福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2013年7月18日

質屋営業法(昭和25年法律第158号)改正意見書

意見

                        2013年(平成25年)7月17日
                        福岡県弁護士会会長 橋本千尋


第1 意見の趣旨
  質屋営業法(昭和25年法律第158号)を以下のように改正することを求める。
  1 質屋営業法1条に質契約の定義として、「質置主は、質物の流質処分を甘受する限り、質屋に対して借受金の弁済義務を負わず、流質処分後は借受債務が消滅する金銭貸付契約」という規定を付加する。

  2 質屋営業法18条(質物の返還)につき、質置主が元利金を支払う場合に質物の返還を即時に受けうること及び質置主の流質選択の機会を与えるため、以下の規定を設ける。
  ①弁済について、金融機関等の自動引落その他自動決済システムを利用することを禁止すること、弁済は、必ず、質契約が成立した営業所において行う旨の規定を設けること。
  ②質屋は質置主が元利金を弁済しようとする場合、質置主に対し、予め、流質処分を選択できること、流質処分を選択した場合、借受金の弁済義務を負わない旨告知しなければならないとの規定を設けること。

  3 質屋営業法19条(流質物の取得及び処分)に、以下の条項ないし規定を加える
  ①「質屋が、流質期限を経過した時において、その質物の所有権を取得した後、質屋は質置主に弁済の履行を請求してはならない。」
  ②質置主が流質を選択した場合、流質期限経過前でも質屋はその質物の所有権を取得すること、この場合、質屋は質置主に対し弁済の履行を請求してはならない旨の規定を設けること。

  4 質屋営業法30条(罰則)につき、改正後19条の違反(流質後請求)の場合、貸金業法47条の3と同様に「二年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」の罰則を付する。

  5 貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)の規定とその罰則(同法48条)と同様の規定を設ける。

  6 質屋に認められた特例高金利(年109.5%)を引き下げる方向で検討する。


第2 意見の理由
  1 偽装質屋問題について
  ⑴ 偽装質屋とは
  偽装質屋とは、質屋営業の許可は受け、質物を預かり形式的には質屋の形態を装いつつ、無価値あるいはほぼ無価値な物品を質物として預かり、金融機関等の自動決済システムによる引落等を利用する方法により,実質的には公的給付の受給権を担保に金員を貸し付ける業者のことをいう。
  ⑵ 偽装質屋の営業手法の広がりと被害の拡大防止の必要性
  偽装質屋は、2006年(平成18年)12月に公布された改正貸金業法(平成22年6月完全施行)により出資法の上限金利が引き下げられた時期の前後に福岡県を拠点として上記形態の営業を開始したといわれている。
  福岡県警は偽装質屋の違法な実態に鑑み2012年(平成24年)10月、貸金業法(無登録営業)及び出資法(高金利)違反の嫌疑で福岡市内に本店を有する2社に対し捜索を行った。その後、2013年(平成25年)5月上旬、同社代表者らは逮捕され、同月下旬、起訴された。
  これとは別に、 2012年(平成24年)11月には、大分県警が貸金業法と出資法違反の疑いで、北九州の質屋の経営者等を逮捕した。さらに、2013年(平成25年)2月には、鹿児島県警が、貸金業法と出資法違反の疑いで鹿児島の質屋の営業者等を逮捕した。
  また、九州以外では、群馬県警が同年5月に貸金業法と出資法違反の疑いで高崎の質屋の経営者を逮捕した。
  加えて、国民生活センターの発表によると、偽装質屋に関する相談件数が、2010年(平成22年)が44件であったのに対し、2011年(平成23年)は85件と倍増し、2012年(平成24年)は194件と更に倍増する等、問題が深刻化していることが窺われる。
  このように、偽装質屋問題は全国的な広がりをみせておりかつ被害件数も増加の一途を辿っていることから、偽装質屋の被害がこれ以上拡大しないように早急に法改正を行うことが必要である。
  ⑶ 偽装質屋の営業の問題点
   偽装質屋は、以下の点において、その実態は、高利の貸金業である。
  ①質屋の形態を取り繕うため融資金額と全く釣り合わない物品を質物として預け入れさせている。
  ②質屋の形態を利用することにより出資法の上限金利規制を潜脱し、高利を得ている。
  ③質置主の流質の機会を奪うため、弁済に関し、金融機関等の自動引落システムを利用して、弁済を受けている。
  ④質置主が流質処分を選択した場合であっても、その残額の支払いを強制している。
  ⑤偽装質屋の被害者は、年金、生活保護受給者等公的給付の受給者であり、上記③の手法と相まって、公的給付を事実上担保にとることで回収を確実にしている。
  よって、この偽装質屋の問題を解決するためには、以上の偽装質屋の営業実態が、通常の質屋の営業とは異なる点に対応した法改正を行うべきである。なお、あわせて、通常の質屋営業でも認められている特例高金利(年109.5%)は、出資法上の唯一の特例高金利であることから、この特例金利を引き下げる方向で検討するべきである。

  2 具体的な改正の立法提言について
  ⑴ 質屋営業法1条の質契約の定義
  質屋営業法1条1項の規定する「質屋営業」の定義は、「物品(有価証券を含む。第二十二条を除き、以下同じ。)を質に取り、流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは、当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける営業をいう」というものである。
  しかし、端的に質契約の定義規定はない。そして質屋契約は、質置主は、質物の流質処分を甘受する限り、質屋に対して借受金の弁済義務を負わず、流質処分後は借受債務が消滅するものであり、質屋と貸金業者とは営業内容が、とりわけ清算のあり方に関して相当に異なるものである(名古屋高裁平成23年8月25日判決LLI/DB判例秘書登載参照)とされる。従って、単に質屋営業を定義するだけではなく、質屋営業でなされる質契約についても定義規定をおくことで、質屋営業法にいう質屋営業を行うものか、質屋営業を偽装するものかの判断基準を明確にするべきである。
  ⑵ 流質を事実上阻害する行為の禁止
  偽装質屋は,借主である質置主が流質を選択することを阻止しなければ,質物の交換価値では,自らの債権の満足を得ることができない。そのため,弁済日に金融機関の口座,主に年金等公的給付が支払われる口座から自動引き落としにより利息及び元金の弁済を受けている。
  しかし,本来,質屋営業法の予定する質契約においては,借入元金以上の価値がある質物を担保に質契約を締結することが予定されており,元利金を弁済する場合には,質置主は質物を即時に受け戻すことができなければならない(質屋営業法18条1項)。
  とすれば,金融機関の口座からの自動引落による弁済を選択することは,質物の受け戻しが想定されておらず,質屋営業法の予定する弁済方法ではないし,融資金額に見合わない質物を担保にとることも,質屋営業法の予定する質契約とはいえない。
  よって,元金の支払については,自動引落としによる弁済は勿論,振込による支払はこれを禁止すべきである。
  また,銀行の自動引落で利息の支払を強制されることも,質屋営業法が特例金利を認めていることからして,流質の機会を質置主に与えるため,これを禁止すべきである。
  そもそも,質物の交換価値を前提として質契約を締結している以上,元利金の弁済に際し,質置主に対して質物の返還か流質かを自由に選択できるようにすべきである。この交換価値を無視した契約は,大阪高裁昭和27年6月23日判決(高裁刑事判例集5巻3号432頁)では「質屋営業法第一条によれば質屋営業とは物品(有価証券を含む)を質に取り流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して金銭を貸付ける営業をいうのであるから無担保又は無担保に等しい扱いを以て金銭を貸付ける行為は質屋営業の範囲を超える」として,刑事上も被告人を有罪としている。
  以上,質置主の流質を阻害する行為(金融機関の口座からの引落等)は全て禁止することが必要であり,質屋の店舗において弁済することを義務付けるとともに元利金の弁済を受ける前に,質置主に流質の機会を付与するためその旨告知する義務を質屋に課すべきである。
  ⑶ 取立行為の規制
  既に述べたとおり、質置主は、質屋契約において、流質を選択することにより、借受債務を消滅させることができるのである以上、質屋は、質置主が流質を選択した場合、貸金債権は消滅し、取立行為を行うことはできないことは自明である。
  したがって、質屋は、質置主が流質を選択した後は、質屋が質置主に対して取立行為を行うことを禁止し、これに罰則を付することは当然である。
  ⑷ 年金等公的給付の担保を禁止
  質屋営業法にいう質契約は、有体物である質物を対象として締結されるものであり、権利質は認められない。よって、年金等公的給付の受給権(債権)を質として質契約を締結することは質屋営業法上許されない行為である。
  したがって、年金等公的給付を事実上担保にとる行為も当然に禁止される。
  ところが、貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)は、質屋営業法には明示的には適用がない。そこで、質屋営業法に罰則含めて、これを明示的に禁止する規定をおくべきである。

  ⑸ 特例高金利の制限
  上述のように質屋営業法では、出資法の特例として年109.5%の高金利をとることが認められている。この特例金利は、出資法上の唯一の特例高金利であるところ、このような金利が認められた趣旨は、質物の鑑定や保管に費用がかかるからと説明されている。
 しかし、この特例高金利を維持することが合理性を有するか、検証されるべきである。


第3 結 論
   よって、意見の趣旨のとおり、質屋営業法を改正すべきである。


                                       以  上

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福岡拘置所小倉拘置支所現地建て替え等を求める要望書

要望書

                                平成25年7月18日


内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
法務大臣 谷垣 禎一 殿
法務省矯正局長 西田  博 殿
法務省福岡矯正管区長 馬場 恒嘉 殿


                          福岡県弁護士会
                          会 長 橋 本 千 尋
                          福岡県弁護士会北九州部会
                          部会長 荒 牧 啓 一


    福岡拘置所小倉拘置支所現地建て替え等を求める要望書


第1 要望の趣旨
1 福岡拘置所小倉拘置支所(以下,「小倉拘置支所」という。)を現地にて建て替えすべく,そのための事業費を来年度予算として計上すること
2 新小倉拘置支所を建築するにあたっては,無罪の推定を受ける未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物にすること
3 新小倉拘置支所の設計にあたっては,当会と協議の場を設置すること
を強く要望する。


第2 要望の理由 
 1 要望の趣旨1について
 (1)平成21年6月,法務省は小倉刑務所跡地に小倉拘置支所を移転させる計画を断念し,それにより北九州矯正センター構想(以下,「本構想」という。)を撤回した。当会は,長年に亘り,小倉拘置支所の現地建て替えを強く要望してきたところ,ようやく,平成24年度予算で調査費が計上され,同年度補正予算で設計費が計上される等の一定の進展が見られたが,建て替えに必要な事業費は未だ予算化されていない。
 かかる状況を踏まえて,当会としては,以下に述べるとおり,小倉拘置支所を早急に建替える必要が存することに照らし,建て替えに必要な事業費を来年度予算として計上することを強く要望するものである。
 (2)小倉拘置支所は昭和35年に築造された建物で,既に築後50年以上経過しており,建物の老朽化が著しく,建物の各所で塀の倒壊や外壁の落下の危険が生じ,被収容者や,被収容者に面会に来る市民及び小倉拘置支所職員の生命・身体に危険な状態となっている。
 (3)また,小倉拘置支所は,昭和25年公布の旧耐震基準に基づいて建築された建築物であり,現在の耐震基準を満たしていない上,建物の駆体部分の老朽化も著しいため,地震等の自然災害により甚大な被害が生じる危険性が高いことから,早急に建物を建て替える必要がある。
 (4)さらに,被収容者の生活環境も劣悪な状況におかれている。具体的には,給水設備については,蛇口からは赤水が出る,トイレの水の流れが弱いために排泄物がなかなか流れない等,設備使用上の不具合が生じている。また,収容部屋についても,雨漏りが発生する部屋が多数存在する上,室内でダニが発生する,布団から虫が出る,カビが発生する等,衛生面における問題も極めて深刻である。
 平成25年5月24日に当会北九州部会の会員が小倉拘置支所を見学した際に内部の状況を確認したが,被収容者の劣悪な生活状況については一向に改善が見られなかった。
 このように,小倉拘置支所の建物の著しい老朽化の影響により,被収容者の生活環境は著しく劣悪な状況に置かれている。
 (5)以上より,当会としては,小倉拘置支所を早急に建て替える必要性が高いことから,小倉拘置支所を早急に現地で建て替えることを要望し,そのための事業費を来年度予算として計上することを強く要望する次第である。
 
2 要望の趣旨2について
 (1)未決拘禁者は,無罪推定の原則の適用を受け,刑事手続のために身体拘束される他は,一般市民と同様の立場にあることから,未決拘禁者には,拘置所内の生活においても,できる限り一般市民と同様の生活が保障されなければならない。
 (2)しかし,上記のとおり,小倉拘置支所における未決拘禁者は,著しく劣悪な生活環境におかれていることから,小倉拘置支所の現状では,無罪推定を受ける未決拘禁者の基本的人権に十分な配慮がされているとは言えない。
 (3)そこで,小倉拘置支所の現地建替を行う際には,無罪の推定を受ける未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物を建築することを強く要望する。

3 要望の趣旨3について
 (1)拘置所側は,未決拘禁者の基本的人権を制約する立場にある以上,拘置所側の意見だけに基づいて新小倉拘置支所の設計を行っても,未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物を建築することは困難である。
 (2)これに対し,当会は,平成22年度の夏と冬にかけて,小倉拘置支所の未決拘禁者に対するアンケート調査を行い,未決拘禁者が著しく劣悪な生活環境下に置かれていることを明らかにしてきた。
 また,当会は,平成23年に,未決拘禁者の基本的人権への配慮という点で高い評価を受けている大韓民国のソウル拘置所を視察した実績もある。
 (3)そのため,小倉拘置支所の建替に際しては,未決拘禁者の人権の問題に恒常的に取り組んできた当会の関与を認める必要性は高い。
 平成24年7月に当会は小倉拘置支所に対して,建て替えについての当会との協議会の設置を要望したが,未だ実現に至っていない。
 そこで,当会は,未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物を建築するために,小倉拘置支所の建て替えに際しては,当会と協議の場を早急に設置することを再度要望する次第である。

                                       以上

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