福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2019年2月 7日

「性暴力を抑止し,性被害から県民を守るための条例(案)」 に関する会長声明

声明

 議員有志からなる福岡県議会議員提案政策条例検討会議は,福岡県2月定例議会に標記条例案を上程し,成立させることを目指している。
本条例案は,性犯罪その他の性暴力を抑止し,性暴力による被害から県民を守ることを目的としており,その目的は理解できるものの,以下の点を含む多数の問題があるので,当会は,本条例案には反対である。
 特に問題があるのは第17条である。同条は,一定の性犯罪を犯して刑期を満了した者に対し,再犯防止及び社会復帰の支援を目的として,その者の氏名,住所,性別,生年月日,連絡先,罪名,刑期満了日の届出義務を課しており,第18条では,その者が申し出たときに,知事が再犯防止指導に準じた指導プログラムを受けることや治療を受けるように支援すると規定している。
 しかし,個人の特定をともなう前科情報は,高度にプライバシー性の高い情報であり,前科となる判決を受けた者が社会復帰に務め,新たな生活環境を形成していた場合に,前科情報を公表されない権利は,憲法第13条によって保障されることが最高裁判決によっても認められている。また,本条例案第18条で,指導プログラムまたは治療を県が提供すると規定しているが,前科を有する者が申し出たときに提供するのであれば,事前に住所や前科の届出を強制する必要はない。したがって,本条例案の目的のためにこのような届出義務を課す必要はない。
 本条例案が,真に加害者の更生への支援を考えるのであれば,前科の届出義務はかえって更生を妨げるものであるから規定するべきではなく,加害者が抵抗なく自らすすんで社会復帰への支援を求めることができるような制度を調査研究したうえで,その制度を具体的に本条例案に規定するべきである。本条例案には,その目的を阻害するような制度が規定されており,適当ではないと思料する。
 また,本条例案第8条には,県民の責務として,性被害の発生の危険がある状況に直面したときには,これを傍観することなく,その発生及び継続を防止するために可能な範囲で積極的に行動するものとすると規定している。
 しかし,被害の発生及び継続を防止するためには,加害者を制止しなければならず,大きな危険がともなう。加害者から被害者を逃がすための援助をする場合にも,加害者から攻撃を受ける可能性がある。このような危険をともなう行為を条例によって法的に義務づけることは相当ではない。しかも,本条例案は,これまで県民に知らされておらず,突然,県民にこのような義務を負わせることは,県民に戸惑いと混乱を招くことになる。
 さらに,本条例案第14条及び第15条は,当会と連携を行うことを定めているが,どのような連携を行うかについて,これまで当会に申し入れは行われておらず,今回の県議会で本条例案を制定するのは性急に過ぎる。
 以上の理由から,当会は,本条例案に反対するものである。

2019年(平成31年)2月7日

                福岡県弁護士会 会長  上 田 英 友

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