福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2012年11月 9日

生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明

声明

政府は、本年8月17日、「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。そこでは、社会保障分野についても生活保護の見直しをはじめとして最大限の効率化を図るとの方針が強調されている。また、厚生労働省が公表した平成25年度予算概算要求の主要事項では、生活保護基準の検証・見直しを予算編成過程で検討するとされている。そして、本年10月5日、厚生労働省は、社会保障審議会生活保護基準部会において、第1・十分位(全世帯を所得階級に10等分したうち下から1番目の所得が一番低い層の世帯)の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証方針を提案した。
これらの事実から、本年末にかけての来年度予算編成過程において、厚生労働大臣が、生活保護基準の引き下げを行おうとすることは必至の情勢にある。
しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、我が国における生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。生活保護基準が下がれば、最低賃金の引き上げ目標額が下がり、労働者の労働条件に大きな影響が及ぶ。また、生活保護基準は、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、就学援助の給付対象基準など、福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。生活保護基準の引下げは、現に生活保護を利用している人の生活レベルを低下させるだけでなく、市民生活全体に大きな影響を与えるのである。
このような生活保護基準の重要性に鑑みれば、その在り方は、上記の生活保護基準部会などにおける学術的観点からの慎重な検討を踏まえて、広く市民の意見を求めた上、生活保護利用当事者の声を十分に聴取して決されるべきである。財政の支出削減目的の「初めに引下げありき」で政治的に決せられることは、決して許されることではない。
そもそも、厚生労働省の提案する、低所得世帯の消費支出と生活保護基準の比較検証の手法には大きな問題点がある。すなわち、平成22年4月9日付けで厚生労働省が発表した推計によれば、生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2~3割程度と推測され、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない者)」が大量に存在する。当会の生活保護支援システムにおいても、生活保護の窓口を訪れたにもかかわらず申請が受け付けられなかったとの市民からの相談が多数寄せられている。このような現状においては、低所得世帯の支出が生活保護基準以下となるのは当然である。これを根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、生存権保障水準を際限なく引き下げていくことになり、合理性がないことが明らかである。
当会の会員は、多重債務問題の解決や生活保護支援をはじめとする業務の中で、日々、低所得世帯の市民の生活困窮の実態に接しているところであるが、生存権保障水準を引き下げれば、市民生活にさらに深刻な影響が及ぶことは明らかである。
よって、当会は、来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることに強く反対する。


2012年(平成24年)11月 9日
                           
                              福岡県弁護士会    
                              会長 古 賀 和 孝

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