福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2015年9月18日

特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書

意見

2015年(平成27年)9月18日
福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

第1 意見の趣旨

1 特定商取引法に,電話勧誘販売に関して,いわゆる「Do-Not-Call制度」(電話による勧誘を受けたくない人に,事前に登録をしてもらい,登録された電話番号への電話勧誘を禁止する制度。以下「電話勧誘拒否制度」という。)を直ちに導入することを求める。

2 同法に,訪問販売に関して,いわゆる「Do-Not-Knock制度」(訪問販売を受けたくない人が,お断りステッカーなどを家先に貼った場合や,住所等を事前に登録した場合に,訪問販売を禁止する制度(以下「訪問販売拒否制度」という。)を直ちに導入することを求める。

3 上記1,2の各制度については,現行特定商取引法第26条第1項第8号の適用除外業種をそのまま容認すべきではなく,適用除外業種を狭めるあるいは撤廃する方向で,特定商取引法第26条の見直し又は各特別法の見直しを行うべきである。

第2 意見の理由

1 電話勧誘拒否制度導入について
(1) 導入の必要性

全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)の登録情報によれば,電話勧誘販売についての相談件数は2010年(平成22年)から2014年(平成26年)までの5年間で合計40万7526件(1年あたりの平均で,約8万1505件)に達しており,相談件数としても増加傾向にある(独立行政法人国民生活センターウェブサイト「販売購入形態別の年度別推移及び相談全体に占める割合」参照。http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/mutenpo.html)。

電話勧誘販売においては,消費者からすれば,突然かかってきた電話によって勧誘を受けるため,当該販売方法は,強引な言動等に困惑して契約をしてしまったり,あるいは何度も執拗に電話がかかってくるために断り切れずに契約をしてしまったりすることが類型的に生じやすいものであると言える。

ここで,特定商取引法においては,消費者保護のため,電話勧誘については事業者の名称や勧誘の目的を明示する義務が定められ,8日間のクーリングオフ期間も設けられており,また,具体的な拒否の意思表示があった場合の再勧誘も禁止されている。しかし,上記のとおり,未だに多数の相談が寄せられており,さらには増加傾向にあることからすれば,望まない契約をさせられてしまった消費者の保護としては,十分とは言えない状況にある。

そこで,電話勧誘拒否制度を導入することによって,断る力が十分でない消費者に自衛の手段を認めるべきであると思料する。

この点,事業者においては,予め電話勧誘を拒絶した消費者への勧誘を禁止されることで,消費者の商品選択の幅が狭められてしまうことになるとか,販売方法が限定されることで経済が停滞することに繋がる等といった点から,電話勧誘拒否制度の導入に反対をされることが予想される。

しかしながら,前者の点についていえば,当該制度は,電話勧誘を受けたくないという消費者を保護するものに止まっており,電話勧誘を受けたいと考えている消費者に対して電話勧誘を行うことは何ら否定されておらず,情報を得たいと欲している消費者からその機会を奪うことにはならない。また,後者の点についても,上記のとおり電話勧誘販売についての相談件数の多さに鑑みれば,消費者被害の生じやすい類型の販売方法については適切な規制を加えることが国民経済の健全な発展に寄与すると考えるべきである。むしろ,事業者においても,当初より電話勧誘を拒否する消費者が明確になった方が,より購入意欲の強い消費者に対して集中的かつ効率的に勧誘を行うことができるようになるのであり,合理的であると解する。

なお,電話勧誘拒否制度は,諸外国においても広く導入されている制度であり,購入者等の利益保護と,商品等の流通及び役務の提供の適正化・円滑化の調和を図るうえで,一般的にその有効性が認知された,必要な制度であるというべきである。

(2) 制度設計について

制度設計,主に,どのようにして事前拒否の登録をし,その登録情報を誰がどのように管理し,また事業者がその情報をどのようにして確認できるようにするのかについては,情報の目的外利用等,不正な利用がされないように留意する必要があり,国を始めとして,しかるべき機関において,慎重に管理されなければならない。

2 訪問販売拒否制度導入の必要性
(1) 導入の必要性

電話勧誘拒否制度の項で確認したのと同じく,全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)の登録情報によれば,訪問販売についての相談件数は2010年(平成22年)から2014年(平成26年)までの5年間で合計46万8622件(1年あたりの平均で,約9万3724件)に達しており,相談件数としてはやや減少傾向を見せつつも,依然として高い値を維持している(上記独立行政法人国民生活センターウェブサイト「販売購入形態別の年度別推移及び相談全体に占める割合」参照)。

訪問販売も電話勧誘と同じく,消費者からすると,望まない契約を締結させられてしまいやすい性質を有している。すなわち,訪問販売においては,消費者からすれば,自宅等を突然訪れた販売員から勧誘を受けるのであり,やはり強引な言動等に困惑して契約をしてしまったり,あるいは対面式であるために執拗な勧誘を断ることに疲弊してしまい,断り切れずに契約をしてしまうということが類型的に生じやすいものであると言える。

そのため,特定商取引法においては,消費者保護のため,訪問勧誘についても,過量販売規制や8日間のクーリングオフ期間も設けられているほか,具体的な拒否の意思表示があった場合の再勧誘も禁止されている。しかし,上記のとおり,未だに多数の相談が寄せられていることからすれば,望まない契約をさせられてしまった消費者の保護としては,十分とまでは言えない状況にある。

つまり,訪問販売においても,電話勧誘販売と同じく,断る力の十分でない消費者に自らの利益を守る術を認める必要があるのであり,訪問販売拒否制度を導入することによって,断る力が十分でない消費者に自衛の手段を認めるべきであると思料する。

この点,事業者においては,電話勧誘拒否制度の項において指摘したのと同じように,訪問販売を拒絶した消費者への勧誘を禁止されることで,消費者の商品選択の幅が狭められてしまうことになるとか,販売方法が限定されることで経済が停滞することに繋がる等といった点から,電話勧誘拒否制度の導入に反対をされることが予想される。

しかし,既に述べたとおり,当該制度の下においても,訪問勧誘を受けたいと考えている消費者の自宅を訪れる等して勧誘を行うことは何ら否定されておらず,情報を得たいと欲している消費者からその機会を奪うことにはならない。また,後者の点についても,上記のとおり訪問販売についての相談件数が依然として高止まりしていることに鑑みれば,消費者被害の生じやすい類型の販売方法については適切な規制を加えることが国民経済の健全な発展に寄与すると考えるべきである。むしろ,事業者においても,当初より訪問販売を拒否するものが明確になった方が,より購入意欲の強い消費者に対して集中的かつ効率的に勧誘を行うことができるようになる点も,電話勧誘販売の項において指摘したのと同様である。

なお,訪問販売拒否制度も,諸外国においても広く導入されている制度であり,購入者等の利益保護と,商品等の流通及び役務の提供の適正化・円滑化の調和を図るうえで,一般的にその有効性が認知された,必要な制度であるというべきである。

(2) 制度設計について

訪問販売拒否制度は,ステッカーを家先に貼ることや,住所等を予め登録することで拒否の意思を事業者に対して示すものであり,その制度設計,主に,どのようにして事前拒否の登録をし,その登録情報を誰がどのように管理し,また事業者がその情報をどのようにして確認できるようにするのかについては,電話勧誘拒否制度と同じく,情報の目的外利用等,不正な利用がされないように留意する必要があり,国を始めとして,しかるべき機関において,慎重に管理されなければならない。

3 適用除外業種の見直しについて

さらに,上記の事前拒否者への勧誘禁止制度は,事前に電話勧誘,訪問販売勧誘を受けることを望まない消費者の意思を守ることを目的とするものであり,事業内容(業種)に関わらず,電話勧誘,訪問販売勧誘を行う事業者について広く認められるべきである。

したがって,同制度を導入するにあたっては,現行特定商取引法第26条第1項第8号の適用除外業種をそのまま容認するのではなく,特定商取引法第26条の見直し又は各特別法の見直しによって,適用対象を広げる方向で対応すべきである。

4 結語

電話勧誘販売や訪問販売により消費者被害が生じており,かかる被害を防止し,ないしはかかる被害から消費者を救済すべきことは,全国的にも重要な課題となっているものと思料する。そしてこのことは,当会においても同様であり,その被害防止・救済の必要性は何ら変わるところはなく,当会においても,極めて重要な問題となっている。

他方で,電話勧誘や訪問販売について,これを事前に拒否する意思を示した者への勧誘を禁止する制度は,消費者から承諾を得た勧誘や,勧誘を拒絶していない者に対して勧誘することまでを否定するものではなく,事業者の経済活動を不当に抑制することにはならない。

予め勧誘をしないように求めている消費者に対する勧誘を禁止することは,一般に浸透している社会通念からしても,また商道徳上も極めて当然のことであり,国民経済の健全な発展のために,何ら躊躇される必要のないものである。

以上の理由から,意見の趣旨記載の対応を強く求める次第である。

以上

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