意見
2003年08月27日
「『弁護士報酬敗訴者負担の取扱い』に対する当会の意見
司法制度改革推進本部 本部長小泉純一郎殿へ
2003年8月27日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
1. 一般的(両面的)敗訴者負担制度について
(結論) 一般的(両面的)敗訴者負担制度の導入には反対である。
(理由) 当会は本年2月12日、「弁護士報酬の一般的敗訴者負担制度を導入することには強く反対する」との決議をあげ、これを司法改革推進本部に提出していた。ところがこの問題の具体化を推進している司法改革推進本部司法アクセス検討会では、次のような意見によって具体化が推進されている傾向にある。例えば、
・ 「訴訟が起こしやすくなればなるほどいいかどうか。司法制度に過剰に期待するのは考え直したほうがいい。」
・ 「現在の裁判は概ね勝つべき者が勝っており、勝敗の見通しが立てにくいことはない。」
・ 「敗訴者負担制度導入の根拠は公平である。」
・ 「負担させる額は弁護士報酬の一部であるから萎縮効果は小さい」
・ 「弁護士報酬は訴訟に必要な費用であるから、他の訴訟費用と同様に当然に敗訴者負担としてよい。」
等々の意見である。
しかし、これらの意見は、司法制度改革推進法、即ち、司法制度審議会の意見の趣旨に則って行われるべき制度改革作りの目的に反した方向の意見であると言わざるを得ない。当会はこの点にまず反対を表明するものである。\n 司法制度審議会意見書は「21世紀の我が国社会にあっては司法の役割の重要性が飛躍的に増大する。国民が容易に自らの権利・利益を確保実現できるよう、そして、事前規制の廃止・緩和等に伴って、弱い立場の人が不当な不利益を受けることのないよう、国民の間で起きる様々な紛争が公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決される仕組みが整備されなければならない」として、21世紀のあるべき司法制度の姿は「国民にとって、より利用しやすく分かりやすく、頼りがいのある司法とするため、国民の司法へのアクセスを拡充する」と明記しているのである。
ところで、弁護士報酬を訴訟費用ないし訴訟費用と同等に敗訴者に負担させるかどうかは、正に司法制度全体のあり方と密接に関連する問題である。即ち、法律扶助制度が充実していること、証拠の偏在を訴訟において解消する証拠開示の問題、団体訴権が認められていること、権利保護保険が広く市民の間に一般的に普及していることが必要不可欠であり、これら司法アクセスを促進する諸制度が拡充ないし整備されないまま、一般的(両面的)敗訴者負担制度だけを導入するとすれば、市民の裁判利用は著しく阻害されることになる。
現在、わが国では、弁護士報酬は訴訟当事者の各自負担となっている。即ち、昭和46年に民事訴訟費用等に関する法律が制定され、訴訟費用について列挙主義がとられるようになり、弁護士報酬はそこから除外された。これは、敗訴した場合に負担する金額があまりに過大になると訴訟に伴う費用負担のリスクが著しくなり、その結果、訴訟の利用を阻害することになることを懸念して除外されているのである。昭和51年発行の裁判所書記官研修所編「民事訴訟における訴訟費用の研究」7頁にはこのような説明がなされている。
これまで司法アクセス検討会でも、行政訴訟、労働訴訟、公害・薬害等訴訟、不法行為訴訟、消費者と事業者間の訴訟等について大枠の議論がなされ、これらの訴訟については一般的(両面的)敗訴者負担制度を導入するのは適当でないとの方向性が出ているものの、力の格差のない市民間の訴訟や事業者間の訴訟には導入すべきであるとの意見も強い。力の格差のない市民間や事業者間といった一般的な範疇で導入するならば、訴訟手続の大部分に原則導入することになってしまう。しかし、改めて強調するが、弁護士報酬を一般的に敗訴者に負担させる両面的敗訴者負担制度は、力の格差のない市民間の訴訟であっても、敗訴の場合に相手方の弁護士報酬を負担することを考慮することになり、訴訟アクセスを容易にするものではなく、かえって市民の訴訟利用を遠ざけ、阻害する結果になるのである。その結果、両面的敗訴者負担は、新たな事件屋や違法な解決手段を生み出す危険がある。
2. 片面的敗訴者負担制度の導入について
(結論) 片面的敗訴者負担制度の導入について具体的に検討すべきである。
(理由) 市民にとって有利に作用する片面的敗訴者負担制度は、市民が勝訴した場合には自分の弁護士報酬を相手方から回収することができ、敗訴した場合には相手方の弁護士報酬を負担しないというものである。このような片面的敗訴者負担制度は、司法アクセスの促進に資するものであり、両面的敗訴者負担制度とは全く別の機能を持つ制度であり、むしろ市民の裁判利用を促進するものである。\n 片面的敗訴者負担制度は、市民の訴訟利用の促進に資し、審議会意見等の趣旨に合致するものである。当会は、2月12日の決議でもこの点を明らかにしていたが、改めて行政事件や公害・環境に関する差し止め訴訟、消費者契約法10条の取引約款の無効を主張する訴訟、労働訴訟、独禁法24条の不正取引の侵害防止又は予防訴訟等、重要な公益に係る訴訟類型について、片面的敗訴者負担制度を導入し、市民の司法アクセスの促進を\n図るべきであると要求するものである。
これまでのアクセス検討会では、片面的敗訴者負担制度について十分な検討がなされていない。当会は、訴訟結果が公共的利益をもたらす訴訟には片面的敗訴者負担制度を導入すべきことを求め、導入すべき訴訟について、早急に具体的検討がなされるよう求めるものである。\n
犯罪被害者の刑事手続参加の是非に関する意見
日本弁護士連合会 御中
同会犯罪被害者の刑事訴訟手続参加に関する協議会 御中
2003年8月27日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
意見の趣旨
犯罪被害者(犯罪被害者の遺族を含む、以下同じ)が刑事訴訟手続に関与できるような制度は、基本的には認めるべきではない。
意見の理由
1 当会意見形成の経緯
当会としての意見形成に先立ち、人権擁護委員会・刑事弁護等委員会・犯罪被害者支援に関する委員会(以下、「犯罪被害者支援委員会」という)の各委員会に対して意見を求めたところ、その回答内容は、次のとおり大きく相違するものであった。
1: 人権擁護委員会・刑事弁護等委員会の意見
犯罪被害者の刑事訴訟手続参加は、基本的には認めるべきではない。
2: 犯罪被害者支援委員会の意見
訴訟に混乱を与えない程度に限定された範囲内において、犯罪被害者の刑事訴訟手続参加を肯定すべきであり、犯罪被害者に対し次の権利を認めるべきである。
ア 犯罪被害者の在廷権
イ 証拠開示、閲覧・謄写権
ウ 証拠調べ請求権
エ 証人尋問権
オ 被告人質問権
カ 意見陳述権
このため、上記各委員会の意見を踏まえて、常議員会において慎重に議論したうえで、当会としての意見を取り纏めたものである。
2 当会の基本的立場
当会としては、以下に述べるとおり、刑事訴訟の基本構造・無罪推定の原則を厳格に貫徹する観点から、犯罪被害者の刑事訴訟手続参加を認めるべきではなく、また、犯罪被害者支援の視点を考慮しても、犯罪被害者の刑事訴訟手続参加を肯定するべき必然性はない、と考える。\n (1) 刑事訴訟の基本構造\n 犯罪被害者は事件の直接の関係者であるため、当該事件の刑事訴訟手続の内容や結果について強い関心を抱くことは当然である。
しかしながら、刑罰権は国家が独占しており、その具体的実現を目的とする刑事訴訟手続は、刑罰権の存否及びその程度について裁判所が公権的に判断する手続である。この刑事訴訟の基本構造に照らせば、私人である犯罪被害者に刑事訴訟の当事者たる地位を付与することは、許されるべきではない。\n (2) 無罪推定の原則
犯罪被害者が刑事訴訟手続に参加することは、現行刑事訴訟手続の原則である無罪推定の原則にそぐわない。
すなわち、現行の刑事訴訟法は起訴状一本主義等の予断排除の諸制度を擁して、無罪推定の原則を貫徹しているところ、犯罪被害者の刑事訴訟手続への当事者的な参加を認めるとすれば、公判開始時において既に「被害者」の存在を肯定することとなり、この事態は、無罪推定の原則を実質的に稀釈化する結果に繋がる虞がある。特に、裁判員制度の導入が目前となっている現状においては、その危惧を強く抱かざるを得ない。\n 刑事訴訟の現場では様々な形で公訴事実が争われるところ、被害の発生そのものが争われる場合、あるいは、被害が犯罪によるものか否かが争われる場合において、犯罪被害の存否自体が証拠によって証明されていない段階であるにもかかわらず、「犯罪被害者」の存在を肯定しこれに訴訟上の地位を認めることは、明らかに無罪推定の原則に反するものである。
また、上記の如き争点がなく情状が争われているに過ぎない場合であっても、犯罪被害者が刑事訴訟手続に参加することによって、私的制裁の色彩が強まることは否めない。
近時、社会的に注目される事件に関して、刑事訴訟が始まる前からマスメディアによる報道によって被告人が「真犯人」に擬せられる傾向がある。犯罪被害者の刑事訴訟手続参加を容認することは、このような傾向とあいまって、被告人の各種防御権を脆弱化させる結果となることを危惧するものである。
(3) 犯罪被害者支援の視点
犯罪被害者の刑事訴訟手続参加を容認する立場からは、その理由として、真相の究明、名誉回復、適正な刑罰、信頼できる刑事司法の確立等の事由が挙げられている。
しかしながら、いずれの事由についても、犯罪被害者に対する適切な情報の提供と検察官に対する意見具申の権利を認めれば十\分に達成できるものである。容認論が掲げる事由があるからと言って、犯罪被害者が刑事訴訟手続に参加しなければならないという必然性はない。
3 個別的な権利の検討
犯罪被害者支援委員会が犯罪被害者に認めるべきであるとする各種権利について、以下において個別的に検討するが、当会は、いずれの権利もこれを認めるべきではないと考える。
(1)在廷権
犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(以下、「犯罪被害者保護法」という)は、裁判所に対し、犯罪被害者に対する優先的傍聴の配慮義務を課しており(同法第2条)、したがって、現行制度においても、裁判所の裁量の余地を残してはいるものの、犯罪被害者は優先的に傍聴ができる制度となっている。
犯罪被害者支援委員会のいう「在廷権」とは、犯罪被害者が傍聴人という立場で傍聴席に在席することではなく、犯罪被害者に刑事訴訟法上の特別の地位を付与したうえで、その故に犯罪被害者が法廷内に在席することができる権利をいうものとされている。
在廷権容認論は、次項以下で検討する諸権利を犯罪被害者に認めることとした場合に、これらの権利を行使する前提として在廷権なる権利を認めようとするもののようであるが、当会は、次項以下に記載する諸権利の付与について否定的見解をとるので、在廷権なる権利も認めるべきでないと考える。
(2)証拠開示、閲覧・謄写権
現行制度においても、犯罪被害者には、一定の制限はあるものの進行中の訴訟記録の閲覧・閲覧謄写権が認められている(犯罪被害者保護法第3条)。
これに対し、犯罪被害者支援委員会の立場は、検察官の手持ち証拠全部・弁護人手持ち証拠について、犯罪被害者の開示、閲覧・謄写権を認めようというものである。
検察官手持ちの証拠の開示等を認めようとする根拠は、犯罪被害者が検察官に対して十分な意見を述べるためには、その前提として事件の全貌を知る必要があり、そのためには検察官手持ちの証拠の内容を知る必要があるというものである。しかしながら、刑事訴訟における証拠は、適正手続を経て初めて証拠採用されるものであり、証拠採用前の証拠は、裁判官の目にも触れてないものである。このように訴訟手続にも現れていない「証拠」を犯罪被害者に開示することは、刑事訴訟手続の根幹たる諸原則(証拠裁判主義、当事者主義、被告人の防禦権の保障)を揺るがすものであって、断固として容認できない。\n また、弁護人手持ちの証拠の開示、閲覧・謄写権を認めることは、被告人の防禦権の保障の見地から、なおさら容認できない。
(3)証拠調請求権
現行刑事訴訟法が前提とする国家刑罰主義・当事者主義の下では、刑事訴訟における真実の解明は、検察官・弁護人の法廷活動によってなされるべきであり、犯罪被害者が証拠調べを望むときは、検察官に情報を提供するなど検察官を通して行うべきである。
犯罪被害者の証拠調請求権に関する容認論者が指摘するように、犯罪被害者が重要と考える証拠を検察官が軽視する事態は起こり得るが、その場合であっても、犯罪被害者と検察官が協議することによって事態を解決するべきである。なぜならば、検察官とは別に犯罪被害者に証拠調請求権を認めるとなれば、被告人の防御対象が多岐にわたることとなるうえに、検察官立証と犯罪被害者立証とが齟齬する場合も想定され、被告人の防御権が侵害される虞れがあるからであり、また、審理が長期化したり、証拠調べの混乱などにより最悪の場合には真実解明が疎かになることすら想定されるからである。
(4)証人尋問権、被告人質問権
犯罪被害者に証人尋問権・被告人質問権を認めるべきであるとする見解は、犯罪被害者は事件の直接の関係者として事実を最もよく知っており、それらの者が尋問することによって、より真実が解明されるという考えに立っている。
しかしながら、まず、犯罪被害者は事実を正しく認識している場合もあるが、逆に、事件に近すぎるが故に事実を正確に捉えたり伝えたりすることが困難な場合もある。後者のような場合、犯罪被害者が(あるいは、その意向を受けた代理人が)証人尋問・被告人質問をすることにより、かえって真実解明が遠のく虞れも懸念される。
また、犯罪被害者本人(あるいは、その意思を代弁する代理人)による尋問と質問は、犯罪被害者の私怨を晴らす場として利用される危険性をはらんでおり、私的復讐を昇華した現行制度を根底から揺るがす虞れがある。国家刑罰主義・当事者主義とは、まさしくそのような懸念を払拭するために、客観的な目を持った検察官に立証活動を委ねるものである。
(5)意見陳述権
現行刑事訴訟法は、犯罪被害者等に対し被害に関する心情その他被告事件に関する意見陳述する機会を与えている(刑訴292条の2)。
犯罪被害者支援委員会の見解は、現行の上記意見陳述とは別に、犯罪被害者に対し事実関係を含めた最終意見(最終弁論)の陳述を認めるようとするものであり、犯罪被害者に証人尋問等の権利を認めるのであれば、最終意見陳述権も認めるべきであるというものである。
しかし、当会は、犯罪被害者に独自の立証活動を認める制度に反対であるから、これを前提とする意見陳述権についても容認できないところである。
4 結論
以上に述べたとおり、当会は、犯罪被害者が刑事裁判手続に関与できるような制度は、刑事訴訟手続の基本的理念に反する虞れが強く、被告人の防御権を脆弱化させるとともに、私的制裁の色彩を帯びることによって刑事訴訟手続への信頼を失わせる虞れもあるから、これを認めるべきではない、と考える。
犯罪被害者の権利保障という視点が軽視されてきたという指摘は十分に首肯できるものの、これに対する対策は、犯罪被害者の刑事訴訟手続への参加という形ではなくて、別の社会政策として取り組まれるべきである。\n したがって、当会としては、犯罪被害者の刑事訴訟手続への参加に反対するとともに、犯罪被害者の救済に必要な制度を実現するために、別途の検討を行うことを求めるものである。
以上
2003年09月01日
『刑事裁判の充実・迅速化について(たたき台)』に対する意見
2003年9月1日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
第1 刑事裁判の迅速化を考える際の基本的視点について
1 刑事裁判の充実・迅速のためには,現行制度の運用の改善とともに,制度の改革が必要不可欠である。
憲法37条1項は,「すべての刑事事件においては,被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」と定める。
このように,刑事事件における迅速な裁判の要請は,基本的に被告人の権利とされていることに留意されるべきである。
もとより,刑事裁判が行為者の刑事責任という社会的責任の有無及びその内容を決するものであることから,その裁判が迅速かつ適正に行われることは,社会的関心事であり,社会性を有するものであるといえる。
しかしながら,前記のとおり,迅速な裁判の要請が,基本的には被告人の権利として憲法上保障されている上,我が国の憲法において,法定手続の保障(憲法31条)をはじめとして,刑事手続について詳細な規定を設けているのも(憲法33条以下),過去の歴史の中で,刑事手続,刑事裁判の名において,多くのえん罪,誤判,人権侵害を生んだということに対する反省に基づくものであることを銘記すべきである。
刑事手続がなされることによって社会的感銘力が発揮されるという観点でも,また,証拠散逸を防ぐという手続的な観点からも,迅速な裁判が求められるということは理解できるものの,迅速な裁判を形式的に希求することは,刑罰の拙速な実行に陥る危険を有しているものであって,まずは,適正かつ充実した裁判がなされるための運用や制度が構築されることが肝要である。\n
2 我が国の刑事手続は,第二次世界大戦後の刑事訴訟法の制定に際し,いわゆる当事者主義的構造を多く採り入れている。\n 当事者主義は,被疑者,被告人について,これを訴訟の客体としてではなく,訴訟の当事者として,訴追者である検察官と対等の地位を与えることを基本とするものであり,それによって,被疑者,被告人の権利を保障するとともに,双方当事者が,それぞれの立場で主張立証を尽くすことにより,事実が明確になり,実体的な真実発見にも資することになり,適正な裁判が実現するという考え方に基づくものである。
この制度は,検察官と被疑者,被告人とが,実質的にも対等であってはじめて実効性を有するものであり,弁護人制度も,訴訟の場では圧倒的に劣後的立場にある被疑者,被告人を援助するものとして存在する。
しかしながら,我が国の刑事裁判の実情は,警察官及び検察官が捜査段階において収集した証拠,殊に,被疑者が身体拘束を受けた状態で長時間の取調を受け,そこで作成された供述調書といった書証による証拠調を中心として進行している。
したがって,裁判において,争いになった刑事事件の多くは,捜査段階で収集された証拠に対する検討,吟味が手続の中核をなしているといっても過言ではなく,自白調書の任意性,信用性判断のための証拠調手続に多くの時間を費やしているといった状況にある。
3 また,検察官の手持ち証拠については,原則として,検察官が取調請求予定の証拠について開示がなされ,被告人はもとより弁護人としては,他にいかなる証拠が存在するか判らないまま,訴訟が進行し,事案によっては,その進行状況によって,五月雨式に証拠が開示されている。\n しかも,検察庁からの取調請求予定の証拠についても,その開示は第一回公判期日の2週間ないし10日程度前になってなされており,立証趣旨を明記した証拠調請求書(実務では証拠等関係カードをもって代えることが多い)については,公判期日前日になっても交付されず,公判期日当日,法廷で交付されているのがほとんどである(なお,この点は福岡地方裁判所第一審強化方策協議会において何度も改善要求を議題として提案しているが,残念ながら改善される気配はなく,また裁判所も改善について積極でないのが実態である)。\n 裁判の充実,迅速化の方策として,準備手続の活用,争点整理の明確化等が挙げられているが,そのためには,必要かつ十分な準備期間が保障されることが必要最低限の条件である。\n
4 以上のことから,刑事裁判における充実,迅速化のためには以下の点についての根本的な改革が必要不可欠な条件である。
(1) 全面的な証拠開示
(2) 録音録画による取調の全過程の可視化
(3) 保釈制度の改革等身体拘束制度の改革をすることによって、弁護人との実効的な準備の確保を可能にすること\n (4) 刑事訴訟法39条3項を廃止する等の接見交通権の実質的な保障をすることによって、弁護人との実効的な準備を可能にすること\n 充実かつ迅速な裁判は上記の点が実現されるか否かで左右されるといえるほど重要であり,連日開廷や準備手続を整備しても,上記の点が改革できなければ単に形式的に手続を制度化するだけになり,却って,本来の目的である充実した審理や適正な裁判実現を阻害することとなる。
以下「たたき台」について必要な限りで意見を述べる。
第2 その1についての意見
1 準備手続の目的等
(1) 準備手続の決定
同規定案自体に特に異存はないが,早期の証拠開示等によって,十分な準備期間が保障されることが必要である。\n (2) 準備手続の目的
アについては,「公判の審理を充実させ,迅速かつ継続的に行うことができるよう」とすべきであり,イについては削除すべきである。
(3) 裁判員制度対象事件における必要的準備手続・・・ 特に異存はない
(4) 準備手続の主宰者 B案に賛成する。
2 準備手続の方法等
(1) 準備手続の方法
アについて,出頭と書面の提出を並列的に規定しているが,書面の提出は補充的なものにすべきである。
イについて,被告人に対しては黙秘権告知を行い,応答義務がないことを明定すべきである。
ウについては,特に異存はない。
エについては,削除すべきである。
被告人に主張や証拠に関する署名義務を認めるのは相当でない。
(2) 準備手続の出席者
規定案については,特に異存はないが,被告人の出席について,被告人が希望すれば準備手続に出席できる旨の規定を設けるべきである。
当事者である被告人の出席権が保障されるべきだからである。
(3) 準備手続の内容
証拠能力の判断のための事実取調べ,証拠調べに対する決定については準備手続きで行うのではなく公開の法廷での公判手続きにおいて行うべきである。\n 規定案では,「専ら」証拠能力の判断のための取調べとするが,証拠能\力に関する取調及び判断については,それが実体に対する判断とは,理論上は区別されるものの,当該証拠の内容を完全に除外した証拠能力に対する取調や判断というのは現実には想定できず,準備手続において決されるべきではない。\n (4) 準備手続の結果の顕出
準備手続において,被告人が発言,応答等をした場合,これは証拠とされることがないことを明記すべきである。
(5) 準備手続の充実
「できる限り早期に終結させるように努めなければならないものとする」 という規程は削除すべきである。
裁判の充実,迅速の目的のための準備手続に,上記条項が加わると準備手続の拙速を促していると解さざるを得ない。
3 検察官による事件に関する主張と証拠の提示
全面的な証拠の開示をすべきである。
(1) 検察官主張事実の提示
全部の公判事件について行うことを明記すべきである。なお,現在,検察官は裁判所が証拠を開示すべき期間について何度申し入れをしても遵守せず,弁護人としては準備ができなくて困っている状態が続いている。\n この問題は古くて新しい問題であるが,この問題が解解決できれば裁判の充実迅速にとって大きな前進である。なお,検察官が期間の遵守をしなかった場合,一定のペナルティーを課すべきである。
(2) 取り調べ請求証拠の開示
アについては異存はない。イについて,「検察官が開示することが相当でないと認める場合」との規定は削除されるか,さらに要件が具体化,厳格化されるべきである。
(3) 取り調べ請求証拠以外の証拠の開示
全面的な証拠の開示をすべきである。したがって,A案,B案いずれも不十分である。\n
4 被告人側による主張の明示
(1) 主張の明示等
アについては,B案に賛成する。なお,検察官からの完全な証拠開示を前提とすべきである。イについて,B案に「できる限り」という条項入れるべきである。
(2) 開示の方法
特に異存はない
5 争点に関連する証拠開示
前記のとおり,全面的な開示がなされるべきであるが,仮に,かかる規定を設けるとしても,開示による弊害は明白かつ差し迫ったか危険がある場合に限定すべきである。
6 更なる争点整理と証拠開示
前同様特に異存はない。
7 証拠開示に関する裁定
(1) 開示方法の指定
特に異存はない。
(2) 開示命令
被告人は除外されるべきである。他は特に異存はない。
(3) 証拠の提示命令
特に異存はない。
(4) 証拠の標目と提出命令
アについては,特に異存はない。イについては,A案,B案とも反対である。一覧表は開示されるべきである。\n
8 争点の確認等
(1) 争点の確認
特に異存はない。
(2) 準備手続終了後の主張
B案に賛成する。
準備手続において争点整理をする以上,A案の考え方も理解できないものではないが,無垢の者を処罰してはならないという大原則がある刑事裁判において,また,検察官が立証責任を負う刑事裁判において,被告人・弁護人について,争点につき失権効を設けるのは相当でない。
(3) 準備手続終了後の証拠調べの請求
C案に賛成する。
主張と同様に,刑事裁判の原則に照らし,証拠請求についても準備手続において行う旨の規定は肯定できても,失権効を設けるべきではない。
9 開示された証拠の目的外使用の禁止等
(1) 目的外使用の禁止
条項の新設は反対であり,削除すべきである。
解説では記録の暴力団関係者への流出が問題になったために新設をするとのことであるが,当該被告事件の審理の準備以外の目的での使用することを一般的に禁止する規定を新設する根拠とはならない。\n 本規程が新設されれば,記録を当該被告人の民事事件で使用することも禁止され,被告人の共犯者の事件で使用することも禁止されることになり不合理であり,現状と著しく相違している。
また、社会に対して問題を指摘する場合、学術研究の対象となる場合などもあり、一般的に限定されるべきではない。
まして,罰則を設けて禁止する等論外である。
ところで,刑事手続に付随する措置に関する法律第3条は,犯罪被害者に公判調書等の謄写権を認める。その際、被害者には名誉もしくは生活の平穏を害しないことという注意規程はあるが,目的外使用の禁止の規程はない。そのため民事の裁判は勿論,その他の目的にも自由に使用できるのであり,完全に均衡を失している。
(2) 開示された証拠の管理
条項の新設は反対である。
前記開示された証拠の管理責任者は弁護人なのかについては議論が分かれている。それにもかかわらず,弁護人に対して証拠の管理義務を強制できるような制度の復活は困難である。
10 証拠開示に関して証拠開示に応じなかった場合または開示すべき証拠を提出しなかった場合の制裁規定が欠落している。
公訴棄却,あるいは,絶対的控訴理由とするなどの措置が講じられるべきである。証拠の開示についていかに立派な制度を制定しても捜査機関がそもそも開示の対象から外した場合,重要な証拠が闇に葬り去られることになる。
第3 その2についての意見
1 連日開廷の確保等について
連日開廷の原則の法定
明記することには反対ではないが,連日開廷を可能にするための条件が確保さ れているかは大いに疑問がある。\n裁判の迅速化に関する法律4条に明記されるよう,連日開廷を可能にするための人的物的設備を整備するための十\分な財政的措置を採ることが最低限の条件であるが,現在の裁判所の体制では人的,物的条件が整備されておらず,ひとつの事件で連日開廷をした場合,他の事件を犠牲にしなければならないのが実情である。この点の制度改革をどのようにするのか,たたき台は曖昧である。
また,前記のとおり,全面的証拠開示,十分な準備期間,被告人の身体拘束からの解放等が保障されるべきである。\n
2 訴訟指揮の実効性の確保
(1) 国選弁護人の選任
裁判長は弁護人がいなければできない準備手続又は弁護人がなければ開廷することができない場合で,公判期日に職権で弁護人を付する場合は弁護人が正当な理由なく出頭しないとき又は準備手続若しくは公判手続に在席しなかったときに限定すべきである。
正当な理由がある場合にも別の弁護人を選任することは行き過ぎである。
(2) また,裁判長は職権で選任された弁護人に対しては,当該弁護人の準備が十分になされるよう準備手続又は公判期日に十\分に配慮しなければならない旨の条項を追加すべきである。
3 訴訟指揮権に基づく命令の不遵守に対する裁判等
(1) 過料の制裁ないし損害賠償に関する規定を新設することには絶対に反対である。
そもそも,訴訟指揮権は当事者の信頼の上に成り立つものであり,罰則や制裁規定で訴訟指揮の遵守を求める事自体極めて問題である。
また,訴訟指揮が遵守されない事例が散見されたという事実もないのであり,それにもかかわらず弁護権の侵害と直結する重大な問題について,安易に処罰規定を設けるべきではない。
(2) 裁判所による処置請求
絶対に反対である。
本件の規定はすべて裁判所が正しい訴訟指揮をすることを前提にしているが,実際の事件ではことは単純ではない。それにもかかわらず裁判所が一方的に処罰をし弁護士会等に対して処置請求をするという規定は言語道断である。
4 直接主義,口頭主義の実質化
直接主義,口頭主義の実質化をして調書裁判を排除すべきである。
このために,捜査の可視化は最低限必要な条件である。以上の直接主義,口頭主義の実質化は裁判員制度対象事件の場合当然に導入すべきであるが,直接主義,口頭主義の実質化は裁判員制度対象事件以外の事件にも必要不可欠な制度である。
5 即決裁判手続
たたき台の構想は公的弁護制度が完全に実施され,弁護人の援助を受けることが必要な条件である。\n この点についての制度化がない場合当然反対である。
また,裁判手続についてだけを改めても,現状とどの程度違うのかそもそも実効性に疑問がある。
2003年09月11日
労働関係事件への総合的な対応強化に係る意見
2003年9月11日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
当会は,労働関係事件についての総合的な対応を強化する必要があると認め,次のとおり,意見を述べる。
意見の趣旨
1 利用しやすい労働審判制度を
労働関係事件が多発していることから,労働紛争に関して,多様な紛争解決制度が設けられる必要がある。労働検討会で提起された個別労働紛争に関する労働審判制度については,適性・迅速な解決が図られるよう,労使の参与員が裁判官と対等に合議に加わることを認め,定型の申立書を備えるなどして口頭での申\立を可能にし,利用しやすい制度とすべきである。\n 2 相談におけるワンストップサービスを裁判外の行政相談等にあっては,個別労働紛争に係る各行政機関の連携を強化し,官民も含めた関係団体の協力も得て,利用者の便宜に資するワンストップサービスを充実させるべきである。
3 仮処分・本案訴訟の迅速化を
仮処分手続と本案訴訟の審理の迅速化を図るため,仮処分手続については,解雇事件等緊急を要するもことに鑑み,原則として申立後2か月以内に裁判所の判断を出すこととし,本案訴訟についても審理期間を短縮するための諸方策を併せて講じるべきである。
4 労働委員会の機能強化を\n 労働委員会の事務局の専門性を強化するなど,労働委員会の判定機関としての機能を強化するとともに,訴訟段階で初めて出された証拠方法については,時期に遅れた攻撃防御方法として証拠から排除するなど,労働委員会の解決機能\を充実し,実効性を高めるべきである。
5 整理解雇の4要件の法制化を
整理解雇の4要件についてはすみやかに法制化し,行政指導などにより周知徹底を図るべきである。
意見の理由
1 これまでの労働検討会の議論状況に対する評価
議論の前提として,個別労働紛争の増加が共通認識となっているが,それがいかなる背景に基づくのかの議論がなお不足しているように思われる。すなわち,人件費削減に関わる解雇や労働条件の不利益変更等の紛争が増え,働くルールそのものの空洞化が生じている。こうした中で,検討会全体の議論は,労働者の地位・権利に配慮した考察がなお不十分であるように感じられる。\n 2 喫緊の課題
そうした中において,当会は,実現すべき喫緊の課題に絞って意見の趣旨を述べることとしたものであり,早急に実現可能な内容として提案する。\n 3 意見の趣旨に至った理由
(1) 中間報告で導入が提唱されている労働審判制度にあっては,簡易・迅速・安価な紛争解決という趣旨に照らし,調停に類似する制度として導入することが望ましい。その場合,専門的知識を有する労使のスタッフを確保し,裁判官とともに,参与として,労使委員が実質的に関与するなどして労働審判制度を利用しやすいものにする必要がある。
(2) 行政段階における,いわゆるたらい回しを防止し,利用者の便宜に徹することが喫緊の課題である。現在でも関係行政機関の連絡協議がなされているようであるが,今後は弁護士会も含めた官民の連携と協力体制の構築を図るべきである。\n (3) ヨーロッパの労働裁判制度においては,従来から早期解決が重視されている。一方,我が国では,仮処分が本案訴訟化し,本案訴訟も長期化している。そこで,仮処分制度本来の趣旨・目的に立ち返り,とくに解雇事件における緊急の救済の必要性にも鑑み,仮処分手続の審理期間を短縮すべきである。本案においても,本案移行後の計画審理,集中証拠調べを実施することで,審理期間の短縮を図るべきである。
(4) 労働委員会の機能強化については,これまでも数多くの議論がなされ,提言もなされてきたが,現状に鑑みれば,一つの方策として,労働委員会事務局の専門性を強化することも有力な一方策として考えられる。\n (4) リストラ・整理解雇については,すでに確立された判例法理があるので,これを法制化し,アナウンス効果を高めることで,解雇に対する認識を高め,併せて行政指導によって趣旨の徹底を図ることが重要と考える。
2004年05月25日
個人情報保護条例案のご案内
2004年5月25日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成14年8月5日に住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」と略。)が稼働を開始しました。この住基ネットに関しては,関係各方面から個人情報保護についての懸念が表明されていたことから,所要の措置として万全の個人情報保護法が整備されることが稼働の前提とされていました。しかし,現実にはその整備がなされないまま稼働されている状況です。\n ところで,住基ネット問題はもとより,今日的な情報化社会における個人情報を巡る様々な問題に鑑みるなら,地方自治体レベルでも個人情報保護条例の整備が問われることは言うまでもありません。
そこで,平成14年10月,人権擁護委員会住基ネット小委員会では,福岡県下の市町村に対して個人情報保護条例の整備状況に関するアンケート調査を実施しました。その結果,個人情報保護条例を整備していない自治体が約3割存在していることが判明しました。また同条例は存在しているけれども,その内容は不十分といわざるを得ないという自治体もありました。\n その結果を踏まえて,当小委員会で個人情報保護条例案及び住基ネットに係る個人情報保護の条例案を作成し,各自治体の制定作業ないし改正作業の参考にして頂きたいと考えた次第です。
なお,これらの条例案は平成15年2月14日に福岡県下の全自治体に送付しています。
個人情報保護条例モデル条文案
2004年5月25日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
(目的)
第1条 この条例は、行政機関その他が保有する個人情報を保護することについて必要な事項を定めるとともに、当該地方公共団体が保有する個人情報について、その開示及び訂正を請求する権利を保障することにより、個人情報の収集、保管、利用及び提供の適正化を図り、市民(町民・村民)等の基本的人権を擁護することを目的とする。
(収集に関する制限)
第2条 実施機関は、個人情報を収集するときは、個人情報を取り扱う事務の目的を明確にし、当該事務の目的を達成するために必要最小限の範囲内で、適法かつ公正な手段により収集しなければならない。
2 実施機関は、個人情報を収集するときは、本人から直接収集しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、本人以外のものから個人情報を収集することができる。
(1) 法令又は条例に定めがあるとき
(2) 本人の同意があるとき
(3) 個人の生命、身体の安全又は財産の保護等のため、緊急かつやむを得ないと認められるとき
(4) 出版、報道等により公にされたものから当該個人情報を収集するとき
(5) 国若しくは地方公共団体から収集することが事務の執行上やむを得ないと認められる場合
(6) 前各号に掲げるもののほか、実施機関が個人情報保護審議会(以下「審議会」という)の意見を聴いて、公益上の必要があると認めたとき
3 実施機関は、前項第3号又は第5号に規定する場合において、個人情報を収集したときは、審議会にその事実を報告しなければならない。
4 実施機関は、第2項第3号、第5号及び第6号に規定する場合において、個人情報を収集したときは、速やかに収集目的を明示した書面によりその事実を本人に通知しなければならない。
(収集禁止事項)
第3条 実施機関は、次の各号に掲げる事項に関する個人情報を収集してはならない。
(1) 人種、民族、門地、出生、病歴その他社会的差別の原因となる事実に関する事項
(2) 思想、信条、支持する政党及び信仰する宗教に関する個人情報
(3) 犯罪に関する事項
(業務の登録)
第4条 実施機関は、個人情報の保管等に係る業務を新たに開始しようとするときは、あらかじめ、次に掲げる事項を個人情報登録業務登録簿に登録しなければならない。
(1) 業務の名称
(2) 業務の目的
(3) 個人情報の記録の内容
(4) 個人情報の記録の対象者の範囲
(5) 個人情報の収集の方法
(6) 個人情報の記録の保護管理責任者
(7) 個人情報の電子計算システムの記録の有無
(8) 前各号に掲げるもののほか、規則で定める事項
2 実施機関は、前項の登録に係る業務を変更し、又は廃止するときは、速やかに当該登録を修正し、または抹消しなければならない。
3 前2項の規定にかかわらず、実施機関は、緊急かつやむを得ない理由により、あらかじめこの規定による登録をすることができないときは、業務を開始し、又は変更等した日以後において、第1項の規定による登録又は前項の規定による登録の修正等をすることができる。
4 実施機関は、前3項に規定する業務を登録、変更又は廃止したときは、規則で定めるところにより、速やかに審議会に報告するとともに、市民等の閲覧に供しなければならない。
(適正管理)
第5条 実施機関は、個人情報の保管をするときは、個人情報の正確性及び安全性を確保するため、次の各号の定める事項について必要な措置を講じ、適正な維持管理を行わなければならない。
(1) 個人情報を正確かつ最新の状態に保つこと
(2) 個人情報の改ざん、紛失、滅失及びき損その他の事故を防止すること
(3) 個人情報の漏洩の防止を図ること
2 実施機関は、保有する必要のなくなった個人情報については、確実かつ速やかに廃棄し、又は消去しなければならない。ただし、歴史的文化的価値が生じると認められるものについては、この限りでない。
(職員の責務)
第6条 実施機関の職員は、職務上知り得た個人の秘密を漏らし、又は不当な目的に使用してはならない。その職を退いた後も同様とする。
(罰則)
第7条 前条の規定に違反して、個人の秘密を漏らし、または不当な目的に使用した者は、○万円以下の罰金に処する。
(利用及び提供に関する制限)
第8条 実施機関は、個人情報を取り扱う事務の目的の範囲を超えて、個人情報を当該実施機関内において利用し(以下「目的外利用」という)、又は当該実施機関以外のものへ提供(以下「外部提供」という)してはならない。
2 前項の規定にかかわらず、実施機関は、次の各号のいずれかに該当する場合は、目的外利用もしくは外部提供をすることができる。
(1) 法令又は条例に定めがあるとき
(2) 本人の同意があるとき又は本人に提供するとき
(3) 個人の生命、身体の安全又は財産の保護等のため、緊急かつやむを得ない理由のあるとき
(4) 前各号に掲げるほか、あらかじめめ実施機関が審議会の意見を聴いて、公益上の必要があると認めたとき
3 実施機関は、前項の規定により外部提供をする場合は、外部提供を受けるものに対し、個人情報の使用目的若しくは使用方法の制限その他の必要な制限を付し、又はその適切な取扱いについて必要な措置を講じることを求めなければならない。
4 実施機関は、第2項の規定により目的外利用又は外部提供したときは、規則で定める事項を記録しておかなければならない。
5 実施機関は、第2項第3号の規定する場合において、目的外利用または外部提供したときは、審議会にその事実を報告しなければならない。
6 実施機関は、第2項第3号及び第4号に規定する場合において、目的外利用又は外部提供したときは、速やかにその事実を本人に通知しなければならない。
(開示の請求)
第9条 何人も、実施機関の保有する自己の個人情報の開示の請求をすることができる。
2 死者の個人情報は、次の各号に掲げる場合に開示することができる。
(1) 相続人が、被相続人である死者から相続した財産に関する情報の開示を請求するとき
(2) 相続人が、被相続人である死者から相続した不法行為による損害賠償請求権等に関する情報の開示を請求するとき
(3) 死者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、当該死者の死亡当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む)、子又は父母が、慰謝料請求や遺贈等、当該死者の死に起因して相続以外の原因により取得した権利義務に関する情報の開示を請求するとき
(4) 親権者が、死亡時において未成年であった当該親権者の子に関する情報について開示を請求するとき
(5) 前各号に掲げる場合のほか、審議会の意見を聴いた上で、実施機関が開示の請求を認めるとき
3 未成年者又は成年被後見人の法定代理人(以下「法定代理人」という)は、本人に代わって前2項の開示の請求(以下「開示請求」という。)をすることができる。
4 実施機関は、開示請求があったときは、当該開示請求に係る個人情報を公開しなければならない。
5 実施機関は、開示請求に係る個人情報が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、当該個人情報を開示しないことができる。
(1) 法令又は条例の規定により、開示することができないと認められる個人情報
(2) 開示請求者以外のものに関する情報を含む個人情報であって、開示することにより、当該開示請求者以外のものの正当な利益を害することになると明らかに認められるもの
(3) 個人の評価、判定、診断、指導、選考、相談等に関する個人情報であって、開示をしないことが正当であると明らかに認められるもの
(4) 開示することにより、個人の生命、身体、財産又は社会的地位の保護、犯罪の予防、犯罪の捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがあると明らかに認められるもの\n(5) 国、地方公共団体又は他の実施機関等との間における協力、依頼等に基づいて作成し、又は取得した個人情報であって、開示することにより、これらのものとの協力関係又は信頼関係を著しく損なうおそれがあると明らかに認められるもの
(6) 市(町・村)、国又は他の地方公共団体の機関が行う調査、争訟、交渉、取締り、監督、検査、許認可等の事務業務に関する個人情報であって、開示することにより、事務の公正かつ適正な執行に著しい支障が生じると明らかに認められるもの
6 実施機関は、開示請求に係る個人情報に、前項各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分が含まれている場合において、当該部分を容易に、かつ、開示請求の趣旨を損なわない程度に分離することができるときは、当該部分を除いて、開示しなければならない。
7 実施機関は、第5項各号のいずれかに該当する個人情報につき、一定期間の経過により開示を拒む理由が消滅したときは、これを開示しなければならない。
(訂正の請求)
第10条 実施機関等が保管等している自己の個人情報について、事実の記載に誤りがあると認める者は、実施機関に対し、当該個人情報の訂正の請求をすることができる。
(削除の請求)
第11条 実施機関が本条例の趣旨に反して自己の個人情報を収集又は保管していると認める者は、実施機関に対し、当該個人情報の削除の請求をすることができる。
(中止の請求)
第12条 実施機関が保管する個人情報の記録について、当該条例の趣旨に反して個人情報の目的外利用又は外部提供しているとき、又は、しようとしているときは、何人も、その中止の請求をすることができる。
(請求の手続)
第13条 第9条第1項もしくは第2項の規定による開示請求、第10条の規定による訂正の請求、第11条の規定による削除の請求又は前条の規定による中止の請求をしようとする者は、実施機関に対して、本人又はその親権者等の法定代理人もしくは保佐人等であること(保佐人等にあっては、当該請求がされている代理権の範囲内であること)を明らかにして、次に掲げる事項を記載した開示請求書を提出しなければならない。
(1) 請求者の氏名及び住所
(2) 請求に係る個人情報の記録の内容
(3) 訂正、削除又は目的外利用若しくは外部提供の中止の請求の場合は、その内容及び理由
(4) 前3号に掲げるもののほか、規則で定める事項
第14条 実施機関は、前条の開示請求書を受理したときは、受理した日の翌日から起算して14日以内に、開示請求に係る個人情報を開示する旨又は開示しない旨の決定をしなければならない。
2 実施機関は、前条の請求に係る情報が大量であるため、又は大規模な災害等の発生のため事務の執行に著しい支障を生じるおそれがある等やむを得ない理由により、第1項に規定する期間内に同項の決定をすることができないときは、開示請求書を受理した日の翌日から起算して30日を限度として、その期間を延長することができる。この場合において、実施機関は、開示請求者に対して、速やかに当該延長の期間及び理由を書面により通知しなければならない。
3 実施機関は、第1項の決定をしたときは、又は開示請求をした者(以下「開示請求者」という。)に対して、速やかに当該決定の内容(個人情報の開示を行う場合には、その日時及び場所を含む)又は不存在の旨をを書面により通知しなければならない。
4 前項の場合において、実施機関は、開示請求に係る個人情報の全部又は一部を開示、訂正、削除又は目的外利用若しくは外部提供の中止をしない旨の通知をするときは、その具体的な理由及び当該決定に対して異議申立てができる旨を明示しなければならない。\n
モデル条例の要件について
2004年5月25日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
市町村において制定されるべき個人情報保護条例において、必要不可欠な条項は以下の通りです。モデル条例案をご参照の上、ご検討ください。
1 条例の目的 条例の目的として、「個人情報保護」すなわち、住民の人権を保護することを明記すべきです(1条)。
2 行政機関による個人情報の収集を制限する規定
行政機関が、正当な理由もなく、個人の情報を取得することは憲法13条に違反し、許されません。
?収集目的を明確にし、当該目的達成に必要な範囲内で、?適法かつ公正な手段で、?原則として本人から直接、取得するという明確な収集制限規定(2条)をおくべきです。
思想、信条及び宗教に関する個人情報、社会的差別の原因となる個人情報等のセンシティブ情報の収集の原則禁止規定(3条)を定めるべきです。
違法な個人情報の取得がなされないためには、このような個人情報の収集を制限する規定が不可欠です。
3 管理規定
個人情報の保管にかかる業務について、登録の制度を設け(4条)、保管が必要でなくなった場合の廃棄、消去義務を明記し(5条)、適切な管理を行う条項を定めるべきです。
4 行政機関による個人情報の目的外利用を禁止する規定情報の利用目的を明確にするとともに、その利用目的の変更を認めないこと、目的外利用を禁止することが、行政機関による個人情報の乱用を防止するために必要です。
条例では、目的の変更を認める規定はなく、許されない形態にしています。
さらに、単なる秘密漏泄だけでなく、個人情報の不正使用を禁じ(6条)、その罰則を定める(7条)など目的外利用を禁止を徹底すべきです。また、目的外利用や外部提供に際しては、記録を残し、審議会への報告を行い、本人へ通知することを義務づけるべきです(8条)。
5 実効性のある情報開示、訂正、抹消請求権規定個人情報を、公的機関からみだりに把握されないという消極的なプライバシー権の考え方は、行政の肥大化に伴って、すでに大量の個人情報が集積している公的機関に対し、自己の情報がどのように把握されているのかの開示を求め、それが誤っている場合には、訂正を求め、さらには、違法に保有されている自己情報を抹消する権利が確保されなければならないという積極的な自己情報コントロール権(憲法13条)の考え方に発展しています。
従って、情報の開示、訂正、利用停止請求権が明確に規定されていなければなりません(9〜12条)。
情報が誤っている場合に、訂正・削除を行うか否かが実施機関の決定にゆだねられるのではなく、原則として当然訂正・削除がなされるべきです。
モデル条例では、死者の個人情報に対する開示請求を定めています。非開示の理由も、単なる「おそれ」では足りず、「明らかなおそれ」を課し、制限的にすべきです。部分開示についても明言し、これを制限的にすべきです。開示の可否の決定期間も短期にすべきです(14条)。
住民基本台帳ネットワークにかかる個人情報保護の条例案
2004年5月25日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
(目的)
第1条 この条例は、全ての国民に対して基本的人権の享有を保障し、個人として尊重されることを保障する日本国憲法の崇高な理念に則り、市〔町・村〕又は市長〔町長・村長〕が住民基本台帳法(以下、「法」という。)に規定する事務を管理し、又は執行するにあたって、個人の住民票に記載されている事項(以下、「住民票記載事項」という。)を適正に管理するために構ずべき事項を定め、及びこれを明らかにすることにより、市民の個人情報の保護を図ることを目的とする。\n(用語)
第2条 この条例で使用する用語の意義は、法で使用する用語の例による。
(市長の一般的責務)
第3条 市長〔町長・村長〕は、住民基本台帳事務の処理にあたり、市民〔町民・村民〕に関する住民票記載事項につき正確な記録が行なわれるよう事務処理の適正化を図るとともに、住民票記載事項の漏えい、滅失又はき損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。
(電気通信回線による福岡県知事への通知)
第4条 法第30条の5第2項及び住民基本台帳法施行令(以下、「令」という。)第13条第4項の規定に基づき市長〔町長・村長〕の使用に係る電子計算機から電気通信回線を通じて福岡県知事の使用に係る電子計算機に送信する事項は、次の各号に規定するものに限る。
一 氏名
二 出生の年月日
三 男女の別
四 住所
五 住民票コード
六 法第30条の5第1項に規定する住民票の記載等に関する事項で政令で定めるもの
七 令第13条第3項に規定する法第9条第1項に規定する通知を受けた旨
2 法第30条の5第1項に規定する住民票の記載等に関する事項につき定める政令に改正が行なわれた場合には、当該事項の送信にあたり、市長〔町長・村長〕は、○○市〔○○町・○○村〕個人情報保護審議会(以下、「審議会」という。)の意見を聴取し、その意見を市民〔町民・村民〕に公表しなければならない。\n(処理状況等の審議会への報告等)
第5条 市長〔町長・村長〕は、その使用に係る電子計算機とそれ以外のものの使用に係る電子計算機との間で電気通信回線を通じて送受信を行なった住民票記載事項の処理状況並びに当該処理により発生した苦情(住民票記載事項に係るものに限る。)及びその処理の内容について、毎年1回以上、審議会に報告しなければならない。
2 前項で報告しなければならない処理の状況には、少なくとも次に掲げる事項を含むものとする。
一 法第9条第1項の規定による他の市町村から市〔町・村〕の区域内に住所を変更した者に係る当該他の市町村長への通知
二 法第9条第1項の規定による市〔町・村〕の区域内から他の市町村の区域内に住所を変更した者に係る市長への通知
三 法第12条の2第2項の規定により政令で定める事項を住所地市町村長へした通知
四 法第12条の2第2項の規定により政令で定める事項を交付地市町村長から受けた通知
五 法第12条の2第3項の規定により政令で定める事項を住所地市町村長から受けた通知
六 法第12条の2第3項の規定により政令で定める事項を交付地市町村長へした通知
七 法第24条の2第3項の規定による最初の転入届又は最初の世帯員に関する転入届を受けて行なう転出地市町村への通知
八 法第24条の2第4項の規定による政令で定める事項の転入地市町村長への通知
九 法第30条の5第1項及び令第13条第3項の規定による前条第1項各号に掲げる事項の福岡県知事への通知
3 第1項の報告を実施するにあたっては、住民基本台帳法施行規則第25条の規定を参考にしなければならない。
4 市長〔町長・村長〕は、第1項に掲げる事項について、審議会に報告後、市民〔町民・村民〕に公表するものとする。\n(送信先の利用状況の審議会への報告等)
第6条 市長〔町長・村長〕は、第4条第1項の規定により市民〔町民・村民〕に関する事項を市長〔町長・村長〕の使用に係る電子計算機から福岡県知事の使用に係る電子計算機に送信したときは、送信した個人情報の利用状況について、福岡県知事に対して毎年定期的に報告を求め、その状況を審議会に報告し、並びに規則で定める事項につき議会に報告し及び記録して一般の閲覧に供しなければならない。
2 市長〔町長・村長〕は、前項の報告を福岡県知事が怠る場合には、福岡県知事に対して速やかに報告を行うよう勧告しなければならない。
(不適切利用に対する措置)
第7条 市長〔町長・村長〕は、住民票記載事項の漏えい又は不適切な利用により、市民〔町民・村民〕の基本的人権が侵害されるおそれがあると認めるときは、国、他の地方公共団体、指定情報処理機関その他の関係者(以下、この条において「国等」という。)に対して報告を求める等必要な調査を行ない、又は必要に応じて国等に対し基本的人権の侵害のおそれが無いように是正措置をとるよう勧告をしなければならない。
2 市長〔町長・村長〕は、国等が前項の調査に応じないとき、前項の調査により市民〔町民・村民〕の基本的人権が侵害されると判断したとき、又は前項の是正措置の勧告に国等が応じないときは、送信の停止、送信先が保有する情報の削除の要求等市民〔町民・村民〕の個人情報の保護に関し、必要な措置を講じなければならない。
3 市長〔町長・村長〕は、前項に規定する必要な措置を講ずるにあたっては、あらかじめ審議会の意見を聴かなければならないとともに、広く市民〔町民・村民〕の意見を求めるよう努めるものとする。
4 市長〔町長・村長〕は、市民〔町民・村民〕の基本的人権の侵害に関し、明白かつ差し迫った危険があると認めるときは、第1項ないし前項の規定にかかわらず、調査、勧告又は意見の聴取を行なわずに必要な措置を講ずることができる。この場合においては、必要な措置を講じた後、明白かつ差し迫った危険があると判断した根拠及び講じた措置の内容について速やかに審議会及び議会に報告するものとする。
(不当な目的による取得等の禁止)
第8条 何人も市〔町・村〕が保有する住民票記載事項について、他への有償での譲り渡し等不当な目的をもって取得若しくは保有し、又は法により認められている場合を除き、目的の如何にかかわらず第三者に譲り渡してはならない。
2 法により認められているものを除き、何人も、業として住民票コードを含む住民票記載事項が記録されたデータベースであって、当該住民票コードを含む住民票記載事項が記録されたデータベースに記録された情報が他に提供されることが予定されているものを構\成してはならない。
3 市長〔町長・村長〕は、前2条の規定に違反する行為をしたと認める者に対し、当該住民票記載事項の消去、記録された媒体の回収及び廃棄その他個人情報の保護のために必要な措置をとるよう命ずることができる。
(関係人に対する調査等)
第9条 市長〔町長・村長〕は、前条第3項の規定による措置に関し、必要な調査をすることができる。
2 市長〔町長・村長〕は、前条第3項に規定する調査を行なうため必要があると認めるときは、その職員に関係人に対し質問をさせ、又は文書その他の物件の提出を求めさせることができる。
3 前項の規定により質問をし、又は文書その他の物件の提出を求める職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があったときは、これを提示しなければならない。
(委任)
第10条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長〔町長・村長〕が定める。
(罰則)
第11条 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
一 第8条第3項の規定による命令を受け、当該命令に従わないとき。
二 第9条第2項の規定による質問に対し、回答をせず、若しくは虚偽の回答をしたとき、又は文書その他の物件の提出を拒み、妨げ、若しくは虚偽又は偽造の文書その他の物件を提出したとき。
『住民基本台帳ネットワークにかかる個人情報保護の条例』案の条項についてモデル条例の要件について
2004年5月25日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
1 目的(第1条)
憲法の理念を明文で入れることにより、個人情報の保護が憲法上の要請であることを明らかにし、その重要性を強調することを意図している。
2 用語(第2条)
別になし。
3 市長(町長・村長)の一般的責務(第3条)
(1) 本条は,市長(町長・村長)の義務の総論的な規定であるから、「一般的」と明記したものである。
(2) 「住民票記載事項につき」と規定し「正確な記録」の対象を明白にしたのは、市長(町長・村長)の責務を明確にする趣旨である。
4 電気通信回線による福岡県知事への通知(第4条)
政令で通知事項が追加された場合に,審議会の意見を聴取するという手続を経、更に、その聴取した意見を市民(町民・村民)に公表することを義務づけることで、政令による追加の事実を公に明らかにし、この是非についての世論を喚起する趣旨である。\n5 処理状況等の審議会への報告等(第5条)
本条は、市長(町長・村長)とそれ以外の市町村長間で電気通信回線を使って市民(町民・村民)の情報の送受信を行った状況並びに苦情の内容及びその処理の状況を、審議会に報告することによって、情報の送受信の適正さを担保することを目的とするものである。
本条第2項の1号と2号、3号と4号、及び5号と6号はそれぞれ対比されるもので、相互の関係を比較することによって、不正な情報の請求、もしくは不正な情報の提供(流出)がないかを確認することも可能となる。\n また、本条第3項については、プライバシーの公開との関係で報告事項の範囲が問題となるが、総務省令の規定を参考に「本人確認情報の提供先、提供を行った年月日、提供した情報の件数及び情報の提供方法」までは許されると考え設けたものである。
本条第4項は、審議会に報告した後、市民(町民・村民)に公表することによって、より一層の不正もしくは不適切な情報の送受信を防ぐとともに、市民(町民・村民)の自己情報のコントロール権の確保に資することを目的とするものである。\n6 送信先の利用状況の審議会への報告等(第6条)
前条が、市町村間における個人情報の送受信に関する報告に関する規定であるのに対し、本条は、市長(町長・村長)が福岡県知事に送信した個人情報が福岡県知事から先でどのように使われたか(流されたか)を市長(町長・村長)が把握した上で市民(町民・村民)に明らかにすることを目的とするものである。
本規定によって、福岡県知事が市長(町長・村長)からの報告要求に対して回答義務を負う法的効果を生ぜしめることはできないが、福岡県知事が報告を行わない場合に、勧告をおこない、それでも報告を拒否し続ける場合は、次条の「市民(町民・村民)の基本的人権が侵害されるおそれがある場合」に該当することも考えられるので、その時は「必要な措置」を講じうることになる。
7 不適切利用に対する措置(第7条) 住民票記載事項の漏えい又は不適切な利用により、市民(町民・村民)の基本的人権が侵害されるおそれがあるときは、国等に対し報告を求める等必要な調査を行い、基本的人権が侵害されるおそれが内容に是正措置をとるよう勧告を求めることを、市(町・村)の責務とすることを定めたのが第1項である。
市(町・村)が個人情報保護のために必要な措置を講じるべき場面を規定したのが第2項である。調査の結果、基本的人権が侵害されると判断された場合はもとより、国等が調査に応じない場合、それ自体が不適切利用を疑わせるものであるし、国等が市(町・村)が必要と思われる是正勧告に応じない場合には、人権侵害を防ぐことをもはや期待し得ない場面であるので、固有の事務として住民票事務を扱う市(町・村)の責務として送信停止等を含めた必要な措置を講じるべきものとしたものである。
第2項の必要な措置を行う場合には、民主的手続をふみ、市民(町民・村民)にいかなるおそれがあるかという点を広く周知させることを定めたのが第3項の規定である。
基本的人権が侵害されるおそれが明白かつ差し迫った危険があると認められる場合には、迅速な対応が求められるため、市民(町民・村民)の基本的人権を保護すべき責務を負っている市(町・村)が、審議会への意見徴収等の手続を踏むことなく、必要な措置を講じることとし、他方で、明白かつ差し迫った危険があると判断した根拠及び内容を事後的に審議会に報告することを義務付け、責任のある措置をとるべきことを定めたのが第4項である。
8 不当な目的による取得等の禁止(第8条) 本条は個人情報の取得・保有・譲渡に一定の制限を設け、市民(町民・村民)の個人情報の保護を図ることを目的とする規定である。
住民票記載事項の取得を無制限に認めることは、当該情報の犯罪への利用等個人の人権侵害を招くおそれがあることから、不当な目的による取得を禁止し、個人の情報の保護を図ることを目的とする。
第1項においては、取得した住民票記載事項を法により認められている場合を除き第三者へ譲り渡すことは、いかなる目的があろうと正当化されるものではないので、一律に禁止する。
第2項は、住民票コードの各人への交付により各機関が保有する個人情報の一元化の危険が増大しているため、個人情報の一元化を可及的に防止すべく住民票コードを含む住民票記載事項が記載されたデータベースの構築を禁ずることとしたが、あらゆるデータベースの構\築を一律に禁ずることは市民(町民・村民)の私的領域への過度の介入、営業活動の自由の不当な制限につながりかねないので、業として、かつ当該データベースに記録された情報が他に提供されることが予定される場合にのみ禁止することとした。\n 以上の禁止行為がなされた場合に当該情報の抹消・回収がなされなければ市民(町民・村民)の人権に対する脅威を払拭されないので、当該禁止行為に該当する事実があったと認めるときは、当該住民票記載事項が記録されている媒体の回収、消去等を命ずることができるとして、第3項で事後的な個人情報保護の措置を定めた。
9 関係人に対する調査等(第9条) 本条は前条の措置命令の実効性を確保し、あわせて適正手続の保障を目的とするものである。
前条の措置命令を発する前提として正確な事実の把握が不可欠であるが、任意の協力を求める形での事実調査しか行えないとすれば事実の把握は極めて困難である。そこで、関係人に対する質問、物件の提出を求めるなどの調査権を付与する。調査に際しては、適正手続を保障するため、関係人の請求があった場合は、身分証明書を提示しなければならないこととする。
10 委任(第10条)
この条例の施行に関し、必要な事項(細則)は市長(町長・村長)が定めることとする。
11 罰則(第11条) 第8条の規定による不当な目的で取得した住民票記載事項のデータの消去命令に対し従わなかったときや、第9条の質問に対し正当な理由なく拒んだ者に対しては、罰則を規定することにより、調査、命令権限を実質化させる必要があるための規定である。また、罰則については、住民の基本的人権を侵害するおそれがあるという被害の重大性に鑑み、単な過料ではなく、懲役刑及び罰金刑を定めるものとする。住民基本台帳法第44条(住民基本台帳法第30条の43第5項違反)の定める罰則の規定の趣旨からすると、かかる程度の罰則規定を定めることも十分に可能\と思われる。
破産者狙いの詐欺に注意!!
近時、破産者をターゲットとした悪質な詐欺行為が横行しています。現時点では大別して、次の2種類があるようです。\n
1:金銭詐取型
破産者に対し「官署普及協会」と称し、官報掲載のための費用の支払いが必要であり、指定口座に費用3千円あまりを送金しなければ、破産手続きが無効となるとする文書を送りつける例のように、破産者から若干の費用相当額を騙取しようとするもの。
2:取立端緒型
破産者に対し、日本共同債権・高田総合法律事務所、四葉債権機工・柴田伸彦弁護士事務所、全国共立債権弁護協会・小谷和夫弁護士事務所名(当然ながら実在しません。)で、「貸金業協会による通知に代わるものとし、連絡なき場合当組合による独自の手続きを行わせていただきます」といった内容の電報を打ち、反応して連絡を入れた破産者に対し、威迫もしくは欺罔して金銭を支払わせようとするもの。\n
今後も、新種の手法が現れることが予想されますが、破産手続をしている場合、裁判所ないし委任している弁護士以外から、手続費用の請求があることはありません。全く支払いの必要はありませんのでご注意下さい。
2004年08月19日
「司法ネットの整備」に関する意見
司法制度改革推進本部 御中
2004年8月19日 福岡県弁護士会 会長 松? 隆
・第1 司法ネット構想について\n
1 司法ネット構想
(1)「司法ネット構想」とは、「国民が、刑事民事を問わず、全国どこでも法的トラブルの解決のために必要な情報やサービスを受けられるようにするため、新たに設置される運営主体を中核として、現在ある様々な相談窓口のネットワーク化等を行う仕組み」とされている。\n 司法が、期待される役割を十分果たすためには、国民が法的サービスを受けることを容易にするような環境の整備が重要であり、その整備が国の責務であることを明らかにすべきである。\n
(2)当会は、20年ほど前から市民に開かれた弁護士会を目ざして、
1: 利用者の利便性に考慮した法律相談センター(弁護士センター)を県内全域に展開する(現在までに14カ所)こと
2: 自治体や各種団体と連携して弁護士を派遣する法律相談活動(2002年は109カ所)をすること
3: 弁護士過疎地克服のために弁護士が少ない地域に法律相談センターを設置し、また弁護士を派遣すること
4: 各種の専門士業・隣接業種と連携しワンストップサービスを提供すること
5: 当番弁護士制度による起訴前弁護を充実すること
6: 監護措置を受けた少年への付添人派遣(全国に先駆けた全件付添人制度)をすること
7: 精神病院に入院している患者に対する出張相談(精神保健当番弁護士)をすること
8: 犯罪被害者支援(無料の電話・面接相談)をすること
9: 障害者・高齢者のための相談センターを設置し、福祉担当者からの電話相談に応じる「福祉の当番弁護士」による無料電話相談活動をすること
10: 上記諸活動について法律扶助制度の積極的活用をはかること
などの諸活動を行い、市民のための司法サービスの提供(リーガルサービス活動)を行ってきた。このような活動をさらに充実・発展させるためには、弁護士会のみでは限界があり、地方公共団体、関連各業種、並びに民間のボランティア団体等が協力しあって、地域の実情に即したシステムを作っていくことが必要である。国は、そのような連携を進めるための積極的な方策の提起と、その活動を支える財政的支援を行う責務がある。
司法ネット構想は、上記のような国の責務を果たすための仕組みとならなければならない。\n
2 構想を進めるに当たって留意すべきこと
(1)運営主体の事業費並びに管理運営費について、十分な財政的措置がなされること\n 財政措置について、資力の乏しい市民に対する法律扶助制度の充実が重要であるが、その範囲は従来の民事扶助、国選弁護等の範囲に限らず、広い範囲の扶助事業に対応できる抜本的な財政措置が必要である。
また、その事業形態も、運営主体が直接行うものに限らず、既存の組織(弁護士・弁護士会や関連業種、NPO法人等)への委託等が考えられるべきであり、これに対応する予算措置が考えられなければならない。\n さらに、運営主体の重要な役割として、ネットワークの構築が期待されており、質の高いコーディネーターの確保や情報共 有のためのシステムや施設整備などが必要である。それを保障するための事業費の手当も重要である。\n そもそも、現在の我が国の扶助事業では、民事扶助と国選弁護の合計で、約100億円程度の国庫負担しか行われていない。扶助の先進国といわれるイギリスは、人口が日本の半分以下であるにも関わらず、94年度の実績で民事1610億円(うち国庫負担は1146億円)、刑事は486億円(うち国庫負担482億)となっている。 1996年に新しい法律扶助法を策定した韓国でも、人口は日本の4割程度であるにもかかわらず、444億円規模の扶助事業が行われている(2002年・釜山弁護士会からの当会に対する回答)。
新しい運営主体がおこなう刑事を含めた扶助事業は、全国的な組織展開や相談窓口の設置(これに必要な賃料や人件費)及び起訴前の公的弁護などだけでも新たに20億円程度は優に必要であると考えられる。この上に、多様な司法サービスの提供、司法過疎地においては扶助事業に限らない司法サービスの提供などを行う必要があることを考えるならば、数百億円規模の予算措置が行われなければ、これまで以上の充実した司法サービス事業を実現することはできない。\n (2)一般の開業弁護士による(ジュディケア制)ことを原則とすること
以下に述べるように、弁護活動の独立を確保し、地域の実情に応じた司法サービスの提供を実現するには、地域の実情に精通しかつ実質的に扶助事業と公的弁護を担う地域の弁護士・弁護士会の活用が不可欠である。したがって、運営主体の事業の担い手は、一般の開業弁護士によること(ジュデジケア制)を原則とすべきである。
(3)弁護活動の独立司法の役割は、立法・行政に対するチェックと侵害された自由と権利の回復である。
刑事弁護はもちろん、民事扶助事業においても、個々の弁護士の弁護活動・訴訟活動の自主性・独立性の確保が保障される制度が必要である。
(4)各地の実情や市民の需要に応じた柔軟なネットワーク整備
法律扶助制度の拡充(とくに財政措置)については国が第一義的な責任を負うことは当然であるが、アクセス障害の克服や司法過疎の解消については、あくまでも各地の実情を尊重しながら、その補充的な役割を果たすべきである。
行政の法律相談事業の在り方、弁護士会の司法過疎克服計画、関連業種の取組、その他の民間組織の存在や組織形態などは、地域によって大きな差がある。地方の実情を無視した中央集権的・画一的な運営は、これまで各地の実情に即して司法サービスの提供に努めてきた民間の取り組みを台無しにする恐れが強く、かえって有害である。
(5)日弁連・各地の弁護士会との連携と適切な役割分担
(4)で指摘した地方の実情に応じた柔軟なネットワークの構築に当たっては、司法サービスを中心的に担う弁護士・弁護士会の役割が重要である。\n 各地の単位弁護士会と所属弁護士は、これまで行政や地域住民と連携しながら、その需要に応えるべく、法律相談センターや公設事務所を展開し、また、各団体の法律相談に弁護士を派遣してきた。また弁護士会は、人的・物的両面から法律扶助事業の大部分を担ってきた。法律扶助制度の中心は民事扶助と公的弁護であり、今後とも弁護士がそれを担うものである。
したがって、司法ネット構想の実現には、弁護士・弁護士会の関与が不可欠であるとともに、従来弁護士・弁護士会が行ってきた事業との適切な役割分担が必要である。\n (5)法律扶助協会の事業の発展的な継承
法律扶助協会は、現在でも全国レベル(刑事被疑者弁護支援、少年保護事件付添扶助、犯罪被害者支援等)で、あるいは支部独自(当会では子どもの虐待救済援助、精神障害者法律援助等)で自主事業を行っている。また、当会のリーガルサービス活動(刑事被疑者のための「当番弁護士」、福祉担当者のための「福祉の当番弁護士」、入院患者のための「精神保健当番弁護士」、高齢者・障害者相談、犯罪被害者電話相談、交通事故被害者電話相談、外国人相談等)は、法律扶助協会の法律相談事業と連携して広く展開してきた。新しい運営主体による法律扶助事業は、少なくとも、現在の扶助協会が行っている各種事業を発展的に承継するものとしなければならない。
また、上記のような自主事業が生まれてきた背景には、社会の変化に伴う紛争の多様化や、地域的な特性等がある。司法サービスは固定的なものではなく、その時々の市民の需要に対応したものでなければならない。したがって、新しい運営主体の事業内容の決め方も、求められる新規事業に対応できるものでなければならない。
(6)自治体の法律相談事業との併存
司法サービスの提供の課題は、いつでも、どこでも、誰でも一定のレベルのサービスが提供されなければならない。したがって、全国的に最低水準を維持するという意味では均質性が求められる側面もある。この点から見れば、国の事業として国が責任をもって行う必要がある。
一方、地方自治体は、住民の福祉の増進をはかり、地域における行政を自主的かつ総合的に行う役割を担っており、その地域での司法サービスの提供にも一定の責任を負うべきことはもちろん、地方分権の立場からは、司法における地方分権の視点も重要である。これまで地方自治体が行ってきた各種の相談などを引き続き行うとともに、その地域に必要な司法サービスの提供を、地方自治体が地元弁護士会や地域住民と連携し創意工夫して行うことも考えられるべきである。
その際、国がその責任(とくに財政負担)を地方自治体に転嫁することがあってはならないことは当然であるが、運営主体は、地方自治体との連携と役割分担を適切に行い、自治体の実情に即した司法サービスの提供に努めなければならない。
・第2 相談窓口(アクセスポイント)について
1 容易なアクセス及び質の高い相談担当者の確保
相談窓口の設置について必要なことは、どこからでも容易にアクセスできること及び総合的な情報の提供やある程度の紛争解決機能をもつ質の高い相談担当者の確保である。\n
2 弁護士の配置又は法律相談センターの併設
各種の相談においては、法的判断や紛争解決の手段など実務的な法律知識が必要な場合が多く、相談担当者にはできる限り弁護士を確保することが望ましい。これによって、一定の問題についてはその場で解決することも期待できる。
したがって、主要な相談窓口には弁護士を配置するか、弁護士会の法律相談センター等に併設することが望ましい。
3 できるだけ多数の相談窓口と殻窓口間の連携の強化
同時に、相談窓口はなるべく数多く必要である。これを実現するためには、従来の自治体や各種団体の相談窓口を充実させ、情報の共有や各窓口の連携を強化する必要がある。また、すべての窓口に法的な専門知識を備えた相談員を配置することは困難であるから、各種の通信機器を使って、その場から専門知識を持つ相談員に相談できたり、窓口の相談員が助言を受けることができるようなシステムも必要である。
4 法律扶助の拡充
さらに、資力の乏しい市民も気軽に相談できる機会を確保するため、法律扶助事業としての法律相談事業を拡充するとともに、扶助の基準もできるだけ緩やかにして、初期段階で適切なアドバイスを受け、また、紛争を予防することができるようにすべきである。\n
・第3 司法過疎対策
1 当会の過疎対策
日弁連と各地の弁護士会は、各地の地域司法計画を策定し、そのなかで司法過疎解消計画を立案している。そして、その実現のために、これまで鋭意努力してきた。
当会も、裁判所支部の所在地に最低3人の弁護士を配置し、さらには交通の便や文化的地域性に配慮しつつ、人口7000人に一人程度の割合で弁護士を配置すべく計画を立案し、会内の協力体制を作りつつある。
また、既に県内14カ所に法律相談センター(弁護士センターと称するところもある)を設置しているが、さらに本年4月までに4カ所の法律相談センターを設置する予定である。これによって、すべての裁判所支部、独立簡裁所在地に法律相談センターが設置されるほか、人口が集中している福岡市周辺では、副都心にも法律相談センターを広げることになる。夜間相談や休日相談も実施している。\n
2 新たな運営主体の役割
司法過疎の状況やこれに対する地域の取組は多様であり、何が必要かも地域によって大きく異なる。新たな運営主体の役割は、法律扶助事業と公的弁護を担うその地域の弁護士・弁護士会と連携し、その活動を尊重し補完していくことである。現在、日弁連は、会員から特別会費を徴収して「ひまわり基金」を設け、公設事務所の開設に資している。このような新設事務所を支える公的制度としては、無利子ないしは低金利の貸付制度、開設後一定期間の税の減免措置などが考えられる。このような制度を国や地方自治体が創設することによって、弁護士過疎地域への法律事務所の開設を促すことが可能であり、司法過疎の解消に確実につながる。\n
・第4民事扶助について
1 格別の予算措置の必要性
弁護士会が繰り返し主張してきたように、民事扶助については格段の予算措置を行い、対象事件と対象者の拡大を行うことが必要である。\n 経済的理由によって、裁判を受ける権利を行使できず、侵害された自由と権利を回復することができないということがあってはならないことはもちろんである。
しかし、現在の対象者の資力要件では、全国民の2割程度しか対象とならない。イギリス、フランス、韓国などでは全世帯の下から50%、ドイツでも40%の世帯が対象となっている。経済的理由による司法アクセス障害をなくすためには、資力要件を緩和して扶助対象者を拡大することが必要である。
また、現対象者の範囲を画する基準としては、資力要件に限らず、未成年者、障害者、外国人など、社会的ハンディキャップを負う市民、犯罪被害者、社会的少数者のグループに属して権利の実現に困難を来している市民、消費者・公害・労働事件など、社会的な力関係に格差のある紛争の解決を求めている市民など、その資力を問わず援助が必要な層への適用の拡大が検討されるべきである。
さらに、自由と権利の回復手段は訴訟手続ばかりではない。このところ次々と設置されている裁判外の紛争解決機関(ADR)、裁判を前提としない和解交渉、行政に対する情報公開請求、各種の審査請求などへの適用など、対象事件を拡大させるべきである。また、紛争予防としての法律相談も拡充が求められる。\n
2 償還
現在の民事扶助は「費用立替制度」とされ、利用者からの償還が原則となっている。この原則は、限られた財源をより有効に活用するためには、資力に余裕がある市民からは、償還を求めるのは当然であるとの考えで、我が国において歴史的に形成されてきたものである。
この償還制度については、受益者負担の原則を強調し、確固とした回収制度を確立すべきとの意見がある。しかし、そもそも民事扶助の利用者は一定の収入基準以下の市民であり(特に現在は、所得の低い方から2割程度でしかない)、このような市民に対しては、社会福祉の一環として、給付制を原則とすべきものであるから、すべてにわたって、過度に償還を追求することは、かえって利用者が困窮した状態になったり、民事扶助の利用をためらう事態を生じかねない。法律扶助の償還制度は、過度に回収をめざすというものより、利用者が無理なくできる程度とし、多くの市民が利用しやすい制度でなければならない。
1に述べたように、資力要件を緩和して利用可能な市民の範囲を拡大し、資力に応じた無理のない負担を求める制度とすべきである。\n
3 代理人活動の自主性・独立性の確保
行政事件や国家賠償請求など、国や自治体を相手方とする事件については、特に代理人活動の自主性・独立性の確保が重要である。
・第5 公的弁護について
1 刑事扶助
民事扶助はもちろん、起訴前弁護活動や少年付添人活動を含めた刑事扶助も、本来は国がやるべき事業であり、その拡大は焦眉の課題である。
また、身柄を拘束された時点から弁護人依頼権を保障することが憲法上の要請である。現在検討されている公的弁護制度は勾留時からとすることが予定されているが、逮捕時から勾留まで最大72時間の身柄拘束が認められていること、逮捕直後の被疑者こそ弁護士の助言が必要なこと及び上記憲法上の要請に鑑みるならば、逮捕時から弁護人の援助が受けられる制度とするべきである。仮に、公的弁護制度が勾留時からとなる場合は、現在の当番弁護士制度を公的制度として、希望する被疑者には公的費用で弁護士の助言を受けられる制度とすべきである。\n さらに、司法ネットの運営主体が「公的刑事弁護に関する業務」を担当する場合には、以下の点に留意して行われるべきである。
2 弁護活動の自主性・独立性
刑事弁護の役割は、国家刑罰権発動の対象とされる者の防御にあることから、弁護活動の内容についても「国家からの独立」が強く求められる。司法制度改革審議会の意見書も「公的弁護制度の下でも、個々の弁護活動の自主性・独立性が損なわれてはならず、制度の整備・運営にあたってはこのことに十分配慮すべきである」と指摘している。したがって、弁護活動への不当な干渉は許されず、弁護活動の自主性・独立性が確保される制度設計が必要である。\n
3 ジュディケア制の原則
弁護人の確保については、一般の開業弁護士による(ジュディケア制)ことを基本とし、地域の実情に応じて地元の弁護士の登録を募り、また、その確保に努めるべきである。
4 十分な報酬の確保
充実した弁護活動を行うためには、弁護活動の労力に応じた十分な報酬が確保されるような予\算措置が講じられなければならない。
5 弁護士会の関与
「充実した弁護活動を提供する体制整備」及び「弁護活動の自主性・独立性の確保」の実現のためには、制度の運営について弁護士会が重要な役割を果たす必要がある。
具体的には、運営主体の運営スタッフの人選の弁護士会推薦、国選弁護人推薦資格について弁護士会の措置の尊重、個別事件についての弁護人候補の弁護士会推薦制制度の維持などが制度設計に盛り込まれるべきである。
6 公的付添人制度
少年保護事件についての公的付添人制度の実現は重要な課題である。起訴前弁護を公的制度とすることにより、身柄拘束時から成年と同様に弁護人がつくことが予定されているが、家裁送致後は引き続き付添人となることによって、保護事実関係に争いがある場合のみならず、保護事実に争いがない事案においても、少年の立ち直りへの援助に力を発揮することができる。\n 当会においては、監護措置となった少年保護事件について、少年が希望すれば全件に付添人をつける制度(全件付添制度)を実施しており、2002年の扶助付添人の実績は712件に上っている。当会は、この制度を維持するため、当会独自で会員一人当たり月額5000円の特別会費を徴収し、年間約2100万円を拠出している。この全件付添制度については、家庭裁判所の裁判官も付添人の活動によって充実した少年審判が行われていると高く評価している(福岡家庭裁判所委員会における少年保護事件担当の裁判官たる家裁委員の発言)。少年保護事件についても、早期に公的付添人制度を実現するとともに、少年事件に無用な当事者主義構造を持ち込むことなく、少年法の理念に基づく少年審判の充実が図られるべきである。\n また、それが実現した場合は、2ないし5と同様の制度設計が必要である。
・第6 運営主体について
1 運営主体については、新たな法人組織が考えられているようであるが、下記の点が重視されるべきである。すなわち、1:法人の独立性の確保、2:業務効率が過度に重視されないこと、3:弁護活動の独立性・自主性の確保である。
2005年05月20日
憲法週間に寄せて
〜実行段階の司法改革と市民の役割〜
会長 川副正敏
正義の女神ユスティチア像は、右手で剣を頭上高く上げ、左手には秤を持ち、目隠しをしている。これは証拠の重みで秤がどちらに傾くかを見極め、正義の剣を振り下ろすという裁判の公正さの象徴とされている。一方で、この目隠しは時に硬直化し市民感覚とかけ離れた裁判のたとえにも使われてきた。
三権の一翼を担う司法の仕事は、憲法と法律に基づき、法的紛争の迅速で的確な解決と権利の実現、行政に対するチェック、刑罰権の適正な行使にある。そのことを通じて、一人ひとりが個人として尊重され、お互いに幸せを追い求めて暮らしていけるよう、社会の隅々まで法を公平・公正に適用し、基本的人権を擁護する使命を負っている。
しかし、憲法施行から半世紀以上を経過した今日、司法はその役割を十分に果たしておらず、国民から遊離して信頼を失いつつあるのではないか。そんな深刻な危機感から始まったのが今回の司法制度改革だ。\n こうして、昨年末までに多数の法律が制定された。
戦後始めて国民の司法参加を実現する裁判員制度は4年後までに実施される。
市民があまねく身近に法的サービスを受けられるようにするための日本司法支援センターや容疑者段階の国選弁護も近く発足する。
さまざまの社会的経験を持つ人材を集めた法科大学院からは、間もなく毎年三千人の法曹が生まれる。
裁判官の指名や裁判所の運営に市民の声を反映させる制度も動き出している。
しかし、これらの制度に本当に魂を入れる取り組みは今始まったばかりだ。
実行段階に入った司法改革、そこでは、主権者である国民一人ひとりが「受け手」ではなく「担い手」として、主体的に参加し発言することが不可欠だ。そうすることで始めて、正義の女神から目隠しをはずし、市民の目線に立った利用しやすく信頼される司法が実現する。
それは、日本国憲法が求める人権擁護の砦としての司法復活への道だと思う。
(5月3日読売新聞朝刊より)
2005年08月22日
刑務所の医療行為に関する要望
福岡刑務所長 殿
2005年6月7日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
同人権擁護委員会 委員長 小宮和彦
貴所所属の法務技官医師Y氏は、申立人X氏からの胸のしこりの症状の主張について、X氏に対して、問診及び触診のみしか行わずに女性化乳房との診断をしただけで、超音波検査、乳房撮影あるいは生検(病理細胞検査)や血液検査など、その原因究明のために必要な検査をせず、さらに、その後X氏から受診希望があったにかかわらず、何ら医療行為を行っていません。\n このような診察態度は、国が被収容者に対して負う一般社会の医療水準と同程度の医療を提供する義務に反しており、X氏の人権を侵害するものと言わざるを得ません。
つきましては、貴所におかれては、今後、X氏はもちろんのこと、すべての被収容者に対し、必要な医療行為を尽くして、一般社会の医療水準と同程度の医療を提供されるよう、要望致します。
以 上
覚せい剤後遺症(疑い)者の懲罰・処遇に関する警告及び勧告
福岡拘置所長 殿
2005年8月5日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
同人権擁護委員会 委員長 小宮和彦
1 警告について
申立人X氏は、貴所に勾留され、従前から覚せい剤後遺症の診断の下に投薬を受けていたところ、幻聴を自覚したために200・年・月・日午後・時・分ころ、貴所職員に投薬を申し出たが拒絶されました。その結果、申立人は、「薬を早よやらんかー。」等と房全体に響き渡る大声を発し、さらに職員の制止に従わず窓ガラスを殴打するなど、極度の興奮状態に至りました(以下「本件興奮状態」といいます)。
X氏の本件興奮状態に対し、貴所の懲罰審査会は200・年・月・日、それが同人の覚せい剤後遺症による自制困難な状態での行為でなかったかどうかについて十分に調査することなく軽屏禁7日の懲罰を科し、同日から執行しました。\n しかし、覚せい剤後遺症による自制困難な行為に対して懲罰を科すことは、責任無能力者に刑事責任を問うことと同様に責任主義に対する重大な違反となります。ところが本件興奮状態は、X氏の幻聴という覚せい剤後遺症と時間的に接着して生じており、それ自体が覚せい剤後遺症であると疑うべき行為であったと認められます。そのような行為に対する懲罰の審査においては、それが覚せい剤後遺症による自制困難な行為ではなかったことが確認されなければ懲罰を科すことは許されません。
したがって、この点についての十分な調査、判断を経ないままX氏に懲罰を科したことは、適正手続に違反し、X氏の人権を侵犯したものといわざるを得ません。
つきましては、貴所におかれましては、懲罰審査においては、対象となる行為が精神病等による自制困難な状態での行為でないかどうかを十分に調査・判断され、精神病等による自制困難な状態での行為である場合には懲罰を科すことがないよう警告いたします。\n
2 勧告について
貴所は、200・年・月・日に貴所に移監された当初から勾留期間を通じて(一時的な保護房への収容期間を除く)、X氏を、第二種独居室に収容していました。貴所所長がX氏を第二種独居室に収容すると決定するに際しては、警察から覚せい剤後遺症による幻聴及び妄想等の精神症状があり精神病院通院歴もあるとの引継があったのみで、医師の診断はなされておらず、それ以上にX氏の具体的な自傷のおそれを認めるべき専門医の診断はなく、その他の具体的な自傷のおそれを認めるべき客観的な事情も認められていませんでした。
ところで、第二種独居室は、被収容者に突発的な異常行動による自傷のおそれが認められる場合において、綿密な動静観察によってこれを防止するために設置されているものです。しかるに、その設備・備品に照らし、同室はその居住性等において、一般の独居房に比して著しく劣っており、その被収容者にとっては、一般独居房に収容された者よりも著しい人権制約を受けることは否めません。
したがって、被収容者の第二種独居室への収容は実質上の不利益処分であって、かかる第二種独居室への収容の可否については、貴所所長の自由な裁量に委ねられるものではなく、収容時において被収容者について具体的な自傷のおそれが認められる場合に限るべきです。
ところが、X氏については、医師による具体的な自傷のおそれの診断はなく、その他に具体的な自傷のおそれを認めるべき特段の事情も確認されていません。にもかかわらずX氏を第二種独居室に収容したことは、適正手続に反し、貴所所長の裁量を逸脱した違法な収容であって、X氏に対する人権侵犯といわざるをえません。
つきましては、貴所におかれましては、第二種独居室への収容にあたっては、その対象となる被収容者について、単に病名等のみによるのではなく、精神科専門医の詳細な診断等を行った上で、現に具体的な自傷のおそれがあると判断された場合に限りなされるよう勧告いたします。
以 上
2005年09月01日
事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正(案)に対する意見書
金融庁監督局総務課金融会社室 御中
2005年9月1日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
金融庁が本年8月12日付けで公表し、意見募集を行っている「貸金業関係の事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正について、当会は次のとおり意見を述べる。\n
(1)貸金業者の取引履歴開示義務の明確化
事務ガイドライン3-2-2において、貸金業の規制等に関する法律第13条第2項で禁止されている「偽りその他不正又は著しく不当な手段」に該当するおそれが大きい行為の事例を列挙しているところであるが、これに、顧客等の弁済計画の策定、債務整理その他の正当な理由に基づく取引履歴の開示請求に対してこれを拒否すること、を加える。
〔意見の趣旨〕
「貸金業者に取引履歴の開示義務があり、正当な理由に基づく開示請求を拒否した場合には行政処分の対象となり得ることを明確化する」との改正の趣旨には賛成する。
〔理由〕
本年7月19日、最高裁判所は、貸金業者が「貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う」、との判断を示した(最高裁判所第三小法廷平成17年7月19日判決)。
このたび速やかにガイドラインを改正して貸金業者の取引履歴開示義務を明確化することは、まことに時宜に適った措置である。
ただし、上記の最高裁判決は、債務者が債務内容を正確に把握出来ない場合には、「弁済計画を立てることが困難になったり、過払金があるのにその返還を請求できないばかりか、更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど、大きな不利益を被る」ことなどに鑑みて、取引履歴開示義務が存在するとの結論を導いている。
そうである以上、一部改正(案)のうち、事務ガイドライン3−2−2にいう取引履歴開示請求の「正当な理由」として「弁済計画の策定、債務整理」だけを例示し、「過払金の返還請求」について殊更に言及を避けているのは、不適切である。「過払金の返還請求」は,上記最高裁判所判決からも、取引履歴開示請求の正当理由のうちに含まれることは明かであり,これを明記すべきである。
(2)取引履歴開示請求の際の本人確認手続きの明確化
取引履歴の開示を求められた際の本人確認の方法として十分かつ適切であると考えられるものとして以下を例示する。\n1、顧客等自身が開示請求をする場合であって、金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律(以下「本人確認法」という。)に規定する方法による場合
2、顧客等の代理人が開示請求をする場合であって、以下イ〜ハの書類の全てを提示する場合
(イ)顧客等の本人確認のための書類(本人確認法施行規則に規定する本人確認書類(写しを含む。)であれば十分かつ適切である。)\n(ロ)顧客等の署名・捺印により代理人との間の委任関係を示す書類(債務整理についての委任関係が示されていること等により取引履歴開示請求についての委任関係が推認し得るものを含む。捺印は、イの書類が本人確認法施行規則に規定する本人確認書類(写しを含まない。)であれば、必ずしも印鑑登録された印鑑又は契約書に捺印された印鑑によらなくてもよい。)
(ハ)代理人の身分を証明する書類(弁護士、司法書士等が代理人である場合は、ロの書面において事務所の住所、電話番号等の連絡先が示されていればよい
〔意見の趣旨〕
「取引履歴の開示が求められた際の本人確認の手続」に関し、金融機関等による顧客等の本人確認及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律(以下「本人確認法」という。)が規定する確認方法を要求することには反対する。
上記最高裁判所判決の趣旨に従い,取引履歴の開示を求めることは顧客等の権利であって、本人確認の手続に伴う負担が顧客等(超過利息を元本充当すれば過払いになっている状態の者も含む)による開示請求権の行使を妨げることのないよう、貸金業者に対して注意を喚起すべきである。
〔理由〕
1 顧客等自身が開示請求をする場合
(1)本人確認法は、テロ及び組織犯罪等の悪質な犯罪行為に対する資金提供のために金融機関等の預金口座が不正利用されることを防止する(同法1条)目的で、厳格な本人確認の手続を定めた。
しかし、取引履歴開示請求や過払金返還請求が「テロ及び組織犯罪等の悪質な犯罪行為に対する資金提供のために」悪用されているという社会的事実は、およそ存在していない。
従って、規制の目的・対象がまったく異なる「本人確認法」の定める確認方法を,顧客自身からの開示請求につき必要とする理由は全く存在しない。
(2)他方、貸金業者が本人確認を十分に行わず取引履歴を第三者に開示し,これにより顧客や第三者等以外の権利が侵害されているというような弊害が生じているとの事実はない(現在の顧客情報が大量に盗まれているというトラブルとは別問題である)。従って、現在必要なのは、取引履歴開示に応じる際の本人確認手続の「厳格化」ではない。\n 現在起きているトラブルは、ごく一部の貸金業者が、「個人情報保護法に基づく本人確認手続」を藉口し、自らが一方的に定めた確認手続に応じなければ取引履歴開示ができないとして開示を事実上拒否しようと画策するという問題である。
(3)個人情報保護法は、個人情報取扱事業者が本人からの保有個人データの開示の求めに応ずる手続を定めることができる(同法25条1項、29条1項・3項・4項)とするが、「他の法令の規定により開示することとされている場合」(同法25条3項)を除外している。しかるに前掲最高裁判決は、取引履歴開示義務の法的根拠が信義則(民法1条2項)にあることを明らかにした。従って、個人情報保護法25条3項により、貸金業者が定めた本人確認の手続によって顧客等を一方的に拘束することはできず、この手続に応じないことをもって取引履歴開示請求を拒む正当理由とすることはできないこと明かである。
(4)なお個人情報保護法は、同法に基づき個人情報取扱事業者が開示等の求めに応じる手続を定め得る場合についても、「本人に過重な負担を課するものとならないよう配慮しなければならない」(同法29条4項)と定めている。個人情報保護法の存在が、自己に関する情報にアクセスする個人の権利を阻害する結果を招いてしまうのでは、本末転倒だからである。
(5)従って、現在必要なのは、取引履歴の開示請求権は顧客等の権利であって、本人確認手続を取引履歴開示を回避するための口実として利用してはならないことを「明確化」することである。そこで、顧客等からの取引履歴開示請求に応じる場合の本人確認の手続については、「顧客等に過重な負担を課することのないよう留意すべきこと」を明記すべきである。
2 顧客等の代理人が開示請求をする場合
(1)債務整理の実務においては、「債務者が債務の処理を弁護士に委託した旨の弁護士からの書面による通知」(貸金業規制法21条1項6号参照。以下、「受任通知書」という)が、債務者の代理人であることの十分かつ適切な確認資料である、とされてきた。実際、多くの貸金業者は、個人情報保護法が施行された現在においても、弁護士が作成名義人である「受任通知書」の送付をもって代理権確認の方法とすることを、従前通り異議なく認めている。\n 弁護士名の「受任通知書」を信頼したために貸金業者が不正な開示請求に応じてしまったというトラブルが発生しているとの事実はまったくない。したがって、あたかも弁護士と顧客等との委任関係の存在が疑われる状況が広く存在していることを前提とするかのように、厳格な手続を課するのは正当ではない。
また上記最高裁判所の判決の場合にも,弁護士が受任通知以上の,「本人確認手続」を行ったわけでもない。とすれば,本ガイドラインの改正は,最高裁判所判決に規定されていない,新たな除外事由を行政ガイドラインにより策定しようとするかのような意図を感じざるをえないものである。
(2)そもそも弁護士は、受任通知書で自らの氏名を明らかにした上で自ら不正な開示請求などを行ったりすれば、懲戒処分を受けるという重大なリスクを背負っているのである。
受任通知書に記名のある弁護士が本物の弁護士であるかどうかは、日本弁護士連合会のホームページの「弁護士情報検索」によって確認することができる。架空のニセ「弁護士」であれば、「該当情報が検索できない」として、直ちに明らかになる。実在の弁護士名を騙る第三者による不正請求の場合であっても、その者が表示する虚偽の事務所名や所在地を入力して検索すると、同様に「該当情報が検索できない」結果となる。\n(3)もしも顧客等が、代理人弁護士に対し、原本提示のため印鑑証明書・戸籍謄本・住民票の記載事項証明書等の原本を預けるか、または委任状に捺印する印鑑についての印鑑証明書を渡しておかなければならないとすれば、当然それらの申請費用が必要になる。債務整理を必要とする多重債務者はそもそも経済的に困窮している状態にあるから、それらの費用負担が履歴開示請求の意思を挫くことにもなりかねない。また債権者数に応じて何枚もの委任状に署名を求めるのは、迅速な事務処理が必要とされる債務整理の実情に合わない。また、開示請求のたびに業者に委任状を提出することは、業者のもとに、新たに大量の個人情報を蓄積させることになり、個人情報の保護に関して、新たな問題を発生させることにもなりかねない。\n しかも,業者は,本来当初の貸付の際に,顧客の本人確認に必要な書面を徴収して貸付業務を行っているのであり,更に取引履歴を開示する場合に再度かかる書面を要求する必要もない。
(4)以上により、弁護士が代理人として開示請求する場合については、「債務者が債務の処理を弁護士に委託した旨の弁護士からの書面による通知(FAXを含む)により十分かつ適切である」と例示すべきである。
以 上
2005年10月12日
法の日週間に寄せて 〜裁判員が司法を変える〜
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
10月1日を「法の日」と定めたのは、1928(昭和3)年のこの日、日本で陪審員による裁判が始まったことに由来する。
陪審員制度は、それから15年後、戦時体制下で停止されたが、60年余りを経た今、裁判員制度という形で国民の司法参加が実現し、4年後の2009(平成21)年5月までに実施される。
選挙人名簿を基に作成した候補者名簿からくじで選ばれた6人の裁判員が殺人などの重大事件の裁判の審理に参加し、3人の職業裁判官と同等の立場で有罪・無罪と量刑を決める裁判員制度。一生のうちで裁判員になる確率は約67人に1人と言われている。
国民の司法参加制度は、欧米諸国だけでなく、韓国でも検討が進められるなど、今や世界的潮流である。
公正な裁判を通じて、犯罪者には適切な刑を科す一方、「疑わしきは被告人の利益に」の原則の下、無実の人を誤った裁判で処罰するようなことは決してあってはならない。これは近代共同体の基本的な正義である。そして、成熟した民主主義社会では、その実現は法律のプロ任せにするのではなく、良識ある判断力をそなえた市民の責務であり、崇高な権利でもある。
それが裁判員制度の根底にある理念だ。
市民が裁判に参加することで司法も変わるし、変わらなければならない。迅速で充実した分かりやすい裁判の実現は当然である。
特に重要なことは、警察官や検察官が起訴前の取り調べで作成した供述調書、ことに取調室という密室での自白が重視されてきたこれまでのような刑事裁判は、裁判員制度の下ではもはや維持できなくなる。裁判員裁判は、公判廷で直接見聞きする証言と客観的証拠に基づく裁判を押し進めることになるだろう。
そのためにも、取調室の中でのやり取りを客観的な記録に残すこと、すなわち取調過程の録音・録画の導入が強く求められる。
市民である裁判員がプロの法曹と協働して正義を実現する、それを表すのが二つの輪から成る裁判員制度のシンボルマークだ。\n(10月6日読売新聞朝刊より)
2005年10月24日
ハンセン病の患者であった人々の人権を回復するために(要望)
福岡県知事 麻生 渡 殿
福岡市長 山崎 広太郎 殿
北九州市長 末吉 興一 殿
福岡県弁護士会 会長 川副 正敏
貴職におかれましては、日ごろ住民の福祉向上のために多大の尽力をしておられることに敬意を表します。
さて、当会は常議員会の議に基づき、貴職に対して以下のとおり要望いたします。
要望の趣旨
ハンセン病の患者であった人々の人権を回復するために、下記のとおり、生活支援相談窓口の設置とハンセン病に対する偏見・差別解消策の一層の充実を図るよう要望いたします。
- ハンセン病療養所退所者の生活全般を支援する相談窓口を設置すること。
- ハンセン病政策によって形成された偏見・差別を除去するために、特に以下の視点からその解消策を一層推進すること。
- 偏見・差別解消策の実施においては、強制隔離などの過去の誤ったハンセン病政策が未曾有の人権侵害を引き起こし、継続させたことにも言及すること。
- ハンセン病問題の歴史や国・社会の責任などについて市民に周知させること。
- 市民が簡単に入手できるパンフレット、視野に入りやすく分かりやすいポスターを作成するなどして広報活動を拡充するとともに、理解しやすく感銘力の強いドラマやドキュメンタリーなどの番組制作を具体化すること。
- ハンセン病問題に関する人権教育の取り組みを積極的に支援し、教材作成、教育実践例の紹介など様々な教育情報を提供すること。
- ハンセン病の患者であった人々と市民、とりわけ生徒、学生らが交流する場を積極的に設けること。
要望の理由
らい予防法違憲国家賠償請求訴訟に関する2001(平成13)年5月11日の熊本地方裁判所判決から4年余りが経過しました。
ところが、医療体制・生活支援体制の不備、根深い差別偏見の継続など、ハンセン病の患者であった人々の人権はなお十分に回復されていない現状にあります。
この点は、本年3月1日に公表されましたハンセン病問題に関する検証会議の最終報告書(以下「検証会議最終報告書」という)でも明らかにされています。これらを受けて、日本弁護士連合会は、本年9月28日付で、別添のとおり、国に対し、2001(平成13)年6月21日に続いて、再び「ハンセン病の患者であった人々の人権を回復するために」と題する勧告をしたところです(以下「日弁連勧告」という)。
日本弁護士連合会並びに当会としては、ハンセン病患者の強制隔離政策とこれによる深刻な偏見・差別の作出・助長を看過してきた法曹の責任を自覚しつつ、今後とも、関係諸官庁その他の機関・団体とも連携しながら、ハンセン病問題の早期かつ全面的解決に向けて真摯な努力を続けていく所存です。
とりわけ、ハンセン病の患者であった人々の高年齢化が進む中で、福岡県にお住まいであったり、あるいは福岡県出身で帰郷を希望されている方々が当地で安心して生活していけるようにするための諸施策を講ずることは喫緊の課題です。
御庁におかれましても、これまで啓発ポスターの配布、里帰り事業の実施、リーフレットの作成・配布、講演会やシンポジウムの開催、人権・同和教育ビデオの配備、人権教育研修会の実施等をしておられると承知しております。
しかしながら、日本におけるハンセン病強制隔離政策は極めて長期かつ過酷なものであり、ことに、1931(昭和6)年の癩予防法制定を経て1930年代から戦後の1950年代までの長期間にわたって全国で展開されたいわゆる「無癩県運動」では、各県からハンセン病患者を徹底的に排除するために、強制的に不必要な消毒をしたり、列車に「ライ患者用」と赤書するなど、地域住民に科学的根拠のない恐怖心と偏見を植え付ける様々の方法がとられてきたところです(検証会議最終報告書171〜187ページ、大谷藤郎『らい予防法廃止の歴史』121〜135ページ)。しかるに、今日に至るまでこの政策全体が根本的に誤りであったことの周知徹底がなされていないこともあって、偏見・差別の除去が未だ十分とは言い難い状況にあるのは否めません。
そこで、当会は御庁に対し、かつて地方行政機関として上記のような「無癩県運動」の推進に関わるなどして自らも国の政策を実行し、偏見・差別の作出・助長を担ったという責任を十分に踏まえられたうえで、別添・日弁連勧告の2項、3項にもありますように、頭書のとおり、生活支援相談窓口の設置とハンセン病に対する偏見・差別解消策の一層の充実を要望いたします。
以 上
別添・日弁連報告書(略) (日本弁護士連合会ホームページ「主張・提言」に掲載)
要望書(労働審判制度の運用に関して)
最高裁判 所 長官 殿
福岡地方裁判所 所長 殿
福岡地方裁判所小倉支部 支部長 殿
福岡県弁護士会 会 長 川副 正敏
同・個別労働紛争問題プロジェクトチーム
座長 市川 俊司
要望の趣旨
労働審判制度の運用に関して、地方裁判所の主要な支部、ことに福岡地方裁判所小倉支部における施行当初からの実施を要望いたします。
要望の理由
1 労働審判制度は、2006(平成18)年4月から全国の地方裁判所で実施が予定されています。申すまでもなく、この制度は、労使各1名の労働審判員2名と労働審判官(裁判官)1名の3人合議制により、個別労働紛争を3回期日で調停又は審判で解決しようとするものです。
これは、近時個別労働紛争が多発しているにもかかわらず、多くの労働者が必ずしも迅速で適切な司法的救済を得られずにいるという現状を改善し、個別労働紛争を簡易迅速かつ適確に処理するために設けられたものであり、司法制度改革の一環として、国民に身近で開かれた裁判所を実現し、もってわが国における法の支配を徹底せんとする画期的な制度です。
2 ところが、その実施を間近にして、聞くところによりますと、法令上、労働審判の実施は地方裁判所の本庁に限定する定めはないにもかかわらず、運用として、施行当初は本庁だけでの実施を予定しているとのことです。そうすると、地方裁判所の支部では当面労働審判制度が行われないことになります。
3 しかしながら、労働審判制度の上記趣旨に照らすと、全国各地の労働者があまねくこの制度を利用できるようにするため、地方裁判所の本庁に限定することなく、合議体のあるすべての支部において広く実施されるべきであると考えます。
仮に当面はこれらの支部全部で実施することが事実上困難であるとしても、地域によっては本庁に匹敵ないし準ずるような大規模な支部が存在しており、少なくともこれらの支部では行われるべきであると思料いたします。
とりわけ、当地に所在する福岡地方裁判所小倉支部は、全国の各地方裁判所本庁と比較しても、配置されている裁判官・書記官等の職員数や処理事件数等の点において、上位10位に入るほどの大規模な裁判所であり、同支部を労働審判制実施庁から除外する理由は全くないと思われます。しかも、福岡地方裁判所における労働側の労働審判員予定者15名のうちの6名は北九州・京築地域の居住者であり、使用者側の労働審判員予定者も15名中4名が同地域の居住者で占められていると聞いております。
このように、福岡地方裁判所小倉支部は労働審判制度を当初から実施する人的物的資源が十分に整っていると考えられます。
他方、同支部で当初から労働審判制度を実施しないということになると、当分の間(その期間は不明です)、北九州・京築地域の多くの労働者が簡易迅速な労働審判制度を事実上利用できないということになります。これは労働審判制度の趣旨を著しく減殺するものと言わざるを得ません。
4 よって、労働審判制度について、2006(平成18)年4月の施行当初から、地方裁判所の本庁だけではなく、少なくとも主要な支部、ことに福岡地方裁判所小倉支部においても実施されるよう強く要望いたします。
以 上
2006年10月16日
犯罪被害者等基本計画に定める施策に関する意見照会(日弁連法2第72号)に対する意見
2006年10月13日
日本弁護士連合会 会長 平山正剛 殿
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
日弁連法2第72号の「犯罪被害者等基本計画に定める施策に関する意見照会について」について,次のとおり意見を述べる。
第1 意見の趣旨
損害賠償に関し刑事手続の成果を利用する制度,及び犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度(犯罪被害者等が在廷する制度,犯罪被害者等が被告人に対する質問を直接行うことを許す制度)は,いずれも導入すべきではない。
第2 意見の理由
1 損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度(以下「被害回復命令申立制度」という)(本意見照会第2の1)について
(1) 被害者等の民事上の損害回復について,被害者等の負担を軽減する観点から,被害者が刑事訴訟に附帯して損害賠償等の財産上の請求を行うことができる制度(附帯私訴)や,刑事裁判所が被告人に対して被害者への被害物品の返還や損害賠償を命ずることができる制度(損害賠償命令)を導入すべきとの考え方があり,今回,法制審議会で導入が検討されるとみられる制度は後者の制度と思われる。
(2) しかしながら,このような制度には,日本弁護士連合会の2005年6月17日付の「犯罪被害者等の刑事手続への関与について」と題する意見書(理事会決議)で指摘した問題点があることは現在も変わらず,法制審議会で検討されるとみられる被害回復命令申立制度についてもそのまま妥当する。
すなわち,附帯私訴については「刑事裁判と民事裁判における手続に相違点(証明の程度,過失相殺などにおける立証責任の所在,自白法則,控訴審の構造等)があり,同一の手続で行うことに困難を生じる。また,附帯私訴の申立人という当事者が増え,争点も増加するため,被告人側の防御の負担が増大し,訴訟が遅延するおそれがある。憲法上保障された被告人の迅速な裁判を受ける権利(憲法第37条第1項)が損なわれ」るおそれがある。
また,損害賠償命令についても「刑事裁判で取り調べた証拠の範囲内で認められる損害額のみで命令を発するものとすると,被害者は別途民事訴訟を提起し残額を請求しなければならず,被害の実態に即した有効な救済となり得ない一方で,民事訴訟と同様に損害額の認定を行うものとすれば,民事上の争点が刑事裁判に持ち込まれ,刑事裁判の遅延を招くなど,附帯私訴と同様の問題が生じる」。
上記に加えて,被害回復命令申立制度には,以下に述べるような問題があり,その導入を認めることはできない。
(3) 予断排除原則,無罪推定原則違反のおそれ
犯罪被害者等が,損害賠償を請求するという事実それ自体によって,被害が存在したことについての予断や偏見を裁判官(及び裁判員)に与えるおそれがある。
この制度骨子によれば,申立人は,申立書に,申立ての趣旨,損害額の内訳程度を記載することとし,裁判所に予断を生じさせるおそれのある事項を記載することが禁じられるとされているが,申立書中の損害の内容や額の記載自体が,犯罪があったことや,甚大な損害が発生したことについての予断を与えるおそれがあり,無罪推定の原則に反する。
ことに,被害回復命令の申立を,刑事裁判の判決宣告前の段階でも認めるとすれば,この申立書の記載が刑事裁判の判決宣告に影響を及ぼす可能性は排斥できない。
さらに,2009年から施行される裁判員制度の下では,この可能性は顕著である。
(4) 刑事訴訟手続が長期化するおそれがある
これまでの刑事訴訟手続においては,被害者側の落ち度の有無が問題になることはあったが,この被害回復命令申立制度の下では,被害者の過失に関する過失相殺の割合が大きな争点となることが予想される。
被告人及び弁護人としては,審理が刑事訴訟記録を利用して行われることになるため,その判決後に審理が予定される損害賠償請求についての審理で争点となる損害賠償の額に影響する可能性がある事項を強く意識して刑事訴訟の審理に対応せざるを得ないから,新たな負担を課せられることにもなる。
また弁護人としては,犯罪被害者等を証人として尋問する際に,刑事訴訟の争点ではない場合であっても,被害者の過失割合等についての詳細な尋問をせざるを得なくなり,その分,刑事訴訟が長期化する可能性が増大する。
犯罪被害者等も,詳細に被害者側の落ち度に関する尋問を受けて新たな二次被害を被る可能性もあるし,またそれによって被害感情が悪化し,悪化した被害感情等を立証するために証人請求がなされる等の可能性もあり,刑事裁判の審理が長期化する等のおそれがある。
(5) 損害賠償請求の審理における被告人の防御権が十分に保障されていないこと
制度骨子によれば,刑事事件の有罪判決が言い渡された後に,損害賠償請求の審理を行うことが予定されている。
その時点では,刑事事件の弁護人としての職務は終了していることになる。そこで、国選弁護人が選任されていた場合には,経済的等の理由から,多くの被告人は損害賠償請求の審理についての代理人を選任することは困難であり,本人訴訟の形で対応せざるを得ない。
しかも,現在,刑事施設に収容されている被告人は,民事訴訟の全ての審理に出頭することは認められていないから,被告人は,損害賠償請求の審理の全部又は一部に出頭できない可能性が高い。
その結果,国選弁護人が選任されていた被告人については,損害賠償請求の審理について,その代理人を選任することができないばかりか,自ら出頭することもできないまま審理が行われることになる可能性が高い。
しかし,それでは,被告人は,損害賠償請求の審理についての防御権が実質的に保障されず,ひいては裁判を受ける権利(憲法32条)が侵害されると言わざるを得ない。
(6) 被害回復命令申立制度の対象事件が相当な範囲で裁判員対象事件と 重なりあうであろうことから予想される混乱
被害回復命令申立制度で対象とされる事件は殺人等の重大な事件であることが予想されるが,これらの事件は,ほとんどが,裁判員対象事件である。裁判員対象事件はすべてが公判前整理手続に付されることになる(裁判員法49条)。
ところが,これが同時に被害回復命令申立の対象事件となることが予想されるから,公判前整理手続によって主張と証拠の整理が行われた後になって,被害回復命令で争点となる被害額の算定に関する事実の有無等が刑事裁判の審理において争点となることにならざるをえない。なぜなら,損害額の算定については,刑事裁判で証拠となった証拠がそのまま証拠となることが予想される以上,刑事裁判の審理において,その点(被害者の過失割合等)が争点になるからである。
そのような事態は,公判前整理手続で争点と証拠を整理して審理計画を策定したにもかかわらず,審理が計画通りに進まず,公判前整理手続を設けた趣旨を大きく没却することになるおそれがある。
(7) まとめ
以上から,被害回復命令申立制度は裁判官や裁判員に予断や偏見を与え,無罪推定の原則に反するとともに,被告人及び弁護人に新たな負担を課し,被告人の防御権が実質的に保障されない。かつ,裁判員制度を導入し,その審理の充実ために設けたとされている制度(公判前整理手続等)の意義を喪失させてしまうことにもなる。
のみならず,このような制度は,刑事裁判の混乱と長期化,ならびに刑事裁判手続に私的な感情的応酬を招くことになり,被害回復の労力を軽減し,簡易迅速な手段によって被害回復を実現するという目的からもかけ離れた事態を惹起するおそれが大きい。
よって,このような制度は導入すべきではない。
2 犯罪被害者等が刑事裁判手続に直接関与することのできる制度(在廷,被告人質問)(本意見照会第2の2)について
(1) この制度導入についての当会の意見は既に2004年8月19日付の「犯罪被害者の刑事手続参加の是非に関する意見」として日弁連に提出している。
現在においても,当会の意見に変更はなく,このような制度の導入はすべきではないと考える。
すなわち,被害者等の在廷,被告人質問を認めることは,刑事訴訟の基本構造や無罪推定原則を根幹から崩すことになり到底容認できない。
(2) このことは,2009年から施行される裁判員裁判において顕著である。すなわち,本来証拠となりえないはずの被害者等の表情,態度,言動(発問等)が,初めて刑事訴訟に関与する裁判員の情緒に強く影響し,証拠に基づいて冷静に判断されるべき事実認定や量刑に対し大きな影響を与え,適正な事実認定,量刑が維持できないおそれが大きい。
すなわち,初めて刑事裁判を経験する裁判員は,被害者等が検察官の横に在廷するというだけで極めて強いインパクトを受ける。裁判員は事件によっては衝撃的な犯罪報道にも接しているのであり,被害者等が在廷するだけで,被害者等に同情し,その裏返しとして被告人が真犯人であると考える危険性は免れない。すなわち,被害者等の在廷それ自体で証拠に基づかずに被害の立証がなされたことと同じ効果がある。
さらに,被害者等が被告人に対し発問することは,裁判員の面前で被害者等の肉声として発せられることから,裁判員(裁判官に対しても)に強烈な印象として残る。しかし,被害者等の発問自体は何らの証拠にならないはずにもかかわらず,裁判員は被害者等の発する発問の中に込められた事実関係の主張や感情によって大きく影響を受け,それによって心証を形成してしまうおそれが極めて大きい。
(3) さらに,付け加えれば,被害者等の在廷や被告人質問は,被告人にとっては相当な威圧感を受け,その結果,被告人は萎縮してしまって,自由な供述(特に,被害者の落ち度等)を妨げ,被告人の防御権を大きく侵害することになる。
(4) 法制審議会において検討することが予想される制度骨子によれば,「被害者の意見陳述制度に資する範囲で」と限定が付されているようであるが,被害者等が被告人質問で求めているのは,「事実はどうだったのか」,「被害者に対してどう思っているのか」等という,被告人の内心の情報ないし感情等を聞き出すことであり,この限定はほとんど実効性がない。
(5) 以上から,被害者等の在廷,被告人質問は絶対に認めるべきではない。
3 結語
以上述べたとおり,本意見照会で求められた「新制度導入の是非」については,いずれも刑事訴訟手続の根幹を侵害するものであり,当会としてはいずれの制度の導入についても強く反対するものである。
以上
2006年12月22日
国民投票法案に関する意見書
国民投票法案に関する意見書
平成18年12月12日
福岡県弁護士会
1 はじめに
本年5月26日に与党が「日本国憲法の改正手続に関する法律案」(「与党案」),民主党が「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」(「民主党案」)を衆議院に提出し,国会において継続審議中である。そして,9月26日に全面的改憲を唱える安部晋三氏が首相に就任したことから,改憲へ向けての動きはより拍車がかかることと思われる。
このような状況のもと,福岡県弁護士会憲法委員会では,与党案と民主党案の問題点について調査・研究を重ねてきた。
もとより国民投票法案は,中立的・技術的な手続法に過ぎない。しかし,手続法であっても立法に際しては「立法事実」を要することはいうまでもない。したがって,同法案については,現憲法が主権者である国民の権利利益の実現に支障を来しており,改憲によって是正する必要があるが,改憲のための手続法を欠くという立法事実が存する必要があると考える。
しかしながら,現憲法をめぐって,その「欠陥」に起因して国民の権利利益が司法的救済を受けられないという事例を見聞したことはない。その一方で,自衛隊のイラク派遣問題に見られるように,憲法第9条(とりわけ第2項)の改廃をめぐる対立の構図が浮き彫りになっているのが実情である。
当会は,意見書の基本方針を策定する前提として,本年7月下旬から8月下旬にかけて全会員を対象として,国民投票法案に対するアンケート調査を実施した(回収率は約3割で、回答数は229名)。このアンケートの第1問目で「この秋の臨時国会で国民投票法案が審議され制定される可能性がありますが,同法が制定されることについてどう考えますか」と問うたところ,「反対である」との回答が55.5%であった(ちなみに、「賛成である」は31.4%,「わからない」が10.9%,無回答は2.2%)。
この55.5%が反対という回答結果は,立法事実についての議論を欠いたまま手続法の策定がなされようとしている昨今の情勢に対する法律家としての危機意識のあらわれと見ることができる。すなわち、当会は,現在の状況下で国民投票法を制定すること自体に疑義を呈する余地が十分にあることをまずもって指摘しておきたい。
本来,憲法改正が国民投票に付される趣旨・目的は,国民主権の原則にもとづき,最高法規である憲法の改正について,主権者である国民の意思を反映させるところに求められるべきである。したがって,国民投票制度の策定においては,国民主権の原則にのっとり,国民一人ひとりの意思が正確に反映される仕組みが作られなければならない。そのためには,憲法改正の国民投票に先立って,民主的な意見表明が十分に行え,また国民が公正かつ平等に憲法改正に関する情報を得ることを可能にし,もって国民一人ひとりが主体的に各自の意見を自由に形成したうえで投票できるシステムが作られなければならない。この点,ヨーロッパにおける「法による民主主義のための欧州委員会」(通称ベニス委員会)が作成した「憲法改正国民投票に関するガイドライン」(2001年6月11日)の中において,国民投票の一般的基準と原則の中で,「選挙法規に関する憲法上の原則(普通,平等,自由,直接及び秘密選挙)が選挙と同様国民投票にも当てはまる.同様に,基本的権利(特に表現の自由,集会の自由及び結社の自由)は,特にその行使が公共的場所の使用を必要とする場合には,保障され保護されなければならない」と述べられているところである。
このように,国民投票に関しては,あくまで国民主権の原則にもとづき,民主的な構造を持った制度として作られるべきものである。
早ければこの秋の国会において、与党案と民主党案が審議されることが政治日程として浮上している。そこで,与党案と民主党案の問題点を明らかにし,多くの国民が議論のポイントを理解できるように意見表明することは法律の専門職集団たる弁護士会としての責務であると考え、本意見書を発表するものである。
2 自由かつ十分な投票運動の保障
(1) 周知期間について
国の最高法規であり,根本規範である憲法を改正するための国民投票にあたっては,主権者である国民の意思が正確に反映されなければならない。一人ひとりの国民が自己の意思を形成するにあたっては,改正案の内容について,国民的議論が十分に深められ,国民一人ひとりが熟慮できることが大前提である。
このような観点から,国民投票にあたって,憲法改正の発議から投票期日に至るまでの改正案の周知期間については,国民全体が,?改正案によって憲法のどの条文がどう変わるのかを文言上で具体的に知ること,?それぞれの問題点についての賛成論と反対論の対立点を明確に認識し,?改正によって予想される国家・社会の変化と、それの自らの生活に対する影響を理解したうえで,?十分に国民相互の討論を重ね,そのような過程を経ることによって,?改正をするか否かについて的確な判断を主体的になし得るのに必要で,十分な期間が確保されなければならない。
したがって、国民投票の期日については少なくとも12ヶ月の周知期間をおくべきである。
ア 与党案・民主党案の期間では憲法改正案の周知は困難である
ところが,与党案も民主党案は,ともに国会の発議から60日以後180日以内の国会が定める日としている。
短期を60日と定める点については,論拠として,「改正の内容によっては,短期間の議論で足りる場合もあり得る」ということが主張されている。また,長期を180日と定める点については,論拠として,「あまり長すぎても議論が間延びする虞がある」ということが主張されている。
しかし,現在、提案されている憲法改正案を見ると,その主要なものは前文をふくめてほとんど全条文を改正しようとするものであり,その改正案には,日本国憲法の根幹に関わる本質的な改正内容が多数ふくまれている。
このような本質的内容にわたる改正案を国民に周知してその是非の判断を求めることは,以下のとおり,決して容易ではないと考えられる。
(ア) 20条3項の修正〜政教分離
たとえば,自由民主党の憲法草案においては,第89条について,公の財産の支出及び利用の制限について,「第20条3項の規定による制限を超えて」という文言を付加するという案が示されている。その第20条第3項についての改正案を見れば,「国及び公共団体は,社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超える宗教教育その他の宗教的活動であって,宗教的意義を有し,特定の宗教に対する援助,助長若しくは促進又は圧迫若しくは干渉となるようなものを行ってはならない」となっている。
これは現行憲法第20条第3項が「国及びその機関は,宗教教育その他いかなる宗教活動もしてはならない」としているのを大幅に改正しようとするものである。
この改正は,靖国神社や伊勢神宮への公式参拝や玉ぐし料の公費支出の是非の問題を憲法上解決しようとの意図を有するものではないかと考えられる。憲法改正のための国民投票においては,そのような意図の是非が問われ,またその結論が自ずと,上記のとおり,「公金その他の公の財産」の支出についての改正の是非の判断につながってくるわけであるが,その関連性を数ヶ月という短期間のうちに国民が理解するのが可能だとはとても思われない。
(イ) 9条2項の削除〜平和主義
また,自民党の憲法草案は,9条2項を削除して,新しく9条の2を新設し,自衛軍の規定を設けるという。この9条2項を削除することの意味,そして,自衛軍規定の新設が現在の自衛隊とどのような関連性をもつことになるのか,という日本国憲法の本質的問題について,数ヶ月という短期間のうちに多くの国民が判断できるようになるとはとうてい思われない。
(ウ) 軍事裁判所の設置〜司法権の独立
さらに,自民党の憲法草案は,第76条第3項において,軍事裁判所を設置するとしている。これが同条第2項において設置を禁止されている特別裁判所にあたるものではないのか,司法権の独立との関係はいかなるものであるのか,といった問題点について,国民が自己の意思を形成するためには,司法権の独立の原理的・理念的意義の検討から出発する必要があると考えられる。しかし,そのような形で意思形成を行うための期間として,数ヶ月では明らかに不足している。
このように与党案と民主党案の「60日以後180日以内」という期間では,議論・考慮の期間としては明らかに短期に過ぎると言わなければならない。
イ メディアを通じた世論誘導・操作を防止する必要がある
周知期間としてこのような短期間しかおかれないこととなれば,世論が一つの方向に短期間に急速に沸騰した場合に,それを冷静に検証することなく,一過性の雰囲気に流されるがまま国民の投票態度が決されることが懸念される。ことに,印象的なスローガンによって結論に向けての世論が盛り上げられ,冷静な議論を欠いたまま雰囲気のみが高まって最終結論が導かれるという,いわゆる「劇場型」政治が蔓延していると指摘されている日本の現状においては,この懸念はいよいよ強い。これは,2005年9月の衆議院議員総選挙において,争点が「郵政民営化」一点にほとんど限局され,元与党の前議員に対して「刺客」を送るという選挙戦術がメディアの強い影響もあいまって高い注目を集めた末,与党の雪崩式大勝という結果を生じたにもかかわらず,その後1年を経ないうちに,「刺客」を送り込まれた元与党議員の復党が論ぜられる事態に至っていることを思い起こすとき,長期にわたって国家の根本規範たるべき憲法に関する議論については,相応の長期間にわたって冷静な討論を重ねることの重要性を強調せざるを得ない。
また,マスメディアが少数意見を積極的に取り上げる機会に乏しい現代日本社会においては,少数意見が広く周知されるには相当の期間を要することが通常であるので,十分な周知期間がおかれなければ,少数意見が国民に周知されないまま投票日を迎えることにもなりかねない。
これに対して,自由な情報の流通・交換がなされたときには,国民相互間における議論が有益かつ実質的な形で深まりこそすれ,議論が「間延び」する事態などは考えられない。
また,そもそも,予算や緊急を要する立法等とは異なり,憲法改正問題において迅速性の要請は乏しい。
周知期間についての前記アンケートにおいて,ほぼ半数にあたる47.2%が「少なくとも12ヶ月の期間が必要」と回答し,自由記載によりこれより長い期間が必要とした回答も含めれば,51.1%が12ヶ月以上の期間が必要だと考えている。
ちなみに,EU憲法の批准を問う国民投票にあっては,採択の約1年後に実施されたフランス,オランダの各国民投票において,議論の深まりの結果,高い投票率(フランスで約70%,オランダで約63%)が得られたという例もある。
(2) 職業に着目した運動規制について
憲法を改正するか否か、また改正するとすればどのような内容とするのかは、憲法が国の最高法規であって、主権者たる国民のもっとも重要な意思決定であることから、国民の自由な判断によって行われるべきことは当然である。
そして、国民が自由な判断を行うためには、賛成・反対をふくめ、多様な意見に触れ、また自ら発信し、言論の自由市場において、最大限に自由な議論が行われること、その結果、主権者たる国民が、その結論に納得して自己の意思決定をなすという、自由な意思形成過程の確保が必要かつ不可欠である。
この点、民主党案は、選挙管理委員会の委員・職員等の国民投票運動を禁止しているだけであるが、与党案は、さらに裁判官・検察官・公安委員会の委員、警察官にまで全面的に国民投票運動を禁止している。
しかしながら、このように広範囲の者に対して、全面的な国民投票運動を規制してしまうと、規制される者の表現の自由を侵害するのはもちろんのこと、国民間の自由な議論が制限されて、直接規制を受ける者以外の意思も自由に形成されないことになってしまう。国の最高法規である憲法改正の是非を問う国民投票において、必要もなく国民間の自由な議論を制限することは絶対に避けるべきことである。
したがって、憲法改正手続きにおいて厳正な公正中立性を求められる選挙管理委員・職員等等以外に対しては、職業に着目した投票運動の規制を行うべきではない。
前記アンケートにおいても、選挙管理委員・職員等に対する制約には、58.1%が合理性があると回答しているのに対して、裁判官・検察官・警察官に対する運動制限に80%以上が合理性はないとしている。
(3) 刑罰(地位利用運動禁止違反の罪,組織的多数人買収・利益誘導罪,)による運動規制について
与党案では,公務員や教育者がその地位を利用した国民投票運動を行うことを禁止し違反者には罰則を定めており,更に,組織的多数人買収罪と利益誘導罪が定められている。
ア 地位利用禁止違反の罪
まず,地位利用運動禁止違反の罪について,公務員や教育者の者自身の表現の自由を侵害し、国民間の自由な議論が制限されてしまうのであり、「地位利用」という要件を付加しても、それ自体がきわめてあいまいな概念であって、いかようにも解釈することが可能であるから、公務員や教育者の自由な活動を不当に規制し、萎縮させることが明らかであって容認できない。また、このようなあいまいな要件にもとづいて公務員や教育者を逮捕・起訴できるとすることは、罪刑法定主義に抵触するものでもあって、許容されるべきではない。
前記アンケートでも、公務員と教育者のいずれに対しても、70%以上が地位利用にもとづく国民投票運動の禁止には合理性がないと回答している。
イ 組織的多数人買収・利益誘導罪
次に,組織的多数人買収・利益誘導罪に関しては,権力を握る政権党が憲法を改正しようとするとき、豊富な資金をつかって国民に対して買収行為や利益誘導行為をする恐れがあることは否定できない。
さらに、国民投票は首長や議員の選挙とは質的に異なる側面を有することもおさえておくべきである。候補者個人の利害に結びつくような買収とか利益誘導というものは考えられない。すなわち、公職を個人が不当に占め、私物化することのないようにするという観点は、憲法改正の是非を問う国民投票においては必要ないのである。
したがって、公職選挙法と異なり、そもそも憲法改正国民投票に関して買収や利害誘導がなされうるのか、また、罰則で禁止することが投票に関する自由な言論を阻害しないかなどについての十分な検討もないまま罰則規定を設けること自体に問題がある。
そのうえ、同罪の構成要件は、「組織により、多数の投票人に対し、憲法改正案に対する賛成または反対の投票をしまたはしないことの報酬」として、「金銭、物品その他の財産上の利益もしくは公私の職務の供与をし、もしくはその供与の申し込みもしくは約束を」することや、「その者またはその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄付その他特殊の直接利害関係等を利用して憲法改正案に対する賛成または反対の投票をしないことに影響を与えるに足りる誘導をしたとき」など、きわめて不明確な要件をもとに広範な規制を行う内容であり、まさしく罪刑法定主義に反するものであって、それ自体が憲法に違反して許容されないものである。
要件が曖昧なときには、権力による恣意的運用がなされ、国家権力とは反対の意見をもつ側に打撃を与える運用がなされる恐れがある。つまり、憲法改正に対する意見を表明することだけを理由に、恣意的な検挙がなされる危険すらあるのである。鹿児島で起きた公選法違反事件は、まだ審理中であるので断定することは許されないが、少なくとも被告側の主張によると、恣意的に刑罰法規が適用されたということであり、このような警察の違法な行為が全国的に起きたときの弊害は恐るべきものがある。
このような規定は設けられるべきではない。
(4) 投票日直前の放送規制について
与党案と民主党案によれば、投票の7日前からテレビとラジオを利用した広報活動を「政党等」──公報協議会に届け出た1人以上の国会議員が所属する政党・政治団体 ─── に限っており、国会議員のいない政治団体や市民によるものは禁止されている。
そもそも国政選挙においてさえ投票日の放送しか規制されていないのに、国の根幹を定める憲法改正についてこのような規制を設けることは無用に規制を強化するものであり、テレビやラジオの影響力の大きさを考慮した規定であっても合理性がないと言わざるを得ない。
むしろ、投票日の直前は憲法改正に関する議論がもっとも活発になされることが予想されるのであり、このような大切な時期にテレビやラジオを用いた広報活動を禁止することは、国民の自由な表現活動を抑圧するものであり、憲法に明らかに抵触するものと言わざるをえない。
また、主権者たる国民の自由な意思形成を尊重すべきという観点、すなわち憲法改正案の是非への参画という主権行使のもっとも重要な場面における投票行動を意味あらしめるべきという観点から見ても、軽々しく見過ごすことのできない重大な問題のある規定である。このような規定は削除されるべきである。
3 中立公正な情報提供
(1) 広報協議会の委員の構成について
最高法規である憲法の改正について、主権者である国民の意思が自由に形成され、それが正確に反映させなければならないことは再三くり返しているとおりである。そして、国民の意思を正確に反映する前提としては、まず、国民に対して、憲法改正案についての正確な情報が公平・平等に提供されることが必要不可欠である。そのうえで、多様な意見を自由に議論できるためには、単にメディア規制をしないという消極的な施策だけでなく、財力にものをいわせた広報活動による、流通する意見のかたよりを避けるための、積極的な情報提供のシステムが必要である。
この点、与党案も民主党案も、憲法改正案の広報事務を行うために、いずれも広報協議会を設置することとしており、その必要性については十分理解できる。
しかしながら、この広報協議会の構成については重大な問題点が存する。つまり、与党案・民主党案のいずれも、構成する委員は各議院における各会派の所属議員の数をふまえて選任されることになっている。
しかし、現在の国会議員は、憲法改正を争点として選任されているわけではないから、このような構成は、憲法改正問題についての民意を反映しているとは言いがたいものである。すなわち2005年の衆議院選挙では、前記のとおり郵政民営化の是非をほとんど唯一の争点として国会議員が選出されているのであり、この構成を憲法改正の議論にそのまま反映させることに合理性があるとは必ずしも考えられない。
また、憲法改正の発議に各議院の総議員の3分の2以上の賛成が必要である以上、広報協議会の委員を各会派の所属議員数に比例させてしまうと、広報協議会委員の圧倒的多数が、憲法改正賛成派で構成されてしまい、公的な広報機関から国民に対して提供される情報が、憲法改正賛成に有利な方向にかたよってしまう。
そもそも、公的な広報機関である広報協議会にもっとも必要とされることは、現行の条文と改正案の問題点の有無を、国民に対して的確に提示することである。そして、問題点を的確に提示するためには、賛成派と反対派の意見を十分に流通させることが必要不可欠であり、そのためには、広報協議会に改正賛成派・反対派の委員が公平になるよう同数選任される必要がある。
この点、前記アンケートにおいても、過半数が広報協議会の委員に改正賛成派と反対派に同数割り当てるべきと回答している。
したがって、憲法改正案広報協議会の委員は、各議院における各会派の所属議員の人数によって選任するのではなく、改正賛成派と反対派について同数になるよう選任すべきである。
(2) 無料放送・新聞広告枠の政党への配分率について
憲法改正に対する賛成・反対意見の広報については、現代社会においてマスメディアを通じた広報がきわめて重要な意義を有している。
この点、与党案も民主党案も、「政党等」が「広報協議会の定めるところにより」、無償で、ラジオ、テレビの放送による広報活動、新聞広告を行うことができると定めている。そして、憲法改正案についての政党等による放送、新聞広告において、放送時間や紙面の広さは所属議員の人数をふまえて定めるとされている。
しかし、これでは、前述のとおり、政党等による放送や新聞広告の多くが憲法改正賛成派の主張にさかれてしまうことになり、不公正と言わざるをえない。国民が憲法改正案の是非を適切に判断するためには、改正賛成派と反対派の両者の意見を十分に知ることが必要不可欠である。したがって、政党等の意見表明のための放送時間や紙面の大きさは、各議院における各会派の所属議員数にとらわれることなく、改憲賛成派と反対派に等しく割り当てるべきである。
この点、前記アンケートでも、56.3%が、政党等の意見表明のための放送時間や紙面の大きさは、改憲賛成派と反対派に等しく割り当てるべきだと回答している。
なお,国民投票制自体が、議会を通じた間接的な意思の反映ではなく、主権者国民の直接的な意思の反映を保障するものであることを考えると、そもそも無料の広報枠を与えられる主体が政党等だけに制限されることに十分な根拠はない。
したがって、無料放送・新聞広告枠を政党等以外の団体や、市民にも与える制度の導入も検討されるべきである。
4 投票結果への国民の意思の正確な反映
(1)発議方法と投票方法について
発議方法と投票方法について、与党案は、「内容において関連する事項ごとに区分して」憲法改正原案を発議し、その「国民投票に係る憲法改正法案ごとに」一人について1票を付与するとしている。これについては民主党案も同様である。
そもそも、憲法改正に関する国民投票は、主権者である国民が国の最高法規である憲法のあり方について意思を表明するという国政上の重要問題である。そうであれば、できるだけ広範な国民の意見が正しく反映されるべきである。こうした観点からすれば、提案されている個別の改正条項ごとに、国民の賛否の意思が正確に表すことができる機会が保障されなければならない。よって、個別の条文ごとに発議され、それに対して投票する方法を原則とすべきである。
もっとも、その原則を貫けば、条項同士が相矛盾し整合性を欠くことがあるかもしれない。しかし、国民意思の正確な反映のためには、むやみに一括投票を認めるべきではない。整合性を欠くことが明らかな場合に限って、例外的に許容されると解すべきである。
この点、与党案と民主党案も、「内容において関連する」と言えさえすれば広範に一括投票を認めることになるので不十分である。また、「内容において関連する事項」の選択について、発議者である国会の無制限な裁量に委ねられることになる点においても不当である。
(2) 憲法96条1項の「『その』過半数の賛成」の意味について
憲法96条1項の「『その』過半数の賛成」の意味について、与党案では「有効投票の総数」の過半数の賛成があれば足りるとしている。対して、民主党案では「投票総数」の過半数の賛成が必要であるとする。
与党案のように「『有効投票総数の』過半数の賛成」と解すると、たとえば投票率45%で有効投票率がその85%であるとき、19%をこえる賛成がありさえすれば憲法が改正されることになる。すなわち、全有権者のわずか5人に1人の賛成意見で憲法改正ができることになる。
憲法改正に関する国民投票ではできるだけ広範な国民の意見が正しく反映されるべきであることからすると、与党案のように,わずかな国民の意思によって憲法を改正できることを認めるのは問題である。
近時は、多くの憲法学者も「『投票総数の』過半数の賛成」と解すべきとして、与党案の見解には反対している(樋口・憲法?378頁、杉原泰雄・憲法?統治の機構514頁、野中他・憲法?386頁、辻村みよ子・憲法568頁)。
憲法改正においては、できるだけ広範な国民意思が正しく反映されなければならないこと、また最近みられる投票率の低さを考えると「『全有権者の』過半数の賛成」と解すべきである。前記アンケートにおいても、56%がこのように解すべきだと回答している。
なお、この見解に対しては、棄権するのも投票に行って否を投じるのもまったく同一になって不合理だという批判がある。しかし、棄権する行為も投票に行って否と投じる行為も、いずれも憲法改正案に対して異論を唱える行為である点においては同じであるのだから、同一に扱うことに何ら不合理性はないと考えられる。
(3) 最低投票率の定めの導入について
「『全有権者の』過半数の賛成」と解さないときには、最低投票率を導入するかどうか,その是非が問題となる。本意見書は「『全有権者の』過半数の賛成」と解する立場であるが、念のため言及する。
与党案は、憲法96条が予定していないこと、また「棄権運動」が展開されるなど国民投票をいたずらに複雑なものとするおそれがあることなどを理由として、導入に反対している。しかし、「棄権運動」も、憲法改正案に反対する国民の正当な表現の自由の行使であって、それをもって導入を否定すべき理由とはなりえない。
むしろ、憲法改正を最終的に決定できる国民の意思をなるべく正確に反映するためには、最低投票率の制度を導入すべきである。アンケートでも69%が導入すべきと回答している。
最低投票の率としては、なるべく多数の国民意思を反映させるために、少なくとも60%は必要である。前記アンケートでも48%がこれに賛同している。
(4) 投票用紙の記載方法について
仮に憲法96条1項について「『有効投票総数の』過半数の賛成」と解したときには、投票用紙の記入方法によってその結論が左右される。このような問題意識をふまえて、与党は、賛成は○反対は×と記入させる方式を、民主党は、賛成は○、その他は白票とさせる方式を提案している。
与党案の方式によると、「有効投票総数」は、投票総数から無記入の票数が除かれることになる。とすれば、前記(2)で指摘したのと同じく、わずかな国民の意思によって憲法を改正できることを認めることになり問題である。
民主党案のようにすると、実質的には96条1項について「『投票総数の』過半数の賛成」と解したのと同様の結果となるので、せめてこのようにすべきである。
当意見書は、96条1項について「『全有権者の』過半数の賛成」と解する立場であるから、記載方法によって結論は左右されない。しかしながら、積極的に賛成を示す人数の把握が把握できれば足りるのであるから、民主党案と同様にすべきである。
(5) 投票年齢について
与党案では一般の選挙と同様に満20歳以上の者に投票権を認めるにとどまっているのに対して、民主党案では満18歳以上の者に投票権を認めている。
憲法改正に関する国民投票では、できるだけ広範な国民(ここでいう国民に未成年がふくまれるのは当然である)の意思が反映されるべきことからすれば、与党案では不十分である。一般の選挙権ですら満18歳以上の者に認めるのが世界の趨勢であることからも、その不当性は明らかであろう。
憲法改正という国のあり方の根幹にかかわる重要な意義をもつ問題についての国民投票を実施しようというのであるから,できるだけ広い国民意思が反映されるよう、18歳以上の者に投票権を認めるべきであり、あわせて未成年者の一般的な選挙における投票権についても引き続き議論が尽くされるべきである。
5 投票の瑕疵に対するな司法的救済について
国民投票無効訴訟に関しては、与党案にも民主党案にも、いずれも重大な問題点がある。
まず、両案ともに、提訴期間を結果の告示の日から30日以内としているが、憲法改正というきわめて重要な事項に関する提訴期間としては短期にすぎるというべきである。
また、管轄裁判所を東京高等裁判所に限定する点も重大な問題である。
地方での投票手続き等に瑕疵があった場合に、管轄の問題や、提訴期間の問題のために、実質的には無効であっても、それをただすことが保障されないという不合理を避けるためには、当然に九州をふくめた地方においても提訴できるよう管轄が認められるべきである。
また、国民投票の無効事由に関して、両案とも、?国民投票の管理執行機関による違反、?多数の投票人が自由な判断による投票を妨げられたと言える重大な違反、?賛成投票数または投票総数の確定を誤り投票結果に異同を及ぼすおそれがあるとき、の3点に限定しているが,これだけでは足りないというべきである。
日本国憲法の改正には限界があり、基本的人権の保障、国民主権そして平和主義などの日本国憲法の中心原理を憲法改正という手続きで変更することは改正権の限界を超え無効とされている。憲法前文は、「われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」としてこの趣旨を明らかにしており、この点については、与野党とも意見が一致しているところである。
したがって、少なくとも、改正権の限界を超えた憲法の根本的変更のおそれがある場合が無効事由として加えられるべきである。
そのほかにも、無効事由の有無、訴訟が提起された場合の効力、確定時期、効力発生の停止等については、十分な議論がなされておらず、さらに慎重な検討が必要である。
6 まとめ
これまで述べてきたとおり、日本国憲法の改正のための国民投票法案をめぐっては、与党案にも民主党案にも、重大な問題点がいくつも認められるところである。
周知のとおり、日本国憲法は、その前文において、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理である」とし、憲法が人類普遍の原理にもとづくものであって、これに反する憲法を排除すると高らかにうたっている。国民投票法案の是非を論ずるときにも、このような観点がいささかも没却されることのないことを願うものである。
当会は、今後なされるであろう審議にあたって、本意見書の提起した内容が参考とされ、国会の内外で議論が深まっていくことを大いに期待するところである。
以上
2007年07月24日
和白干潟・今津干潟を含む福岡湾の保全に関する意見書
2007年(平成19年)7月23日
福岡市長 吉田 宏 殿
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
第1 意見の趣旨
1 福岡市は,福岡湾(特に和白干潟・今津干潟)の重要性に鑑み,ラムサール条約の趣旨に沿って湿地環境を保全し,これ以上の環境悪化を防止すべきである。
2 福岡市は,和白干潟・今津干潟のラムサール条約への登録を目指して,国へ積極的に働きかけをすべきである。
第2 意見の理由
1 湿地保全の重要性
(1)干潟の価値と機能\nア 湿地とは
干潟を含む湿地の保全を図る上でもっとも重要な国際的取り決めであるラムサール条約によると,「湿地」とは「天然のものか人工のものであるか,永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず,さらには水が滞っているか流れているか,淡水であるか汽水であるか鹹水(かんすい)であるかを問わず,沼沢地,湿原,泥炭地又は水域をいい,低潮時における水深が6メートルを越えない海域を含む」(1条)とされている。
イ 干潟とは
干潟とは,川や波の働きによって運ばれてきた砂や泥が堆積して形成され,潮の満ち引きにともなって水没と干出を繰り返す自然環境である。干潟が形成されるためには,入り江や湾によって十分に遮断され,波浪の作用が弱いという地形的な条件と,流入河川による砂や泥の堆積作用がなければならない。わが国では,潮位差の大きい太平洋岸で発達し,また,内海や内湾でより発達する。
ウ 干潟の機能\n(ア)生物多様性の宝庫
干潟には,貝類(アサリ,ウミニナなど)・甲殻類(カニ・エビ・ヤドカリなど)・多毛類(ゴカイなど)などの,多種多様な動物が生息している(これらの動物は砂の中に隠れていることが多く,ベントスと呼ばれている)。
このようなベントスを狙って,シギ・チドリ類やガンカモ類・サギ類・ワシタカ類等多様な鳥類が干潟には生息している。
そして,湿地(干潟)は,渡り鳥によって,世界的につながっている。ラムサール条約が「水鳥が,季節的移動に当たって国境を越えることがあることから,国際的な資源として考慮されるべきものである」と述べているのは,このような渡り鳥と湿地の関係の重要性を踏まえたものである。
(イ)漁業生産機能\\
干潟には,ヨシや付着藻類に支えられてアサリ・シオフキガイ・アカガイなどの二枚貝類やクルマエビ・シバエビなどのエビ類が多数生息し,干潟に潮が満ちると,クサフグ・コノシロ・マコガレイなどたくさんの魚類が入ってくるなど,有用魚種が高密度に生息しており,良好な漁場となっている。
また,干潟は,魚類の産卵・稚仔魚の生息の場であり「海のゆりかご」とも呼ばれ沿岸海域の資源涵養の場としての機能を有している。
このように,干潟は,水産業の面からも欠かせない自然環境である
(ウ)水質浄化作用
近年,干潟の持つ水質浄化作用が注目されているが,それは物理的要因(潮汐の干満による水質ろ過機能)と生物的要因(食物連鎖による有機物や栄養塩類の系外排出)に区別される。これらの作用によって栄養塩類や有機物が減少し,干潟が浄化されるというわけである。
(エ)レクリエーションでの活用
干潟は,古くからの潮干狩り,海水浴,釣りなどのレクリエーションだけではなく,近年のバードウォッチングなど,多様な形で人々のレクリエーションに利用されている。
(2)日本の干潟の現状
干潟や浅海域は,開発が容易であるために,特に第二次世界大戦後,埋立や干拓の危機にさらされ続けてきた。1992年9月に発表された環境庁の干潟調査によると,わが国で現存する干潟の総面積は5万1462haであるが,戦前には8万2600haの干潟が存在したと推定されており,戦後47年間に実に40%もの干潟が消失していることになる。前回の干潟調査の1978年から13年間における消失面積は4076haにも及び,消失の理由は埋立46%,浚渫9%,干拓2.1%などで,自然の変化による消失はわずかに6.2%である。その後,1997年諫早湾干潟(3550ha)の潮受堤防が干拓のために締め切られて貴重な干潟が消滅した。浅海域も含めればさらに膨大な水辺環境が消失している。残されている代表的な干潟にも開発による破壊の危機が迫っている。
2 福岡湾(和白干潟・今津干潟)の価値及び重要性
(1)福岡湾という名称について
福岡湾は,厳密には博多湾とは異なる海岸ないしその海岸に囲まれる内海を指すが,近年,博多湾とほぼ一致する範囲を指して使用されており,本意見書においても博多湾とは区別しない位置付けにおいて福岡湾という名称を使用し,説明する。
(2)福岡湾の干潟について
福岡湾は,福岡県福岡市の東区,博多区,中央区,早良区,西区に面する内湾であり,湾の東部には海の中道,志賀島が位置し,西部は糸島半島に至る。
東西約20キロメートル,南北約10キロメートル,総面積は約134平方キロメートルであり,海岸線の総延長は約128キロメートルである。昭和の初期までは海岸線の大半が自然海岸であって白砂青松と謳われていたが,近年,その3分の1は港湾施設の整備された人工海岸に変化している。福岡湾の開発により湾中央部から自然海岸が消滅し,その中央部から東西へ押しやられる形で分断されて行った。そのように分断された海岸線の東端に和白干潟,西端に今津干潟が残され,自然海岸の面影を残している。
湾口幅は7.7キロメートルであり,湾口部が狭いため閉鎖性が高く,湾内の波は湾外の波と比較すると穏やかであり,土砂等の陸域からの流入物が堆積しやすくなっている。したがって,干潟を形成する前提条件が整っている点で特徴的であり,干潟が消滅する傾向にある近年の我が国において,貴重な湾内環境を有するといえる。福岡湾内には和白干潟,今津干潟,多々良川河口,室見川河口などの干潟が存在する。
(3)和白干潟の概要・現状
ア 和白干潟の概要
和白干潟は福岡湾の最も奥に位置する前浜干潟であり,北西から南東の方向へかけて約1.5キロメートルの長さがあり,干潮時の最大幅は600メートル,80ヘクタールの広さを有する。東側からは和白川,南側からは唐原川が流入しており,河口付近には河口干潟が発達している。干潟のほぼ全域が砂質であるが,部分的には砂泥質になっており,また,河口付近は主に泥質である。
小規模ではあるが干潟から塩性湿地植物群落とクロマツ林が続くという干潟本来の姿を見ることができ,このような自然環境は他では千葉県の小櫃川河口にのみ残る。和白干潟は日本海側に残された数少ない干潟の一つであるため,日本海沿いに移動する渡り鳥や朝鮮半島から渡ってくる野鳥の重要な中継地及び越冬地となっている。
イ 生物の多様性
かつては,干潟上部の砂浜に塩田もみられ,製塩が当地域の基幹産業となるほどの水質に優れた海であった。また,干潟や浅海域は魚類が産卵し,成育する場所として「海のゆりかご」とも呼ばれ,エビ,カニ,チヌ,カレイ,コノシロ,シャコ,アカガイ,ウナギなどの内海性の魚介類の生息地域であるとともに,タイ,アジ,サバ,イワシなどの外海性魚介類の産卵場であり,周辺海域の生態系を根底から支える地域であった。
さらに,ハマシギ,チドリなどの鳥類の生息地として,またズグロカモメなどの希少な渡り鳥の生息地として重要な意味を有する地域である。
ウ 鳥類の生息地・渡り鳥の飛来地としての重要性
また福岡湾は,大陸から朝鮮半島を経由するルートと,樺太から日本列島を南北に経由するルートの東アジアにおける二つの渡り鳥のルートが交錯する位置にあるため,渡り鳥を中心に観察される野鳥の種類は我が国有数である。
和白干潟一帯では,220種以上の野鳥が観察されており,それらの内には,絶滅危惧?A類とされるクロツラヘラサギ,3種の絶滅危惧種?B類,8種の絶滅危惧?類,1種の準絶滅危惧種,3種の情報不足種が含まれ,ハマシギ,ミユビシギ,シロチドリ,ミヤコドリなどがシギ・チドリ類渡来地ネットワークの基準渡来数をクリアするなど,東アジアの渡りのルートを維持する上で重要な役割を果している。
エ 重要湿地500選
環境省は,我が国における湿地保全政策の基礎資料として,保全地域の指定等に活用したり,開発計画等に際して事業者に保全上の配慮を促したりするものとして,重要湿地500選を選定公表した。
和白干潟も,「春秋の渡りおよび越冬期の種数・個体数が多く,ミヤコドリ,メダイチドリ,チュウシャクシギ,キアシシギ,ミユビシギ,トウネン,ハマシギでは最小推定個体数の0.25%以上が記録されている。RDB種のカラフトアオアシシギ,ヘラシギ,コシャクシギ,ホウロクシギ,アカアシシギ,オオジシギが記録されていること」を理由に重要湿地500選に選定されている。
(4)今津干潟の概要・現状
ア 今津干潟の概要
今津干潟は,福岡湾西部の瑞梅寺川河口にある干潟であり,河口干潟である。干潟は80haであり,干潟を含む河口域の面積は約145haである。
今津干潟には,瑞梅寺川のほか,周船寺川,江ノ口川,今山川の小河川が流入しており,主として瑞梅寺川からの堆積物によって形成された泥質干潟である。
瑞梅寺川の上流に,1977年に瑞梅寺ダムが建設され,河川の流量は減少している。また,その他の河川にも樋門が設けられている。
河口域にはわずかな葦原が残っているが,河口域全体が感潮域であり,満潮時には葦原を除いて全面が水面下になる。河口周辺には農地が広がっており,河口域と一体となって鳥類をはじめとした生態系を形づくっている。
イ 生物の多様性
今津干潟は,干潟,アシ原,ハス田,水田,畑など多様な環境を有し, これらが多くの野鳥の住処になっている。
福岡湾のプランクトンは植物性プランクトンが110種類,動物性プランクトンが節足動物51種を中心に110種類が観察されている。
魚類や甲殻類などの游泳生物は65種で,湾内および玄界灘では沿岸漁業が盛んで,新鮮な魚介類を提供している。
底生生物は,環形動物59種,軟体動物19種,節足動物36種を中心に127種が生息し,潮間帯には環形動物49種,軟体動物47種,節足動物48種など154種類が生息している。海藻類は54種である。
ウ 鳥類の生息地・渡り鳥の飛来地としての重要性
今津周辺では,これまでに300種を超える野鳥が観察されている。百万都市福岡の中にあり,また,さして広からぬこの場所で300を超す観察数は驚くべき数字である。とりわけ,国際的貴重種であるクロツラヘラサギの定期的な越冬地として,バードウォッチャー達の間では全国的に知られている。
エ 重要湿地500選
前記重要湿地500選については,今津干潟も,当然のことながら,「春秋の渡りおよび越冬期の種数・個体数が多く,シロチドリでは最小推定個体数の1%以上,ミヤコドリ,チュウシャクシギでは最小推定個体数の0.25%以上が記録されている。絶滅危惧種のセイタカシギ,ホウロクシギ,アカアシシギ,ツバメチドリ,オオジシギが記録されている。」ということなどを理由に選定されている。
3 両干潟の現状と問題点
(1)和白の現状と問題点
和白干潟は,都市化の波の中で,過去,一貫して埋立の脅威にさらされてきた。
1978年策定の港湾計画では,和白干潟の全面埋立計画が立てられたが,市民の反対の前に挫折した。
代わって登場した和白干潟の目と鼻の先の浅海域を埋め立てる人工島埋立事業(アイランドシティ整備事業)は,内外の強い反対にもかかわらず1994年7月に着工された。埋め立て面積は,401haであり,福岡湾の入口に位置する能古島(396ha)の面積を上回り,福岡市の中心街がすっぽりと覆われてしまう程の大きさである。当初計画で総事業費4600億円のわが国有数の巨大埋立プロジェクトである。
和白干潟を含む人工島周辺地区において,工事着工前後は,冬季において2万5000羽を超える鳥類が見られたが,工事着工後順次個体数は減少し,2001年頃からは1万5000羽程度にまで落ち込んでしまっている。
しかし,福岡市が実施した環境モニタリング調査では,「鳥類の全種の種類がやや少ないなど,変化が見られた項目もありましたが,類別の種数ではそれぞれ変動範囲内であり,特に問題となる変化ではありませんでした」と結論付けている。
周辺海域と干潟の潮流の変化に伴う生物の生息環境への悪影響の可能性と,環境アセスメントの不十分さについて内外から批判の声がわきあがっている。
(2)今津の現状と問題点
九州大学の移転に伴い,今津干潟周辺に急速に都市化の波が押し寄せようとしている。都市化に伴い,人口は急増し,今津干潟及びその周辺地域の野生動植物の生息,生育環境への影響(粉じん,騒音,温室効果ガス,排水の影響など)が懸念され,また,瑞梅寺川の汚濁負荷も上昇し,水質問題も深刻化しつつある。
現在,今津干潟周辺に隣接する場所に,西南学院大学田尻グラウンド(仮称)整備事業が進められようとしており,これも都市化の顕著な表れといえる。
1997年3月に「福岡市西部地域まちづくり構想」が発表されたが,今津干潟の生態系・自然条件の保全という観点からは,極めて貧困な構想であり,環境管理の行き届いたプログラムの策定が強く求められるところである。
このように,今津干潟は,押し寄せる都市化の波の前に,環境悪化の現実的な危機に瀕しており,緊急に保全の措置をとる必要がある。
(3)福岡湾保全の必要性
このように,和白干潟,今津干潟はともに環境悪化の危機に瀕し緊急に保全措置を取る必要があるが,それは,和白干潟あるいは今津干潟のいずれか1つを保全すれば足りるというものではない。
すなわち,両干潟は,福岡湾の東端と西端に位置し,それぞれの干潟が漁業資源涵養の場として福岡湾全体の漁業生産機能を維持するための役割を果しているが,いずれか1つの干潟の漁業生産機能が失われれば,福岡湾全体の漁業生産に極めて重大かつ深刻な影響を生じさせるものである。
また,両干潟が健全に機能していることによって福岡湾全体の水質が浄化されているのであるから,いずれか1つの干潟の水質浄化機能が低下するならば,福岡湾全体の水質の悪化を招くこととなる。
さらに,渡り鳥は,両干潟のいずれか一つに定着するものではなく,両干潟を行き来することによって,渡りを維持するために必要な食料と休息を得ているのであるから,福岡湾の鳥類の生息地・渡り鳥の飛来地としての重要性を維持する上でも,両干潟そろって保全をする必要があるのである。
よって,和白干潟と今津干潟のいずれか一つではなく,両干潟そろって,緊急に保全の措置を取る必要があり,そのために,両干潟を以下に詳述するラムサール条約に登録し,同条約の趣旨に沿って,両干潟を含む福岡湾の環境を保全する必要があるのである。
4 ラムサール条約登録の意義
(1)条約の概要
ラムサール条約は,特に水鳥の生息地等として国際的に重要な湿地及びそこに生息・生育する動植物の保全を促進することを目的とし,各締約国がその領域内にある湿地を1ヶ所以上指定し,条約事務局に登録するとともに,湿地及びその動植物,特に水鳥の保全促進のために各締約国がとるべき措置等について規定している。現在,締約国は154ヶ国,登録湿地数は1674ヶ所に及ぶ。
ラムサール条約では,3年ごとに締約国会議が開催され,そこで採択される決議や勧告により,条約の実質的内容が順次豊富化されてきている。
条約による湿地保全の基本原則は,「賢明な利用(wise use)」にある。この「賢明な利用」については,第3回締約国会議において,「生態系の自然財産を維持し得るような方法で,人類の利益のために湿地を持続的に利用することである」と定義され,第6回締約国会議で採択された戦略計画では「賢明な利用」を持続可能な利用と同一のものとみなされ,第9回締約国会議(2005年)で「湿地の賢明な利用は,持続可能な開発の範囲内において生態系アプローチを通じて達成される湿地の生態学的特徴の維持である。」と定義され,「湿地の生態学的特徴」については,「ある時点での湿地を特徴づける生態系構成要素,プロセス,および恩恵・サービスの組み合わせである。」とされた。
(2)条約の国際的重要性
1960年代初めに至り,何らの対策も取らないままではヨーロッパの重要な湿地が消失してしまうとの危機感がようやく高まり,湿地の重要性に気付き始めた人々の運動が実って,条約の締結に至った。国際条約の必要性が叫ばれたのは,湿地や水源は国境をまたがることが多く,渡りをする水鳥は,国境を越えて多くの湿地を必要とする等の理由からであった。
その後,地球規模での湿地の消失や破壊という深刻な事態に直面した中で,国際世論の中でも,湿地の持つ価値が再評価され始め,いま残されている湿地を保全し,失われた湿地を回復するという国際世論が形成されてきた。
このような国際世論を背景に,ラムサール条約は水鳥ばかりでなく湿地を保全し復元するための条約としてその国際的重要性が再認識されるに至っており,締約国数も格段に増加した。
(3)わが国の登録状況
日本も,公害事件の多発等を受け,1970年代に入って遅ればせながら湿地保全の重要性に対する社会的認識の高まりを見て,1980年10月に締約国となった。その際,釧路湿原を登録湿地として指定した。
2005年11月の第9回締約国会議において,大分県のくじゅう坊ガツル・タデ原湿原,鹿児島県の藺牟田池,屋久島永田浜,沖縄県の慶良間諸島海域,名蔵アンパルを含む国内20ヶ所の湿地が新たに登録され,わが国の現在の登録湿地数は33ヶ所となった。
(4)日本の環境保全戦略の中における干潟の位置づけ
2000年12月に改訂された環境基本計画では,「湿地の保全」の項目を設け,生物多様性の確保の見地から,(?)水鳥等の多様な野生生物の生息地等として重要な湿地について「適正な評価と積極的な保全」や「渡り鳥飛来地などとして重要な湿地について国際的な生物多様性の観点から保全を推進する」などの目標を掲げている。
さらに,2002年3月に策定された新・生物多様性国家戦略(新戦略)では,あらゆるタイプの湿地が人間活動の影響を強く受けており,その喪失と質的劣化が進行していることから,湿地タイプの特性に従い,かかる影響を適切に回避,低減する必要性及び,湿地の再生・修復の必要性を認識し,湿地の保全が緊急の課題であり,かつ保全を原則とすべきことがうたわれている。
このように,湿地の保全は,現在,日本国の国家戦略としても重要な位置づけを与えられるようになっている。
(5)ラムサール条約登録の影響
ラムサール条約登録については,?国内外に国際的に重要な湿地としてその知名度がアップすることによる効果や?環境保全に対する地域住民の湿地保全の意識が高まり,その保全への取り組みが活性化することが挙げられる。このように地域住民に湿地の保全意識が高まることは,我が国の前記環境保全戦略にも沿うものである。
これに対し住民等の懸念として考えられる農業や工作物の設置の規制についても,?農林水産業に関する新たな規制は原則としてないうえ,水鳥による農業被害への懸念も現状以上になることは考えられず,?工作物の設置についても許可を受ければ可能であるし,事前に計画が分かっている場合には事前に区域から除外することも可能であり十分に対応が可能なものであり,マイナスの影響はほとんど考えられない。
(6)ラムサール条約登録の意義
以上からして,重要な湿地であればラムサール条約に登録することが望ましいことは明らかである。
ましてや自治体等が湿地の重要性を認識し,かつ,その保全等を行っているならば当然に登録を目指すべきである。
5 日弁連・九弁連・当会の取り組み
日本弁護士連合会では早くから湿地保全問題に取り組み,各地の湿地を取り巻く問題状況を調査,研究の上,湿地に対する開発行為の中止や保全策の提言を行ってきた。1997年には諫早湾干拓事業に関し水門開放と事業中止を求める意見書と中海干拓事業中止の意見書を,1999年12月には東京湾三番瀬の埋立中止を求める意見書を,2002年3月には沖縄県泡瀬干潟の埋立事業の中止を求める意見書を,2003年10月には諫早湾干拓事業につき再生に向けた水門開放調査を求める意見書を,2004年2月には中城湾佐敷干潟の埋立て計画の中止を求める意見書を,そして,2005年3月には中池見湿地の保全に関する意見書を公表した。
また,2002年10月には,日弁連の取り組みの到達点として,郡山市で行われた第45回人権擁護大会において,シンポジウム「うつくしまから考える豊かな水辺環境−湿地保全・再生法制定に向けて−」を開催し,?回避・最小化・代償という明確な優先順位をもって保全を行う手法(ミティゲーション),生態学的知見に基づき保全と再生を一体的に行うための湿地管理計画制度及び,保護区制度をその内容とする湿地保全・再生法の制定と?法制定によって保全策が取られるまでの緊急措置として重要湿地500選の湿地及び周辺地域で進行中の開発計画を中止させること等を内容とする「湿地保全・再生法の制定を求める決議」を採択した。
こうした日弁連の全体的な取組に呼応して,九弁連及び福岡県弁護士会は,地元において,沖縄の泡瀬干潟,佐敷干潟,名蔵アンパル,鹿児島県の屋久島永田浜,大分県の九重タデ原湿原,福岡県の和白干潟,今津干潟,曽根干潟などの各湿地の調査を毎年のように行い,それぞれの保全策の研究を進めてきたところである。そうした調査・研究の成果は随時,日弁連の上記取組に反映されてきた。
また,当会は,2005年に,曽根干潟の保全に関する意見書をまとめ,北九州市に対して,曽根干潟の保全措置をさらに進め,ラムサール条約上の登録湿地を目指して積極的に活動すべきであると提言した。
6 和白干潟・今津干潟がラムサール条約登録にふさわしい湿地であること
(1)わが国におけるラムサール条約登録の要件
わが国におけるラムサール条約登録の要件としては,以下の3点が挙げられている。
?国際的に重要な湿地であること(=ラムサール条約で示された基準に該当していること)
?国指定鳥獣保護区特別保護地区等の地域指定により,将来にわたり自然環境の保全が図られていること
?地元自治体等から登録への賛意が得られていること
(2)両干潟が「国際的重要湿地」であること
ア ラムサール条約における国際的な重要湿地の基準
上記?のラムサール条約登録で示された国際的重要湿地の基準として,ラムサール条約 決議VII.11付属書では8つの基準が掲げられているが,本件に関連するものは以下の基準2,3,6である。
基準2:危急種,絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種,または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている場合には,国際的に重要な湿地とみなす。
基準3:特定の生物地理区における生物多様性の維持に重要な動植物種の個体群を支えている場合には,国際的に重要な湿地とみなす。
基準6:水鳥の一種または一亜種の個体群において,個体数の1%を定期的に支えている場合には,国際的に重要な湿地とみなす。
イ 和白干潟,今津干潟が「国際的重要湿地」であること
(ア) 和白干潟が「国際的重要湿地」であること
a 和白干潟は,「春秋の渡りおよび越冬期の種数・個体数が多く,ミヤコドリ,メダイチドリ,チュウシャクシギ,キアシシギ,ミユビシギ,トウネン,ハマシギでは最小推定個体数の0.25%以上が記録されていることと,RDB(レッド・データ・ブック)種のカラフトアオアシシギ,ヘラシギ,コシャクシギ,ホウロクシギ,アカアシシギ,オオジシギが記録されている」こと,「スズガモの渡来地」であること,「クロツラヘラサギの渡来地」であることなどを理由に,環境省が選ぶ「日本の重要湿地500」に選ばれているが,この選定理由からすると同干潟が危急種,絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種,または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている「国際的重要湿地」であることは明らかであり,基準2に該当する。
また,環境省主催のラムサール条約湿地検討会議においても,クロツラヘラサギ,ズグロカモメ,ヘラシギ,カラフトアオアシシギの飛来が記録されていることを理由に「絶滅のおそれのある種または生態学的群衆の存在にとって重要」としてラムサール条約登録の指定候補地に挙げられており,この理由からすると,同干潟が危急種,絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種,または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている「国際的重要湿地」であって基準2に該当することは明らかである。
さらに,福岡市港湾局の平成17年度のアイランドシティ整備事業・環境監視結果によれば,人工島周辺ではズグロカモメが年間43羽飛来し,越冬していることが報告されており,ズグロカモメは,環境省のレッドデータブックで絶滅危惧?類になっている希少な渡り鳥で,世界中で7000羽しかいないといわれているし,日本野鳥の会福岡支部の報告でも,世界で約1700羽しか生息数していないクロツラヘラサギが毎年20ないし30羽飛来するとされ,その他にもツクシガモやミヤコドリなどの貴重種の飛来もみられ,これらの希少な渡り鳥の飛来する和白干潟が特定の生態学的群衆を支えている湿地であることは明らかであり,基準2に該当する。
b 1999年九州・南西諸島湿地レポートによれば,和白干潟を含む福岡湾のプランクトンは植物性プランクトンが110種,動物性プランクトンが節足動物51種を中心に110種が観察されること,魚類やコメツキガニを含む甲殻類などの游泳動物は65種,底生成物はゴカイなどの環形動物49種,軟体動物19種,節足動物36種など150種あまりが生息し,海藻類が54種観察されることが報告されている。
また,環境省が選ぶ「日本の重要湿地500」に和白干潟が選定された理由として「豊富な鳥類と塩生植物。ベントス相も豊富で,ウミニナ,オオノガイ,ツバサゴカイといった希少種も多い」ことがあげられている。
このように豊富な生物群が生息していることからすれば,特定の生物地理区において生物多様性の維持に重要な動植物種の個体を支えているものといえ,基準3に該当する。
c 前述の環境省主催のラムサール条約湿地検討会議において,ミユビシギ(1%基準220羽)が例年,和白干潟に二百数十羽程度飛来していることから,「水鳥の個体数の1%を定期的に支える湿地」としてラムサール条約登録の指定候補地に挙げられており,この理由からすると,同干潟は基準6にも該当する。
d 以上からも明らかなように,和白干潟は複数の観点からラムサール条約上の基準である「国際的重要湿地」の基準に該当する。
(イ)今津干潟が「国際的重要湿地」であること
a 今津干潟は,「春秋の渡りおよび越冬期の種数・個体数が多く,シロチドリでは最小推定個体数の1%以上,ミヤコドリ,チュウシャクシギでは最小推定個体数の0.25%以上が記録されている。RDB種のセイタカシギ,ホウロクシギ,アカアシシギ,ツバメチドリ,オオジシギが記録されている。」こと,「クロツラヘラサギの渡来地」であることなどを理由に,環境省が選ぶ「日本の重要湿地500」に選ばれているが,この選定理由からすると同干潟が危急種,絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種,または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている「国際的重要湿地」であることは明らかであり,基準2に該当する。
b シロチドリの最小推定個体数の1%以上の飛来が記録されていることから,基準6にも該当する。
c 以上からも明らかなように,今津干潟は複数の観点からラムサール条約上の基準である「国際的重要湿地」の基準に該当する。
(3)国指定鳥獣保護区特別保護区特別保護地区等の地域指定により,将来にわたり自然環境の保全が図られていること
ア 和白干潟について
和白干潟は,シギ・チドリ類を始めとする渡り鳥の中継地,越冬地として,国際的に重要なことから,集団渡来地の保護区として,すでに国指定鳥獣保護区に指定されており,将来にわたり自然環境の保全が図られるための法的担保が整っている。
それゆえ,現時点において,わが国におけるラムサール条約登録の要件?を満たしている。
イ 今津干潟について
今津干潟は,現在,福岡県指定鳥獣保護区には指定されているものの,国指定鳥獣保護区には指定されていない。
したがって,現時点においては,わが国におけるラムサール条約登録の要件?は欠けている。
(4)地元自治体等から登録への賛意が得られていること
現時点においては,和白干潟・今津干潟のラムサール条約登録について,地元自治体である福岡市などから賛意が得られているかは明確ではなく,わが国におけるラムサール条約登録の要件?を満たしているとは言いがたい。
(5)小括
ア 和白干潟・今津干潟は十二分に国際的重要湿地の要件を充たしており,わが国におけるラムサール条約登録の要件?を満たしている。
その上,和白干潟においては,国指定鳥獣保護区に指定されており同要件?も満たしている。
しかし,和白干潟については,同要件?を満たしているとは言いがたく,今津干潟については同要件?および?を満たしているとは言いがたい。
逆に言えば,和白干潟については?の要件を,今津干潟については?,?の要件さえ満たせばラムサール条約の登録湿地になりうるのである。
そこで,当会は,これまでの日弁連等の取り組みを踏まえた上で,これら残りの要件の充足に対して福岡市が積極的な措置を講ずべく本意見書で求めるものである。
7 和白干潟・今津干潟にはラムサール条約登録を行う条件は整っていること
(1)ラムサール条約登録の素地は整っていること
ア 和白干潟・今津干潟が重要な湿地であること
すでに繰り返し述べてきたように,福岡湾(和白干潟・今津干潟)は,極めて重要な湿地であり,和白干潟と今津干潟の両干潟そろっての十分な保全が求められている。
したがって,ラムサール条約の登録湿地として登録されるべきである。
イ 福岡市のこれまでの政策と合致すること
福岡市は,福岡湾の価値を十分に認めた上で,福岡市新・基本計画において,「豊かな自然環境の保全と生態系ネットワークの形成」を施策の基本的方向として掲げ「和白干潟や今津干潟の保全と創造」を主要な施策として「ラムサール条約登録等は将来的な課題と考えている」と考え方を述べるなど,ラムサール条約登録に向けた福岡湾の保全を市の政策としている。
それゆえ,和白干潟・今津干潟をラムサール条約登録することによって,地域住民の環境保全意識がさらに高まれば,福岡市の政策実現もより円滑となり,将来にわたって福岡湾の一層の保全が可能となるのであり,そのような素地は既に整っているといえる。
ウ 今津干潟の鳥獣保護区指定に阻害要因はないこと
(ア)前記の通り,今津干潟については,現時点においても,福岡県指定鳥獣保護区に指定されており,鳥獣の狩猟について一定の制限がかかっているのであるから,同地域について国指定鳥獣保護区の指定を行ったとしても周辺地域の住民らに新たな不利益はないというべきである。
(イ)上記(ア)で述べたとおり,今津干潟は,すでに福岡県指定鳥獣保護区となっているのだから,その保護政策を通じて周辺地域住民の理解を得ていくことは十分に可能である。そして,福岡市自体も,新・基本計画西区基本計画において,「国設鳥獣保護区について国と協議していきます」と施策目標を掲げ,今後,学識経験者,市民,行政等から構成する懇話会等において検討していくとしており,今津干潟の国指定鳥獣保護区指定に向けた準備は既に整っているといえる。
(2)まとめ
以上からも明らかなように,和白干潟,今津干潟をラムサール条約に登録することについては,何らの阻害要因もないだけでなく,これまでの福岡市の政策にも合致するものである。
8 結論
よって,当会は意見の趣旨記載の意見を述べるものである。
以上
2009年09月09日
労働者派遣法の抜本改正を求める意見書
労働者派遣法の抜本改正を求める意見書
2009年9月9日
福岡県弁護士会
会長 池永 満
厚生労働省の本年8月28日付「非正規労働者の雇止め等の状況について」によれば,昨年10月から本年9月までの間に,全国で23万2448名の非正規労働者に対して雇止め等が実施され,または実施される予定であり,うち,派遣労働者は14万0086名(60.3%)に上っている。しかも,派遣労働者の場合,うち約44%の6万1435名が契約期間満了による雇止め等ではなく,派遣契約の中途解除に基づく解雇である。さらに,派遣労働者の場合,判明しただけでも1983名が雇止め等と同時に住居を喪失している。ちなみに,わが福岡県の場合,上記期間中に雇止め等された労働者は4082名,うち派遣労働者は,2460名(60.3%)である。以上のとおり,昨年から今年にかけて,派遣労働者が大量に失職しており,しかも,その一部は職を失うと同時に住居まで失うという状況にある。
上記の事態の直接的要因は,昨秋からの世界同時不況によって,多くの派遣労働者等が雇用調整のために,契約を中途解約されるなどしたことであるが,より根本的な原因は,労働者派遣法が実効的な労働者保護規定を欠いていることである。そのため,派遣労働者を安価な雇用の調整弁として位置づけることが可能とされ,常用雇用の代替が促進されている。加えて,期間制限の潜脱や,二重派遣など,違法派遣が横行している。さらに,正社員と同様の仕事に従事しながら,派遣労働者に対しては差別的低賃金が押しつけられるなどの事態は,年収200万円以下のワーキングプアを大量に生み出す原因ともなっている。かかる事態はすでに,日本国憲法が保障する生存権を侵害していると言うべきであり,到底看過できない。
そこで,当会は,労働者保護の見地から労働者派遣法を改正すべきことについて意見を述べる。
第1 意見の趣旨
国会は,労働者保護の観点に立って,労働者派遣法を抜本改正すべきである。とりわけ,以下に掲げる点については,緊急に改正すべきである。
① 法律の目的に派遣労働者保護を明記すること。
② 派遣対象業種を専門的なものに限定すべきこと(なお,専門性の判断について,現行26業種を全面的に見直し,さらに限定すべきである。)。
③ 派遣利用要件として,臨時的・一時的事由を加えるべきこと。
④ 登録型派遣は禁止すべきこと。
⑤ 日雇い形態の派遣は全面禁止すべきこと。
⑥ 賃金・福利厚生に関して,派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇を義務づけること。
⑦ 派遣可能期間経過後や,違法派遣,偽装請負について,直接雇用のみなし規定を設けるべきこと。その際の労働条件は,派遣先労働者と同等の内容とすること。
⑧ マージン率の上限規制を設けること。労働者に対するマージン率の開示を義務づけること。
⑨ 労働者保護規定は原則として強行的効力をもつものとし,とくに派遣先に対する罰則規定を強化すべきこと。
第2 意見の理由
1 当会や民間ボランティア等の取り組み
この間,昨年末からの“年越し派遣村”をはじめ,全国各地で民間ボランティア,有志弁護士らにより同様の活動が取り組まれ,炊き出し,生活相談,一斉生活保護申請等々が取り組まれてきた。
当会も,本年3月から生活保護申請同行の当番弁護士制度を開始し,本年9月2日現在,129件の要請を受けた。また,本年3月9日には,日本弁護士連合会の全国一斉「派遣切り・雇い止めホットライン」相談活動の一環として,電話相談を実施し,67件の相談を受けた。
また,ここ福岡県では,当会会員弁護士を含む県内の民間ボランティアによって,本年3月1日には福岡市内で,本年6月28日には北九州市内で,“1日派遣村”の活動が取り組まれた。
こうした活動の結果,本文に述べたような悲惨な現状及びその背景事情が明らかになってきた。
2 厚生労働省の対策等
こうした状況を受けて,厚生労働省は,本年2月6日,離職者住居支援給付金制度を創設し,いわゆる“派遣切り”にあった派遣労働者の住居支援の制度を打ち出した。しかしながら,同制度は,解雇や雇止めを行った雇用主が,当該派遣労働者に引き続き住居を提供するなどした場合に,その事業主を支援する制度であり,住居を失った派遣労働者を直接支援する制度ではない。その結果,同制度がスタートしてから本年4月までの間で,同制度の計画対象に挙げられた派遣労働者の数が全国で1万3212人であるにも関わらず,実際に計画認定された派遣労働者数はわずか755人に留まっている。福岡県の場合,計画対象労働者数は累計で227名,うち計画が認定された労働者数はわずか13名に過ぎない。このような実績から明らかなとおり,同制度は,住居を失った派遣労働者に対する救済措置として,ほとんど機能していないと言わざるを得ない。
また,同省は,本年1月28日,緊急違法派遣一掃プランの実施を打ち出したが,それは違法派遣の温床とされている日雇い派遣に限定されており,また,各都道府県の労働局の担当者等組織人員体制に何らの手当もなされていないと見られることからすれば,その救済範囲および実効性に多くを期待することはできない状況にあると言わざるを得ない。
3 改正へ向けた基本的な考え方
そもそも,労働者は使用者に対して交渉力が劣り,労働契約を労使の自由な交渉に委ねると,労働条件が際限なく切り下げられ,労働者の生存すら脅かされかねない。このような意味において,国際労働機関の目的に関する宣言(ILOフィラデルフィア宣言,1944年)が「労働は商品ではない」と宣言したとおり,労働を他の商品と同様に扱うことは許されない。だからこそ,労働者を保護する労働法制が必要とされる。このような労働者保護の必要に鑑みれば,労働契約は雇用主と労働者との直接契約,すなわち直接雇用が原則とされねばならない。
1947年に施行された職業安定法は労働者供給事業を罰則をもって禁止している(同法44条,64条)。
同法が労働者供給事業を罰則をもってまで禁止したのは,戦前の日本において,労働者供給事業が横行しており,過酷なまでの中間搾取が行われ,労働者が無権利状態にあったことから,労働法制の民主化,すなわち近代的労使関係の確立こそが戦後日本の民主化のテーマの一つとされたからである。富山の女工哀史や“ああ野麦峠”などからも知られるとおり,戦前は労働ボスが貧困層を束ね,各雇用主に労働力として供給し,酷い中間搾取を行いながら,一方,供給先である雇用主は,廉価な労働力の供給元および雇用調整の手段として,労働者供給事業を利用していたのである。
こうした封建的労使関係にメスを入れ,近代的労使関係はあくまでも直接雇用が原則であること,すなわち,労働力の提供を受ける者は直接労働者を雇用すべしとすることで,賃金その他の労働条件を明確にするとともに,責任の所在等を曖昧にさせないという原則が罰則をもって導入されたのである。
労働者派遣法は以上のような原則に対し,あくまで特殊例外的立法として導入されたものであった。ところが,1986年に労働者派遣法制がわが国に導入され,さらに数次にわたり規制緩和・適用拡大がなされた結果,大量のワーキングプアを生み出し,しかも職と同時に住居を失うという悲惨な事態を招くに至り,そのことがひいては社会不安さえ招来している事態ともなっている。
かかる経緯に鑑みるならば,あくまでも根本原則である労働者供給事業の禁止に沿う方向で労働者派遣法は改正されなければならない。
4 具体的な改正項目
以上を踏まえれば,労働者派遣法を労働者保護の観点に立って抜本改正することが必要である。とりわけ,以下の点については緊急に改正する必要がある。
① 法律の目的に派遣労働者保護を明記すること。
上記のとおり,この点を欠くことが現行法の最大の欠陥である。
② 派遣対象業種を専門的なものに限定すべきこと(なお,専門性の判断について,現行26業種を全面的に見直し,さらなる限定を加えるべきである。)。
本来,労働者派遣法は,臨時的・一時的な業務の必要のため,専門的知識・技能を有する労働者を確保するという要請から,労働者供給事業の例外として導入されたのであるから,派遣対象業務は,このような本来の趣旨及び要請に沿って限定されるべきである。
また,現行の対象業種中,例えば5号(OA機器操作)などは,単にOA機器を操作するだけで何らの専門性もない業務に,期間制限を潜脱する目的で,名目だけ利用されている例もある。こうした実態からすれば,専門業種の見直しにあたっては,さらなる限定を加えるべきである。
③ 派遣利用要件として臨時的・一時的事由を加えること。
直接雇用が原則であること,労働者派遣はあくまでも,専門業種についての臨時的・一時的雇用形態であるべきことからすれば,臨時的・一時的事由を要件とすることが法本来の趣旨に添うものである。
④ 登録型派遣は禁止すべきこと。
登録型派遣は,派遣先と派遣元との間の派遣契約が存続している間だけ,当該派遣元と派遣労働者の間の雇用契約を認めるものであるが,派遣先の自由な派遣契約の解除によって派遣労働者の解雇が事実上合法化されてしまう。その結果,派遣労働者には労働基準法上の保護が及び難くなってしまっている。
こうした細切れ雇用とも言うべき登録型派遣は,派遣労働者の雇用を極めて不安定にすることから,禁止すべきである。
⑤ 日雇い形態の派遣は全面禁止すべきこと。
派遣労働者の身分を究極にまで不安定にし,労働条件を劣悪化するおそれのある日雇い派遣は明文をもって全面禁止すべきである。
⑥ 賃金・福利厚生に関して,派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇を義務づけること。
派遣労働者の賃金は派遣先従業員のそれと比較して,格段に低いのが一般的であり,酷いところでは,同じ作業に従事しながら,派遣労働者の賃金は派遣先従業員の賃金の2分の1という場合もある。
この点,ドイツ,フランス,イタリア,韓国の派遣法は,いずれも派遣先従業員との同一待遇保障あるいは差別待遇の禁止を明記している。我が国労働者派遣法にも均等待遇を明記することが求められる。
⑦ 派遣可能期間経過後や,違法派遣,偽装請負について,直接雇用のみなし規定を設けるべきこと。その際の労働条件は,派遣先労働者と同等の内容とすること。
この点について,現行法の直接雇用規定は,派遣先企業の努力義務や,制限期間経過後の直接雇用申込義務にとどまり,現実には,直接雇用されるケースは極めて稀である。
この点,派遣法をもつヨーロッパの国々では,一定期間経過後には直接雇用のみなし規定を設けている国も多く,わが国も派遣可能期間経過後は直接雇用のみなし規定を設けることが必要である。違法派遣,偽装請負についても,直接雇用のみなし規定を設けることにより是正を図るべきである。
⑧ マージン率の上限規制を設けること。労働者に対するマージン率の開示を義務づけること。
労働者派遣法は,中間搾取を禁じる労働基準法6条の例外規定であり,原則としての中間搾取禁止が重視されるべきである。
派遣労働者が低賃金に苦しむ状況を改善するため,派遣元のマージン率を労働者に開示させるとともに,マージン率に上限規制を設けるべきである。
⑨ 労働者保護規定は原則として強行的効力をもつものとし,とくに派遣先に対する罰則規定を強化すべきこと。
現行労働者派遣法のうち,労働者保護に関する規定については,それを担保すべき罰則がほとんどなく,そのため,現実には多くの派遣労働者が無権利状態におかれている。これら派遣労働者にも労働基準法・労働者派遣法等の保護規定が実効的に及ぶように,保護規定に強行的効力を持たせ,法違反に対しては罰則をもって臨むなど,その実効性を格段に強めることが必要である。
とくに,現行労働者派遣法では派遣元に対する規制が中心で,派遣先に対する規制が乏しい。しかし,現実の商取引上の力関係では派遣先が格段に上位にあることからすれば,実効性確保の観点からは,派遣先に対し,法違反について罰則をもって規制することが必要である。
5 生存権の擁護と支援のために
当会は,本年5月25日の総会で「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」をなし,今般,生存権の支援と擁護のための緊急対策本部を設置した。
当会は,格差と貧困の大きな原因ともなっている労働者派遣法の抜本改正を行うことなしには,「すべての人が尊厳をもって生きる権利」は実現されないと考え,本意見書を発する。
以上
2009年12月11日
福岡拘置所小倉拘置支所現地建替えを求める要望書
2009年(平成21年)12月10日
内閣総理大臣 鳩山由紀夫 殿
法務大臣 千葉景子 殿
法務省矯正局長 尾﨑道明 殿
福岡県弁護士会
会 長 池 永 満
福岡県弁護士会北九州部会
部会長 服 部 弘 昭
福岡拘置所小倉拘置支所現地建替えを求める要望書
第1 要望の趣旨
福岡拘置所小倉拘置支所(以下,「小倉拘置支所」という。)を現地にて建替えすべく,早急に予算措置を講じることを要望します。
第2 要望の理由
1 福岡拘置所小倉支所は1960年(昭和35年)に築造された建物で,既に築後50年近く経過して老朽化が著しく,建物の各所に塀の倒壊や外壁の落下の危険がある状況です。
また,耐震基準を満たしているのか否か懸念されるところでもあります。
そのため収容者や拘置所職員,および面会に来る市民の生命・身体の安全を守るためには,この建替えは緊急の課題です。
2 また平成21年6月に,北九州矯正センター構想(以下,「矯正センター構想」という。)に基づく小倉拘置支所の移転が中止となったことを受け,小倉拘置支所の現地での建替えの必要性は,益々高まっております。
さらに,平成21年5月より始まった裁判員裁判においては,短期間の集中審理方式による迅速な刑事裁判が求められ,これまで以上に弁護人が被疑者・被告人と頻繁に接見を重ね,充分な打合せをする必要があり,裁判所の隣の現地にて建替えることは,被告人の防御権保障の観点からも,非常に重要であります。
3 当会は,かねてより矯正センター構想に反対し,小倉拘置支所を現地にて立替えるよう2008年(平成20年)7月にも要望書を提出していますが,矯正センター構想に基づく小倉拘置支所の移転が中止になった今,再度,小倉拘置支所の現地建替えと,建替えのための早期の具体的な予算措置をとられることを要望申し上げる次第です。
4 なお,貴省は福岡県内において,既に福岡拘置所久留米拘置支所を,検察庁との合同庁舎として現地建替えを完了しておられますが,小倉拘置支所においても,同様な方法で現地建替えを実現することは充分可能であると思料します。
そして,「えん罪の温床」等と,海外からの批判も強い代用監獄を廃止する必要性は,益々高まっておりますが,代用監獄を廃止しても,被拘禁者を収容するに十分な規模の拘置所を現地にて建替えることを希望します。
5 以上,当会としては改めて福岡拘置所小倉支所を早急に現地で建替えするよう,早急に予算措置を講じることを要望する次第です。

