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カテゴリー: 月報記事

LGBT研修報告 ~スカーレットヨハンソンと宇多田ヒカル~

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LGBT委員会 委員 石井 謙一(59期)

1 はじめに

去る2018(平成30)年8月1日、福岡県弁護士会館3階ホールにて、LGBTに関する研修会が開催されました。

3部構成で、第1部は久保井会員からLGBTに関する基礎知識について、第2部は入野田会員からLGBTに関する裁判例についての講演があり、最後に福岡市の人権推進課課長から、LGBTに関する福岡市の取り組みについてご紹介いただきました。

2 当事者がかかえる困難~社会は変えられるか~

久保井会員からは、いわゆる性的マイノリティであるLGBTに関する基礎知識と、当事者が抱える困難について、社会学の文献まで引用しながら非常に分かりやすくご説明いただきました。

LGBTに対する根深い社会的差別があるため、我が国ではそもそもいないものとされていること。ひとたび露見すれば強い差別や嫌悪にさらされる恐れがあり、当事者は時に自死にもつながる様々な困難を抱えていること。

どうにかしなければと思いつつ、社会を変えるなんてどうしたらいいんだと頭を抱えてしまいそうですが、久保井会員から希望を感じられるエピソードをご紹介いただきました。

3 スカーレットヨハンソンと宇多田ヒカル

それは、スカーレットヨハンソンをめぐる宇多田ヒカルとそのフォロアーのツイートに関するエピソードです。

映画を観る方なら、ヨハンソンのことはご存じだと思います。著明なハリウッド映画俳優ですが、生まれつき割り当てられた性別が女性で、自認する性も女性である、いわゆるストレートの女性です。その俳優が、トランスジェンダーの役で映画に出演することが決まったのですが、これについて批判を受け、結局その映画への出演を断るに至りました。

このときの批判は、トランスジェンダーの俳優はそもそも出演機会が限られているのに、トランスジェンダーの役をストレートの俳優が演じてしまうと、トランスジェンダーの俳優の貴重な出演機会が奪われる結果となり、少数者がより圧迫されてしまうという趣旨のものでした。そして、ヨハンソンが降板したのは、このような批判に共感したためでした。

これに対し、宇多田が、「ストレートがトランスを演じてはいけないと言うならば、トランスはストレートを演じてはいけないということにならないか」、という趣旨の英語によるツイートをしました。スカーレットヨハンソンに対する様々な批判について困惑してのものと思われます。

これに対し、その発言の間違いを指摘するツイートが多く寄せられました。ここで問題となっているのは「ストレート」(性的指向)ではなく、性自認であり、シスジェンダーであるヨハンソンがトランスを演じること、トランス俳優にはお笑い的な演技以外の活躍の場がない現状、だからこそトランスを扱った映画においてトランス俳優が起用されないことの問題などを指摘するものでした。

しかし、それらの指摘はいわゆる「炎上」というような、相手を非難したり罵倒したりするものではなく、相手の立場を尊重し、理性的に誤りを指摘するものだったそうです。ある投稿者の多少揶揄的な表現への批判について、当の投稿者が誠実に返答し、批判した者が改めてその返答に敬意を示すなど、それなりに「成熟した」会話が見られました。

こうして、宇多田の投稿から数時間内に、何千もの反応があり、それは概ねトランスに対する「正しい」理解の方向へと収束していきました。これを受け、宇多田自身も、性自認と性的指向を混同していたことについて率直に謝罪した上で、「問題の核心であるアイデンティティの問題を見失っていた」、「寛容と忍耐のみが不寛容と無知と闘う唯一の手段だ」というツイートをしました。

このように、意見が対立していた人達も、相手を尊重しつつ率直に意見を述べ、最後にはお互いに理解を深め、他方をリスペクトするという関係になっていきました。

事態は、関わる人達みんながLGBTに関する理解を深める方向で収束していったのです。

それは英語によるやりとりでしたが、炎上→沈静化という過程を辿り、何ら生産的でない言説が垂れ流されがちな我が国の現状と比較すると、なんと素晴らしいやり取りかと感動しました。

4 成熟した議論を

このような成熟した議論が積み重ねられるのであれば、どうでしょうか。LGBTに対する差別や偏見も、少しずつかもしれませんが無くなっていくと思えます。

そして、このような建設的な議論を展開することがそんなに難しいことなのかというと、真摯に学び続けようとする姿勢や態度さえあればできることなのではないでしょうか。

先入観や固定観念に縛られ、思考停止して他者の言説を否定していては何かを学ぶことなどできません。無知であることを認めないなどもっての他です。

真摯に学び続けようとするからこそ、他者の言説に耳を傾け、自らの誤りを認めることができる。手の届く努力で、社会を変えることができるかもしれません。

私自身が、学び続けようとする態度や姿勢を持てているのか、まずは見直してみようと考えさせられました。

5 裁判例に見る事件処理上の注意点

入野田会員からは、LGBTに関する裁判例をほぼ網羅する形で紹介していただきました。

印象に残ったのは、LGBTについて理解が不足していると指摘せざるを得ない裁判例が比較的多いとの指摘があったことです。

紙面の関係で多くはご紹介できませんが、例えば、生物学的な性が男性で、自認する性が女性であるトランスジェンダーの当事者が、会社に女性の服装、化粧等をして出勤したり、会社に対して女性としての取扱を求めたところ、それを理由として解雇された東京地判平成14年6月20日の事案では、結果として解雇が違法であるとしたことは妥当なのですが、理由の中で「女性の容姿をした債権者を就労させることが、債務者における企業秩序又は業務遂行において、著しい支障をきたすと認めるに足りる疎明はない。」とされており、仮に当事者の見た目が社会的には女性として受け入れられにくいものである場合にはどうなるのかと疑われる認定になっているとのことでした。

我々も、実際の事件を取り扱うときには、LGBT当事者を巡る法律関係を正確に理解し、LGBTであることについて言及する際には不正確な表現や誤った主張にならないよう、裁判所にも誤った認定をさせないよう、細心の注意を払う必要があると感じました。

6 福岡市の取り組み

福岡市のLGBTに関する取り組みについて、人権推進課の合屋四郎課長からご紹介いただきました。目玉となるのは、パートナーシップ宣誓制度を創設されたことです。既に20組を超える利用があるとのことでした。LGBT当事者のための交流会も定期的に開催しておられ、毎回多くの方が参加されているそうです。

行政が人権課題として取り組んでくれているのは心強い限りです。

当会とは電話相談を共同で実施していますが、今後も色々な面で連携していければと思います。

7 最後に

今回の研修は盛りだくさんでしたので、印象的なお話に絞ってご紹介させていただきました。

今後も充実した研修を企画する予定ですので、奮ってご参加ください。

あさかぜ基金だより ~豊前ひまわり基金法律事務所に行ってきました!

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あさかぜ基金法律事務所 弁護士 古賀 祥多(69期)

あさかぜ所員の古賀です。8月25日、豊前ひまわり基金法律事務所に行ってきましたので、そのときのことを報告します。

豊前に行くことになった経緯

私たちあさかぜ基金法律事務所の弁護士は、弁護士過疎地域に赴任することを目的として、日々精進しています。しかし、実際に弁護士過疎地域で弁護士業務を行うために必要なことが何なのか、具体的に知る機会が少ないため、豊前ひまわり基金法律事務所の西村幸太郎弁護士にお願いし、赴任後の弁護士活動に関する研修を開いていただきました。

西村弁護士は、あさかぜ事務所で2年半近く研鑽を積んだ後、豊前ひまわり事務所の初代所長として赴任し、それから2年、豊前市にて法的サービスを提供しています。西村弁護士は、地域に根ざした法律家として、依頼者に寄り添い、最善の結果を出すために日々頑張っているとのことで、私が尊敬している先輩弁護士の1人です。

いざ、豊前へ

研修当日、私たちは、豊前ひまわり事務所に向かいました。私たちは、博多駅で特急ソニックに乗車し、小倉経由で豊前ひまわり事務所の最寄り駅である宇島駅へ向かいました。

博多から宇島まで特急で90分の道のりです。私は、車窓からの景色を眺めながら、北九州市から遠く離れた豊前市の住民にとって身近に弁護士がいることがどれだけ心強いのかと考え、弁護士過疎偏在問題を解消することの重要性を実感しました。

宇島駅には大きな天狗像が鎮座していました。豊前市と築上郡築上町の境界に位置する求菩堤山(くぼてさん)には鴉天狗(からすてんぐ)の伝説が伝えられており、豊前市のマスコットキャラクターである「くぼてん」は、求菩提山の鴉天狗にちなんでいます(豊前ひまわり基金法律事務所のマスコットキャラクターも弁護士姿のくぼてんです。)。

宇島駅からはタクシーで、豊前ひまわり事務所に向かいました。駅から車で約5分の距離にあり、徒歩でも10分程度と非常にアクセスの良い場所です。事務所は、市役所が近くにあり、町の中心に近く大きめの道路が通っていて、交通量も多いため、住民にとって相談に行きやすい場所にあると思いました。

事務所見学、そして研修

事務所に到着してから、まずは、事務所内を見学しました。私たちは、事務所のレイアウトや、備え置かれている什器備品類などを見せてもらいました。このとき、事務所の間取りから備品の内容、置き方に至るまで、西村弁護士のこだわりを強く感じることができました。事務所見学の後、研修がスタートしました。

西村弁護士の研修は、事務所を開設するに際して何をするのか、どのように開設準備を進めていくか、といったところから始まり、開業場所や事務所名の決定、設備投資や広報活動等、従業員の雇用とその内容等、経営理念等について、幅広く、私たちへの質問も交えながら進められ、色々と考えさせられる内容でした。

この中で、一番印象に残ったのは、西村弁護士の担当していた事件に関する話でした。私が西村弁護士から事件の概要を聞いたとき、どのように事件を解決するのか、すぐには思いつきませんでしたが、西村弁護士は、当該事件を受任し、一生懸命自分で考え抜いて、事件を解決したということでした。今回、西村弁護士の話を聞いて、依頼者の言い分を法的主張として整理する能力を身に付けることの大切さを実感しました。

私は、弁護士過疎地域への赴任に際し、何が必要なのか、何となく漠然と考えていたところ、西村弁護士の話を聞いて、改めて弁護士過疎地地域で事務所を開設し、経営することの難しさを知りました。普段の業務では、主として自分が担当する事件のことを考えているだけで、経営についてここまで考えることはあまり無かったものですから、とても勉強になりました。

研修の後は、事務所近くのワインバーで、懇親会となりました。おいしいワインをいただき、楽しく会話が弾みました。

気持ちを新たに

今回は、実際に豊前ひまわり基金法律事務所を訪問し、弁護士過疎地域の最前線で頑張っている西村弁護士に接して、来たるべき赴任に向け、私も気持ちを新たに頑張ろうという気持ちになりました。

今後とも精進していきますので、皆様、何卒よろしくお願いします。

あさかぜ基金だより 都市型公設あさかぜに注目してください

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会員 小林 洋介(70期)

都市型公設事務所

あさかぜ基金法律事務所は、九弁連が設置した都市型公設事務所です。都市型公設事務所は全国に十数カ所設けられており、事務所毎に色々な特色を持っています。あさかぜは、弁護士過疎地域へ派遣する弁護士の養成に特化した事務所ですが、刑事事件とりわけ裁判員裁判に力を注いでいる事務所(北千住パブリックなど)や成年後見業務を数多く行っている事務所(岡山パブリック)もあります。また、「市民の駆け込み寺」として、都市部における司法アクセスの拡充を行うことを設立理念として掲げる公設事務所もあります。

あさかぜの受任事件

あさかぜは、公設事務所であるという性質上、顧問契約を締結することはできないので、依頼者は無料法律相談の相談者が大半です。扱う事件は、いわゆる「マチ弁」が取り扱うものとなりますが、その中でも、債務整理や離婚、遺産分割、成年後見申立などの家事事件、刑事国選事件が多くを占めます。

もっとも、あさかぜは弁護士過疎地域への弁護士派遣を目的とした養成事務所であるため、養成期間の2年ほどの間に幅広い事件を経験できるような体制が用意されています。具体的には、福岡県弁護士会所属の先生方(あさかぜ応援団)から事件の紹介を受けて共同受任したり、県外の先生方やあさかぜ出身の先生から事件の紹介を受けたりしています。共同受任事件・紹介事件では、建物明渡請求、交通事故、労働、消費者、強制執行、刑事告訴などを受任することができ、事件の種類はバラエティに富んでいます。このようにして、私たち所員は、養成期間中に数多くの類型の事件を受任し、来るべき弁護士過疎地域への赴任に向けて研鑽を積んでいます。

事務所会議

あさかぜでは、毎月1回、九弁連の管理委員会と福岡県弁の運営委員会の先生方を交えた会議を開催しています。この会議では、事務所の毎月の経営状況、紹介事件や共同受任事件の進捗状況、公設事務所をめぐる日弁連や九弁連での議論状況について報告がなされたりします。

私は、所員の中で最も期が若いので、議事録作成を担当しています。会議中は、ひたすら議論に耳を傾けつつ、漏れがないようメモを取り、それを基にパソコンで議事録を作成します。入所し立てのころは、そもそも会議でのやり取りが理解できず、メモを取るのも一苦労でしたが、最近は、議論の内容を理解することができるようになり、議事録作成もずいぶん速くなりました。

事務所の運営

あさかぜでは、事務所運営に関連する業務が色々あります。私が入所して最初にしたのは、弁護士法人の変更登記でした。弁護士法人であるあさかぜは、所員の交代があると変更登記をしなければなりません。私は、過去の申請書類を参照したり、法務局へ問い合わせたりしながら、登記の申請を行いました。

また、あさかぜでは、最も期の若い弁護士が修習生の採用担当者となり、新規登録弁護士の採用活動を行います。私は、ひまわりナビへの求人情報の掲載や、ロースクールへの採用案内の送付を行ったほか、あさかぜの仕組みや業務のイメージが伝わりやすいように採用案内の改訂を行いました。採用案内はあさかぜのホームページからも見ることができるので、ぜひ見てください。

そのほかにも、事務局の就業規則の作成など、労務管理についても、所員が担当する必要があります。

さいごに

近年、弁護士の就職状況が大幅に好転したこともあってか、全国的に公設事務所や法テラスへの新規登録弁護士の応募が減っているということです。私としては、公益弁護士への関心が薄れてきていることに危機感も感じます。

現在、弁護士会の活動の成果によってゼロワン地域は解消され、弁護士過疎問題はいったん解決したといわれていますが、地域によっては、利益相反などの問題から弁護士が定着することが困難な事務所もあり、たとえば壱岐・対馬のような事務所には定期的に弁護士を派遣する必要があります。

また、弁護士数がゼロではないものの、女性弁護士がゼロの地域が多数あります。離婚問題、DV問題などでは、男性に対して恐怖心をもっていて、女性弁護士にしか相談することができない人が少なくないのですが、女性弁護士がゼロであれば、法律相談のハードルが高くなってしまいます。このような事態を避けるため、女性弁護士ゼロの地域を少なくすることはとても大切なことです。

あさかぜ所員として、過疎地域における弁護士の存在意義とその重要性について、一人でも多くの人に関心を持ってもらえたら嬉しく思います。

あさかぜ基金だより~壱岐ひまわり基金法律事務所に行ってきました!

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あさかぜ基金法律事務所 弁護士 古賀 祥多(69期)

あさかぜ所員の古賀です。4月20日、壱岐ひまわり基金法律事務所に事務所見学に行ってきました。

壱岐ひまわり基金法律事務所とは

壱岐ひまわりのある長崎県壱岐市は、福岡市から北東80キロメートルに位置する壱岐島と周辺の4つの有人島、19の無人島で構成された人口約2万7000人の市です。

壱岐では、平成18年10月に法テラス壱岐法律事務所が設置されましたが、1つの法律事務所があるだけでは、弁護士が当事者双方の代理人となることができないため、相手方となった人は島外で弁護士に依頼するほかない状況でした。平成22年1月29日に、壱岐ひまわり基金法律事務所が開所したことから、必要があれば、いずれの当事者も、いつでも島内の弁護士に依頼することができるようになりました。

このように、離島における法テラス7号事務所、ひまわり基金法律事務所は、地域のリーガルサービスの拠点と位置づけられています。

壱岐への上陸

この度、私は、ひまわり基金法律事務所への赴任に先立ち、同事務所のことをより深く知るため、事務所見学に行くこととしました。

午前10時、博多港からフェリーに乗船し、島の南東部に位置する郷ノ浦港に向かいました。博多から郷ノ浦までは、2時間20分かかります。私は、本を読んだり、船内を回りながら、ゆっくりと船旅を楽しみました。その日はそれほど悪天候でもなかったため、船は揺れず、穏やかな船旅となりました。

郷ノ浦港に到着後、歩いて壱岐ひまわり基金法律事務所へ向かいました。郷ノ浦港から事務所までは徒歩10分程度です。事務所周辺に到着したときは、ちょうど昼休みの時間でしたので、時間調整も兼ねて、事務所周辺にある食堂で昼食をとることにしました。

昼食メニューをみると、「ウニ丼」という文字が目に付きました。

そうか、ウニか。壱岐はウニが名物だし、ここは奮発してウニ丼にしよう。

そう思って、私は、迷うことなくウニ丼を注文することにしました。そうして、ウニ丼を食べていると、店長さんが、「ウニは、これから先、6月、7月くらいが食べ頃になる。旬のウニは、とても甘いよ」と話してくれました。私は、その時食べたウニがとても甘く、非常においしかったので、旬の時はどれだけおいしいのだろう、と思いました。

事務所見学・周辺の散策

さて、昼食を済ませ、いよいよ目指す壱岐ひまわり基金法律事務所の事務所訪問に行きました。

壱岐ひまわり基金法律事務所は、郷ノ浦地区にあるNTT西日本壱岐営業所ビル3階にあり、長崎地方裁判所壱岐支部まで歩いて5分ほどの距離にあります。

壱岐ひまわり基金法律事務所の所長は、あさかぜ事務所において養成を受けてきた中田昌夫弁護士です。中田弁護士は、4代目の所長となります。

事務所訪問では、事務所内を見学させていただき、事務所の受任事件の概況・事件の種類等や、事務所での仕事の内容など説明を聞きました。中田弁護士の説明の中で興味深いと思ったのが、利益相反となる案件が多く、月1回で実施している社会福祉協議会での法律相談は、法テラス壱岐法律事務所の弁護士と一緒に実施しているということでした。福岡では、役所での法律相談で利益相反の問題が生じることは滅多に無いので、驚きました。離島で弁護士業務を行う難しさを考えさせられました。

その後、中田弁護士と一旦別れ、ホテルにチェックインし、事務所周辺を散策しました。郷ノ浦は、壱岐のなかでも役所が集まっている場所で、徒歩数分の圏内に警察署、裁判所、法務局があり、1時間もかからず、すべての場所を回ることができました。私は、裁判所の建物の中に入りましたが、長崎地方裁判所壱岐支部は常駐の裁判官・調査官がおらず、その日はがらんとしていました。

中田弁護士と合流するまで余裕があったので、事務所から徒歩10分くらいにある温泉に入ることにしました。長く入る時間はありませんでしたが、日頃の疲れをとることができました。

島内見学

午後5時、中田弁護士と合流し、自動車に乗って島内を見学しました。

壱岐島には、郷ノ浦、石田、勝本、芦辺の4つの集落があり、各地域に特色があります。郷ノ浦は、先に述べたとおり、役所が置かれています。石田は、流通関係の施設が集まっており、唐津行きのフェリーが出ているため、佐賀県とのつながりがあります。勝本は、漁業が盛んで、漁業関係者が多く住んでいるところで、芦辺は、発電所があり、電力会社の人が多く住んでいるとのことでした。

私たちは、郷ノ浦から出発し、石田、勝本、芦辺へと車を走らせました。壱岐は、山地が少なく平らな島で、平地が少なく耕地に乏しい対馬とは対照的です。道中は、田畑や牛舎が点在し、のどかな光景が続きました。酒蔵を見かけることもありましたが、壱岐は麦焼酎が有名とのことです。また、車も少なく、非常に運転しやすい道路だと感じました。実際、壱岐では交通事故事件が滅多にないそうです。その他、原の辻遺跡、一支国博物館の近くを通りましたが、途中下車して施設見学をする余裕はなかったので、後日の楽しみとすることにしました。

1時間くらいで、主要地域を全て回ることができました。

島内見学を終えて、夕食の時間となりました。寿司屋で特上握りを食べたのですが、ネタのなかに「壱岐牛」がありました。少しだけ熱を加え、薄くスライスされた壱岐牛が、しゃりの上に乗っていました(ローストビーフのような感じでした)。他の魚介類のネタの中に壱岐牛があるのは若干不思議な感じでしたが、いざ食べてみると、非常に柔らかく、口の中に入れると、肉の甘みがしっかりと伝わってきました。以前、壱岐ひまわりの所長引継式・披露会に出席した際、壱岐牛のローストビーフを食べたことがあり、その時もあまりのおいしさに感動しましたが、今回も、壱岐牛のおいしさに魅了されてしまいました。

島内見学が終了し、中田弁護士と別れました。私は、ホテルに戻った後、もう一回温泉に入りたいと思い、昼行った温泉に再び入浴しました。気軽に温泉に入ることができるなんて、すばらしいところだと感嘆しました。

博多へ

翌日、私は、郷ノ浦のホテルを出発し、郷ノ浦港に向かいました。途中、釣りのために壱岐に来ていた観光客がちらほら目にとまりました。釣りが趣味の方にとって、壱岐は魅力的な場所なのですね。

午前9時25分頃、私は、郷ノ浦港を出発し、高速船・ジェットフォイルで博多港に向かいました。ジェットフォイルだと、博多・郷ノ浦間は、1時間10分で移動することができます。

こうして、私の壱岐ひまわり基金法律事務所の事務所訪問は、つつがなく終了したのでした。

感想

壱岐ひまわり基金法律事務所を訪問し、離島での弁護士業務の難しさを知るとともに、壱岐の魅力を存分に体感することができ、非常に有意義なものとなりました。弁護士過疎地域に赴任するにあたり、今回の事務所訪問を活かしていきたいと思います。

みんな悩んでいます~「子どもの日記念無料電話相談」の現場から~

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子どもの権利委員会事務局長 森 俊輔(65期)

1 はじめに

去る2018年5月12日(土)午前10時から午後4時まで「こどもの日記念無料電話相談」を実施しました。この企画は、毎週土曜日午後0時半から午後3時半まで行っている「子どもの人権110番」の拡大版です。

子どもの人権に関する相談と謳ってはいるものの、子どもに関する相談であれば、離婚と親権に関するものから、いじめ、体罰、無戸籍問題、貧困、非行事件など様々なジャンルの相談を受け付けています。

2 閑散とした午前・嵐のような午後

当日午前は静かな滑り出し。取材に来たNHKの記者さんも”いい画”を撮ろうと意気込みますが、そんな時に限って電話が鳴らないのです。「テレビに映りたい」という私の願望が強く出過ぎたせいでしょうか。

相談担当の弁護士たちは、皆、正午のNHKニュース(九州沖縄版)効果を期待してお互いの顔を見合わせます。会場となった弁護士会館第二会議室は、どこか閑散としていました。

それがどうしたことでしょう(ここで皆さんの頭の中に「大改造!劇的ビフォーアフター」のBGMを流してください)。NHKニュースが流れ終わるや否や、プルルルルと電話が鳴り、用意していた2回線はあっという間に埋まってしまったのです。閑散とした第二会議室は、あっという間に活気溢れる電話相談会場に様変わりしました。電話機も自分の役割が果たせたからか、どこか嬉しそうです(BGM終わり)。

3 私はどうしたらいいの!?

「いじめに遭った子どもが不登校になっている。どうしたらいいのか」「家を出て知人宅で寝泊まりする娘を自宅に取り戻せないのか」「どこに相談したらいいのか分からないんです」

早急に法的な対応が必要なものもあれば、電話から得られる情報の限りでは家族同士の話し合いに委ねるほかないと思われるものもありました。ただ、ひとつ確かなことは、皆さんがそれぞれの立場から子どものことを考え、そして悩んでいるということです。だからこそ、ニュースを見て、すがる思いで電話を手に取られたのでしょう。

この日、午後4時までに合計14件の電話相談が寄せられ、うち数件は継続して面談相談等を受けることとしました。6時間だけで電話口からはいくつもの「ありがとう」が聞こえてきました。

午後4時に回線を切るとき、第二会議室には、温かな光と爽やかな皐月の風が吹き込んでいました。

4 みんな悩んでいる

行政機関も司法機関も民間でも様々な相談窓口が設けられています。それでも、どこにどうやって相談していいのか分からないまま、ひとりで悩んでいる人が大勢います。そんな方々の一助になる事ができ、子どもの人権擁護のために私たちは何をすべきか、何ができるのかを考えさせられました。

今後も広報を充実させて、「子どもの人権110番」を新たなステップに進化させていく予定です。乞うご期待。

今回、ご協力いただいた皆様にこの場を借りて御礼を申し上げます。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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