福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2012年11月 9日

遠隔操作による脅迫メール事件等の取調べについての会長声明

声明

 
 ウェブサイト上やメールで犯罪の予告をしたとして、福岡市在住の男性1人を含む男性4人(うち少年1人)が威力業務妨害や脅迫等の被疑事実で逮捕された。内1人は起訴され、1人は少年審判を受けていた一連の事件について、真犯人を名乗る者からパソコンを遠隔操作するなどして実行した旨の犯行声明メールが送られたことを受け、捜査機関は、当該男性4人の逮捕は誤認に基づくものであったことを認め、不起訴処分や起訴取り消し等の処分を講ずるとともに、男性らに対して誤認逮捕について謝罪した。
 これらの事件で看過されてはならないのは、福岡市在住の男性及び少年1人についての虚偽の自白を内容に含む供述調書が作成されていることである。無実の人間が虚偽の自白あるいは自白調書への署名捺印を強いられ、さらには、供述調書にありもしない「犯行動機」まで書かれているとのことである。同時期に複数の無実の市民が虚偽自白を強いられた事実により、改めて、捜査機関が自白採取に重きを置く捜査方法を採用していることが明らかとなった。本件において取調べを含む捜査手続に様々な問題があったと考えざるを得ず、現時点で以下の2点につき指摘を行うものである。


 まず1点目は、いわゆる人質司法の問題である。
 本件では男性4人とも逮捕・勾留されている。そして、審判で保護処分がなされていた少年1人を除き、ウイルス感染していたことが判明するまで勾留が続き、福岡市在住の男性に至っては、他の2人の男性が釈放された日である2012年9月21日に再逮捕され、その後再勾留もされた。
 ウェブサイト上やメールでの犯罪の予告であれば、その証拠はサーバーやパソコン自体に残っているのであるから、本来であればパソコンを押収するなどすれば証拠隠滅を避けることができるし、威力業務妨害罪や脅迫罪の法定刑を考えれば逃亡のおそれが高いわけでもない。
 その意味では、本件はそもそも勾留の要件を満たしていたかどうか自体にも疑問のある事案であるが、自白をしなければ自分自身あるいは同居人が逮捕・勾留されてしまう、あるいは勾留期間が長くなってしまうというような状況は、虚偽自白を生み出してしまう要因となり得るのであり、そのことを踏まえ検察官による慎重な勾留請求と、裁判官による慎重な勾留決定の判断が求められる。
 しかるに、安易に勾留を認めたが故に、身柄拘束を受け虚偽自白に至った経緯があり、ここに虚偽自白を防止するため人質司法を早急に改める必要がある。


 
 2点目は取調べの全過程の録画・録音の必要性である。
 本件では、具体的に取調べにどのような問題があったか必ずしも明らかとはなっていないが、取調べの全過程を録画・録音すれば、虚偽自白に至るまでの取調べでのやりとりが明らかとなるのであり、そのことにより、違法な取調べを防止できるのみならず、虚偽自白を防ぐための取調べ手法に関する検証も可能となる。
 また、取調べの全過程を録画・録音すれば、虚偽自白を始めた後の具体的な供述内容や供述経過が明らかとなるところ、実際にはやっていないことを自白しようとする場合、どうしてもその供述には客観的事実や状況に矛盾する内容が含まれるはずであり、供述内容や供述経過を仔細に検討することにより、真実の自白であるのか虚偽自白であるのかを検察官や裁判官が判断することも可能となる。
 その意味でも、当会がこれまで繰り返し求めてきている取調べの可視化(取調べの全過程の録画・録音)は極めて重要なのであり、在宅事件も含め、一度でも被疑者が否認した事件や弁護人が録画・録音を求めた事件については、取調べの全過程を録画・録音がなされるべきである。


 
 以上、人質司法の問題も取調べの可視化の問題も、当会において繰り返し指摘してきた問題ではある。しかしながら、本件の発覚により、現在に至ってもなお、歴然として虚偽自白やえん罪が起こり続けていることが明確となったことを機に、改めて①逮捕・勾留について刑事訴訟法が定める要件に基づいた慎重な運用、ならびに②否認事件及び弁護人が録画・録音を求めた全ての事件について、直ちに取調べの全過程を録画・録音するよう求めるものである。


                     2012(平成24)年11月9日
                          福岡県弁護士会    
                          会長  古 賀 和 孝

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