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裁判員裁判の判決の傾向

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『季刊・刑事弁護』66号の森下弘弁護士による分析を紹介します。(な)
「2011(平成23)年3月6日の岐阜新聞によると、性犯罪や傷害致死については裁判員裁判の方がキャリア裁判官のみによる裁判よりも刑が重くなっているが、対象事件全体では、裁判員裁判のほうが執行猶予判決は多く、被告人側の控訴率はキャリア裁判官のみによる裁判を下回っているが、保護観察付きの執行猶予判決は多くなっている」
「性犯罪(強制わいせつ致傷罪も含む)や傷害致死などには、重罰化の傾向が認められるものの、他方において、それらの罪については、法定刑の最下限(強制わいせつ致傷および傷害致死については、それぞれ懲役3年以上)を少し(1年)くらい上回る求刑でも、執行猶予になっている事案は少なくない。
また、性犯罪といっても、強制わいせつ致傷罪の場合は、執行猶予の確率は高いが、逆に強姦事件の実刑率は高いという傾向が見てとれる。
そのような事案に対して、求刑自体が重い事件は、ほとんどが求刑どおりか求刑に近い判決がくだされており、認定落ちや心神耗弱などの責任減衰事由(情状としても)などがなければ、大幅な減軽は望みえないという傾向も見てとれる。
他方、貨幣偽造・行使罪の場合は、求刑自体が懲役3年程度であることの関係もあってか、ほとんどが執行猶予(実刑は1件だけか)となっている。
さらに、少年事件の逆送事件は、ほとんど求刑どおりになっている。もっとも、少年事件の件数は少ない」

司法権の担い手は裁判官のみではない

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 裁判員裁判は憲法に反しないという東京高裁の判決を紹介します。平成22年4月22日の判決です。判例タイムズ1341号で紹介されました。(な)
○司法権の担い手は裁判官のみではない
 「憲法が裁判官を下級裁判所の基本的な構成員として想定していることは明らかであるが、憲法は下級裁判所の構成については直接定めておらず、(憲法76条1項では「法律の定めるところによる」とされている。)、裁判官以外の者を下級裁判所の構成員とすることを禁じてはいないと同時に制定された裁判所法3条3項が刑事について陪審の制度を設けることを妨げないと規定していることや、旧憲法(大日本帝国憲法)24条が『裁判官の裁判』を受ける権利を保障していたのに対し、現行憲法32条が『裁判所における裁判』を受ける権利を保証することとしていることからも、憲法制定当時の立法者の意図も、国民の参加した裁判を許容し、あるいは少なくとも排除するものではなかったことが明らかである」
○刑事被告人の権利を侵害するものではない
 「憲法は、76条2項、32条、37条などの規定によって、独立して職権を行使する公平な裁判所による法に従った迅速な公開裁判を要請し、そのような裁判を受ける権利を刑事被告人に保障しているのである。そして、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下、単に「裁判員法」という。)では、法による公平な裁判を行うことができる裁判員を確保するために、資格要件や職権の独立に関する規定等が置かれ、適正な手続のもとで証拠に基づく事実認定が行われ、認定された事実に法が適正に解釈、適用されることを制度的に保障するために、法令の解釈や訴訟手続に関する判断は裁判官が行い、裁判員が関与する事項については、合議体を構成する裁判官と裁判員が対等な権限を持って十分な評議を行い、その判断は裁判官と裁判員の双方の意見を含む合議体の過半数によって決せられることとされており、このような裁判員制度は憲法の上記要請に沿うものであって、刑事被告人の権利を侵害するものではない」
○国民の基本的人権を侵害するものではない
 「裁判員制度が裁判員に選任された者について、辞退事由が認められない限りその職につくことを義務付けているのは、裁判員制度が司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する(裁判員法1条)という重要な意義を有する制度であり、そのためには広く国民の司法参加を求めるとともに国民の負担の公平を図る必要があることによるのであって、十分合理性のある要請に基づくものである。そして、その義務の履行の担保としては刑事罰や直接的な強制的措置によることなく秩序罰としても過料を課すにとどめ(同法112条)、一定のやむを得ない事由がある場合には辞退を認め(同法16条。なお平成20年1月17日政令第3号の6号は『精神上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の理由』を辞退事由として規定している。)、また、対象事件については必ず公判前整理手続に付して争点や証拠を整理することとして集中的・計画的審理の実現を図り(同法49条)、出頭した裁判員に対して旅費・日当を支給する(同法11条)等、国民の負担を軽減する措置を講じている。裁判員制度の意義の重要性を踏まえて、これらの点を考慮すると、裁判員になることが義務づけられているとはいえ、それは裁判員制度を円滑に実施するための必要最小限度のものと評価することができ、そのような制度が憲法13条、18条、19条等に抵触するとはいえない」
○表現の自由を侵害するものではない
 「憲法21条が保障する表現の自由も公共の福祉による合理的で必要やむを得ない程度の制限を受けることがあるところ、裁判員、補充裁判員及びこれらの職にあったものに守秘義務を課すことは適正な刑事裁判を行うために必要不可欠なことであり、裁判員法108条に規定する内容の刑罰を伴う守秘義務を課すことは憲法21条に抵触するとはいえない」
○財産権を侵害するものではない
 「上記の裁判員制度の目的が公共の福祉に合致することは明らかであるし、所論が指摘する財産上の不利益が生じる可能性があるからといって、裁判員制度を設置した立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとはいえない」

判決実人員数

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 40日に開かれた福岡法曹協議会の席上で裁判所から次のような報告がありました。(な)
 平成21年に裁判員裁判で判決を受けた被告人は4人、平成22年には63人、今年は今日まで7人となっている。合計74人の被告人が判決を受けたことになる。

「幹部裁判官はどのように昇進するか」

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「幹部裁判官はどのように昇進するか」 
 現在の竹崎博充・最高裁判所長官は東京高裁長官からいきなり最高裁長官に就任しました。この人事は最高裁が裁判員裁判を重視していることのあらわれと解されています。同じように東京地裁所長から最近、福岡高裁長官となった池田修判事も、裁判員裁判にずっと関わってきた刑事畑の裁判官です。
 そこで、西川伸一・明治大学教授が表題の論文を『プランB』(2010年12月号)に掲載していますので、参考のために少し紹介します。(な)
 「高裁長官ポストは八つあるが、法的には同格である。ただし、東京高裁長官は裁判官の報酬に関する法律において別格。要するに他の7長官より給料が高い。そして、事実上の格付けが厳格に決まっている。東京・大阪は上位、名古屋・広島・福岡は中位、仙台・札幌・高松は下位。このように高裁長官ポストには事実上のランキングがある」
 「だから、池田を東京地裁所長から大阪高裁長官に直接就けることはできず、大野を福岡高裁長官から大阪高裁長官へ横滑り(栄転)させた」
 「高裁入りへの最有力の経歴的資源となるのは東京高裁長官であり、それに次ぐのが大阪高裁長官である。両高裁長官の歴代就任者の6割以上が最高裁に達している」
 「池田のように初めて高裁長官になる者は、東京・大阪以外の高裁でまず『修行』させることが高裁長官の人事慣行としてほぼ定着している」
最高裁判官に到達する出世コースには三通りある
①事務総長ルート
 
 「東大・京大卒→最高裁の局付および/あるいは課長→事務総局の局長→東京高裁管内の地家裁所長→事務総長→東京高裁長官(二人は大阪)→最高裁裁判官という出世コースである。歴代事務総長12人のうち現職をのぞく11人のなか、9人が最高裁判官となっている」
 「事務総長経験者は5人連続で最高裁入りしている。しかも、そのうち3人は地家裁所長を経験していない。いわば飛び級した事務総長はスーパーエリート裁判官が就く黄金のイスである」
②司法研修所長ルート 
 「東大・京大卒→最高裁の局付および/あるいは課長→事務総局の局長→東京高裁管内の地家裁所長→司法研修所長→大阪高裁長官(一人は福岡)→最高裁裁判官という出世ルートがある。歴代の司法研修所長13人のうち現職者と現職高裁長官をのぞく11人のうち、5人が最高裁裁判官となっている。ただし、事務総長ルートとは異なり、地家裁所長を飛び級した者はいない」
③首席調査官ルート 
 「東大・京大卒→最高裁の局付および/あるいは課長→最高裁の調査官あるいは上席調査官→東京高裁管内の地家裁所長→最高裁の首席調査官→高裁長官→最高裁裁判官という出世ルートがある。
 特筆すべきは2008年11月に最高裁判事となった千葉勝美(24期)に至るまで、7人連続で最高裁判事を輩出している」
最高裁裁判官の特徴
 「最高裁裁判官になった者のほとんどは、東京高裁管内の地家裁所長ポストを経由している」
 「全国の地家裁所長歴任者のうち、甲府地家裁所長が最も多くの最高裁裁判官を輩出してきた。甲府地家裁所長ポストは出世の登竜門ポストとしての性格を有している。
 なぜ甲府なのか。一度は東京近郊から出さないと、地方勤務を繰り返す他の裁判官とのバランスを著しく欠いてしまう。そのために甲府に出されるのではなかろうか」
 「最高裁裁判官歴代就任者の28人のうち、26人までが東大か京大を卒業している。残る2人は中大と名古屋大」
 「裁判官は二つの顔をもっている。司法官僚制に所属する組織人の顔と憲法で保証された裁判官の独立を謳歌する自由人の顔である。
 暗黙の出世街道やポストの厳格なランキングの存在は、前者を優先するあまり、後者がないがしろにされているのではないかとの懸念を抱かせる」

最高裁判所は、いま・・・?

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 裁判員裁判が始まって1年あまりが経過するなかで、最高裁判所が従来と違った傾向の判決を出していることに注目すべきだという指摘がなされています。37年間の裁判官生活のほとんどを刑事裁判官として過ごし、5年のあいだ最高裁調査官をしていた本谷明教授の講演は大変読みごたえがあります。全文は『救援情報』(日本国民救援会)67号(2010.11.1)にあります。ぜひ、お読みください。(な)
5件の破棄判決
 「2009年になって突然5件、破棄事件が出た。びっくりした。今年に入ってからは死刑事件について、原審の死刑判決を破棄して差し戻すという大きな判決をした。布川(ふかわ)事件では再審開始決定を維持したし、名張(なばり)事件では再審請求棄却決定を取り消して差し戻すという決定をした。
 最近の刑事裁判の動向は、従来とはちょっと違った傾向が出ているのが一つの特徴だ」
 「20年前(1989年)にも5件の破棄判決が出ている。20年ぶりの 2009年に、同じく5件の破棄判決が出た」
最高裁調査官
 「私が調査官をしていた当時は、調査官が破棄の意見を出さない事件については、裁判官の方から破棄がいいんじゃないか、というような意見で返ってくるということはまずなかった。最高裁の裁判官は、多方面の事件をたくさんもっているから、それぞれの裁判官が記録を一から下級裁判所の裁判官のように完全に読みこなすというのは事実上無理だ。裁判官の仕事を手伝うために最高裁には調査官が置かれている」
 「調査官の報告書が、原判決を是正するとか、動かすという方向の意見だったり重要な判断事項を含むものだったりすると、裁判官の方でもかなり慎重な審議をする」
弁護士出身裁判官の奮闘
 「民事裁判官あるいは弁護士出身の裁判官が割と自由奔放に意見を述べている」
 「5人の裁判官がそれぞれの立場から、熱のこもった、大変詳細な個別意見を、法廷意見だけでなく、一人ひとりがみんな意見を書いている。各裁判官が詳細に自分の意見を書いている。これには驚いた。こんなことは今までかつてなかった。
 小法廷の構成員全員がこんなに詳しい意見を書いたというのは見たことがない。前代未聞だ。それぞれの裁判官が自分の立場の重要性を自覚して、事件に全力投球した結果で、大変うれしい」
 「弁護士出身の裁判官、民事裁判官出身の裁判官が非常に積極的に意見を述べている。那須裁判官、田原裁判官、滝井裁判官、いずれも弁護士出身で、事実認定について非常に詳細な個別意見を書いている。こういうことは私が調査官をしていた時代にはなかった。弁護士出身の裁判官は、言っては悪いけれども飾り物だった。評議をリードするのはキャリアの裁判官で、弁護士出身の人は多数説についていくのが精一杯。
 それから、民事の裁判官ががんばっている。近藤裁判官、泉裁判官、金築裁判官が割と柔軟な意見を述べている。下級審の刑事裁判官がした硬直した事実認定を直そうとする裁判官が、依然と比べると増えているように感じられる」
映画『それでもボクはやってない』の影響
 「動機としてまず考えられるのは、周防正行監督による映画『それでもボクはやってない』の影響。あれは痴漢冤罪事件に関する映画だが、捜査の状況を大変リアルに描写していて迫真性がある。あの映画によって、痴漢事件についても本当に杜撰な処理がされているということがはっきりした。
 あの映画を最高裁判事も見たのではないか。その結果、『ちょっと、これはこのままじゃまずいよ』という気持ちが出たのではないか」
足利事件の影響
 「足利事件の影響も考えられる。足利事件では、最高裁で無期懲役刑が確定していた菅家さんが、再審の結果、『真っ白無罪』になった。最高裁は、『被告人を真犯人と認めた原判断に事実誤認の違法はない』と言い切っていた。
 紆余曲折を経て、結局、『真っ白の無罪判決』になった。さすがに最高裁も困ったんじゃないかと思う。自分が有罪間違いないといった被告人が『真っ白』であると判明してしまったのだから。これでは最高裁も立場がない。捜査機関は、警察も検察庁も総懺悔した」
 「ところが、最高裁は何も謝っていない。最高裁は、謝ってこそいないけれども、内心、立場に困り、今後こういうことが二度とおきないようにしたいと遅まきながら考えだしたのではないか。それで、一、二審の判決については、もう少し厳格に審査しなくてはならないのではないか、調査官の言うとおり『間違いない。間違いない」と太鼓判を押してばかりいると、今後も大恥をかくことになるのではないか、ということを裁判官自身が考えだしたんじゃないかという気がする」
裁判員裁判の影響
 「裁判員裁判の発足も影響しているのでないかと思う。裁判員裁判は今の長官と前の長官が積極的に推進して作り上げた制度だ」
 「最高裁は、一般の裁判員に対し『この程度の証拠の場合には有罪にしてはいけませんよ』という暗黙のサインを送ろうとしているのではないか」
 「真犯人とそうじゃない人を真っ二つに分けるということは人間のする裁判では出来っこないこと。どこかで必ず間違いが必ず起こる。どうせ間違うのであれば無実の人を処罰しない、有罪の人を取り逃がしたとしても無実の人を処罰しないという方向に間違えるべきだ。『疑わしきは被告人の利益に』であるとか、『10人の罪人を逃すとも1人の無辜(むこ)を罰するなかれ』というのは、そういう意味だと思う」
 「無実の人を処罰することは、そのことのほかに真犯人を取り逃すことも意味するのだから、それは、単純に真犯人を取り逃がすということより格段にいけないことだと言ってきたが、その考えはまだ必ずしも一般に十分浸透していない。それが残念なところだ。最高裁でもそういうスタンスは従来取り入れられてこなかったけれども、最高裁の最近の傾向を考えると、今後は最高裁でも事実認定について厳格な審査がされることが多くなるのではないかという希望が出てくる」

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