弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年5月22日

日本降伏

日本史(戦前)


著者  纐纈 厚 、 出版  日本評論社

 日本では、太平洋戦争に負けたのに、敗戦と言わずに終戦と呼ぶのが定着した感があります。日本は理不尽かつ野蛮な侵略戦争をはじめ、無残に敗れ去ったのだと思いますが、安倍首相のような反省なき人々は、今なお聖戦だったと言いたいようです。
 ですから、欧米からすると安倍首相はとんでもない政治家だと警戒されるのです。
 靖国神社に安倍首相や150人もの国会議員が参拝をくり返していますが、昭和天皇も今の天皇も絶対に参拝しようとしない理由について、日本人はもっと深刻に、真剣に考えてみる必要があるのではないでしょうか。
 それは、靖国神社が単に戦死者をまつる場というのではなく、日本が始めた戦争が侵略戦争ではなかった、聖戦だったと主張する宣伝の場だからなのです。そんなところに天皇が言って参拝することはできないのです。
 昭和天皇が終戦の決断をしたという人、そう考えている人は多いわけですが、その真相は簡単なものではありません。
 昭和天皇は、文字どおり戦争指導の頂点に位置していた。しかし、その指導には一貫性を欠いていた。動揺、変節、執着とあきらめなど、安定したリーダーシップを発揮したとは言えない。
 まさしく、昭和天皇も、動揺する、ふつうの人間だったというわけです。
 開戦決定と同じく、終戦決定も、きわめて紆余曲折を経て、いたずらに時間を浪費していった。日本人は、「終戦」という価値中立的な用語で、あの歴史を記憶しておくことにした。
 いったい、戦争終結の担い手は、誰だったのか・・・。開戦前、海軍にとっては英米と戦うだけの戦力準備も開戦意思も十分になかった。海軍側の陸軍側への姿勢は、この時期に対立感情から増悪に近いものになっていった。
 海軍は、陸軍主導の政治と戦争指導の展開に不満をつのらせ、陸軍への対抗心を深めていった。海軍にとって、もっとも警戒すべきは、陸軍の対ソ開戦だった。
 昭和天皇は絶対に勝利する戦争を欲した。だから、どっちつかずのあいまいな参謀総長の答えに苛立ちを示した。
 木戸の推挙を受けて、昭和天皇は日米交渉への悪影響を知悉しながら、あえて東條を首相として選択した。
 開戦責任を問うとすれば、東条と並んで木戸幸一の存在はきわめて大きい。
 東条は、昭和天皇の忠実な代行者だった。それまで東条内閣を強く支持してきた翼賛会がサイパン陥落の責任をめぐり「善処すべし」と決議したことは、事実上、東条内閣への不信を表明したことになる。東条に日米開戦時の戦争指導内閣をになわせ、忠実な軍事官僚であった東条を通じて政治指導と戦争指導をすすめてきた昭和天皇は、最後まで東条に未練を残していた。天皇は明確な戦争継続論者だった。
 昭和天皇は開戦決定に自ら賛成したうえ、終戦決定も実は不本意だったのです。
 昭和天皇は、木戸を通じて反東条勢力の動向を把握したため、最終的に東条支援を撤回するに至った。
昭和天皇は、戦争継続が終結かで揺れ動いていた。戦局が悪化の一途をたどるなか、昭和天皇は戦争の継続と勝利への自身を失っていくものの、一撃論をくり返して、戦果を期待しながら戦争継続に執着していた。
いずれ日本が敗戦に追い込まれたとき、国体護持のためには、戦争責任者の確定が求められる。そのとき、皇室が責任追及されないためには、開戦時の首相である東条に一切の責任を負わせるのが得策だという考えがあった。戦局悪化の責任を東条に負わせ、天皇や皇族への戦争責任追及の可能性をなくすために、当局は知恵をしぼった。
 1945年6月、鈴木貫太郎内閣が発足した。このとき、昭和天皇は依然として沖縄の戦局に期待していた。聖断の目的は天皇制の維持すなわち団体護持の一点であり、「下万民のため」というのは表向きの理由にすぎなかった。もし「下万民のため」というのなら、もっと早く戦争終結が実行されたはずである。聖断のシナリオとは、日本国土と国民とを戦争の被害から即時に救うために企画されたものではない。戦争による敗北という政治指導の失敗の結果から生ずる政治責任をタナ上げするために着想された、一種の政治的演出にすぎないものだった。最後の時局収拾策としての「聖断」は、天皇や木戸の「英断」でも、「主体的判断」でもなかった。
 重臣・宮中グループに共通する国内矛盾噴出への可能性に対する恐怖心と、それによる国体崩壊の危機感こそ、彼らをその根底から戦争終結と、天皇の聖断を切り札とする「早期」戦争終結へと向かわせた最大の理由であった。
 天皇の明確な意思によって日米戦争は開始された。そして、アジア太平洋戦争は終結した。日本の侵略戦争を正当化するものはない。「ABCD包囲網」なるものは、フィクションにすぎない。
戦争終結を天皇の「聖断」によるものとする俗説を根底から批判する本です。一読に価します。
(2013年12月刊。2200円+税)


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