声明
2002年06月04日
「『有事法制』に反対する常議員会決議
福岡県弁護士会 会長 藤井克已
平成14年(2002年)6月4日
4月17日,政府は衆議院に「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」(「武力攻撃事態」法案という)、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」(安全保障会議設置法「改正」法案という),「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(自衛隊法等「改正」法案という)に上程した(以上を有事法制3法案という)。そして4月26日衆議院本会議において趣旨説明がなされ,各党からの代表質問がされ,特別委員会における審議が本格的に開始される状況にある。\n 有事法制3法案には憲法原理に照らし,少なくとも以下に指摘する重大な問題点と危険性が存在する。
1 「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し,武力攻撃が予想されるに至った事態」までが「武力攻撃事態」とされており,その範囲・概念は極めて曖昧である。政府の判断によりどのようにも「武力攻撃事態」を認定することが可能\であり,しかも国会の承認は「対処措置」実行後になされることから、政府の認定を追認するものとなるおそれが大きい。
2 いったん内閣により「武力攻撃事態」の認定が行われると,陣地構築,軍事物資の確保等のための私有財産の収用・使用,軍隊・軍事物資の輸送,戦傷者治療などのための市民に対する役務の強制、交通、通信、経済などの市民生活・経済活動の規制などを行うことにより,市民の基本的人権を大きく制限することとなるが,これは憲法規範の中核をなす基本的人権保障原理を変質させる重大な危険性を有する。\n
3 曖昧な概念の下で拡張された「武力攻撃事態」における自衛隊の行動は、憲法の定める平和主義の原理,憲法9条の戦争放棄,軍備及び交戦権の否認に抵触するのではないかとの重大な疑念が存在する。
また,周辺事態法と連動して,米軍が主体的に関与する戦争あるいは紛争にわが国を参加させることにより,日米の共同行動すなわち個別的自衛権の枠を越えた「集団的自衛権の行使」となり,わが国に対する攻撃を招く危険を生じさせる。
4 武力の行使,情報・経済の統制等を含む幅広い事態対処権限を内閣総理大臣に集中し,その事務を閣内の「対策本部」に所掌させることは行政権は合議体である内閣に属するとの憲法規定と抵触し,また内閣総理大臣の地方公共団体に対する指示権及び地方公共団体が行う措置を直接実施する権限は地方自治の本旨に反し、憲法が定める民主的な統治構造を大きく変容させ,民主政治の基盤を侵食する危険性を有する。\n
5 日本放送協会(NHK)などの放送機関を指定公共機関とし,これらに対し,「必要な措置を実施する責務」を負わせ,内閣総理大臣が対処措置を実施すべきことを指示し,実施されない時は自ら直接対処措置を実施することができるとすることにより,政府が放送メディアを統制下に置き,市民の知る権利,メディアの権力監視機能,報道の自由を侵害し,国民主権と民主主義の基盤を崩壊させる危険を有する。\n
以上のように有事法制3法案は,武力又は軍事力の行使を許容する為の強大な権限を内閣総理大臣に付与する授権法であり、基本的人権侵害のおそれ,平和原則への抵触のおそれだけでなく、憲法が予定する民主的な統治構\造を変容させ,地方公共団体,メディアを含む指定公共機関の責務と内閣総理大臣の指示権,直接実施権及び国民の協力・努力義務を定めることにより,国家総動員体制の道を切り開く重大な危険性を有するものである。
福岡県弁護士会は,同法案の持つ重大性,危険性に鑑み,有事法制3法案に反対し,同法案を廃案にするように求めるものである。
2002年06月10日
いわゆるメディア規制3法案の廃案等を求める声明
福岡県弁護士会 会長 藤井克已
平成14年(2002年)6月10日
1 現在国会で審議中の人権擁護法案、個人情報保護法案、並びに国会上程予定の青少年社会環境対策基本法案はいわゆるメディア規制3法案と呼ばれているように、報道の自由、市民の知る権利を侵害する恐れの強いものである。\n
2 人権擁護法案は、本年3月15日付日本弁護士連合会理事会決議で指摘されているように、
1:法案の人権委員会は法務省の外局とされ、必要十分な専任職員をおかず、しかもその事務を地方法務局に委任する等政府から独立した実効性のある人権救済機関とは到底言えない。\n 2:労働分野での人権侵害を切り離して厚生労働省の機関に委ねたことは労働分野の人権侵害救済の実効性が果たされない。
3:かかる独立性の保障のない人権委員会がメディアの調査を行い、取材行為停止等の勧告権限を有することは、市民の知る権利を侵害する恐れが強い。
という問題点があり、その名称とは異質の法律案となっている。
3 個人情報保護法案は、「基本原則」で個人情報を「適切かつ適正な方法で取得」し「本人が適正に関与し得るように配慮」を求めているが、この法律が施行されれば、政治家個人に対する政治的道義的責任追求を行うについての個人情報の収集や公表が個人情報保護法違反に問われる危険性もあり、日本新聞協会の意見書が指摘するような「取材を受ける側の情報提供が萎縮したり」「基本原則を口実に取材を拒否するケースが増加」することも予\想され、規制法の色彩が強くなっている。また、「報道機関」以外のものが行う表現行為(著作物など)に対する罰則(主務大臣の改善・中止命令違反に対し両罰規定を伴う)の適用があり、これらの表\現の自由に対して大きな侵害となる。その一方で、個人情報に関する自己決定権が保障されず、プライバシー権の明記もない。市民が自らの個人情報の開示を事業者に求めても、事業者の業務の都合で開示請求を拒否できるなど、個人情報を保護する法律としても極めて問題の多いものである。
4 青少年社会環境対策基本法案は、2001年2月21日付日本弁護士連合会会長声明で指摘されているように、2000年に設立された第三者機関「放送と青少年に関する委員会」などによる自主的努力を一層強めることが本筋であり、同法案にある行政機関のメディアへの勧告権限、氏名公表、指導権限など、メディアへの直接介入、検閲の危険がある内容となっている。\nさらに、規制対象とされる有害な社会環境の内容も曖昧であり、表現の自由を侵害する法案と断ぜざるを得ない。\n
5 これらメディア規制3法案は、報道の自由、国民の知る権利を侵害する危険性が著しく高いものであるので、この3法案に反対し、国会審議中の2法案については今国会で直ちに廃案にするとともに、全ての法案について、国民の意見を求めた上、根本的な見直を行うべきである。
2002年06月17日
住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の延期を求める声明
福岡県弁護士会 会長 藤井克已
平成14年(2002年)6月17日
1.今年8月5日の改正住民基本台帳法の施行に伴い,住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の稼働が予定されている。これは,各市町村が管理する住民基本台帳に記載された高度のプライバシーに属する個人情報である住民票コードを含む6情報ないし13情報をコンピュータネットワークに乗せ,他の地方自治体や国の行政機関からのアクセスを可能\にするものである。
確かに,行政の効率化の点では利便性があるかもしれないが,コンピューター上のデータは紙の上のデータと異なりネットワーク上での拡散も簡単であることから,ネットワークの広域化によりネットワーク外への情報流出の可能性が格段に高まり,その利便性とは裏腹にプライバシーに修復不可能\なダメージを与える危険性を孕んでいる。
現在,93の国の事務が住基ネットを利用することが決まっているが,更に,「行政手続きオンライン化関連3法案」によって171事務が追加されようとしている。住民票コードに付された個人情報をネットワークに流通させることは,各事務で得られた個人情報を集約することを容易にするもので,それ自体が個人のプライバシーに対する脅威となりうる。
2.ところで,1999年6月10日に行われた地方行政委員会(第145国会)において,当時の小渕首相は,住基ネットの「実施にあたりましては,民間部門をも対象とした個人情報保護に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることが前提であるとの認識に至った」と答弁し,改正住基法付則1条2項には「この法律の施行に当たっては,政府は,個人情報の保護に万全を期するため,速やかに所要の措置を講ずるものとする」との規定が盛られているのであるから,住基ネットの稼働には個人情報保護法制の万全な整備が不可欠の前提である。
3.そこで,現行法制及び改正法案を見るに,現行の「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」は,情報の収集制限に関する明確な規定がないこと,行政機関相互の目的外利用を広範囲に認めていること,安全確保義務違反に対する罰則がないことなど個人情報保護制度としては,極めて不十分である。\n 次に,今国会で審議中の「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案」(以下,「行政機関個人情報保護法案」という。)においても,何ら問題点は改善されていない。すなわち,
1:蒐集制限に関する明確な規定がないこと,
2:「相 当の関連性」があれば利用目的の変更が容易に容認されること,
3:「職務上必要な限度」「相当な理由」があれば行政機関相互の目的外利用が極めて広範に容認されること, 4:「2:」「3:」の判断は当該行政機関に委ねられていること,
5:個人情報の開示義務規定は盛られているが,拡大解釈される懸念のある広汎な除外規定によって骨抜きになっていること,
6:安全確保義務違反に罰則がないこと,
など多くの点に問題があり,個人情報保護制度としては極めて不十分であるどころか,逆に,現状以上に行政機関による個人のプライバシー侵害に適法性のお墨付きを与えかねず,国民の個人情報を保護することよりも,全ての国民の個人情報を一元的に管理することを狙いとしたものと言わざるを得ないものである。\n
4.今般,防衛庁による情報公開請求者の身元・思想信条等のセンシティブ情報を含む個人情報リストの作成保有並びに利用という事件が発覚し,防衛庁は内部調 査の結果,その行為の一部について違法性はないと結論づけている。
この防衛庁の対応と一連の流れによって,個人情報を隠密裡に蒐集し管理しようとする行政機関の体質が露呈され,万全の個人情報保護法制を欠く現状においては個人のプライバシーがいかに脆いものであるかが明らかになった。
5.このように,行政機関個人情報保護法案には重大な問題があり,住基ネット実施のための前提条件である個人情報保護に万全を期するための「所要の措置」が講じられているとは到底評価できない現状にある。
従って,8月5日に予定されている住基ネットの稼働は,万全の個人情報保護立法がなされるまでは延期されるべきである。\n
2002年08月05日
住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の一時停止を求める声明
福岡県弁護士会 会長 藤井克已
平成14年(2002年)8月5日
本日8月5日、国は、改正住民基本台帳法の施行に伴い、住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の正式稼働を開始した。
住基ネットは、各市町村が管理する住民基本台帳に記載された高度のプライバシーに属する個人情報である住民票コードを含む6情報ないし13情報をコンピュータネットワークに乗せ、他の地方自治体や国の行政機関からのアクセスを可能にするシステムである。その前提として、個人情報の漏洩や、行政機関による個人情報の濫用を防止するための個人情報保護法制の整備がなされない限り稼働できないことが、国会における首相答弁や、住基法附則1条2項により確認されていたところである。\n しかるに、国は、稼働の前提条件である個人情報保護法制を全く整備しないまま、また、全市町村のセキュリティーに対しても、分厚いマニュアルを配布するのみで、経済的援助、及び技術的指導を全く放棄したまま稼働を強行した。このような状況においては、国の行政機関による個人情報の濫用や、個人情報の漏洩を防止する対策は極めて不十分と言わざるを得ない。\n この住基ネットについては、異例にも、24の市区町村長と、2県及び68市区町村の議会で、延期を求める意見書が採択されている。また、矢祭町、杉並区、国分寺市が離脱を表明し、横浜市は、希望しない市民には接続しない選択肢を与える運用を行う意思を表\明している。杉並区によれば、区民の72%が凍結・延期すべきと考えているという。このように、自己のプライバシー権侵害を危惧する隠れた多数の国民、及び住民のプライバシー権を保護しようと真剣に苦悩している多数の自治体の声を無視して、危険な住基ネットの稼働を行うことは、行政機関に対する自己情報コントロール権が保障されている国民のプライバシー権保護の観点、及び地方自治の本旨の保障の観点から、到底是認できないものであり、極めて遺憾である。
従って、当会では、国における個人情報保護法制無きままの住基ネットの稼働の一時停止を求め、今後とも国に対して個人情報保護法の制定を求めていくとともに、住基ネットに載せる情報を住民基本台帳事項に限定することを求める。また、自治体において、緊急時に住基ネットとの接続を切断をするための法整備に協力するなどして、個人のプライバシー権が可及的に守られるための努力を継続する所存である。
2002年09月24日
死刑執行に関する福岡県弁護士会会長声明
福岡県弁護士会 会長 藤井克已
平成14年(2002年)9月24日
1 本年9月18日、福岡拘置所及び名古屋拘置所において、それぞれ1名、合計2名に対する死刑執行が行われた。
2 わが国での死刑執行は、1989年11月福岡拘置所での執行以来、1993年3月に再開されるまで3年余の間、その執行が控えられていたが、再開後今回の執行を含め被執行者数が43名に及んでいる。
死刑が人間の尊厳を否定する残虐な刑罰であることは明らかである。そこで、国際 的にも、世界の相当数の国が法律上あるいは事実上死刑を廃止している。また、1989年に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年7月に発効している。さらに、1998年11月5日、日本政府の第4回定期報告書を審査した国連規 約人権委員会は、その最終見解において、我が国の死刑制度に関して1993年11月4日に同委員会が表明した懸念事項が実施されていないことにつき重大な懸念を抱いていることを示し、改めて死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。\n 他方、国内的にも、1993年9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見にて、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるとの指摘がなされている。
3 当会は、これまで、1996年2月14日、1998年7月7日及び1999年12月28日に当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきとの要望を重ねてきた。\n
そこで、当会は、今回の死刑執行に対して、極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対して、今後、死刑の執行を差し控えることを強く要望する。\n
2003年02月12日
弁護士報酬の敗訴者負担に反対する決議
福岡県弁護士会 会長 藤井克已
平成15年(2003年)2月12
当会は、弁護士報酬を敗訴者の負担とする一般的な負担制度の導入に強く反対する。以上のとおり決議する。
理 由
2001(平成13)年6月12日、司法制度改革審議会は最終意見書を公表し、その中で、弁護士報酬の敗訴者負担制度につき、「一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである」とした。この意見を受け、現在、司法制度改革推進本部司法アクセス検討会において、同制度につき本格的な検討がされようとしている。\n しかし当会は、以下の理由から、その一般的敗訴者負担制度の導入に反対の意見を表明するものである。\n
訴訟は本来、当事者が自己の権利ないし地位を実現ないし保全するため提起するものであり、自分が依頼する弁護士の報酬を相手から回収できないために訴訟を回避することは、通常は考えられない。
むしろ、当事者としては、敗訴した場合に相手方が依頼した弁護士の報酬を負担させられることを恐れ、訴訟を断念する可能性が高い。すなわち、訴訟においては、訴訟を提起する段階又は応訴する段階では勝敗の見通しが立たない場合が少なくない。薬害・医療過誤訴訟、公害訴訟など、証拠が偏在している場合も同様である。このように訴訟の勝敗の見通しが立たない場合、当事者は勝訴する可能\性よりも敗訴する危険性を恐れ、その結果当事者の訴訟提起を萎縮又は裁判による解決を断念させてしまい、市民の司法へのアクセスを阻害することが一般的に予想される。\n また、公害訴訟、消費者訴訟、労災訴訟などにおいては、従来裁判上認められていなかった権利が度重なる敗訴判決を経て漸く認められたり、またそのような事例が集積されて新たな法令や制度が創設された例が多数存在するが、このような訴訟の人権保障機能や法創造機能\は敗訴した場合でも自分が依頼した弁護士の報酬のみを負担すれば足り、敗訴の危険性を顧みず当事者が訴訟を提起できたからこそ生まれてきたものである。ところが、弁護士報酬の敗訴者負担制度が導入されてしまうと、自分のために全力を尽くしてくれた弁護士の報酬のみならず、相手方を弁護した弁護士の報酬まで負担しなければならなくなり、当事者としてはそのような危険を冒してまで訴訟を提起しようとせず、ひいては訴訟の人権保障機能や法創造機能\が損なわれることは明らかである。
更に、資金力のない社会的・経済的弱者と資金力の豊富な社会的・経済的強者との訴訟では、訴訟の人権保障機能や法創造機能\が重要な役割を果たしている上、証拠が偏在している場合が多く、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入による弊害は著しく、弁護士報酬の敗訴者負担制度は社会的・経済的弱者の訴訟アクセスを断念させ、憲法が保障する「裁判を受ける権利」を侵害しかねないというべきである。
当会は、司法制度改革審議会の意見書を尊重するものであるが、弁護士報酬の敗訴者負担の一般的導入は市民の司法へのアクセスを阻害するとともに、訴訟の人権保障機能や法創造機能\を損なうものであるから、改革審議会の意見書が意図したところではないと考える。敗訴者負担を導入するのであれば、司法へのアクセスを高めることにつながる片面的敗訴者負担制度(例えば、国や地方自治体に対する公益のための訴訟などに限って原告勝訴の場合にのみ被告に弁護士報酬を負担させる制度)を導入するべきである。
よって当会は、弁護士報酬の一般的敗訴者負担制度を導入することには強く反対するものである。
日
2003年03月17日
国選弁護人の報酬引下げに反対し、大幅な増額を求める会長声明
福岡県弁護士会 会長 藤井克已
平成15年(2003年)3月17日
国選弁護人の報酬額は、2000年(平成12年)度から地方裁判所における標準的事件(3開廷)について、金86,400円とされ、その後2年間据え置かれている。ところが本年度の政府予算案ではこれを金85,600円に引き下げられた。減額は、戦後初めてのことである。
刑事弁護の実情として、国選弁護人が選任される比率は極めて高く、わが国の刑事裁判は国選弁護人の犠牲と負担によって維持されているといっても過言ではない。
このような実態に照らせば、国選弁護制度は、刑事被告人の憲法上の権利である弁護人選任権を実質的に保障する制度として機能していると言わなければならない。したがって、被告人が資格を有する弁護人による十\分な弁護活動を受けるためには、国選弁護人の活動を経済的に担保する必要がある。国選弁護人に適正かつ十分な報酬が支払われることは、憲法上の要請であるといっても過言ではない。\n しかるに、国選弁護人の報酬は、私選弁護人と弁護活動の内容に何ら相違がないにもかかわらず、低額に抑えられてきた。しかも、記録謄写料、交通費などの実費も原則として支給されず、国選弁護人の負担となっている実情である。
更に、司法制度改革推進本部では、2006年度から国費による被疑者弁護制度導入を前提に検討作業が進行しているが、この制度の実現には、現状を大きく上回る弁護士の確保が要請されており、そのためには適正な国選弁護報酬が不可欠となっている。
このような事態のもとで、2003年(平成15年)度政府予算案で示された国選弁護人の報酬引下げは、被告人に対する十\分な弁護活動を抑制し、ひいては、被告人の弁護人選任権を侵害するとともに、将来の国選による被疑者弁護制度の実現を阻害する要因となりかねない。
よって、当会は、この政府予算案における国選弁護人報酬の引下げに強く抗議するとともに、国選弁護人報酬の大幅な増額のために必要な予\算措置を講じるよう強く求めるものである。
2003年03月20日
アメリカなどによるイラク侵攻に反対する会長声明
福岡県弁護士会 会長 藤井克已
平成15年(2003年)3月20日
アメリカとイギリスは、日本時間3月20日午前11時40分頃、ブッシュアメリカ大統領がイラクのフセイン大統領に国外退去を求めた「最後通告」の猶予期限を徒過したとして、国連安全保障理事会の決議を経ることなく、イラクに対する武力攻撃を開始した。又、小泉首相はアメリカなどの武力攻撃を支持することを言明した。\n 国連憲章により例外的に武力行使が許されるのは、安保理が必要な措置をとるまでの間の自衛権の行使として、或いは、平和に対する脅威等に集団的措置で安保理の決議に基づく行動としてなされる場合に限られる。しかし、現在、イラクはアメリカ、イギリス等に対する武力攻撃をしておらず、自衛権の行使はその前提を欠き、安保理決議1441号などは、今回の武力攻撃に同意を与えるものではない。
従って、今回の武力攻撃が、国連憲章に違反することは明らかである。アメリカなどの武力攻撃は、二度にわたる世界大戦の反省を踏まえて築き上げられた国際社会における法の支配と、国連の存在意義を根底から覆すものである。
また、大規模爆撃を含む武力攻撃は、多くの市民の生命を奪い、最大の人権侵害を引き起こし、真の平和と安全をもたらさない。
当会は、アメリカ等に対し、全世界の世論に背を向け、平和を放棄した今回の武力攻撃に強く抗議する。
そして当会は、あらためて日本政府に対し、戦争に反対する圧倒的多数の国民の声を真摯に受け止め、憲法の平和主義・国際協調主義の理念に立ち返り、アメリカ等において早期に武力攻撃の収拾を為し、国連主導によるイラクの民主的復興を行うよう申し向けるなど、和平に向けた努力を行うよう求める。\n
2003年04月24日
個人情報保護2法案に対する会長声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)4月24日
本年4月8日、民間部門を対象とする個人情報保護法案、行政機関を対象とする行政機関個人情報保護法案が衆議院で審議入りした。
前者は主にメディアの取材・表現の自由、国民の知る権利を侵害する法案であるとして、また後者は情報の収集制限、不正行為者に対する罰則規定がないなど民間に比べ行政機関に甘い法案であるとして、市民、メディア、弁護士会からの批判を受け、昨年秋の臨時国会で廃案となった経緯がある。\n 政府はこれらの批判を一部受け入れ、前者についてはメディアに対する一定程度の配慮を行い、後者については個人情報の不正な提供行為に罰則規定を設けるなどした修正案を上程したが、いずれも以下のとおり、依然として個人情報の保護等について重大な危険性をはらんでいる。
1 個人情報保護法案について
(1) 規制が広範に過ぎる反面、真に規制が必要な分野では実効性がないこと
法案は、すべての民間部門を一律に規制するという基本構造をとっている。しかし、民間部門には、メディア、NGO、弁護士、弁護士会その他の団体ないし個人があり、他方で個人信用情報を悪用する名簿業者などがある。これらを一律に規制する法案は、前者に対しては規制が厳しすぎてその本来の活動を抑制することになり、後者に対しては規制としての実効性がない結果となる。\n 法案は、規制が広範に過ぎ、メディア、NGO、弁護士、弁護士会その他の団体ないし個人が情報を収集し、意見表明することを妨げるおそれがある。\n (2) 表現、報道の自由への侵害の危険があること\n 法案は、メディアの取材・表現の自由に対する配慮をしたとするが、「出版」が適用除外から外されており、また「著述の用に供する目的」や「報道の用に供する目的」についての審査権限は依然として主務大臣が掌握しており、主務大臣が「報道目的でない」と判断すれば、政府が取材・報道に事前に介入することができる余地があるなど、依然としてメディアの取材・表\現の自由に対する侵害のおそれがある。
そこで、民間部門で一律に規制するのではなく、まず公的部門を対象とする法整備を先行させ、民間部門においては個人情報保護の必要性が高い個人信用情報、医療情報、電気通信情報、教育情報などの分野について、その特性を考慮した分野別個別法の立法がなされるべきである。
2 行政機関個人情報保護法案について
(1) 法案は、ほとんどの自治体の個人情報保護条例で規制されている思想、信条、病歴、犯罪歴などの他人に知られたくないようないわゆる「センシティブ情報」の収集を規制していない。
(2) 法案は、行政機関が「相当な理由」があると判断すれば、個人情報を目的外に利用できる上、他の行政機関に提供することができるとし、行政機関による個人情報の使い回しを認めている。
更に、昨年8月に稼動を開始した住民基本台帳ネットワークシステムで国民全員に対し11桁の番号が付番されたが、法案では、この番号をマスターキーとして個人情報が一元管理されることになる。防衛庁が住基情報を流用していたこと、親族情報や健康情報を付加利用していたことがマスコミ報道されたばかりであるが、法案では、そのような流用に対するチェック機能が働かず、また有効な歯止めにもならず、住民基本台帳ネットワークシステムのセキュリティが極めて脆弱であることからしても、個人情報は保護されないことは明らかである。また、本年8月からの住基ICカードの交付など住民基本台帳ネットワークシステムの本格稼動により、国民総背番号制へと導かれる危険性も高い。\n
3 独立した第三者機関による行政チェックシステムの必要性
行政から独立した第三者機関によって、目的外利用、他の行政機関への提供、センシティブ情報の収集等については、行政機関による相当性の判断に任せるのではなく、独立した第三者機関によるチェックシステムが必要である。
4 裁判管轄
法案では、裁判管轄に関する規定を置いていないため、このままでは東京地方裁判所でしか裁判を提起することができないことになるが、それでは地方在住者の個人情報に関する権利保障は極めて不十分であり、請求者の居住地を管轄する地方裁判所にも管轄を認める必要がある。\n
そこで、今般の法案についても、以上の点で抜本的修正がなされない限り、当弁護士会は、法案の成立に反対する。
朝鮮学校に通う子どもたちへの嫌がらせ等に関する会長声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)4月24日
1 朝鮮民主主義人民共和国は、2002年9月17日の日朝首脳会談で日本人拉致事件を公式に認めるに至った。
その日を境にして日本各地において朝鮮学校に通う子ども及び朝鮮学校に対する嫌がらせが顕著になってきている。福岡もその例外ではない。
調査の結果、「拉致されるぞ」「朝鮮に帰れ」「死ね」等の暴言、追いかけられる、石を投げられる等の被害が多数にのぼっていることが判明した。\n また朝鮮学校も、学校のホームページの掲示板に「人殺し」「恥を知れ」等の嫌がらせの言葉が書き込まれ、掲示板を閉鎖せざるを得なくなったり、子どもへの危害を避けるためスクールバスに書かれていた学校名を消したり、チマチョゴリでの通学を一時取りやめるという措置を執らざるを得なかった。また一時的に休校せざるを得なかった学校もある。
これらの嫌がらせは在日コリアン(在日韓国・朝鮮人)の子どもの心を深く傷つけ、生命・身体の安全と自由を脅かし、教育を受ける権利を侵害している。
同時にこれらの行為は、憲法13条及び世界人権宣言第1条・第2条・第3条をはじめ、国際人権規約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約などにおける個人の尊厳の保障及び人種差別禁止の理念及び規定に反する。
2 拉致事件が重大な人権侵害であることは当然のことであるが、これは朝鮮学校に通う子どもには全く責任のないことである。拉致事件に無関係の子どもに対して嫌がらせを行うことも決して許されることのない人権侵害である。
3 これらの嫌がらせは、在日コリアンの子どもに対する不当な偏見に基づくものである。当会は、国及び地方自治体に対しこの偏見を取り除く対策を直ちに講じ、在日コリアンの子どもが安全・平穏に生きる権利を保障することを要請する。
さらに当会は、国籍や人種の違いを超えてお互い思いやりを持って共生することができる社会が実現することを切に訴え、それに向けての活動を積極的に取り組む決意である。
2003年05月21日
有事法制に反対する会長声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)5月21日
有事法制法案が5月15日衆議院を通過し、現在参議院で審理中である。
この法案は、当初の政府案を修正したものであるが、「武力攻撃予測事態」の定義や範囲はなお曖昧である。また、「武力攻撃予\測事態」と周辺事態法でいう「周辺事態」の異同や、武力攻撃事態対処法と周辺事態法がどう連動するのかは依然として不明確であり、周辺事態法又はテロ特措法との連動いかんによっては、憲法が認めていない集団的自衛権と同様の結果となることも懸念される。さらに、有事認定の客観性も十分に担保されているとはいえず、国会による事前の民主的コントロールも確保されているとはいえない。有事における首相の地方公共団体や指定公共機関に対する指示権・代執行権は当面凍結されたものの何ら変更がなく、有事において民主的な統治機構\や地方自治を維持することができるのかという疑問は払拭されていない。民間放送局を含むメディアが有事に政府の統制下におかれる危険性も完全には排除されていない。しかも、国民的な議論が尽くされたものとは言いがたく、衆議院における徹底した議論も行われていない。
いうまでもなく、この法案は、わが国の進路を決定し、国民の生命と安全そして憲法と基本的人権に関わる重要な法案である。当会は、このような憲法原理に関わる重要法案について、十分な国民的議論も国会審議もないままに、そのまま参議院において可決され成立することには反対せざるを得ない。\n この法案は、以上のとおり、平和主義、基本的人権の尊重、国民主権主義という憲法原理に抵触する重大な疑念が存在するものであり、当会は、その廃案を求めるものである。
2003年06月06日
「『国を愛する心情』等の評価項目を定めた通知表を採用しないことを求める会長声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)6月6日
本年6月3日、「福岡市小学校公簿等研究委員会」は、今年度の通知表案として6案を示し、希望校への配布を開始した。そのうちの1案には、小学校6年生の社会科の「関心・意欲・態度」を評価する項目で、「我が国の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情を持つとともに、平和を願う日本人として世界の国々の人々と共に生きていくことが大切であることの自覚をもとうとする」との観点の趣旨が示され,これに「学習状況」と「評定」の欄において1,2,3の評価をすることになっている。\n 当会は昨年度、上記の観点の趣旨とほとんど同様の表記であった昨年度福岡市立小学校6年生の通知表\について、市民団体からの人権救済申立を受け、当会の人権擁護委員会において調査・審議をし、常議員会において承認をしたうえ、本年2月26日、「『国を愛する心情』『日本人としての自覚』といったものは個人の思想・良心に関わるものであり、こうしたものを児童の学習到達度を評価する通知表\に規定することは、公教育の現場において特定の思想・良心を児童に強制する結果をもたらすおそれがあり、とりわけ在日韓国人らの人権を侵害するおそれが高い」として、当該評価項目を削除し改めるよう、当該通知表採用校の福岡市立堤丘小学校校長に警告し、福岡市教育委員会に勧告した。\n ところが、6案中の1案とはいえ、再び本年度の通知表案において昨年と同様の評価項目が示されたことはまことに遺憾であり、当会は、通知表\案採否の決定権を持つ福岡市立の各小学校校長に対し、この通知表案を採用しないよう求めるものである。\n すなわち、上記の評価項目は、一部「世界の国々の人々と共に生きていくことが大切であること」との文言が挿入・付加され若干の修正が施されてはいるが、他は昨年の通知表と同文であり、当会の上記警告書及び勧告書に述べたことがそのまま当てはまるものである。それは、教員による評価を通じて、児童に対し、「国を愛する心情」を持つこと、及び「平和を願う日本人として世界の人々と共に生きていくことの大切さを自覚する」ことを求めるものであって、公教育の現場において特定の思想・良心を児童に強制する結果をもたらすおそれがあるものである。特に、我が国で共に学び生活する外国籍の児童の思想・良心の自由を侵害し、子どもの権利に関する条約29条に定めた「多文化共生教育」の要請にも反するものであり、加えて、児童の国籍の如何を問わず、同条約12条に定められた「子どもの意見を表\明する権利」の趣旨にも反するといわなければならない。
また,児童が一生懸命考えているのに「国を愛する心情」がないと評価されたり、児童が教員からよい評価を得るため気持ちを曲げて「国を愛する心情」を表現したりするときには、当該児童に対する教育効果のうえでも大きな問題が残るのではないかと懸念される。\n 本年度の通知表案は、「福岡市小学校公簿等研究委員会」という任意団体が作成し、各小学校の校長が採用するか否かの決定権を持っているとされている。\n そこで、当会は、福岡市立の小学校校長に対し、憲法上も子どもの権利に関する条約上も重大な違反の疑いがある、「国を愛する心情」等を評価項目に定めた通知表を採用しないよう求めるものである。\n
2003年08月01日
司法修習生の給費制維持を求める声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)8月1日
司法は、法の支配の理念に基づき、政治部門と並んで社会を支える重要な柱であり、この司法の運営に直接携わるプロフェッションである法曹に対しては、国民が個人の尊厳・基本的人権を享有する主体として自律的な社会生活関係を維持・形成し、発展させていくために必要な法的サービスを提供するという役割を果たしていくことが期待されている。制度を活かすものは人であり、そして21世紀における司法の役割の増大に応じて、その担い手である法曹(弁護士・検察官・裁判官)の果たすべき役割も、より多様で広くかつ重くなっていく。そのため、法曹の質と量を大幅に拡充する事が不可欠とされている。
かくして、新たな法曹養成制度は、21世紀の司法を担うにふさわしい質を有した法曹を確保するため、従前の司法試験による選抜ではなく、法科大学院を中核とする法曹養成制度に改め、法科大学院での履修に続いて、新司法試験を経て実務修習を中心とする司法修習を実施することになった。その際、司法修習制度は、これまでの実務修習制度の有用性に鑑み,この新制度のもとにおいても引き続いて実施することとされたものである。
ところで現在、従来から司法修習生に対して給与を支払っていた制度(給費制)を維持するかどうかが検討されている。
しかし、上記のとおり、法曹養成制度は単なる職業人の養成ではなく、国民の権利擁護、法の支配の実現にかかわるプロフェッションたる法曹を養成するものであり、したがって、法曹の養成は、国及び社会にとって極めて公共性・公益性の高い重要事項である。
そして、弁護士は、基本的人権の擁護と社会的正義実現の担い手であるのに加えて、各種公益活動、公的弁護、公設事務所、法律相談センターなど公益性の高い分野を担い、実行する人的資源であり、その公共性、公益性が高い点においては、裁判官あるいは検察官と全く同様である。
従って、法曹養成とりわけ司法修習に対しては、可能な限り国費が投入されるべきであり、そうすることが国と社会に活力を与え、透明で公正なルールに従って適正かつ迅速に紛争解決をはかり、法の支配を貫徹することを可能\とするものである。
司法修習生には、給費制の反面、修習専念義務が課されており、他の職業に就いて収入を得る方法を閉ざされている。従って、修習専念義務を課したまま給与を支給しないことは合理的均衡を欠き、また当然、司法修習生の生計の維持を困難とする。
加えて、司法修習生になる前に2年ないし3年の法科大学院に在学することから,その間に多額の学資や生活資金が必要となる。この経済的負担はそれ自体極めて重大な問題であるが、その上司法修習生に対し給与を支給しないことは、負担を一層増大させるものであり、経済的打撃はさらに大きくなる。そして、この経済的負担の大きさゆえに、多くの有用な人材が法曹を目指すことを諦めることも懸念される。
そこで、法科大学院における学生の経済的負担を軽減するべきことはもとより、司法修習生に対する給費制を維持して、修習に専念できる態勢を整備すべきである。
これに対し、給費制に代えて貸与制を採用するとの意見があるが、多額の負債を抱えて新人法曹としての生活をスタートさせることは、その後の返済を考えると、到底好ましいものとは思われない。
法曹には多種多様な人材が求められるものであるが,経済的負担の大きさから一定の富裕層のみからの偏った人材しか輩出されなくなるとすれば、それは極めて憂慮すべき事態を招来するものであり,司法制度改革審議会意見書の趣旨にも反することとなる。
よって、司法修習生への給費制度は今後とも堅持されるよう強く求めるものである。
司法修習生の給費制維持を求める声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)8月1日
司法は、法の支配の理念に基づき、政治部門と並んで社会を支える重要な柱であり、この司法の運営に直接携わるプロフェッションである法曹に対しては、国民が個人の尊厳・基本的人権を享有する主体として自律的な社会生活関係を維持・形成し、発展させていくために必要な法的サービスを提供するという役割を果たしていくことが期待されている。制度を活かすものは人であり、そして21世紀における司法の役割の増大に応じて、その担い手である法曹(弁護士・検察官・裁判官)の果たすべき役割も、より多様で広くかつ重くなっていく。そのため、法曹の質と量を大幅に拡充する事が不可欠とされている。
かくして、新たな法曹養成制度は、21世紀の司法を担うにふさわしい質を有した法曹を確保するため、従前の司法試験による選抜ではなく、法科大学院を中核とする法曹養成制度に改め、法科大学院での履修に続いて、新司法試験を経て実務修習を中心とする司法修習を実施することになった。その際、司法修習制度は、これまでの実務修習制度の有用性に鑑み,この新制度のもとにおいても引き続いて実施することとされたものである。
ところで現在、従来から司法修習生に対して給与を支払っていた制度(給費制)を維持するかどうかが検討されている。
しかし、上記のとおり、法曹養成制度は単なる職業人の養成ではなく、国民の権利擁護、法の支配の実現にかかわるプロフェッションたる法曹を養成するものであり、したがって、法曹の養成は、国及び社会にとって極めて公共性・公益性の高い重要事項である。
そして、弁護士は、基本的人権の擁護と社会的正義実現の担い手であるのに加えて、各種公益活動、公的弁護、公設事務所、法律相談センターなど公益性の高い分野を担い、実行する人的資源であり、その公共性、公益性が高い点においては、裁判官あるいは検察官と全く同様である。
従って、法曹養成とりわけ司法修習に対しては、可能な限り国費が投入されるべきであり、そうすることが国と社会に活力を与え、透明で公正なルールに従って適正かつ迅速に紛争解決をはかり、法の支配を貫徹することを可能\とするものである。
司法修習生には、給費制の反面、修習専念義務が課されており、他の職業に就いて収入を得る方法を閉ざされている。従って、修習専念義務を課したまま給与を支給しないことは合理的均衡を欠き、また当然、司法修習生の生計の維持を困難とする。
加えて、司法修習生になる前に2年ないし3年の法科大学院に在学することから,その間に多額の学資や生活資金が必要となる。この経済的負担はそれ自体極めて重大な問題であるが、その上司法修習生に対し給与を支給しないことは、負担を一層増大させるものであり、経済的打撃はさらに大きくなる。そして、この経済的負担の大きさゆえに、多くの有用な人材が法曹を目指すことを諦めることも懸念される。
そこで、法科大学院における学生の経済的負担を軽減するべきことはもとより、司法修習生に対する給費制を維持して、修習に専念できる態勢を整備すべきである。
これに対し、給費制に代えて貸与制を採用するとの意見があるが、多額の負債を抱えて新人法曹としての生活をスタートさせることは、その後の返済を考えると、到底好ましいものとは思われない。
法曹には多種多様な人材が求められるものであるが,経済的負担の大きさから一定の富裕層のみからの偏った人材しか輩出されなくなるとすれば、それは極めて憂慮すべき事態を招来するものであり,司法制度改革審議会意見書の趣旨にも反することとなる。
よって、司法修習生への給費制度は今後とも堅持されるよう強く求めるものである。
2003年08月25日
住基ネットの稼働停止等を求める会長声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)8月25日
1.本日、住民基本台帳ネットワークシステム、いわゆる住基ネットが本格稼働(第2次稼働)を始めた。
当会は、2002年8月5日の第一次稼働以前より、住民の個人情報が漏洩する可能性があり、また行政機関による個人情報の恣意的収集、濫用の危険があるので、個人情報保護のための所要の措置が講じられるまでの間の住基ネットの稼働延期を要請してきた。\n 第一次稼働後、個人情報保護法及び行政機関等個人情報保護法が一応成立したものの、繰り返し指摘してきたように、個人情報の漏洩及び行政機関による個人情報の恣意的収集、濫用という危険性を払拭するものではなく、個人情報保護のためには不十分なものである。\n さらに、福岡県下の複数の自治体において、住基システムとインターネットを物理的に接続しており、その運用面での情報漏洩の危険性もある。地方自治情報センターが本年1月、2月、7月に実施した全国調査の結果も、市町村等の自治体における住基ネットのセキュリティが万全でない現実を示している。
2.また、住基ネットへの接続を拒否している自治体や住基ネットへの接続を住民個人の選択に委ねている自治体があり、相当数の住民の情報が住基ネット上に流通していない状態が続いているが、これによって住民基本台帳に関する事務が混乱したという事情は認められない。また、住基カードを独自に利用する条例をつくった自治体は、全国の市区町村3,207のうち45市区町村にとどまっている。これらは、この住基ネットの必要性に大きな疑問を投げかけるものである。
他方で、本日からの本格稼働は、これまでの市町村−県(地方自治情報センター)−国の行政機関という縦の情報の流れに加え、市町村から市町村へという横の情報の流れを作るものであるが、市町村等における住基ネットのセキュリティが万全でない状態で稼働をこのまま進めることは危険である。しかも、相当数の住民情報が住基ネット上に流通していない状態で本格稼働を行えば、一部もしくは全部の住民の情報を流さない自治体と全住民の情報を流す自治体との間で大きな混乱を招くのではないかとの指摘もなされている。
3.更に、今回の本格稼働において、住基カードが発行されることになるが、この住基カードは膨大な量の個人情報の蓄積とこのカードによる個人情報へのアクセスを可能にし、個人情報の漏洩の危険性を格段に大きくするものである。ところが、国は、住基カードのセキュリティ対策の検討を本年5月25日に始めたばかりであり、現時点における住基カードのセキュリティー対策は不十\分なものといわざるを得ない。
のみならず、この住基カードに多数の個人情報を載せ又はアクセスを可能にすることは、カードを媒体とした個人情報の集約を可能\にし、国民総背番号制の機能を与える危険性がある。\n このため、当会では,つとに福岡県内の各自治体に住基カードの発行を停止すること、もしも発行する場合にはそこに載せる個人情報を基本情報のみに限ることを要請してきた。
4.当会は、住基ネットの本格稼働が始められたことに遺憾の意を表すとともに、あらためて住民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障するための十\分に実効性のある措置が取られるまでの間、また少なくとも住基ネット管理の安全性が確認されるまでの間、住基ネットの稼働を一時停止するよう求めるものである。また、各自治体に対しては、住基カードへ載せる個人情報を住民基本情報のみに限るほか、住民の個人情報を保護するために可能な限りの措置を取るよう求めるものである。\n
2003年08月26日
北九州市小倉北区の飲食店に対する暴力団関係者による殺人未遂・資料業務妨害事件に関する会長声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)8月26日
去る8月18日午後8時頃、北九州市小倉北区において飲食店に対し、暴力団関係者による爆発物を用いた殺人未遂、威力業務妨害事件が発生した。\n この事件は、北九州市内における民事介入暴力排除運動に携わる市民をターゲットにした悪質な犯罪行為であり、暴\力の力によって市民の生命・身体や営業に圧力をかけ、広く暴力、暴\力団に対する恐怖感を植え付けようとしいてる点で、「暴力による支配」を狙った市民社会に対する挑戦である。\n 今回の事件は、基本的人権と社会正義の実現を目的とする弁護士会としても到底看過することのできない重大な犯罪である。
北九州地区においては、これまでも地道な暴力排除運動が積み重ねられてきたところであるが、今回の犯行によって、これまでの暴\力排除運動を些かも後退させてはならないと考える。
当弁護士会としては、今回の卑劣な犯行を強く非難するとともに、広範な市民とともに、より大きな民事介入暴力排除の運動を積極的に推し進めていく決意である。\n
2003年12月04日
自衛隊のイラク派遣に反対する会長声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)12月4日
11月29日、イラクでわが国の外交官2名の尊い命が奪われた。極めて遺憾な事態であり、当会は心から哀悼の意を表する。\n
3月20日の米英軍によるイラク侵攻後、5月1日の主要な戦闘の終結宣言を経てもなお米軍に対する攻撃や自爆テロが発生し、戦闘による米軍の死者は11月だけでも69人に及んでいる(29日現在)。米軍以外にも、イタリア軍が南部ナシーリヤで攻撃を受けたほか、国連現地事務所、赤十字国際委員会、スペイン情報機関員なども攻撃を受けて多数の死傷者を出した。国連、赤十\字国際委員会、スペイン等は関係者や外交官等をイラクから退去させ、トルコやインドは派兵を見合わせている。一方イラクの側もおびただしい数の兵士や市民が犠牲となり、英米の研究者・平和活動家の調査グループによれば民間人の死者は7000人にのぼるとされている。11月30日には米軍がサマラで大規模攻撃をしたことによって数十人の死傷者が出るなど、イラクはいまだ戦闘状態にあり、その全土が戦闘地域であるといわなければならない。\n この戦争に対し、3月17日国連事務総長は「国連決議なしの武力行使は国連憲章違反である」とコメントし、9月8日国際原子力機関(IAEA)は「イラクに核計画はなかった」との報告書をまとめた。米英軍のイラクに対する武力攻撃は国連憲章に違反するものであり、査察対象となった大量破壊兵器の存在は今もって確認されていない。
こうした状況下にあって、政府は、来週にもイラク特措法に基づき自衛隊のイラク派遣「基本計画」を閣議決定しようとしている。
しかし、イラク特措法は非戦闘地域において人道復興支援及び安全確保支援を実施するものであり、武力による威嚇または武力行使にあたるものであってはならないとされている。したがって、今なお戦闘状態が続いている中に自衛隊を派遣することは、論理上も無理があり、同法の基本原則にも反する。
加えて、イラクに派遣された自衛隊は、イラク国民に対する人道・復興支援とともに、米軍等の行う治安維持活動の支援として、米軍等のために医療、輸送、保管、通信、建設、修理若しくは整備、補給又は消毒などを実施するのであるから、現地においては米軍等の協力者とみられ、自衛隊員ばかりでなく広く外交官等も攻撃の対象とされかねない。その場合、攻撃を受けた自衛隊がこれに反撃して新たに戦闘行為に突入するという事態にもなりかねず、自ら携帯・装備する武器によって事実上の武力行使に突入する危険が大きいといわなければならない。
第二次世界大戦後、国際社会は戦争を違法とし、国連憲章が容認しない武力行使は承認しないという原則を確立した。この原則の侵害を許せば、むき出しの力によって支配される社会が出現し、世界中で暴力の応酬、憎悪の連鎖が生じるおそれがある。日本国憲法は、この国際社会の原則をふまえて、国際紛争の解決手段としての武力行使を放棄したのである。わが国によるイラク復興支援は、国連憲章の原則と憲法の平和原則に従ってなされなければならないが、自衛隊のイラク派遣はその原則に違反する疑いが極めて大きい。\n
当会は、自衛隊のイラク派遣に強く反対し、政府に対し「基本計画」を閣議決定しないよう求めるものである。
2003年12月22日
裁判員制度に関する声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)12月22日
裁判員制度は、国民の司法参加の理念の下に民主的裁判の実現を目指して導入されるものである。
よって、当会は、2004年通常国会に同制度にかかる法案が上程されるにあたり、以下のとおり要望する。
1 裁判官は1人または2人、裁判員の数は9人以上とするなどできるだけ多くして、国民が主体的・実質的に関与できる制度にすべきである。
2 裁判員にわかりやすい制度とすべきである。捜査機関の取調べで作成された供述調書の信用性等を判断しやすいよう、取調べ状況の可視化(録画・録音)の実現は不可欠である。
3 健全な批判がないところに健全な発展はない。裁判員が任務を終えた後は、職務上知り得た秘密および自己以外の発言者と発言内容が特定できる事項を除いては、その経験を自由に述べることを容認すべきである。これを制限したり、守秘義務違反であるとして刑罰を科したりすべきではない。
4 裁判員制度に関する取材及び報道内容の在り方については、報道機関による自主的・自律的な判断に委ねるべきであり、法律で規制すべきではない
2004年02月13日
教育基本法の『改正』に反対する会長声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成16年(2004年)2月13日
中央教育審議会は、2003年3月20日、文部科学大臣に対して、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」と題する答申を行った。同答申\は、「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から、今日極めて重要と考えられる教育の理念や原則を明確にするため、教育基本法を改正することが必要である」と結論づけ、教育基本法改正の具体的方向を示している。 政府は同答申を受け、教育基本法改正に向けた連立与党内協議を重ねており、今国会にも改正法案が提出される可能\性がなおある。
これに先立ち、2002年4月、福岡市の小学校6年生の通知表の評価項目に、「国を愛する心」の文言が掲げられた。当会は、愛国心という内心の問題を成績評価を通じて強制することは人権侵害のおそれが強いとして警告を発したが、2003年4月から使用される通知表にも、同趣旨の項目を入れようとする動きがあった。また、上記答申\が掲げた理念に対応して構成された「心のノート」が、全国1100万人の小中学生に配付され、既に「心の教育」が始まっている。
教育基本法は、国のための人材づくりという戦前の教育を反省し、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期する」ために制定された。同法は、憲法が保障する「教育への権利」を実現するための教育法規の根本法であり、準憲法的な性格を持つ法とされている。したがって、その改正を検討するにあたっては、憲法の理念や、子どもの権利条約などが示す国際準則を指標として、これを積極的に押し進める方向で検討されなければならない。
しかるに、上記答申及びこれに基づく法改正の方向は、国家に有為な人材作りを優先させるものであり、憲法が保障する「個人の尊重」に基づく「教育への権利」とは正反対の方向を志向しているといわざるをえない。また、公教育の場において「国を愛する心」を押し付けて個人の内面価値にまで立ち入る点は内心の自由を保障する憲法19条に、宗教的情操に関連する教育を「道徳を中心とする教育活動の中で」行うとしている点は国の宗教的活動を禁じた憲法20条に、それぞれ抵触するおそれがある。さらに、国・地方公共団体の責務について規定するにあたり、教育行政が「教育内容」にも積極的に介入することを認めることは、「教育内容に対する国家的介入はできるだけ抑制的であることが要請される」とした最高裁判決(旭川学力テスト判決・最判昭和51年5月21日)にも反するものである。
当会は、2003年9月13日、「教育基本法『改正』を問う」市民集会を主催し、講演とシンポジウムを通じて上記のような同答申の問題点があることを明らかにした。また、粕屋町議会をはじめ全国197自治体の議会において、「教育基本法改悪反対・慎重審議を求める決議」が採択されている(2003年10月3日現在)。
当会は、上記のような憲法・教育基本法の根本理念に反する中央教育審議会の答申に基づく教育基本法「改正」に反対する。\n
2004年02月24日
消費者保護基本法改正についての会長声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成16年(2004年)2月24日
1968年消費者保護基本法が制定されたが、その後、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の構造的格差が一層拡大し、消費者被害が増大した。本通常国会で、自民党の議員提案により、消費者保護基本法の大幅な改正案が上程される見込である。そこで当会は、自由民主党要綱案(以下「要綱案」という)がそのまま法案化される可能\性に鑑み、以下のとおり、意見を表明する。\n
1 消費者保護基本法には、消費者と事業者との間に経済力、交渉力等の構造的格差が厳然と存在することに鑑み、消費者政策の基本理念が、「消費者の権利擁護」であることを明確に定めるべきである。\nこれに対し要綱案は、消費者政策の理念として、「消費者の自立支援」を強調しているが、「消費者の権利」を二次的・補完的なものとして消費者保護政策の縮小・後退を容認するもので、強く反対する。
2 消費者には、公正な取引条件・取引方法の提供を受ける権利及び消費者団体を組織して行動する権利があることを明確にすべきである。
要綱案はこの点に触れていない。しかし、公正な取引条件と取引方法の提供がなければ消費者は適切な選択ができない。また、個々の消費者が自らの権利を行使したり、その意見を消費者政策に反映させることは極めて困難であるので、団体訴権を実現する上でも、消費者団体を組織し行動する権利をも明確にする必要がある。
3 消費者に「責務」を負わせることは消費者政策の理念に反するので、現行法どおり「消費者の役割」とすべきである。
これに対し、要綱案は、「国及び地方公共団体の責務」「事業者の責務」と並列的に、「消費者の責務」を規定するが、消費者に対し、事業者と対等な「責務」を負わせることは、消費者政策の基本理念であるべき消費者の権利擁護と明らかに矛盾する。要綱案は、行政及び事業者の法的責務を軽減し、消費者政策の後退を容認することになりかねないものであり強く反対する。
4 国及び都道府県の苦情処理・紛争解決機能の強化を積極的に位置づけるべきである。\n要綱案は、苦情処理体制として、市町村は苦情の処理のあっせん等に努めなければならないとした上、都道府県は、市町村(特別区を含む)との連携を図りつつ、主として、高度の専門性又は広域の見地への配慮を必要とする苦情の処理のあっせん等を行うものとしている。ところが、国については、直接、苦情処理のあっせん等をすることを予定していない。しかし、広域的な消費者被害への対応や事業者規制権限への連携を強化するためには、国及び都道府県の苦情処理の機能\を拡充することこそが必要である。
2004年04月05日
知的財産権訴訟の専属管轄制度に反対する会長声明
福岡県弁護士会 会長 松? 隆
平成16年(2004年)4月5日
平成16年4月1日、改正民事訴訟法が施行された。この改正法には、特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴えにつき、東日本の事件については東京地方裁判所を、西日本の事件については大阪地方裁判所を、それぞれ第一審の「専属」管轄とする旨の規定が盛り込まれている。この改正は、特許権等に関する訴えについて、原則として、東京および大阪以外の地方裁判所では裁判を受けられなくなることを意味するものである。
したがって、改正法の下においては、東京あるいは大阪以外の地域に在住し所在する市民や企業は、これらの訴えについては、自らが在住し所在する地域から離れた東京又は大阪の地方裁判所においてその対応を強いられる結果となる。その結果、これらの地域に在住し所在する市民や企業が法的救済を受けようとする場合には、東京や大阪に居住し所在する者に比して、より多くの費用と時間を要する事態となることは避けられず、これらの負担を慮って法的手段を選択することを躊躇ないし回避したりする事態や、さらには、さほど高額とは言えない事件が地方企業と首都圏企業との間で発生した場合には、地方企業が泣き寝入りしてしまうといった事態の発生すら懸念される。
また、特許権等に関する訴えが東京及び大阪以外の地方裁判所には係属しないことに伴い、これ以外の地域においては特許権等に精通した弁護士等の専門家が減少することが予想され、ひいては、東京および大阪以外の地域に在住し所在する市民や企業が、特許権等について気軽に相談できる体制が崩壊する事態ともなりかねない。\n このように、今回の上記改正は、東京・大阪以外の地域に在住し所在する市民や企業の権利を侵害するものであり、また、東京・大阪以外の地域における知的財産権の発展を阻害する恐れを含むものである。このことは、司法過疎を解消し、
全国どこでも法的救済が受けられるようにしようとする構想(司法ネット構\想等)や近年の司法改革の理念に反し、これらの流れに逆行するものであると言わざるを得ない。
もとより、特許権等に関する裁判の専門性や国際的戦略の観点から、これら裁判を東京あるいは大阪の裁判所で取り扱うことが相当である場合も存する。しかし、改正前の民事訴訟法の下においても、東京及び大阪の地方裁判所に全国の事件に関する選択的管轄権を認めており、東京あるいは大阪の裁判所で取り扱うことが相当であると思料される事件については,いずれの地域で発生した事件であってもこの両地裁で審理することが可能であったのである。したがって,改正前の制度を変更して,上記両地裁に「専属」管轄を認めるべき合理的理由は見当たらない。\n また、専属管轄の対象となる事件が,今後,商標・意匠・不正競争・コンピュータープログラム以外の著作権関係訴訟,さらにはその他の専門的訴訟にまで拡大していくことも危惧される。
よって,当福岡県弁護士会は,今回の民事訴訟法改正によって導入された専属管轄制度を廃止する法改正を,できる限り早期に実施することを求めるものである。
2004年04月20日
自衛隊のイラクからの即時撤退を求める会長声明
福岡県弁護士会 会長 松? 隆
平成16年(2004年)4月20日
当会は、2003年12月2日、常議員会決議に基づき会長声明で自衛隊のイラク派遣に強く反対する意見を表明した。\n (1)イラク特措法は、一連の有事立法とあいまって、イラクにおける自衛隊の武力行使に繋がるものであり、憲法に違反するおそれが極めて大きいものであること、(2)第二次世界大戦後、国際社会は戦争を違法とし、国連憲章が容認しない武力行使は承認しないという原則を確立した。この原則の侵害を許せば、むき出しの暴力によって支配される社会が出現し、世界中で暴\力の応酬、憎悪の連鎖が生じるおそれがある。日本国憲法は、この国際社会の原則をふまえて、国際紛争の解決手段としての武力行使を放棄したのである。わが国によるイラク復興支援は、国連憲章の原則と憲法の平和原則に従ってなされなければならないが、自衛隊のイラク派遣はその原則に違反する疑いが極めて大きいこと、(3)イラクは未だ戦争状態にあり、その全土が戦闘地域であること等を理由としたものであった。
いまや、暴力の応酬、憎悪の連鎖という危惧は正に現実のものとなっている。また、イラクはその全土が戦闘地域で、イラクに安全な非戦闘地域が存在しないことはいっそう明らかとなった。戦闘は激化し、米軍等の占領軍に限らず、一般の市民や子どもを含むイラク国民の死傷者が多数生じている。本年4月7日にはサマワの自衛隊駐屯地近くに迫撃砲弾が着弾し、4月17日にはサマワのオランダ軍とイラク人との間で銃撃戦も発生し、派遣された自衛隊が野外作業を中止して宿営地周辺にとどまらざるを得ない状況も生じている。民間の日本人5名が武装勢力に拘束されると言う許し難い事件が生じたが、日本人にとどまらず各国の民間人等が拘束される等の事態が続出している。状況の悪化により、自衛隊が、憲法違反の「武力による威嚇または武力行使」に至る危険性はますます高まっており、自衛隊の派遣は、「非戦闘地域における人道支援」というイラク特措法の要件を満たしていない。\n よって、当会はあらためて、日本国政府が「国連憲章の原則と憲法の平和原則」に従い、自衛隊のイラク派遣を即時中止し撤退させること、を強く求める。
2004年09月15日
「『弁護士報酬敗訴者負担』法案に反対する声明
福岡県弁護士会 会長 松? 隆
平成16年(2004年)9月15日
弁護士報酬敗訴者負担制度の導入を目的として、本年3月2日に「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」が国会に上程され、現在継続審議となっており、次期国会で審議される予定になっている。\n 当会は、弁護士報酬敗訴者負担制度の一般的導入は「市民が利用しやすい司法の実現」という司法制度改革の理念と憲法32条が保障する国民の裁判を受ける権利を損いかねないとして、それに強く反対して来た。
今回の法案は、司法制度改革推進本部の司法アクセス検討会がその一般的導入に対する国民の反対のなかで、2003年12月に至って、原則各自負担という従来の制度を維持しながらも、訴訟提起後に双方の当事者に訴訟代理人がついて敗訴者負担の合意の上、裁判所に共同の申立がなされた場合に限って弁護士報酬の一部を訴訟費用とするという、合意による敗訴者負担制度導入の意見をとりまとめ、法案化したものである。\n しかし、司法アクセス検討会では、裁判外の私的契約に敗訴者負担条項が入っている場合には、その条項に基づいて、今回の法案の内容とは別途に、勝訴者は敗訴者に弁護士報酬を請求できると議論されている。
このような状況の下で合意による敗訴者負担制度が導入されれば、消費者、労働者、中小零細業者など社会的経済的に弱い立場にある者は、私的契約や約款などに敗訴者負担条項が存在する場合、敗訴した時の費用負担を恐れて訴訟を提起することも受けて立つことも躊躇することになり、結果として市民の司法へのアクセスに重大な萎縮効果を及ぼすことになる。本法案は、社会的経済的弱者の裁判を受ける権利を侵害し、司法による人権救済の途を狭めるものである。
従って、当会は次の立法上の措置がなされない限り、本法案を廃案とするよう強く求める。
? 消費者契約、労働契約(労働協約、就業規則を含む)、一方が優越的地位にある当事者間の契約などに盛り込まれた敗訴者負担の定めは無効とすること。
? 消費者訴訟、労働訴訟、一方が優越的地位にある当事者間の訴訟などにおいては、訴訟上の合意による敗訴者負担制度を適用しないこと。
2004年09月16日
業務妨害に関する会長声明
福岡県弁護士会 会長 松? 隆
平成16年(2004年)9月16日
1 平成16年9月1日、当会会員たる弁護士のA法律事務所に対して「自分はテロリストである。今からそこを襲う。」旨の脅迫電話があり、ほぼ同じ頃に、近くの交番に「A法律事務所に爆弾を仕掛けた。1時間後に爆破する。」旨の爆破予告電話があった。このため、A法律事務所付近においては、警察官多数による不審物捜索が行われるとともに、A法律事務所の入居するビルの入居者全員が、当該ビルから一時的に退避せざるを得ない事態となった。幸いにして、爆発物などの不審物は発見されなかったが、A法律事務所および上記ビルの入居者においては、長時間にわたり通常の業務に携わることができない状態が継続して、多大の被害を蒙った。\n A法律事務所の当会会員弁護士は、この事件当時、複数のヤミ金業者を相手方とする事件を受任しており、当日も、ヤミ金業者に対して順次に電話交渉をしていたところ、前述の脅迫電話と爆破予約電話があったこと、また、A法律事務所を詐称して飲食店にかかってきた偽注文電話の声の様子などの諸事情からして、事件相手方であるヤミ金業者の一人が脅迫電話と爆破予\告電話をしたものと推測される。
2 また、同月14日には、上記とは別のB法律事務所の当会会員弁護士が、受任事件の処理のためにヤミ金業者と電話で交渉した直後に、消防署に「B法律事務所が火事だ。」との虚偽通報があり、さらに、ガス会社には「B法律事務所でガス爆発があった。」との虚偽通報があり、消防車やガス会社関係者がB法律事務所に出動する事態となった。
これらの虚偽通報は、そのタイミングやその他の事情からして、事件相手方であるヤミ金業者が関与したものではないかとの疑いがある。
3 以上のような脅迫電話や爆破予告電話および消防署等への虚偽通報は、その対象が弁護士であるか否かを問わず、多くの人々の生活に多大な支障を来す陰湿な行為であり、しかも、弁護士の業務遂行を妨げる悪質な行為であって、決して許されるものではなく、弁護士会としてこれを見逃すことはできない。\n 4 よって、当会は捜査当局に対して、上記の脅迫電話と爆破予告電話および虚偽通報をした者に対する厳正な捜査を求めるとともに、今後、類似の弁護士業務妨害事案が発生した場合には、当会としてこれに厳しく対処することをここに表\明するものである。
業務妨害に関する会長声明
福岡県弁護士会 会長 松? 隆
平成16年(2004年)9月16日
1 平成16年9月1日、当会会員たる弁護士のA法律事務所に対して「自分はテロリストである。今からそこを襲う。」旨の脅迫電話があり、ほぼ同じ頃に、近くの交番に「A法律事務所に爆弾を仕掛けた。1時間後に爆破する。」旨の爆破予告電話があった。このため、A法律事務所付近においては、警察官多数による不審物捜索が行われるとともに、A法律事務所の入居するビルの入居者全員が、当該ビルから一時的に退避せざるを得ない事態となった。幸いにして、爆発物などの不審物は発見されなかったが、A法律事務所および上記ビルの入居者においては、長時間にわたり通常の業務に携わることができない状態が継続して、多大の被害を蒙った。\n A法律事務所の当会会員弁護士は、この事件当時、複数のヤミ金業者を相手方とする事件を受任しており、当日も、ヤミ金業者に対して順次に電話交渉をしていたところ、前述の脅迫電話と爆破予約電話があったこと、また、A法律事務所を詐称して飲食店にかかってきた偽注文電話の声の様子などの諸事情からして、事件相手方であるヤミ金業者の一人が脅迫電話と爆破予\告電話をしたものと推測される。
2 また、同月14日には、上記とは別のB法律事務所の当会会員弁護士が、受任事件の処理のためにヤミ金業者と電話で交渉した直後に、消防署に「B法律事務所が火事だ。」との虚偽通報があり、さらに、ガス会社には「B法律事務所でガス爆発があった。」との虚偽通報があり、消防車やガス会社関係者がB法律事務所に出動する事態となった。
これらの虚偽通報は、そのタイミングやその他の事情からして、事件相手方であるヤミ金業者が関与したものではないかとの疑いがある。
3 以上のような脅迫電話や爆破予告電話および消防署等への虚偽通報は、その対象が弁護士であるか否かを問わず、多くの人々の生活に多大な支障を来す陰湿な行為であり、しかも、弁護士の業務遂行を妨げる悪質な行為であって、決して許されるものではなく、弁護士会としてこれを見逃すことはできない。\n 4 よって、当会は捜査当局に対して、上記の脅迫電話と爆破予告電話および虚偽通報をした者に対する厳正な捜査を求めるとともに、今後、類似の弁護士業務妨害事案が発生した場合には、当会としてこれに厳しく対処することをここに表\明するものである。
2004年12月08日
イラクへの自衛隊の派遣継続に反対する会長声明
福岡県弁護士会 会長 松? 隆
平成16年(2004年)12月8日
当会は、2003年12月2日、常議員会決議に基づき会長声明で自衛隊のイラク派遣に強く反対する意見を表明した。次いで、2004年4月20日に、同様に、自衛隊のイラクからの即時撤退を求める会長声明を発表\した。
当会が立て続けにかかる会長声明を発表したのは、(1)イラク特措法は、憲法に違反するおそれが極めて大きいものであること、(2)自衛隊のイラク派遣は、戦争を違法とし、国連憲章が容認しない武力行使は承認しないという国際社会が確立した原則に違反する疑いが極めて大きいこと、(3)イラクは未だ戦争状態にあり、その全土が戦闘地域であり、イラク特措法の要件すら満たしていないこと、(4)2004年4月20日時点において、米軍に限らず、市民や子どもを含むイラク国民の死傷者が多数生じたり、サマワの自衛隊駐屯地近くに迫撃砲弾が着弾したり、邦人を初めとする各国の民間人等が拘束されたりするなど、イラク全土が戦闘地域で、イラクに安全な非戦闘地域が存在しないことが明らかになったこと、等、看過しがたい憲法違反と人権侵害があると考えたからである。
しかるに、現在に至るまで、上記声明で指摘した問題点はまったく解決しておらず、むしろ悪化している。すなわち、11月7日にイラク暫定政府により全土に非常事態宣言が出され、イラク全土が戦闘状態となっていることが明らかになった。11月17日には「イラクの反米武装勢力の幹部が自衛隊を占領軍と規定し、日本も戦いの相手の一部となったと言明した」という趣旨の報道がなされ、自衛隊を「占領軍」と考える勢力が存在することもまた明らかになった。開戦以来のイラク人犠牲者は、女性や子どもを中心に10万人を超え、アメリカ兵の死者も優に1100名を超えた。加えて、本日までに、福岡県在住の香田証生さんをはじめとして5名もの日本人の尊い命が奪われている。
今日現在、イラク全土が戦闘地域であることは否定し得ない事実である。従って「非戦闘地域における人道支援」であることを要件とするイラク特措法による自衛隊のイラク派遣はその前提を欠き、明らかに違法である。自衛隊の宿営地内であるサマワの治安も非常に悪化しており、前記のとおり、自衛隊を「敵」と考える勢力も存在することを合わせ考えると、派遣された自衛隊員の生命・身体の安全も危険にさらされていると言わざるを得ない。
こういった状況の中、本年12月14日にはイラク特措法による自衛隊の派遣期限が切れるが、政府は今後も派遣を1年間は継続させる方針を表明しようとしている。しかし以上の事実に照らし合わせるならば、かかる方針は日本国憲法の平和原則及び国連憲章の原則に違反した行為であり、かつ、イラク特措法にも反しており、容認することはできない。\n そこで当会は、自衛隊のイラク派遣継続に強く反対し、自衛隊がイラクから速やかに撤退することを強く求める。
2005年06月23日
少年法等「改正」法案に反対する声明
平成17年(2005年)6月23日
福岡県弁護士会 会長 川副 正敏
少年法等改正法案が、平成17年3月1日の閣議決定を経て今国会に提出され、6月14日に衆議院での審議が始まった。
この改正法案は、
(1) 低年齢非行少年に対する厳罰化。
(2) 触法少年・ぐ犯少年に対する福祉的対応の後退、警察官による強制捜査権の付与。
(3) 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分の導入。
などの点において、極めて重要な内容を含むものである。
しかし、以下に述べるとおり、これらの施策には少年法の理念や保護観察制度の根幹に関わる重大な問題があり、当会は、4項で述べる国選付添人制度導入の点を除いて、本法案に強く反対するものである。
1 少年院送致年齢の下限(14歳)の撤廃
本法案は、昨今社会問題となっている低年齢少年による非行事件を契機として、少年に対する厳罰化を唱える一部の世論に押される形で、少年院送致年齢の下限を撤廃し、法的には幼稚園児であっても少年院に入院させることを可能としている。\n しかし、そもそも14歳未満の少年による事件の凶悪化ということは統計上認められず、この点を厳罰化の根拠とすることはできない。ちなみに、本法案の提案理由説明でも、「いわゆる触法少年による凶悪重大な事件も発生するなど」という記載にとどまっており、従前よりも凶悪化傾向が生じているという分析はなされてない。
また、低年齢の少年に対しては、ひとりひとりの心身の発達状況や家庭環境などに配慮したきめ細やかな指導を通じて、個々の少年の健全な成長発達を促すことが求められる。とりわけ、重大な事件を犯すに至った低年齢の少年ほど、被虐待体験を含む複雑な成育歴を有していることが少なくない。その意味で、低年齢の触法少年については、個別の福祉的、教育的対応を専門とする児童自立支援施設における処遇こそが適切であって、主として集団的矯正教育を行っている少年院での処遇にはなじまない。
現に、児童自立支援施設においては低年齢の少年に対する福祉的教育的指導を行うべく多大な努力が行われているのであって、ここになお一層の専門性強化とこれに要する人的物的資源の充実が求められるところである。しかるに、そのための施策は著しく貧弱なものにとどまっている。にもかかわらず、その抜本的な改善に着手することもないまま、単に14歳未満の少年の少年院送致を可能とすることをもって、低年齢少年の非行に対処しようとするのは、本末転倒といわざるを得ない。\n
2 触法少年・ぐ犯少年に対する福祉的対応の後退
本法案は、触法少年・ぐ犯少年に対する警察官の調査権限を定めるとともに、さらに触法少年に対しては一定の強制処分手続を行うことができるとしている。
そもそも、低年齢の少年やぐ犯少年に対する調査は、児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進めるべきである。児童の福祉や心理、発達段階に応じた表\現能力等についての専門性を有していない警察官に質問権限を認めることは、少年に対して真に求められる教育的・福祉的対応を後退させるばかりか、少年を萎縮させ、かえって真実発見に支障を来す結果をもたらす危険が大きい。\n
3 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分
本法案は、保護観察中に遵守事項に違反した場合に、少年院送致などの措置をとることができる制度を設けている。
しかし、現行法においても、保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度などが存在しており、それに加えて新たな制度を創設する必要性について現場の意見を徴するなどの検証は全くなされていない。
そもそも保護観察は、少年の自ら立ち直る力を育てるため、保護観察官と保護司が少年との信頼関係(そこでは、ときには遵守事項を破ってしまったことも素直に話せる関係が存在することが必要である)を前提にして、長期的な視点から、少年に対しねばり強く働きかける制度である。ところが、本法案は、「少年院送致」を威嚇の手段として遵守事項を守るよう少年に求めるものであり、保護観察制度の実質的な変容を図るものである。また、こうした制度を設けることは、一事不再理ないしは二重の危険の法理に実質的に反するばかりか、いたずらに厳罰化を図るものである。
現行の保護観察制度は相応に機能しているのであって、この制度のさらなる実効性を確保することこそが求められている。そのためには、何よりもまず保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった方策が実施されるべきであり、制度の本質を変容させてはならない。\n
4 全面的な国選付添人制度の実現を
本法案は、ごく限定的ではあるが、従前の検察官関与とは切り離して国選付添人制度を導入している。
これは当会が全国の弁護士会に先駆けて実践してきた身柄事件全件付添人活動がここ数年、全国に波及していく中で、これらの実績に基づいて有用性が証明され、国としてもその成果に配慮したことによるものである。その意味で、国選付添人制度の導入は、我々のこれまでの活動が実を結び、将来の全面的な国費による付添人制度への橋渡しになりうるものとして一定の評価をする。
しかし、その対象事件は極めて限られているなど、なお著しく不十分なものにとどまっている。\n 我々は、さらに、全面的な国選付添人制度の実現を強く求めるとともに、今後とも、少年付添人活動の一層の充実に努めていく決意である。
2005年07月13日
諫早湾干拓事業差止仮処分事件の許可抗告決定に関する会長声明
平成17年(2005年)7月13日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
当会は,諫早湾干拓事業の問題につき,有明海沿岸の属する4県のうちの1つの地元単位会として,日本弁護士連合会や九州弁護士会連合会が行う調査やシンポジウムにつき重要な役割を果たすとともに,福岡県有明海漁業協同組合連合会をはじめ,個別の漁業者や周辺業者に対して被害調査を行い,有明海の漁業者の全体が,今や廃業の危機に陥っていることを明らかにした。
しかしながら,去る5月16日,福岡高等裁判所は,事業と漁業被害との法的関連性を否定して,佐賀地方裁判所の仮処分決定を取り消し,工事差止めを求めた有明海沿岸の漁業者らの申立てを却下した。\n 日本弁護士連合会は,6月9日付けの会長声明において,この高裁決定が事業と漁業被害との法的因果関係の認定につき,自然科学的な証明まで要求する判断手法をとったことについて,遺憾の意を表明するとともに,国に対して中・長期開門調査の実施を要求した。\nこの決定につき,漁業者らが申し立てた許可抗告に対して,6月27日,福岡高裁は上記因果関係の論点について,これを許可する決定を行った。\n 当会がこれまで行った被害に関する調査からは,ノリ養殖の被害には地域差があること,ノリ養殖には漁業者の努力という要素が入るためノリの販売枚数だけでは被害の程度が推し測れないこと,大牟田地区の被害が深刻で共販組合を維持できなくなったことなどが明らかとなっている。これらの調査結果を踏まえると,福岡高裁が「昭和54年から平成16年までの有明海沿岸4県のノリ養殖の生産量の推移からは,現在のところ,ノリ養殖の生産量自体の減少を認めることはできない」としてノリ養殖の被害をノリ養殖の生産枚数だけの検討で否定した判断には強い違和感を覚えるものである。
そして,農林水産省有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会が提言し,さらに前記日弁連会長声明でも提言されている,中・長期開門調査は,漁業被害を改善するための方策を検討するうえで,現時点で採りうる唯一の手段であると考えられることから,国に対し,早急に中・長期開門調査を実施するよう求めるものである。
2005年08月31日
共謀罪の新設に反対する声明
2005(平成17)年8月31日
福岡県弁護士会会長 川 副 正 敏
「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するために刑法等の一部を改正する法律案」(略称「刑法・組織犯罪処罰法等改正案」。以下「本法案」という)は、先に閉会した第162回国会では廃案となったが、政府は次期国会での成立を期しているとのことである。
しかし、福岡県弁護士会は、以下の理由により、今後も、本法案第6条の2に規定されている、いわゆる共謀罪については、その立法化に対して、強く反対する。
1 本法案における共謀罪の概要は次のとおりである。
(1) 「長期4年以上の刑を定める犯罪」に関して、「団体の活動として」、「当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」は、2年以下の懲役又は禁固に処する。
(2) 「死刑又は無期もしくは10年以上の刑を定める犯罪」に関して、同様の遂行を共謀した者は、5年以下の懲役又は禁固に処する。
2 第一に、共謀罪は、犯罪の実行着手前の意思形成段階に過ぎない共謀それ自体を処罰の対象とするものであるが、この点は、法益侵害又はその危険性のある行為があって初めてこれを処罰するという、現行刑法の大原則である行為主義に真っ向から反している。
第二に、犯罪の合意そのものが処罰されることになり、ひいては思想、信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの憲法上の基本的人権が重大な脅威にさらされることは避けられないといわなければならない。すなわち、共謀罪では、会話や電話、メール等の内容自体が犯罪を構\成することになるため、その内容を察知するのに盗聴捜査が拡大され、犯罪捜査に名を借りた国家による私的生活への介入に途を開く危険性が極めて高く、その結果、思想、信条、表現の自由に対する萎縮効果が発生することは、歴史上も明らかである。\n3 また、共謀罪は、長期4年以上の刑を定める犯罪に関する共謀を処罰しようとするものであるが、その結果、共謀罪が適用される罪名に関しては、政府答弁によればその総数は615種類にのぼることが明らかになっており、道路交通法などといった市民生活の隅々に及ぶ法律に規定されたおびただしい数の行為類型に関する「共謀」が処罰対象にされることになる。
その結果、例えば、市民団体がマンションの建設に反対するために工事現場で座り込みをすることを相談しただけでも、組織的威力業務妨害罪の共謀罪が成立する可能性すら否定できないものであり、これを口実とした警察の強制捜査が行おこなわれ、住民運動や労働運動の抑圧になりかねないという事態も危惧されている。\n4 本法案に関する政府の提案理由によれば、本法案は、2000(平成12)年10月に採択された「国際的な組織犯罪防止に関する国際連合条約」(以下「国連条約」という)の国内法化を図るためのものであると説明されている。しかし、本法案の共謀罪は、「越境性」や「組織犯罪性」を要件としていない結果、いわゆる越境的組織犯罪集団とは関係のない、国内の政党、市民団体、労働組合、企業等もすべて取締りの対象にすることができるようになってしまっている点でも、明らかに不当であるといわざるを得ない。政府は、国連条約の解釈上、越境性や、組織犯罪性は要件とされるべきではないという立場にたつものであるが、そもそも、条約上は、国内法化にあたって、これらの限定を付することは、何ら妨げないものであって、むしろ、テロ犯罪防止のための立法化を進めるという観点からは、これらの限定を付することが正しいといわなければならない。
5 当会は、国際的な組織犯罪、いわゆるテロ犯罪に対して国際的な協力体制を整備することの必要性を否定するものではない。
しかし、その国内法制化に藉口して、広範な市民の人権侵害が引き起こされる可能性があり、捜査機関の権限の不当な強化が行われかねない立法を許すことは、本末転倒であって、到底、容認することはできない。\n よって、当会はその立法化に強く反対し、政府に対し、直ちにその立法化を最終的に断念するよう求めるものである。
以 上
2005年09月22日
北九州矯正センター構想に反対し、少年鑑別所の適地への移転を求める声明
2005(平成17)年9月22日
福岡県弁護士会 会 長 川 副 正 敏
当会は、2004(平成16)年5月26日開催の定期総会において、小倉刑務所跡地に医療刑務所・小倉少年鑑別所・福岡拘置所小倉支所の3施設を移転させるという「北九州矯正センター構想に反対し、少年鑑別所の適地への移転を求める決議」を採択し、対策本部を設置して、その実現のための活動を展開してきた。\n 他方、本年度の国の予算において、小倉少年鑑別所を小倉刑務所跡地に移転するための費用が計上され、法務省は同跡地の付近住民にこの移転計画の説明を行ったが、住民が強く反対したことから、当初の予\定は変更を余儀なくされたものの、法務省はあくまでもこれを実施するとの前提のもとに、当会を含め、引き続き関係各方面への働きかけを行っている状況にある。
確かに、現在の少年鑑別所施設が老朽化しているうえ、近隣高層住宅から俯瞰されるなど、少年の人権上も問題があることから、移転・建替の必要があること自体は理解できる。しかし、そのことのゆえに少年鑑別所を刑務所と同一敷地内等に移転させることは到底容認できないとの当会の立場に何ら変わりはない。その理由は以下のとおりである。
第1に、少年の健全な育成を理念とする少年法の趣旨からすれば、少年鑑別所は刑務所などの成人に関する施設とは隔絶して設置されるべきものである。
第2に、同じ少年に対する施設であっても、少年鑑別所は少年に対する処遇決定のためにその資質等を調査鑑別する施設であり、教育的な更生を目的とする少年院とも明らかにその性格を異にするものである。もとより刑に処せられた者を拘禁する施設である刑務所とは全く別個の目的を持つ施設である。したがって、これらの施設とは画然と区別すべきものである。
第3に、少年鑑別所を刑務所と同一敷地内に隣接設置させることは、少年鑑別所に収容される少年に多大な悪影響を与え、あるいはそのような偏見を助長する事態が生じる可能性が大きい。\nしたがって、法務省は少年鑑別所の小倉刑務所跡地への移転計画を撤回し、それ以外の適切な移転先を早急に確保すべきである。
当会としては、今後とも、小倉少年鑑別所の小倉刑務所跡地への移転に強く反対し、引き続き適地への移転を求める運動を行う決意である。
以 上
2005年09月28日
有明海における干拓事業漁業被害原因裁定申請事件の裁定に関する声明
2005(平成17)年9月28日
福岡県弁護士会会長 川 副 正 敏
諫早湾干拓事業による有明海の漁業被害問題につき、当会は本年7月13日、ノリ養殖の被害実態を生産量だけの検討で否定して原審仮処分決定を取り消した福岡高等裁判所決定を批判し、国に対して速やかに中・長期開門調査を実施するよう求める旨の声明を発表したところである。\n この問題に関して、福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県の有明海沿岸4県の漁民は2003年4月16日、福岡県有明海漁業協同組合連合会は同年5月30日、いずれも「有明海の異変による漁業被害の原因は諫早湾干拓事業にある」として、公害等調整委員会に被害原因の裁定申請を行った。これについて、同裁定委員会は本年8月30日、「有明海におけるノリ養殖、タイラギ漁等について、申\請人らの被害(不漁、不作)は部分的には認め得るものの、それらと諫早湾干拓事業との因果関係は、高度の蓋然性をもって認めるには足りない」として、諫早湾干拓事業と漁業被害との法的因果関係を認めず、これらの申請を棄却した(以下「本裁定」という)。\n 本裁定は、その理由中で、因果関係の判断基準に関し、「経験則に照らし全証拠を総合的に検討し、高度の蓋然性を証明すればよい」との一般論を示している。ところが、本件への具体的な適用では一転して、「成層度の強化等の環境変化の可能性は否めないものの、これを裏付ける客観的データがなく、赤潮の発生・増殖機構\等の科学的解明が十分に行われていないなど、本件の因果関係に関わる重要な論点について、客観的な証拠資料や科学的知見が乏しいという状況下で認定判断を行わざるを得ず、漁業被害と諫早湾干拓事業の因果関係を高度の蓋然性をもって肯定するに至らなかった」と結論付けている。\n しかし、干拓事業と漁業被害の法的因果関係の認定のあり方として、本裁定のように客観的なデータの蓄積や自然現象の発生機構の科学的解明を要求することは、言葉の上で「高度の蓋然性の証明」という表\現を用いながらも、実質的には、自然科学的因果関係の厳格な「証明」まで要求するのに等しいものであって、前段に述べている一般論とは明らかに齟齬している。これは、公害紛争の迅速・適正な解決を図る目的で設けられた専門的裁判外紛争処理機関としての公害等調整委員会のあるべき役割を自ら著しく減殺する態度と言わざるを得ない。
他方で、公害等調整委員会は本裁定を出すに際し、「事業が漁業環境に影響を及ぼした可能性を否定するものではない」、「今後、有明海を巡る環境問題について、国を始めとして、更なる調査・研究が進められて、的確な対策が実現され、かつてのような豊かな有明海の再生が図られることを念願するものである」との異例の委員長談話を発表\した。その趣旨からすれば、公害等調整委員会として、国に対し正面から「客観的証拠資料」の提示ないしそのために必要かつ十分な調査を求めてしかるべきであった。\nいずれにしても、かかる資料不足の原因が国による事前調査の不十分さにあることは、本裁定によって一層明白になったのであり、諫早湾干拓事業が有明海の漁業環境に影響を与えたかどうかについては、国において積極的に調査する責務があると言うべきである。\n 具体的には、周辺漁民らを代表する福岡・佐賀・熊本の三県漁連が要求し続け、当会もかねてより指摘してきたように、中・長期の開門調査以外にデータ集積のための適切な方法はない。\nよって、当会は、今回の公害等調整委員会の裁定に遺憾の意を表明するとともに、国に対し、原因探究のための中・長期開門調査を早急に実施するよう重ねて求めるものである。\n
以 上
2005年10月04日
取調べの録音・録画実現とその試験的な導入を求める声明
2005(平成17)年10月4日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
当会は、さる9月17日、福岡市において、一般市民の参加を得て「密室での取調べをあばく ― 取調べの録音・録画実現に向けて ―\」と題するシンポジウムを開催しました。そこでの内容は、国税還付金詐取事件で無罪判決を勝ち取った前杷木町長による警察や検察庁での自白強要のための取調べの実体験報告、取調べの可視化を試験的に開始している韓国の視察報告、取調べの可視化をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。
これらを通して、密室における取調べは、自白獲得のための長時間にわたる過酷な追及とそこでの暴行・脅迫・人格誹謗などといったさまざまな人権侵害の温床となり、虚偽の自白を生む危険性が極めて大きく、現にそのような実例が後を絶たないこと、諸外国では取調べの可視化が大きな流れとなって進められていることが改めて浮き彫りになりました。\n そして、これを踏まえて、シンポジウムの最後に、集会参加者一同で下記のとおりの提言を全員一致で採択しました。
よって、当会は、関係各機関が一刻も早く、取調べの全過程の録音・録画実施に向けて行動をとられるよう要望し、当面、その試験的な導入を求めるとともに、当会としてもその実現を図るため最大限の努力を尽くす所存です。
以上のとおり声明いたします。
〔提 言〕
弁護士会は、えん罪や不当な取調べによる人権侵害を防止するため、被疑者の取調べ過程の可視化(録音・録画)を強く求めてきました。
そして、今回のシンポジウムで?かかる弊害に対して取調べには人権侵害やえん罪を生み出すなどの様々な弊害があること、?かかる弊害に対して取調べの可視化が有効な対処法であること、?隣国韓国をはじめ諸外国では、被疑者取調べの可視化が広く実施されていること、が確認されました。
また、2009年5月までに導入される裁判員制度のもとでは、これまでの刑事裁判のように被告人の自白の任意性・信用性をめぐって証人尋問がくり返され長期化することは裁判員の負担を加重するばかりか、裁判員の判断を困難にし、裁判そのものの存続を危ぶまれるような事態が憂慮されます。
そのような事態を避けるためにも、取調べの全過程の可視化によって自白の任意性・信用性を判断できるようにしておかなければなりませんが、いますぐに取調べの可視化を試験的に導入しておかなければ4年足らずで始まる制度開始には間に合いません。
現在までに法務省や警察・検察の現場からは取調べの録音・録画が捜査過程に悪影響を及ぼすと、さまざまな理由を述べていますが、そのような反対論が果たして合理的といえるのかは想像の域をでていません。
すでに取調べの可視化について抽象的な功罪を論ずる段階は終わり、試験的に取調べの可視化を導入したうえで、弊害の有無を検証し、よりよい制度設計を目指すべき段階に至っています。
そこで、私たちは、
取調べのすべての過程を録音・録画する制度の実現に向けて、すみやかに試験的な録音録画を導入し、順次運用を開始することを提言いたします。
憲法改正国民投票法案に反対する会長声明
2005(平成17)年10月4日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
1 2005年9月22日、衆議院に憲法調査特別委員会を設置することが決議された。その設置趣旨は、憲法改正手続きについての国民投票法案を審議することにあるとされている。
与党自由民主党と公明党は、すでに2001年11月に発表された憲法調査推進議員連盟の日本国憲法改正国民投票法案に若干の修正を加えた法案骨子に合意しており、これをもとにした法案が提案されると考えられる。\n 憲法は国家体制の基本秩序を定める最高法規であると共に、国家権力から国民の権利・自由を保障することをその本質としている。同時に、憲法改正手続きは国民の主権行使の最も重要な場面である。従って、改正手続きにおいては十分な議論を保証しさらに国民の意思が適正に反映されなければならないことは言うまでもない。\n2 しかるに、法案骨子には以下の問題がある。
(1)第1に、憲法の複数の条項について改正案が発議される場合、各発議毎に投票方法を定めることとされており、各条項毎に投票する制度が保証されていない。仮に異なる条項について一括して賛否を投票する場合、一部賛成や一部反対の有権者は投票が困難となり、有権者の意思を正確に反映させることができない。従って、投票においては、改正点について個別に賛否の表明ができる方法にするよう、法で定めるべきである。\n(2)第2に、法案骨子は国民投票運動について、公務員・教育者の運動制限、外国人の運動の全面禁止、予想投票公表\禁止、メディアに対する報道制限など広範な禁止規定を定めこれを罰則によって担保している。
本来憲法改正にあたっては、できる限り有権者に情報が提供され活発な議論がなされるべきであり、そのためには表現の自由が最大限尊重されなければならない。従って、その規制には十\分な必要性と合理性が求められるべきであるが、上記規制は公選法の制限規定を無批判に取り入れたに等しい。当選人と職務の関係で利害関係が生じかねない選挙と憲法改正の是非を問う国民投票では全く異なる性格のものであることを考えると、公選法の規制が国民投票にも妥当するとはとうていいえないのである。
国民投票運動においては、公務員の政治活動の制限の適用除外等こそ検討され規制緩和をはかるべきであるにもかかわらず、定住者を含めた外国人の運動をすべて禁止するなど、公選法より厳しい規制も含まれており、重大な問題である。
(3)第3に投票の効果については、有効投票総数の二分の一を超える賛成があれば当該憲法改正について国民の承認があったものとするとされている。
しかし、無効票となったものは、少なくとも賛成票とは見なされなかったものであるし、憲法改正について何らかの意思を表示したものであるから、投票しなかったものと同様には考えられない。また、無効票が多い場合は少数の賛成で憲法改正が承認されたと見なされる可能\性もある。
国民投票は国の最高法規たる憲法を改正するか否かを問うものであるから、少なくとも有効投票総数ではなく、投票総数の過半数が賛成を投じたと判断されなければ国民の承認があったと見なされるべきではない。
また、投票率に関する規程がなく低い投票率で憲法改正が実現する可能性があることも問題である。\n(4)第4に、法案骨子では、発議から投票までの期間を30日から90日としているが、これは余りにも短く憲法改正を国民が議論する期間としては不十分と言わざるを得ない。憲法改正の発議について国会で議論される期間があるとしても、最終的な改正案は国会の議決によって確定するのであり、国民はこれについて十\分な議論を行う必要がある。議連案ではこの期間は60日から90日とされており、それでも短すぎるとの意見が出されていたところ、法案骨子ではさらに30日に短縮されており、十分な議論がないまま投票を余儀なくされる可能\性がある。
(5)第5に、国民投票無効訴訟について、投票結果の告示から30日以内に東京高等裁判所にのみ提起できるとすることも問題である。
憲法改正という重要な事項についての提訴期間としては短すぎるし、管轄を東京高裁に限るという点も、広く国民が司法審査を受ける権利を阻害するもので、慎重な検討を要する。
3 以上のとおり、与党の国民投票法案骨子には重大な問題を多く含んでいる。
そもそも憲法改正そのものについても、その最高法規制から憲法の基本原則について改正の対象になりうるかの議論すらあるところ、今回の法案骨子ではその点には全く触れない上、手続き上の規定に含まれる問題点は、国民投票により国民の真摯に国民の意思を問う姿勢で提案されているのか疑念を持たざるを得ないような内容である。
このような重大な欠陥を有する法案骨子をもとにした憲法改正国民投票法案の国会上程には強く反対するものである。
以上
2005年12月06日
イラクへの自衛隊の派遣継続に反対する会長声明
2005(平成17)年12月6日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
1 当会は、2003年12月2日、常議員会決議に基づき、会長声明で自衛隊のイラク派遣に強く反対する意見を表明し、その後、2004年4月20日に「イラクからの即時撤退を求める会長声明」、同年12月8日に「イラクへの自衛隊派遣継続に反対する会長声明」をそれぞれ発表した。
当会がかかる会長声明を発表した理由は、?イラク特措法は憲法に違反するおそれが極めて大きいものであること、?自衛隊のイラク派遣は、戦争を違法とし、国連憲章が容認しない武力行使は承認しないという国際社会の原則に違反する疑いが極めて大きいこと、?イラクはまだ戦争状態にあり、かつその全土が戦闘地域であることから、人道復興支援活動又は安全確保支援活動については、我が国領域及び現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行なわれることがないと認められる地域において実施するものとすると定めたイラク特措法第2条3項の要件を満たしてないこと、?これまで、米軍に限らず、市民や子どもを含むイラク国民の死傷者が多数生じたことのほか、サマワの自衛隊駐屯地近くに迫撃砲が着弾したり、邦人をはじめとする各国の民間人等が拘束される事件が続くなど、イラク全土が戦闘地域であって、イラクに安全な非戦闘地域が存在しないことが明らかになったことなど、憲法が掲げる平和主義および基本的人権の尊重という観点から、看過しがたい問題があるとの判断によるものであった。
2 しかるに、現在に至るまでイラク特措法の問題は何ら払拭されていないばかりか、イラク国内は不安定な情勢が今なお続いている。すなわち、米英軍による攻撃はいまだ継続し、爆弾テロにより多くの市民の犠牲者を出す事件や、要人等をねらった襲撃事件が後を絶たないという状況にある。また陸上自衛隊が駐屯するサマワにおいてもロケット弾や迫撃砲による攻撃があるなど、イラクはまだその全土が戦闘地域であると言わざるをえない。
他方、イラクに駐屯していた外国の軍隊は次第に撤退しつつあり、すでにオランダが4月に撤退した。また、ポーランド、ウクライナ、ブルガリアおよびイタリア等が撤退を表明したほか、陸上自衛隊が駐留する南部サモワ周辺の治安維持を担っていた英国軍とオーストラリア軍は来年撤収する方向で検討を行っている。さらに、イラク駐留軍隊を撤退すべきであるとの世論は、日本国内はもとより、アメリカ、イギリスを含めた世界各国で高まりつつある。
こうした状況において、自衛隊がイラクへの駐屯を続けた場合、自衛隊を敵視する勢力からの攻撃が強まる可能性があり、派遣された自衛隊員の生命・身体の安全はいっそう危険にさらされることになりかねない。
3 ところが、政府は、イラク南部のサマワで活動している陸上自衛隊については来年前半に撤収する方向で検討しつつも、本年12月14日の延長期間満了を前にして、国会で十分な議論も行わないまま、再度の自衛隊派遣延長を行おうとしている。また、政府は、仮に陸上自衛隊が撤退しても、クウェートからイラクへ米軍の物資を輸送する航空自衛隊の支援活動は続ける方針をとっている。
しかし、かかる方針は憲法の平和原則及び国連憲章の原則に違反し、かつイラク特措法第2条3項にも違反するなど、とうてい容認できるものではない。
そこで、当会は、自衛隊のイラク派遣継続に強く反対し、自衛隊がイラクから速やかに撤退することを強く求める。
2005年12月14日
福岡法務局大牟田出張所の統廃合に反対する声明
2005(平成17)年12月13日
福岡法務局 御中
福岡県弁護士会
会 長 川副正敏
同筑後部会
部会長 中野和信
1 声明の趣旨
福岡県弁護士会は、福岡法務局大牟田出張所を廃止して柳川支局に統合する方針案に反対し、今後とも大牟田市に存続されるよう求める。
2 声明の理由
平成17年10月17日、福岡法務局から突如として平成18年10月を目処に大牟田出張所を廃止し柳川支局へ統合する方針案が表明された。
その理由として、大牟田出張所の登記件数が法務局統廃合基準(1万5000件未満)を下回る1万3000件であること、近くに約30分程度で行くことができる法務局があること等が挙げられている。
しかし、我々弁護士会は、このような安易な理由で法務局の統廃合を議論するのは、地域社会における各種権利義務関係を明確にしてその社会経済的活動を支えている登記手続への支障をもたらすだけではなく、以下に述べるとおり、法務局が担う人権擁護機能や住民への司法サービスの観点を没却したものとして到底許されないと考える。
第1に、法務局は法務省管轄下において登記制度を担うほか、戸籍の整備や地域における国の人権擁護機関としての役割を持っている。
大牟田出張所の管轄人口は大牟田市、高田町を合わせると15,6万人を擁し、その管轄人口のきめ細かな人権擁護活動が今こそ求められている。
男女差別等各種の人権問題が未だ根強く残っているところ、かかる人権問題を行政として受け付ける国家機関は法務局しかない。そのような重要な 国家機関が地域から撤退することは地域での人権問題が放置されてしまうことになりかねず、到底容認できるものではない。
第2に、法務局は裁判所と連携した有機的一体として司法機能を果たしている。その一翼を担う法務局が欠けることは、他の機関の機能低下を招き、ひいては住民への司法サービスが低下することに繋がる。
例えば、保全処分は一刻を争うことが少なくないところ、供託を行う法務局が近くにあるからこそ迅速な保全手続が出来るのであり、大牟田のように裁判所支部の至近に法務局が無くなれば管轄区域内の保全手続に支障をきたすおそれがある。
また、後見登記制度でも登記アクセスが重要になっており、従来東京法務局に一元化されていた登記サービスのうち、後見登記証明書の取得については、平成17年1月から地方法務局でも行えるようになった。日弁連ではこれをさらに全国の支局・出張所にも広めるべく運動をしているところであるが、大牟田出張所の廃止はその途を塞ぐものである。これは、ひいては大牟田地域における後見制度の運用を担う家庭裁判所支部の機能低下を招くことにもなりかねない。
今回の法務局統廃合は政府が進める国家公務員削減計画に基づくものと思われるが、地方の住民サービス・住民の権利擁護に重大に関係する機関を削減することは、地方の切り捨てに繋がるものとして到底容認できない。
よって、社会正義の実現と人権擁護を担う弁護士会としては、今回の法務局統廃合案に対し、住民の司法アクセスの低下・権利擁護機能の低下を招くものとして強く反対し、その撤回を要求するものである。
2006年01月18日
弁護士に対する「疑わしい取引」の報告義務の立法化に反対する声明
2006(平成18)年1月18日
福岡県弁護士会 会 長 川 副 正 敏
政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は、2005(平成17)年11月17日、資金洗浄(マネー・ロンダリング)及びテロ資金対策の一環として、2006(平成18)年中にいわゆるゲートキーパー規制の法律案を作成して、2007(平成19)年の通常国会に提出することを決定した。
しかしながら、弁護士に対するゲートキーパー規制制度の本質は、下記のとおり、依頼者の秘密情報を密告する捜査機関の手先としての役割を弁護士に担わせるものにほかならない。それは、健全な弁護士制度とこれを不可欠とする司法制度への信頼を根底から覆すものであって、国民の基本的人権保障を著しく危うくし、民主主義社会の維持及び発展にとって、得ようとする成果に比して失うものが余りにも大きいというべきである。
当会としても、マネー・ロンダリング対策の重要性を一般的に否定するものではないが、今回の政府決定は到底容認できず、この問題についての国民の理解を得る努力を尽くしつつ、日弁連及び他の弁護士会とともに反対運動を展開していくことを表明する。
記
ゲートキーパー規制とは、犯罪収益やテロ資金の移動に利用されうる一定の取引の代理人や助言者として、これらに関与する弁護士や会計士等の専門家を取引のゲートキーパー(門番役)にし、マネー・ロンダリングやテロ資金の移動を見張らせ、政府の金融情報機関(略称「FIU」)に対してその疑いのある取引の報告をさせることにより、これらの犯罪行為を抑止しようとする制度である。これは、先進8カ国(G8)から委ねられた「金融活動作業部会」(OECD内に事務局を置く政府間組織。略称「FATF」)がOECD加盟国を中心とする31の国・地域等に対して行った勧告で、その実施を求めているものである。
政府は2004(平成16)年12月、このFATF勧告の完全実施を方針とする「テロの未然防止に関する行動計画」を策定したが、今回の決定はこれを具体化するものである。
しかし、弁護士に対して、刑事罰その他の制裁を背景として、依頼者の「疑わしい取引」に関する情報を政府当局に報告する義務を課すという制度は、守秘義務と公権力からの独立を不可欠とする弁護士職の本質とは到底相容れないものである。それゆえに、日本を含む関係各国の弁護士・弁護士会は一致してその導入に強く反対してきた。現に、FATFの有力な加盟国であるアメリカでは未だ立法化されておらず、その動きも見られない。また、カナダでは弁護士会が起こした違憲訴訟によって、マネー・ロンダリング法の弁護士への適用が見送られ、ベルギーやポーランドでも違憲訴訟が提起されている。
弁護士という職業の中核的価値は、単に法律に関する専門知識を有するというだけではなく、公権力から独立して依頼者の人権と法的利益を擁護することにある。その職責を全うするため、弁護士は、依頼者に対して、職務上知りえた依頼者の秘密を保持する義務があり、これは国家機関を含む第三者に対する関係では、重要な権利でもある。
弁護士に厳格な守秘義務があり、かつそれが法的に保障されているからこそ、依頼者は弁護士にすべての情報を包み隠さず開示することができる。そして、そのような依頼者の全面的な情報開示があってはじめて、弁護士は効果的にその任務を遂行することができるのであり、すべてを打ち明けてもらうことで依頼者に合法的な行動をするよう指導することができる。これを依頼者である市民の立場から見ると、秘密のうちに弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受ける権利を有しているということにほかならない。それは弁護士としての依頼人に対する重大な職責であって、このことは、1990年12月に行われた国連の第45回総会決議『弁護士の役割に関する基本原則』の中でも、「完全に秘密を保障された相談において、適切な方法で依頼人を援助し、彼と彼らの利益を守るための法的行為を行うこと」をもって、弁護人の依頼人に対する義務である旨を述べているところである(同原則8項、13項等)。
しかるに、弁護士に対する「疑わしい取引」の通報義務制度の下では、「疑わしい」という多分に主観的な要件に基づいて、弁護士は依頼者を裏切ってまでも密告せざるをえないことになる。そうなれば、依頼者は胸襟を開いて弁護士に相談することはできず、依頼者の弁護士に対する信頼を損ない、弁護士職の存立基盤を突き崩し、ひいては市民の弁護士へのアクセスを著しく阻害するという事態を引き起こす可能性が大きい。
その意味で、弁護士の守秘義務と公権力からの独立性保障は、弁護士自身の職業的利益というよりは、市民が弁護士から適切な法的助言ないし援助を得るのを確保するためのものであって、法の支配を実現するうえで必須の制度である。
また、FATF勧告は、「疑わしい取引」に関する情報が「弁護士の職業上の守秘義務又は法律専門家の秘匿特権に服する状況下において得られたものである場合」には、届出を行うことを義務づけられないとしている。しかし、その具体的な適用範囲を明確に画することは極めて困難であって、前記の「疑わしい」との要件該当性の判断と合わせて、まさに、「疑わしきは依頼者の不利益に」なるような密告を余儀なくされることになる。
加えて、今回の政府決定では、報告先としての金融情報機関(FIU)について、従来金融庁としていたものを警察庁に移管することとした。しかし、弁護士は刑事弁護活動等を通じて、捜査ないし治安・警備機関としての警察と時に厳しく対峙することをその職責上不可避としている。そのような弁護士をして、ほかならぬ警察に「疑わしい取引」の密告をさせるというのは、弁護士・弁護士会の存立基盤である公権力からの独立性を構造的に脆弱化して、国民の信頼を失わせ、弁護士制度の根幹を大きく揺るがすものである。
以 上
2006年03月10日
出資法の上限金利の引き下げ等を求める会長声明
声 明 の 趣 旨
当会は2007(平成19)年1月までに見直しが予定されている貸金業規制法及び出資法の上限金利のあり方について、以下の点を強く求めるとともに、当会として、今後とも多重債務問題の解決のために全力を傾けることを宣言する。
1.出資法の上限金利年29.2%を、少なくとも利息制限法所定の年15ないし20%の制限金利まで引き下げること。
2.貸金業規制法43条のみなし弁済規定を廃止すること
3.出資法の日賦貸金業、電話担保に認められている年54.75%の特例金利を廃止すること
声 明 の 理 由
2007(平成19)年1月を目処に行うとされている貸金業制度・出資の受け入れ・預り金及び金利等の取締に関する法律(以下「出資法」という)の上限金利の見直しのための法案が国会に上程される見通しとなっている。2003年(平成15)7月に成立したいわゆるヤミ金対策法(貸金業規制法と出資法の改正法)において2007(平成19)年1月までに貸金業制度及び出資法の上限金利の見直しを行うとの付帯決議がなされたことを背景としている。金融庁においては、昨2005年7月に貸金業制度等に関する懇談会が発足し、現在、金利の見直し等のための検討が行われているところである。
これに対し貸金業業界は現在、出資法の上限金利を2004(平成16)年6月改正前の40.004%に戻すこと、貸金業規制法43条のみなし弁済規定の要件緩和、同法17条書面、18条書面のIT化(電子メール等の電子的手段によっても交付を認めて、みなし弁済の適用を容易にしようとするもの)等を求めて、国会への要請に力を注ぎ、消費者金融サービス学会に研究費などを提供して上限金利の自由化ないし引き上げを狙っている。殊に、最高裁で平成16年2月20日、みなし弁済規定についての厳格解釈の判断が示された以降、貸金業界は立法によるみなし弁済規定の復活のため、自民党や民主党等の政党に対する働きかけを強めている。また、日本には、GE、CFJ等アメリカ資本の貸金業者も進出しているが、アメリカ政府の対日要求である規制改革要望書の中では、政府に対して貸金業についての書面要件をIT書面に代えることを要求している。
わが国の大多数の消費者金融は、利息制限法超過の金利で営業を行っているが、その借主は、消費者金融系の信用情報センターの登録件数から考えて全国で約2千万人にも達し、日本の就業人口の3~4人に1人が利用していることになる。ほとんどの借主が、消費者金融の貸付金利年25〜29.2%が暴利行為を規制する利息制限法に違反し、支払う必要のない金利であることを理解しないまま、借り入れし支払いを継続している。業界の発表でも、平均借入期間6.5年、利用者の3割が10年以上利用しているとされている。我々の経験的な理解によれば、利息制限法により再計算をすると6年程度でほとんど残債は残らず、さらに10年継続して利用した場合、ほとんどが過払いになっていると考えられるので、2千万人の3割600万人が支払い義務のない「貸付金」の返済を強要されていることになる。しかもその高利の返済のために、多くの多重債務者が生み出されており、その結果、極めて深刻な事態が発生している。
ここ3年、自己破産の申立件数は20万件を超え、過去5年で約100万人が自己破産の手続きを取っていて、さらに破産予備軍も200万人にも及ぶと言われている。多重債務を原因とした失業や家庭崩壊や失踪は後を絶たず、更には多重債務による経済苦、生活苦による自殺も多発し、2004(平成16)年には全国で約8千人にも達し、交通事故の死者を上回っている。また、一家無理心中や凶悪な犯罪等も発生している。その上、多重債務者の多くが家賃や固定資産税や国民健康保険料等を滞納しており、自治体財政にも悪影響を及ぼし、保険証がなく医療を受けられない状況や、ホームレスを生み出す等、法治国家である日本において不正義が蔓延している。これらの被害の救済と根絶のためには、現行の出資法・貸金業規制法の改正が不可欠である。
出資法の上限金利は現在年29.2%と定められている。これは超低金利政策が長期間継続されていることに照らすと極めて高い。したがって、これを少なくとも利息制限法所定の年15ないし20%の制限金利にまで引き下げることが必要である(利息制限法所定の利率の引き下げも検討が必要であろう)。
また多重債務問題の根元にあるのが、利息制限法と出資法のすき間(いわゆるグレーゾーン)を容認する貸金業規制法43条のみなし弁済規定であることは論を待たない。多くの者が支払う必要のない金利であることを理解しないまま、借り入れし支払いを継続して経済的破綻に追い込まれているのである。したがって、これを直ちに廃止することが必要である。
さらに、出資法で日賦貸金業・電話担保に認められている年54.75%の特例金利についても、かかる立法を基礎づける社会的事実(立法事実)が無いばかりか、この規定が多大なる社会的弊害を生み出していることに鑑みると、これを直ちに廃止することが不可欠である。
日弁連及び九州弁護士会連合会は、これまで何度も高金利被害を根絶するために、出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げること等を求めてきた。最高裁判所において、昨年7月には取引履歴の開示義務が肯定され、12月にはリボルビング方式のみなし弁済の適用が否定され、本年1月13日及び1月19日、期限の利益の喪失約款が利息制限法超過利息の支払を事実上強制しているとして、みなし弁済を否定する判決が下され、更には1月24日、九州で顕著な被害が出ている日賦貸金業者に対する特例金利の適用を事実上否定する判決が出されるなど、司法の分野においては、高金利を否定する判決が相次いで出されている。これを立法及び行政に活かすべきことは、法律制度の改善及び進歩を目的とする弁護士及び弁護士会の責務であると言わなければならない。
そのためには、人権の擁護と社会正義の実現を目的とする弁護士会が強力な運動によって出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げる運動を展開していく必要がある。現在の状況は、弁護士および弁護士会が国民運動を起こさない限り、金利規制の緩和の大きな流れを押しとどめることは不可能である。
よって、頭書のとおり声明する。
2006(平成18)年3月10日
福岡県弁護士会
会 長 川 副 正 敏
2006年04月10日
未決拘禁法案の廃案を求める会長声明
2006(平成18)年4月10日
福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫
本年3月13日,「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案」(いわゆる未決拘禁法案)が国会に提出された。
しかし,同法案には,代用監獄を存続させていること,未決拘禁者の処遇原則として「無罪推定を受ける者にふさわしい処遇」を規定していないこと,未決拘禁者と弁護人との接見や外部交通に不要な制限があること等,多くの問題がある。とりわけ,代用監獄を存続させながら,その廃止の方向性を明示していないことはきわめて重大な問題であると言わざるを得ない。
捜査と拘禁の分離は国際人権法の求めるところであり,勾留中の被疑者・被告人は,捜査機関とは分離された拘置所に拘禁されなければならない。ところが,我が国においては,拘置所の代用として警察の留置場への拘禁が長期間許されてきた。このため警察の留置場は代用監獄と呼ばれ,いまや勾留中の被疑者の98%が代用監獄に留置されている。
代用監獄には,警察の意に沿う被疑者には便宜を与え,否認している被疑者にはいつ食事にありつけるかわからない,いつ房に戻って眠れるか分からないと不安にさせる等,捜査当局が,劣悪な環境の下での身体的拘束・収容を自白強要の手段として利用する実態がある。代用監獄が虚偽自白と誤判を生み出す温床となっていることは,これまでの数多くの冤罪によっても明らかである。死刑再審無罪事件においても,すべて代用監獄において虚偽自白が強制的にとられたことが誤判の最大の原因となっている。本年3月31日に当会が主催した「代用監獄の廃止を求める市民集会」においても,無罪を主張していた被疑者が,代用監獄での長期間におよぶ拘禁期間中に,劣悪な環境の下で,連日10時間以上におよぶ取り調べを受け続け,捜査官より自白を強要された複数の事例が報告された。
このような弊害があるため,代用監獄は,国連の規約人権委員会が2度にわたり廃止に向けた勧告を行う等,国内外から厳しく批判されてきた。
しかるに,同法案は,警察内部での拘禁部門と捜査部門の分離を定めるだけにとどまり,代用監獄はそのまま存続させ,その廃止・漸減への道筋すら展望していない。警察内部において拘禁部門と捜査部門を分離しても,警察が被疑者の拘禁を執行,管理することに変わりはない。そのような方法で捜査のための拘禁の利用という代用監獄の弊害を解消することができないことは,警察庁が捜査部門と留置部門を分離したとする1980年代以降も,代用監獄での自白強要事例が後を絶たないことからして明らかである。
したがって,同法案が代用監獄をそのまま温存させ,その将来的な廃止すら展望していないことに対しては,厳しく批判せざるを得ない。
以上より,当会は,同法案には強く反対し,同法案についは廃案とした上で抜本的な見直しをするよう求めるものである。
2006年05月08日
共謀罪の新設に反対する会長声明
2006年(平成18年)5月8日
福岡県弁護士会 会 長 羽田野節夫
1 与党は、本年4月21日、「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するために刑法等の一部を改正する法律案」(略称「刑法・組織犯罪処罰法等改正案」。以下「本法案」という)の修正案を衆議院法務委員会に提出し、今国会での成立を期し、5月9日の強行採決をも辞さない姿勢を示している。
2 福岡県弁護士会は、昨年8月31日、会長声明を発表し、本法案第6条の2に規定されている共謀罪について、以下のとおり広範な市民の人権が侵害される危険性を指摘して、その立法化に強く反対してきた。すなわち、
第一に、犯罪の実行着手前の意思形成段階に過ぎない共謀それ自体を処罰の対象とすることは、現行刑法の大原則である行為主義に真っ向から反している。
第二に、犯罪の合意そのものを処罰することにより、ひいては思想、信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの憲法上の基本的人権が重大な脅威にさらされることは避けられない。
第三に、市民生活の隅々に及ぶ法律に規定されたおびただしい数の犯罪に関する「共謀」が処罰対象とされることになり市民生活は抑圧される。
第四に、「越境性」や「組織犯罪性」を要件としていない結果、いわゆる越境的組織犯罪集団とは関係のない団体もすべて取締りの対象にすることができる点で極めて危険であり、明らかに不当である。
3 このたびの与党の修正案は、?適用対象団体の活動を「その共同の目的が罪を実行することにある団体である場合に限る」とし、?共謀に加えて、「共謀に係る犯罪の実行に資する行為」を要求し、?思想良心の自由の侵害や団体の正当な活動の制限をしてはならないとの注意規定を設ける、というものである。
しかしながら、我々は、この修正案についても強く反対せざるを得ない。その理由は、
第一に、「団体」を国連条約が取締りを求める組織的犯罪集団に限定するものではない点でそもそも不当であるうえ、今回の修正案をもってしても犯罪を謀議したことを根拠に当該団体が「共同目的が罪を実行することにある」と認定される危険性は払拭されず、市民団体が際限なく適用対象となりうる点において、何らの限定にもなっていない。
第二に、「犯罪の実行に資する行為」という抽象的な概念を付加しても濫用の歯止めにはなり得ないのは明らかであり、行為主義を原則とする現行刑法体系に抵触する点で極めて不当である。
第三に、たとえ上記?の注意規定をもうけたとしても、そもそも構成要件自体が不明確なのであるから、抑止的効果は期待できない。
第四に、「共謀」の事実は関係者の供述のみで立証がなされうることから、ひとたび虚偽の供述がなされれば冤罪の発生を止めることは極めて困難で、こうした事態を我々弁護士は強く危惧せざるを得ない。
4 このように、共謀罪の新設は、人権侵害に至る危険性が極めて高く、捜査機関の権限が不当に強化されかねない点において、到底、容認することはできない。
よって、当会は再度その立法化に強く反対し、政府与党に対し、直ちにその立法化を断念するよう求める。
以上
2006年05月12日
少年法等「改正」法案に反対する会長声明
2006(平成18)5月11日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
少年法等「改正」法案が,本年2月24日に衆議院に再上程され,5月中旬から審議入りと伝えられている。当会は,昨年6月23日,会長声明を発表し,少年法「改正」法案に反対したところであるが,あらためて以下のとおり反対する。
この改正法案は,
(1)14歳未満の低年齢非行少年に対する厳罰化(少年院送致を可能に)。
(2)触法少年・ぐ犯少年に対する警察官の調査権限の付与(福祉的対応の後退)。
(3)保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する少年院収容処分の導入。
などの点において,下記1〜3項に詳論するとおり,少年法の福祉主義の理念を後退させ,保護観察制度の根幹を揺るがす極めて問題ある内容を含むものである。このため,当会は,下記4項で述べる国選付添人制度導入の点を除いて,本法案に強く反対するものである。
記
1 少年院送致年齢の下限(14歳)の撤廃
そもそも,本法案が想定するような,14歳未満の少年による事件の凶悪化は統計上認められず,この点を厳罰化の根拠とすることはできない。
そして,14歳未満の低年齢の少年が非行を起こす場合の多くは,心身の発達状況や家庭における生育歴などに問題を抱えている場合が多く,とりわけ,重大な事件を犯すに至った低年齢の少年ほど,被虐待体験を含む複雑な生育歴を有し,このため,人格形成が未熟で,規範を理解し受け容れる土壌が育っていないことが多い。その意味で,低年齢の触法少年に対しては,それぞれの少年が抱える問題に応じた個別の福祉的,教育的対応が不可欠であり,そのための専門の施設として児童自立支援施設における処遇が適切であって,これに対して,主として集団的で,かつ,「厳しい規律」を前提とした矯正教育を行っている少年院での処遇は適さない。
児童自立支援施設においては,低年齢の少年に対する福祉的教育的指導を行うべく多大な努力が行われ,かつ,一定の成果を修めているところであるが,仮に現状に問題があるとするなら,まずは,この児童自立支援施設の一層の専門性強化とこれに要する人的物的資源の充実が求められるところであって,性質の異なる少年院に,14歳未満の少年を収容可能とすることで,低年齢少年の非行に対処しようとするのは,本末転倒といわざるを得ない。
2 触法少年・ぐ犯少年に対する警察官の調査権限の付与
そもそも現行法上,触法少年の行為は犯罪ではない。触法少年の特徴は先に指摘したとおりであり,かつ,触法少年は表現能力も劣る。そうした少年に対する調査は,福祉的,教育的な観点から,児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進め,その実態に迫っていくとともに,適切なケアを図っていくべきである。こうした専門性を有しない警察官に調査権限を認めることは,教育的・福祉的対応を後退させるばかりか,少年を萎縮させ,かえって真実発見に支障を来す結果をもたらす危険が大きい。
また,ぐ犯は犯罪ではなく,一般にぐ犯に該当するか否かの判断は困難である。ところが,さらに本法案は,「ぐ犯である疑いのある者」まで調査対象とするが,そうなると,警察官の調査権限は際限なく広がり,少年に真に必要とされる教育的・福祉的対応が後退すると言わざるを得ない。
3 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する少年院収容処分
現行法においても,保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度が存在し,それで対応が十分可能であるし,むしろ,そうすべきである。
非行少年の更生は一朝一夕にはなしえない。少年を取り巻く環境が劇的に変化することも稀である。保護観察は,そうした状況を踏まえながら,少年の自ら立ち直る力を育て,更生させるため,保護観察官と保護司が少年との信頼関係に基づいて,長期的な視点から,少年に対しねばり強く働きかける制度である。そこでは,少年が不都合なことでも,また,ときに遵守事項を破った場合でも,そのことを素直に話せる関係が存在することが必要である。ところが,本法案は,「少年院送致」を威嚇の手段として遵守事項を守るよう少年に求めるものであり,そうした環境では,真実の信頼関係は育たず,かつ,保護観察制度の実質的な変容を迫るものである。
さらに,こうした制度を設けることは,一事不再理ないしは二重の危険の法理に実質的に反するばかりか,いたずらに厳罰化を図るものである。
現行の保護観察制度は相応に機能しているのであって,この制度のさらなる実効性を確保することこそが求められている。そのためには,何よりもまず保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった方策が実施されるべきであり,制度の本質を変容させてはならない。
4 全面的な国選付添人制度の実現を
本法案は,ごく限定的ではあるが,従前の検察官関与とは切り離して国選付添人制度を導入している。これは当会が全国の弁護士会に先駆けて実践してきた身柄事件全件付添人活動がここ数年,全国に波及していく中で,これらの実績に基づいて有用性が証明され,国としてもその成果に配慮したことによるものであると確信する。その意味で,国選付添人制度の導入は,我々のこれまでの活動が実を結び,将来の全面的な国費による付添人制度への橋渡しになりうるものとして一定の評価をする。
しかし,その対象事件は極めて限られ,かつ,少年が釈放された場合には国選付添人選任の効力が失われるなど,なお著しく不十分,不適切なものにとどまっている。
我々は,さらに,全面的な国選付添人制度の実現を強く求めるとともに,今後とも,少年付添人活動の一層の充実に努めていく決意である。
以 上
教育基本法改正法案を廃案とし,あらためて十分かつ慎重な調査と討議を求める会長声明
2006年(平成18年)5月11日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
政府は、4月28日、教育基本法改正法案を閣議決定して国会に提出した。
法案は、2003年6月に設置された「与党教育基本法改正に関する協議会」及びその下の「検討会」において、精力的な議論を重ねたうえで取りまとめられたものとされるが、この間、2004年6月に中間報告が公表されたことを除いては、全て非公開にて議論が進められており、国民に向けて開かれた議論が行われたとは言い難い。
日本弁護士連合会は、去る2月3日、準憲法的な性格を持ち国際条約との間の整合性をも確保する必要性が高い教育基本法については、衆参両院に、教育基本法について広範かつ総合的に調査研究討議を行なう機関としての「教育基本法調査会」を設置し、同調査会のもとで、その改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と討議がなされるよう求める提言を行っている。
また、当会は、2002年4月、福岡市の小学校6年生の通知表の評価項目に「国を愛する心」の文言を掲げ、愛国心という内心の問題を成績評価を通じて強制することは人権侵害のおそれが強いとして警告を発し、さらに、2003年9月13日、「教育基本法『改正』を問う」市民集会を主催し、講演とシンポジウムを通じて現行法の改正の要否を含めて法案には様々な問題点があることを明らかにしてきた。
そもそも、教育は、本来人間の内面的価値に関する文化的な営みであって、政治的な立場や利害から中立なものでなければならない。伝えられるとおり、政府・与党内での合意のみで作成された法案であれば、国会での質疑・討論は、時の政治的な立場によって左右され、中立性が損なわれることになりかねない。このような形の法改正は、教育の憲法ともいわれる教育基本法の改正の在り方としては不適切であり、百年の計といわれる教育を根本において誤まらせることになる。
このように準憲法的性格を有する教育基本法については、現行法の改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と討議を経ることが必要不可欠である。
以上の観点から、当会は、今回の教育基本法改正法案を廃案とした上,あらためて衆参両院に「教育基本法調査会」を設置して,改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と討議をするよう求めるものである。
以上
2006年06月29日
薬害肝炎被害の早期解決と肝炎の治療体制整備を求める会長声明
2006(平成18)年6月28日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
2006(平成18)年6月21日、全国5地裁(福岡、東京、名古屋、大阪、仙台)に係属している「薬害肝炎訴訟」の初めての判決が、大阪地方裁判所において下された。
この薬害肝炎訴訟は、血液製剤の投与によりC型肝炎ウイルスに感染させられた原告らが国と製薬企業を被告として、血液製剤を承認し、製造・販売したことが違法であるとしてその損害賠償を求めた訴訟である。
まず、判決は、血液製剤(フィブリノゲン製剤)の1987(昭和62)年の製造承認につき、「厚生大臣は、より一層の慎重な調査、検討をするどころか、非加熱製剤を加熱製剤に切り替えさせるという方針を立て、あらかじめ申請及び承認時期を定めた上で、極めて短期間に、いわば結論ありきの製造承認を行ったものであるから、安全確保に対する意識や配慮に著しく欠けていたといわなければならない」などと指摘して、原告5人の国に対する損害賠償請求を認容した。
次に、判決は、1985(昭和60)年、「製薬企業が、製剤の不活化処理について、ほとんど不活化効果がなかった方法に戻し、C型肝炎感染の危険性をより一層高めた」として、原告9人の製薬企業に対する損害賠償請求を認容した。
その上で、判決は、国及び製薬企業がフィブリノゲン製剤の危険性に関する情報を軽視した結果、原告らが「何らの落ち度がないにもかかわらず、C型肝炎ウイルスに感染し、その結果、深刻な被害を受けるに至った」ことを認めた。そして、高額な治療を受けることが容易でなく、社会の理解がいまだ不十分であるため、肝炎患者が、社会において多大な苦しみを被っていることをも指摘している。
以上から、当会は、国と製薬企業が法的責任に基づき薬害の被害者である原告らを直ちに救済するとともに、全国で350万人ともいわれるウイルス性肝炎患者の被害回復のために、肝炎患者らの訴えに真摯に耳を傾けた上で、治療体制の確立・新薬の開発等の恒久対策を一刻も早く実現するよう求めるものである。
2006年07月13日
死刑執行の停止を求める会長声明
2006(平成18)年7月12日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
1 わが国での死刑執行は、1989年11月から1993年3月までの3年以上にわたって執行が控えられていた。
ところが、その後死刑執行が再開され、2005年9月16日までに19回にわたり執行され、その被執行者数の累計は47名に及んでいる。
しかし、国際的には、1989年に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年7月に発効しており、2006年6月7日現在、死刑存置国71カ国に対して死刑廃止国125カ国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)と、死刑廃止が国際的な潮流となっている。その中で、1998年11月5日、日本政府の第4回定期報告書を審査した国連規約人権委員会は、その最終見解において、わが国の死刑制度に関して1993年11月4日に同委員会が表明した懸念事項が実施されていないことにつき重大な懸念を抱いていることを示し、改めて死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
国内的には、1993年9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見にて、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるとの指摘がありながらも、十分な議論が尽くされないまま死刑執行が繰り返されてきた。
2 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえ、とりわけ、現に死刑確定者が収容されている死刑執行施設を備えた福岡拘置所がある当地において、当会は、これまでに、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件を受理し、同事件処理をとおして、死刑制度の存廃を含めた問題に取り組む必要性を痛感し、より積極的な取組みをするべきであると考えてきた。
ゆえに、当会は、これまで、数回にわたり、当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであるとの要望を重ねてきた。
また、当会は、2004年10月7日の日弁連人権大会に向けたプレシンポを九州弁護士会連合会と共に「アジアにおける死刑―死刑廃止の胎動」と題して9月4日に開催し、隣国の韓国及び台湾(中華民国)が死刑廃止立法に向けた確かな歩みをしている事例を紹介し、日本においても死刑廃止を含めた死刑制度の国民的議論の必要性を喚起した。
3 しかしながら、死刑制度存廃につき国民的議論が尽くされないまま、死刑の執行が繰り返されてきた。しかも、これまで国会閉会直後や国政選挙直前あるいは年末など、国会による議論を避け、国民の関心が他に向けられやすい日程で死刑の執行が行われている。
このような状況に照らせば、83名の死刑確定者(2006年6月6日現在)に対し、今後、近いうちに死刑の執行が行われる可能性がある。
そこで、当会は、法務大臣に対して、今後、死刑の執行を停止するよう強く要請する。
北九州矯正センター構想に反対する声明
2006(平成18)年7月12日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
同北九州部会 部会長 横光幸雄
1,当会は、平成7年2月に小倉刑務所敷地に医療刑務所・小倉少年鑑別所(現福岡少年鑑別所小倉支所)・福岡拘置所小倉支所の3施設を移転させるという「北九州矯正センター構想」(以下、「本構想」という)が発表されて以来、一貫して本構想に反対し、対策本部を設置して、様々な活動を展開してきた。その結果、本構想は長期にわたり凍結されたままの状態となっていたところである。
2,ところが、平成16年度に小倉少年鑑別所を小倉刑務所跡地に移転する計画が突然予算化された。そこで、当会は、本構想に反対することとあわせ、当面の問題として少年鑑別所を刑務所と隣接敷地に設置することにより、少年鑑別所に収容される少年に多大な悪影響を及ぼし、少年の健全な育成が阻害されること、少年鑑別所が刑務所と類似した矯正施設であるかのような誤解や偏見を世間に与える事態が生じることなどを理由に、小倉少年鑑別所を小倉刑務所跡地に移転させる構想に断固として反対してきたところである。
3,その後、法務省は、地域住民の反対もあって、一旦着工を延期したものの、地域住民から提出された道路整備等を内容とする要望書の一部を受け入れる形で地域住民の自治会組織である小倉南区自治総連合会の同意を取り付け、平成18年6月7日に小倉少年鑑別所新築工事の入札を実施し、平成19年3月までに完成させる予定で工事を着工しようとしている。
4,しかしながら、法務省は矯正施設である刑務所、鑑別施設である少年鑑別所、無罪の推定の働く未決者の拘置施設である拘置所を併設することの問題点について、抜本的な解決を図る姿勢が全くない。のみならず、地域住民に対して、本構想の全容、特に将来的には本構想に基づき福岡拘置所小倉支所の小倉刑務所跡地への移転計画が存在することについて十分な説明を行っておらず、地域住民の鑑別所移転についての合意形成手続についても重大な疑問があるといわざるを得ない。
5,そこで、当会としては、このような経過を踏まえて、改めて、本構想の撤回及び少年の健全な育成を理念とする少年法の趣旨に反する小倉少年鑑別所の小倉刑務所跡地への移転に断固として反対するものである。
さらに、当会としては、本構想に基づき近い将来予想される福岡拘置所小倉支所の小倉刑務所跡地への移転にも強く反対し、引き続き本構想の全面的な撤回を求めるものである。
以 上
2006年09月01日
例外なき金利規制を政府に強く求める会長声明
平成18年9月1日
福岡県弁護士会 会長 羽 田 野 節 夫
多様な現在の貧困の原因のうち,高金利が貧困問題の重大な原因であることがかねてから指摘されていた。すなわち,1962年に米国で発表された消費者利益保護に関するケネディ教書において,「消費者の所得を増加させようと努力するよりも,同じ努力をするのならば,消費者の所得をできるかぎり有効に使う努力の方が,多くの家庭の福祉の増進に大きく寄与することができる」とされているとおり,消費者の利益を保護するためには,家計にとって完全な冗費である高金利の支払いを許容し続けるべきではない。ところが,我が国は,未だ高金利を認めているために,2000万人にも及ぶサラ金・クレジット利用者の日々の生活・生存が危機に直面し、経済苦を理由とする自殺者が年間8000人とも言われる事態にあること,国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障すべき生活保護行政においても,高金利を原因とする多重債務問題が大きな問題を投げかけていることを認識できる。
政府与党は、平成18年7月6日、「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」をまとめたが、その内容は、少額短期の貸付や事業者に対する貸付につき特例金利を認める余地を残しているなど、未だ極めて不十分な内容であると言わざるを得ない。
その後金融庁は、貸付金利の上限を引き下げるのに併せ、少額短期の貸し付けについては、上限金利の上乗せを認める方向で検討に入ったと報道されている。当会は、断固としてこれに反対し、改めて社会的・経済的弱者の生存権の保障・救済という観点に立ち、以下の内容を含む例外なき金利規制を政府に強く求めるとともに、今後、多重債務問題に苦しむ市民を行政・司法といった枠にとらわれず,できるだけ広く救済していくために最大限の努力を尽くすことを誓い、ここに声明する。
1.出資法の上限金利年29.2%を、利息制限法で定める年15%から20%の制限金利まで引き下げること。
2.貸金業の規制等に関する法律第43条(みなし弁済)を撤廃すること。
3.「日賦貸金業者及び電話担保金融に対する特例金利」を直ちに廃止すること。
4.少額短期の貸付や事業者に対する貸付も含め全ての貸付について特例金利を認めないこと。
5.保証料・振込手数料については、利息概念に含めること。
2006年09月14日
「政治家の思想・言論の自由を封殺する一切のテロ行為を断固として許さない」会長声明
2006年(平成18)年9月13日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
1、本年8月15日早朝、小泉首相は、国の内外から反対の声が強かった靖国神社への参拝を全国民注視の中で、実行した。
自民党の元幹事長で山形県選出の衆議院議員加藤紘一氏は、かねてより小泉首相の靖国神社への参拝を批判し、終戦記念日の参拝に反対し、当日の小泉首相の行動に対し、マスコミを通じ批判していた。
加藤紘一議員が自己の信念に基づき小泉首相の言動を批判するのは、思想、言論の自由が保障されている現代社会において、政治家として当然のことである。
2、然るに、本年8月15日夕刻、山形県鶴岡市に所在する、加藤紘一議員の実家と事務所が放火により全焼するという事件が発生した。新聞報道によれば、この放火事件は、小泉首相の靖国神社参拝についての加藤紘一議員の批判発言に対して、放火という暴力行為によって抗議しようとした、右翼団体に所属する男性の「政治的テロ行為」であることが明らかになった。
このような政治家の身辺に対するテロ、暴力行為は、それによって、他の政治家や他の諸団体、更には、国民の言論の自由や、政治活動の自由をも牽制し、健全な批判精神は元より、自由な意見発表などの言論活動を萎縮させる効果をもたらし、ひいては、マスコミの報道の自由に対してさえも著しく悪影響を与えるおそれがある。
3、とくに、今や、自民党の総裁が交代し、新政権の発足が予定され、憲法改正が具体的政治日程にのぼっている頃である。
当然ながら、憲法改正問題は、民主主義国家としての我が国最大の政治課題である。
今後、憲法改正の是非が国民の間で自由に、徹底的に論議されなければならない。
このような時にこそ、政治家に対してはもちろん、国民も、マスコミも、等しく、思想、言論、表現、報道の各自由が保障されるべきことは言うまでもない。自由で徹底的な議論や論争によってしか、真に国民の自由と権利を守る憲法は誕生しえないからである。
4、今回のような、政治家の言論をテロ、暴力によって封殺するような行為を断固として許してはならない。
福岡県弁護士会会員一同は、我が国の民主主義を守るためには、憲法で保障された思想、言論の自由、そして、政治活動の自由を絶対に保障すべきものと考える。
今後、再び、思想、言論の自由を封殺する一切のテロ行為を断固として許さない意思を内外に明らかにし、この声明によって、思想、言論の自由、及び政治活動の自由の大切さを強く表明するものである。
以上
いかなる特例も認めない上限金利の引下げと利息制限法の厳守を求める緊急会長声明
2006年(平成18年)9月13日
福岡県弁護士会会長 羽田野 節夫
本年7月6日の自民党と公明党の「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」により、出資法の上限金利の見直し等を検討していた金融庁及び法務省は,9月5日,その内容を明らかにした。これによると、現行グレーゾーン金利を4年間存続させるとともに、その後、「少額短期特例」,「事業者向け特例」として,いずれも年利28%の新グレーゾーン金利を認め,しかも、現行の利息制限法の金額区分を変更して、元本10万円の定めを50万円に、元本100万円の定めを500万円に変更するというものである。これによると、元本10万円以上50万円未満のものについては、従来の18%から20%に、元本100万円以上500万円未満のものについては、従来の15%から18%に引き上げとなる利息制限法の大改悪である。
しかし、今回の法改正の目的は、最高裁判所が貸金業規制法43条(グレーゾーン金利)の適用を否定して利息制限法による債務者救済を図る判決を相次いで示したことを踏まえ、金融庁の「貸金業制度に関する有識者懇談会」や7月6日の自民党と公明党による前述の「基本的考え方」が、深刻な多重債務問題を解決するために、出資法の上限金利を利息制限法の水準まで引き下げるという基本方針にもとづき行われているものである。
ところが、この度、金融庁及び法務省が明らかにした前記内容は、「特例」という形で利息制限法による金利の一本化までに最長で9年間程度を要する上、特例の高金利の恒久化すら懸念され、しかも利息制限法の改悪を行おうとしているものである。これは、深刻な多重債務問題を解決するため、312万人を超える高金利引下げを求める署名や、39都道府県、880を超える市町村議会(福岡県においては、県議会をはじめ54議会)の意見書に現れた、多重債務問題の早期かつ抜本的な改革を強く望む国民の声に逆行するものである。
よって当会は、重ねて政府及び国会に対し、直ちにグレーゾーン金利を廃止し、出資法第5条第2項の上限金利を利息制限法第1条の制限金利まで引き下げ、少額短期特例や事業者特例を設けず、また利息制限法のいかなる改悪も行わないよう改めて強く求めるものである。
以 上
2006年11月16日
NHKに対する国際放送命令に反対する会長声明
2006年(平成18年)11月15日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
菅義偉総務大臣は,今月10日,日本放送協会(以下「NHK」という。)に対して,放送法33条に基づいて,短波ラジオ国際放送で,北朝鮮による拉致問題を重点的に取り扱うことを命じた。
従前,NHKに対して放送事項等を指定して国際放送を命じることができる旨の放送法33条の規定に基づき,総務大臣によって,「時事」,「国の重要な施策」及び「国際問題に関する政府の見解」という3点の抽象的な事項を対象とした放送命令がなされてきた例があるが,この度の放送命令は,上記のとおり個別具体的な施策を特定して放送を命じたものである。
そもそも,放送命令制度は,国による放送に対する直接の介入という性格を有するものであるから,この制度自体が,NHKの放送の自由(同法1条),番組編集の自由(同法3条)などの基本原則を侵害し,ひいては憲法が保障する表現・報道の自由(21条)の根本原則をも侵害する問題性を孕むものであるところ,この度の個別具体的事項を特定した放送命令は,この問題性を顕在化させたものであり,その違憲性は看過できない。
そして,今回の事態は,国によるメディアへの介入という側面を持つものであることから,決してNHKだけの問題として矮小化することはできない。
よって当会は関係各機関に対して,以下の事項を求める。
1 総務大臣は,今回の放送命令を撤回すること。
2 政府及び国会は,放送法33条を,憲法が保障する表現・報道の自由を侵害しないように改正する検討を開始すること。
教育基本法改正に反対する会長声明
2006年11月15日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
1 教育基本法の改正法案が臨時国会で審議されており,政府は改正案成立を強く企図していると伝えられている。
同法は,日本国憲法と同時期に憲法の理念を実現し,教育の中立性を守るために制定されたものであって,名宛人を国家又は公権力とする点で準憲法的な性格を有し,国際条約との間の整合性を確保する必要性も高い。従って,その改正の要否を含め,慎重な調査と広く国民の議論を経たうえで審議を行うべきである。しかし,これまで国民に向けて開かれた議論が行われたとはいいがたい。
例えば,先般,教育改革タウンミーティングにおいて,政府が同法改正への賛成発言を出席者に依頼していたことが発覚した。これは政府みずからが,教育基本法改正について国民に向けて開かれた議論の場を設けてこなかった証左というほかない。
2 もとより,現在多発するいじめや少年の自殺,不登校など現在の教育が抱える深刻な問題を改善するために現行法が支障となるのであれば,早急な見直しが必要であろう。しかし,政府の国会答弁でも,これらの問題点が現行法に起因するものでないことは,明確に述べられているところである。
そして,当会は,これまでも市民集会やシンポジウムを開催し,さらに,11月10日には150名を越える参加者による市民集会を開催するなど,広く市民に呼びかけて教育基本法改正を議論する場を設けてきた。そうした中で,戦前の教育への国家介入がもたらした惨禍を防ぐために,個人の尊厳を重んじ,真理と平和を愛する人間の育成を根本原則と定めた現行教育基本法が果たして来た役割を再認識し,同法の理念を今後も堅持することを,多くの市民が望んでいることも判明しているところである。
3 さらに,政府の改正案においては,公権力の教育への不介入を定めた現行法10条の改正によって,政党政治の下で多数決によってなされる意思決定に基づく教育が正当化され,教育の自主性・自律性が損なわれかねない。しかも,改正案2条に教育の目標として「徳目」を掲げることにより,子ども達に一方的な価値感が植え付けられ,憲法で保障された思想良心の自由がないがしろにされる恐れもある。
そもそも,「新しい時代に即した教育理念を教育基本法に盛り込まなければならない」との政府の改正目的については,必ずしも国民全体が納得して共有しているとはいえないばかりか,仮にこうした理念を教育基本法に盛り込むのであれば,いっそうの開かれた国民的議論が不可欠である。
4 このように,将来の教育のあり方を定める根本原則を改正するにあたり,未だ十分な調査や議論がなされたとは言い得ない状況にあり,かつ政府の改正案は教育の中立性を損なう重大な問題があると言わざるを得ない。
そこで,当会は,改めて,衆参両院に「教育基本法調査会」を設置し,教育基本法改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と議論を行うことを求めるとともに,政府案に基づく教育基本法の改正には,強く反対の意思を表明するものである。
以 上
2006年12月27日
死刑執行に関する会長声明
1 本年12月25日、東京拘置所において2名、大阪拘置所及び広島拘置所においてそれぞれ1名の合計4名に対し死刑が執行された。
日本弁護士連合会は、2002年11月理事会で採択した「死刑制度問題に関する提言」及び2004年10月の人権擁護大会決議に基づき、本年6月15日、杉浦法務大臣あてに死刑執行停止に関する要請をし、これに呼応して当会においても、本年7月12日に死刑執行の停止を求める会長声明を発した。さらに、臨時国会が閉会し、これまでの経験上、死刑執行の可能性が高まるとして、本年12月13日に日弁連が死刑執行の停止について長勢甚遠法務大臣に対する要請をした。ところが,今回の死刑執行は、これらの要請を無視してなされたものである。
2 わが国での死刑執行は、1989年11月から1993年3月まで3年以上にわたって控えられていた。
ところが、その後死刑執行が再開され、今回の執行を含め13年9ヶ月の間に、その被執行者数の累計は51名にも及ぶ。
しかし、わが国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。
そもそも、国際的には、1989年に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年7月に発効しており、2006年11月21日現在、死刑存置国68カ国に対して死刑廃止国は129カ国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)に及び、死刑廃止が国際的な潮流となっている。その中で、1993年11月4日及び1998年11月5日の2回にわたり、国連規約人権委員会は、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
国内的にも、1993年9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見にて、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされているにもかかわらず、その後十分な議論が尽くされないまま死刑執行が繰り返されてきた。
3 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえ、とりわけ、現に死刑確定者が収容されている死刑執行施設を備えた福岡拘置所がある当地において、当会は、これまでに、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件を受理し、同事件処理をとおして、死刑制度の存廃を含めた問題に取り組む必要性を痛感し、より積極的な取組みをするべきであると考えてきた。
ゆえに、当会は、これまで、数回にわたり、当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望を重ねてきた。
また、当会は、九州弁護士会連合会と共に、2004年9月4日、「アジアにおける死刑―死刑廃止の胎動」と題して日弁連人権擁護大会に向けたプレシンポジウムを開催し、隣国の韓国及び台湾(中華民国)が死刑廃止立法に向けた確かな歩みをしている事例を紹介し、日本においても死刑廃止を含めた死刑制度の国民的議論の必要性を喚起した。
4 しかしながら、死刑制度存廃につき国民的議論が尽くされないまま、死刑の執行が繰り返されてきたのはまことに遺憾である。しかも、今回の執行は、これまで国会閉会直後や国政選挙直前あるいは年末など、国会による議論を避け、国民の関心が他に向けられやすい日程で死刑の執行が行われているとの批判を一顧だにしないものであり,その点でも大きな問題があるのといわなければならない。
そこで、当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。
以上
2006年12月27日
福 岡 県 弁 護 士 会
会長 羽 田 野 節 夫
2007年02月23日
鹿児島選挙違反事件判決についての会長声明
2007年(平成19年)2月23日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
本日、鹿児島地方裁判所は、2003年(平成15年)4月に施行された鹿児島県議会議員選挙に関して公職選挙法違反で起訴されていた12名の被告人全員について無罪判決を言渡した。
本件は、任意で取調べ中の被疑者に対し、家族の名前と家族が被疑者を諭すような内容の紙を取調官が作成して、被疑者に強制的に踏ませるという「踏み字」を強制したり、任意での取調べであるにもかかわらず、被告人の退去を認めずに事実上長時間拘束して自白を強要するなど、捜査機関の誤った見込みに基づいて違法捜査が継続された事件である。
さらに、本件では、国選弁護人が接見禁止中の被告人と接見中に、被告人の娘の激励の手紙を接見室のガラス越しに見せた行為が「接見禁止の趣旨を逸脱」したものだとして、検察官が裁判所に国選弁護人の解任を申し入れ、裁判所は不当にもこれを受けて弁護人を解任し、加えて、捜査機関が組織的に、被疑者・被告人と弁護人との接見内容について接見直後に取調べを行い、この接見内容を供述調書化するなど、被疑者・被告人の弁護人との秘密交通権、弁護人選任権を侵害する暴挙がなされた事件である。
本件の捜査方法ついては、本件被告人によって提訴された国家賠償請求訴訟判決において、2007年(平成19年)1月18日、鹿児島地方裁判所によって、「その取調べ手法が常軌を逸し、公権力を笠に着て被疑者を侮辱する」と厳しく断罪され、同訴訟の被告である鹿児島県も控訴を断念せざるを得なかったものであり、その違法性は明らかである。
このような近年まれに見る異常な違法捜査によって獲得された虚偽の自白に基づいて本件被告人らは起訴されたものであり、本日の無罪判決は当然のものと言える。
しかしながら、本件刑事事件の審理において、これらの違法な取調べによって得られた被告人らの供述調書の任意性を巡る証拠調べに長期間を要し、そのため、無辜の被告人らが長期間筆舌に尽くしがたい身体的、精神的苦痛を余儀なくされたことは極めて不当であり、許しがたいことである。
本件のような虚偽自白の強要に基づく冤罪や自白調書の任意性をめぐる審理の長期化を二度と生じさせないためにも、取調べの全過程を録画・録音するという取調べの全過程の可視化こそが、必要不可欠であり、かつ、約2年後に施行される裁判員裁判が有効に機能するための前提条件である。
当会は、既に取調べの録画・録音が試行され法律化が進行中の韓国に平成17年に視察調査団を送り、さらに翌18年には、韓国と台湾(既に取調べの録画・録音制度が実現している)への日弁連の調査視察団に多くの当会会員を派遣し、精力的に取調べの録画・録音実現のための運動を推進しているものであるが、遅くとも裁判員裁判の開始時までに、取調べの全過程を録画・録音するという取調べの全過程の可視化をわが国においても実現することを強く求める次第である。
2007年03月09日
犯罪被害者の刑事手続参加制度に反対する会長声明
2007年(平成19年)3月8日
福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫
1 声明の趣旨
本年2月7日、法制審議会は、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、強制わいせつ及び強姦の罪、業務上過失致死傷等の罪、逮捕及び監禁の罪並びに略取、誘拐及び人身売買の罪等について、参加を申し出た被害者や遺族(以下、被害者等という)に対し、「被害者参加人」という法的地位を付与し、被害者参加人としての公判期日への出席、情状に関する事項についての証人尋問、被告人質問、検察官の論告・求刑後に求刑を含む事実と法令の適用に関する意見の陳述等を認める制度の創設を求める答申(要綱(骨子))を法務大臣に提出した。
しかし、当会は、このような刑事手続への被害者の参加を認める制度は、以下に述べるように、刑事訴訟の構造を根底から変容させ、被告人の防御権を危うくするものであり、その創設に強く反対する。
2 声明の理由
(1) 近代刑事司法の基本構造を根底から変容させる
わが国では、検察官が訴訟追行を独占する構造をとっているが、これは、近代刑事法が私的復讐を公的刑罰に昇華させ、加害者を国家が処罰することにより、被害者は加害者からの再復讐から守られ、被害者と加害者との報復の連鎖を防いで社会秩序の安定を図ろうとしたからである。そのため、被害者は事件の当事者ではあるが、刑事訴訟の当事者とすることなく、被害者等の意見や処罰感情等は、公益的立場である検察官を通じて理性的に訴訟手続に反映させることが予定されている。
しかるに、「要綱(骨子)」のような制度を創設することは、刑事訴訟手続の場に私的復讐を持ち込み、近代刑事司法が断ち切ろうとした報復の連鎖を復活させる事態を招く危険性が高い。
(2) 被告人の防御権の行使を困難にする
近代刑事司法においては、無罪推定原則により、予断と偏見を可能な限り排除して、被告人に十分な防御の機会を保障することによって正当な事実認定と量刑がなされなければならない。
しかるに、被害者等が訴訟の当事者として被告人と常時法廷で対峙し、被害者等から直接感情的な質問を受ける立場に置かれることになれば、被告人は、多大な心理的圧迫を受けて萎縮し、被害者側からの怒りや感情的な反応を恐れるあまり自由に弁解や反論をすることができなくなり、防御活動が著しく困難になる。そのような事態は、正当な事実認定と量刑の実現を阻害することになる。
さらに、被害者等が、検察官の訴追活動と異なる訴訟活動を不意打ち的に行うことも予想され、被告人は、これら全てに対して防御することを余儀なくされ、防御すべき対象、争点の拡大がもたらされる。このような事態は被告人の防御活動と弁護人による弁護活動に支障を来たすとともに、訴訟の遅延も招く可能性もある。
(3) 裁判員裁判に悪影響を与える
ところで、平成21年5月までに実施が予定されている裁判員裁判において、「要綱(骨子)」のような制度を実現した場合には、裁判に与える悪影響は甚大である。
すなわち、被害者等を被告人と対峙する訴訟の当事者として参加させることは、被害者等の応報感情を煽り、必然的に攻撃的、感情的な訴訟活動が法廷に持ち込まれることになる。そうなれば、裁判員裁判は、被害者等による復讐劇場又は糾弾劇場と化すことになる。そして、市民たる裁判員は目の前の被害者等の感情的な訴訟活動に混乱し、過度に影響を受けて冷静かつ理性的な事実認定が困難になり、かつ、量刑においても過度に重罰化に傾くことは容易に予想される。
また、被害者等の手続参加によって争点の拡大や訴訟遅延を来たすような事態になれば、公判前整理手続による適切な争点と証拠の整理と連日的開廷による充実した迅速な審理の理想に反する結果となる。
3 結語
これまで、ともすれば蚊帳の外におかれていた犯罪被害者等が抱える刑事裁判に対する不満を解消する方策の必要性を否定するものではない。
しかしながら、以上述べてきたように、その方法として、被害者等の刑事訴訟手続参加はより一層の混乱を招き、制度としても相当ではなく、そのような制度の創設には強く反対する。
2007年03月20日
佐賀県北方町連続女性殺人被告事件控訴審判決についての会長声明
2007年(平成19年)3月20日
福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫
昨日平成19年3月19日、福岡高等裁判所は、1989年(平成元年)1月に佐賀県北方町において発覚した女性3名に対する殺人被告事件について、一審の佐賀地方裁判所の無罪判決を支持し、検察官の控訴を棄却する判決を言渡した。
本件は、平成元年11月に、別件起訴勾留中の任意取調べに際し、被告人に被害者3名の殺害を認める上申書を作成させ、その後、被告人は否認に転じたため、その当時、逮捕、立件が見送られたにもかかわらず、その13年後の公訴時効完成直前に起訴された事件である。
本件は、当初から起訴の13年前に作成された被告人の上申書以外には証拠がなかった事件であるが、一審の佐賀地方裁判所は、その上申書は違法収集証拠でありかつ任意性に疑いがあるとしてその証拠能力を否定し、平成17年5月10日、無罪判決を言渡し、今回の福岡高等裁判所も、佐賀地方裁判所の判断に誤りはないと判示したものである。
本件は、任意取調べ中に犯行を認める被告人の上申書が作成されたが、佐賀地方裁判所は、この上申書の証拠請求を却下した決定(平成16年9月16日)の中で、平均12時間35分の長時間の取調べが連日17日間にわたって行われ、昼食も夕食も取っていない被告人を午前0時過ぎまで取り調べるなど、任意取調べの限界を超え、令状主義を甚だしく逸脱する重大な違法性があると指弾するなど、任意取調べの名を借りた違法な強制捜査がなされた事案である。さらに、同決定は、上申書のほとんどは、取調官から被告人に具体的な指示があって書かされたことは合理的に考えられると指摘しており、取調官の誘導と強制によって虚偽の上申書が作成されたと考えられる。
このような令状主義を甚だしく逸脱し、違法性の高い取調べによって獲得された虚偽の自白上申書に基づいて本件被告人は起訴されたものであり、福岡高等裁判所が検察官の控訴を棄却する判決を言い渡したことは至極当然の結果と言える。
しかしながら、違法な事実上の強制捜査によってその作成を強要され、かつ、当時の捜査機関でさえも立件を断念せざるを得なかった13年前の虚偽の自白上申書によって、被告人は、逮捕、起訴され、4年9ヶ月もの長期間、被疑者、被告人として筆舌に尽くしがたい身体的、精神的苦痛を余儀なくされたことは極めて不当であり、許し難いことである。
本年2月23日に無罪判決が言渡された鹿児島選挙違反無罪事件や本年2月9日に富山地方検察庁が服役した被告人が無実であったとして再審請求をした富山強姦冤罪事件においてもみられるように、任意取調べに名を借りた強制的かつ違法な取調べがなされることがあるという実態に鑑みれば、本件や鹿児島選挙違反事件や富山強姦冤罪事件の被告人らのような犠牲者を二度と出さないためには、たとえ、任意取調べであっても、被疑者、被告人に対しては、取調べの全過程を録画・録音するという取調べの全過程の可視化こそが、必要不可欠であり、かつ、約2年後に施行される裁判員裁判が有効に機能するための前提条件であることが明らかになった。
近時、検察庁において、検察官の取調べに関して検察官の判断によって必要な限度で取調べの録画の試行が開始されているが、違法捜査と自白の任意性をめぐる争いを防止するためには、警察、検察に限らず、取調べの全過程の録画・録音制度こそが必要不可欠である。
よって、当会は検察庁および警察庁に対し、取調べの全過程の録画・録音制度を速やかに実現することを強く求める次第である。
国民投票法案の慎重審議を強く求める会長声明
2007年3月20日
福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫
現在、国会では、本年1月25日に上程された「日本国憲法の改正手続きに関する法律案」(いわゆる国民投票法案)が審議されている。
本年5月3日の憲法記念日までに法案を成立させるという安倍首相の決意に合わせて、与党は強行採決も辞さないと報道されている。
しかしながら、この国民投票法案は、決して単なる手続法案に過ぎないものではなく、今後の国のあり方を決める重要な意義を有するものであるところ、これまでの国会論議においても、当会が指摘した問題点の多くは未解決のままである。
そもそも国民投票は、国民主権の原則にもとづき、最高法規である憲法の改正について、主権者である国民の意思を反映させる手続きである。したがって、国民が自由に自己の意見を述べ、また、他者の多様な意見に触れるなかで、自己の意見をじっくり形成するという主権者の自由な意見形成過程の確保とその正確な反映がもっとも重要である。
ところが、与党の修正案では、?罰則は削除したものの、公務員や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止しており、主権者としての意見表明の自由を広範に制約していること、?憲法改正案の広報を行う国民投票広報協議会の構成が、所属議員の比率によって選任されるため、国民に対して反対意見が公正かつ十分に広報されないおそれが強いこと、?国会の発議から国民投票までの期間がわずか60日ないし180日とされているため、重要な争点について国民がじっくり考えて意見を形成する時間が保障されていないこと、?過半数の賛成の対象が全有権者となっておらず、また最低投票率の定めすらないことから少数の賛成によって憲法改正がなされるおそれがあることなど、重大な欠陥がある。
そもそも現在の国会とりわけ衆議院は、主として「郵政民営化」を争点として選出された国会であって、憲法改正に関する国民投票法案を争点として選挙されたものではない。このような重要な法案は、これを争点として選出された新たな国会で審議がなされるべきである。
したがって、国民投票法案が、与党の思惑どおり十分な審議なしに強行採決されるとすれば、それは、将来なされるであろう憲法改正それ自体が、国民に十分な議論を保障せず、不十分な広報のもと、短期間のうちに成立させられる危険を示すものである。
少なくとも、憲法改正という国家の最重要課題について、主権者の意思を反映させるという国民投票制度の本来の目的・趣旨を十分に生かすよう、広く主権者たる国民の声に耳を傾けたうえで、いま法制定の必要性が果たしてあるのかどうかも含め、国会において慎重に審議されることを強く求めるものである。
2007年04月17日
国民投票法案の衆議院採決に対し反省を求め、参議院における慎重審議を求める声明
2007年(平成19年)4月17日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
本日、衆議院において、「日本国憲法の改正手続きに関する法律案」(いわゆる国民投票法案)が可決された。この採決は、拙速になされたものであると言わざるを得ない。
当会は、2006年12月6日には国民投票法案に関する意見書を、2007年3月20日には国民投票法案の慎重審議を強く求める声明を発表し、国民投票法案には多くの問題点が含まれていることを指摘して慎重な審議を求めてきた。
そのような当会の指摘にもかかわらず、本日可決された法案は、?罰則は削除したものの、主権者である公務員や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止しており、制約しなくてもよい主権者としての意見表明の自由を広範に制圧していること、?憲法改正案の広報を行う国民投票広報協議会の構成が、所属議員の比率によって選任されるため、国民に対して反対意見が公正かつ十分に広報されないおそれが強いこと、?国会の発議から国民投票までの期間がわずか60日ないし180日とされているため、重要な争点について国民がじっくり考えて意見を持つ時間が保障されていないこと、?過半数の賛成の対象が全有権者となっておらず、また最低投票率の定めすらないことなど、主権者である国民の「承認」を得るという点では重大な欠陥を残している。
また、公聴会が東京、大阪、新潟の3箇所においてしか実施されなかったことも遺憾である。ここ福岡を含む、より多くの地方において公聴会が実施されるべきであったのであり、わずか3箇所のみでは国民の意見が充分に反映されたとは言えない。
参議院においては、衆議院の轍を踏むことなく、少なくとも、憲法改正という国家の最重要課題について、主権者の意思を反映させるという国民投票制度の本来の目的・趣旨を十分に生かすよう、広く主権者たる国民の声に耳を傾けたうえで、そもそも、いま法制定の必要性が果たしてあるのかどうかも含め、慎重に審議されることを強く求めるものである。
2007年04月27日
長崎市長に対する殺害事件について厳重抗議する会長声明
2007(平成19)年4月25日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
1 今月17日,JR長崎駅前で,伊藤一長長崎市長が,選挙期間中という重要な政治活動の最中に暴力団幹部から銃撃され殺害されるという事件が発生した。
2 報道によれば,暴力団幹部が長崎市に対して執拗な要求を行い,これを拒絶されたことに逆恨みをした挙げくの犯行とのことであるが,いかなる理由があろうとも,有無をいわさず暴力をもって政治活動を圧 殺するという行為は民主主義の根幹を揺るがす暴挙に他ならず,断じてこれを許すことはできない。
また,このような行政の長である市長に対するいわれのないテロ・暴力行為は,公正公平であるべき行政の健全性を阻害するばかりでなく,行政関係者や市民に対して恐怖感を与え社会全体をも萎縮させる危険性がある。私たちは,その卑劣さに対して強い憤りを覚えるものである。
3 福岡県弁護士会会員一同は,基本的人権を擁護し社会正義の実現を図る弁護士の使命に照らし,民主主義社会に対する否定行為であるテロ・暴力を一切否定する。私たちは,市民や関係機関と団結して,暴力の追放と根絶のために最大の決意をもって臨むことを表明するものである。
核兵器の廃絶と平和を世界に訴えてきた伊藤市長が志半ばにして凶弾に倒れられたことを深く悲しみ,衷心から哀悼の意を表する。
死刑執行に関する会長声明
2007(平成19年)年4月27日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
1 本年4月27日、福岡拘置所の死刑囚を含む3名に対する死刑が執行された。
日本弁護士連合会は、2002年(平成14年)11月の「死刑制度問題に関する提言」及び2004年(平成16年)10月の人権擁護大会決議に基づき、法務大臣あてに死刑執行停止に関する要請をしている。
当会でも、九州弁護士会連合会と共に、2004年(平成16年)9月4日、「アジアにおける死刑―死刑廃止の胎動」と題して日弁連人権擁護大会に向けたプレシンポジウムを開催し、隣国の韓国及び台湾(中華民国)が死刑廃止立法に向けた確かな歩みをしている事例を紹介し、日本においても死刑廃止を含めた死刑制度の国民的議論の必要性を喚起してきた。
2 わが国での死刑執行は、1989年(平成元年)11月から1993年(平成5年)3月まで3年以上にわたって控えられていた。
ところが、その後死刑執行が再開され、今回の執行を含め13年9ヶ月の間に、その被執行者数の累計は54名にも及ぶ。
しかし、わが国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。
そもそも、国際的には、1989年(平成元年)に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。その中で、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、国連規約人権委員会は、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。それにもかかわらず、その後十分な議論が尽くされないまま死刑執行が繰り返されてきた。
3 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、当会は、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組んできた。
そこで、当会は、これまで、しばしば、当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望を重ねてきた。
4 にもかかわらず、死刑制度存廃につき国民的議論が尽くされないまま、死刑の執行が繰り返されてきたのはまことに遺憾である。
当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。
2007年05月14日
憲法改正手続法の成立についての声明
2007年5月14日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
本日、参議院において、「日本国憲法の改正手続に関する法律案」が可決され、成立した。本年4月13日の衆議院可決からわずか1か月という早期の成立であり、参議院において慎重な審議がなされたとは言えない。
国民投票法案に対し、当会は、2006年12月には意見書を、2007年3月と同年4月には声明を発表し、同法案には下記のような多くの問題点が含まれていることを指摘して慎重な審議を求めてきた。
他方で、5月7日にはここ福岡において地方公聴会が実施されたが、一般の国民が公述人に応募したり自由に傍聴できるものではなく、当該公聴会が広く主権者たる国民の意見を反映する機会となったとは言い難い。また、当該公聴会における公述人の発言から、未だ、同法の内容について国民の理解が進んでいるとは言えないことも明らかになったところである。
本日成立した国民投票法は、?罰則は削除したものの、主権者である公務員や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止しており、制約しなくてもよい主権者としての意見表明の自由を広範に制約していること、?憲法改正案の広報を行う国民投票広報協議会の構成が、所属議員の比率によって選任されるため、国民に対して反対意見が公正かつ十分に広報されないおそれが強いこと、?国会の発議から国民投票までの期間がわずか60日ないし180日とされているため、重要な争点について国民がじっくり考えて意見を持つ時間が保障されていないこと、?過半数の賛成の対象が全有権者となっておらず、また最低投票率の定めすらないことなど、主権者である国民の「承認」を得るという点では重大な問題を残している。このことは、参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会において、18項にも上る附帯決議がなされ、今後も検討することとされたことからも明らかである。
当会としては、同法が、内容に多くの問題を残し、国民の理解も進まないまま、慎重な審議を欠いて成立したことにつき、遺憾の意を表明するものであり、併せて、国会に対し、この3年の間に、付帯決議がなされた事項にとどまらず、国民投票に国民の意思を反映することができるように、同法を抜本的に見直すことを強く要望するものである。
以上
2007年05月16日
少年法等「改正」法案に反対する会長声明
本年4月19日,衆議院において,少年法「改正」法案(与党修正案)が可決され,現在,参議院において,審議が進められている。与党修正前の少年法「改正」法案に対して,当会は,平成17年以来,2度にわたって会長声明を発表し,少年法「改正」法案に反対したところであるが,以下の1から3までに記載のとおり重大な問題があり,あらためて,この「改正」法案(与党修正案)に対して反対するものである。
1 おおむね12歳以上という下限を示しながらも,14歳未満の低年齢非行少年の少年院送致を可能にするという厳罰化を定めていること
そもそも,少年院は,一定の人格形成がなされていることを前提とし,主として集団的で,かつ,「厳しい規律」を前提とした矯正教育を行う施設である。ところが,14歳未満の低年齢の少年が非行を起こす場合の多くは,心身の発達状況や家庭における生育歴などに問題を抱えている場合が多く,とりわけ,重大な事件を犯すに至った低年齢の少年ほど,被虐待体験を含む複雑な生育歴を有し,このため,人格形成が未熟で,規範を理解し受け容れる土壌が育っていないことが多い。このような低年齢の触法少年に対しては,それぞれの少年が抱える問題に応じた個別の福祉的,教育的対応が可能な児童自立支援施設における処遇が適切である。
少年院送致の年齢の引き下げよりも,児童自立支援施設の一層の専門性強化とこれに要する人的物的資源の充実が求められるところである。
2 触法少年に対する警察官の調査権限を付与していること
そもそも現行法上,触法少年の行為は犯罪ではなく,警察官による調査になじむものではない。
触法少年の特徴は先に指摘したとおりであり,そうした少年に対する調査は,福祉的,教育的な観点から,児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進め,その実態に迫っていくとともに,適切なケアを図っていくべきである。
3 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する少年院収容処分を導入していること 現行法においても,保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度が存在し,現行の保護観察制度は相応に機能している。
ところが,本法案は,「少年院送致」を威嚇の手段として遵守事項を守るよう少年に求めるものであり,そうした環境では,真実の信頼関係は育たず,かつ,保護観察制度の実質的な変容を迫るものである。
むしろ,保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった現行の保護観察制度の充実をはかるべきである。
4 なお,本法案は,ごく限定的ではあるが,従前の検察官関与とは切り離して国選付添人制度を導入し,少年が釈放されたときにも国選付添人選任の効力が失われなくなったとの修正が入ったことは評価できる。 これは,当会が全国の弁護士会に先駆けて実践してきた身柄事件全件付添人活動が,ここ数年,全国に波及していく中で,これらの実績に基づいて有用性が証明され,国としてもその成果に配慮したことによるものであると確信する。その意味で,国選付添人制度の導入は,我々のこれまでの活動が実を結び,将来の全面的な国費による付添人制度への橋渡しになりうるものとして一定の評価をする。
我々は,さらに,全面的な国選付添人制度の実現を強く求めるとともに,今後とも,少年付添人活動の一層の充実に努めていく決意である。
2007(平成19)年5月16日
福岡県弁護士会 会長 福島 康夫
2007年06月07日
被害者の参加制度関連法案衆議院可決にあたっての声明
2007年(平成19年)6月6日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
衆議院は、2007年(平成19年)6月1日、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」という)を可決し、参議院に送付した。
この法案は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人質問、証拠調べ終了後の求刑を含む弁論としての意見陳述を認めるものであるが、当会は、この法案の定める犯罪被害者等の刑事手続参加制度(以下「被害者参加制度」という)には、次のような問題があり、その創設に反対するものである。
(1)法廷を報復の場にしてしまい近代刑事司法の基本構造を根底からくつがえすことになる。
わが国では、検察官が訴訟遂行を独占する仕組みをとっている。これは、犯罪被害者やその遺族(以下「被害者等」という)による私的報復を禁止し国家が加害者を処罰することによって、被害者等と加害者との報復の連鎖を防いで社会秩序の安定を図ろうとするものである。それによって、被害者等は加害者の再報復から守られることにもなる。
したがって、現行法上、被害者等の意見や処罰感情等は、公益的立場である検察官を通じて理性的に訴訟手続に反映させることが予定されている。
ところが、今回衆議院で可決された法案は、刑事訴訟手続の場に私的復讐を持ち込み、報復の連鎖を招く危険性が高い。
このことは、無罪推定原則に基づき裁判官の予断と偏見を可能な限り排除しようとする近代刑事司法の原則にも反することになる。
(2)被告人の防御権の行使を困難にし真実の発見に支障をきたす。
近代刑事司法は、被告人に十分な防御の機会を保障することによって、真実を発見し適正な量刑を行なおうとするものである。
ところが、被害者等が被告人と法廷で対峙し被告人が被害者側からの感情も交えた厳しい追及にさらされることになれば、被告人は萎縮してしまい自らの正当な反論もできなくなる可能性がある。
さらに、被害者等が不意打ち的な訴訟遂行を行うことも予想され、被告人側は、これら全てに対して防御することを余儀なくされ、防御すべき対象、争点の拡大がもたらされる可能性もある。
このような事態は、被告人の防御活動を著しく困難にし真実の発見と適正な量刑にも支障をきたすことになる。
(3)少年の刑事事件ではさらに深刻な萎縮効果を及ぼし適正手続きに反する事態を生じる。
上記のような事態は、被告人が、心身ともに成長過程にあって精神的・心理的に未発達な少年の場合には、さらに深刻である。
(4)裁判員制度に悪影響を及ぼすおそれもある。
以上のような事態は、2009年(平成21年)から実施が予定されている裁判員裁判にも重大な悪影響を及ぼす可能性がある。
すなわち、被害者等を訴訟に参加させ感情的な訴訟活動を法廷に持ち込めば、市民たる裁判員は目の前の被害者等の感情的な訴訟活動に混乱し、過度に影響を受けて冷静かつ理性的な事実認定が困難になり、かつ、量刑においても過度に重罰化に傾くことは容易に予想される。
以上のように、被害者参加制度は、刑事裁判に対し、その本質に照らし看過し得ない悪影響を及ぼすものである。そのため、犯罪被害者等の中にも「被告人から落ち度を指摘されたり、その場限りの謝罪を受けたりして被害者が傷つく」「声を上げられない被害者が見落とされる」「法廷が復讐の場になれば憎悪の気持ち、苦しみも増すだけ」などという意見が出されている。
このように刑事裁判の根幹に関わる重要な制度改革をわずか2週間程度の審議で決定するのはあまりに拙速過ぎ、慎重さを欠いている。
なお、この法案には3年後に見直すとの条項が盛り込まれはしたが、法案に含まれる根本的な問題は単なる見直しでは解消できるものではない。
当会は、犯罪被害者等の支援が重要であることを十分に認識し、これまでもそのような活動に取り組んできたし今後も取り組む所存である。しかし、以上のような問題をもった被害者参加制度の創設についてはこれを認めることはできない。
当会は、本年3月8日に被害者参加制度の創設に反対する会長声明を発したところであるが、今回、衆議院において慎重さを欠いた法案の可決がなされたことは誠に遺憾であり強く抗議する。参議院におかれては、法案の問題性を十分に認識したうえで慎重に審議されるよう求めるものである。
2007年06月22日
犯罪被害者刑事手続参加制度に関する法律成立に抗議する声明
2007年(平成19年)6月21日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
昨日、国会において「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立した。この法律は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人質問、証拠調べ終了後の求刑を含む弁論としての意見陳述を認める制度であるが、当会は、本年3月8日及び同6月6日の二度にわたって、この創設に反対する会長声明を発した。
にもかかわらず、同法が成立したことは誠に遺憾であり、強く抗議の意を表明する。
同法に定められた犯罪被害者参加制度には、
(1)真実の発見に支障をきたす
(2)法廷を報復の場にしてしまうのみならず無罪推定の大原則を根本的にゆるがし近代刑事司法の基本構造を根底からくつがえす
(3)被告人の防御権の行使を困難にする
(4)少年の刑事事件ではさらに深刻な萎縮効果を及ぼし適正手続きに反する事態を生じる
(5)事実認定に悪影響を及ぼし裁判員制度が円滑に機能しなくなるおそれもある
などの重大な問題があり、この制度は、我国の刑事裁判に対し、看過し得ない重大な悪影響を及ぼすものである。
当会は、今後、政府及び国会におかれて、以上のような同法の重大な問題点を徹底的に究明され、裁判員裁判が実施される前に同法の抜本的な改正がなされることを強く求めるものである。
2007年07月19日
生活保護の適正な運用を求める声明
本年7月10日、北九州市小倉北区で52歳の男性が自宅で死後1ヶ月経った状態で発見された。新聞報道によれば、この男性は、昨年12月26日から生活保護を受給していたものの、本人から「辞退届」が出されたということで本年4月10日に保護廃止となったとのことであり、2ヶ月後には孤独死したことになる。
当会では、昨年、日本弁護士連合会において採択された「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を受けて、生活保護をめぐる相談・援助体制を構築するためのプロジェクトチームを発足させるなど、生活保護の運用が適法・適正に行われるよう求める活動に取り組んでいるところである。
ところが、北九州市では、生活保護申請が認められなかった人が孤独死する事件が相次ぎ、本年5月に生活保護行政検証委員会(第三者機関)が設置され、検証・審議が進められているのであるが、今回またしても救済できたはずの人命を孤独死に至らしめたことは極めて遺憾である。また、新聞報道によれば、北九州市に限らず、「辞退届」を提出させ、保護を打ち切るという運用が全国的に蔓延していることも指摘されているが、生活保護法上、廃止を行いうる場面は限定されていることからして、非常に問題のある運用と言わざるを得ない。
生活保護はあらゆる社会保障制度の中でも最後の砦ともいうべき制度であり、対象者の生命にかかわる問題であるから、一度は要保護性が認められた者の保護を廃止するにあたっては、特に慎重な調査が要求されることは言うまでもない。
すなわち、たとえ「辞退届」なる書面が提出されたとしても、それが任意かつ真しな意思に基づくものでなければ、生活保護を廃止する理由とはなり得ない。広島高裁(2006(平成18)年9月27日判決)も、要保護状態が解消したのか否かについて必要な調査を行わないまま自立の目途があるとして提出させた辞退届は錯誤によるもので無効であるとした上で、廃止は保護受給権を侵害するとして東広島市の不法行為責任を認めている。
新聞報道によれば、男性は「働けないのに働けと言われた」等と日記に記していたとのことであり、「辞退届」が真意に基づくものでなかった可能性が強く、小倉北福祉事務所が、男性に自立するための仕事や収入源があるか否かについて慎重な調査確認を行ったとは考えられない。
報道が事実であるとすれば、このような運用は、人の生きる権利を奪うものであって、生存権を保障する憲法25条に照らしても、絶対に容認できるものではない。
当会は、北九州市に対し、再びこのような事件が起きることのないよう、早急に徹底的な真相解明を行うよう求めるとともに、生活保護制度の適法・適正な運用のための具体的な改善策を直ちに講じることを強く求めるものである。
2007(平成19)年7月18日
福岡県弁護士会
会 長 福 島 康 夫
刑事弁護における弁護人の責務についての理解と弁護活動の自由の確保を求める声明
広島高等裁判所に係属中の殺人事件(いわゆる「光市母子殺害事件」)に関して、先日、日本弁護士連合会宛に「元少年(被告人)を死刑に出来ぬなら、元少年を助けようとする弁護士たちを処刑する」などと記載された脅迫文書が届き、さらに同様の脅迫文書が新聞各社にも届いたとのことである。
憲法第37条3項は「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」とし、国連の「弁護士の役割に関する基本原則」(以下「基本原則」という)も、「すべて人は、自己の権利を保護、確立し、刑事手続きのあらゆる段階で自己を防御するために、自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」(第1条)と定めている。このような被告人の権利は、刑事裁判において被告人に十分に防御の機会を与えることによって被告人に対し適正な裁判を受ける権利を保障するものであって、歴史的に確立されてきた大原則である。
弁護人は、被告人のこのような権利を守るために最大限の努力をする責務を負っている。
ところが、今回の日本弁護士連合会や弁護人に対する脅迫行為は、被告人が弁護人の援助を受ける権利を否定し憲法の保障する適正手続きを根幹から揺るがす行為である。
基本原則16条も「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たし得ること、自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談し得ること、確立された職務上の義務、基準、倫理に則った行為について、弁護士が、起訴、あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないことを保障するものとする」と定めている。
当会は、今回の脅迫行為に強く抗議する。
さらに、当会は、こうした弁護士や弁護活動への妨害や脅迫行為が、被告人の弁護人の援助を受ける権利を否定し適正手続きを保障した憲法の理念に反するという認識を広く市民と共有できるよう最大の努力をするとともに、刑事弁護における弁護人の責務について理解を求め弁護活動の自由を確保するために、全力を尽くす決意である。
2007年(平成19年)7月18日
福岡県弁護士会
会 長 福 島 康 夫
2007年08月08日
死刑執行の停止を求める声明
2007年(平成19年)8月7日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
1 我が国では、過去において、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定している。また、本年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。
また、死刑と無期刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されており明確な基準が存在しない。
我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなって来た。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難い。
このような状況のもとで直ちに死刑が執行されることは重大な問題があると言わざるを得ない。
2 国際的にも、1989年(平成元年)に国連総会で採択された死刑廃止条約が、1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。すなわち、すでに死刑制度を全面的に廃止した欧州地域をはじめとし死刑廃止国が130か国であるのに対し死刑存置国は67か国(本年7月31日現在)である。そのような潮流の中で、国連規約人権委員会は、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。
3 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、日本弁護士連合会も、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
当会も、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組み、死刑が執行されるたびに、会長声明において、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
4 しかし、日弁連や当会の度重なる要請にもかかわらず、死刑執行が繰り返されて来たが、最近の社会の重罰化傾向も反映してか死刑確定者数が100名を超える事態を迎え、死刑執行が急がれているとの印象も免れない。
長勢甚遠法務大臣は、就任後の記者会見で「確定した裁判の執行は厳正に行われるべきものである」から「法の規定に沿って判断して行きたい」と発言し、昨年12月には4名、本年4月27日には3名の死刑執行を行った。
5 2007年(平成19年)5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
参議院選挙を終えて、今また、新たな死刑執行が危惧されるが、死刑の執行は、我が国が批准した条約を尊重しないことを国際社会に宣言するに等しい。
6 このような状況を踏まえ、当会は、法務大臣に対し、死刑確定者106名(本年8月2日現在)に死刑が執行されないよう強く要請する。
2007年08月20日
割賦販売法改正についての会長声明
産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会が本年6月19日に中間整理案を発表した。
この整理案では,従来からの加盟店管理を求める行政指導や業界の自主的取組にもかかわらず,悪質販売業者による高齢者等を狙った強引又は詐欺的な勧誘による被害が多発し,それにクレジット会社が安易に与信をして救済が十分なされないケースが相変わらず発生しているという現状が指摘され,このようなクレジットトラブルの背景にはクレジットシステムの構造的危険性があり,クレジットシステム提供者として一定の責務があるという認識を示している点は十分評価できる。
この整理案で議論されている論点のうち,このようなクレジット被害救済や防止に不可欠な不適正与信の防止,過剰与信防止の2つの論点では複数の意見が併記された形になっており,今後の議論次第ではどのような結論になるのか予断を許さない状況になっている。
当会は,本年6月9日に九州弁護士会連合会との共催でクレジットシンポジウムを開催し,アピールを採択したところであるが,改めてクレジットトラブルを真に救済し防止できるような制度改正が是非とも必要であると考え,この中間整理案の2つの論点について以下のような意見を述べる。
1,不適正与信の防止について
中間整理案で,不適正与信を行ったクレジット事業者に対して経済的不利益をもたらすような何らかの民事ルールが必要であると指摘している点はその通りである。しかしながら,その方策として信義則を拠り所にした過失「損害賠償責任」説と,日弁連が提唱する無過失「共同責任」説が両方紹介されている点については,前者は妥当でなく,あくまで後者こそが妥当であると考える。
まず,同整理案がクレジットシステムの構造的危険性を指摘し,システム提供者の責務を議論しているところからすると,それで利益を得ているクレジット事業者には被害防止の責任を負わせるべきことが当然導かれるものと考える。
そして,悪質商法と結びついたクレジット被害の予防・救済の見地からは,現行の抗弁対抗規定(割賦販売法30条の4)だけでは,クレジット事業者が加盟店への与信を適正に行う動機付けとしては不十分であり,既払金の返還という法的効果を定めるべきである。
その際,消費者側がクレジット会社と加盟店との間の内部事情を知ることは極めて困難であることから,既払金返還に伴ってクレジット会社の故意・過失の証明 を要求すると現実の救済には繋がらないことは明らかであり,過失損害賠償責任説は妥当とは思われない。
よって,実効的な被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めることが不可欠である。
2,過剰与信の禁止について
中間整理案が次々販売等による過剰与信を防止する責務があると指摘している点,信用情報調査による支払能力の調査及びその結果による信用情報機関への登録を義務づけるべきとの指摘はその通りである。
しかし,現在多発している次々販売等の過剰与信被害を予防するためには,ク レジット会社の明確な過剰与信基準を法律で定めた上で,これに違反したクレジ ット会社に対しては厳しいペナルティを課す必要があると考える。過剰与信基準については,顧客の債務額が一定の基準を超える場合はそれ以上クレジットの利用ができないよう厳しい審査を求めるとともに,販売信用の特性に見合った基準を設けることでバランスをとるべきである。
また,個々の販売行為が詐欺や特商法違反などに当たらなくとも,高齢者等を狙った著しい過剰与信被害が発生している現状からして,このようなケースを救済するためには,クレジット会社の請求権制限等の民事的効果を明文で定めるべきものと考える。
当会は,このような割賦販売法の改正が実現されて初めてクレジット被害が根絶され,消費者が真に保護される安全なクレジット社会を構築できるものと考える。その結果として,消費者とクレジット業界双方に利益がもたらされることになり,健全なクレジット社会の発展が実現できると確信する。
3,結論
以上をふまえ,当会は,割賦販売法の改正においては,下記の制度を設けることを要望する。
記
? 不適正与信による被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めること。
? 過剰与信による被害を防止するため,クレジット会社の明確な過剰与信基準を定め,かつ,これに違反した場合には,請求権制限等の民事的効果を定めること。
2007年(平成19年)8月8日
福岡県弁護士会
会 長 福 島 康 夫
2007年08月24日
死刑執行に関する会長声明
2007年(平成19年)8月23日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
1 本日、東京拘置所及び名古屋拘置所において3名の死刑が執行された。
今回の死刑執行は、昨年12月の4名、本年4月27日の3名に続くものである。
2 我が国では、過去において、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定している。また、本年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。
また、死刑と無期刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されており明確な基準が存在しない。
我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなって来た。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難い。
このような状況のもとで、今回死刑が執行されたことには重大な問題があると言わざるを得ない。
3 国際的にも、1989年(平成元年)に国連総会で採択された死刑廃止条約が1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。すなわち、すでに死刑制度を全面的に廃止した欧州地域をはじめとし死刑廃止国が130か国であるのに対し、死刑存置国は67か国(本年7月31日現在)である。そのような潮流の中で、国連規約人権委員会は、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。
4 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、日本弁護士連合会も、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
当会も、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組み、死刑が執行されるたびに、会長声明において、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
5 さらに、2007年(平成19年)5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
6 以上述べたように国内的にも国際的にも、日本の死刑制度に対する非難が高まった状況下において断行された今回の死刑執行は、我が国が批准した条約を尊重しないことを国際社会に宣言するに等しい。
7 当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。
2007年10月12日
「少年警察活動規則の一部を改正する規則案」に対する会長声明
警察庁は,2007年9月,改正少年法の施行に伴う「少年警察活動規則の一部を改正する規則案」(以下「規則案」という。)を公表した。
しかしながら,規則案のうち,?「ぐ犯調査」に関する規定(規則案第三章第三節)は全面的に削除すべきであり,?「触法調査」に関する規定(規則案第三章第二節)中に,警察官が少年に対する調査を行う際に,弁護士付添人を選任できること,質問に答えない権利があることを告知する規定を定めるべきである。
1 「ぐ犯少年」とは,親元に帰らない,暴力団とつきあいがある等の事情から判断して,将来,罪を犯すおそれのある少年のことであるが(少年法3条1項3号,少年警察活動規則2条4号),規則案では,「ぐ犯少年」であると疑うに足りる相当の理由のある少年について,警察官が調査できることを明確に規定している(規則案27条,30条)。
しかし,先の通常国会に上程された少年法改正案の中に同趣旨の規定が存在していたが,国会審議の際,「警察官による調査権限の及ぶ範囲が不明確で,調査対象の範囲が過度に拡大するおそれがあるという懸念」から,全党一致で改正案から削除された経緯がある。今回の改正は,あえて法律で規制をしないことを決めた事項について,法律より効力の弱い国家公安委員会規則でこれを規制しようというものであり,国会の権能を無視したものであることは明らかであり,国会が国権の最高機関であり唯一の立法機関であることを定めた憲法41条にも抵触するおそれがある。実質的にも,警察庁作成の「少年非行等の概要」によれば,2006年度に,深夜徘徊,喫煙などの不良行為で警察が補導した少年の数は140万人を超えている。これらの少年と「ぐ犯少年」との境界線は極めて曖昧であることから,仮に,「ぐ犯調査」が許容されることになると,警察官が捜査の名を借りて,様々な情報を収集することが可能となり,まさに警察主導の監視社会化につながりかねない。
以上の点から考えて,「ぐ犯少年」に対する警察官の調査権を定めるべきではない。
2 「触法少年」とは,罪を犯したが刑罰を科されることのない14歳未満の少年のことであるが(刑法41条,少年法3条1項2号,少年警察活動規則2条3号),警察官が「触法少年」に対する調査を行う際に,少年には,弁護士である付添人を選任することができる権利(少年法6条の3)及び強制にわたる質問を受けない権利(同法6条の4,2項)が保障されている。これらの規定は,元来,少年は大人以上に警察官に迎合した供述を行ったり,暗示や誘導を受け易い傾向があり,その結果,警察の取り調べにおいて,虚偽の自白が行われ冤罪を生み出す危険性が大きいとの事実を踏まえて定められたものである。しかし,このような権利が定められても,実際に調査を担当する警察官が,少年に対して権利の告知をしなければ,権利が保障されたとはいえない。
ところが,規則案では,調査にあたり,警察官が少年に対し,「弁護士付添人を選任することができる」旨,及び「その意思に反して質問に答えなくても良い」旨を告知することをまったく規定していない。したがって,上記少年法の趣旨を貫徹するためにも,これらの点を規則案に明確に規定すべきである。
2007年10月12日
福岡県弁護士会 会長 福 島 康 夫
2007年10月30日
生活保護基準の引き下げについて慎重な検討を求める声明
厚生労働省は、本年10月19日、学識経験者によって構成される「生活扶助基準に関する検討会(第1回)」(以下「検討会」という。)を開催した。同省のホームページにおいて検討会の設置及び開催が発表されたのは同月16日であり、それからわずか3日後の突然の開催であった。
「検討会」は「平成20年度予算編成を視野に入れて結論が得られるよう検討する。」という。そして、北海道新聞(本年10月18日朝刊)の報道によれば、「検討会」は年内に報告書をまとめ、生活保護の給付の基本となる最低生活費の基準額の引き下げを提言する見通しであり、地域ごとに支給額に差をつけていた「級地」制度の見直し方針と相まって、都市部では大幅な生活保護基準の引き下げが懸念されるという。
しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、国民の生存権保障に直結する重大な基準である。
日本弁護士連合会が昨年7月に実施した「日弁連全国一斉生活保護110番」においては、生活に困窮した市民の切実な訴えが多数寄せられたが、生活保護基準が引き下げられるということは、現に生活に困窮している市民のうち、生活保護を利用して困窮から脱することができなくなる人が増加することを意味する。
しかも、生活保護基準は、介護保険の保険料・利用料・障害者自立支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、また、自治体によっては国民健康保険料の減免基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策にも連動している。
このように、生活保護基準が引き下げられれば、生活保護利用者の生活レベルが低下するだけでなく、日本で生活する低所得者全般に直接の影響が出てくる。特に年収200万円以下の労働者(いわゆるワーキングプア層)にとっては、上記諸施策への連動が及ぼす影響は重大であり、増大するワーキングプア層の生活を更に苦況に追い込むことになりかねない。
したがって、生活保護基準に関する議論は、十分に時間をかけて慎重になされるべきである。また、こうした議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取してなされるべきである。
にもかかわらず、上記の新聞報道のとおり、厚生労働省の「検討会」が、わずか2ヶ月足らずの検討期間しか設けず、あらかじめ「引き下げ」の提言をするとの結論を決めた上で検討を行うものであるとすれば、既に述べた生活保護基準の重要性に鑑み、到底容認することができない。
当会は、昨年、日本弁護士連合会において採択された「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を受けて、生活保護をめぐる相談・援助体制を構築及び生活保護制度全般にわたる調査・検討を行う委員会を発足させ、貧困問題の解決に向けて取り組んでいるところである。
厚生労働省及び「検討会」に対し、結論先にありきの拙速な検討を厳に慎み、公開の場で生活保護利用者の声を十分に聴取し、徹底した慎重審議を行うことを強く求める。
2007(平成19)年10月29日
福岡県弁護士会
会 長 福 島 康 夫
2007年12月03日
違法な国民監視の根絶を求める声明
本年6月6日、陸上自衛隊情報保全隊が、自衛隊のイラク派兵に反対する市民等の動向を監視し、その情報を体系的に収集・分析していた資料の存在が明らかとなった。
その中には、メディアの取材活動や、弁護士会の活動、市民から選ばれた議員の活動までもが監視の対象とされ、「反自衛隊活動」などと評されている。
また、本年6月8日、公安調査庁の職員3名が、新潟県佐渡市の佐渡グランドホテルを訪れ、同ホテルに対し、同年6月23日、24日に開催される青年法律家協会の定時総会に参加するために同ホテルに宿泊する予定者の名簿を提供するよう求めた。
これらの監視行為には、法的根拠が全く存在しない。
陸上自衛隊情報保全隊は、自衛隊の保有する内部情報の流出や漏洩を防止するための組織であり、この目的に必要な情報収集活動しか許されていない。市民の行動を監視することは全く権限を逸脱した行為であり、違法である。
また、公安調査庁は、破壊活動防止法の定める「破壊的団体」や、無差別大量殺人を行った団体の規制に関する法律の定める「無差別大量殺人を行った団体」の調査・処分の請求・規制措置以外の権限は認められていない。
青年法律家協会は、憲法を擁護するために設立された弁護士、研究者の団体であって、このような団体でないことは明らかであるから、その行動を監視することは全く権限を逸脱した行為であり、違法である。
このように、陸上自衛隊や、公安調査庁が、組織的、系統的、日常的に、市民の行動を監視してその情報を収集・分析・利用することは、単にこれらの市民のプライバシー権を侵害するばかりでなく、民主主義をささえる表現の自由に対し強い萎縮効果をもたらすものであるから、憲法13条、21条に反し違憲である。
そもそも、日本国憲法は、国民の権利自由を最大限に保障するため、主権者たる国民が、公権力を十分監視し、コントロールするという民主主義という手段を採用している。しかるに、本来国民に奉仕すべき公権力が、何らの法的根拠なしに主権者たる国民を監視し、公権力の意に添わない国民の行動を萎縮させることは、日本国憲法の採用している民主主義原理に反するのであって、とうてい許容され得ない。
当会は、政府に対し、?直ちにこのような行為を中止すること、?本件に関する原因調査を十分に行うこと、?二度と違憲・違法な監視行為が繰り返されないよう、実効的な再発防止策を策定し、実行することを強く求める。
2007年11月28日
福岡県弁護士会会長 福島 康夫
2007年12月10日
生活保護基準の引き下げに反対する声明
厚生労働省は、本年11月30日、同省が設置した「生活扶助基準に関する検討会」(以下「検討会」という)が報告書をまとめたのを受け、厚生労働大臣の記者会見において、来年度予算から生活保護基準の引き下げを行う予定である旨を発表した。しかし、当会は、生活保護基準の引き下げに強く反対すると共に、その拙速な断行を中止するよう要求するものである。
生活保護基準は、憲法25条が規定する国民の生存権保障の水準を決する重大な基準であり、その引き下げは、生活保護利用者の生活を直撃し、破壊しかねないものであるばかりでなく、最低賃金、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準などの労働、医療、福祉、教育、税制などの多様な施策に連動しており、低所得者全般の生活に多大な影響を及ぼす重大問題である。当会は、本年10月29日付当会会長声明において、その点を指摘し、厚生労働省及び「検討会」に対して、拙速な検討を慎み、慎重な審議を行うよう要請してきた。
にもかかわらず、生活保護利用者や幅広い国民の意見を聴取することもなく、わずか1ヶ月半足らずの期間の検討によって、引き下げの詰論を出していることは、拙速以外の何ものでもなく、”初めに結論ありきの検討”と言わざるを得ず、手続的にも極めて問題である。
今回「検討会」報告書は、わが国の全世帯のうち、最も収入が低い一割の低所得世帯の消費支出水準と生活保護基準とを比較した上で、保護基準の方が高いとして、その引き下げに根拠を与える内容となっている。しかし、日本弁護士連合会が、第49回人権擁護大会決議で指摘したように、わが国では違法な窓口規制が広汎に行われていることから生活保護の補足率が極めて低いために、本来であれば生活保護を受け得るのに受けられず、生活保護基準以下の収入で生活することを余儀なくされている世帯が多数存在している。にもかかわらず生活保護世帯や低所得世帯の生活実態を十分考慮することなく、単純な比較検討を行うという今回のような手法は、著しく妥当性を欠くものと言わざるを得ない。そのような世帯の消費水準との均衝を理由として生活保護基準を引き下げることは国民の生存権保障の水準を際限なく引き下げていくことになりかねない。
当会は、厚生労働省に対し、現在行なわれようとしている生活保護基準の引き下げを中止するよう強く要求するものである。
2007(平成19)年12月5日
福岡県弁護士会
会 長 福 島 康 夫
「改正」入管法施行停止を要請するとともに個人情報の集積管理体制構築の動きに対し反対する声明
1 2007年11月20日、先に改正された出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という。)の施行により、テロリストの出入国を水際で防止するためとして、日本に入国する全ての外国人(在日韓国・朝鮮人ら日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者及びその子孫などの特別永住者や16歳未満の外国人等を除く)の顔情報、指紋情報を国が取得して保管する手続が開始された。日本では、年間600万人から700万人の外国人の入出国がある。前記改正入管法の施行により、特別永住者や16歳に満たない者などが除かれるにしても、中短期滞在の外国人のみならず日本を生活の本拠とする永住者や日本人の配偶者である外国人までもが対象とされ、毎年膨大な数の外国人について生体情報が集積されることになる。
まず、「テロの未然防止」という名目で、このような膨大な数の、また広範な範囲の外国人について生体情報を取得し保存するような必要性があるか疑問である。かつて外国人登録法における指紋押捺義務が2000年に完全撤廃された経緯に照らしても、指紋情報の取得を出入国管理の一環として復活させ、更に指紋以外の生体情報も取得することは、プライバシー権の侵害はもちろん国際人権自由権規約7条で禁止する品位を傷つける取り扱いに該当する疑いが極めて強く、同規約26条で禁止された外国人差別にも該当する疑いもある。
そこで、当会は、日本に入国するすべての外国人に対し顔情報、指紋情報の提供を義務付ける制度は外国人のプライバシー権を著しく侵害し、品位を傷つける取り扱いの禁止及び外国人差別に抵触するものであるから、前記改正入管法の施行を直ちに一時停止してその制度廃止を含めた見直しをするよう要請する。
2 今回の改正入管法施行により取得された外国人の生体情報の利用に関しては、犯罪現場などで取得した顔情報や遺留指紋などと照合することが可能となり、既に新設された入管法61条の9により法務大臣は外国の入国管理当局との間で相互にその保有する個人情報を交換することも可能となっている。また、本年10月1日より施行された改正雇用対策法により外国人(特別永住者を除く)の就労状況に関する情報を厚生労働大臣が雇用主から刑罰を背景に強制的に届出させ(同法28条1項、38条二号)、これらの情報提供を法務大臣が受けることができるようになった(同法29条)。同様の制度導入が外国人の就学状況に関する情報についても検討されている。
このように外国人の入出国をはじめ日本における生活状況全般を監視する制度の構築は着実に進展している現状にあり、これを放置すれば、監視社会化の動きは、日本人を含む市民生活全般にまで波及することは必至である。
この点、日本弁護士連合会は、本年11月2日に「人権保障を通じて自由で安全な社会の実現を求める宣言」を採択し、個人情報の統合、利用を厳格に規制し、特に警察などが市民の生活や思想を監視するために情報を利用することを防止することなどを提言した。当会も、九州弁護士会連合会とともに、本年7月21日、「監視社会を招かないためのルール確立を求める宣言」において、「警察や行政機関が、適正な手続に基づかず個人情報の収集・利用をしないための措置をとる必要がある」との立場を明らかにしてきたところである。
改めて当会は、国が日本人であると外国人であるとを問わず個人識別情報を取得したり、異なる目的を持つ国家機関の間で個人情報を共有したり、外国の国家機関との間で相互に情報を交換したりするなどして、個人ごとの生活上の情報を集積管理する仕組みを構築する監視社会化への動きがあることを注視し、その動きに対して人権保障の観点から反対していく所存である。
2007年(平成19年)12月10日
福岡県弁護士会
会 長 福 島 康 夫
死刑執行に関する会長声明
1 本年12月7日、東京拘置所において2名、大阪拘置所において1名の死刑が執行された。今回の死刑執行は、昨年12月の4名、本年4月の3名、本年8月の3名に続くものである。
当会は、これまで死刑制度の存廃について国民的な議論が尽くされるまで死刑の執行を停止するよう法務大臣に求め続けてきたが、今回また死刑が執行され、この1年間だけで13名もの死刑確定者に対し死刑が執行されたことは誠に遺憾である。
2 我が国では、過去において、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定している。また、本年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。
1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見でも、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。
また、死刑と無期刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されておりその明確な基準が存在しない。
我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなって来た。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く、このような状況で直ちに死刑が執行されることには問題がある。
3 国際的にも、1989年(平成元年)に国連総会で採択された死刑廃止条約が1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。すなわち、すでに死刑制度を全面的に廃止した欧州地域をはじめとし死刑廃止国が133か国であるのに対し、死刑存置国は64か国(本年10月2日現在)である。そのような潮流の中で、国連規約人権委員会は、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
4 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、日本弁護士連合会も、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
当会も、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組み、死刑が執行されるたびに、会長声明において、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
5 2007年(平成19年)5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
さらに、本年11月15日には、国連総会第三委員会において、すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が採択され、近日中に本会議で採択されようとしている。
6 このように国内的にも国際的にも、日本の死刑制度に対する非難が高まった状況下において断行された今回の死刑執行は、我が国が批准した条約を尊重せず国際社会の要請に応えないことを宣言するに等しい。
7 当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。
2007年(平成19年)12月10日
福岡県弁護士会 会 長 福 島 康 夫
2008年01月24日
経済産業省産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会の割賦販売法改正に関する最終報告に対する会長声明
1 経済産業省産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会において2007年11月29日付で割賦販売法改正についての報告書が取りまとめられた(以下「報告書」という)。
これまで福岡県弁護士会は、悪質商法を助長するクレジットが深刻な消費者被害をもたらすことから、その救済と安全なクレジット社会の実現に向けて、割賦販売法改正を求め、シンポジウムの開催、意見書の提出、請願署名活動等に取り組んできた。
今回の報告書は、(1)個品割賦購入あっせん業者取引において、特定商取引法類型の取引を行う販売業者が与信契約に関する重要事項について不実の告知を行った場合、あるいは、与信契約の締結を必要とする事情または与信契約締結の判断に影響を及ぼすことになる重要なものについて不実の告知を行った場合、購入者は与信契約を取り消すことができるよう措置を講ずるとして、その範囲で過失を要件としない既払金の返還を認めた点、(2)すべての割賦購入あっせん業者に一般的義務として悪質な加盟店を排除し適正与信義務を負うこととした点、(3)特商法適用取引の場合の個品割賦購入あっせん業者に加盟店の勧誘販売方法等に関する調査義務を課し、その調査結果に基づく適正与信義務を負うものとした点、(4)すべての割賦購入あっせん業者に対し、一般的過剰与信防止義務と信用情報機関の利用義務を定め、支払い能力を超える与信を行わない点の義務違反の場合には行政処分の対象にするとした点、(5)特商法適用取引の場合の個品割賦購入あっせん業者には収入、資産等の支払い能力、販売数量や過去の購入履歴、購入意思などについて個別具体的な調査義務を課し、その場合における信用情報機関の利用義務及び調査結果の信用情報機関への登録義務を定めた点、このほか、(6)現行法の割賦要件を撤廃して、1回払い・2回払いのクレジット契約も適用対象とした点、(7)指定商品・指定役務制を廃止した点、(8)個品割賦購入あっせん業者に対し登録制を導入、(9)個品割賦購入あっせん業者に契約書面交付義務と、訪問販売に伴う個品式クレジット契約にクーリング・オフを導入した点、など従来我々が求めてきた消費者保護の観点に立つ重要な制度の策定であり、画期的な内容であると評価できる。
しかしながら、報告書の意見にはなお不十分な部分があるので、改正の趣旨をさらに徹底させる見地から、福岡県弁護士会は割賦販売法改正の国会審議にあたり、以下の点を強く求めて意見を述べるものである。
2 悪質な販売業者が個品割賦購入あっせん取引を利用して不適正な販売方法により被害を生じさせる場合は、特定商取引法適用の訪問販売等の取引に限らず店舗取引においても大規模な被害が発生している(ココ山岡事件)。また、そもそも個品割賦購入あっせん取引は、販売業者がクレジット業者から代金の一括立替払いを受け、クレジット業者が購入者に割賦代金の支払い請求を行う構造なので、自ら代金回収の努力をしない販売業者の悪質商法に利用されやすい。また、購入者が販売契約の詐欺や債務不履行などに遭い契約の無効、取消、解除を訴え契約関係を解消しても、既に支払った代金を回収できず、あるいはトラブルの交渉の間も支払い請求を受けるので、悪質商法被害の負担は消費者にかかる。しかし、クレジット業者は加盟店管理を通じて販売業者の履行体制を調査・確認できる体制にあり、かつ、クレジットシステムを提供して加盟店との提携の利益を得る地位にあるので、クレジット契約のトラブルに関し加盟店のもたらすリスクを負担すべきは消費者ではなくクレジット業者であるべきである。さらに、特定商取引法適用に限定して店舗取引を除外すると、実態は訪問販売と異ならない販売方法を店舗販売に用いて脱法的な行為を助長することになり、規制の趣旨が潜脱されるおそれがある。
したがって、クレジットシステムから生じる被害の防止義務、救済措置は、特定商取引法適用取引以外の取引についても要請され、報告書のように限定すべきではない。
同様に、加盟店調査等の管理を適正に行なう適正与信義務についても、店舗取引被害が生じている実態や店舗取引に詐欺行為などの悪質商法があった場合には課されないのは狭すぎることから、特定商取引法適用取引に限るべきではなく広く適正与信義務を導入すべきである。
報告書は過剰与信防止についての義務に関し、何が過剰与信かの判断を一律に決めず、具体的な調査義務を課すことにしている。しかし実効的な過剰与信防止のためには明確な基準が必要であり、具体的数値を設けるか、具体的数値を盛り込んだ詳しいガイドラインを策定すべきである。
3 福岡県弁護士会は、今後国会での割賦販売法改正案審議にあたり、以下の点を強 く求めるものである。
記
(1) 個品割賦購入あっせん取引において、販売契約の取消・無効・債務不履行による解除事由がある場合は、クレジット事業者に対し、既払い金の返還を求めることができるよう特定商取引法適用取引に限らず対象を個品割賦購入あっせん全体に拡大すべきである。
(2) 適正与信を行うための具体的な加盟店調査義務、契約締結過程の調査義務は、適用対象を店舗取引・通信販売を含む個品割賦購入あっせん全体に拡大すべきである。
(3) 過剰与信に当たるか否かの具体的な判断基準が必要であり、年収基準などのわかりやすい基準を設けるべきである。
2008年1月24日
福岡県弁護士会 会 長 福島康夫
2008年03月13日
捜査機関の違法捜査に抗議し代用監獄の廃止等を求める声明
2008年(平成20年)3月11日
最高検察庁 検事総長 但木敬一 殿
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
福岡地方裁判所小倉支部は,2004年(平成16年)3月24日に福岡県北九州市八幡西区で起きた殺人・放火事件について,いわゆる代用監獄における身柄拘束を濫用した相当性を欠く捜査手法があったなどとして,本年3月5日,被告人に無罪判決を言い渡した。
すでに無罪が確定した佐賀北方事件,鹿児島志布志事件,富山氷見事件に引き続き,またしても捜査機関の違法・不当な捜査が裁判で明らかにされた。
本件では,検察官は,代用監獄において同房者が被告人の犯行告白を聞いたということを理由として被告人を起訴した。
これに対し,裁判所は次のように判断した。
? 捜査機関は,同房者を通じて捜査情報を得る目的で,意図的に被告人と同房者を同房状態にしたと いうことができ,代用監獄への身柄拘束を捜査に利用したとの謗りを免れない。
? 同房者は,捜査官に伝えることを隠して,被告人から話を聞き出しており,被告人は,房内で,知ら ない間に同房者を介して取調べを受けさせられていたのと同様の状態にあったということができ,本来 取調べと区別されるべき房内での身柄留置が犯罪捜査のために濫用された。
? 本件における事情聴取は,単なる参考聴取の域を超え,同房者を通じて被告人の供述を得ようとす るもので,虚偽供述を誘発しかねない不当な方法であり,被告人の犯行告白が任意になされたものと はいえない。身柄留置を犯罪捜査に濫用するもので捜査手法の相当性を欠いており,適正手続確保 のためにも,証拠能力を肯定することはできない。
本件は,代用監獄における身柄拘束を捜査機関が組織的・計画的に利用すれば,どのような捜査でもできることを示している。警察庁は,本年1月24日,都道府県警察本部と全警察署に取調べ監督担当を捜査部門とは別の総務又は警務部門に置き取調べ状況をチェックすることなどを内容とする「取調べの適正化指針」をまとめたが,身内によるチェックでは違法・不当な捜査を防止できないことは本件をみても明らかである。
当会は,これまでも,代用監獄は冤罪・人権侵害の温床になることを指摘して代用監獄は廃止されるべきであることを主張し続けてきた。
国連拷問禁止委員会も,昨年5月に日本政府に対し,“法を改正し捜査と拘禁を完全に分離すること”を勧告している。
当会は,現在,捜査機関の違法・不当な取調べを防止するために,捜査機関における取調べの全過程の可視化(録画)の実現を求めて運動を続けているが,捜査機関の違法・不当な捜査を防止するためには,取調べの可視化に加えて代用監獄の廃止が実現されなければならない。本件は,その必要性を強く裏付けている。
わが国では,来年5月までに裁判員裁判が始まることになっているが,捜査機関による違法・不当な捜査が今後も続き,それが裁判で延々と争われることになると,およそ裁判員裁判は成り立たない。裁判員裁判実施を間近に控えた今こそ,取調べの可視化と代用監獄の廃止を実現されるべきである。
当会は,本件における捜査機関の違法・不当な捜査に強く抗議するとともに,違法な取調べを防止するために取調べの全過程の可視化の実現と代用監獄の廃止を求めるものである。
2008年03月26日
少年法「改正」法案に反対する会長声明
法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会は、本年2月13日、少年法「改正」要綱(骨子)を採択し,さらに,3月7日少年法「改正」案が閣議決定され国会に上程された。
この「改正」案は,?犯罪被害者等による少年審判の傍聴規定を新設するとともに,?犯罪被害者等による記録の閲覧及び謄写を認める要件を緩和しているが,以下の理由により,当会は,同法案に強く反対する。
1 法案は,少年審判における犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図ることを理由に,審判の傍聴規定の新設を提案する。当然ながら,犯罪被害者等の権利利益の保護が図られなければならないことは言うまでもない。
しかしながら,そもそも少年審判に関しては,少年の健全な育成を目的とするという少年法の理念(少年法1条)の下,懇切を旨として和やかに行わなければならないと定められる(同法22条)など,裁判官,調査官,付添人ら関係者が少年に対して何よりも受容的に接したうえ,教育的・福祉的な働きかけを行うことにより,少年がその犯した非行事実に真摯に向き合い内省を深める場となることが強く期待されている。その場合,少年の率直な発言をきっかけに,少年の持つ問題性を浮き彫りしに,その未熟さを自覚させ,真の健全育成のための働きかけを行っていくことが重要である。
ところが,こうした審判を被害者等が傍聴するということになれば,精神的に未成熟な少年は,事実に関する自己の率直な意見や心情,気持ちをそのまま発言することに躊躇を覚え,必然的に被害者を意識した建前の発言に終始し,結果として,審判に関わる関係者からの少年の問題に迫った更生への働きかけができなくなるおそれがあるだけでなく,真実の発見にも悪影響を及ぼすことも危惧される。
また,非行の原因や少年の処分は,少年の家庭生育環境や生い立ちなどに遡って総合的に考えることが必要であるところ,被害者等の傍聴が許されるならば,プライバシーの観点から,こうした部分を審判において明らかにすることが躊躇され,非行の原因を十分に掘り下げることができず,かつ,適切な処分を選択することができなくなる。
さらに,多くの場合,審判は,刑事事件に比べても事件発生から間もない時期に開かれるため、少年のみならず、被害者にとっても、心理的な動揺が収まっていない状況で開かれることが多い。にもかかわらず、被害者が少年審判を傍聴することになれば、当該審判廷は必然的に非常に緊張度の高いものとなり、上記少年法の理念に基づく審判の実践はおよそ困難となる。
加えて,犯罪被害者等による少年審判の傍聴については,現行制度においても,少年審判規則第29条に基づき,裁判所が認める範囲で審判への在席が認められる場合があるのであるから,この規定に加えて「改正」案のような規定を設ける必要性は認められない。
2 同様に,犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るという理由から,記録の閲覧・謄写を認める要件を緩和する点については,その対象範囲を法律記録の少年の身上経歴などプライバシーに関する部分についてまで拡大することになるが,少年の更生に対して悪影響を及ぼすおそれも懸念されるところであり,この拡大は認めるべきではない。
3 犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るという理由から,今なすべきことは,各関係機関が被害者等に対し,2000(平成12)年少年法「改正」で導入された,被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法第5条の2),被害者等の意見聴取(少年法第9条の2),審判の結果通知(少年法第31条の2)の各規定の存在をさらに丁寧に知らせ,これを被害者等が活用する支援体制を整備すること,さらには,より抜本的に犯罪被害者に対する早期の経済的、精神的支援の制度を拡充することである。
以上
2008(平成20)年3月26日
福岡県弁護士会
会 長 福 島 康 夫
2008年06月18日
消費者行政の一元化と地方の相談体制強化を求める会長声明
近年,こんにゃくゼリーによる窒息死事故や「船場吉兆」による一連の食品偽装表示事件が発覚し,また輸入冷凍餃子への毒物混入事件等により食品の安全・表示分野に対する消費者の信頼は著しく損なわれ,深刻な社会不安が広がった。また,ガス湯沸かし器一酸化炭素中毒事件,シュレッダーによる指切断事件,住宅の耐震構造偽装事件により,製品や住宅の安全性が大きな問題となった。更に,取引分野においても,年々巧妙化する振り込め詐欺,サラ金の違法取立,次々販売・モニター商法等に代表される悪質商法被害,英会話教室NOVAや福岡県に本店を置く株式会社エフエーシーの破産手続の開始等による消費者トラブルなど,多種多様な消費者被害が次々と発生ないし顕在化している。これに対し,従来の産業・業界別の縦割行政では,業界の育成を第一義としており消費者被害への対応が後手に回っている上に,それぞれの管轄と法的手続が複雑に分岐・錯綜しているために,これらの消費者被害の発生防止や被害救済の面において不十分である。
一方,各地の消費生活センターなど地方自治体の相談窓口による相談・あっせん解決は,消費者にとって身近で頼りになる被害救済手段として重要である。ところが,自治体の地方消費者行政予算は,ピーク時の1995年度には全国200億円(都道府県127億円)であったものが2007年度は108億円(都道府県46億円)に落ち込むなど年々削減されており,地方の相談窓口は,十分な相談体制がとれない,あっせん率が低下している,被害救済委員会が機能していないなど,多くの問題を抱えている。
地方自治体における法律相談関連予算の規模も拡大することは望めない状況にある。
また,各消費生活センターにおいても,人件費削減のために相談員の有期雇用化が進み,そのため経験を積んだ相談員が退職していく上に,相談員の研修費用が削減されており,相談のノウハウの承継が困難となっている。
このような状況下において,2007年10月,福田康夫内閣総理大臣は,就任直後の所信表明演説において「生産第一という思考から,国民の安全・安心を重視し真に消費者や生活者の視点に立った行政に発想を転換し,消費者保護のために行政機能の強化に取り組む」と述べ,2008年1月18日の第169回通常国会での施政方針演説では「各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的に推進するための強い権限をもつ新組織を発足させ併せて消費者行政担当大臣を常設する。新組織は国民の意見や苦情の窓口となり,政策に直結させ,消費者を主役とする政府の舵取り役になるものとする」旨表明した。
これを受けて自民党消費者問題調査会は,本年3月19日,「産業育成官庁から独立し,消費者・生活者目線で他省庁に指令を出す『消費者庁』の新設(強い監督権限)」,「地方消費者行政の充実」,「違法収益のはく奪」,「相談窓口の一元化」などを骨子とする最終取りまとめを行なった。また,民主党も消費者庁の創設に加えて,消費者保護官(オンブズパーソン)構想を提言するなど,野党各党も検討を進めている。3月27日には国民生活審議会総合企画部会が部会報告において消費者・生活者を主役とした行政への転換を提言し,4月2日には政府の消費者行政推進会議が発足した。
福田康夫内閣総理大臣は,本年4月23日,消費者行政推進会議において,「消費者を主役とする『政府の舵取り役』としての消費者庁(仮称)を来年度から発足させる」との意向を明らかにし,消費者に身近な問題を取り扱う法律は消費者庁に移管することや,地方消費者行政の強化を打ち出した。そして,消費者行政推進会議は,本年6月13日に,消費者に身近な30の法律を主管或いは共管することを明記したほか,消費者庁の果たす役割として,所管庁に対する指示・勧告権限など縦割り・すき間行政の弊害に対し迅速に対応するための諸権限や新規立法権限を持つ,司令塔の役割を求める最終報告を取りまとめたところである。
当会は,この方針を高く評価するものである。消費者が主役の実効性ある制度とするためには,新組織に消費者行政を一元化し,十分な権限を与えるとともに,都道府県・市町村など消費者に身近な地方相談窓口において,人的及び物的体制を十分に確保することが必要である。よって,当会は以下のような新組織や制度の創設を強く求める。
1.新組織が消費者政策の企画・立案を行なうとともに,消費者被害が多発する主要な分野については事業者に対する規制監督権限を直接行使できるよう,関係法の所管を新組織に移管し,かつ縦割りを排除した横断的・一元的な規制監督権限を付与すること。
2.新組織が消費者の権利擁護の理念の下にその責任を果たせるよう,消費者団体に新組織に対する調査・勧告権限発動を求める申立権を付与し,新組織の運営に消費者が参加し監督することが可能な組織とすること。
3.新組織に消費者・事業者・公益通報者等からの被害関連情報を一元的に集約し,調査・分析・公表する権限を与えた上,この権限に実効性を持たせるため,被害の原因究明等のための機関を設置すること。
4.消費者行政は地方自治そのものであるという視点に立った上で,消費者の苦情相談が地方自治体の消費者生活相談窓口で適切に助言・あっせん等により解決されるよう,地方の相談体制の充実,情報の集約と発信,国と地方の連携等の施策を強力に推進できるような制度・体制を構築し,そのために必要な予算を国の責任で確保すること。
5.新組織ないし関係省庁が調査把握した情報に基づき,違法収益の機動的な凍結及びはく奪を行ない,適正な手続のもとで被害者に分配する制度を導入すること。
2008年6月16日
福岡県弁護士会
会長 田邉宜克
2008年07月03日
少年法「改正」法案成立に対する会長声明
本年6月11日、参議院において、政府提出にかかる少年法一部「改正」法案が、民主、自民、公明三党により修正されたうえで可決成立した。
当会は、本年2月13日、法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会が、少年法「改正」要綱(骨子)を採択し、同年3月7日、少年法「改正」案が閣議決定され国会に上程された時点で、同「改正」法案は、少年の健全な育成を目的とするという少年法の理念を没却し、ひいては、社会全体の安全にも悪影響を及ぼすとして同法案に強く反対の意見を表明した。しかも、当会のみならず、日弁連及び全国の多数の弁護士会が、同様の反対の意見表明をしてきたにもかかわらず、十分な審議もなされず短期日のうちに成立に至ったことに対して、遺憾の念を禁じ得ない。
今回の「改正」法は、国会の審議の過程で、被害者傍聴の要件として、「少年の健全育成を妨げるおそれがない」ことを明記したうえ、12歳未満の少年の事件は傍聴対象事件から除外し、12歳、13歳の少年事件の被害者傍聴については、少年が精神的に特に未成熟であることを十分考慮しなければならないとの修正を施すなど、少年法の理念と目的の重要性に一定の配慮がなされたことは意義がある。
しかし、被害者による審判傍聴を許すにあたって、予め弁護士付添人の意見を聴かなければならないとし、少年に弁護士付添人がないときは、家庭裁判所が弁護士付添人を付さなければならないとしつつも、その例外を設けるなど不十分な点は否めないうえ、被害者が少年審判を傍聴することに対する根本的な問題点は、依然として払拭できない。
すなわち、審判を被害者等が傍聴することになれば、精神的に未成熟な少年は、事実に関する自己の率直な意見や心情、気持ちをそのまま発言することを躊躇し、審判に関わる関係者からの少年の問題に迫った更生への働きかけができなくなるおそれがある。また、被害者にとっても、少年審判は心理的な動揺が収まっていない状況で開かれることが多いため、被害者が傍聴する少年審判廷は必然的に非常に緊張度の高いものとなり、上記少年法の理念に基づく審判の実践はおよそ困難となる。さらに、プライバシーの観点から、少年の家庭生育環境や生い立ちなどに遡って非行の原因を掘り下げ、少年の適切な処分を選択するということができなくなる。以上の結果、少年に対して適切な処分が不可能となり、そのことはひいては社会全体の安全にも悪影響を及ぼすことになる。
当然ながら、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られなければならないことは言うまでもないが、この点に関して今なすべきことは、各関係機関が被害者等に対し、2000(平成12)年少年法「改正」で導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法第5条の2)、被害者等の意見聴取(少年法第9条の2)、審判の結果通知(少年法第31条の2)の各規定の存在をさらに丁寧に知らせ、これを被害者等が活用する支援体制を整備すること、さらには、より抜本的に犯罪被害者に対する早期の経済的、精神的支援の制度を拡充することである。
当会としては、今回の「改正」が再度見直されることを求めると共に,家庭裁判所に対して,少年法の理念を損なうことのないよう,厳格な運用を強く求める。
2008(平成20)年7月2日
福岡県弁護士会
会 長 田 邉 宜 克
2008年09月03日
伊藤和也さん殺害に対する抗議声明
2008(平成20)年9月2日
伊藤和也さん殺害に対する抗議声明
福岡県弁護士会
会 長 田 邉 宜 克
福岡市に本拠を置く「ペシャワール会」スタッフ伊藤和也さんが,拉致され,その後,殺害された。
福岡県弁護士会では,5月23日,憲法9条と国際貢献を考えるシンポジウムを開催し,「ペシャワール会」現地代表の中村哲医師にご講演いただいたばかりである。中村医師によれば,日本が過去半世紀以上にわたって一度も海外で軍事行動を起こしていないという歴史的な事実が,アフガニスタンの住民に良好な対日感情を育み,日本人であるがゆえ,身体・生命が守られ,無事,活動を進めることができたとのことであった。その体験談から,我々は、日本国憲法の平和主義が,民間の人道支援活動を実質的に支える意義をも有することを改めて認識することができた。
伊藤さんは,ペシャワール会現地スタッフとして,献身的に農業技術支援に取り組み,アフガニスタンの多くの民衆から,感謝と尊敬を集めていたとのことである。
伊藤さん殺害の実行犯やその動機の詳細は未だ明らかではない。しかし,いかなる動機であれ,尊い人命を奪う卑劣な行為を許すことはできない。
福岡県弁護士会は,伊藤さんの献身的な活動とその実績に対し,深い敬意を表し,謹んで哀悼の意を表するとともに,伊藤さんを殺害した卑劣な行為に強く抗議する。そして,伊藤さんの遺志に報い,民間の人道支援活動を支えるためにも,日本政府に対し,日本国憲法の平和主義を全世界にアピールする活動を推進するよう強く求めるものである。
以 上
2008年12月02日
ストリートビューサービスの中止を求める声明
2008年(平成20年)12月1日
福岡県弁護士会 会 長 田 邉 宜 克
本年8月5日から、Google(グーグル)社は、「Street View(ストリートビュー)」機能サービスの提供を開始した。
これは、東京、大阪など12都市について、グーグル社のホームページ上で、地図の道路上のある地点を指すと、同社が撮影専用自動車で移動しながら撮影したその地点での360度の画像が見える機能で、主要道路に限らず、住宅街の狭い道路をも対象とした広範囲の画像が撮影・公表されている。そのような撮影を意識しない多数の市民が写っており、中には、ラブホテルに入る寸前のカップル、立ち小便をしている男性、路上でキスをする学生等も含まれていた。
これらは、原則として正面の顔画像はぼかしがかかっているものの、撮影場所が明確に特定できるため、対象者を知っている人には、対象者の特定が可能である。また、顔にぼかしがかけられていない人の画像も散見されるほか、カメラの位置が歩行者の視点より約1メートルも高いため、通常であれば塀によって遮られる民家の中をのぞき見る形式の画像も散見される。
しかし、わが国においては、公道での様子であっても、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由(プライバシー権の一種である肖像権)を有する(最判昭44.12.24,京都府学連事件判決、東京地判平7.9.27等)。
グーグル社の行為には、撮影の場面において?都市のほぼ全域にわたる広範かつ無限定の多数の市民の肖像を根こそぎ撮影していること、?高い位置からの撮影のため、撮影対象が家屋内にも及んでいること、?事前に公表目的での撮影を行うことを説明していないこと、また、公表の場面において、?問題のある画像を事前に個別チェックしていないこと、?テレビのニュース番組等のように一時的・背景的に映像が流れる場合と異なり、撮影場所が特定できる状態で長期間画像がさらされること、?電子データの特性上、画像が容易かつ半永久的に第三者により2次利用されうるという問題点がある。これらの点を、グーグル社のホームページ自体がきわめて多数の市民の目にさらされる強力な媒体であることと考え合わせれば、プライバシー権侵害の程度は大きい。
これに対し、ストリートビューは、遠隔地の画像が簡単に見られるという便益をもたらすものの、このような多数の市民に対するプライバシー権侵害を強いても仕方がないといえるほどの対立利益があるとは言えない。
ユーザーの申告によって後から削除する仕組みによっても、すべての被害者が問題画像に気づく保証はなく、また、削除されたとしても2次利用の被害があり得るし、最初からプライバシー権侵害がなかったことにはならない。
グーグル社は、上記?〜?の問題点の抜本的解決を早急に図るべきであり、それができない場合には、このような画像の収集及びサービスの提供を中止するよう強く求める。
2009年05月21日
声明(裁判員制度実施・被疑者国選拡大について)
会 長 声 明
1 はじめに
本日、裁判員裁判制度が施行されるとともに、被疑者国選弁護人制度の対象事件枠が大幅に拡大されました。このような刑事司法制度改革の節目にあたって、当会は次のとおり決意を表明します。
2 裁判員裁判の実施にあたって
主権者である国民が参加する裁判員裁判の審理は、従前、「調書裁判」と批判されてきた事態を脱却して、直接主義・口頭主義・当事者主義に基づく公判中心の裁判を実現する、刑事司法制度改革の契機となるものです。
裁判員裁判が実施されるまでの間に、公判前整理手続における検察官手持証拠開示が拡大されるなどの変化も生じていますが、取調全過程の録画による可視化が実現していないことや集中審理に対応しうるように保釈を原則とする制度的確立がなされていないことなど多くの重大な課題が残っていますので、引き続き被告人の権利擁護のため最大限の努力をしていく必要があります。
当会は、日本弁護士連合会と連携して、裁判員裁判に対応できる弁護技術を研究し、会員に対する研修にも取り組んできましたが、今後も裁判員裁判における弁護人としての経験交流を行うなど会員の研修を強化し、被告人の権利擁護のためにより一層努力する所存です。
また、裁判員裁判の運用状況について一般市民と当会会員によるモニター制度を実施するなどして情報収集をすすめながら、実際に進められている裁判員裁判の検証を行うとともに、裁判員制度の改革及び運用改善に向けた提言を行う所存です。
3 被疑者国選弁護拡大について
被疑者国選弁護の抜本的拡大は、刑事手続における被疑者の権利を充分に保障する基本的条件を整えるものであり、捜査の改革を推進する役割をも有するものです。
この制度は、当会が1990年12月に全国に先駆けて当番弁護士制度をスタートさせ、その後、全国の弁護士会が法律扶助協会(現・日本司法支援センター)と連携して弁護士費用がなくても弁護士に依頼できる被疑者弁護援助制度を実施し推進してきた到達点を示すものです。
当会は、当番弁護士制度をスタートさせて以来どのような地域においても全ての被疑者が弁護人選任の機会を得られるよう、弁護士が少ない筑豊地区へ福岡や北九州地区から弁護士を派遣したり、国選弁護人登録者の拡大などに取り組んできましたが、この制度が被疑者の権利を保障するとともに充実した刑事裁判を実現する前提となることから、当会会員がより一層充実した弁護活動を行えるよう環境整備に力を尽くす所存です。
2009年5月21日
福岡県弁護士会
会 長 池 永 満
2009年06月04日
消費者庁関連法成立に関する会長声明
2009年(平成21年)5月29日,消費者庁及び消費者委員会設置法,並びに同法関連法案が参議院本会議において全会一致で可決成立しました。
これらの法律は,これまでの産業育成の行政から消費者のための行政に大きく転換し,また従来の縦割り行政を打破して,消費者行政全般を司る司令塔としての役割を果たす消費者庁を設置するものです。しかも,当初の政府案に対し,衆議院での超党派の修正により,内閣府に独自の組織として消費者委員会が設置され,その独立と権限が強化されています。
この消費者庁及び消費者委員会は,国の仕組みの変革の基点となるものであり,このような極めて重要な国の組織変更を超党派の合意により断行したことは極めて画期的なことであり,高く評価します。
当会は,2008年(平成20年)6月18日に強力な消費者行政を一元的に担う組織を造ること,地方消費者行政をより充実させること,違法収益のはく奪等に関する実効的な法制度を導入すること等を求める「消費者行政の一元化と地方の相談体制強化を求める会長声明」を発表しています。今回,会長声明で求めた事項につき,その実現に向けた大きな第一歩が踏み出されたことは,繰り返されてきた消費者被害の防止と救済のための大きな前進であって,心より歓迎します。
同時に,当会は,消費者庁及び消費者委員会設置法の附則並びに衆議院と参議院の附帯決議で,今後の検討課題とされた、地方消費者行政の充実のために多くの弁護士が相談員の方々とともによりよい解決に向けて努力すること,市民の手による消費者被害の防止のための重要な制度である適格消費者団体の福岡県での設立を支援すること,悪質業者が得ている違法な利益を被害者に回復させることなどの課題について,消費者の権利擁護の立場から積極的に努力を続けていく所存です。
2009年(平成21年)6月4日
福岡県弁護士会
会 長 池永 満
2009年06月26日
海賊対処法に反対する会長声明
海賊対処法に反対する会長声明
1 今国会に上程されていた「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案は,6月19日,参議院で否決されたにもかかわらず,同日,衆議院の特別多数決で再可決するという形で成立した。しかし,同法は,以下に述べるとおり,日本国憲法に違反するおそれが極めて強いものである。したがって,当会はこの法律の制定に強い遺憾の意を表明するものである。
記
① 自衛隊の海外活動に関する憲法上の制約への違反
同法は,海上保安庁が海賊行為へ対処することに加えて,自衛隊が海賊対処行動を行うことや一定の場合に自衛官が武器を使用することができる旨を規定する一方,その活動地域や保護対象となる船舶について何らの限定も加えていない。しかも,同法は緊急な事態に対処する特別措置法ではなく,恒久的な対応法として位置づけられている。しがたって,同法によれば,自衛隊が,領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項)を大きく超えた全世界の公海上で,全ての国籍の船舶に対する海賊行為に対処し,一定の場合には武器使用まで行うことを可能にすることになる。
しかしながら,日本国憲法は,恒久平和主義の精神に立ち,その第9条は武力による威嚇又は武力の行使を放棄し一切の戦力不保持,戦争放棄を宣言しているのであるから,本来,自衛隊の海外活動については,憲法上大きな制約が課されていると解されるところであり,同法はこの憲法上の重大な制約に違反するおそれが極めて大きい。
② 恣意的な武器使用につながる危険が大きいこと
しかも,同法では,自衛官が船体射撃(海賊船の機関部をめがけての射撃)や危害射撃(人に危害を与える射撃)を行う要件が,「他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由」(同法6条)など,きわめて曖昧な規定内容となっているため,恣意的な判断の下に安易な武器使用がなされる危険性を否定できない。このような権限を自衛官に与えることは,一切の武力行使を禁止した憲法9条に違反するおそれが極めて大きい。
③ 民主的統制の観点からも重大な問題が存すること
さらに,同法は,自衛隊の海賊対処行動の判断は,内閣総理大臣の承認のもと防衛大臣が行うものとし,内閣総理大臣は国会に事後的な報告をすれば足りると規定しており,国会は承認機関ですらない。そして,海賊対処行動が急を要する場合には,内閣総理大臣の承認すら不要としている。このように同法は,海賊対処行動の権限を防衛大臣に集中させた内容となっており,民主的統制の観点からも重大な問題を有すると言わざるを得ない。
2 結論
現に海賊行為が行われているソマリア沖の問題を解決するために我国を含めた国際協力が必要であることは言うまでもない。しかしながら,武力を放棄し恒久平和主義を宣言した日本国憲法を有する我が国がとるべき国際協力の方法は,自衛隊の海外派遣という手段ではなく,無政府状態を原因とする貧困状態の解消に向けた支援活動など非軍事的国際協力によるべきである。したがって,海賊対処法は執行することなく,速やかにその廃止の手続きが執られるべきである。
以上
2009年6月25日
福岡県弁護士会 会長 池 永 満
2009年07月10日
生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明
生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明
生活保護における「母子加算」(削減前の月額は都市部で2万3,260円、支給要件は15歳以下の児童を養育していること)は、厚生労働省告示により、段階的削減を経て本年4月1日に完全に廃止され、約10万世帯のひとり親世帯、約18万人の子どもが影響を受けることとなった。母子加算の廃止による収入減のために、十分な医療を受けることができなかったり、高等学校の入学に際しての費用や学費が支払えず、進学や通学を断念したり、また、修学旅行や部活動への参加が不可能となったりする子どもたちが続出することが懸念される。かかる事態は子どもの生存権・成長発達権・教育を受ける権利の保障の観点から看過することができない。
母子加算廃止の論拠として、「一般母子世帯の消費生活水準との均衡」、すなわち、母子加算を受給している世帯の消費生活水準が生活保護を受けていない一般母子世帯の消費生活水準を上回ることが挙げられている。
しかしながら、一般母子世帯の8割以上は働いているにもかかわらず、その年間の就労収入は、平均171万円に過ぎず、本来、生活保護の受給が可能でありながら受給できていないのがその実態である。生活保護基準以下の生活を強いられている一般母子世帯が多数存在することは、母子加算を廃止する根拠とはなりえず、母子加算は廃止すべきではなかったと言わざるを得ない。
当会会員が多数訴訟代理人を務めたいわゆる生活保護学資保険裁判の最高裁判決は、2004年3月16日、高校修学が生活保護制度で保障されていない当時の状況下で、「近時においては、ほとんどの者が高等学校に進学する状況であり、高等学校に進学することが自立のために有用であるとも考えられるところであって、生活保護の実務においても、前記のとおり、世帯内修学を認める運用がされるようになってきているというのであるから、被保護世帯において、最低限度の生活を維持しつつ、子弟の高等学校修学のための費用を蓄える努力をすることは、同法の趣旨目的に反するものではないというべきである」と判示し、高校修学の有用性を宣言した。これを受け、2005年度から、生活保護制度において生業扶助として高校修学費用の一部が支給されることともなった。ただ、この支給の基本額は月額5,300円程度であり、修学旅行積立金・課外活動費等を含む毎月の修学費を賄える金額ではない。そのために、これまで、ほとんどの母子世帯は、支給される加算の一部をきりつめ子どもの高校修学費用に充てたり、そのために蓄えたりしてきた。母子加算が無くなると、それが著しく困難になる。母子加算の廃止は、保護世帯の高校修学の有用性を宣言した先の最高裁判決の趣旨を踏みにじるものである。
当会は、わが国の社会において、貧困と失業が拡大し続け、国民の生存権が重大な危機に瀕している現状の中で、本年度、「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を設置し、2009年5月25日の定期総会において、「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を行った。弁護士会として、生活保護受給を求める申請代理人の活動等による法的緊急支援サービスに取組み、社会的セーフティ・ネットを再構築するために、できうる限りの活動を推進することを宣言するとともに、国及び地方自治体に対し、社会保障費の抑制方針を改め、また、ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図り、セーフティネットを強化すべきという呼びかけを行った。
また、以前から、当会は、2007年10月29日には「生活保護基準の引き下げについて慎重な検討を求める声明」、同年12月5日には「生活保護基準の引き下げに反対する声明」を発出し、生活保護基準に関する議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取して十分に時間をかけて慎重になされるべきである旨の意見をその都度表明してきたところである。
当会は、母子家庭の子どもたちが尊厳をもって成長し、貧困が次世代へ再生産されることのないよう、国会において、母子加算を従前の保護基準に戻し、かつこれを法律で定めるよう強く要請するものである。
2009年(平成21)7月9日
福岡県弁護士会
会 長 池 永 満
2009年07月30日
死刑執行に関する会長声明
死刑執行に関する会長声明
1 本年7月28日,大阪拘置所において2名,東京拘置所において1名の合計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
これは昨年の15名,本年1月の4名に対する執行に引き続き,森英介法務大臣の就任後3度目の死刑執行である。このように短期間に,連続して多数の死刑執行がなされていることに対し,当会は,厳しく抗議するものである。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,本年6月にも,無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審開始決定がなされ(足利事件),これを契機に精度の低いDNA鑑定に依拠した裁判の問題点が指摘されるという事態も生じている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件においても誤判が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 国際的にも,1989年(平成元年)に国連総会で死刑廃止条約が採択されて以来,死刑廃止が国際的な潮流となっている。1990年当時,死刑存置国は96か国で死刑廃止国は80か国だったのが,昨年(2008年)現在では,死刑存置国は59か国で死刑廃止国及び死刑停止国は138か国となっている。さらに,昨年12月18日には,国連総会において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が採択された。また,2007年(平成19年)5月18日に示された,国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち,死刑確定者の拘禁状態はもとより,その法的保障措置の不十分さについて,弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で,死刑の執行を速やかに停止すること,死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと,恩赦を含む手続的改革を行うべきこと,すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと,死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと,すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。しかも,昨年10月には,国際人権(自由権)規約委員会により,我が国の人権状況に関する審査が行われ,我が国の死刑制度の問題点を指摘するともに制度の抜本的見直しを求める勧告がなされた。
5 このような中で,我が国の死刑制度の抱える問題点について何ら改革が講じられることなく,今回の死刑執行が行われたことは極めて遺憾であり,当会としてはここに政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
20009年(平成21年)7月30日
福岡県弁護士会
会長 池永 満
2009年07月31日
法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明
法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明
警察庁は、7億円の補正予算を用いて、全国15地域で、街頭監視カメラを設置するモデル事業を実施する。福岡県警は、その1事業として、2009年度中に、子どもの登下校中の防犯のためとして、福岡市中央区大名校区に25台の監視カメラを自ら設置し、地元民間団体に管理を委託するという。
しかしながら、犯罪防止は、貧困や差別など犯罪の根本原因を取り除くための福祉施策の充実も含め、総合的な防止策を多角的に検討すべきである。
そして、警察等による市民監視や不透明な個人情報の収集・利用は、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会を支える言論・表現の自由を萎縮させる危険がある。
犯罪検挙のための警察の捜査手段は、具体的な嫌疑を前提とし、基本的人権を制約する場合には法令の根拠を必要とし、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。犯罪防止のための監視が一定の場合に許されるとしても、具体的にその場所で起こり得る犯罪の軽重や蓋然性を度外視し、抽象的な「安全」や、単なる主観にすぎない「安心感」のために人権を制約することまで許されているのではない。
警察自身による監視カメラの設置の場合は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷監視ビデオ判決(東京高判昭63.4.1)、西成監視ビデオ判決(大阪地判平6.4.27)など、令状主義を重視する判決があり、これらの判決によれば、①犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、②証拠保全の必要性・緊急性、③手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
ところが、全国的にも、福岡県下においても、犯罪は減少しており、大名校区で、特に通学路において犯罪が頻発しているとの事実は認められない。従って、その設置は、違法であるといわなければならない。
そもそも、監視カメラの設置に関する基準をはじめ、捜査機関に市民の行動が提供されないよう、適正な手続きを定めてプライバシー権を保障する法律や条例の制定が必要不可欠である。
当会は2007年7月21日、2008年4月1日にも同様の意見を述べているが、なんら法律や条例が制定されないまま警察主導による街頭監視カメラが増設されていることに対し強く遺憾の意を表するとともに、当該事業を撤回するよう強く求めるものである。
2009年(平成21年)7月31日
福岡県弁護士会会長 池 永 満
2009年08月06日
消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明
消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明
1 これまでの産業育成に重点を置いた行政から消費者・生活者の権利擁護のための行政に大きく転換をはかるべく,消費者庁関連3法が今国会で成立し消費者庁と消費者委員会がまもなく発足する運びとなっている。当会は,既に本年6月4日に消費者庁関連法成立に関し会長声明を発したところであるが,消費者庁長官及び消費者委員会委員(及び委員長)の人事は,今後の消費者行政のあり方に極めて重大な影響を及ぼすものであり,この度あらためて声明を行う次第である。
2 消費者庁は消費者問題に関する全省庁の司令塔としての役割を担う組織であり,その長官は,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物でなければならない。また、消費者委員会は消費者庁から独立し消費者の権利擁護のために極めて強力な権限を与えられた組織である。その委員は「消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に関して優れた見識を有する者のうちから」任命する(消費者庁及び消費者委員会設置法10条1項)とされている。したがって,各委員は,消費者委員会設置の趣旨を十分理解し,消費者の権利擁護のために,その強力な権限を行使することが期待できる人物でなければならない。その上,委員長は,委員の互選により選任すべきものである(同法12条1項)。
3 そこで,消費者庁長官及び消費者委員会委員について適正な人事がなされるよう,政府に対し,以下の各事項を要求する。
(1) 消費者庁長官選任にあたっては,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物を選任すること
(2) 消費者委員会の発足にあたっては,現在の準備参与を直ちに委員に任命するべきでなく,どのような基準で同法10条にいう「見識」を有していると判断したのか,その任命基準を明確にし,その任命理由について十分な説明責任を果たすこと
(3) 消費者委員会委員の任命については,実際の消費者問題に精通し経験豊かな人物を選任すべきこと
(4) 消費者庁長官及び消費者委員会委員選任にあたっては,既に衆議院が解散され,新組織発足時には新内閣も発足しているという状況を踏まえ,慎重な人事を行なうこと
2009(平成21)年8月6日
福岡県弁護士会 会長 池 永 満
消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明
消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明
1 これまでの産業育成に重点を置いた行政から消費者・生活者の権利擁護のための行政に大きく転換をはかるべく,消費者庁関連3法が今国会で成立し消費者庁と消費者委員会がまもなく発足する運びとなっている。当会は,既に本年6月4日に消費者庁関連法成立に関し会長声明を発したところであるが,消費者庁長官及び消費者委員会委員(及び委員長)の人事は,今後の消費者行政のあり方に極めて重大な影響を及ぼすものであり,この度あらためて声明を行う次第である。
2 消費者庁は消費者問題に関する全省庁の司令塔としての役割を担う組織であり,その長官は,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物でなければならない。また、消費者委員会は消費者庁から独立し消費者の権利擁護のために極めて強力な権限を与えられた組織である。その委員は「消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に関して優れた見識を有する者のうちから」任命する(消費者庁及び消費者委員会設置法10条1項)とされている。したがって,各委員は,消費者委員会設置の趣旨を十分理解し,消費者の権利擁護のために,その強力な権限を行使することが期待できる人物でなければならない。その上,委員長は,委員の互選により選任すべきものである(同法12条1項)。
3 そこで,消費者庁長官及び消費者委員会委員について適正な人事がなされるよう,政府に対し,以下の各事項を要求する。
(1) 消費者庁長官選任にあたっては,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物を選任すること
(2) 消費者委員会の発足にあたっては,現在の準備参与を直ちに委員に任命するべきでなく,どのような基準で同法10条にいう「見識」を有していると判断したのか,その任命基準を明確にし,その任命理由について十分な説明責任を果たすこと
(3) 消費者委員会委員の任命については,実際の消費者問題に精通し経験豊かな人物を選任すべきこと
(4) 消費者庁長官及び消費者委員会委員選任にあたっては,既に衆議院が解散され,新組織発足時には新内閣も発足しているという状況を踏まえ,慎重な人事を行なうこと
2009(平成21)年8月6日
福岡県弁護士会 会長 池 永 満
2009年09月09日
改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
経済・生活苦での自殺者が年間7000人に達し,自己破産者も18万人を超え,多重債務者が200万人を超えるなどの深刻な多重債務問題を解決するため,2006(平成19)年12月に改正貸金業法が成立し,出資法の上限金利の引下げ,収入の3分の1を超える過剰貸付契約の禁止(総量規制)などを含む同法が2010年(平成22)年6月19日までの政令で定める日に完全施行される予定である。
改正貸金業法成立後,政府は多重債務者対策本部を設置し,同本部は①多重債務相談窓口の拡充,②セーフティネット貸付の充実,③ヤミ金融の撲滅,④金融経済教育を柱とする多重債務問題改善プログラムを策定した。そして,官民が連携して多重債務対策に取り組んできた結果,多重債務者が大幅に減少し,2008(平成20)年の自己破産者数も13万人を下回るなど,着実にその成果を上げつつある。
他方,一部には,消費者金融の成約率が低下しており,借りたい人が借りられなくなっている,特に昨今の経済危機や一部商工ローン業者の倒産などにより,資金調達が制限された中小企業者の倒産が増加しているなどを殊更強調して,改正貸金業法の完全施行の延期や貸金業者に対する規制の緩和を求める論調がある。
しかしながら,1990年代における山一証券,北海道拓殖銀行の破綻などに象徴されるいわゆるバブル崩壊後の経済危機の際は,貸金業者に対する不十分な規制の下に商工ローンや消費者金融が大幅に貸付を伸ばし,その結果,1998年には自殺者が3万人を超え,自己破産者も10万人を突破するなど多重債務問題が深刻化した。
改正貸金業法の完全施行の先延ばし,金利規制などの貸金業者に対する規制の緩和は,再び自殺者や自己破産者,多重債務者の急増を招きかねず許されるべきではない。今,多重債務者のために必要とされる施策は,相談体制の拡充,セーフティネット貸付の充実及びヤミ金融の撲滅などである。
そこで,今般設置される消費者庁の所管乃至共管となる地方消費者行政の充実及び多重債務問題が喫緊の課題であることも踏まえ,2006(平成18)年9月1日の当会の「例外なき金利規制を政府に強く求める会長声明」を実効化させるため、当会は国に対し,以下の施策を求める。
1 2010(平成22)年6月19日までに施行予定の改正貸金業法を早期(遅くとも本年12月まで)に完全施行すること。
2 自治体での多重債務相談体制の整備のため相談員の人件費を含む予算を十分確保するなど相談窓口の充実を支援すること。
3 個人及び中小事業者向けのセーフティネット貸付をさらに充実させること。
4 ヤミ金融を徹底的に摘発すること。
2009年9月9日
福岡県弁護士会
会長 池 永 満
2010年03月10日
ストリートビューに関する要請書
要請書
福岡市長 殿
2010年(平成22年)3月10日
福岡県弁護士会
会 長 池永 満
要請の趣旨
1 福岡市個人情報保護条例を改正し、市民の肖像などの情報が大量にインタ ーネット上に流出しない措置を講じて下さい。
2 それまでの間、個人情報保護審議会において、グーグル社のストリートビ ューサービス等の多数の人物・家屋等を映し出すインターネット上の地図検 索に関する調査を実施するとともに、事業者に対し、不適切な市民のプライ バシーの収集・利用を行わないよう指導、是正勧告等の必要な措置(福岡市 個人情報保護条例52条)をとって下さい。
要請の理由
当会は、2008年12月、Google(グーグル)社の「Street View(ストリートビュー)」機能サービスに対し、プライバシー権保護の観点から、問題点の抜本的解決を早急に図るよう求め、それができない場合には、このような画像の収集及びサービスの提供を中止するよう強く求める会長声明を発しました。
それは、東京、大阪など12都市について、グーグル社のホームページ上で、事前の同意なしに広範に撮影された何万という市民の肖像が、地図情報と連動する形で突然公開されたためです。
当会は、グーグル社の行為に対し、撮影の場面において、①都市のほぼ全域にわたる広範かつ無限定の多数の市民の肖像を根こそぎ撮影していること、②高い位置からの撮影のため、撮影対象が家屋内にも及んでいること、③事前に公表目的での撮影を行うことを説明していないこと、などの問題点を指摘しました。
しかしながら、グーグル社は、これらの問題点に対処することなく、2009年12月、福岡市全域を含む福岡県の市民のプライバシー情報を公開しました。
すでに全国約40の地方議会において、これらの行為に対する対処を求める意見書が採択されています。
日本弁護士連合会も、本年2月3日に、第三者機関を設置する条例の改正や、個人情報保護審議会によるそれまでの対処を自治体に求める意見書を関係機関に送付しました。
福岡市においても、市民のプライバシー権を保護する観点から、市民情報が密かに撮影され、住宅地など、公開する必要性の乏しい地域を世界中にさらす行為を繰り返されないよう、所要の条例の改正をなされるとともに、それまでの間、個人情報保護審議会において直ちに調査に着手し、プライバシー権保護のために必要な措置を講じられるよう求めます。

