宣言
2003年06月12日
「住基カードの導入見送り等に関する要請」
福岡県の各市町村長・福岡県の各市町村議会議長殿へ陳情書
2003年6月12日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
陳情の趣旨
住民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障するための十分に実効性のある「所要の措置」(住民基本台帳法附則1条2項)が採られるまでの間、また少なくとも住基ネット管理の安全性が確認されるまでの間、住基ネットの稼働を一時停止し、併せて住基カードの導入を見送られるよう陳情いたします。\n 仮に、やむを得ず住基カードを導入される場合にも、住民基本情報以外の個人情報を盛り込まれないよう陳情いたします。
陳情の理由
1 個人情報保護法制度の成立は、「所要の措置」とは言えず、住基ネット管理の安全性は確認されていない 2002年8月5日に、住民基本台帳ネットワークシステムが稼働しました。その結果、全国民の個人情報が、全市町村、都道府県及び地方自治情報センターのコンピューターの下に管理され、国の行政機関が全国民の個人情報にアクセスすることが可能になりました。\n しかしながら、このような情報の集約及びネットワークによる結合は、技術的あるいは人為的な情報漏えい、情報の乱用の危険性を飛躍的に増大させ、個人の尊厳を大きく傷つけるおそれがあります。そのため、住基ネットの施行の前提として、技術的な情報漏えいを防ぐための万全なセキュリティー体制の確保とともに、人為的な情報漏えい、情報の乱用を防ぐための万全な法整備が不可欠です。それによって初めて国民のプライバシー権・自己情報コントロール権が保障されます。
住民基本台帳法附則1条2項にも、「この法の施行にあたっては、政府は、個人情報の保護に万全を期するため、速やかに所要の措置を講ずるものとする」と規定されています。
このような観点から、当会は、住基ネット稼動に伴うセキュリティー基本法の制定を求めるとともに、国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障する個人情報保護法制の整備、各市町村における個人情報保護条例の整備を求めてきました。
しかるに、本年5月23日に成立した行政機関個人情報保護法及び個人情報保護法については、以下の通りの根本的な欠陥が存在し、国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障する法律とはとうてい評価できません。
行政機関個人情報保護法には、(1)思想、信条等の差別につながるセンシティブ情報に関する収集禁止規定が存在せず、(2)行政機関の判断による利用目的の変更(3条3項)、目的外利用、外部提供(8条2項)を広く認めており、行政機関が「相当な理由」があると判断すれば、個人情報の目的外利用や他の機関への提供ができるなど、個人情報の流用を広く認めており、「保護」法というよりも個人情報「利用」法とでも呼ぶべき内容となっています。
昨年、個人の身元・思想信条等を含む個人情報リストを違法に作成し利用した防衛庁が、先般、住基情報ばかりか、親族情報や健康情報まで網羅的に収集し、それを管理していたことが報道されましたが、これらの法律は、このような個人情報の名寄せを正当化する根拠となりかねません。
また、個人情報保護法は、名簿業者や、信用情報取扱業者に対する規制が不十分であり、国民の個人情報のデータベース化や商業利用を十\分に防止できません。現に、本年2月15日には、全国銀行協会に加盟する一部の金融機関が、住民基本台帳法で禁止されているにもかかわらず、住基コードを本人確認に利用していたことが判明しています。
しかも、セキュリティー基本法が存在しないために、個々の地方自治体がセキュリティーに努めても、住民の個人情報が他の自治体や国の行政機関等予期せぬ機関から漏えいしたり、き損される危険が今なお存在しています。\n 総務省は、本年5月12日に「住民基本台帳ネットワークシステム及びそれに接続している既設ネットワークに関する調査票(全国の市町村を対象に本年1,2月実施)による点検結果」を公表しましたが、セキュリティ対策の体制・規定の整備や必要な管理について、「1割程度の市町村においては、必ずしも十\分な対応がなされていない」としています。また、長野県本人確認情報保護審議会は、本年5月28日、第1次報告をとりまとめていますが、長野県下120自治体の調査結果として、27自治体で住基ネットとインターネットが物理的に接続されており、長野県下の自治体に内外からインターネット経由でアクセスが殺到し、情報が流出する恐れがある、と報告しています。さらに、「長野県の実情は、決して長野県に特異なものではない」とも指摘していますが、この点は総務省の前記調査結果からも推認できるところです。コンピュータネットワークで繋がっている全ての自治体において、万全のセキュリティ対策を講じなければ、住民の個人情報は容易に流出することになりますが、現状は住基ネット管理の安全性に深刻な危惧が存在していると言わざるを得ません。
国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を十分保障しないまま、また住基ネット管理の安全性が確認されないまま、住基ネットを稼働させることは、憲法13条が保障するこれらの基本的人権を侵害する不測の事態を生じさせる虞れがあります。\n 住民基本台帳法36条の2第1項には、「市町村長は、…住民票又は戸籍の附票に記載されている事項の漏えい、滅失及びき損の防止その他…適切な管理のために必要な措置を講じなければならない」と規定されています。
住民の個人情報を保護すべき責務を負う市町村にあっては、このような不測の事態が生ずることを避けるためにも、「適切な管理のために必要な措置」、「所要の措置」としてのセキュリティー基本法の制定、セキュリティー対策の整備及び個人情報保護法制の見直しまで、また少なくとも住基ネット管理の安全性が確認されるまで、住基ネットの稼働を一時停止されるよう陳情いたします。
2 住基カードの問題点
本年8月からは、住基カードの交付による住基ネットの2次稼働が予定されています。\n 住基カードは、住民票の広域交付等の前提となるものであり、その交付は、全市町村から県を通して国の行政機関に住民情報が集約されるという縦の情報集約から、各市町村相互の住民情報の融通という横の情報流通をさせる機能を有しており、住基ネットを完成させ技術的あるいは人為的な情報漏えい、情報の乱用の危険性を飛躍的に高めるものです。\n 総務省は、住基カードの利便性を高めるため、その中に図書館の利用情報や、商店街での購買情報等の生活情報等を例示して各自治体に情報の集積を勧めています。しかしながら、例えば、その導入時には使用目的が限定されていたアメリカの社会保障番号が、今や買い物の際にもそれが記載されたカードの提示が不可欠となるなど、事実上携行を余儀なくされる事態となっているように、住基カードも、無限定に使途を拡大すれば、将来、希望しないものもその利用を余儀なくされる危険があります。
しかも、総務省及び経済産業省は、住基カードに集積された個人情報が第三者によって不正に読みとられないようにする防護策の検討を、本年5月25日に始めたばかりであり、現時点における住基カードのセキュリティー対策はまだ不十分なものといわざるを得ません。\n また、行政機関における個人情報の不当な収集や名寄せが行われ、それを防止するための「所要の措置」が存在しない現状において、住基カードの交付が行われることは、住基ネットに対し、国民総背番号制の機能を与える危険性が極めて高いものです。\n 従って、国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障するため十分に実効性のあると住民基本台帳法附則1条2項の「所要の措置」が採られるまでの間、住民基本台帳法36条の2第1項の「適切な管理のために必要な措置」として住基カードの導入を見送られるよう陳情いたします。また、仮にやむを得ずこれを導入される場合にも、市町村の管理する個人情報が不当な収集や名寄せ、あるいは情報漏えいにあうことのないよう、住民基本情報以外の個人情報を集積されないよう陳情いたします。\n
2007年06月12日
被疑者国選弁護制度の対応態勢確立に向けての宣言
1 昨年10月から被疑者国選弁護制度が始まった。
当会は1990(平成2)年12月全国に先駆けて当番弁護士制度(待機制)を創設し,その後,当番弁護士制度は燎原の火の如く全国に広がった。被疑者国選弁護制度の法制化は,当番弁護士制度(待機制)を創設した私達の悲願であり,長年にわたる運動の成果が実ったものである。当番弁護士の運動は地方から発した司法改革運動であると評価できる。
2 そして,2009(平成21)年には被疑者国選弁護制度の対象事件は必要的弁護事件にまで拡大されて第2段階を迎え,全国的には現在の10倍以上の10万件近くに達することになる。当会においても来るべき2009(平成21)年には被疑者国選弁護事件の対象事件は4000件を超えることが確実視されており,2009(平成21)年に向けての国選弁護の対応態勢作りが急務である。
弁護士の役割に関する原則[1990(平成2)年国連第45回総会決議]は「すべての人は自己の権利を保護,確立し,刑事手続のあらゆる段階で自己を防禦するために,自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」としており,被疑者,被告人の弁護人の援助を受ける権利を担保することは弁護士の責務である。
被疑者国選弁護制度の対応態勢を確立し,充実した制度にすることは我々弁護士の責務の履行であることを銘記する必要がある。
3 昨年9月に福岡で開催された第9回国選弁護シンポジウムにおいても,2009(平成21)年に向け,対応態勢の整備に精力的に取り組み,刑事弁護の現場での実践的で全国的な運動を展開していかなければならないことが確認された。
4 当会はあらためて,被疑者国選弁護制度の重要性を確認し,2009(平成21)年の被疑者国選弁護制度の第2段階の実施に向けて,全力を傾注して対応態勢を確立し,充実した刑事弁護を提供できるよう,あらゆる努力をすることを誓うものである。
以上宣言する。
2007(平成19)年5月23日
福 岡 県 弁 護 士 会
2007年07月24日
監視社会を招かないためのルール確立を求める宣言
1 今、全国各地で、治安悪化対策を理由に生活安全条例が制定され、監視カメラの設置がすすめられている。
しかし、犯罪防止は、貧困や差別など犯罪の根本原因を取り除くための福祉施策の充実も含め、総合的な防止策を多角的に検討すべきであり、市民に対する監視の強化が有効な手段であるかは甚だ疑問である。
かえって、警察等による市民監視や不透明な個人情報の収集・利用は、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会を支える言論・表現の自由に対する重大な萎縮効果をもたらす危険がある。
そもそも、犯罪検挙のための警察権の行使であれば、対象者の人権を制約するものであるから、犯罪の発生を待って、具体的犯罪の嫌疑に比例した限度でしか許されないというのが原則であり、基本的人権を制圧する捜査手段は、法令の根拠を必要とし、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。
犯罪防止のための監視が一定の場合に許されるとしても、具体的にその場所で起こり得る犯罪の軽重や蓋然性を度外視し、抽象的な「安全」や、単なる主観にすぎない「安心感」のために人権を制約することまで許されているのではない。
従って、警察や自治体は、防犯対策を図るうえで、必要最小限度を超えて個人の自由を侵害することのないよう万全を期すべき義務があり、警察や行政機関が、適正な手続に基づかず個人情報の収集・利用をしないための措置をとる必要がある。
2 福岡市の場合、本年度中に中洲地区に設置されようとしている監視カメラの設置・運用は極めて不透明である。
監視カメラの設置を承認した中洲地区安全安心まちづくり協議会には、博多警察署長が副会長、県警の担当者3名が会員として参加し、福岡市は、同協議会の事務局を務め、自ら600万円を支出する予定であるのに、福岡県弁護士会人権擁護委員会の聴き取りに対しては「中洲地区における犯罪率等のデータは持っていない。監視カメラの詳細は設置主体である商店街に聞いてほしい。」等と回答しており、公金を支出する自治体としての説明責任を果たしていない。
また、福岡市の上川端商店街(調査当時)に設置された監視カメラにおいては、警察が要請して頻繁に監視カメラのビデオ画像を取得していたという経過がある。
警察自身による監視カメラの設置の場合は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷ビデオカメラ判決(東京高判昭63.4.1)、西成ビデオカメラ判決(大阪地判平6.4.27)など、令状主義を重視する判決があり、これらの判決によれば、?犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、?証拠保全の必要性・緊急性、?手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
警察自身の設置ではない場合でも、市民の自由が確保されるべき公道に設置する監視カメラは、真にその場所における犯罪を防止する必要性が認められ、かつこれにより侵害される通行人の人権よりも上回る利益が得られる場合に限られるべきである。
従って、そのような監視カメラの設置に関する基準をはじめ、捜査機関に自由に情報が提供されないよう、適正な手続きを定めてプライバシー権を保障する条例の制定が必要不可欠である。
3 以上の観点から、当会は、警察や自治体等に対し、防犯対策等の策定にあたり、以下の事項に留意するよう提言する。
(1) 防犯対策等の策定にあたっては、制圧される人権の侵害を必要最小限度にするため万全の対策を行うべきである。
(2) 警察や自治体が、直接・間接に市民情報を網羅的に取得したり、取得した情報を統合するなどして、市民生活を監視することを防止するため、条例により、警察や自治体から独立した個人情報保護機関を設置し、同機関に警察や自治体の個人情報の収集・利用のあり方をチェックする権限を付与すべきである。
(3) 公道への監視カメラの設置・運用には、警察が関与すべきではない。
警察が、監視カメラを設置している団体に対して任意に情報提供を求めうる範囲は、少なくともそこで起こった犯罪に限定し、その他の場所で起こった犯罪のための情報は、令状に基づいて取得されるべきである。
(4) 福岡市は、監視カメラの設置・運用等に関し、適正手続やプライバシー権に十分配慮した条例を定めることなく、街頭への防犯カメラの設置・運用を自ら行ったり公金を支出すべきではない。
以上、宣言する。
2007年7月21日
福岡県弁護士会
九州弁護士会連合会
2008年05月27日
九弁連あさかぜ基金法律事務所を成功させ、九州内の弁護士過疎・偏在を解消しよう
九州弁護士会連合会は、九州内の弁護士過疎・偏在を解消するために弁護士法人あさかぜ基金法律事務所を開設し、その充実・発展を本年度の最重点課題としている。当会は、このあさかぜ基金法律事務所に対して技術的支援を尽くすことにより、その維持・運営に責任を負うものである。
当会は、これまで福岡県内における市民に対する司法サービスの充実のために法律相談センターの積極的展開を図り、会員に対しても普段の働きかけを行ってきた。その成果として目下20箇所に及ぶ法律相談センターを開設し、その利用者は年々増大し、弁護士にとっても若手会員の生活基盤の確立に大きく寄与しているところとなっている。
ところが、県外の九州内に目を転じるならば、まだまだ弁護士の少ない地域が目につく。たとえば、日弁連ひまわり基金法律事務所については、これまで東京などから若手弁護士が派遣されてきたが、九州内の弁護士過疎・偏在の解消のためには、やはり地元である九州・沖縄の弁護士会が起ちあがる必要がある。
当会は、これまでも日弁連や九弁連とともに司法過疎の解消に取り組んできたところであるが、法曹人口が増大するという条件のなかで、さらに取り組みを強化することが求められている。
あさかぜ基金法律事務所は当会が日常的に支えることになっており、毎年4人の弁護士を受け入れ、指導担当弁護士のもとで弁護士として必要な専門的技量および弁護士倫理を実践的に体得し、原則として1年6ヶ月後には九州各地の弁護士過疎・偏在地域へ送り出すことを目ざしている。
当会は、全力をあげてその成功に責任をもち、取り組むものである。
2008年(平成20年)5月22日
福岡県弁護士会 会長 田邉 宜克
より良い刑事裁判の実現を目指して
2009年(平成21年)5月21日には、裁判員裁判が開始され、被疑者国選制度が大幅に拡大されます。この大きな変わり目を間近に控え、当会は、誤判を防ぐ、より良い刑事裁判の実現をめざして5つの決意を宣言します。
1 刑事裁判の基本的なルールの普及に努めます。
刑事裁判は、無実の市民を罰しないために、無罪の推定、証明責任の原則(検察官に犯罪事実の証明責任があること)、合理的な疑いを残さない程度の証明、証拠裁判主義など基本的なルールに基づいて行われます。刑事裁判の判断の基準は、証拠に基づき良識に照らして考えたとき、検察官の言い分が合理的な疑いを挟まない程度に信用できるか否かにつきるのです。
市民のみなさんが、裁判員として参加されることで、これらの基本的なルールに忠実なより良い裁判が実現することが期待されています。
そのため、当会は、刑事裁判の基本的なルールを市民のみなさんに広くご理解いただけるよう、その普及に努めます。
2 「人質司法」を解消するため勾留および保釈について運用や制度の改革を求めていきます。
わが国では、志布志事件(鹿児島県議会議員公職選挙法違反事件)など否認を貫いた被告人は、保釈も認められず長期にわたる身体拘束を受けることが一般ですし、起訴事実を認めていても、第1回公判前の保釈は極めて困難な実情にあります。このような取扱は無罪推定の原則にも反するものです。
このような「人質司法」は被疑者・被告人に虚偽の自白をさせる元凶で、冤罪、誤判を招く温床になっており、その改善は今後も極めて重要かつ緊急な課題です。
殊に、公判前に争点を整理してから集中した審理を行うという裁判員裁判を実施するにあたっては、誤判を防ぎ、充実した審理が行えるようにするために、被告人と弁護人が十分に打ち合わせをする機会をよりいっそう保障されることが必要となります。
そこで当会は、この「人質司法」を解消するために、勾留および保釈について運用や制度の改革を求めていきます。
3 違法不当な取調べをなくすため取調べの全面的な可視化(取調べの全過程の録画)を求める運動を実行します。
現在、捜査機関の取調べは密室(取調室)で行われています。これまでの裁判では被告人の自白調書が重要な証拠にされていたため、捜査機関の長時間の身体拘束状態での取調べや、脅迫・利益誘導・暴力を用いた取調べが行われるなど違法・不当な取調べを助長する結果ともなっていました。そしてこのような取調べによって虚偽の自白による冤罪も数多く生じています。
このような違法な取調べをなくすためには、取調べの全過程を録画するという「取調べの可視化」の実現が必要です。
取調べ可視化によって違法な取調べを防ぎ、虚偽の自白を防止する制度を作ることは、自白の任意性や信用性をめぐって審理が長期化することを防ぎ、裁判員に過重な負担をかけることを防ぐことにもなり、裁判員裁判の実施にとっても不可欠となります。
現在、検察庁などで行われている取調べの一部の録画では、録画時以外になされた違法な取調べを明らかにできないばかりか、捜査官に都合のよい部分のみが録画されるおそれがあり、かえって嘘の自白の信用性を高めてしまう結果となりかねません。
当会は、取調べの全面的可視化実現に向けて精力的に取り組んでいきます。
4 裁判員裁判の課題を検討し、その適切な制度運用を求める活動に努めます。
裁判員裁判は、市民の良識を刑事裁判に反映させるものであり、また公判中心主義の裁判(見て聞いて分かる裁判)を実現する重要な契機となります。このことから、誤判の防止に役立つ可能性をもっている制度ですが、裁判員の負担を減らすことを過度に強調するならば、本来必要な被告人・弁護人の立証活動までが制約され、かえって誤判を招く事態にもつながりかねない制度になってしまいます。
現在、準備が進められている裁判員裁判には、弁護人の選任のあり方、公判前整理手続のあり方、裁判員選任のあり方、裁判員に対する説示のあり方、審理のあり方、評議のあり方、事後検証のあり方など、検討されなければならない基本的な課題があります。
当会は、これらの課題を検討し、その課題を克服して裁判員裁判の適切な制度運用がなされるように求める活動に努めます。
5 制度改革に対応する弁護態勢を確立します。
裁判員裁判では、公判前整理手続、連日開廷での集中した審理が予定され、弁護人には、短期間に集中的に充実した弁護活動をすることが求められています。その責任を全うするためには、一部の弁護士に負担が偏ることなく多くの弁護士が、この裁判員裁判の刑事弁護を担う必要があります。
この裁判員裁判や被疑者国選弁護事件の拡大に対応するために、是非とも被疑者国選弁護登録者を拡大する必要があります。
そこで、当会は、多くの弁護士が国選弁護登録をするように会員に働きかけをするとともに、現行の国選弁護制度が抱える課題の改善を、最高裁や法務省、政府に求めていきます。
また、裁判員裁判を真に「刑事裁判に市民の健全な良識を反映させるための制度」にするためには、その手続内容が、市民にわかりやすいものでなければなりません。われわれ弁護士も、わかりやすい裁判を実現するための提言や弁護活動のあり方についての研究、研修、実践に励みます。
2008年(平成20年)5月22日
福岡県弁護士会 会長 田邉 宜克
2009年06月02日
すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言
すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言
1 県下において深刻化する貧困と社会不安の増大
現在,我国においては,解雇が急増して雇用不安が深刻化するとともに,非正規雇用労働者・母子・高齢者・障害者家庭等の貧困の拡大と生活の窮乏化が進行している。一方,これを補うべき社会保障分野のセーフティネットも崩壊状況にあり,極めて深刻な社会不安が広がっている。
この福岡県内においても事態はたいへんに深刻である。
生活保護行政については,行政による違法な窓口規制によって生活保護を利用できるはずの人が申請に行っても追い返されている実態があり,北九州市においては生活保護から排除された市民が餓死・孤独死するという事件も発生している。
派遣労働者,パートタイマー,アルバイトなどの非正規雇用労働者の多くは,まじめに働いても低賃金のため生活費をまかなうことができず,サラ金などから借金して多重債務者となり,或いは失職して住居を喪失する人も少なくない。福岡県内のホームレスの数も全国で最も増加している。
また,当会が本年3月9日に実施した「生活保護・派遣切り110番」においても,不当な生活保護行政と派遣切りによって多くの県民が苦しんでいる実態が明らかとなった。
2 憲法が保障するすべての人が人間らしく尊厳をもって生きる権利は危機的状況にある
憲法は,個人の尊厳原理に立脚し,幸福追求権について最大の尊重を求め(13条),法の下の平等を定め(14条),勤労の権利(27条)や教育を受ける権利(26条)を保障している。これらの規定によれば,憲法は,すべての人に,公正かつ良好な労働条件のもとで,人間らしく働き,生きる権利を保障している。
さらに憲法25条は,「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定め,「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなれければならない」と定めている。
しかし,前述した貧困と生活窮乏の実態は,これら憲法が保障しているすべての人が人間らしく尊厳をもって生きる権利が危機的な状況にあることを示しており,これらの解決を図ることは,我国の社会において緊急の課題というべきである。
3 当会における緊急対策本部等の設置と取り組み
前述の情勢は,「基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする」弁護士と弁護士会が,すべての人の人間としての尊厳をもって生きる権利を擁護し支援する活動を緊急に展開することを求めている。
当会は,今般,日本国憲法の原理と弁護士法上の使命に鑑み,弁護士・弁護士会として行うべき緊急の取り組みを具体化するため,この問題に関連する各委員会の協議をへて,「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を立ち上げた。また,司法制度委員会の中に労働法制部会を設置して労働者派遣法の抜本改正等あるべき労働法制の調査研究を進め必要な提言を行うこととした。
緊急対策本部においては,生活保護受給を求める申請代理人の活動や違法な派遣切りや雇い止めの是正を求める労働局に対する申告代理人の活動,その他,生存権,労働権を擁護し支援するための各種法律相談活動を担当する支援当番弁護士等による法的緊急支援サービスに取組み,社会的セーフティ・ネットを再構築するために,当会としてできうる限りの活動を推進することをここに宣言する。
4 国・地方自治体及び市民に対する呼びかけ
すべての人の尊厳と生存権を確保するために,国と地方自治体が果たすべき役割と責任は大きいものがある。そこで当会は国・地方自治体に対し,以下の諸方策を実施するよう強く求めるとともに,併せて,広く市民に対して,日本国憲法の理念にたって,真に人の尊厳を基調とする社会に転換するためにともに手を取り合って努力することを呼びかけるものである。
(1) 国は,非正規雇用の増大に歯止めをかけワーキングプアを解消するために,労働法制と労働政策を抜本的に見直すこと。特に労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。
(2) 国と都道府県は,全ての勤労者が人間らしく文化的な生活を営むことのできるように最低賃金を引き上げること。併せて失業者政策を抜本的に強化すること。
(3) 国及び地方自治体は,社会保障費の抑制方針を改め,また,ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように,社会保障制度の抜本的改善を図り,セーフティネットを強化すること。
(4) 国及び地方自治体は,中小企業対策を緊急に行い,中小企業における経営と雇用の維持に対する支援を強化すること。
(5) 国は,障害者自立支援法について,応益負担制度を廃止するとともに,障害程度区分制度を障害者の自己決定権に最大限配慮し障害者のニーズに応じて必要なサービスを受給できるような内容に改めることを柱として抜本的な改正を行うこと。
2009年(平成21年)5月25日
福岡県弁護士会定期総会
宣言の理由
第1 拡大し深刻化する貧困とセーフティネットの崩壊
1 貧困と格差の存在
従前から,我国には深刻な格差と貧困の問題が存在してきた。たとえば,貯蓄なしの世帯は,1990年代後半から急増し,2人以上世帯では約2割,単身世帯では約3割に達していた(金融広報中央委員会2007年家計の金融行動に関する世論調査)。国民健康保険の保険料滞納世帯も増加し,保険証を使えない「無保険者」も2007年(平成19年)には34万世帯となっている。また,生活保護利用世帯は112万世帯,生活保護利用者は156万人と(厚生労働省福祉行政報告例2008年4月分),10年間で46万世帯,61万人が増加している。貧困が拡大する中で,わが国の自殺者数は,1998年(平成10年)から10年連続で3万人を超え,2007年(平成19年)の約3万3000人のうち7300人が経済苦を理由としていることが明らかになっている(警察庁2008年6月発表)。
この福岡県内においても事態はたいへんに深刻である。生活保護行政については,行政による違法な窓口規制によって生活保護を利用できるはずの人が申請に行っても追い返されている実態がある。北九州市においては生活保護から排除された市民が餓死・孤独死するという事件も発生している。派遣労働者,パートタイマー,アルバイトなどの非正規雇用労働者は,まじめに働いても低賃金のため生活費をまかなうことができず,サラ金などから借金して多重債務者となっている人も多く存在している。2007年(平成19年)の厚生労働省の調査によると,福岡県内のホームレスの数は1117名にも及んでおり,全国で最も増加している。
また,当会が本年3月9日に実施した「生活保護・派遣切り110番」では,1日で68件の相談が寄せられ,不当な生活保護行政と派遣切りによって多くの県民が苦しんでいる実態が明らかとなった。
2 大量のワーキングプアを生み出した労働法制の規制緩和
我国においては,もともと多くの女性労働者がパート労働者として不安定かつ低賃金労働に従事してきており,特に,母子家庭のワーキングプア問題は従来から深刻な問題であった。このような従来からのワーキングプア層に加え,1990年代後半以降「ネットカフェ難民」の出現などに象徴されるように新たにワーキングプアに落ち込む人々が急増した背景には相次いだ労働法制の規制緩和がある。
1999年(平成11年)「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(以下「労働者派遣法」という。)が改正されて派遣対象業務が原則自由化され,さらに2003年(平成15年)改正により製造業務にまで拡大された。労働基準法についても従前1年とされていた有期雇用の契約期間の上限が1998年(平成10年)改正に続く2003年(平成15年)改正により原則上限が3年,特例上限が5年に緩和され,「有期雇用契約」による不安定雇用も増加した。
こうした法改正の結果,非正規労働者は,1890万人に及び全雇用労働者数に占める割合は,1992年(平成4年)の21.6%から今や35.5%と過去最高に達した。(総務省2007年就業構造基本調査)。非正規労働者の平均現金給与月額は20万9800円と正規労働者の6割で,特別給与を考慮すると5割の水準にとどまる(厚生労働省2007年賃金構造基本統計調査)。年収200万円以下で働く民間企業の労働者が,2006年(平成18年)には1000万人を超え1023万人にまで増加した(国税庁2006年分民間給与実態統計調査)。勤労世帯(就業中のほか,求職中の世帯を含む。)中,生活保護基準以下の生活を営んでいる貧困世帯の数及び割合は,1997年(平成9年)の458万世帯(12.8%)から2007年(平成19年)には675万世帯(19%)に増加している(総務省就業構造基本調査に基づく後藤道夫都留文科大学教授による分析)。
3,社会不安を顕在化させたセーフティネットの崩壊
このような中,昨年のアメリカの金融危機に端を発した急激かつ深刻な世界同時不況の波が襲っている。これにより派遣労働者或いはパート・アルバイト等の非正規雇用労働者に対する派遣打ち切り,雇止,解雇等が急増して,雇用不安が一気に強まり,非正規雇用労働者,母子家庭,高齢者障害者等,いわゆる社会的弱者を中心に我国における貧困の問題が一挙に顕在化して,その深刻さの度合いを著しく強めている。
1990年代を通じて実施されてきた規制緩和を軸とした構造改革政策は,一方において日本型雇用の解体や非正規雇用を増大させることによって社会保障への需要を大きく増加させながら,他方において,社会保障そのものを大リストラの対象とし,雇用保険の給付削減,児童扶養手当の縮減等の給付削減や負担増,医療費の国庫負担の削減などによる社会保障費の系統的な抑制を進めてきた。その結果,「介護崩壊」「医療崩壊」等という言葉が飛び交うほどにわが国の社会生活上のセーフティネットは崩壊の危機に直面しており,社会保障の機能不全は極めて深刻な事態にある。
そうした中で失業等による勤労収入の低下が生活の崩壊に直結し,生存権が侵害されるという構造が作られているのである。
第2 憲法が保障する人間らしく働き生きる権利はいま危機的な状況にある
憲法13条は,個人の尊厳原理に立脚し,幸福追求権について最大の尊重を求めている。また,憲法25条は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障し,この生存権の保障を基本理念として,憲法27条の勤労の権利及び28条の労働基本権は,勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち,勤労の権利及び勤労条件を保障し,経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段として労働基本権を保障している。また,憲法14条は法の下の平等を定めているのであって,結局,憲法は,すべての人に,公正かつ良好な労働条件を享受しつつ人間らしく働き,かつ生活する権利を保障しているというべきである。
しかしながら,前述のとおり,雇用における規制緩和の過度の進展と社会保障制度の大幅な後退という事態が進み,更に,世界同時不況という状況の中で非正規雇用労働者を中心に雇用不安が極めて深刻な状況となっており,これに伴って正にその日の生活も,あるいは明日の命自体が脅かされるという現実が生じている。本来憲法が保障しているすべての人が人間らしく働き生きる権利は極めて危機的な状況に置かれており,ひいては人間の尊厳が脅かされる事態となっていると言わざるを得ない。この状況の解決を図ることは,我国の社会において緊急の課題である。
第3 生存権の擁護と支援のための緊急対策の促進とセーフティネット再構築のよびかけ
1、当会の取り組み
当会は,従前より生活保護問題対策委員会を設置して,生活保護問題を中心に取り組みを進めてきた。本年3月には,生活保護申請等に関して相談活動窓口を設け,当番弁護士の社会保障版との報道もなされた。しかし,前述のような状況に鑑みるとき,単に生活保護の局面のみにとどまらない,労働法制や社会保障制度などをも視野に入れた幅広い総合的な取り組みが是非とも不可欠であるとの認識に立って,この間,当会は,憲法委員会,生活保護問題対策委員会,消費者委員会,高齢者・障害者委員会,精神保健委員会,個別労働紛争問題PT,人権擁護委員会,多重債務者救済本部,両性の平等に関する委員会,子どもの権利委員会及び行政問題委員会など,これらの問題に関連する各委員会において協議を進めてきた。
そして今般,弁護士会及び弁護士として行うべき緊急の取り組みを具体化して今回の深刻な不況と国民生活の窮乏化に多面的かつ総合的に対処するために,当会会長を本部長とする「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を立ち上げることとした。また司法制度委員会の中に労働法制部会を設置し,現在のワーキングプアを生み出してきた主要な法制度である労働者派遣法の抜本的改正を始め,あるべき労働法制を調査研究し必要な提言を行うこととした。
これらによって,今後,生活保護受給権などの権利行使の支援(申請代理人活動)や労働局に対して違法行為の是正を求める申告等の支援(申告代理人活動)など生存権や労働権を擁護し支援する活動に当たる支援当番弁護士による法的緊急支援サービスなどに取組み,また,これらの取組を通じて,社会的セーフティネットの再構築のため,そして貧困と格差の社会を人の尊厳と生存権がまもられる社会へと変えていくために,当会としてできうる限りの活動を推進することを決意した。
2,国・地方自治体及び市民に対する呼びかけ
もとより,当会及び当会に所属する弁護士のみの力でこの重大な問題を解決するのに十分でないことは明らかである。
そこで当会は,当会としてできうる限りの活動を推進することは言うまでもないが,併せて,憲法上の重大な責務を有している国・地方自治体に対して雇用や社会保障制度などに関して本来行政に課された諸方策を直ちに実施することを強く求めたい。とりわけ,以下に挙げる緊急の課題については,速やかに必要な措置が講じられるべきである。
1)国は,正規雇用が原則であり,有期雇用を含む非正規雇用は合理的理由がある例外的場合に限定されるべきであるとの観点に立って,労働法制と労働政策を抜本的に見直すべきである。また,不安定雇用をもたらす主要な原因となっている労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。
2)2007年(平成19年)最低賃金法改正により考慮事項として「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護にかかる施策との整合性に配慮するものとする」(同法9条3項)とされた。それにもかかわらず,我国の最低賃金は,主要先進国中でも最低のレベルにあり,大幅な引上げがなければ現行水準のままでは労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができない。よって,国は,すべての人が人間らしい生活を営むことのできる水準に,最低賃金を大幅に引き上げるよう施策を講ずるべきである。また,国と都道府県は,失業者政策を抜本的に強化するべきである。
3)社会保障費の抑制を止め,社会保障制度の抜本的な改善を図るべきである。すなわち,ワーキングプアが増大する中で,本来,社会保障施策に注力すべきところ,現行の政策はそれに全く逆行し,憲法の保障する健康で文化的な生活の保障を脅かすものであるから,社会保障費の抑制を止めるべきである。また,ホームレスの人を含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように,社会保険制度の見直しや生活保護制度を利用しやすくすることなどを含め,抜本的なセーフティネットの強化を図るべきである。
4)今日の厳しい経済状況の中においては,単に労働者のみならず中小企業も当然に極めて厳しい経営環境に置かれていることはいうまでもない。したがって,国及び地方自治体は,中小企業への対策を緊急に行い,中小企業における経営とそこで働く労働者の雇用の維持に対して支援を強化することが強く求められる。
5)更には,障害者に対する社会保障政策も抜本的に改められるべきである。もとより,障害者が国家に対して福祉サービスを請求する権利は憲法によって保障された人権として位置づけられるべきものである。しかし,現行の障害者自立支援法は,障害者の福祉サービス需給に関する権利を侵害ないし不当に制限する危険性を有している。ついては,国は,障害者自立支援法について,応益負担制度を廃止するとともに,障害程度区分制度を障害者の自己決定権に最大限配慮し障害者のニーズに応じて必要なサービスを受給できるような内容に改めることを柱として抜本的な改正を行うべきである。
そしてまた,当会は,このように行政に対して強く要請するとともに,広く市民に対して,真に人間の尊厳を基調とする社会に転換するために共同の努力を進めることを呼びかけるものである。
3、結語
以上の内容を福岡県弁護士会の総意として確認するために,本定期総会において「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を採択し,ここに宣言するものである。
以上
2010年05月27日
中小企業への積極的な法的支援を行う宣言
福岡県弁護士会は、司法改革の真の目的が、社会の隅々まで法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会、すなわち法化社会の実現にあるところ、企業数、雇用に占める割合、技術力等において、わが国の経済や雇用の主要な担い手である中小企業に対して、必要な法的情報やサービスの提供が行き渡り、わが国全体が等しく法化社会となることを目指し、福岡県弁護士会中小企業法律支援センターを中心として、中小企業への積極的な法的支援を実施すべく、以下のとおり宣言する。
1 諸団体等との協力関係の構築
中小企業が、その抱える法的問題に関して容易に弁護士にアクセスし、弁護士による法的助言や支援、ひいては必要かつ有益な司法制度を的確に利用し、法律の擁護を十分に受けられる環境を整備するため、行政官庁及び自治体並びに中小企業諸団体等との間で適切な協力関係を構築する。また、福岡県弁護士会と関連する専門士業団体等との間のネットワークを有効に構築・増強し、そのネットワークが円滑に機能するための基盤の整備に努める。
2 研修制度・紹介制度の充実
中小企業の法的問題に積極的に取り組む精通弁護士を養成するため、専門研修制度を充実させる。また、弁護士相互間のネットワークやサポートシステムを構築しつつ、中小企業が抱える法的問題に応じて適切な弁護士を紹介等できる態勢を作る。
3 広報・啓発及び継続的な調査・研究と提言
中小企業が抱える法的問題について、中小企業から司法制度や弁護士へのアクセス障害を取り除き、弁護士が適切かつ効果的にその役割を果たすため、上記の取り組みや中小企業を巡る独占禁止法をはじめとする諸法令の徹底について広報や普及・啓発に努める。また、総合法律支援(2004(平成16)年,総合法律支援法)や権利保護保険の中小企業への拡大適用の可能性を探ることを含め、中小企業に対する法的支援制度のあり方について継続的な調査・研究を開始するとともに、その成果をふまえて日本弁護士連合会や法務省、経済産業省等の関係機関に対してその導入や改善を求める等、適時に、中小企業を支援する立法上・行政上の措置を求める提言等の活動を行う。
2010(平成22)年5月25日
福岡県弁護士会定期総会
提 案 理 由
1 司法改革(法化社会の実現)と中小企業
司法改革の真の目的は、社会の隅々まで法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会、すなわち「法化社会」の実現にある。その目的を達成するために、国民がプロフェッションたる弁護士と豊かなコミュニケーションを図る場が設けられること、弁護士が「国民の社会生活上の医師」として、国民にとって「頼もしい権利の護り手」であるとともに「信頼しうる正義の担い手」として、高い質の法的サービスを提供することが求められている。これは言うまでもなく、福岡県弁護士会(以下「当会」という。)が、日本弁護士連合会及び各地の弁護士会とともに掲げて取り組んできた「市民のための司法改革」に通じる。
中小企業は、全国で420万社、福岡県内だけでも15万社以上ある。中小企業が我が国の企業全体に占める割合は90パーセント以上、雇用でも70パーセント以上であり、日本の経済は中小企業で支えられていると言っても過言ではない。「市民のための司法改革」が社会の隅々まで法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスの提供が受けられることを目指すものである以上、法律専門家である弁護士が、個人のみならず、中小企業を含む企業の諸活動全般において、相談・助言を含む適切な法的サービスを提供すること、企業の活動が公正な法的ルールに従って行われるよう助力すること、紛争の発生を未然に防止すること、紛争が発生した場合には、法的ルールの下で適正・迅速かつ実効的な解決・救済が図られることが必然の理である。
2 中小企業への法的援助の必要
ところが、未だ中小企業の現場では、「弁護士の敷居の高さ」、「弁護士に相談するのは最後の最後」という感覚が払拭されていない実情がある。この点は、先に日本弁護士連合会が全国の中小企業を対象として行ったアンケート調査において、回答した中小企業のほぼ半数が弁護士利用経験がなく、その理由のほとんどが「特に弁護士に相談すべき事項がない」という理由であったこと、しかしながら、一方で80パーセントの中小企業が法的問題を抱えておりながら、相談相手がないか、もしくは相談する相手先としても多くは弁護士以外に相談しているという結果が出ていることにも表れている。
実際、我々弁護士が日常の相談業務で接していると、中小企業の多くに未だ法的援助が行き渡っていない実情を実感する。取引契約書の不存在・不備、大企業や親企業などからの優越的地位を背景とした不利な取引条件の甘受、経営危機に遭遇しての専門的援助の欠如、事業承継に関しての不理解や法的援助の不足等々の事態が往々にして見られる。まして、昨今の深刻な世界的不況や国内市場の収縮傾向のもと、中小企業の経営は困難を窮めており、中小企業の疲弊がすなわち我が国経済の沈滞を招いているといっても過言ではない。
もちろん、これまでの個々の弁護士の業務活動によって、中小企業を含む企業活動に弁護士が関与する意義の認知度が向上してきた経緯はある。
しかし、弁護士の中小企業への関与は、個々の弁護士による個別の中小企業へのアクセスに委ねるだけでは不十分であり、弁護士会が組織的・積極的に中小企業にアクセスし、弁護士側の中小企業問題に関する精通度を高めつつ必要とする企業に適切な弁護士を紹介できるシステムを構築すること、そのための基盤を整備すること、そして中小企業から司法制度や弁護士に対するアクセス障害を取り除くことが重要である。
我が国の企業全体に占める割合が90パーセント以上、雇用でも70パーセント以上を占める中小企業の経営安定に寄与することは、新たな産業の創出に与し、就業の機会を増大させ、市場における公正な競争を促進し、地域経済の活性化を促進することとなる。また、下請法はじめ独占禁止法その他中小企業関連法規の徹底が促進されることにもなる。中小企業支援は、市民の立場に立つ法曹たる弁護士の社会的使命ともいうべきである。
中小企業支援に関して、弁護士が果たすべき役割については、日本弁護士連合会が経済産業省中小企業庁と発表した「中小企業の法的課題解決支援のための中小企業庁と日本弁護士連合会の連携について」(2007(平成19)年2月)、「中小企業の法的課題解決支援のための経済産業省中小企業庁と日本弁護士連合会の連携強化について」(2010(平成22)年3月18日)の各共同コミュニケにも指摘されているところである。
3 中小企業からのアクセス障害の克服のために
当会は、「市民とともに」を合言葉に、県内20か所という全国の弁護士会の中でも有数の法律相談センターを開設し、市民の司法へのアクセス障害を解消するべく努力を続けてきた。1991(平成3)年には、隣接専門士業団体との間で福岡専門職団体連絡協議会を設立し、以降、相互理解に努め、相互に専門職を紹介する制度を備え、また共同研究会、定例の共同相談会など着実な協力関係を構築して地域社会に貢献する努力を重ねてきた。
さらに、当会は、日本弁護士連合会と共催で、中小企業向けシンポジウム・セミナー、無料法律相談会を開催するほか、当会独自に、中小企業支援機関・団体(九州経済産業局、各地の商工会議所、福岡県商工会連合会、中小企業基盤整備機構九州支部、中小企業診断協会福岡県支部、福岡県中小企業再生支援協議会等々)と意見交換会、勉強会を開催するなど、地道に活動してきた。
そのような活動の中で、中小企業のあらゆる場面において弁護士が担うべき役割について、未だ十分な理解が得られておらず、弁護士が「身近な相談相手」として意識されていない現実にも直面した。とりわけ、県下の中小企業が今次の深刻な経済不況下、ひどく疲弊して呻吟しているなか、当会としては、中小企業からの支援の要請に応えるべく、さらなる取り組みの強化に努めることが必要であることを痛感するに至った。
そこで、当会は、中小企業支援を積極的に推進する組織として、本年4月1日、当会に「中小企業法律支援センター」を設置した次第である。
4 積極的な支援活動への取り組みの決意
当会は、今後「中小企業法律支援センター」を中心として、中小企業に対して次のとおりの法的支援活動に精力的に取り組む決意である。
(1)関係諸団体等との協力関係の構築
中小企業が、その抱える法的問題に関して容易に弁護士にアクセスし、弁護士による法的助言や支援、ひいては必要かつ有益な司法制度を的確に利用し、法律の擁護を十分に受けられる環境を整備するため、これまでにも増して、行政官庁及び自治体並びに中小企業諸団体等との間で適切な協力関係を構築する努力を払う。
また、1991(平成3)年に福岡専門職団体連絡協議会を設立して以降、当会が進めてきた隣接専門士業団体との協力関係を、今後は、中小企業支援の観点から、さらに有効なネットワークとして構築・増強し、そのネットワークが円滑に機能するための基盤の整備に努めることとする。
(2)研修制度・紹介制度の充実
中小企業の法的問題が広汎で専門的であることに鑑み、中小企業の法律問題に積極的に取り組む精通弁護士を養成することを目指すこととして、そのための専門研修制度を充実させることとする。
また、弁護士相互間のネットワークやサポートシステムを構築・活用して、中小企業が抱える法的問題に即応して適切な弁護士を紹介する等の態勢を作ることとする。
(3)広報・啓発等及び継続的な調査・研究と提言
中小企業が抱える法的問題について、中小企業から司法制度や弁護士へのアクセス障害を取り除き、弁護士が適切かつ効果的にその役割を果たすためには、独占禁止法関係法規その他中小企業関係法制に関して中小企業やこれに関連する企業・団体等に周知することが重要であることにかんがみ、これらの広報や普及・啓発に努めるものとする。
また、総合法律支援(2004(平成16)年,総合法律支援法)や権利保護保険の中小企業への拡大適用の可能性を探ることを含め、中小企業に対する法的支援制度のあり方について継続的な調査・研究を開始するとともに、その成果をふまえて日本弁護士連合会や法務省、経済産業省等の関係機関に対してその導入や改善を提言する等、適時に、中小企業を支援する立法上・行政上の措置を求める提言等の活動を行うこととする。
5 よって、上記のとおり宣言する次第である。

