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カテゴリー: 月報記事

憲法市民講座「ベーシックインカムについて考える」

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北九州部会憲法委員会 委員 梁 智元(73期)

去る3月11日、同志社大学経済学部教授である山森亮先生を講師としてお招きし、「ベーシックインカムについて考える」という題目で、北九州部会憲法委員会主催、憲法市民講座が行われました。

今講座は、新型コロナウイルス感染症が流行する今般の情勢にかんがみて、会場とZOOMの併用で行われ、山森先生もZOOMで登壇されました。

1 ベーシックインカムとは

近年報道等で話題となっているベーシックインカムですが、正確な語法とは異なった語法で使われていることが多いそうです。

山森先生によれば、ベーシックインカムとは、すべての個人が、権利として、無条件で、普遍的に、一定の額のお金を定期的に受け取ることができるという理念・制度と定義されます。

昨年、給付された特別定額給付金は、ベーシックインカムに近い理念・制度ではありましたが、世帯主に給付されるという点及び定期的ではなく1回限りという点において、ベーシックインカムとは異なるものです。

また、いずれも最低限度の所得水準を保障するものとして、最低所得保障と同列に論じられることも多いベーシックインカムですが、最低所得保障が各個人の所得水準に応じて給付を行う制度であるのに対し、ベーシックインカムは所得水準に関係なく、すべての人に一律に給付を行う制度であるという点で異なります。

2 ベーシックインカムの在り方

世間では、ベーシックインカムが、国民皆保険制度の解体や最低賃金制度の後退など、他の社会保障制度を後退させるものとして働くのではないかが懸念されているところです。

この点について、山森先生は、ベーシックインカムについては、それ単体で論じられるべきものでなく、社会保障制度の全体的な制度設計のなかで論じられるべきことについて言及されました。こと日本においては、既存の社会保障制度をベーシックインカムの理念に近づけ、個人の負担を軽減すること、低額の給付から段階的にベーシックインカムを導入することなどによって、徐々にベーシックインカムの理念と制度を導入する必要があると指摘されました。

3 所感

ベーシックインカムについては他の社会保障制度との関係で論じられる必要があるところ、日本における社会保障制度全体の在り方の根本を問うものとして、今後の議論状況を注視すべきであると思います。

「生き心地のよさ」のために私にできることは

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自死問題対策委員会 委員 三好 有理(67期)

第1 はじめに

子どもたちが生きていく社会はこういう生き心地のよい社会であってほしい。また、そのために私にもできることがあるかもしれない、そういう希望をもったシンポジウムでした。

去る3月13日、福岡県弁護士会館2階大ホールとオンライン(ZOOM)を併用して開かれた自殺予防シンポジウム「未来を生き抜く力、見つけたい」を紹介します。

第2 シンポジウムの紹介

福岡県弁護士会が主催する自殺予防シンポジウムは毎年行っていますが、今年は、10年にわたり減り続けていた自殺が昨年増加に転じ、コロナ禍の影響が指摘されている中での開催でした。

今回のコロナ禍にとどまらず、過去、不況などの社会的な危機が生じる度に、自殺が増加する傾向があります。社会的危機が生じても自殺が増えない社会づくりをするにはどうしたらよいか、今回のシンポジウムではそのような視点からお話しがされました。

基調講演には、自殺希少地域を調査分析して自殺の危険を軽減する要素を抽出された研究者・教育者の岡檀(おか まゆみ)さんに、その研究で分かったことのお話をしていただきました。

基調講演後は、福岡で自殺予防に携わっておられる、福岡市精神保健福祉センター所長であり精神科医でもある本田洋子(ほんだ ようこ)さんと福岡いのちの電話事務局長の河邊正一(かわべ しょういち)さんをお招きして、自死問題対策委員会委員長の松井仁弁護士がコーディネーターを務めるパネルディスカッションをしました。

それぞれ内容をご紹介します。

1 基調講演

岡さんは、日本で最も自殺率が低い町として徳島県海部町(かいふちょう)(合併により現在は海陽町。以下では「海部町」という。)を調査しました。海部町は、県南端の太平洋に面する、人口約3000人面積26.36㎢の小さな町です。

海部町は隣接した2町と比較しても自殺率が突出して低い町です。

海部町では、以下に紹介するように、自殺が多い地域と比較すると際立っている要素があるのですが、岡さんは、これらの要素は、海部町が木材の集積場として非常に栄えた昔、裸一貫で他地域から集まってきた人たちが町を運営していくために身に着けた知恵ではないかと分析されています。

(1) 自殺の危険を軽減する要素

岡さんが海部町を調査分析して抽出した、海部町に際立っている要素、すなわち自殺の危険を軽減する要素は、以下の5つです。

  1. 多様性の重視
  2. つながっているが、縛られない
  3. 自己肯定感を育む
  4. 人の評価は多角的に、長い目で
  5. 助けを求める、弱音を吐ける

以下では、岡さんが海部町であつめた海部町民語録とともに各要素を紹介します。

  • 多様性の重視―「いろんな人が、いたほうがいい」
    海部町では、赤い羽根募金が集まりにくいそうです。募金をするかどうかを決める際、他の人が募金をしたか、いくら募金をしたのかが重要なのではなく、自分が赤い羽根募金に納得できるかどうか、それが重要な判断要素だというのです。これは同調圧力が働きにくいことを示すエピソードです。周囲の人たちの行動にそろえなくても責められないという環境があれば人は安心して自分の考えに基づいて行動ができます。
    このように海部町では「いろんな人が、いたほうがいい」と多様性が重視されています。
    多様性が重視されていることを示す事例の一つとして、海部町の「朋輩組(ほうばいぐみ)」も紹介されました。「朋輩組」とは江戸時代から続く相互扶助組織ですが、他地域の同様の組織とは異なるユニークな特性があります。例えば、入会退会は当人の自由で、入会しなくてもコミュニティで不利益を被りません。また、旧家も新しく町に来た人も等しく受け入れます。先輩からのいじめやしごきとも無縁です。
  • つながっているが、縛られない
    小さな田舎町では人間関係が緊密だと思われるかもしれませんが、アンケート調査の結果、海部町では、隣接する町と比較して「日常的に生活面で協力」する割合は低く、「立ち話程度」や「あいさつ程度」のほどよい距離感が多かったです。
    「絆」が大事であることはよく言われますが、その内容・質がどのようなものかを考える必要があることを岡さんは指摘します。徳島に加えて青森、京都、奈良の4県で調査した結果、緊密なつながりのコミュニティである方が悩みをさらけ出すことに抵抗があることが分かったそうです。
  • 自己肯定感を育む―「おまいにも、出来ることがある」
    海部町では隣接する町と比較して自己信頼感、自己効力感(周囲の事柄に対し、何らかの対処ができると思える感覚)を持つ人が多いという特徴もあります。
    それを示す事例の一部として、議会では古参も新人も同等で、新人が遠慮して発言しないことのないように大御所が発言を促すというエピソードが紹介されました。他地域で、この事例は話すと驚かれるようで、むしろ議会で新人は大御所に遠慮して発言をしないことが通常という地域もあるようです。
  • 人の評価は多角的に、長い目で―「一度目はこらえたれ」
    海部町では、人の評価が多角的、長期的、総合的です。
    人を学歴や職業で判断するのではなく、その人物の人柄や魅力や問題解決能力などをみて評価するそうです。
    隣接する町では一度の不祥事が「孫子の代まで」という考えがあるようですが、海部町では「一度目はこらえたれ(見逃してやれ)」と挽回のチャンスが与えられます。
  • 助けを求める、弱音を吐ける―「病は市に出せ」
    海部町の民語録に「病(やまい)は市(いち)に出せ」というものがあります。
    これは、病気のみならず、生活をする上での困りごとなどの悩みを抱え込まず、早めに助けを求めることを促す海部町のことわざです。
    海部町は隣接する町の中で最もうつ受診率が高く、しかも軽症の段階で治療を開始する傾向にあります。町民のうつに対するタブーがあまりないということもプラスに働いています。

(2) オランダスキポール国際空港の奇跡

突然ですが、オランダのアムステルダム・スキポール空港の男子トイレでは年間7億円かかっていた清掃費を2割削減することに成功しました。小便器の内側にたった一匹のハエの絵を描くことによってです。「トイレを汚さないようご協力ください」と張り紙をするのではなく、「人は的があると、そこに狙いを定める」という心理を応用して汚れを防いだのです。

また、南アフリカのある貧民街では衛生環境が悪く、特に子どもの死亡率が高いのですが、子どもの命を奪う感染症の多くは、頻繁に手を洗うことによりかなりの割合で防げるそうです。そこで、WHOでは、特別な石鹸を配りました。この石鹸の中にはミニカーなどのおもちゃが埋め込まれています。子どもたちはそのおもちゃを手に入れるため一生懸命に石鹸で手を洗います。この取り組みによって現に感染症が減少したそうです。

このように、単に標語を唱えたり、強制したりするのではなく、人間の心理や行動パターンを分析して、行動を促す工夫をすることが各分野で注目されています。

岡さんは、自殺予防対策においても、人間行動科学を取り入れて策を講じることを提唱されました。

つまり、「悩みがあったら相談してください」と呼びかけるだけでは不十分で(悩みが深刻であるほど相談に向かう気力も低下していることが多い)、助けを求めやすい環境を整えることこそが重要です。

ここで紹介されたのが海部町の例です。海部町では、江戸時代発祥の「みせ造り」という建築様式がとられており、家の玄関先に4,5人が横並びに座ることができるようなベンチがあります。ここで、海部町の人達は集って話をします。困りごとが小出しにできる環境が作られているのです。

(3) 子どもの追跡調査から分かったこと

多様性を重視する価値観や自己効力感を高めることなどは大人になってから身に着けることは容易ではありません。子どもが成長過程で自殺予防因子を身に着けていくプロセスを理解する必要があるという考えから、岡さんは、小学5年生から成人するまでの8年間の追跡調査する「子どもコホートスタディ 未来を生き抜く力、見つけたい」を2017年から始めました。

これまでの分析結果のひとつが紹介されました。それは子どもの思考パターンや心の健康に周囲の大人の男女役割間が影響しているというものです。「女のくせに」とか「男なんだから」といった固定的な男女役割間をもつ大人が周囲に多いと、子どもに様々な影響が生じているとのことです。柔軟な思考が損なわれやすい、心の健康バランスを崩しやすいなどの影響が生じるようです。

ジェンダーについて学ぶシンポではなく、生き心地のよいまちづくりを考えるシンポでこのような指摘がなされたのが示唆的でした。

子どもたちが生き生きと未来を生き抜く力を身に着けるためには、私たち周囲にいる大人が自分の中にあるかもしれない「こうあるべき」という固定的な考え方を見直す必要があるのだと思いました。

(4) 「生き心地の良さ」の追求

最後に、いったん自殺問題から離れてみることが提案されました。海部町の自殺率の低さは、いわゆる「自殺予防対策」として対策を講じた結果ではありませんでした。

「生き心地の良さ」を追求すれば自殺予防はおのずとついてくるのではないかと締めくくられました。

2 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、福岡市精神保健福祉センター所長の本田さんと福岡いのちの電話事務局長の河邊さんも加わり、基調講演で示された自殺の危険を軽減する要素についてそれぞれの立場からお話がありました。

一部割愛していくつかご紹介します。

(1) 多様性の重視のためにできること、行っていること

  • 子どもたちが小さいときから、意識的に少数の人の意見も伝える(岡さん)
  • 児童や若年層への教育で、いろんな人がいてよいということを伝える(本田さん)
  • 自死遺族の集まりで、互いに価値観を強要しないという約束事のもとで人の話を聞くこと(本田さん)
  • いのちの電話では、電話をかけてきた人の思想・信条を一旦全部受容する。他者理解の前にまず自己理解。(河邊さん)

(2) つながっているが、縛られないという距離感をもった援助のために

  • 助けを求めやすい環境を作るために、何かのついで(例、買い物のついで、登下校のついで)に立ち寄って話をすることができる場所を設けたまちづくりをする(岡さん)
  • 価値観をおしつけない(岡さん)
  • 福岡市ではゲートキーパー(命の門番)の養成と支援を行っている。例えば、理美容業を対象にゲートキーパーの養成を行っており、カットに来た客が悩みをぼやいたときには、専門家や相談機関を紹介してもらう。(本田さん)
  • 電話相談を受ける際、依存や過度な期待を生じさせないために適当な距離をもつことを意識(河邊さん)

(3) 自己効力感を高めるためには

  • 自己効力感を失うに至った経験を話してもらってそれを受容する(河邊さん)
  • 自己効力感の低さは依存にもつながる。依存症のグループワークで「ほめ言葉のシャワー」や「承認のシャワー」で良いところを指摘し合う場を設けている。(本田さん)

(4) 「病は市に出せ」を実践するには

  • 解決策を提示するよりは、相談者自身の心のエネルギーを回復してもらう。そのためには、まず話を聴く。その上で、観点を変えてもらう。(河邊さん)
  • 精神科には行きたくないと躊躇する相談者に対して
    →医師との相性もある。本人の希望に沿うような(自宅に近い場所がよいなど)クリニックをいくつか提示する。
    →不眠は誰にとってもつらいもの。眠れないということに焦点を絞り、「ドラッグストアで買うより、あなたにあった睡眠剤を処方してもらった方が効くし、費用もかからない。」と伝える(本田さん)
第3 おわりに

ジェンダーの問題でも違いを認め合う文化が必要といわれています。「いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい」という多様性を重視する考えは、ジェンダーの問題でも理不尽な校則の問題など様々な問題を解決していく際の重要な鍵だと思います。

なによりも、「人は人、自分は自分」と多様性が重視され、周囲の人たちの行動に合わせなくても非難されない関係性は、呼吸がしやすいと感じます。

シンポジウムに参加して、多様性の重視をはじめ岡さんが指摘した要素を備えた生き心地のよい社会を作っていくために、自分にできることもあると感じました。

シンポジウムの終わりに岡田武志副会長がまずは身近なところから、例えば弁護士会の中で、今回得られた視点を生かしていきたいとお話しされました。
私も、事務所の中で、家族に対して、仕事で出会う方々に対して、委員会の中で、弁護士会の中で。人の価値観を否定せず受け入れること、人を一度の出来事で評価することなく多角的に長期的にみること、私が関わることができる子どもにも多角的な視点を示すよう心掛けることなど、今できることは微々たることかもしれませんが、生き心地の良い社会のためにできることをしていきたいと考えました。

あさかぜ基金だより

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会員 宇佐美 竜介(73期)

ごあいさつ

このたび、あさかぜ基金法律事務所に入所しました、所員弁護士の宇佐美竜介と申します。

私は東京出身ですが、大学卒業後に裁判所に採用され、30年以上九州の裁判所において裁判所書記官として勤務しました。司法修習は、裁判所時代の初任地である佐賀県で行い、弁護士として、福岡県に戻ってまいりました。

私の趣味

ランチの食べ歩きで、退職直前の六本松で112軒、退職から修習開始まで総合図書館通いをしていた西新で115軒、実務修習地の佐賀で57軒(コロナの影響で予定の半分以下ですが・・・)ほど巡りました。2月15日現在で天神34軒(ラーメン屋のみ)足らずですが、記録をしっかり伸ばしたいと思います。

あさかぜ基金法律事務所に入所した理由

裁判所時代に、某支部において、地元の人の司法アクセスが良くない、事件屋が暗躍している等の話を聞き、使命感に駆られる思いをしたのがきっかけです。また、公務員という立場は中立公平という制約があり、本当に気の毒な人に手を差し伸べられないことに忸怩たる思いを抱いていたこともあり、自分の人生は安泰のままで終わっていいのだろうか、還暦間際ですが、人生最大の冒険を敢行するならば、司法アクセスが悪くて本当に困っている人の中に入っていこうと考えたからです。

あさかぜ基金法律事務所の紹介について

あさかぜ基金法律事務所は、司法過疎地域に赴任する弁護士を養成するため、弁護士会が支えている都市型公設事務所です。所員弁護士は、1年半から2年程度の養成期間を経て、九州の司法過疎地域に赴任することになります。

抱負

私は、令和2年12月17日(昨年の福岡弁護士会の一斉登録日)から、あさかぜ基金法律事務所での仕事を開始しました。裁判所の実務経験が多いからと思われるかも知れませんが、今まで生きてきたのとは全く別の世界であって、自分は何と世間を知らないのだろうということを痛感させられております。

これからは、先輩弁護士から多くのことを学び、生涯勉強という言葉を大切に、精進していきたいと考えています。残りの人生、一期一会(食べ歩きもその一環)を大事にしたいと思います。

ジュニア・ロースクール2020in筑後

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法教育委員会 委員 渡部 裕太郎(71期)

1 はじめに

令和2年11月29日、福岡県弁護士会筑後部会会館において、「ジュニア・ロースクール2020in筑後」がZoom開催され、筑後地域の中高生13名にご参加いただきました。筑後部会法教育委員会では、例年、筑後地域の中高生を対象としてジュニアロースクールを開催しておりますが、コロナ感染対策のため、今回は初のZoom開催となりました。

そこで、本稿では、当日の様子等を、Zoom特有の技術的な観点を交えながらご報告させていただきます。

2 会場選択

会場選択について、当初は、臨場感を持たせるため、久留米大学の模擬法廷において弁護士が模擬裁判を実演し、その様子をZoomで中継することを検討していました。しかし、久留米大学では、Wi-Fiが使用できなかったため、Wi-Fiが使用できる弁護士会館が選択されました。

3 当日の流れ
(1) 題材

今回は、殺意の有無が争点となる刑事事件が題材であり、事案は、被告人が、自分の交際相手を略奪した被害者の腹部を果物ナイフで刺してしまったという殺人未遂事件でした。なお、登場人物は、某国民的漫画がモチーフとなっています。

被告人の言い分は、話し合いをするために交際相手の自宅を訪問したところ、被害者が出てきた。被害者は、「お前のものは俺のもの」「お前のくせに生意気だ」等と威圧をしてきた。そこで、被害者を怖がらせるため、台所に置いてあった果物ナイフを手に振り下ろしたところ、被害者の右腕を傷付けてしまった。それに怒った被害者が憤慨して近付いてきたため、被害者を遠ざける目的でナイフを前に差し出したところ、腹部にナイフが刺さってしまった。ナイフの近くには万能包丁も置いてあったが、包丁はさすがに危ないと思ったのでナイフを選んだ等というものでした。

(2) 模擬裁判

弁護人、被告人、検察官、被害者、目撃者、裁判官の役に扮した弁護士が、人定質問から被告人質問までの流れを実演しました。また、技術的な面では以下のような工夫を行いました。

① 「法廷の様子カメラ」の活用
実演にあたっては、弁護人席、検察官席、裁判官席及び証言台の上にZoomにログインしたパソコンをそれぞれ設置し、各担当者がカメラの前でセリフを話しました。また、証言台パソコンの前では、犯行状況の再現等も行いました。
もっとも、それだけでは、基本的に各弁護士の顔しか見えず、臨場感に欠けるため、Zoomにログインしたスマートフォンを「法廷の様子カメラ」として使用し、生徒が全体の様子も見ることができるような工夫しました。
また、集音の方法ですが、各パソコンのマイクをオンにしてしまうとハウリングが生じるため、「法廷の様子カメラ」用のスマートフォンでの集音に一元化しました。

模擬裁判の様子"

模擬裁判の様子

Zoomの画面(証人尋問の様子)

Zoomの画面(証人尋問の様子)

② 「チャット機能」の活用
模擬裁判を見ながら生徒が疑問に感じたことをその都度質問できるよう、チャット担当の弁護士を配置しました。また、参加生徒には、資料を事前に送付していましたが、紛失や不足の可能性もあるため、チャット上に資料のデータをアップするようにもしました。

(3) グループディスカッション

模擬裁判を見た後、生徒は4つの班に分かれ、裁判官の立場で殺意の有無と量刑を検討するための議論を行いました。

議論にあたっては、Zoomの「ブレイクアウトルーム」機能を活用し、班のメンバーだけで議論ができるようにしました。そして、各班には、担当弁護士が1名参加し、議論の進行を行いました。

議論の様子についてですが、どの班でも活発な議論が行われました。当初、対面でなければ発言に消極的になるのではないかとの懸念がありましたが、それば杞憂でした。

私が担当した班の生徒達は、「ナイフを使ったからといって安易に殺意を肯定してよいのか」という疑問から出発し、攻撃の回数、被害者の行動、被疑者と被害者の関係性、凶器の選択等の観点から事案を深く分析することができていました。その結果、被害者の行動が原因で偶発的にナイフが刺さった可能性がある。被告人は昔から被害者にいじめられていて、強く反抗できない立場にあり、殺意までは抱かないのでないか。殺意があれば、ナイフでなく包丁を選択するのではないか、何度も攻撃を加えるのではないか等の理由で「殺意なし」と判断し、傷害罪で懲役2年という結論になりました。

また、議論は、予定されていた45分をほとんど全て使い切りました。

<6>(4) 各グループの「判決」の発表

4班あったうち、殺意ありが2班、殺意なし2班で結論が2分されました。
また、班によっては、執行猶予を付けるか否かについても深く議論したところもありました。

4 さいごに

Zoom開催は初の試みでしたが、特段のトラブルなく、無事に成功で収めることができました。参加生徒達からのアンケートも好評で、特に、被害者役の先生の演技力は大好評でした(松﨑先生、本当にありがとうございました)。

また、ジュニアロースクールに限らず、今後、Zoomは他の弁護士会の活動にも活用できるのではないかと感じました。
最後に、Zoom開催にあたって、ご尽力していただいた先生の皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。

紛争解決センターだより 新型コロナ・事業者賃貸借ADRのご案内

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紛争解決センター運営委員会 委員 松村 達紀(65期)

1 コロナ対応(災害)ADRを立ち上げております

残念ながら昨年の年末より新型コロナウイルス感染者の増加に歯止めがかからず、令和3年1月8日より、東京・埼玉・千葉・神奈川(本原稿執筆時点)を対象として緊急事態宣言が出されております。福岡への影響がどのようなものとなるのか分からないところがありますが、飲食・観光事業者を中心に、甚大な影響が生じることは否定できません。

当センターは、令和2年6月8日、新型コロナウイルス感染拡大に関連する法的紛争解決のために「コロナ対応(災害)ADR」を立ち上げておりますが、今一度、皆さまに積極的な利用をお願いしたく、月報にてアナウンスをさせていただきます。

2 事業者の賃貸借問題に積極的に取り組みます

コロナ対応(災害)ADRは、新型コロナウイルス感染拡大に関連する民事紛争であれば、何でも申し立ていただいて構いません。

そのような中で、日弁連としては、特に、中小企業・小規模事業者において、「賃貸借契約」に関する法的問題が深刻化していることを踏まえ、実態・統計的な傾向の把握のために、令和2年12月1日より、「賃貸借問題相談キャンペーン」1を実施しております。

具体的には、事業者に対してこれらの問題の相談窓口として、「ひまわりほっとダイヤル」を周知・案内するとともに、コロナ対応(災害)ADRの積極的な活用を図るという内容になっております。

今回の緊急事態宣言では、特に飲食店に時短営業等を求める内容が中心となっており、賃貸借問題が深刻化することは避けられません。一般の事業者の方が、直接(弁護士のサポートなしに)、コロナ対応(災害)ADRに申立てを行うことには相当程度のハードルがあると思われますので、ひまわりほっとダイヤルの相談担当の先生を含め、当会会員の先生方におかれましては、コロナ対応(災害)ADRの積極的な案内・活用をお願いいたします。

3 コロナ対応(災害)ADRの内容

最後に、コロナ対応(災害)ADRの内容を再度、ご説明させていただきます。

(1) 対象事件

上記のとおり、新型コロナウイルス感染拡大に関連する民事紛争であれば、何でも申し立ていただいて構いません。特に、休業期間中の賃料の取扱いや賃料減額交渉等を含めた賃貸借問題に関しては、積極的な活用をご検討いただければと思います。

(2) 申立て方法

一般のADRでは、法律相談を受けた民事事件について、申立書や証拠の書類等を添えて申立てをしてもらっていますが、コロナ対応(災害)ADRでは、法律相談を受けていない事件も受け付けます。

また、申立てが簡単にできるよう、広報チラシの裏面にある申込書に必要事項を記入していただいて、天神弁護士センターに郵送又はファックスしていただくか、申込書の郵送やファックスができない方は、電話やメールによって申込みをしていただければ、後日担当弁護士が申立てをサポートするという制度もあります。

(3) 費用

申立て費用は、無料です。
紛争が解決した場合には、原則として、チラシ記載の基準に従い、成立手数料を当事者で折半にて負担いただきますが、事案によっては、成立手数料を減免することもあります。

1 日弁連のキャンペーンは、令和3年2月末までの予定。当会のコロナ対応(災害)ADRは、その後も継続予定。

紛争解決センターだより 新型コロナ・事業者賃貸借ADRのご案内

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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