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カテゴリー: 月報記事

必要なのは語学力ではなく、声を掛けるほんの少しの勇気である! −初めての国際会議に参加して−

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国際委員会委員 奈倉 梨莉子(68期)

(1) はじめに

去る平成29年9月18日から21日、ホテルニューオータニ東京にて、LAWASIA東京大会2017大会が開催されました。

LAWASIAとは、アジア・太平洋地域の弁護士・裁判官・検事・法学者・法律専門職等が参加する団体であり、年に一度、持ち回りで各国の法律家が一堂に会する年次大会を開催しています。ローエイシアの年次大会が日本で開催されるのは、1945年の第4回大会、2003年の第18回大会に続いて3回目とのことで、私自身、LAWASIAの登録会員ではありませんが、この度日弁連及び当会の若手支援制度を利用して、本大会への参加が叶いました。本稿では、初めて「国際会議」なるものに参加した者の目線で、その魅力を少しでもお伝えできればと思います。

(2) 公式セッション

本大会では、34の公式セッション(1セッション90分)が用意されており、各セッションでは、各国の司法制度やビジネス法、国際人権問題など各国に共通する問題をテーマに、各国のスピーカー(通常4,5名)による報告、またそれに対する他のスピーカーや受講者との間の意見交換が行われました。各セッションでは、基本的に英語が使用されますが、全てのセッションに日英同時通訳がつくため、リスニングがあまり得意でないという方も心配はありません。私は、4日間を通じ、計7つのセッションを受講致しましたが、中でも最も印象的だったのは、「移民をめぐる諸問題~とくに『家族』と『子ども』に焦点を当てて」と題するセッションを受講したときのことでした。同セッションでは、ドイツ人法曹によりスリランカにおける海外への出稼ぎ女性家事労働者の問題についての報告が行われたのですが、これに対し会場にいたスリランカ政府関係者の受講者から、ドイツ人法曹が報告のベースとした報告書の公表後スリランカにおける出稼ぎ女性家事労働者の問題は大幅に改善されており、残された子らへの支援も十分に施されているという趣旨の10分以上に亘る猛烈な反論がなされたのです。どちらの言い分が正しいのかということではなく、ある国の抱える問題点を他国から観察した場合と自国の内側から見た場合にどのように違って見えるのかを知り、またリアルタイムの情報を得ることができる点も国際会議の醍醐味の一つではないかと思います。

(3) 外国人法曹との交流

LAWASIAでは、公式セッションのほか、私のように初めて国際会議に参加した若手のためのビギナーズイントロダクションや外国人法曹のためのアクティビティ(皇居ランや大相撲秋場所の観戦等)も用意されていました。また各セッションの合間には、コーヒーブレイクの時間が30分間設けられており、このコーヒーブレイクの時間こそ、国際会議ならではの体験ができるのではないかと思います。面識のない初対面の相手からの「コーヒーにミルクは使いますか」という一言から会話が始まり、「どこの出身か」、「名刺を交換しましょう」、「専門は何か」、「どのセッションが興味深かったか」とどんどん会話は広がっていきます。当然、この間の会話には通訳はつかないため、コーヒー片手に何とか自力で会話をしなければなりません。初日には、中々コーヒーブレイクの時間に馴染めなかった私も、最終日には、臆せず自分から話しかけられるほどになりました。

また3日目の夜には、ガラディナーというパーティが開かれ、約1600名の出席者が盛装して参加しました。9~10名で1テーブルを作り、ディナーを共にします。ディナーの途中には、日本人書道家による書道パフォーマンスが行われ、大いに盛り上がりました。

(4) おわりに

今回、LAWASIAに参加して、語学力もさることながら、近くにいる見ず知らずの誰かに一言自分から話しかける勇気を持つこと(馴れが重要)、そして何よりも伝えたい「何か」(参加の目的や自身の専門性など)を持つことが大切であると感じました。いつか、本大会で出会った誰かともう一度国際会議で再会できればと夢見ています。

LAWASIA東京大会2017に行ってきました!

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会員 柏熊 志薫(60期)

わたくし、支援を受けられる若手弁護士の枠に辛うじて滑り込むことができ、去る9月19日~21日、LAWASIA 東京大会2017に出席する機会をいただきました。

LAWASIA(The Law Association for Asia and the Pacific)とは、1966年に設立された、アジア・太平洋地域(ESCAP)の弁護士・裁判官・検事・法学者・法律専門職等が参加している団体です。今年は14年振りに東京で開催されたということで、開会式には皇太子ご夫妻もご列席され、歴史ある国際会議であることを肌身で実感しました。

会場には、日本だけではなく、中国、韓国、台湾、香港、マレーシア、シンガポール、インド、スリランカ、オーストラリア等からたくさんの法律家が来て、熱気で溢れていました。ビジネス、公益、刑事、人権、家事等の様々なセッションが用意されており、どれも興味深かったのですが、残念ながら体は一つしかなく・・・。普段の業務に密接に関連する、養育費や高齢者対応や、子どもの権利等のセッションに参加してきました。

各セッションは、その分野の専門家である各国のスピーカーが自国の法制度や直面する課題について報告し、コーディネータも交えて参加者との質疑応答や議論を行っていく形式になっていました。その一つ一つを語ると長くなってしまうので、印象に残ったお話をいくつかご紹介します。

<養育費の受け取りを保障するための制度>

日本では、養育費は当事者間で協議(合意)ができない場合は家庭裁判所が決定します。

ところが、オーストラリアでは行政機関が金額を決定し、その決定金額に不服がある場合に裁判所での手続が取られます。また、行政機関への申請はオンラインでできるようになり、迅速に金額が決まるようなシステムが出来ています。

そして、実際に子どもを監護養育している者に養育費の申請権があり、例えば、祖父母が孫を育てている場合には、祖父母が、父親と母親双方に対して養育費を支払うよう申請することができます。

さらには養育費と税金や年金は連動しており、養育費が不十分な場合には公的補助が受けられる一方、基準額以上の養育費を受け取っている場合には年金が減額されるなど、子どもの養育が、その両親任せにされるのではなく国や自治体の制度として組み入れていました。

<各国の後見人制度について>

日本をはじめとする東南アジア諸国では、本人の判断能力の程度に応じて、補助する役割を持つ人に代理権や補助権を与え、また、財産管理の責任を負わせる制度があります(日本では後見・保佐・補助に該当します。)。そして、後見人による不正行為(資金の着服や横領)が横行しているのは各国共通する問題でもありました。

セッションの中では、さらに仮想事例<認知症ドライバーが事故を起こした場合の法的責任は誰が負うか>について議論されました。

日本や台湾等は一般の不法行為制度に基づいて、本人に責任能力がない場合は家族の監督責任の問題が生じます(必ず責任を負う訳ではありませんが、問題にはなり得ます)。オーストラリアでは、家族に責任を負わせるのではなく、国家が保障するべきであるという価値判断の下、保険や公的制度で賠償を行っていくということでした。

「誰もが高齢者になり、また、高齢者を抱える家族にもなる可能性があるのに、なぜ個人や家族に責任を負わせるという議論が存在するのかショックだ」というオーストラリアのスピーカーのコメントがありました。

日本も超高齢化社会に突入し、高齢者ドライバーによる事故が後を絶ちません。ただ、公的制度で補償するということは国民の税金で負担することを意味しますから、日本でコンセンサスを得るにはまだ時間がかかりそうです。

<子どもと家族をめぐる移民の問題>

ドイツの弁護士より、自国での移民の受け入れ政策について紹介があり、シリアの難民の子どもがドイツに行った後、離れ離れになった親との再会をドイツで保障するか否かは、「出入国管理」と「子の最善の利益」の利益衡量になるという話がありました。

今、ドイツは難民問題への対応が国家的な課題になっていて、ニュースでも取り上げられているように、政権の帰趨に影響する重要な施策の一つです。

このセッションで、私がとても印象深く感じたのは、最後にインドの弁護士が意見を述べた場面でした。

「利益衡量によって、《保護される子ども》と《保護されない子ども》が出てきてしまう。人道的視点が後回しになってしまわないか?」

「ロヒンギャの問題に直面している。迫害を受けている子どもたちを前に、国の政策を理由にして限界があると言っていいのか?」

<さいごに>

人種、地域、宗教、歴史的背景、経済水準等を異にする各国の法律家同士の議論は、聞いているだけでも鳥肌が立ち、迫力がありました。

さて、このド迫力の国際会議での議論をどうやって聞いたのかって?

そりゃあ、英語を勉強し直しました。My English is rusty. から始めて。でも、全部のセッションで同時通訳がついていましたけど(笑)。

最後に、この大会参加のための支援(費用補助)をしてくださった日弁連と弁護士会、そして、事務所と家を丸3日間空けるにもかかわらず、快く送り出してくれた事務所メンバーと家族に感謝致します。ありがとうございました!

児童相談所の常勤弁護士となって

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会員 一宮 里枝子(67期)

1 始めに

私が、福岡県の児童相談所の常勤の弁護士となって半年が経ちました。

朝8時半からの勤務、土曜日曜は原則休みというこれまでとは全く違った公務員生活が身体に馴染んできたころです。

児童相談所と聞くと世間ではどのようなイメージを持たれているでしょうか。子どもを勝手に連れて行くとんでもない行政機関?子どもを守るために走り回っている熱い思いを持った専門家集団?ネットで検索してみると、児童相談所に対する様々な見方があることを思い知ります。虐待件数の増加が取り沙汰されたり、虐待事件が刑事事件となり新聞やテレビで大きく取り上げられることも少なくない昨今、児童相談所の中で弁護士が何をしているのか、ここで少しご紹介させていただきたいと思います。

2 児童相談所での業務
(1) 日常の業務

児童相談所が関わる子どもの問題は、虐待だけでなく、障がい、非行、育成に関することなど、多岐に及びますが、その中で常勤の弁護士の業務は「法的対応」となんとも大きく構えたものになっています。

具体的には、児童福祉法28条審判申立、親権喪失・停止審判申立、未成年後見申立、ぐ犯や触法犯の家裁送致にかかる準備としての書面作成、証拠収集というまさに「弁護士」が常勤で助かる!という業務がまず挙げられます。

そうはいっても、家庭裁判所への申立等は頻繁にあるわけではないので、申立等が想定されそうなケースつまり対応困難なケースに関して、職員からの相談を受けたり、職員と協議したり、保護者との面談に同席したり、市町村・学校・病院等関係機関との会議に出席することが日々の主な業務となっています。福岡県内にある6か所の児童相談所のケースにおいて、このような業務をこなしていくと毎日があっという間に過ぎていく、そのような日常を送っています(もちろん、合間で書面の起案もしています)。

(2) 面談・会議では

子どもの一時保護後、児童相談所に子どもを返せと怒鳴り込んでくる保護者との面談に立ち会うことがあります。虐待の疑いがあることを伝えてもわかっていただける保護者がいることは稀で、勝手に連れて行ったと怒鳴り散らされることがほとんどです。また、ネグレクトの疑いがある保護者、一時保護中の子どもの保護者、施設入所中の子どもの保護者等、様々な保護者と面談をします。言ってもいないことを弁護士に言われたと申し立てる保護者がいたり、どこに地雷があるかわからずふとした一言で怒りが沸点に達する保護者がいたり、児童相談所への恨みつらみを聞かされることばかりです。「普通、大人になってこんなに人に怒られることないよなー」と思いながらも、粘り強く面談を続ける日々です。

病院や学校、市町村との会議では「児相は何も動いてくれない」という不満が充満した状態で、私が参加することになります(まさに、9回ツーアウト満塁のピンチでマウンドに上がるピッチャーです。)。関係機関の方は、児童相談所が強大な権限を持っているかのように勘違いをされていたりしますので、児童相談所としては何が出来て、そのためにどういう要件が必要かをお話しします。そして、児相に投げたら終わりではなく、関係機関の皆様にも連携して動いてもらわなければならないと理解していただくこと、このようなことを訴えるのが私の役目となっています。

このように、どこに行っても「嫌われ者」の児童相談所の職員として、あらゆる場所で色々言われ、その時はさすがに腹が立ったり後悔することがないわけでもないですが、なぜか、とてもやりがいを感じています。それは、職員一丸となって同じ思いでケースに対応していることが大きいのではないかと思っています。

(3) 中に入って感じること

児童相談所の中に入って大変驚いたのは、私が行っているような弁護士が必要とされる対応を、これまでは職員が行っていたという事実でした。平成28年度の福岡県(福岡市、北九州市は除く)の6児童相談所での相談対応件数は、2300件と発表されており、年々増加傾向にあります。職員は、泣き声通告、虐待通告があれば安全確認に駆けつけ、朝から夜まで休む間もなく走り回っています。そのような日々のケース対応に追われながら、慣れない手続にも対応していたのだと思います。そういう意味で、(私が役に立っているかどうかはさておき)常勤弁護士の設置は大きな意味があったのではないかと実感しています。

私は、常勤となる前は、子どもの権利委員会の有志の弁護士で結成された協力弁護団の一員として児童相談所に関わっていましたが、定期的に児童相談所を巡回して職員の法律相談を受けることがメインで実際ケースに直接関わることはありませんでした。

弁護士から初期からケースに関わることで、その後の手続が適切かつ迅速に遂行できればと願いながら日々の業務を務めていきたいと思いっています。

3 これからも

この半年間、弁護士一人では多様な問題に対応することに不安もあり、私一人では解決できないこともありました。そのような時は、子どもの権利委員会の先生方、他児童相談所の先生方にサポートいただきながら、乗り切ってまいりました。この場をお借りして、サポートいただいた先生方にはお礼申し上げます。

これからも、様々なケースへの対応が求められると思います。毎回悩むことばかりですが、悩みながらも最善の対応ができるよう職員と一丸となって、子どもの福祉のため尽力したいと思います。

憲法リレーエッセイ −日本国憲法公布70周年記念講演の報告−

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憲法委員会委員 天久 泰(59期)

今年は日本国憲法が施行公布されて70年目になります。これを記念して8月26日の午後、福岡県弁護士会主催(日弁連、九弁連共催)の講演会が開催されました。講師は對馬達雄秋田大学名誉教授で、テーマは「反ナチ脱走兵とドイツ司法」です。会場となった福岡市中央区天神の都久志会館には約250人の市民にお出でいただきました。この記念講演会についてご報告します。

對馬教授作成の資料の冒頭にはこう書かれています。

「自己の良心を支えに人種的、政治的迫害に反対し、ヒトラー・ドイツと異なる『もう一つのドイツ』を求めた反ナチ市民に仮託して、『市民的勇気』(ツィヴィル・クラージュ)とは何か、人間として自立的に生きるとはどういうことか考えて欲しい(中略)読書を捨て一面的なネット情報を鵜呑みにした、同調思考が増す現代日本の動静、とりわけメディアと政治の急速な劣化が、全体主義の再来を招くという危惧があるからです。」

(引用終わり)講演の内容は前後半に大きく分かれ、「市民的勇気」を体現した2名の人物に焦点が当てられました。

その一人はフリッツ・バウアー。1903年にシュトゥットガルトのユダヤ人紡績商の子として生まれ、30年にドイツ最年少の裁判所判事に就任しましたが、33年に罷免されユダヤ人強制収容所生活に家族とともに送られます。35年にデンマーク、スウェーデンに長期亡命し、49年に西ドイツに帰国して判事に復帰、50年以降は検事となり、56年にはヘッセン州フランクフルト地裁検事長になります。

バウアーが検事として担当した「レーマー裁判」(52年)は、ヒトラー暗殺未遂事件(44年7月)に関与した元ドイツ兵たちについて、「外国から金をもらった売国奴で、国家反逆罪の罪人である」との演説をした極右運動家オットー・レーマーが名誉毀損罪に問われた裁判です。50年代の西ドイツでは1万5000人の判事・検事のうち66%から75%は元ナチ党員であったとされ、戦後も依然存在した極右勢力の影響下で、ナチ犯罪や戦争犯罪人に寛大な判決も多く、司法界にも色濃くナチズム期の体質が残っていました。

裁判の争点は、ナチ体制に対する抵抗が、国家反逆罪なのかという点でした。バウアーは事件が矮小化され、無罪判決が出るおそれを抱きつつ担当検事として全力を尽くしました。4日間の公開法廷の傍聴席は超満員で、審理の様子は逐一報道されました。最終論告で、バウアーは鑑定意見を踏まえ、ナチスドイツとは基本権を排除して毎日1万人単位の殺人を行う「不法国家」であり、この不法国家に対する正当防衛の権利は誰にもあること、その限りで抵抗の行動全てが合法的であること、不法国家に抵抗する権利即ち「抵抗権」は人間に付与されていることを述べました。バウアーは事件に関する報道が権威や権力に追従するドイツ人の目覚めるきっかけになることを願い、裁判を通じて国民に学んで欲しかったのです。

結果は有罪判決(禁固3ヶ月)。判決理由は、ナチ国家の実態がもはや法治国家ではなく「不法国家」であり、ヒトラー暗殺未遂事件における抵抗者達の行動は正当であるというものでした。バウアーの主張が受け入れられたのです。国内で大きな反響を呼ぶ判決でした。

ドイツは、戦後徹底的なナチズムの反省を行っていますが、その反省はバウアーの努力なくして実現しなかったといえます。

焦点が当てられたもう一人は、脱走兵であるルートヴィヒ・バウマン。バウマンは、1921年生まれ。20才のときにドイツ兵としてフランス・ボルドーの施設に派遣されましたが、間もなく脱走。すぐに軍に逮捕されて拷問を受け、40分ほどの裁判で国家反逆罪による死刑判決を宣告されます。収容施設で10ヶ月を過ごしたときに終戦を迎え、故郷ブレーメンに戻ります。帰郷したバウマンを待ち受けていたのは、脱走兵というレッテルを貼られ、日常的に「裏切り者」として罵倒される生活でした。彼は精神的に行き詰まり、アルコール依存症に陥りますが、51才のとき、脱走兵の名誉回復が自分の尊厳を得るための唯一の方法であると考え、名誉回復を求める市民運動を始めます。90年には、元脱走兵のための全国協会を立ち上げて広く賛同者を募り、その考えに共鳴する研究者を学術顧問に迎えるなどして政界と司法界に大きな影響を及ぼすようになりました。バウマンの運動を背景に、ドイツ連邦議会はナチズム体制下の法廷(人民法廷)は、ナチスの恣意的な支配のためのテロ組織であったとして、その判決は無効であるとの決議を行うに至りました。バウマンの名誉は回復されたのです。

バウマンはその活動の一環として、学生に向けた講話を多く行いました。ある講演録にはこうあります。「私には不安なことがあります。それはナチ時代の犯罪が徐々に相対化され、無害のものとされることです。そうならないように生徒たちの前で語っているのです。」バウマンの言葉は、人間の尊厳を守るため、忘却される歴史の流れに逆らいながら地道に声を上げ続けることの重要性を示しています。對馬教授の資料冒頭の言葉は、バウマンの言葉と重なります。

對馬教授には、全体主義に抗する「市民的勇気」の意義と重要性という貴重なご講演をいただきました。心より感謝申し上げます。日本国憲法は、去る大戦の背景にあった全体主義的な国家体制への反省に大きく根ざしています。この憲法が70年間にわたり私たち国民に与えてくれた「市民的勇気」とはどのようなものだったのかを振り返らずにはいられない機会となりました。これからも同様の機会を市民に向けて提供できるよう努力していきたいと思います。

あさかぜ基金だより ~卒業生の活動報告~

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豊前ひまわり基金法律事務所 所長 西村 幸太郎(66期)

1 はじめに

平成28年9月、あさかぜを卒業し、同10月、福岡県豊前市にて、豊前ひまわり基金法律事務所を開設しました。早くも1年が経ちます。皆様のご支援の賜物です。

あさかぜで学んだことを活かし、どのような1年を過ごすことができたか。これまでの弁護活動を、振り返ります。

2 弁護士赴任の意味

「先生がきてくれてよかった。」

相談者の言葉に、なんと元気づけられたことでしょう。

相談者曰く、「相談できる人が近くにいるというだけで、心強いのです。これまで、正しいかどうかわからず、不安な毎日を送ることもありました。話を聞いてくれる人、アドバイスをくれる人がいるということが、どれほど心強いことか。ぜひ、この地に根を張って、人々の力になってください。」とのこと。

私にとって豊前地域は新天地。地縁もなければ知人もおらず、ゼロからのスタートです。地域に受け入れてもらえるか、連れてきた妻とともに地域に馴染むことはできるか、食べていくことはできるか、地域住民に満足していただける質の高い法的サービスを提供できるか、不安もいっぱいでした。相談者による励ましは、そんな私を奮い立たせてくれるものでした。

弁護士赴任が意義高いものとなるよう、今後も精進を重ねていきます。

3 事件処理の工夫

地域の方(に限らないとは思いますが、相対的に。)は、円満解決、迅速解決を、強く望んでいるように思います。特に、後者の要請が強いと思います。もちろん、紛争は、人間の営みの中で生じるもので、うまくいかない場合も多いのですが、ニーズに応えるため、今まで以上に、事件処理の工夫を図ろうと努力しています。

受任時にできるだけ目安となる時間を伝えること(時間がかかる場合、その理由を伝えること)、事務局と連携しクイック・レスポンスを徹底すること、経過報告書を利用し処理経過を透明化するとともに、こまめな報告をすること、それでいて前向きにやれることからどんどん進めていくこと、などなど。当たり前のことを当たり前に、地道にやっていくことが、結局は、住民の信頼を得ていくことになるのではないかと思っています。

一方、円満解決の意向に関しては、悩ましいところがあります。住民は、地域柄、面目や風評などを強く意識する傾向にあります。法的には疑問を感じざるを得ない場合でも、訴訟を回避するなど様々な理由で、高額な支払いを余儀なくされるという事案も、珍しくありません。訴訟を望まない依頼者に、それでも訴訟を勧めるような説明をすべきか、悩ましいケースも多いです。争訟を好まない地域性に配慮しつつも、法的に適切な解決を目指す、そのバランスが難しいものです。

地域に法律という物差しに則った適切な解決を浸透させていくためには時間がかかりそうですが、私がその一助になれればと思います。

4 地域への浸透

赴任直後、ある先生から次のようなご助言をいただきました。

「弁護士は、地域に根を張り、行事にも参加して、その地域を肌で感じながら、地域に浸透し、事件処理にもあたっていかなければならない。君にそのような覚悟はあるか。」

独立前は、あまり意識していませんでしたが、様々な団体が、各地で、様々な活動をしています。こうした活動に触れることで、その地域の温かさを肌で感じることができ、人脈も広がっていくように思います。事件処理においても、その地域のことをよく知り対応することが、依頼者との信頼関係の醸成、事件の進行、相手方との折衝などにおいて、弁護活動の質の向上を支えるものではないかと思います。

「なにか困ったら、あの先生に相談すればいいよ。」と言ってもらえるよう、地域に浸透し、その信頼を勝ち取って、地域に根差した弁護活動をしていきたいと思います。

5 おわりに

本当は、思い出深いいくつかの事件の紹介も行いたいです。しかし、地域の特性上、事件が特定されやすく、守秘義務の要請が強く働くと思いますので、控えざるを得ません。

思いつくままに、この1年間のことを書き記してみましたが、法の支配の国民的浸透の一助となることを目指した、私の取組みは、まだまだ始まったばかりです。今後も、弛まぬ努力と精進を続け、1人でも多くの方々の力になっていきたいと思います。

今後とも、引き続き、変わらぬご指導・ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

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