を聴いての感想等

今回、90分間の講演でしたが、時間が経つのがとても速く、講演が終了した時には、もっと色々な話をお聴きしたいという思いに駆られました。

講演を聴いていた他の会員も思いは同じであったようで、講演会後の質疑応答も非常に活発に行われました。

今回の関野先生の講演で、経済学の観点からのアベノミクスの問題点が明確に指摘され、何が問題であるかを具体的にイメージできたことは、とても有意義でした。

お忙しい中、生存権の擁護と支援のための緊急対策本部の合宿での講演のため、わざわざ別府までご足労頂いた関野先生に心から感謝いたします。

広報関連委員会だより ほぅ!な話 ラジオ版~RKBで収録してきました!

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会員 向原 栄大朗(60期)

1 ラジオの難しさ→聴きやすくするための工夫

去る8月6日(土)、RKBラジオ「安藤豊どんどこサタデー」という番組内の「”ほぅ!な話”ラジオ版」コーナーにおいて、遺言・相続に関するお話をさせていただきました。

私は以前、KBCラジオ「PAO~N(パオーン)」に出演した経験がありますが、このときは弁護士2名体制での出演だったのに対し、今回は私1名で出演させていただきました。

ところで、ラジオでは、テレビとは異なり、視聴者には声しか伝わりません。すなわち、声だけで勝負する必要があります。また、テレビでは、ディレクターとの打ち合わせで「番組を作る」感覚で、実際にはディレクターを中心としたスタッフの皆さんが内容面をテレビ向けにして下さいますが、ラジオの場合、弁護士が準備した原稿をかなりの部分でそのまま使っていただきます。そこで、パーソナリティさんにとっての読みやすさを考えて、文章に工夫を入れる必要があるように思います。

したがいまして、原稿作成段階では、(1)聞き取りやすい文言・言葉を選択すること、(2)一文を長くしないこと、(3)文章のテンポをよくすること、(4)内容は複雑にならず、一聴了解できるものとすること、といった工夫が必要と考えます。例えば、今回テーマにした「遺言」を、業界用語の「いごん」ではなく「ゆいごん」と言い換えているのは、その一例です。

2 内容について

今回のテーマは、遺言・相続です。大きくは①相続人の一人に全財産を「相続させる」遺言があった場合の対応、(2)生前に相続人の一人が被相続人の財産を使い込んでいた場合の対応に分けてお話をさせていただきました。

内容の詳細は、もう話すまでもないと思いますので割愛させていただきますが、このテーマにした理由はいくつかあります。

  1. 「ほぅ!な話」のネタに使われていたこと
  2. ラジオにおいて、これまで遺言相続がテーマとして扱われていなかったこと
  3. 近年、遺言・相続関係の案件が、弁護士のところにあまり来ず、弁護士以外によって処理されるケースが散見されるので、「遺言・相続は弁護士ヘご相談ください!」というメッセージを視聴者に伝える必要があること

とくに(3)については、所属する非弁委員会においても時々問題として上がってきます。遺言・相続は、紛争性がない限り、弁護士以外でも代書することが可能という理解が一般的なので、他士業のみならず、銀行のアピールも盛んであり案件を多く獲得しているとも聞きます(団塊世代リタイア時期だからでしょう)。

しかしながら、この分野における弁護士の役割は、予防法務という面でも高いと考えられますから、弁護士も負けずにアピールする必要があると思います。

3 ラジオに出ることによって得たもの

上記1で述べたとおり、原稿作成において色々と考え、文章を推敲しながら考えることは、まさに「人に何かを伝える」という、普段している弁護士の仕事の根幹に関わることであり、ラジオ出演の機会は、そうしたことのトレーニングの機会ともいえます。

また、ラジオだとテレビのような大セットではないものの、様々な機器に囲まれた重厚そうなスタジオには、一定の緊張感が迸っており、目の前には、プロのパーソナリティさんたちがおられます。その話し方などは、やはり普段している弁護士の仕事にも何らかの刺激なり好影響を与えてくれたような気がします。

4 さいごに

末筆となり恐縮ですが、本件番組出演にあたりましては、電通九州の原田様・田中様、また、RKBのパーソナリティで私の拙い原稿をお読みくださいました安藤豊さん、壽老麻衣アナウンサー、並びにRKB内でご案内くださいましたスタッフの副田様はじめ、様々な方々にお世話になりました。この場を借りましてお礼申し上げます。

「実務に役立つLGBT連続講座」第2回/LGBTに関する世の中の動き

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両性の平等委員会・LGBT小委員会 井上 敦史(62期)

先月から連載が始まった「実務に役立つLGBT連続講座」。

祝・第2回!!今月はLGBTに関する世の中の動きについて、ご紹介させていただきます。

1 地方自治体における取り組みの広がり

2015年4月1日、東京都渋谷区で渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例が施行され、同性パートナーを結婚に相当する関係と認める同性パートナーシップ証明書が発行されるようになりました。

その後、東京都世田谷区、三重県伊賀市(実は産まれ故郷)では、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市でも同性パートナーシップ制度が創設されました。

渋谷区では、パートナーシップ証明書を発行してもらうにあたり、公正証書の作成が必要なため時間と費用がかかってしまいますが、世田谷区や伊賀市、宝塚市、那覇市では、条例ではなく要綱という形で制度化されたため、申請手続きが簡素化され、よりパートナーシップ宣誓書受領証(ただし、那覇市では「登録証明書」)の交付が得やすくなりました。

また、同性パートナーシップ証明書や、同性パートナーシップ宣誓書受領証の発行だけではなく、東京都文京区や多摩市などでは男女共同参画の条例にLGBTに関することが盛り込まれたり、大阪市淀川区、沖縄県那覇市、和歌山県橋本市、岐阜県関市では、首長が「LGBT支援宣言」を出したりするなど、地方自治体におけるLGBTへの取り組みが広がってきています。

2 国における取り組みの広がり

2015年4月30日には、文部科学省から、LGBTの子どもについて配慮を求める通知が全国の国公私立の小中高校などに出されました。

この通知には、子どもが相談しやすくするために、教員がLGBTについての心のない言動を慎むことや、子どもの服装や髪形について否定したり、からかったりしないよう明記されています。

また、学校側は、原則として生徒の事情に応じた対応をすべきとして、複数の教員や教育委員会、医療機関と連携して対応するよう求め、サポートチームの設置なども推奨されています。

さらに、学校での支援策として、「生徒が自認する性別の制服を認める」、「着替えの際に皆とは別に保健室の利用を認める」、「修学旅行で入浴時間をずらす」等、具体的なものが示されています。

そして2016年6月27日には、厚生労働省が職場におけるLGBTへの差別的な言動がセクハラに該当することを発表し、男女雇用機会均等法に基づく事業主向けのセクハラ指針に、「性的指向、性自認によらず対象」という文言が明記され、2017年1月から施行されることとなりました。

このように国におけるLGBTへの取り組みも広がってきています。

3 企業における取り組みの広がり

企業におけるLGBTへの取り組みも広がってきています。

渋谷区や世田谷区の取り組みを受け、ライフネット生命保険は、2015年11月4日から、死亡保険金受取人の指定範囲を拡大し、同性のパートナーを受取人に指定することをできるようにしました。

また、携帯電話大手3キャリアと言われているSoftbank、au、NTTdocomoにおいて、同性パートナーに対しても家族割引の適用がされるようになりました。

他にも、トヨタや日産、ソニーといった大会社においても、LGBTに対する雇用機会均等ポリシーの策定や、同性パートナーへの福利厚生の適用、トランスジェンダーに必要な医療の保険適用を認めるなど、様々な企業において、LGBTへの取り組みが広がっています。

4 これからの課題

このように、LGBTに対する理解を広げ、平等な社会を作り上げていこうとする意識が高まり、様々な場面においてLGBTへの取り組みが広がっていますが、まだまだ偏見や差別の問題等課題が残っています。

誰しもが苦しまずに生活を送ることができる社会を作り上げていくために、これから支援の輪を広げ、取り組みを拡大していく必要があると思います。

さて、次号からはより実践的なお話となります。次号が待ち遠しいですね!!

「実務に役立つLGBT連続講座」第1回/LGBTってなに?

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両性の平等委員会・LGBT小委員会 郷田 真樹(53期)

「LGBT」という単語を見聞きすることが増えた昨今。「LGBTって何?」とか、「情報が多すぎて何を知っておくべきかわからない」とかお考えの方もいらっしゃるかと思います。そこで、両性の平等委員会・LGBT小委員会から、「実務に役立つLGBT連続講座」を連載させていただきたいと思います。毎月1回LGBT、どうぞよろしくお願いいたします。

早速ですが、オリンピック選手の性別判定方法の変遷をご存知でしょうか。その人が「男性」なのか「女性」なのかは、身体的外見・DNA・ホルモンなどの何れで決まるものでしょうか。性別は当然に明らかなもののように思われがちですが、このように、極めて曖昧かつグレーゾーンを多く含む概念でもあります(答えは文末)。

こうした身体的な性別のほかにも、性自認(自分で自分の性をどう捉えるか。)、性的指向(恋愛や性愛の対象となる性が何か。「嗜好」ではありません。)が異性か同性か両性かなど、私達の性のありかたは多様です。

このうち、LGBTとは、女性同性愛者(Lesbian)、男性同性愛者(Gay)、両性愛者(Bisexual)、性同一性障害含む性別越境者(Transgender)などの頭文字をとった略語です。なお、本来はLGBTという枠囲いは不可能ですし、望ましくもないため、国連や国会では「SOGI(性的指向と性自認。Sexual Orientation and Gender Identity)と表現されています(本連続講座では、わかりやすさを優先して、当面はLGBTとして表記をします)。

このLGBTについて、まず知っておくべきことは何でしょう。

第一に、レズ、ホモ等の略称や、オカマ、オネエといった単語は当事者以外の人が使うと蔑称であり不適切です。呼称が必要な場面では、「レズビアン」、「ゲイ」などと正式名称で呼びましょう。

LGBTと言われる人たちは、少なくとも7.6%はいる等と報告されています。「佐藤 +鈴木+高橋+田中」の名字の人達とほぼ同じ割合です。つまり、弁護士本人や会館ないし各事務所の職員、裁判所や検察庁の人たちにも、当然LGBTの方たちはいらっしゃいます。相談者・依頼者・プライベートの友人知人も、もちろんそうです。ただし、長年の社会の不寛容さや差別意識などから、多くの人が自分の個性を隠したまま不自由な生活をしている現実もあります。日頃から、そうしたことを前提にした言動ができるよう意識してみましょう。

「男性」「女性」が、一括りの同じ人の集まりではないように、LGBTのあり方もそれぞれです。誰かが性自認や性的指向について何かを語ったとしても、「Lだね」、「それはTと言うんだ」等と勝手にネーミングやカテゴリー分けをする必要はありませんし、それは不適切です。ご本人の個性をそのまま受け入れたうえで、もしも何か調整を要することがあれば、お互いの気持ちや都合について、誠実に話し合ってみましょう。

LGBTの人たちが、その個性をカミングアウトするか否かは、本人の自由です。無理にカミングアウトを勧める必要は全くありません。本人の承諾なくそうしたことを話題にすることも不適切です。

他方で、本人がカミングアウトしたい時にそれができない環境は、他者の個性を認めない不寛容な環境であり、望ましくありません。LGBT以外の人も生活のしづらさを感じている可能性が高く、労働効率も悪いと推測されます。

急速に進むLGBTに関する議論は、私達が、自分のなかの固定観念に縛られず、目の前にいるその人を、ただその人らしく受け入れられるかどうかという試金石のように思えます。(次号に続く)

クイズの答え:ホルモン(テストテトロン)。DNAだけでは簡単に判別できないケースが存在するため。

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