弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

警察

2014年1月18日

狼の牙を折れ

著者  門田 隆将 、 出版  小学館

 公安捜査の実態が紹介されています。
 捜査対象とする事件は三菱重工爆破事件です。三菱重工は原発そして軍需産業のトップメーカーですから、そのことは厳しく批判されてよいと思いますが、爆弾テロの対象としてはいけません。あくまで言論による批判によって、そのあこぎな死の商人の姿勢をただすべきです。
 事件が起きたのは1974年8月30日の昼のことです。私が弁護士になったのと同じ年です。
 東京駅近くの丸の内仲通りにある三菱重工本社ビルが狙われたのでした。
死者8人、重傷者376人という史上最大の爆弾テロ。4000枚もの窓ガラスが破壊され、その窓ガラスの粒が通りを埋め尽くすダイヤモンドの海のように見えた。
 警視庁公安部には総数2500人もの公安部員がいた。本庁に1500人、そして各署に公安係が合計1000人いた。公安一課の5人の管理官は中核・革マル・革労協・赤軍・共産同(ブント)といったようにセクトを担当した。警察がウォッチしていたセクトは5流22派、8派90などと言われていた。
 セクトの情報をつかむうえでもっとも重要なのは「協力者情報」。要するに、警察のスパイをセクトに侵入させているわけです。
 捜査官の腕とは、どんな「協力者」をもっているかにかかっている。協力者のことを「タマ」と呼ぶ。どれだけ重要なタマをもっているか、すなわちタマをどう「運営」していくかによって、捜査官の真価が問われる。誰がタマなのか、それは当事者である捜査官しか知らず、記録にもタマの「本名」は残さない。もし情報が洩れたら、いつタマが消されるかも分からないから。
 1週間が10日に1度、接触し「捜査協力費」という名目での金銭を渡し、次の情報収集を頼む。活動家には生活に困っている者は多い。公安部から貴重な「捜査協力費」をもらっている活動家は少なからずいた。
 警察内部では激しい派閥抗争が展開中だった。政治派と独立派。あるいは、名門組と平民組。三井脩(当時51歳)は、独立派、平民組のリーダーだった。対抗する政治派、名門組のリーダーは警視庁総務部長の下稲葉耕吉(48歳)。
公安一課は、当時、第一担当から第二、第三担当そして調査第一、調査第二という五つの担当に分けられていた。一担は庶務、二担は中核・革マル、三担はブントと日本赤軍。調一は黒ヘルと諸派、調二は事件担当という役割分担だった。
 公安部は尾行と呼ばず、行確(こうかく)と呼ぶ.行動確認の略。
 行確のターゲットが自宅や会社から出てくることを「吸い出し」といい、逆に会社や自宅など目的の場所に入っていくことを「追い込み」と呼ぶ。
 爆弾を見分けるのに大事なのは、爆破装置と雷管。これに同一性があるかどうかを見る。
 行確(尾行)をするときは靴底がゴム製のものを履く.音をなるべく出さないため。革靴のように見えても、そこだけはゴムのものを履く。
 ゴミを捨てるのは、犯人グループにとって、もっとも注意しなければいけないこと。
 犯人と目される男が置いたゴミ袋を回収し、似たようなゴミ袋を代わりに置いておく。そして、この回収したゴミ袋から証拠となるブツを得たのでした。
 このときの逮捕はサンケイ新聞がスクープしています。サンケイ新聞は公安部に「協力者」がいたのです.そして、逮捕の瞬間をサンケイのカメラマンが撮影したのでした。なるほど、本当によく撮れています。
 1975年5月19日に大道寺将司を逮捕した瞬間の写真が紹介されているのです。なんだか気の弱そうな青年が小雨のなか傘を差したまま屈強な刑事4人に取り囲まれた写真です。
いま、大道寺将司は65歳。死刑判決が確定して26年たった今も、東京拘置所に収監中です。共犯者の佐々木規夫と大道寺あや子が超法規的措置によって国外へ逃亡中のため裁判が終了していないことによります。
40年も前のことなので、当時の関係者が実名で登場しています。大変読みごたえのある本でした。それにしても、この二人は、今どこで何をしているのでしょうか。まだ、本当に生きているのでしょうか・・・。
(2013年10月刊。1700円+税)

2013年5月19日

警察崩壊

著者  原田 宏二 、 出版  旬報社

北海道警察の幹部だった著者が長年にわたった警察の裏金づくりを内部に告発したのは今から9年前の2004年2月のことでした。この9年間に、警察の体質は改善されたと言えるでしょうか・・・。
 改善されたどころか、警察官の不祥事はこのところ目立っていますよね。どうなっているのかと思うほどです。現職警察官による殺人事件も最近起きています。
警察庁長官という警察トップが内閣官房副長官に就任するコースがあるのですね。いわば、警察官僚が権力中枢に位置するわけです。そして、「自民党に刑事事件が波及しない」なんていう見直しを記者に示したというのです。とんでもない元長官です。警察のおごりを示す発言ですよね。
 公安委員会が中央に県にもありますが、有名無実化しています。著者は、せめて警察から独立した事務局をもてと提言していますが、当然です。
 県の公安委員会には人事権がなく、同意権のみというのも改めるべきだ。まったくそのとおりです。あまりにも中央県権化しすぎています。
 今や警察官の供給源は大学生。女性職員も10%となっている。
 正義感の強い若者が警察にはいって実態を知ると、実際との落差に絶望することになる。裏金づりは本当になくなったのでしょうか・・・。
 若い警察官のなりたくないのは、筆頭が留置場勤務で、その次が交通事故係だ。
最近、私は足しげく警察署に通っています。何ヶ月も行かないこともあるのですが、今はなぜか3人も留置場にいる人の弁護人になっています。留置場に若い警察官がいて、そうか、希望して配属されたのではないのかと、ついつい同情してしまいます。
 警察の最近の実態を知ることのできる本です。
(2013年4月刊。1700円+税)

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