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カテゴリー: 月報記事

第61回人権擁護大会シンポジウム「外国人労働者100万人時代の日本の未来」のご報告

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国際委員会 丸山 明子(61期)

1 はじめに

本シンポジウムは2018年10月4日リンクステーションホール青森で開催されました。

「外国人雇用状況」の届出状況(2017年10月末時統計)によると、日本で働いている外国人労働者の数は約128万人(前年比18%増)、このうち約30万人が留学生等の資格外活動、26万人が技能実習生、約24万人が専門・技術(外国料理の調理師、語学教師など)分野となっています。すでに労働者50人のうち1人が外国籍の方となっており、今期の臨時国会では新しく在留資格「特定技能」を設置し、現行技能実習制度で受け入れている業種を拡大するための入管法改正案1が審理されており、成立すれば来年4月から施行される予定となっています。

まさに時機にかなったシンポジウムの内容ですので、本稿でご紹介できればと思います。

2 移民大国ドイツの先例

基調講演では宮島喬お茶の水女子大学名誉教授が登壇され「外国人労働者の受け入れと『人』との権利の保障」と題し講演されました。その中で、戦後の労働不足を補うため1961年より主にトルコから外国人労働者を受け入れてきたドイツの事例が紹介されました。

当初、ドイツでは彼らを定住化させないために2年〜数年程度の短期ローテーションで受け入れる政策を採っていましたが、受入企業から短期雇用による不経済(仕事ができるようになると帰国されるため、再度新たに人材育成しなければならない)を指摘され、1971年法律を改正し、より長期かつ更新可能な在留資格を設定するようになったという経過があります。石油危機後の不況で73年に外国人労働者の受け入れを停止し、帰国奨励政策を採るも効果がなく、かえって定住を選択し(帰国すると二度と戻れないため)、家族の呼び寄せを権利として求めるようになり、90年法律の改正により家族の呼び寄せを制度として認めるようになります。

受入当初の政策の姿勢及びその後の経過は、日本が現在そしてこれから直面する問題をそのまま映しているようです。

3 日本の現状:「技能実習生」

報告では「技能実習生」に特化し、問題点等が報告されました。報道等で頻繁に取り上げられておりますが、簡単にご紹介すると、

  1. 技能実習生は現地送出機関(ブローカー)に多額の保証金等を納めている人がほとんどで、こうした初期費用を返済するためには1年以上かかる。
  2. 安価な労働力としか見なさない受入機関が後を絶たず、劣悪な労働環境(雇用契約違反、低賃金、長時間労働、残業代の不払い、過労死、労災死、セクハラ、パワハラ等)、劣悪な住環境、強制帰国など労働法違反・人権侵害の温床となっている。
  3. 職場移転(原則)・転職の自由がない上、保証金等の返済のため帰国もできず、劣悪な職場から抜け出すために失踪、不法残留、不法就労に陥る実習生が少なくない。
  4. 技能実習という建前だが実態は単純労働に従事させるもの。

といった問題が存在します。「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」鳥井一平代表が、実習生がまさに受入機関の人から強制的に帰国されようとしている空港での緊迫したやり取りを撮ったビデオを流されましたが、日本でこのようなことが起きているのかと唖然とするものがあります。

これまで日本は援助や支援を通じた外交により、こうした送り出し国の人々からは好印象を持ってもらっていたはずですが、このままでは、これまでの外交成果を無に帰するどころか、若い人たちに日本への悪感情を植え付けることになりかねず、憂慮せずにはいられません。

なお、留学生(技能実習生よりも労働人口として多い)や専門・技術の在留資格で働いている外国籍の人、その他様々な就労形態で働いている外国籍の人たちには、それぞれ同様・固有の問題があるのですが、当該シンポジウムではそれについては全く触れられませんでした。「外国人労働者」と銘打っていますが「技能実習生」とすべきでしょう。なお宣言案採択に際し留学生について質問が上がり「新たな非熟練労働者受け入れ制度ができれば解決する。そもそも人権侵害の訴えが少ない。」と回答されていましたが、決してそのようなことはありません。

4 「特定技能」制度

パネルディスカッションでは、経団連井上隆常務理事が、経営者は中長期の在留・人材育成を望んでいること、労働人材獲得の国際的競争があり日本で働きたいと思ってもらえるような制度・環境が望ましいと発言されており、先に紹介したドイツの先例をも合わせて考えると、「移民政策は取らない」、「単純労働による就労資格は認めない」建前を考え直さなければならないのは、時間の問題であろうと思われました。

現在国会で審理されている特定技能制度は、残念ながらこうした声に応えるものではなく、また先に述べたような技能実習制度の問題を解決するものにはなっていません。また、最長10年の在留を認める制度でありながら家族の帯同を認めない、外国人のための生活支援(日本語の習得等)を国が行わない(民間や地方に丸投げ)といった問題点がさらに指摘されています。

なお、当該法案については、11月13日付で日弁連が意見書を出しています。

5 さいごに

今回のシンポジウムでは、外国人労働者受入後のあるべき社会として「共生」をテーマにした報告もあり、お決まりの海外=欧州視察報告もありましたが、1991年から日本語を母語としない人の日本語支援、生活支援、地域との交流会をしている「のしろ日本語学習会」、外国人の子の不就学ゼロに取り組まれている「浜松国際交流会」、66名(2017年度)の外国籍生徒を有する東京都立一橋高校(定時制)が抱える様々な課題と取り組みが紹介されました。

シンポジウムの成果として宣言が採択されましたが、法的サービスが必要な外国人労働者にアウトリーチできていない我々の課題について、他に向ける厳しい目を自分たちにも向ける必要はないのだろうかと思われました。

また、今回、私は、本シンポジウムの実行委員として福岡からスカイプを利用し会議に参加していましたが、会議の進行ではそうした参加者を把握しない等々広く意見を聞く様子はなく、一部(主に関東)の意見に日弁の衣を着せる場のようで、これまで日弁で活動されてきた地方委員の方々のご苦労に想いを馳せる機会ともなりました。

事業承継セミナー・個別相談会のご報告

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中小企業法律支援センター 委員 三角 亘平(67期)

第1 はじめに

当会は、毎年、日弁連及び全国の弁護士会と連携して全国一斉で中小企業向けシンポジウム及び無料相談会を開催しています。

当会では、同シンポジウム及び無料相談会を、福岡、北九州、筑後、筑豊の4地区で同時開催しておりますが、今年は、平成30年9月7日(金)、例年同様に同4地区で同時開催されました。

具体的には、福岡地区では天神のエルガーラホールにおいて、事業承継に関するセミナー等が開催されました。

同セミナーにおいては、まず「伝統の味をつなぐ」と題し、因幡うどん前社長竹﨑敏和氏による、当事者側から見た事業承継に関する講演、次に「事業承継支援ネットワーク事業について」と題して承継コーディネーター田淵耕一郎氏による講演、さらに「弁護士による事業承継支援」と題し、当委員会の委員である高柴弁護士の講演が行われました。その後、それに付随して、弁護士による個別相談会も実施されました。

セミナーは、ほぼ満員の大盛況であり、弁護士にとっても大変ためになるものでした。

以下、福岡地区での個々のセミナー及び個別相談会それぞれの概要についてご報告いたします。

第2 「伝統の味をつなぐ」

創業65年の歴史と伝統を持つ因幡うどんにおいて、工場設備の老朽化による大きな再投資が必要になり、後継者選定の必要性が現実のものとなって事業承継が検討されることとなりました。

その際、店を閉める、子供に経営を譲る、社員に経営を譲るといった選択肢も検討されましたが、資金力の問題や、従業員の雇用の問題、別の仕事を生き生きとしている子供の意思といった問題を考慮し、最終的に第三者に経営を譲るという選択をされたということでした。

第三者に経営を譲るとの決断をしてから、弁護士、会計士、税理士を含む専門家集団に譲受企業の紹介から、会社の客観的価値の評価、譲渡対象にどこまでの資産を含めるのか、会社分割等利用するスキームの選択、具体的契約内容まで支援を受けることになりました。

この際、前社長が最も重視していたのが、演題でもある「伝統の味をつなぐ」、すなわち、味と品質を承継する、ということでした。

実際に事業承継を終えた後も、前社長は顧問として承継会社に残り、店で出汁を取ったり、味と品質の維持に関わり続けており、非常に満足感を得ているとのことでした。

仮に専門家集団の支援がなければ、伝統の味や品質が維持できなかった可能性があるばかりか、そもそも伝統ある会社が廃業していた可能性もあります。弁護士を含む専門家集団の支援の必要性が痛感されるとともに、その影響の大きさに感銘を受けました。

第3 「事業承継支援ネットワーク事業について」

承継コーディネーターの田淵氏からは、主として事業承継の現状と課題及びネットワーク事業の意義等の説明がありました。

まず、事業承継の現状と課題として、好業績企業でさえ、高齢化の波に押され、後継者難に瀕し、廃業の可能性がある現状が指摘されました。

第2で取り上げた因幡うどんといえば、博多うどんといえばココ!というほどの有名店なわけで、そのような好業績企業が廃業予定企業の中に存在しているということでした。

因幡うどんの場合はうまく弁護士等が入ることで成功した例ですが、実際には、事業承継がなされずに廃業予定の企業が多数あり、それにより雇用、技術、ノウハウが失われてしまう可能性が指摘されました。

なお、廃業予定企業の廃業理由は下のグラフのとおりであり、後継者難という消極的な理由が3割近く占めていることが目を引きます。

事業承継セミナー・個別相談会のご報告 廃業予定企業の廃業理由(田淵氏の当日配付資料より引用)

(田淵氏の当日配付資料より引用)

他方、事業承継を支援するに当たって、弁護士を含む支援機関の支援が細切れになっているという問題点が指摘されました。

そこで、福岡県事業承継支援ネットワークでは、この点を解決すべく、地域中小企業支援協議会と商工団体、金融機関、士業等専門家、行政が連携するネットワーク構築を重要視しているとのことでした。

具体的には、事業承継診断を実施して、潜在的な事業承継問題を顕在化させ、連携する専門家への相談が適当と判断される場合には、専門家を派遣するとともに、診断ヒアリングの実施者がこれに同席して連携していること等が説明されました。

また、診断においては、事業承継前に経営改善を図り、後継者候補等が継ぎたいと思えるような経営状態に高める取り組みや経営の「見える化」、企業の魅力作りを進める取り組みについて、わかりやすい説明がなされました。

第4 「弁護士による事業承継支援」

高柴弁護士からは、M&A以外の事業承継の場合に何が問題になるのかといった説明や、事業承継における法的問題の指摘がなされ、弁護士の支援の必要性が説かれるとともに、ひまわりほっとダイヤルが一般向けに周知されました。

第5 個別相談会

その後、個別相談会が催され、こちらも事業承継を主たるテーマに設定してはおりましたが、その周辺分野も含め、不動産の所有権について、M&Aで買い取る場合の法的問題点について、M&Aによる買収の進め方について、労働関係について、契約書について、といった様々な相談がなされ、大変盛況でした。

第6 おわりに

事業承継は、高齢化が進む現在において、ホットな分野であることは間違いありませんが、中小企業経営者にとっては先送りしがちな問題です。

我々弁護士が、その支援をしていくことの重要性が痛感されるとともに、逆に当事者からのフィードバックを受け、より良い支援体制を構築していくことが重要だと感じました。

養育費110番、スタートしました!

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両性の平等に関する委員会 委員長 山崎 あづさ(54期)

8月25日(土)、福岡県による「養育費110番」の第1回が行われました。当日の様子と、この新たな取り組みの内容をあわせて、ご報告いたします。

養育費の受給率向上への取り組み

ひとり親世帯の親子の生活を支える上で、養育費の経済的な支払いはとても重要です。しかし、離婚の際に言い出せなかった、金額を決めたのにその後一切貰えていない、あるいは数か月や数年で支払われなくなったなど、様々な経緯で養育費を受け取れていないケースは多々見られます。

平成28年度福岡県ひとり親世帯当実態調査によると、ひとり親(母子世帯)の平均年収は約240万円、離婚の際に養育費の取り決めをしている割合は44%、実際に養育費を受給している割合は約24%にとどまっているといいます。

こうした、ひとり親世帯が抱える養育費に関する問題などの解決を図るため、福岡県と福岡県弁護士会は、今年、2つのサービスについて協定を締結しました。

それが、「養育費110番」(弁護士による無料電話相談の開催)と、「養育費クーポン無料相談」(福岡県ひとり親サポートセンターが発行するクーポンを利用して県内17カ所にある福岡県弁護士会の法律相談センターで、60分の無料面談相談を受けられるサービス)です。

特に「養育費110番」は、ひとり親世帯の所得向上を図るための新たな事業であり、全国的にも珍しい取り組みだということです。

110番当日・・・次々と電話が!

その第1回が、8月25日(土)に行われました。

午前10時から午後4時まで、福岡県弁護士会館にて、電話4台、弁護士8名(午前・午後各4名)という体制で待機しました。

事前に新聞各紙や自治体の広報誌等で告知されていたためか、午前10時に電話回線をつないだ途端、次々と電話が鳴り、あっという間に4台とも埋まりました。相談を終えて受話器を置いたら、すぐにまた電話が・・・!時間帯にもよりますが、その後もほぼ途切れることなく電話が鳴りました。

相談の内容は、やはりご自身の抱えておられる問題についてのものが多く、事案を聞き取って、法的なアドバイスをして・・・と、通常の法律相談に近い対応が必要でした。さらに弁護士による支援が必要だと判断されるケースについては、福岡県の無料相談クーポンの対象地域にお住まいの方であれば、クーポンの利用を案内しました。

相談結果の集計

この日の相談件数は、全部で32件でした。

相談者は20歳代から70歳代まで幅広く、「娘の件です」といって電話をかけてこられている方も数名いました。お住まいの地域も、福岡市をはじめ、久留米市、筑紫野市、宗像市、八女市、行橋市など、県内全域に及んでいました。

相談内容の集計結果は、以下のとおりでした。(複数回答あり)

  • 離婚問題 全般 2件
    養育費の取り決め方法 4件
    養育費の金額 4件
  • 離婚後の問題 全般 1件
    養育費の不払い 16件
    養育費の金額 3件
    養育費の取り決め方法 4件
    その他 1件(支払いが遅れ気味)
  • 未婚の場合の養育費 1件

これを見ると、養育費の不払いの相談が突出して多いことがわかります。やはり、養育費の不払いが深刻な状況にあるのだと実感しました。

今後の開催について

今回、初めて開催した「養育費110番」でしたが、予想を超える電話の件数でした。また、内容も、どれも切実なものでした。後日、県の担当の方から、「本当にこの事業を実施してよかった」との言葉をいただきました。

「養育費110番」は、今年10月27日(土)と来年2月にも実施することが決まっています。また、少なくとも3年間は継続して実施する予定だということです。

ということは、それだけのメンバーを確保していかなければならないわけで・・・今後、110番の相談担当にご協力いただける弁護士の名簿を作成することを考えています。

みなさま、ぜひご協力をよろしくお願いいたします!

全面的国選付添人制度実現をめざすシンポジウム「なんで、弁護士ついとらんと?」ご報告

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子どもの権利委員会委員 浅上 紗登美(69期)

1 はじめに

去る平成30年8月18日、天神ビル10号会議室にて、全面的国選付添人制度実現をめざすシンポジウム「なんで、弁護士ついとらんと?」が開催されましたのでご報告致します。

2 開会のご挨拶

知名健太郎定信委員長の開会のご挨拶とともに、ご多忙の中駆け付けて下さった、野田国義参議院議員、大島九州男参議院議員、山内康一衆議院議員、仁戸田元氣福岡県議会議員、鬼木誠衆議院議員の秘書の方よりご挨拶いただきました。

それぞれの皆様のご挨拶では、少年に裁量で国選付添人がつけられていることへの驚き、そして早急な解決に向け尽力したい旨の熱いお言葉を頂戴しました。

3 基調講演

「少年法講義」でお馴染みの武内謙治九州大学大学院教授による「国選付添人制度の課題」と題した基調講演が行われました。

全ての少年に国費で付添人がつかないといった現行少年法の問題点やその原因が国費を拠出することへの国民の納得を得ようとする制度設計になっていること等をご説明いただきました。

環境調整の重要性は明らかであるにも関わらず、環境調整の役割を果たしている付添人がつかない現行制度では、少年の特質、環境等の要保護性を勘案した適切な処遇をすることができず、結果的に少年の立ち直りを阻害しているのではと感じました。

4 九弁連報告

九弁連子どもの権利に関する連絡協議会吉田孝光委員長より、九州各地の独自の付添人活動のご報告、そして、九弁連としても各地でのシンポジウム開催や宣言など、全面的国選付添人制度実現に向け活動することが表明されました。

5 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、ご講演いただいた武内教授、NPO法人田川ふれ愛義塾理事長の工藤良さん、SFD21JAPAN理事長の小野本道治さん、野口石油中原給油所所長兼保護司の野口純さん、そして元少年2名をパネリストとしてお招きし、少年との関わり方、付添人の関与による利点、少年自身の経験をお話いただきました。

全ての方々が共通してお話していたのは、「少年は必ず変わることができるが、時間がかかる。1ミリでも軌道修正できるよう、諦めず見守っていくことが大切」、「責任ある仕事を与え、社会での役割を与える」、「怒られることに慣れているので、とにかく褒めてあげる」ということでした。

大人を敵視していた元少年たちは、工藤さんたちに引き合わせてくれたり、処遇決定後も面会に来る弁護士の姿を見て、周囲のありがたみ、自分のしたことの重大さを知ることができ、立ち直るきっかけとなったそうです。

さらに、元少年たちが、100名以上もの参加者を前にして、「これからは、少年たちに辛い思いをさせないよう寄り添い、時には本気でぶつかりながら、人としての筋道を教えていきたい。少年たちのおかげで日々自分も成長させられ、日々感謝して過ごせている。」と話していました。

大人を信じられなくなるような境遇で過ごしたはずの元少年たちの堂々とした姿を見て、私自身も感動しましたが、何より、元少年たちに携わってきた弁護士の先生方や受け入れ先の方には、万感胸に迫るものがあったのではないでしょうか。

少年の立ち直り支援、全面的国選付添人の必要性について、参加者の方々に深く考えるきっかけを与えた大変意義深いパネルディスカッションであったと思います。

6 集会宣言

少年更生を支える各団体の皆様と賛同者一同で「全面的国選付添人の実現を求める集会宣言」を行い、付添人の質の向上及び全ての子どもたちへの支援実現を宣言しました。

7 閉会のご挨拶

最後に、当会の上田英友会長より閉会の挨拶がなされ、盛況のうちにシンポジウムは幕を閉じました。

8 おわりに

本シンポジウムは、他の少年には付添人がいるのに、自分には付添人がおらず適切な支援を受けられない少年の不平等間をなくしたいという想いから、タイトルを「なんで、弁護士ついとらんと?」にしました。

当日は、100名以上の方々にご参加いただき、アンケートにもご協力いただきました。アンケートでは「弁護士の支援の重要性をよく理解できた」、「支援に関わる人・機関の連携の重要性を改めて感じることができた」、「若気の至りで間違っても、長い人生の中で次代を担う市民として健全に育っていく機会をもっと増やしていくべきと考えた」等の意見が大多数でした。少年の不平等感をなくしたいという想いにご賛同いただけたことを喜ばしく思いました。

他方で、制度実現に伴う付添人の質の低下を懸念する意見もあり、付添人としての質の向上に努めることが、制度の早期実現の近道なのかもしれないと感じた次第です。

私自身も「愛は与えっぱなし」という言葉を体現できるよう、付添人として日々邁進して参ります。

最後に、この場をお借りして、携わって下さった各関係機関の皆々様に厚く御礼申し上げます。

第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~

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法教育委員会 委員 見越 あけみ(69期)

1 はじめに

平成30年8月10日(金)福岡ビル9階 大ホールにおいて開催されました「第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~」について、ご報告致します。

本セミナーは、教育関係者(高等学校・小中学校の教員や教育委員会)、教科書出版社など教科書作成に携わる方々、弁護士を対象として、2022年度より高校の必修科目として導入される「公共」(現行科目「現代社会」は廃止となります。)について、授業のあり方や教科書(教材)の内容について考えることを目的として開催されました。

2 セミナーの内容

セミナーは、(1)基調講演2本、(2)「公共」の授業内容・教科書に関する報告、(3)弁護士が目指すモデル授業案の提示、(4)パネルディスカッションという盛りだくさんの内容でした。

まず、(1)基調講演(その1)として、橋本康弘先生(福井大学教授)より、「『公共』の基本的な考え方と授業づくり」というテーマでご講演いただきました。新科目「公共」のキーワードは「見方・考え方」、授業づくりのポイントは「見方・考え方」をしっかり使うことにある(=主題を設定し、「見方・考え方」を使いながら、その主題の解決のあり方を構想する。)とのことでした。「公共」では、決論に至る手続の公正、機会の公正、結果の公正という視点に加え、「世代間公正」「地域間公正」という視点からも結論の妥当性判断が求められるようです。

基調講演(その2)では、吉村功太郎先生(宮崎大学大学院教授)が、「シティズンシップ教育から新科目『公共』に期待するもの~社会の担い手である市民としての資質・能力の育成~」というテーマでご講演されました。英国のシティズンシップ教育論に触れた上で、問題を多面的・多角的に捉え、自らの選択・判断基準を反省的に磨いていくことのできる授業が求められる旨お話しされました。

次に、(2)「公共」の授業内容・教科書に関し、日弁連 市民のための法教育委員会 委員長の野坂佳生先生(福井弁護士会)よりご報告がありました。公(おおやけ)と私(わたくし)の概念、事実と論拠に基づいて主張を組み立てることなど、「見方・考え方」に関する分析的な視点が示されました。

続いて、(3)当会の法教育委員会 委員長の甲木真哉先生より、弁護士会が目指すモデル授業案のご提案がありました。法教育委員会が行っている「出前授業」と「公共」が目指す思考訓練には通ずるものがあるという観点から、「公共」の授業運営のヒントとして、出前授業の教材や授業進行案が提示されました。

そして、本セミナーのメイン企画、(4)パネルディスカッションです。当会会員で九弁連の法教育に関する連絡協議会委員長を務める春田久美子先生をコーディネーターとして、基調講演をしてくださった橋本先生、吉村先生に加え、福岡県折尾高校社会科教諭の中野孝太先生、当会法教育委員会副委員長の柏熊志薫先生の4名のパネリストが、それぞれのお立場から意見を述べ、議論されました。「論理的思考力」という世界ベースで求められる能力を、教育課程の中でいかに生徒に習得させるか、教員の指導力に依拠する面もあり、期待と不安が混在する現場の状況が窺えました。

「公共」は、単に知識の習得を目的とするのではなく、多角的・論理的な思考力の習得を目指す科目であるという特性から、質疑応答の場面では、評価方法に関する質問も多く出されました。評価するためには思考過程の見える化が必要なこと、その際には言語力も求められること、だとすれば国語で使用される評価基準も参照に値するのではないか・・・などなど、活発に意見交換が行われました。

3 最後に(感想)

今回、「現社(現代社会)」が「公共」に変わる!?、「公共」とは何ぞや・・・という興味から本セミナーに参加させていただきました。

高校の授業で論理的思考力が重視されることは歓迎すべきことと思いますが、授業内容や評価方法、試験対策など未知数の部分が多くあり、教育関係者も不安を抱えているように感じました。

「公共」と法教育委員会が行う出前授業とは精通する部分も大いにあるように思いますので、教育関係者と弁護士とが密に協力・連携することで、「公共」も出前授業も質の向上につながればよいなと感じました。私もその一助となれるよう尽力出来ればと思います。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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