福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2014年4月号 月報

給費制本部だより

月報記事

会 員 田中 広樹(66期)・西村 遼(65期)・本間 綾(66期)

1 はじめに

貸与制のもとで修習を終えた会員が、当会にも多数登録しています。実際に、どのような経験をしたのか、そして、法曹を目指そうとする人たちが、現状をどのように捉えているのか、今回は、その生の声をお届けいたします。

2 貸与制と法曹

田中広樹(66期)

(1) 法科大学院時代から修習時代にかけて

私は法科大学院にけっこう長い期間おりまして(・・・。)、そのおかげでたくさんの仲間を得ることができました。しかし、初期の大学院時代の仲間と末期(?)の大学院の仲間とはイメージがだいぶ異なります。初期の仲間には様々なバックボーンを持った、それこそ法科大学院制度が目指した「社会人等としての経験を積んだ者などを幅広く受け入れ、多様なバックグラウンドを有する法曹を輩出していくこと」が可能な仲間が多かったように思われます。これに対し現在の法科大学院には、そのような人材は極めて少ないように感じられますし、現実にそうなのでしょう。
修習時代にもそれは感じました。私は40歳で修習に入ったのですが、周りを見渡すと40代はおろか、30代を見つけることすらなかなか難しい状況でした。
それはなぜでしょうか?社会経験等、多様なバックグラウンドを有する人間にとって、法曹が魅力的な存在ではなくなったのでしょうか?それもあるかも知れません。弁護士になったからといって、もう将来は安泰という時代ではないということは、誰しも耳にタコができるほど聞いているでしょう。そうであれば企業に守ってもらうほうがいいや、と考えるのも頷けます。しかし、理由はそれだけでしょうか?私は給費制の廃止が(社会人経験者等を含む)法科大学院離れ、法曹離れの一因であると考えます。

(2) 給費ってなんだろう

私はこう思っています。
司法修習生に対する給費とは、社会の法曹への信頼の顕れではないでしょうか。給費を何に使おうがそれは個人の自由でしょうが、給費で買った物や受けたサービスひとつひとつが国民の信頼そのものではないでしょうか。国民の権利を守るためしっかり伸び伸びと勉強してくれ、という思いではないでしょうか。
貸与制になったからといって、修習生の生活はそれほど変わりません(まあ、保険証がないのは困りましたが)。しかし、私に最高裁から振込まれたお金には国民の信頼はないのかも知れません。それを潜在的な法曹志望者が感覚的に理解しているからこその法科大学院離れ、法曹離れではないでしょうか。
修習中、仲間が、「僕はプロボノはできないし、やるつもりもない」という趣旨のことを言っていました。それは国民に信頼されていないことを悲しむ彼なりの叫びだったと思います。

(3) 弁護士会の給費制に対する取り組みについて

そんな暗い気持ちをどこかに持ちながら、会議に参加したのですが、先輩方の熱い行動力には正直驚きました!1000団体をはるかに超える団体署名(※本年2月12日時点で1235団体)、国会議員へのロビー活動など、生き生きと活動されている姿に、面食らってしまったほどです。
先輩方が、この問題について自分たちのことのように真剣に考え、悲しみ、怒って下さっている姿に、若干暗い気持ちでいた私も心打たれました。

(4) おわりに

給費制本部の仕事は、ともすれば後ろ向きのそれとも見え、少し暗いイメージがあることは否めないかも知れません。しかし、暗い気持ちでやっても何事もうまくはいかないでしょう。やるからには楽しくやろうと思います。そのときに自分の社会経験などを活かすことができればうれしいです。
先輩諸氏におかれましては、ぜひ給費制本部の活動にご支援をお願いいたします。

3 貸与制に対するロースクール生の声

西村 遼(65期)

2月に私の事務所へエクスターンシップに来ていたロースクール生(2年生)に、貸与制についての率直な考えを伺ったので、その内容をご紹介いたします。
彼女が通うロースクールでは、貸与制について反対の署名を集める活動をしている学生がおり、彼女が知っている限り、全てのロースクール生が反対の署名をしています。特に、在学中に多額の奨学金を借りている学生は、場合によっては、司法修習に行くことを諦めなければならず、貸与制維持は、深刻な問題です。
ロースクールに通っている学生は、ある程度裕福な人が多く、金銭的に余裕のない学生は、ロースクール進学の時点で、法曹になる夢を諦めてしまっています。貸与制に移行した今後は、この傾向がさらに強まると思われ、幅広い分野から優秀な人員を集めるという当初の司法制度改革の目的から外れてしまっているではないか、むしろ、司法制度改革前のほうが多様かつ優秀な人材が法曹になっていたのではないかとの声が学生の中から聞こえてきます。
貸与制移行は仕方がないと考えている少数の学生の中でも、自分が希望しない遠隔地に修習になった時に引越し費用や家賃の補助が出ないこと、和光の寮に外れた場合にも下宿代の補助が出ないこと等については、問題視されているようです。
67期から、一部、修習中のアルバイトが許されるようになったそうですが、許可されたアルバイトの範囲が狭く、それだけでは、貸与を受けることなく家賃や生活費を賄うには不十分であると感じています。
最近では、弁護士の増加に伴い、事件の受任件数が減り、弁護士の収入が減っているという話を聞くと、弁護士になった後に学生時代の奨学金や貸与金をきちんと返済できるか非常に不安に思いますし、また、公益的な活動に取り組むのも難しくなるのではないかと思います。
法曹になるための経済的負担を増やすことによって、志の高い、良い法曹が社会に出る機会を減らすことは、社会にとって大きな損失だと思いますので、早期に、貸与制を見直していただきたいです。
以上のように、現役のロースクール生及び学部生で法曹を目指そうとしている人たちが抱えている悩みは切実です。実際に、私がロースクールへ進学する際も、ロースクールの学費や貸与制への不安を理由に、ロースクールへの進学を断念した友人もいました。志の高い人たちが、司法修習中の収入等を理由に法曹への道を諦めずに済むよう、早急に給費制が復活されることを願います。

4 貸与制度の下で修習を終えた実感

本間 綾(66期)

(1) 修習開始前の貸与制の影響

私は、日本育英会から奨学金を受けながら、法科大学院を卒業しました。そして、5月に司法試験を受験した直後から、福岡市にある某法律事務所でアルバイトをさせてもらいました。
9月に司法試験の合格発表があり、嬉しさを噛みしめていた反面、実務修習地が福岡県以外になったらどうしようと非常に不安になりました。なぜなら、66期も貸与制になると予想していましたし、貸与制に加えて引っ越しするとなると引越代や新たに部屋を借りるための費用がかさむからです。
そこで、当然、実務修習地の第1希望は福岡にしましたが、熊本に配属になりました。
そのため、修習開始直前までアルバイトを続け、熊本に赴くための費用を捻出しました。

(2) 修習時の実感

熊本では、裁判、弁護、検察修習とそれぞれ楽しく充実した修習を送りました。
特に、熊本の検察修習は、修習生も検察の一員と考え、他県に比べ格段に多くの事件を修習生に配点していました。私も、不出頭を繰返す在宅事件の被疑者が住むマンションの前で、検事や事務官の方々と一緒に張り込みするという一生に一度の経験をすることができました。
ただ、私達修習生は、事件の処理に不慣れであったため、連日午後5時15分以降も残り(時には最終退庁者になることもあり)、貸与制なのにと思うことが正直ありました。
さらに、運の悪いことに、私は集合修習中の寮にも外れてしまい、貸与制ならせめて希望する修習地や寮に入れるように配慮すべきではないかと強く思いました。
しかし、現実には別の配慮が働いたように思います。
というのも、熊本修習で寮に外れた人数は例年2名だったのですが、66期は5名も外れ、しかも5名とも30代だったことから、貸与制の下でも比較的経済的に余裕がありそうな30代に金銭的負担を負わせようという何らかの意図が働いたのではないかと感じたからです。もちろん、寮に外れた修習生は、30代であっても皆余裕はなく、現に、私は、法科大学院時代の奨学金返済と福岡以外の修習地になったことでかさむ費用を賄うため、住居加算を受けていました。
今、修習を終えてみて、たしかに修習は充実しており、多くを学ばせていただいたことは事実で、このような機会があったことは、私の成長にもつながったと思います。
しかし、日々、借金が増えているのだという精神的・経済的な負担は辛いものでしたし、自分のためだと思ってはいても、修習を「させられている」というような気持ちになったことも否定できません。仮に給与制であったならば、法曹として社会全体に育ててもらっているという感謝の念をより持ち、より多くのことを学べたかもしれないと思うこともあります。

(3) 今後について

弁護士となって、貸与金を今すぐ返済するわけではありませんが、将来に対する不安を感じています。後に続く修習生達が、65期、66期が感じている不安を感じないよう、諸先生方には給費制復活にご協力いただけますことをお願い申し上げます。

5 実際に貸与制のもとで修習をした、あるいは、する予定の後輩たちが、どのように感じているのか、今回はその一部をご紹介させていただきました。
経済的な問題により、修習での学びが萎縮するとすれば、非常に大きな問題です。また、今後法曹を目指そうとする人たちにとって、貸与制が大きな障害であるととらえられるのであれば、そのことも看過することはできません。
後輩たちがさらされている、厳しい現実を踏まえて、法曹養成の在り方と切り離すことのできない、給費制の問題について、これまで以上に、会員の皆様のご支援、ご協力をいただければ幸いです。

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