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カテゴリー: 月報記事

第16回国選弁護シンポジウム「横にはいつも弁護人〜取調べの立会い・逮捕から国選弁護」のご報告

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刑事弁護等委員会 委員 野田 幸言(66期)

はじめに

令和6年11月1日、金沢市内の金沢東急ホテルにて、日本弁護士連合会主催の第16回国選弁護シンポジウム「横にはいつも弁護人〜取調べの立会い・逮捕から国選弁護」が開催されました。日弁連取調べ立会い実現委員会よりシンポジウム実行委員の一員として参加しましたので、報告させていただきます。

シンポジウムの概要

国選シンポジウムはおおよそ2、3年に1回、全国をめぐって開催されています。前回の2021年広島では、コロナ禍の折、全面オンラインで実施されました。今回は2017年の横浜以来、7年ぶりの現地での開催となりました。

「国選弁護」シンポジウムと名付けられていますが、国選弁護だけに限らず、刑事弁護全般に関わるその時々のトピックをテーマとして実施されています。今回のテーマは、第1部「取調べへの弁護人立会い」と第2部「逮捕段階からの国選弁護制度」の2本立てでした。

参加者数は、現地参加245名、オンライン参加324名、合計569名と大盛況でした。当会からは現地参加6名、オンライン参加4名の申込がありました。

第1部 取調べへの弁護人立会い
これが取調べの実態だ!

第1部の冒頭に、「これが取調べの実態だ!」と題して、実際の取調べの録音・録画が上映されました。

上映された事件は(1)鳥羽警察署事件、(2)札幌北警察署事件、(3)プレサンス事件、④江口元弁護士事件です。

  1. 鳥羽警察署事件では、窃盗を否認する被疑者に対して、警察官が「顔見とったらわかるわな、泥棒みたいなもん。泥棒!!」「泥棒に黙秘権あるか!」「新聞載っとけ!伊勢新聞やら中日やら、全部のしたるわ。報道発表して。」などと大声で怒鳴りつける場面が流されました。
  2. 札幌北警察署事件は、2歳の子供を監禁したとして女性が逮捕・勾留された事件です。女性は最終的に不起訴になりました。黙秘する女性に対し、警察官は、「要らない子だったの?だからこうやって何もしゃべんないのかい?」「自分のこと守りたいって、そういう気持ちしか考えられないくらい、その程度の存在だったのかい。」と責め立てます。
  3. プレサンス事件では、社長の関与を否定する部下に対し、検察官が、「そうだとしたら、あなたはプレサンスの評判を貶めた大罪人ですよ。」「10億、20億じゃ、すまないですよね。それを背負う覚悟で、今、話していますか。」などと自白を迫ります。無罪後の付審判請求事件では、この発言が、「恐怖心をあおる脅迫的な内容といえ、・・・陵虐行為該当性が認められる」とされました。
  4. 江口元弁護士事件では、黙秘する被疑者に対し、検察官が「何か、あなたの中学校の成績見てたら、あんまり数学とか理科とか、理系的なものが得意じゃなかったみたいですねぇ。」「ちょっと論理性がさあ、なんかずれてんだよなぁ。」などと延々と一方的に侮辱的発言を続けます。

実際に行われた取調べの場面であるだけに、この冒頭の上映会が最も鮮烈に印象に残りました。これを見ると、一人で取調べに臨んで黙秘権を貫徹するのがいかに難しいかが分かります。やはり取調べにはセコンドである弁護人が必要だと改めて実感しました。

事例報告

続いて、愛知県弁護士会の櫻井義也弁護士から、障害のある被疑者の立会い実践例報告が、札幌弁護士会の林順敬弁護士から、取調べ準立会いによる無罪事例報告が行われました。

櫻井弁護士の事例は、パニック障害、不安障害、知的障害のある男性について、障害者差別解消法7条2項により行政機関に「合理的配慮」を求める合理的配慮依頼書を捜査機関に提出して、取調べへの弁護人立会いが認められ、最終的に不起訴になったというものです。同弁護士によると、同法8条2項は事業者(=弁護士)に対しても同様の義務が認められており、立会い要求ないし立会いは弁護人としての義務ともいえるとのことです。

なお、この事件は、愛知県弁護士会の「特定在宅被疑者援助制度」を利用したものです。同制度は、障害者・高齢者・少年・弁護人等の活動により釈放された者について、経済的理由により弁護士報酬等の支払が困難な場合に弁護士費用の援助を行うものです。この制度がなければ、取調べへの弁護人立会いも不起訴も実現しなかったかもしれません。さすがに愛知県弁護士会は先進的な取り組みを行っています。

林順敬弁護士の報告の事案は、76歳の女性が自動車を運転して走行中、右側から飛び出してきた8歳男児が乗る自転車と衝突し、男児が高次脳機能障害を伴うびまん性軸索損傷等の障害を負ったというものです。在宅事件として捜査が行われ、受任後、弁護人が取調べの立会いを求めましたが認められず、いわゆる準立会い(弁護人が警察署・検察庁構内で待機し、一定の時間ごとに休憩を入れ、弁護人と被疑者が打合せを行い、適宜アドバイスするという弁護活動)を実施しました。女性は起訴されましたが、裁判所は女性の過失を認めず、無罪判決を言い渡しました。検察官の立証の柱の1つは、事故当日弁護人が選任される前に作成された警察官調書でしたが、必要性なしで却下となりました。弁護人選任後、弁護人のアドバイスで不利益調書が作成されなかったことが無罪の大きな要因となりました。

いずれの事件も、依頼者は、弁護人の選任前と選任後では捜査機関の対応が全く違ったと語っており、大変感謝されたとのことでした。

パネルディスカッション

大川原化工機事件で長期間身体拘束を受けた同社取締役の島田順司氏、林弁護士の報告事例の依頼者女性、林弁護士、高知県弁護士会の市川耕士弁護士によるパネルディスカッションが行われました。

島田氏からは、逮捕される前の取調べでは、取調べの前に既に供述調書が出来上がっておりそれを確認する作業だった、「杜撰に知っていて」「分かってやりました」「故意に」など、自分が話してもいない言葉が供述調書に書かれていて供述調書は捜査官が勝手に作るものだと分かった、警察官は「経産省も外為法の規制対象に該当するという見解である」など述べていたが、後から嘘だと知った、など取調べの実態が赤裸々に語られました。在宅取調べの途中からは、自分が必死で話していることが全く調書に取ってもらえない、どうにか証拠を残さなければいけないと思って、身を守るために自主的に録音を行っていたとのことでした。その他にも、何年も前のことを何も資料を参照せずに答えろと言われても答えられるはずがない、証拠を確認できる仕組みが必要である、と捜査段階の証拠開示の必要性も挙げられていました。

林弁護士の依頼者は、一般の人にとって、刑事手続は全く分からない、弁護士が同じ庁舎にいると思うだけで安心できた、取調べの最中に隣に弁護士がいたらもっと心強かっただろう、と語っていました。

海外視察報告

本シンポジウムに先立って、日弁連取調べ立会い実現委員会有志で、取調べへの弁護人立会いが法制度化されているイギリスと韓国の視察を行いました。

韓国視察団のメンバーである佐賀県弁護士会の半田望弁護士が、韓国視察の報告を行いました。半田弁護士によると、韓国の取調べは動機の解明に重点が置かれておりその点は日本と似ているが、韓国では2020年の刑訴法改正によって捜査段階の検察官調書の伝聞例外規定が撤廃されたことにより、客観証拠中心の捜査にシフトしている、警察官・検察官のいずれも、弁護人が取調べに立ち会うことによって法律上の概念の説明などを弁護人がアシストすることから、取調べがしやすくなったと語っていた、ということでした。

また、イギリス視察団のメンバーである大阪弁護士会の川崎拓也弁護士からもイギリス視察の報告がありました。イギリスでは取調べの時間は通常45分が限度であること、実際の取調べを傍聴した際、被疑者の言い分を捜査機関が誤解しているように思われる場面で弁護人が捜査官に誤解を指摘するなど、捜査官と弁護人が協力している様子が窺われたこと、警察官が弁護人がいない取調べは信用性がなくなるため弁護人が立ち会った方が好ましいと語っていたことなどが報告されました。

第1部まとめ

日弁連取調べ立会い実現委員会委員長である札幌弁護士会の川上有弁護士より、第一部の締めくくりのスピーチがありました。

「改めて日本の取調べが後進的であることを痛感した。人権侵害的な取調べをやめさせるためには弁護人の立会いが有効かつ不可欠である。当事者は弁護人の立会いを求めている。当事者の切実な声に我々弁護士が背を向けていいはずがない。我々弁護士は、立会い権実現後の将来の依頼者のためだけでなく、現在の依頼者の声に応える義務がある。」という熱いエールが送られました。

第2部 逮捕段階からの被疑者国選弁護制度
プロモーションビデオ~逮捕段階で国選弁護人が選任されるとこうなる~

第2部のテーマは、逮捕段階からの被疑者国選弁護制度の実現です。
冒頭に、勾留後にしか国選弁護人が選任されない現在の制度下での接見動画と、逮捕段階から国選弁護人が選任される架空の世界の接見動画の2パターンが流されました。

現在の制度の下での接見動画では、弁護人が接見に行った時点で既に、認めれば早く出られるだろうと思って被疑者が虚偽の自白調書に署名押印をしていたという場面が映し出されます。これに対して、逮捕段階から国選弁護人が選任される制度の下での接見動画では、弁護人が当初から被疑者に黙秘権を行使できること、供述調書に署名押印しないことをアドバイスします。

弁護人の援助が最も必要なはずの逮捕直後の時点で国選弁護人が選任されないことによる不都合を見事に指摘した動画でした。弁護士の説明はどうしても小難しくなりがちです。一般の方々に問題点を伝えるには、動画は非常に有効なコンテンツだと実感しました。

パネルディスカッション

第2部のパネルディスカッションのパネリストは金沢弁護士会の高見健次郎弁護士、埼玉弁護士会の長沼正敏弁護士、大阪弁護士会の西愛礼弁護士、第二東京弁護士会の開原早紀弁護士です。

高見弁護士からは、(1)近時、警察で当番弁護士の紹介がされなくなっている、(2)資力制限があるため、資力のある被疑者は私選弁護人選任申出をして私選受任を拒否されるという無駄な手続を履践しなければならない、(3)国選弁護人が勾留決定後にしか選任されないことから捜査の初期段階で虚偽自白が取られる危険性が高い、という問題点が指摘されました。

長沼弁護士、開原弁護士からは、現在の制度では逮捕段階に国選弁護人が選任されないために、初動が遅れ困難をきたした事例と、逮捕当日に初回接見ができたために成功した事例の両方が報告されました。

長沼弁護士の報告事例は、被疑者が、妻の不倫相手(被害者)に対して傷害・恐喝未遂を行った疑いで逮捕されたというものです。逮捕より相当前の時点で、被疑者から不倫相手(被害者)に対して不貞慰謝料請求訴訟を提起しており、不倫相手(被害者)からは被疑者に対して傷害を理由とする反訴が提起されていました。傷害に関する証拠も相当程度民事訴訟で提出されています。長沼弁護士は、民事訴訟の代理人弁護士から直ちに民事訴訟資料を入手し、本件は本来民事訴訟で決着をつける事件である、身体拘束してまで捜査を遂げる必要はないという意見書を提出しました。いったんは勾留が認められましたが、勾留に対する準抗告が認容されました。準抗告審では、逮捕状を出した裁判官が裁判長を務めました。後日、同裁判官から、「準抗告審の際に判明した事情が当初から分かっていたら逮捕状は出していなかった。」と言われたということでした。

西弁護士からは、かつて裁判官として令状裁判に関与した経験から、令状担当の裁判官はできるだけ多くの情報を知りたいと思っている、弁護人から勾留要件に関する情報が多く提供されれば慎重な判断が可能になるのでありがたい、特に身上関係の情報、示談の状況に関する情報が提供されると判断に影響する、との意見が述べられました。他方、国選弁護人は勾留が取消されると解任されるため、釈放してよいか気がかりな面もあるという懸念も示されました。

ドイツ視察報告

ドイツ視察団の一員である高見弁護士から、ドイツにおける国選弁護人の選任の状況について報告がありました。報告によると、ドイツでは、仮拘束(逮捕)された被疑者が勾留の裁判のため裁判所に引致されるときには弁護人の関与を必要とすると法制化されているとのことです。国選弁護人選任は捜査判事が行うことになっており、捜査判事は警察本部に在中しています。したがって、仮拘束された被疑者を勾留することにした時点で、弁護人が選任されなければならず、国選弁護人選任手続は警察本部内で行われます。これは逮捕段階の国選制度と実質的に同等です。また、選任された弁護人は勾留質問に立ち会うことが認められています。

これを踏まえて、日本で逮捕段階からの国選制度を実現するに当たっては、逮捕時の警察による国選弁護人選任の矜持がしっかりなされること、被疑者が逮捕時点で口頭で国選選任の旨を告げるだけで国選選任手続が開始されること、勾留請求却下や勾留準抗告認容などで被疑者が釈放されても国選弁護人の地位が失われないこと、被疑者が弁護人選任請求をしたときは弁護人にアクセスできるまで取調べをしないことなどの条件が必要であると提言されました。

第2部まとめ

第2部のまとめとして、高見弁護士から、国選弁護制度は適正手続のための制度である、社会のインフラとして簡潔で便利な制度が構築されなければならない、という意見が表明されました。

感想

シンポジウムに参加して、当事者の生の声が一番心に響きました。通常の当事者は刑事手続についての知識が全くありません。当事者にとっては全てが初めての経験です。林弁護士の依頼者は、「同じ建物に弁護士の先生がいると思うだけで心強かった。」と述べていました。当事者は、弁護人が取調べに立ち会うことを強く望んでいます。この声に弁護士が反対する理由はないはずです。

もう一つ、改めて感じたことがあります。第2部のプロモーション動画、パネルディスカッションの中で、黙秘権行使を選択する理由として、「虚偽の自白調書が作られるのを防ぐ」「アリバイ潰しを防ぐ」という発言が何度も繰り返し出てきました。我々弁護士からすると当たり前のアドバイスです。しかし、ふと冷静に考えてみると、被疑者の言い分が被疑事実と違うのであれば、その言い分をそのまま証拠に残すというのが本来捜査機関に求められることではないでしょうか。被疑者にアリバイがあるというのであれば、そのアリバイが正しいかどうかを虚心坦懐に検証して、くれぐれも無辜を罰することがないよう心がけるのが捜査機関の役目ではないでしょうか。虚偽の自白調書を作ることも、被疑者のアリバイをつぶすことも、本来絶対に許されない行為です。ところが、これらの行為が現に行われているということを前提に弁護活動をしなければならないという現実に、現在の刑事手続の病理を感じました。

私にとって、初めての国選シンポジウムへの参加でした。現地に足を運ぶことで、各地から集まった弁護人の刑事弁護変革への熱意と、弁護人に対する当事者の期待を実感できたことが、今回の最大の収穫でした。

第16回国選弁護シンポジウム基調報告書「横にはいつも弁護人~取調べの立会い・逮捕からの国選弁護」は以下のQRコードからダウンロードできます。

福岡県弁護士会 第16回国選弁護シンポジウム「横にはいつも弁護人〜取調べの立会い・逮捕から国選弁護」のご報告

https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/symposium/kokusen_sympo/kokusen_sympo16_report.pdf

憲法講座「檻の中のライオン」

カテゴリー:月報記事

会員 塩村 貴秀(73期)

1 はじめに

令和6年11月24日に、筑後部会弁護士会館にて、憲法講座が開催されました。本講座は、筑後部会憲法委員会が毎年主催するもので、一般市民の方々に憲法問題についてさらに関心を持っていただくことを主な目的としたイベントです。今回は、広島弁護士会所属の楾大樹(はんどう たいき)先生を講師としてお招きし、講演を行っていただきました。日曜日にもかかわらず、約30人もの多くの方々にご来場いただき、とても充実した憲法講座となりました。その様子をお伝えします。

2 楾先生のご紹介

楾先生は、ひろしま市民法律事務所の所長を務めておいでですが、その傍らで、憲法に関する講演活動や執筆活動を精力的に行っておられます(現在は業務のほとんどが講演活動とのことです)。特に講演活動は全国から引っ張りだこで、全国47都道府県で1000回以上の講演実績をお持ちです。本講演の日も、53日間で62講演という過密日程の中でご登壇いただきました。代表的な著書に「檻の中のライオン」があり、本講演も、同書の内容を基にお話していただきました。

3 開会

筑後部会会長の岡田先生の開会のあいさつが終わり、講演がスタートしました。楾先生の近況についてのユーモアたっぷりの話から始まり、会場もとてもリラックスした雰囲気となりました。

福岡県弁護士会 憲法講座「檻の中のライオン」

岡田部会長の開会のあいさつ

4 憲法を守るべきなのは国民みんな?そうじゃない?

講演の初めに、楾先生は、「憲法を守るべきなのは国民みんなでしょうか。そうじゃないでしょうか。」と会場に問いかけます。会場では、国民みんなに手を挙げる方、そうじゃない方に手を挙げる方と、意見が分かれました。この会場の様子を受け、楾先生は、憲法99条には公務員に対して憲法擁護尊重義務が課されていることを指摘し、公務員(政治家)こそが憲法を守らなければならない主体であり(国民みんなではない)、国民はそれら公務員(政治家)がきちんと憲法を守っているかを選挙における投票行動を通して監視しなければならない存在であると解説なさいました。憲法は国家権力を規制するためのルールであり、我々国民は、その憲法を国家権力がきちんと守っているのかどうかを監視すべき存在なのです。このような国家権力と憲法との関係を、国家権力=ライオン、憲法=檻に例えて、憲法の全体像を網羅的に解説していただくというのが、本講座の内容です。

福岡県弁護士会 憲法講座「檻の中のライオン」

楾先生の軽快なトークからスタート

5 檻の中のライオン

国家権力をライオン、憲法を檻に例えた憲法の各条項の楾先生による解説は非常にわかりやすく、斬新なものでした。例えば、ライオン(国家権力)が入る檻(憲法)を改修(改正)するのは我々国民です(憲法第96条第1項)。また、檻(憲法)から出たライオン(国家権力)の言うことは聞かなくていいことになっています(憲法第98条第1項)。さらに、ライオン(国家権力)に言いたいことを言えないと良いライオン(国家権力)を選べませんが、そうならないために檻(憲法第21条、表現の自由)があります。そのほか、ライオン(国家権力)が誰かをえこひいきしないように、檻(憲法第14条、平等権)があり、みんな平等に扱われることになります。

等々、楾先生は、そのほかの憲法の条項についても、檻とライオンに例えた非常にわかりやすい解説を行っていただきました(紙面の都合上全てをご説明することができないのがもったいないほど、分かりやすい解説でした)。来場された一般市民の皆様もしきりに頷きながら講演に聴き入っておられ、我々弁護士などの法曹以外の方にも大変分かりやすい内容だったと思います。

福岡県弁護士会 憲法講座「檻の中のライオン」

いろんなぬいぐるみを使って説明する楾先生

福岡県弁護士会 憲法講座「檻の中のライオン」

檻とライオンのぬいぐるみを使って説明する楾先生

6 懇親会

楾先生の軽快な語り口と分かりやすい内容により、講演はあっという間に終わってしまいました。最後は筑後部会憲法委員会委員長の高峰先生より閉会のあいさつがあり、本講座は無事終了いたしました。

その後は、楾先生、筑後部会憲法委員会の有志、来場者として参加していた九大ロースクール生6人とで懇親会を行いました。憲法のお話や楾先生のプライベートのお話など、興味深いお話をたくさんお聞きすることができ、とても良い懇親会となりました(楾先生、二次会までありがとうございました)。

7 おわりに

憲法に関する講演と聞くと、どこか難しかったり、固かったりというイメージが付きまといがちです。しかし、本講座における楾先生のお話は、楾先生のお人柄もありますが、とてもイメージしやすく、身近な事についての話としてスッと自分の中に入ってきました(おそらく会場の皆がそうだったと思います)。とても新鮮な体験でした。楾先生は、今後も精力的に講演活動を行われるとのことですので、まだ講演を聴かれたことのない方は、是非1度聴講されることをおすすめいたします(福岡でも講演予定があるとのことです)。

本年も大変充実した憲法講座になったと思います。筑後部会憲法委員会では、来年以降も一般市民の方々に向けた憲法講座を企画してまいります。来年の憲法講座も、本年と同じくらい充実した講座となるよう、しっかり取り組んでいきたいと思います。最後に、本講座にご協力いただいた楾先生に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

手錠腰縄シンポジウムのご報告

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手錠腰縄PT 鶴崎 陽三(69期)

1 はじめに

去る令和6年10月3日、愛知県(名古屋市)での第66回人権擁護大会の第2分科会として手錠腰縄問題に関するシンポジウムが開催されました。

聞きなれない会員もいるかもしれませんが、手錠腰縄問題は、身柄事件の被告人が公判廷で裁判官からの解錠の指示があるまで手錠腰縄を装着された姿を晒されることが被告人の尊厳を損なうものであり人権侵害にあたるとして、手錠腰縄姿を訴訟関係者や傍聴人に晒さないための措置を求めるものです。

以下、シンポジウムの内容をご紹介します。

2 報告等及び講演
(1) 報告等及び講演の内容

本シンポジウムでは、最初に手錠腰縄問題に関するドラマが上映され、愛知県弁護士会の櫻井博太弁護士からの基調報告、福岡県弁護士会の稲森幸一弁護士から国際人権法についてのガイダンス、法廷での手錠腰縄経験者であるミュージシャンのSUN-DYU氏による歌唱と同氏に対するインタビュー、海外の調査報告などがありました。

また、基調講演として、慶應義塾大学大学院法務研究科の山本一氏教授、近畿大学法学部法律学科の辻本典央教授、中央大学の北村泰三名誉教授からご講演いただきました。
最後に、北村教授及び辻本教授に元裁判官で現愛知県弁護士会の伊藤納弁護士、大阪弁護士会の川﨑真陽弁護士を加えた4名をパネリストとしてパネルディスカッションが行われました。

以下、紙面の関係上すべてをご紹介することはできませんので、櫻井弁護士の基調報告とSUN-DYU氏へのインタビュー及び各基調講演について、内容をご報告いたします。

(2) 櫻井博太弁護士の基調報告

櫻井弁護士からの報告によると、最高裁判所と矯正局の協議によって、平成5年に、「特に戒具を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせることは避けるべきであるという事情が認められる場合には」(傍聴人を被告人より後に入廷させ、傍聴人を被告人より先に退廷させることにより)傍聴人のいない所で解錠・施錠することを原則とし、それができない特段の事情がある場合には、入廷直前又は退廷直後に法廷の出入口の所で解錠・施錠する取り扱いとすることが法務省から通知されたそうです(平成5年通知)。

その後、どのような経緯なのか平成5年通知に従った運用は全くなされなくなった中で、2014年、大阪地裁において被告人が手錠・腰縄姿での出廷を拒否し、それにならった弁護人に対して出頭在廷命令及び命令違反による過料決定、大阪弁護士会に対する処置請求がなされました。

これに対して、2015年、大阪弁護士会は「処置しない」決定をするという毅然とした対応をしましたが、この頃から大阪弁護士会で手錠腰縄問題が議論され始めたそうです。
その後、一時的に裁判官がなんらかの対応をしてくれる割合が増加したそうですが、最近は対応割合がかなり低下しているとのことです。

その他、手錠腰縄に関する海外の状況や、日本における裁判例として、手錠腰縄問題を人格的利益の観点から判示した裁判例や無罪推定の原則との関係について判示した裁判例などが紹介されました。

(3) SUN-DYU氏のインタビュー

SUN-DYU氏は、約300日間にも及ぶ勾留期間を経て、最終的には無罪となりました。
長期間にわたって勾留されること自体が極めて重大な人権侵害であり、日本における人質司法の問題点が垣間見えるところではありますが、それはさておき、本シンポでは、手錠腰縄について実際に手錠腰縄を経験したことがある人ならではのお話を伺うことができました。

たとえば、手錠腰縄をしていると、腰縄に引っ張られるような形になり、手錠で両手が体の前にあることも相俟って体勢が前屈みになるため、いかにも悪いことをした人間に見えるというようなお話がありました。
手錠腰縄がまさに人間の尊厳や無罪推定の原則を傷つけるものであることを痛感しました。

(4) 山本一氏教授の基調講演

山本教授からは、「人権の普遍性をどのように実現するか?-国際人権規範と国内における人権保障の実現-」と題したご講演をいただきました。
世界で人権保障がどのように発展してきたかや、日本における人権保障の課題、日本国憲法の問題点などをご説明いただき、今後の国際的な人権保障に向けた展望が示されました。

たとえば、日本国憲法から抜け落ちている視点として、先住民の権利、外国人の権利、戦後補償問題、住国籍問題をご指摘されました。
そして、国境を超える人権保障に向けて、憲法判断における国際人権の重要性を説明されたほか、従来の思考枠組を批判的に検討する必要があることなどが示され、国際人権規範の介入を警戒する従来の思考枠組として「国憲的思惟」(まず国があってこその憲法という見方)の問題性を指摘されました。

また、人権法源について、「拘束的権威」(法的拘束力を持つ規範)と「説得的権威」(参考にする規範ではあるが、従う義務はない規範)の2つに分類する従来の考え方(二分論)を修正し、両者の間に「影響的権威」(法的拘束力を持つ規範ではないがひとまずそれに従うべき義務が生じ、裁判官がそれに反する決定を行おうとする場合には、なぜそれに従わないかについて論証する責任を負う規範)を位置づける三分論を提唱されました。

(5) 辻本典央教授の基調講演

辻本教授からは、「人権問題としての法廷入退廷時における手錠腰縄措置」と題したご講演をいただきました。
手錠腰縄措置によって侵害される利益には(1)行動の自由・人身の自由の制約、(2)防御権の侵害、(3)人格権侵害があり(大阪地裁平成7年判決:人格権=「人間としての誇り、人間らしく生きる権利」)、手錠腰縄措置による権利侵害の違法性は、(1)(2)の直接的侵害については刑事施設収容法78条や刑訴法287条の解釈論によって判断されること、(3)の附随的侵害については本質的に避けるべき権利侵害であることを指摘されました。

また、比例性原則による規律が及び、当該措置をとることの適格性+必要性+相当性が問われることや、手錠腰縄措置の目的は逃亡防止にあり暴行防止は目的外であることなどが示されました。

裁判例としては大阪地裁令和元年5月27日判決を紹介されましたが、同判決の意義として、手錠腰縄姿を公衆の面前でみだりに晒されないことの正当利益は法廷内外で違いはないこと、法定警察権を根拠とする裁判所是正義務の存在、裁量性が否定され比例制原則が適用されることを示したことにあるとご説明されました。
また、刑訴法287条の身体不拘束原則を入退廷時に拡充する立法措置の必要性などを説かれました。

(6) 北村泰三名誉教授の基調講演

北村教授からは、「法廷内での拘束具使用の禁止に向けて 国際人権法からの問題提起」と題したご講演をいただきました。

「鎖、枷、その他の本質的に品位を傷つけ又は苦痛を伴う拘束具の使用禁止」や、「司法または他の行政当局の前に被拘禁者が出頭するときは(拘束具を)外される」ことなどを定めた国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)についてご説明いただいたほか、「被告人は通常、審理の間に拘束具をつけられたり檻に入れられたりまたは他の方法により危険な犯罪者であることを示唆するようなかたちで出廷させてはならない。報道機関は、無罪の推定を損なう報道は避けるべきである。」とする自由権規約委員会一般的意見32をご紹介いただきました。

また、国外の状況として、ヨーロッパ人権裁判所の判例には日本の法廷内における手錠・腰縄問題に直結するものは見当たらないものの、比例性原則により過剰で必要性のない手錠の使用は人権条約違反とされることが示されていること、米国連邦最高裁判決(Deck v.Missouri事件)では、法廷内の拘束具の使用は公正な裁判の場である法廷の尊厳を侵すものであると指摘されていることなどが紹介されました。

3 おわりに

法廷の中で手錠腰縄姿を晒されることが人権侵害にあたる違憲違法なものであると考えたとき、刑事弁護に携わる弁護士の多くは、目の前で違憲違法な人権侵害行為が行われているにもかかわらず何もせずにそれをただ眺めていたことになります。まずは弁護士自身が手錠腰縄問題を認識することが必要です。

翌日4日の大会では、入退廷時に手錠腰縄を使用しないことを求める決議が成立しました。
会員専用ページに申入書の書式が用意されていますので、是非みなさんも決議に沿った働きかけを実践されてください。

2024年11月1日からフリーランス法が施行されました!

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弁護士業務委員会 副委員長 福山 聖(64期)

1. フリーランス法の対応は万全ですか?

2024年11月1日から、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)(以下「フリーランス法」といいます)が施行されました。

弁護士業務委員会の経済法研究会では、施行前の同年10月22日に、フリーランス法の施行について、会員の皆様へ周知するとともに、業務に役立てていただくため、研修会をハイブリッド方式で実施いたしましたので、ご報告いたします。

当日は、「フリーランスにかかる取引の適正化について」の講演を、公正取引委員会事務総局九州事務所取引課長の幸屋健太郎氏に、「フリーランスの就業環境の整備について」の講演を、福岡労働局雇用環境・均等部指導課フリーランス就業環境整備指導員の前田佐也香氏にお話いただきました。

2. 対象となる事業者や取引とは?

フリーランス法は、フリーランスの相談者や発注事業者となる顧問先の取引だけでなく、私たち弁護士自身の取引にもかかわってくることがあります。たとえば、私たちが発注事業者として、フリーランスの通訳人に依頼するとき等です。

知識としてだけでなく、弁護士自身の取引がフリーランス法に対応できているのかを確認するためにも、まずは「対象となる事業者」や「対象となる取引がどのようなものか」等、フリーランス法をご確認いただければと思います。

3. 守るべき義務と禁止行為とは?

フリーランス法は、さまざまな業界で活動するフリーランスとの業務委託取引について、「取引適正」と「環境整備」という2つのパートに分けて、発注事業者が守るべき義務と禁止行為を定めているため、今回の研修は、それぞれ実務的な視点でお話しいただくべく、公正取引委員会と労働局から講師をお招きしました。

公正取引委員会からは、「取引適正」のパートにかかる「取引条件の明示義務」、「期日における報酬支払い義務」、「発注事業者の禁止行為(7つ)」のほか、下請法との比較について、福岡労働局からは、「環境整備」のパートにかかる「募集情報の的確表示義務」、「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」、「ハラスメント対策に係る体制整備義務」等の項目について、ご説明いただきました。

4. パンフレット等のご紹介

各項目(義務や禁止行為)のポイント等については、研修時に配布されたパンフレット「ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法 令和6年11月1日施行(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)」が参考になります。同パンフレットは、公正取引委員会のHP中(https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited.html)に掲載されていますので、ご利用ください。また、同HP中には、同法の特設サイトが開設されているほか、YouTube動画等の掲載もありますので、ご参考になれば幸いです。

福岡県弁護士会 2024年11月1日からフリーランス法が施行されました!

研修資料:パンフレット表紙

5. さいごに

ご自身の取引が、フリーランス法の対象となる取引に該当していないか、対象となっている場合には義務を守り、禁止行為に該当するようなことになっていないか等、ご確認等をお願いします。

経済法研究会では、今後も、皆様の業務に役立つ研修等を企画してまいりますので、ふるってご参加ください。

福岡県弁護士会 2024年11月1日からフリーランス法が施行されました!

研修の様子:弁護士会館にて

「アンドレア・パラさん講演会・シンポジウム」のご報告

カテゴリー:月報記事

精神保健委員会 委員 植竹 克典(66期)

令和6年10月26日、コロンビア共和国からアンドレア・パラさんをお招きし、精神保健に関するシンポジウムを開催しましたので、ご報告いたします。

1 アンドレア・パラさんって?

アンドレア・パラさんのことを御存じない方は多くおられるかもしれません。
アンドレアさんは、障がい者の支援活動などを精力的に行い、中南米諸国で成し遂げられた成年後見制度や強制入院制度改革に深く関与されたコロンビア共和国の弁護士です。今回は、日弁連の強制入院制度の廃止に向けた取組みの一環として来日されました。

2 アンドレアさんの基調講演…中南米での後見制度の廃止

アンドレアさんは、自国であるコロンビアや、その他中南米各国における後見制度の廃止に向けた取組みとその成果を中心にご講演されました。その概要は次のとおりです。
コロンビアは、人口4000万人、60年にわたって続いていた武力紛争が2016年に終結しましたが、その武力紛争に起因し、障がいを負った人も多数生活しています。
従来の制度では、家庭裁判所の判断により後見人が選任され、多くのケースでは、親族が後見人を務めていました。そして、後見人には、本人に関する全面的な権限を付与され、その一方的な判断(代行的意思決定)により、本人に不妊手術を受けさせてしまう、本人の財産を遣い込んでしまう、施設入所を強制してしまうといった人権侵害が横行していました。

コロンビアでは、2011年に障害者権利条約を批准し、この条約批准をふまえ、条約の趣旨、とくに第12条(障害者の法的能力の享有など)を忠実に実現する方向での制度改正が進められました。その結果、2019年までに、後見制度は全面的に廃止され、それに代替する「支援による意思決定」の枠組みが整備されました。

支援による意思決定は、(1)本人と支援者との支援合意、(2)特定の法律行為について、本人の支援者を家庭裁判所が選任する手続、(3)本人による事前指示の3つの枠組みがあり、いずれについても、代行的な意思決定が排除され、本人を中心に据え、本人の意思決定を支援する制度とされています。
このような後見制度の廃止など障害者権利条約の趣旨を実現する活動は、アンドレアさんらを中心とする中南米各国をまたがる権利擁護に関するネットワークの尽力により、中南米の各国で進められているとのことでした。

3 パネルディスカッション…強制入院の廃止に向けて・・・

パネルディスカッションでは、アンドレアさんのほか、精神障害がある人の地域生活を多職種チームで支援をしているQ‒ACTの須田竜太さん、精神科病院の強制入院の廃止に向けた日弁連の取り組みの中心メンバーである東京の池原毅和弁護士をお招きし、当会の田瀬憲夫会員のコーディネートのもと、強制入院の廃止に向け、それぞれの立場から熱い意見が交わされました。

本項の執筆者の力量の問題と紙幅の都合により、その全容をご報告することはできませんので、とくに印象に残った部分をご報告いたします。
アンドレアさんからは、かつては「奴隷から逃れたいという考え」が精神疾患と考えられていたなど、診断する側の主観的な判断で精神疾患との診断がされてしまう、本人の感情的な苦痛については、施設への収容による一般的な対応ではなく、個々人の問題として、軽減策を考えることが必要であり、その検討にあたっては、創造力を発揮した医療以外の対策(芸術を楽しむ、カラオケを楽しむなど)が重要と考えているとの発言がありました。

須田さんからは、Q‒ACTの取り組み事例として、強制入院を繰り返してきた男性の支援事例がご報告されました。危機的状況になった場合の対応策を、事前に本人と話し合っておき、調子が悪いとどうなるのか、どうすれば落ち着けるのか(状態が「黄色信号」であれば、「壺に向けて大声を出す」、状態が「赤信号」になれば「入院する」など)、周りの人にしてほしい支援・してほしくない支援を事前に話し合い、支援者間で共有する、この対応策については、何度も見直しをし改善していきながら支援を行っているとのことでした。

また、池原弁護士からは、強制入院中は大便を壁に塗ってしまうことを繰り返していた方が、退院後は、その行動もなくなり、一人で遠方に旅行に出かけたりするなど、社会内で順調に生活を送れるようになった、問題行動は本人なりの抵抗だったのではないかと考えているとの体験談のご報告がありました。

4 雑感

登壇された皆様のご発言を通じ、本人の話をしっかり聞く、そして、支援を一般化するのではなく、個々の当事者本人に適した方法で、寄り添った支援を行うことが重要であると感じました。こうした方向の先に、精神障害者の脱施設化の更なる展開もあるものと思います。

私自身も、今回も学んだことを活かし、今後の成年後見人としての業務や、精神保健当番弁護士などの支援活動により注力していきたいと強く感じました。

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