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カテゴリー: 月報記事

当番弁護士日誌 〜動機は彼女との別れ〜

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後藤景子

夏の暑い日が続く中、当番弁護の出動依頼が入った。警察に留置されている被疑者本人からであった。罪名は住居侵入。被疑者はまだ若い男性であった。

いつもそうであるが、弁護士会からFAXされる当番弁護士申込書の記載のうち、被疑者に関する事項は住所氏名、年齢、職業性別のみであり、犯罪の内容に関するものといえば罪名、逮捕日時くらいである。したがって、申\込書を読んでから接見に行くまでの間、私の頭は想像でいっぱいになる。まだ若い男性が、夜中に住居に侵入しなければならなかった事情とはいったいどんな事情なのか・・・と。

接見室で面会して事情を聞くと、深夜、別れて間もない元交際女性のアパートの部屋に入ろうとして、建物二階にある彼女の部屋のベランダで窓ガラスをドンドンと叩いていたところ、駆けつけた警察官に逮捕されたということであった。

「ただ彼女と話をしたかった・・・」それが彼の動機だった。いくらよりを戻したいから会って話をしたいとはいえ、時間と方法を考えて行動しなければならないことは言うまでもない。彼のとった行動は間違っている。法に触れる犯罪である。しかし、一年間つきあった女性と別れてまだ二日しかたっていなかった。彼は、ゆっくり話しあう時間もなく一方的に振られたのであった。

恋愛のもつれが犯罪と関わっている場面は少なくない。別れ話、三角関係のもつれからおこる事件の態様は様々である。相手の命さえも奪ってしまうこともある。冷静な判断能力を失ってしまうからであると思う。責任能\力という難しい議論に踏み込むつもりはここではない。自分を見失うというのが正しい表現だろうか。愛情が深ければ深いほど、それを失った時には、もの凄い、自分ではコントロールできない感情に変化してしまう。犯罪に踏み込まないように自分をコントロールするという経験が、彼の人生においてそれまであっただろうか。今までにない自分を経験したことだろう。いろいろつらつら述べてしまったが、要は、被害者である元彼女と一刻も早く連絡をとり、彼の早期釈放を実現させようと思ったのである。

女性と連絡を取ると、彼女は「自分が悪い」という言葉を何度も発した。一方的に別れ話をした自分が悪いと自分を責めていること、事件の時には新しい交際相手と一緒におり、知らない間にその男性が通報していたこと、事件後駆けつけた警察官に対して彼を逮捕しないで欲しいと訴えたが半ば説得されるようにして彼が逮捕されてしまったこと、新しい交際相手を説得して警察署へ被害届の取下げと彼の釈放をお願いに行ったが検事に連絡を取るように言われたことなどの詳しい事情が分かったので、そのままを文章にして嘆願書を作成し、担当検事に提出した。

遠方の父親に身柄引受人になってもらうべく連絡をとったがすぐには駆けつけられないとのことであったため、彼が趣味を通じてお世話になっている知人の存在を担当検事に話した。しかし、担当検事が、身柄引受人は親族である父親の方が望ましいと判断したため、しばらくして父親に対し、検察庁の担当検事に会ってもらうように頼んだ。

そして、父親が担当検事に会った日の昼過ぎ、父親から彼の釈放の一報が入った。

ITコラム 「IT化は一日にしてならず」

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田中雅敏

鴻和法律事務所は、平成九年ころからホームページを立ち上げていました。

また、同時期から、事務所内のパソコンはLANで接続し、文書管理なども、一つのサーバに集約して、相互に利用できるようにしてあるため、事務所に所属している弁護士の文書財産の共有化を図ることができるのは、大きなメリットです。

コンピュータを事務所に導入することやインターネットの利点については、すでにこれまで何度かコラムで取り上げられてきていますので、このような点はさておくとして、今回は「IT化」のデメリット、というか苦労話をいくつかしたいと思います。

コンピュータやネットワークを導入し、ホームページを設置することのもっとも大きな「苦労」は、何と言っても、「管理」の一言に尽きると思います。

事務所のLANシステムは、第一次的には事務局員が管理をし、何か問題が起きた場合は、専門の業者に来てもらうことにしています。業者の方は、何か起きればその日のうちに出動してくれるため、大変重宝しているのですが、それでも、「突然サーバが落ちた(止まった)」という事態で、二〜三時間既存の文書が開けない、などということになると、非常にいらいらします。

このようなときのために、毎日のバックアップや、サブシステム(サーバが落ちても、なお影響を受けない別システムのネットワーク)の構築などが欠かせません。

ところで、このような管理以上に難しいのは、何と言っても「ホームページの更新」でしよう。

事務所のホームページは、実は、平成九年の開設以来、弁護士の人数の変更程度の更新しかしておらず、事実上、七年間更新無しという状態が続いていました。

私自身もずっと気になっていたのですが、なかなか更新する時間がとれず、更新するとしてもそのコンテンツはどうするのか、といった点が決まらないこともあって、結局、放置されていたという現状でした。

今年に入り、久しぶりに事務所のホームページをみて、いつのまにかあまりに時代遅れになっていることに愕然とし、発作的に、その週末にホームページビルダーとマニュアル本を購入し、土日の二日間の突貫工事で作り直したのが、現在のホームページです。

同時に、プロジェクトチーム(?)を編成し、コンテンツの案を考え、10人いる弁護士各自に、作成の割り振りを行いました。

しかし、結局、原稿は集まらず、その先は、またしても遅々として進んでいない状態です。あたりまえのことですが、IT化と言っても、勝手にコンピュータが原稿を書いてくれるわけではない以上、コンテンツを作る人間の努力なくして、IT化の効用は見込めないということなのでしょう。

そこで、結論。IT(情報通信技術)は、あくまで道具にすぎません。設備投資をして「IT化」を進める前に、「何をやりたいのか?」「何が発信したいのか?」を、よくよく熟考し、発信可能なコンテンツの質と量を見越した上で、環境整備を行うことを、お勧めします。

当番弁護士日誌

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田村雅樹

1 当番出動と受任の経緯

当番弁護士の出動要請があったのは三月のある日。窃盗の疑いで警察署に在監中の男性(以下Aさん)

当日接見に赴き事情をきくと、前日、スーパーでリュックサック一個(9800円相当)を万引きした、外に出たところで警備員に声をかけられ逃げたが、状況を察知した付近にいた男性に追跡され捕まった、とのこと。被害品は特に傷もついていないらしい。

現在、一人暮らしで、仕事は嘱託作業員をしている。特に連絡をとってほしい親族友人等はいない。

動機については、「もともとリュックサックを買うつもりだったのだが、意外と高かったのでつい盗んでしまった。手持ちの現金は4000円しかなかったが、銀行口座には6万円程度はあったのだが・・・」と話す。

理解できないではないが、安易に物を盗んでしまう心理傾向の持主のように思われ、常習性があるのではないかと案じ、余罪関係についてきいてみるが、「他にはやっていない。」と言う。警察からも一通り余罪の追及は受けているが、厳しいものではないらしい。

逮捕時の状況については、現場から自転車で逃げたものだから、スクーターで追跡衝突される形で逮捕された、と話していた(あとでやや問題となるが、このときはたいして気にしなかった。)。

示談する気はあるのか、と尋ねると、お金はあるので示談をしたい、と言う。

初回接見時の印象として、動機等、やや疑問にも思ったが、内気でまじめそうな青年という感じをもった。しきりと自分の今後の処分について気にしており、勾留されるだろうか、起訴されるだろうか、といったことを何度も心配そうに聞いてきたことをよく覚えている。

状況をきき、事実関係は取調べでも素直に認めて話しているとのことなので、スーパーとの示談を早期にすすめ身柄を解放する必要が高く、また、勾留にまで持ち込ませないようにしなければならないと考え、扶助にて受任。

2 勾留は阻止できず

接見した翌日(逮捕から三日目)の午後、検察庁の本件担当事務官(検事が担当ではなかった)に電話。

ちょうどAさんの弁録中であったようだが、事案軽微であり、かつ早期に示談に動く予定であるから、勾留はしないでいただきたい、と申\し入れた。

「検討をする。」とのことだったが、翌日(逮捕から四日目)朝、再度電話をすると、勾留請求することにした、とのこと。ただし、示談が成立すれば、早期釈放を考える、とのこと。

同日午前中には勾留され、やむを得ず、示談を早期にすすめることとした。

3 示談活動

同日午後、スーパーに電話をすると、当時の警備担当者につなげられた。私は、被害品を買い取る形で早期に示談をしたい旨を申し入れたところ、支配人が現在いないのでなんともいえない、との前提だが「Aさんを捕まえた人が留学生なのだが、捕まえるときにスクーターが衝突して大破している。店側としては、留学生に協力していただいた手前もあり買い替え代をもたなければならないことになりそうで、そうすると、Aさんにその分(買い替え代分)も請求せざるをえなくなるかもしれない。」とのこと。

被害品の買取の形で簡単に示談し、すぐに釈放になると思っていただけに、直ちには示談ができず、やっかいなことになったな、と思った。

いずれにしても、週明け月曜日(逮捕から七日目)以後に連絡してもらうこととなった。

月曜日には結局スーパーからの連絡がなく、火曜日(逮捕から八日目)朝、Aさんに接見に行き、そのように店側からいわれていることを伝えた。

私は、「確かにその留学生はあなたのせいでスクーターが大破してしまっているが、だからといってそれを弁償しなければならないということには必ずしもならないだろう。ただし、店側がそのように言っているので、応じた方が早く示談は成立するだろう。」と伝えた。

Aさんは、少し考えていたが、やはり、早く示談をしたいとのことで、25万円程度までならキャッシングをすれば払えるので、それ以内の額で示談してもらえば、釈放後直ちに支払うとのこと。

事務所に戻ってすぐに店側に連絡するが、支配人が今日はいないので明日以後連絡してくれ、と言われ、翌日(逮捕から九日目)になって、ようやく支配人と連絡がとれた。

私は、リュックサックの買取に加えてスクーターの買い替え代も出す意向であることを伝えた。

支配人は当方の申出を了承し、スクーターは中古だから9万円から10万円程度で済むと思う、とのことで、今後、留学生と早急に話をする、とのこと。

4 意見書提出と釈放

支配人との電話により、示談の方向性がみえてきたので、電話後直ちに、検察庁に対して、現在の状況からして釈放後すぐに示談が成立する見込であること、被疑者が反省していること等を記載した意見書を提出した。

検察庁からは翌々日(逮捕から11日目)の朝、電話が入り、「今日午前中に釈放する。」との連絡を受けた。

Aさんからは、同日昼前に事務所に連絡が入り釈放された旨確認できた。

5 示談成立と起訴猶予

Aさんには、釈放翌日、さっそくスーパーに謝罪に訪れてもらい、その後、若干の交渉を経て、結局、店側とはリュックサックを買い取る形で、留学生にはスクーター買い替え代7万円を支払うことで話がまとまり、いずれについても、釈放されてから四日後に支払った。

検察庁にはその旨報告書を提出し、最終的に起訴猶予処分となった。

6 顧みて

改めて事件を振り返ると、9800円のリュックサックの万引きで、事実を認めていながら、結局、逮捕日を入れて11日間身柄拘束をされる羽目になってしまった。

そもそもAさんには、示談をする意向は当初からあったので、積極的に勾留裁判官に面会し勾留の必要性のないことを説得する必要等があったのではないかと、反省している。

また、示談活動も、もう少し早くできなかたったかとも思う。

ただ、Aさん本人は、その後無事もとの職場に戻れ、また、多少高額のスクーター弁償費用を支払ったことも自分のしたことが原因と割り切って納得されているようだったので、その点は救いではある。

軽微な自白事件ではあったが、それだけに、身柄拘束下の被疑者弁護活動では、その一日一日の活動が重要であることを、改めておもいしらされた。

「消費者契約法」研修会報告

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平岩 みゆき

1 平成16年4月16日吉岡隆典会員による「消費者契約法」研修会が行われました。

当職は吉岡会員と同じ事務所に所属しているため、同会員に対しては、困ったことがあれば何でも簡単に相談することができますし、相当嫌な顔をされることさえ覚悟すれば、確実に知恵を拝借することができるので、研修会費を取り立てられてまで同会員による研修を受けることには強い疑問を感じましたが、その価値については間違いないという確信がありましたので、出席することにしました。

2 講演は、事例をもとに、どのように消費者契約法を利用するか、その際どのような点に注意すべきかについて、説明がなされました。

事例は大雑把に言うと、次のようなものです。

(事例一)

Xは、日当たりの良いマンションを購入しようと考え、「陽差したっぷり」を謳い文句にするマンションを、その旨の記載があるパンフレットをもとに分譲担当者から説明を受け、購入したが、夏至においてはベランダの物干し部分に日光が全く当たらず、冬至においても室内にわずかに日光が届く程度というかなり日当たりの悪いマンションであった。

(事例二)

Xは、Y社が日当たりと眺望の良好をアピールするマンションを購入する際、Y社担当者に「近隣にマンションが建つことはないか」と聞いたところ、Y社担当者は「私共が知る限りそのような情報はありません」と言ったため、購入した。ところが、その一か月後、Y社は南側約五〇メートル離れた土地を購入し、高層マンションを建てる計画を発表した。

3 こんな相談がきたとき、みなさんはどうしますか。

当職の場合は簡単です。吉岡会員に共同受任してもらえばいいのです。そんな失礼な冗談はさておき、事例では消費者契約法四条の取消権が問題になります。

事例一では、契約締結勧誘における重要事項に関する不実告知(法四条一項一号)の適用、「勧誘」「重要事項」の意義が問題になり、事例二では、利益事実の告知かつ不利益事実の不告知(法四条二項)の適用、事業者の「故意」の意義が問題になります。

また、両事例に共通する問題として、六か月という時効期間の定めがあります。

馴染みのない法律であるが故に、文言の解釈が問題になった場合、一冊の文献を調べて、この文言はこう解釈するのかと単純に納得してしまいそうですが、それではまだまだ甘いようです。

特に、当職は、監修、編者として「最高裁判所事務総局民事局」や「経済企画庁国民生活局消費者行政第一課」などという言葉が出てくると非常に弱いのですが、「日本弁護士連合会消費者問題対策委員会」も忘れてはなりません。

講演では、異なった立場から三冊の参考文献が紹介されましたが、その違いを理解し、事案に応じてより説得的な論理展開ができるようになると、敵はあっと驚くでしょう。

4 講演は、消費者契約法にとどまらず、詐欺、錯誤、減額・相殺の主張についても及び、事件の経緯に沿って、詳細な説明がありました。

当日は、多数の会員の出席があり、非常に熱心に講演を聴かれていました。

当職は、会場後方にて講演を拝聴しましたが、当初、研修会費の支払に強い不満を抱いていたことを深く恥じ入った次第です。

第五回刑弁研究会報告 〜刑事事件におけるマスコミヘの対応〜

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曽場尾 雅宏

 1 昨年十月、私が弁護士登録してはじめて経験した刑事事件は、新聞等で大きく報道された事件だった。この事件を通じて、私は、被疑者を誤った報道から守ることも、重要な弁護活動の一つではないかという問題意識を持った。そこで、このテーマを取り上げた。

今回は、佐賀新聞社の森本貴彦記者、大鋸宏信記者を講師としてお招きして、お話をうかがうとともに、活発な質問にもお答えいただいた。また、今回の研究会では、多くの大先輩の先生方にご参加いただき、研究会の議論がより深いものになった。
 遠路おいでいただいた佐賀新聞社のお二人と、ご多忙の中ご参加いただいた先輩の先生方には、深く感謝したい。

2 前述の、私が経験した事件の概要は次のとおりである。
 被疑者の逮捕後、余罪に関するスクープ記事が、一紙のみに大きく掲載された。被疑者は、真実を報道されるなら仕方ないが、報道されたスクープの内容はほとんどが間違いであるとし、強い不満をもっていた。新聞に大きく報道されたことで、家族は深く傷つき、住居も転居せざるをえなくなった。

私は、報道した新聞社に対し、被疑者の言い分も聞いて欲しい旨を連絡した。すぐに記者の方が事務所に来られ、話を聞いてくれた。記者も、相手方の言い分はじっくり聞こうという姿勢を持っているものだと感じた。同時に、もっと早い時期に記者と接触できていれば、誤った報道を防ぐことはできたのではないかと感じた。

3 私の経験の発表の後、お招きした記者の方々の講演が行われた。ここでは我々にとって大いに有益な、刑事事件の取材や紙面構\成等の実務の話をしていただいた。

また、記者から弁護人に対して求めたい情報としては、第一に、被疑者の認否と、否認ならば詳しい供述内容とのことだった。

記者の方々が強調していたのは、記者と弁護士との間により強い信頼関係を構築する必要があるということだった。

4 講演後の討論の際の発言の一部を、以下にランダムに並べる。

  • 認否といっても、逮捕の段階では、否認に近い自白もあれば、その逆もある。また、公判で不利にならないようにするため、逮捕時には認否を明らかにできないこともある。
  • 一時期、被疑者の言い分も記事にするという流れができつつあったが、今はそれが停滞している感がある。
  • 弁護士会で広報担当者を定めて一元的に情報提供する方法は、メリットとデメリットがある。広報が形だけの情報提供をすると、無意味になる。
  • 少年犯罪について、実名で報道する会社もあるが、実名報道は弊害が大きい。
  • マスコミも弁護士も、もっと双方がお互いを利用しあってもよいのではないか。
  • 否認事件の場合は、見出しに否認している旨を書いて欲しい。。

5 記者の方々や先輩の先生方からは、他にも多くの有益なお話をお聞きできた。

結論としては、月並みではあるが、弁護人がマスコミに対しどのような情報提供をすべきかは、非常に難しい問題であるということになろう。

以下は、私個人の私見である。

被疑者・被告人のために、その言い分を積極的にマスコミに伝える必要性のあるケースもある。また、国民の司法参加が進められている今日、刑事事件に関する情報は広く国民に伝える必要がある。その意味で、弁護人は、個々のケースの特殊性に配慮しながら、提供すべき情報は積極的にマスコミに提供する必要があると考える。そして、適時の有効な情報提供のためには、普段から記者と弁護士との間の信頼関係を構築しておく必要があると考える。

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