弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

韓国

2016年9月19日

沸点

(霧山昴)
著者  チェ・ギュソク、 出版  ころから

韓国の1987年6月の民主抗争の推移をマンガで紹介しています。
1979年10月26日、朴正熙大統領が側近のKCIA部長の銃弾に倒れた。それによって「ソウルの春」が訪れたが、それも束の間、全斗煥を中心として軍部がクーデターで権力を掌握した。
1980年5月、金大中が内乱罪で逮捕された。5月には、光州で民衆抗争が始まった。
1983年、全政権は融和措置をとり始めた。
1985年、金大中が帰国して、野党が躍進した。
1987年1月、ソウル大生の朴鐘哲が治安本部で拷問により死亡した。
朴鐘哲の死は、それまで民主化運動とは無縁だった母親たちの怒りを呼び起こした。民主大連合がつくられ、宗教界そして、マスコミも呼応していった。
1987年6月10日、全国一斉デモが起きた。全国のデモは2145回、参加者500万人。治安当局がつかった催涙弾は3万発にもかかわらず、6月民主抗争は成功した。
それでも、1987年末の大統領選挙では、民主陣営の分裂によって、盧泰愚が36%の得票で大統領に当選した。
韓国では、学校で「アカ」の恐ろしさを徹底してたたきこまれるようです。ところが、大学に入り、社会に入って現実を知るようになると、「アカ」と言われているものが、実はまっとうな権利を主張している人々であって、そのために当局から嫌われているだけだということが実感できるようになります。これは一定の確率で、それほど増えていくわけではありませんが、少なくとも一定の固い支持者層がいるようですね。
韓国現代史の一断面を知る有益なマンガ本です。一読をおすすめします。
(2016年6月刊。1700円+税)

2016年8月23日

韓国軍と集団的自衛権

(韓国)
著者 裵 淵弘 、 出版 旬 報社 

 日本でも安保法制が施行され、いつ日本の若者たちがアフリカの戦場で殺し殺されるか分からない事態が迫っています。戦後70年間、一人の戦死者も出さなかった日本ですが、戦死者続出という事態になれば日本社会の雰囲気が一変し、今より一層ギスギスした社会状況になるのではないかと本気で心配しています。もちろん、被害者になるだけではありません。加害者となり、「敵の一味」として、テロリストによる報復を恐れなくてはならなくなるでしょう。新幹線や地下鉄、飛行機に安心して乗れない、50ケ所以上もある原発が狙われてしまったら、狭い日本列島どこにも住めなくなってしまいます。
安倍首相のいう国際安保環境が激変してから、しまった、あのときアベに反対しておくんだったと後悔しても手遅れだった、、、。   
そんな日が来ないことを、私は心から願っています。
べトナム戦争のときの、日本アメリカからの参戦要求を断ることができました。安保法制がなかったからです。お隣の韓国は、アメリカの命じるまま大量の韓国軍をベトナムに派遣しました。その結果、韓国社会には経済的発展がもたらされた一方で、多くの韓国の若者たちが人知れず泣きました。その深刻な実情が明らかにされています。
1964年から1973年までの8年あまりの間にベトナムに派遣された韓国兵は25万3000人。今も生存しているのは19万人。うち14万人がベトナムで浴びた枯葉剤による後遺症に苦しんでいる。 除隊後に病死した6万人の死因も疑わしい。
ベトナム帰りの元韓国兵の平均年齢は70歳。韓国人の平均寿命は80歳なので、死亡率がとても高い。しかも、6万人近くの人が重篤な患者だ。
アメリカがベトナムでつかった枯葉剤の毒性は強く、イペリットやサリンよりも強力。10億分の1グラムでガンを引き起こす。
ベトナム戦争に従軍したアメリカ兵は259万人。その1割に枯葉剤の被害が認められる。
ところが、当時は誰もが害のない除草剤か殺虫剤だと思い込み、アメリカ軍隊から散布された霧状の薬品を、わざわざ服を脱いで浴びていた。そうすると気持ちがいいし、蚊にも刺されなかった。
朴正煕大統領は、在韓米軍の削減を恐れていた。そして、アメリカの要求にこたえることで、1億5000万ドルが韓国に提供されることになった。日本とアメリカの援助によって、朴大統領は「漢江の奇跡」を演出することができた。
国家存亡にかかわる安保危機が経済建設の利権に様変わりした。
アメリカの求めに応じて戦闘部隊を送り出したのは韓国だけだった。オーストラリア4533人、フィリピン2063人など、派遣はしたが戦闘部隊ではなかった。
しかし、現地で指揮をとった韓国軍司令長官は、誰より戦争に悲観的だった。
「ベトナムでのゲリラ戦に勝つ見込みはない」
行かないわけにもいかず、しかも勝つこともできない戦争だった。
韓国軍の戦費は、兵士の月給をふくめて、すべてアメリカ政府から支給された。兵士の給料の8割は本国に送検され、残り2割も現地で韓国産テレビを買わせるなどして、100%が韓国に流れ込んだ。それは総額2億ドルをこえ、高い失業率と外貨不足に悔やんでいた韓国経済を救った。
ベトナムに「現代建設」や「韓進高事」がアメリカ軍の下請として入って、事業規模を大きく拡大し、韓国の高度経済成長を牽引していった。ベトナム特需は10億ドルに以上のぼった。
 いま、韓国でも兵役を拒否する人がいる。10年間で5723人。毎年500人以上の若者が兵役に応じず、刑務所に入っている。
 大変勉強になりました。考えさせられます。憲法違反の安保法制を一刻も早く廃止しましょう。
(2016年 6月刊 1400円+税)

2016年5月11日

新・韓国現代史

(霧山昴)
著者  文 京洙 、 出版  岩波新書

 韓国は、軍事政権のあとは、革新的な大統領になったかと思うと、保守的な大統領に戻ってしまったり、政権交代が続いています。
 そして、直近の国政選挙では朴大統領の与党が第二党に転落してしまいました。その立役者は、どうやら若者の票のようです。日本でも、野党の統一候補の擁立がすすんでいますので、日本の若者があきらめることなく(選挙に棄権せず)、野党候補へ一票を投じる可能性が高まってきました。
 安保法制、TPPそして労働法制の規制緩和など、今の安倍政権のやっていることは、あまりにも国民、とりわけ若者を無視しています。それに対して「ノー」という審判を下したら、世の中は大きく動きます。今まさに、ワクワクする政治が目の前に到来しているのです。ぜひとも、一人でも多くの若者にそのことを自覚してほしいと切に願います。
 2014年4月16日に起きたセウォル号の沈没事件には、私も泣かずにはいられませんでした。ひどい、ひどすぎる。許せない、そう思いました。だって、前途有為の若者たち(高校生)が300人も死んでしまったのですよ。きちんと誘導・避難していれば、相当数の高校生が助かったと思います。雇われ船長が下着姿で船から脱出している様子は、とても正視できません。お金もうけがすべて。これって、まさに日本の経団連と同じです。ひどいものです。
目先の金もうけのためには、軍需産業を大々的に育成する。そのために税金投入を政府に求めるというのが日本の財界です。どうしようもない連中です。そのくせ、日本の経団連は道徳教育の強化に熱心だというのですから、世の中は間違っているというか、狂っています。
いまの朴大統領の父親である朴正煕が部下の金載売から射殺されたのは、1979年9月のことでした。まったく衝撃的な出来事として、私も記憶が鮮明です。軍人の世界も食うか食われるか、かなり厳しいものなんだと思ったものです。
そして、1995年10月に盧泰愚が、12月には全斗煥が逮捕された。全斗煥は無期懲役盧泰愚は懲役17年の刑が宣告された。すごいですね。すぐに釈放されたとはいえ、強権をふるった元軍人の元大統領が逮捕され、無期とか17年の懲役刑が宣告されたとは、すばらしいです・・・。
 日本にも、まさるともおとらぬ大きな矛盾を社会内にかかえている現代韓国の内面をたどる手頃な新書です。

(2015年12月刊。840円+税)

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー