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裁判員の目線に立った最終弁論

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 最新の判例タイムズ(1260号)に大河原眞美教授(高崎経済大学)の論文がのっています。実務に大変役に立つ内容だと思いますので、その要旨を紹介します。(な)
○ 修辞疑問を使う
 弁護人が一人で話す「独白」が延々と続くと、「聞く」という役割しか与えられていない裁判員は疲れる。そこで、弁護人が質問して、裁判員がそれに擬似的に答えるような間をおいて、弁護人が答えを出す。とくに、結論づけたい部分を答えとした質問を裁判員に向かって、少し時間をおいて、その結論を回答として出す。そうすることにより、裁判員は、あたかも自分が答えたかのような印象をもつ。検察官の証拠の証明の不備を追求するのであれば、弁護人が質問して、間をおいたまま、「答え」を述べないのである。「答え」がないことにより、検察官の立証には疑問が残るという印象を強く抱かせることもできる。
○ メリハリをつける
 棒読みだと話の間がないので、少し気を抜くと何を言っているのかすぐに分からなくなる。怒りの表現では若干荒い言葉を使うとか、冷静さを表現する場合は、「です・ます」体にするなど、メリハリをつけた表現にする。
○ 笑わせる
 一つでもよいので、冗談や洒落を言うと、裁判員の注意を惹くだけでなく、裁判員との心理的距離が縮まる。
○ 聞き手に配慮する
 ・被告人の非を弁護人が最初に自ら述べると、裁判員は、弁護人も自分たちと同じ考えを共有していることを実感して、弁論の内容をより身近にとらえることができる。
 ・「ここが重要な点となりますので・・・」「このことを頭に入れておいてください」という表現があると、混乱している裁判員は、重要なことを整理しやすい。
 ・「・・・このように思う。その理由は・・・」という表現は、原因と結果の整理に役立つ。
○ 服装や化粧は地味にする
 弁護している被告人の状況に即した地味な服装、地味な化粧が無難である。派手なシャツとネクタイをした弁護人に対しては、その服装に裁判員の神経がいき、裁判員は弁論に集中できない。
○ アイコンタクトを適切にする
 アイコンタクトを適切にすると、裁判員に聞いてもらいたいという意思が感じられ、好意を持たせる。
○ パワーポイントを効果的に使う
 パワーポイントは、準備と意欲という点で好印象を与え、プラス要素となる。パワーポイントを使用しなくても、舞台俳優のように弁論ができるならば、かえって新鮮な印象を与える。直前の発言に言及するなどをパワーポイントに即興に入れ込むには熟練を要する。口頭でアドリブ的に論じることができるなら、パワーポイントを使わなくてもよい。いずれにしても弁論書面の朗読のみだと、抽象的思考に慣れている一部の裁判員を除いて理解してもらうのが難しくなる。
○ ジェスチャーをシーン再現に使う
 裁判員は、法律家が想像する以上に長時間の審理に退屈している。多少の動きがあるほうが評価される。ただし、無理にする必要はない。
 たとえば、急迫不正の侵害を主張するようなときは、「めん玉をくりぬいて、ほほもぶち抜いてぶっ殺してやる」という発言を、ジェスチャーをまじえて凄みを出すと急迫さが裁判員に伝わりやすい。
○ 要するに、市民にわかりやすい最終弁論とは、法律家が法律家になる前の自分の言葉の感覚を思い出して話すことに尽きる。 

裁判員裁判における証人尋問

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判例タイムズ1259号の高野隆弁護士の論文より紹介します。3回目の今回は反対尋問です。(な)
 反対尋問の主役は弁護人である。反対尋問は弁護人と証人との対決である。
 弁護人は、証人とともに、事実認定者の視界の中心に立つ必要がある。
 証人とのアイコンタクトを保つこと、そして、決してメモを見ながら尋問してはいけないことは、主尋問の場合と同じである。
 反対尋問では、原則として誘導尋問しかしてはいけない。
 反対尋問は弾劾の手続であり、弾劾の物語を支える事実を証人に認めさせること、あるいは、それを認めることを拒否する証言が信ずるに足りないことを事実認定者に示すことがその目的である。だから、弁護人の問いは、すべて、「はい」と答えさせるように尋ねていることが事実認定者に分かるような問いでなければならない。それは尋問というよりは、弁護人の供述である。
 弁護人の方から裁判長に介入を求める(「裁判長、証人に質問に答えるように命じてください」)べきではない。証人に圧力をかけていると事実認定者に感じさせることになるからである。証人が質問に答えなくてもかまわない。単純に答えられる質問に答えない証人の態度を事実認定者に示すことができれば、尋問の目的は十分達したのである。
 同様に、証人に対して「はい、か、いいえ、で答えてください」と念を押すのも避けるべきである。証人には答えについて完全な自由が与えられていることを、事実認定者に示すべきである。
 最後に高野弁護士は次のように指摘しています。
 証人のタイプは様々であり、法廷技術というものは本を読んだり名人の話を聞いたりしただけでは決して上達しない。適切な指導者の下で練習をする場が必要である。

裁判員裁判における証人尋問

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判例タイムズ1259号の高野隆弁護士の指摘を引き続き紹介します。今度は主尋問のすすめ方です。(な)
 主尋問の主役は証人である。弁護人は目立ってはいけない。弁護人席から尋問したのでは、弁護人が事実認定者の視界に入りすぎる。法壇の端近くまで移動すれば、事実認定者の視界から消えることができる。
 証人尋問は芝居ではない。決して、覚えてきたセリフを話しているように見せてはならないし、弁護人が用意した項目を順次語らせているように見せてもいけない。
 弁護人による問いかけとそれに対する証人の応答(インタービュー)として、リアリティのあるものでなければならない。そのためには、弁護人は尋問の際に、決してメモを見てはいけない。常に証人に対するアイコンタクトを保った状態で尋問しなければならない。
 メモに視線を落としていると、証人の動作を見過ごしてしまい、それに対応することができなくなる。
 良いインタビューは決してやみくもに合いの手を入れないものである。
 主尋問では誘導尋問をしてはならない。証人にリアリティのある物語を語らせるために重要なのは、物語の流れ(フロー)を維持することである。そのためには、時系列で聞くこと、ディテールを省くこと、そして、舞台を設定してから動作の尋問をすることである。一切の誘導なしに個々の動作を証人に語らせることによって、聞いている人は明確なイメージを脳裏に描くことができる。尋問者が事実を提示して証人が「はい」と答えるだけではイメージは生まれない。
 問いは、できるだけ簡潔に一つの具体的な事実を問うものではなけばならない。評価ではなく、事実を尋ねる。

裁判員裁判における証人尋問

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 最新の判例タイムズ(1259号)に高野隆弁護士による含蓄深い指摘がなされていました。大変参考になりますので、ぜひ本文を読んでみてください。少しずつ紹介します。(な)
 証人尋問は、他のすべての公判手続きがそうであるように、事実認定者の共感を獲得するためのプレゼンテーションである。証人尋問は公判廷で「見せ、聞かせる」ために行うものであって、「調書に残す」ためにやるのではない。
 証人尋問といっても、自分の証人や依頼人の尋問(主尋問)と相手方やその証人の尋問(反対尋問)とは、まったく異なる。両者はおよそ正反対のことを目的としている。主尋問と反対尋問は、まったく異なる二つの手続である。
 法廷活動はすべてプレゼンテーションである。法廷に立つ弁護士にとって、公判は真実を発見するところではない。公判は、事実認定者をあちら(検察側)ではなく、こちら(被告側)の意見に同調させるための活動を行う場所である。証人尋問は、証人から真実を教えてもらう手続きではない。それは、弁護人が、証人とのあいだで行う問答によって、事実認定者に被告側の主張が正しいことを理解させ受け入れさせる手続である。
 弁護人は、証人の答えをあらかじめ知っていなければならない。証人がどう答えるか知らない問いを発してはならない。
 弁護側のセオリーとの関連があいまいな尋問、関連があるとしても瑣末すぎる尋問はすべきではない。なぜなら、それは事実認定者に弁護側のケースセオリーを理解させ受け入れさせるという究極の目標の達成を妨げるからである。
 証人尋問においては、事実認定者の理解を促進し、その共感を獲得するための工夫が必要である。すなわち、ここでも、「物語」「初頭効果」「新近効果」「繰り返し」「視覚装置」は有効であり、弁護人はこれらの積極的な利用を心がけなければならない。
 裁判員裁判では「調書に残す」ことは証人尋問おける目標ではない。証人尋問の目標は、尋問をしているその場で、弁護人と証人のコミュニケーション全体を通じて、事実認定者を説得することである。公判廷におけるパフォーマンスこそが証拠であり、公判調書はその一部を記録した不完全な「訴訟記録」にすぎない。

裁判員の心を動かす情状弁護

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 日弁連委員会ニュース(2月1日号)に、争いのない強盗殺人事件での裁判員模擬裁判において、裁判員の衝撃的な発言が紹介されています(鍛冶伸明弁護士)。
 長いあいだ法曹三者において常識としてきたことが通じないというのです。なるほどと思いましたので、紹介します。(な)
 「これまでの一般的な情状弁護にやり方では通用しないことが明らかになった。
 本事件の被告は、事件当時21歳であり、前科もありません。また、事件については深く反省している。この場合、弁護人としては、最終弁論で、『被告人は反省している。若年で、前科もない』と指摘する。裁判官が被告人に有利な事情として考慮してくれたはず。
 弁護人は、最終弁論において、これらの事情を酌量減軽すべき事情のひとつとして当然のように指摘した。評議では、裁判官もこの点を取上げて、『若いし、前科もないのだから、酌量減軽すべき』と述べていた。
 しかし、ある裁判員は、『前科がないのは当たり前。私のまわりには前科がある人などいない』と指摘し、前科がないことは被告人に有利な事情ではないという意見を述べた。
 また、他の裁判員は『何の罪もない人が1人殺されている。若いからといって許されるものではない』という意見を述べた。
 さらに、『たとえば同じ30年でも、20歳の人の30年と60歳の人の30年とでは重みが違う。60歳の人が30年としたら、20歳の人は50年、60年が上限でもよい』などと、『若い』ということが、むしろ不利な事情であるという指摘をする裁判員もいた。
 『反省』については、『反省するのは当たり前。もし反省していないのであれば、本当に情状酌量の余地がなくなるが、逆に、反省しているというだけでは、有利な事情にはならない』という意見もあった。
 被告人が反省していること、若年であること、前科がないことなどは、被告人に有利な事情であると当たり前のように考えていたが、それは、裁判員には通用しない。反省していること、若年であること、前科がないことなどが、なぜ被告人に有利な事情なのかを丁寧に説明する必要がある」

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