福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2013年10月11日

特定秘密保護法案に関する会長声明

声明

特定秘密保護法案に関する会長声明


1 特定秘密保護法案を巡る動き
 政府は、2013年(平成25年)9月3日に「特定秘密の保護に関する法律案の概要」を、同月26日には特定秘密保護法案(以下「本法案」という。)の原案を公表し、同年10月に開会予定の臨時国会に本法案を提出する意向を示している。
2 本法案の根本的な問題点
  本法案は、その個々的な内容でも重大な問題を含んでいるが、そもそも、行政情報は可能な限り主権者である国民に開示されることが原則であり、現状ではよりいっそう情報公開が進められるべきである。しかるに、これを隠蔽し、その情報に国民の側からアクセスしようとする様々な活動を処罰し、またそれによってそのような活動を萎縮させる法制度をつくることは、憲法の保障する国民の「知る権利」の重大な侵害であり、ひいては「知る権利」の行使に基づく主権者たる国民自身による統治という国民主権原理に反するというべきである。
3 法案提出にあたっての政府の対応の問題点と国民の反応
 このように根本的な問題を含む本法案であるが、政府は、これに対するパブリックコメントの提出期限を本法案の概要を発表したわずか2週間後に締め切った。
 通常は1ヶ月程度はおかれる期間を、本法案のように国民の重要な権利の侵害となる虞れのある法案についてわずか2週間としたことは極めて不当な対応というほかない。
 これに対し、国民は、このわずかな期間に約9万件もの意見を寄せ、そのうちの約8割が反対の意見であったことなど、本法案に対し高い関心と危機意識をもっていることを明らかにしている。
4 本法案の内容の問題点
 本法案は、行政機関の長が「特定秘密」を指定し、その漏えいやこれを探ろうとした行為を厳罰をもって禁ずるとともに、「特定秘密」を取り扱う者自体の人的管理を行うというものである。
(1)特定秘密の対象の範囲の拡大と不明確さ
 本法案は、対象となる「特定秘密」について、①防衛、②外交、③特定有害活動の防止、④テロリズムの防止の4分野を別表で示しているが、特定秘密の範囲については、1985年(昭和60年)に国会に上程されたものの国民世論の反対によって廃案とされた「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」よりも拡大されている。
 そして、その内容を特定するためとして各分野の該当項目を列挙した「別表」によってもその記載が包括的であるため対象とされる事項の範囲が不明確である。
(2)特定秘密の指定権者と恣意的運用のおそれ
 本法案は、「特定秘密」の指定権限は行政機関の長としているため、行政機関自身が自己に都合の悪い情報を秘匿する手段に利用する虞れがあるにもかかわらず、本法案にはその恣意的運用を防止する制度が何ら定められていない。
(3)重罰化と処罰対象行及び対象者の拡大
 本法案では、国家公務員法の法定刑よりも重い刑罰を科すことはもとより、その処罰範囲も故意の漏えい行為だけでなく、過失の漏えい行為、漏えい行為の未遂や共謀、教唆、扇動並びに特定秘密の取得行為とその共謀、教唆、扇動についてまでも処罰対象行為としているうえ、共謀、教唆、扇動は実行行為の着手がなくとも処罰するとしている(いわゆる「独立教唆」等)。
 処罰対象者としても、取材活動をおこなうマズメデイア関係者はもとより、国政調査権を担う国会議員をも対象者としているなど、その対象者は広範囲に及ぶ。
(4)適性評価制度
 本法案は、特定秘密の取扱者の人的管理のために「適性評価制度」を導入し、過去の懲戒処分歴、非違経歴や信用情報などを対象者の同意を得たうえで調査し評価するとしている。
 しかしながら、調査に際しては対象者の知人らに対する聞き込みや公私の団体に照会をすることも可能であり、また調査対象には対象者の家族や同居人まで含まれており、このような極めてセンシティブな情報を行政機関・警察によって収集されること自体が重大なプライバシー侵害に該当する。
5 当会の意見
 このように国民主権原理に反し重大な憲法上の権利を侵害する特定秘密保護法の立法化に対し、当会は断固として反対し、政府に対しては本法案の国会上程を速やかに断念することを強く求める。
                                                   

                   2013年(平成25年)10月11日

                          福岡県弁護士会
                          会長  橋 本 千 尋

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