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裁判員裁判 傍聴記(その3)

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 2月下旬、ある事件の法廷を傍聴しました。
 弁護人の冒頭陳述が終わったところで、裁判長が30分間の休憩を宣言しました。裁判員裁判の特徴の一つが、この休憩です。たびたび休憩があり、いずれも25~30分間と長いのです。したがって、単なるトイレ休憩ではなく、裁判員の人たちに一つ一つ手続の意味するところを解説しているのだと思います。また、そうしないと、裁判員をまじえた審議(評議)がカラ回りする危険があります。各自の意見はともかくとして、目の前で展開していることについての共通認識が積み上げられていかないと、誤解にもとづくとんでもない意見が出てこないとは限りません。
 午前10時55分再開です。その5分前に被告人は入廷し、裁判体が入廷する前に腰縄と手錠が外されます。検察官が弁護人も同意した供述調書などの証拠書類を紹介し始めました。
 遺体写真もありましたが、これは法廷内のモニターには映りません。裁判員は、机上にある小型ディスプレイに見入っています。
 検察官は、その映像を出す前に「遺体の写真は刺激の強いものではありますが、本件では欠かせないものですので、どうぞご覧ください」という注意を裁判員に向けて述べていました。
 そのあと関係者の供述調書の朗読に移りました。
 まず、主任検察官が、これから朗読しようとする供述調書は誰のもので、何か書かれているか、読みあげに何分かかるかを紹介し、男性の調書は男性の検事が、女性の調書は女性検事がゆっくりゆっくり読んでいきます。スローテンポで、それなりの抑揚もありますので、聞いていてよく分かります。
 しかも、大切なところは途中で主任検察官が「これから読み上げるところは犯行直後の様子が述べられています」というような短いコメントを入れますので、趣旨は明確です。おおむね、一つの調書の読み上げは20分以内でした。
 たまに、その供述調書に引用されている銀行取引状況の画面が法廷内の大きなモニター上で表示されますが、こちらは文字が細かく、読みとれません。
 午前11時50分に午前の部は終了し、午後1時10分に再開されることになりました(な)

裁判員裁判・傍聴記(その2)

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 2月下旬、ある事件の法廷を傍聴しました。
 今回は冒頭陳述です。
 検察官は3人ですが、そのうちの1人が法廷内の証言台のあたりに立ち、ぺーパーを手にして前を向いて冒頭陳述を行います。
 その直前にA3サイズのカラー印刷のペーパー1枚が裁判体の全員と弁護人に配られました。
 検察官は裁判体に向かって明瞭な口調で、本件に登場してくる人物の人間関係、事件の背景、犯行状況を要領よく述べていきます。パワーポイントをつかって図示され、文字が次々に浮かび出てきます。
 A3サイズ1枚に詰め込んでしまったため、かなり細かく、法廷内のモニター画面にうつった文字は傍聴席からは読み取れません。
 検察官が裁判体に話しかけるようなジェスチャーで話しても、ほとんどの裁判員は手元にあるペーパーをじっと見ていて、検察官の顔を見ている人はいません。
 法廷内のモニター画面は、検察官と弁護人の背後の上の壁に大きく設定されていますが、それを見ているのは、傍聴席と司法修習生くらいです。傍聴人にとってはありがたいのですが・・・。
 検察官は被告人の氏名や生年月日について声を低めたので、傍聴席からは聞き取れませんでした。わざと、聞きとりにくくしたのでしょうか。性犯罪のときには被害者の氏名・住所は省略することが認められています。しかし被告人について、そのような配慮がなされるとは思えません。
 検察官が15分ほどで冒頭陳述を終わらせると、次は弁護人による冒頭陳述です。
 弁護人はパワーポイントではなく、OHPをつかいます。それにしても字が小さくて、傍聴席からは読み取れません。OHPの何枚かのシートをもう一人の弁護人が操作していきます。
 裁判員は弁護人の顔を見る人はほとんどいません。下をうつむいているだけなのか、手元に何か書面を渡されているのを読んでいるのか、よく分かりません。
 弁護人は裁判体に向かって話しかけようとはしていますが、OHPの原稿をもとに話すため、下を向くことが多く、しかも、声が小さくて傍聴席からはよく聞きとれません。
 結果が重大な事案においては、弁護人の口調も沈鬱なものにしないと裁判員から無用の反発を危険があります。
 検察官は冒頭陳述の終了後、もう一枚A3サイズのペーパーを裁判体の全員に配布しました。これは、申請した証拠のリストとその要旨の説明したもののようです。(な)

裁判員裁判・傍聴記(その1)

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 2月下旬、ある事件の法廷を傍聴しました。
 午前9時50分開始ということで、15分前に法廷に入っていくと、既に検察官も弁護人も全員着席しています。修習生も6人着席していました。
 傍聴席はガラガラです。記者席がたくさんとってありますが、誰もいません。というのも、向かいの法廷でも、別の裁判員裁判が進行中なのでした。
 テレビカメラで前撮りをするというので、裁判官3人だけが9時40分に入ってきました。被告人も裁判員もまだ入ってはいません。2分間の撮影が終わると、裁判官はいったん奥にひっこみます。
 午前9時45分、腰縄つき、手錠をかけられた被告人が拘置所職員と一緒に入ってきます。裁判官が入ってくる前に腰縄も手錠もはずしてもらい、弁護人すぐ前にある長椅子に拘置所職員にはさまれて座ります。
午前9時50分、裁判長を先頭にして、裁判官3人、裁判員6人が入ってきました。いえ、あと3人の補充職員も一緒です。
 裁判員6人は男性3人、女性3人、30代から50代くらいでしょうか。男性3人は全員スーツ姿です。サラリーマンというかセールスマンの雰囲気です。もう一つ同時進行していた事件の法廷をのぞいてみると、こちらは男性3人は全員背広姿ではなく、ポロシャツにノーネクタイというラフな格好で耳にピアスも見えていてずい分と雰囲気が違います。補充員は3人とも女性です。
 全員着席したところで、裁判長が「予定より早いけど、よろしいでしょうか?」と確認して、裁判が始まりました。このころには傍聴人も増え、一般が8人ほど、マスコミも20人近くいました。
 まずは裁判長が「身元を確認します」と言って、被告人の住所・本籍そして生年月日を確認します。
 検察官が起訴状を読みあげ、裁判長が「どこか間違いありますか?」と被告人に尋ねます。被告人は「ありません」とだけ答えました。弁護人も「本人の述べているとおりです」と言います。
 これで、本件は自白事件であり、あとは量刑判断への問題だということが分かりました。 (な)

裁判員裁判を体験した弁護士の報告

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 『法と民主主義』(444号、09年12月号)に埼玉と横浜で裁判員裁判を体験した2人の弁護士が報告しています。大変参考になりましたので紹介します。(な)
 まず、埼玉の村木一郎弁護士(42期)です。村木弁護士は法テラス埼玉のスタッフ弁護士として国選弁護のみを担当しています。
 「公判前整理手続が取り入られる前の状況に比べれば、公判前整理手続が動き出してからのほうがはるかに被告人に有利な弁護活動ができていると自信をもっている。いままでの裁判官は、起訴状を見たら有罪と思っている。争いのない事件についても、被告人に不利な方向から事件をまず眺めているというのが実態だ。
 つまり向こう側に完全にベタッと針が傾いている、その傾いている針をかなり早期の段階でこちら側に少しでも戻すのが公判前整理手続である」
 「これまでに44件の公判前整理手続を経験しているが、公判前整理手続の中で出せなかった証拠について、『やむを得ない事由』が認められないとして蹴られたことは非常に少ない」
 「自白事件での被告人の捜査段階における供述調書(乙号証)の取扱いについて、弁護人が被告人質問を先行して実施し、それまでは乙号証の採否を留保するようにと求めると、裁判所はそれを受け入れる。被告人質問を実施した結果、捜査段階における供述調書を取り調べる必要性がないということで、裁判所は乙号証の請求を却下する。裁判所の判断を見越して、検察官が乙号証の請求を撤回することもある。ここ2年間このやり方をしていて、自白事件については、乙号証はまったく法廷に登場しないまま終わるのがほとんど。
 さいたま地検は、被告人質問の主質問を検察官にやらせられるように求めることが、かなり組織的に見られる。きちんと意見を言って、弁護人からまず主質問をすることこそが分かりやすい裁判であると言って、ほとんど突破している。
 さいたま1号事件については、裁判所は弁護人の反対を押し切って被告人質問の主質問を検察官にさせた。私の担当する事件では、私が最初に質問をして、乙なしという状態だが、必ずしも全部のケースがそうはなっていない」
 「証拠開示の関係でも、弁護士の対応によって、だいぶ差が出て公判前整理手続におけるふたつの証拠開示請求手続は、弁護人が相当程度に知恵を絞る必要に迫られるものだから、弁護人の技量による差が出てしまう」
 「検察官はどうしても劇場的な立証をしようとする傾向があるが、むしろ裁判所のほうが極めて抑制的である。遺体の写真も、どうしても必要なところに限る、医師がつくったメモで十分だったら、写真は却下するという運用がなされている」
 「被告人に前科・前歴がある場合は、簡単にA4一枚ぐらいのペーパーに、何月何日にどういうことがあって、どういう判決を受けて、中身はこういうものだと簡潔にまとめる」
 「被告人の着席あるいは服装は、全国統一的な扱いとして、弁護人の脇に座って、服装などもごくごく普通の服装が許されている。手錠・腰縄についても、裁判体が入る前に解錠、裁判体が出たあとに施錠という扱いになる」
 「裁判員役の方の感想は、ビジュアルに走ったプレゼンは、なんといいものを見させてもらったという印象は残るが、肝心の中身の印象が残り難いようである。あまりにもプレゼンソフトに頼り切ると、かえって印象に残っていないという傾向を感じる。
 だから、冒陳と弁論のメモは作成して裁判体に配布したが、徹底的にアイコンタクトをとりながら、ペーパーレスで冒陳・弁論に終始した」
 「被告人が10代という要素について、国民の半分以上が有利な方向でも不利な方向でもどちらでもないと答える。
 とくに裁判員に対しては、なぜ過去の裁判例が若年という要素を有利な方向で判断しているのか、それは要するに人というのは変わりうる、そして若い人ほど変わりうる可能性が高いということを強調した」
 次に、横浜の高原將光弁護士(28期)です。検事生活14年のあと、弁護士をしておられます。
 「横浜で検察官が3人出てきたが、多ければよいと言うものではない。誰が主任なのか分からないようなところもあり、一人の検察官が責任を持って、細かいところまで配慮して訴訟活動をするというのも一つだ」
 
 「パワーポイントについては、気にする必要はない。パワーポイントの出来・不出来で裁判が決まるのであれば話は別だが、最優秀作品を選ぶためのコンクールではないので、こちらが何を言いたいのかと言うことをパワーポイントなどの視覚に訴える方法で行えばいい。パワーポイントで人形の絵が出てきて、それがパッと動くというのを検察庁がやったとしても、そんなことで判断が変わってしまうような裁判であってはいけない、そういうことは許してはいけない」
 「刑事事件は社会内の事象、社会の中で起きた出来事である。社会の中で起きた出来事なのだから、社会の人、一般の人でも、それなりの判断ができる。
 いままで法律家は社会の中で起きた出来事を、法律家の特権みたいに自分のほうに持ってきて、法律家だけの判断でやって、その結論を押しつけていたところがある。だけど考えてみたら、社会で起きた出来事なのだから、普通の人がこれはどうだ、こうだと思うのは仕方がないのではないか」
 「これからの裁判員裁判の量刑は両極化していくと思う。いわゆる殺人とか、強姦、そういった人格を冒涜するようなことに対しては厳しくなっていく。
 自分だったらこんなことはしないと判断すると、それは厳しくなる。ところが、ひったくりから強盗致傷になったというような事件であれば、もしかすると自分の息子もやるかもしれないなと思わせることができれば、更生を考えて、執行猶予をつけてくれる」
 「裁判官が変わらなければ、この制度はひどい制度になる。裁判員を説得するだけではやはりだめ。要は、新しい裁判員裁判でも裁判官を説得できなければ、こちらの思った判決にはならない」

裁判員裁判における評議のすすめ方

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判例時報2052号(2009.11.11)にどのように裁判員裁判における評議をすすめるのか、紹介されています。大変勉強になりました。(な)
 ここでは、話し合いルールとして有名な木津川ルールがまず紹介されます。
3つの原則
・ 誰もが自由で平等な発言ができる
・ 創造的な話し合いをする
・ 皆が合意形成に向けた努力をする
7つのルール
1 自由で対等な立場で発言しよう
2 特定個人や団体の批判はしない
3 参加者は立場を越えて議論しよう
 (参加者の見解は所属団体の公式見解とみなさない。あくまでも、その人個人の見解とみなす)
4 分かりやすい説明、お互いの心情への理解、基本的なモラルの遵守を心がけよう
5 客観的な事実の認識と、人の心情との理解を区別し、また、その両方に配慮しよう
6 その都度の対話集会でまとめを必ず行い、合意された事項を確認しよう
7 多様な違憲があることを認めた上で、創造的な話し合いを心がけ、違憲の違いを超えて提案の作成を目ざすとともに、合意された文書は全員の責任において確認しよう
 (多数決は行わない。両論併記はできるだけ避ける)
 なるほどと思うルールですね。
 そして、ホワイトボードに付箋紙を貼って議論を見やすく整理する方法が紹介されています。
 付箋紙を用いた証言の整理は、証人尋問、被告人質問それぞれの後の中間評議において実施することを想定している。各証言者の証言の内容について、裁判員、裁判官が全員、証言の中の事柄を、一枚の付箋紙に一件ずつ書き出し、ホワイトボードや壁に貼った模造紙などに事件の時間軸にそって貼り並べていく。すべての証言者に対して、付箋紙を貼り終えたら裁判体全員で付箋紙の前に集まり、全員で確認しながら裁判長あるいは陪席裁判官が類似の証言を示す付箋紙を重ねるなどで証言を時系列に整理し、「証言対照表」を作成する。
 付箋紙を用いる手法の利点は、各自が同時にアイデアや意見を出すことができるので発言の順番に影響を受けず公平性が保たれること、何度でも並べ替えられること、付箋紙の場合は壁やボードに貼り付けられることである。これらの利点により、たとえば、自分以外の全員が反対の考え方を示していた場合に起こりうる意見の変更や意見を出すときの躊躇を回避することができる。もちろん、納得して意見を変えることは問題ない。周囲に合わせてしまうことが問題なのである。この手法では、納得して意見を変える場合に自分の付箋紙を外したり、新しく書いたりすることもできるため、意見の変更にも対応しやすい。また、付箋紙やカードを並べ全員で整理していく共同作業は、初めて顔を合わせる人々の前で自分の考えを述べるといった緊張をともなう作業に対する緩和剤となり、アイスブレークの機能も備えている。
 さらに、これから事実認定を行い、量刑を決定し、判決を出すという一連の評議のプロセスを開始するときには、専門家である裁判官にお任せするという態度でなく、共同体の一員として主体的な参加意識や協力しあう態度が必要であるが、これらを高めることにもつながる。
 いろいろ工夫が必要のようです。

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