福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2010年6月18日

会長日記

会長日記

平成22年度    会 長 市 丸 信 敏(35期)


薫風の季節。風に乗った新緑の香りは命の息吹を感じさせてくれ、また、咲き誇る花々は心を癒し人としての優しさを取り戻させてくれるように感じます。5月12日をもって怒濤の挨拶回りに終止符を打ち(笑)、時間的には少し余裕をもって会務に向かうことができるようになりました。 司法修習生の給費制維持のための闘い  さわやかな五月晴れとなった5月16日は、本年度の新司法試験の最終日でした。その九州会場である福岡市内のビル入り口前に、夕刻、日曜日にもかかわらず当会会員10数名が結集して、試験会場からあふれ出る受験生に、ビラ配り・署名集めを致しました(写真)。司法修習生の給費制維持に向けた当会の救急対策の取り組みのスタートです。  司法修習生に対する国庫による給与・手当の支給制度(給費制)は、修習専念義務の制度的担保として、昭和22年にわが国で司法修習制度が始まって以来続いてきた制度です。給費制は、法曹一元の理念に裏打ちされた統一修習制度とあいまって、法曹の卵である司法修習生に対して法曹として求められる高い公共心、使命感を涵養することに貢献してきました。わが国の司法修習制度は、国内外からも高く評価されています。実際、修習生時代に国から給与を頂いて生活の保障を受けながら一人前の法曹になるべく大事に育てて貰ったという経験に基づく感謝の念が、その後の法曹・弁護士としての社会的・公益的諸活動の原点にあると感じておられる会員も少なくないはずです。  ところが、残念ながら、平成16年12月の裁判所法改正の結果、その給費制は廃止され、国が生活資金を貸し付ける制度(貸与制)に変更されることが決まりました。その改正法の施行日が本年11月1日に迫っています。日弁連や当会を含む全国の弁護士会は、この裁判所法の改正に反対し、給費制を存続させるよう運動を続けてきましたが、効なきまま今に至りました。  ところで、平成21年11月における日弁連調べ(回答数1528名)によれば、司法修習生(新63期生)の半数以上の人(52.8%)が貸与制の奨学金や教育ローンによる返済債務を抱えており、その平均額は318万8,000円で、1,000万円を越える人が11名もいます。こうやって、修習生が現実に多額の負債を背負っている実態、しかも、相談件数・事件数・裁判件数等々が伸び悩み、むしろ収縮傾向さえ顕著になるなど弁護士の業務基盤が伸び悩み、また、司法全体の容量の拡大も期待したところにはほど遠い状況下にあって、昨今の司法修習生が厳しい就職難にさらされている現実などを思うと、心が痛みます。  今後は、このうえ更に、給費制の廃止によって司法修習の1年間のために約300万円もの借金の上積みを余儀なくされるであろう人が相当割合に及ぶことを思うと、到底、事態を看過することはできません。  このままでは、合格率の逓減等によりただでさえ司法試験を目指す人が激減しているなか、給費制の廃止は、経済的に余裕のある人しか法曹を目指さないような社会を招きかねません。これでは、経済的に困難にある人も含めて、多様な人材を法曹界に迎え入れることを目指した司法改革の理念に反します。給費制の廃止は、司法を支える法曹全体の変質をも来しかねない、極めてゆゆしき事態なのです。  日弁連の会長に就任した宇都宮健児さんは、永年、多重債務問題、貧困問題等に取り組んできた市民派の弁護士らしく、市民の理解を得て、市民を味方にした闘いを展開してその中に勝機を見いだすとの強い決意で、司法修習費用給費制維持緊急対策本部を設置しました(4月15日の日弁連理事会)。早速、翌日の毎日新聞(朝刊)では、「金持ちしか法律家になれない?」「修習生 無給 あんまり」との見出しで、6段抜き記事で大きく取り上げました。  当会執行部としても、やっぱり最後まであきらめてはいけないとの思いを強くし、日弁連の対策本部と呼応しつつ、5月の連休中にも臨時の執行部会議を開くなどしながら、急ぎ対応を検討・準備しました。そして、5月14日の常議員会で、当会「司法修習費用給費制維持緊急対策本部」の設置が承認されたことを受けて、早速、冒頭のビラ配り等の行動に臨んだ次第です。  緊急対策本部には、60期~62期生の全員に加わって頂く等、会を挙げての取り組みとなります。5月25日の当会定期総会では、給費制の維持に向けた緊急決議を、昨年総会に引き続き、採択して頂く予定です。7月31日(土)午後3時からの市民集会(福岡市中央区の中央市民センター)には、宇都宮日弁連会長も出席します。そして、ビラ配り・署名集めなど街頭行動や、関係諸団体への協力要請、国会議員要請等々に取り組みます。9月に見込まれる参院選後の臨時国会での法改正を目指します。当会の緊急対策本部の実質責任者である本部長代行は、市民運動でならした羽田野節夫会員(司法修習委員長)です。  すでに、地元新聞でも給費制廃止の問題状況を「司法修習生「返済」ムリ」「給与廃止、11月から貸付制」「奨学金と二重苦に」などの大きな見出し、9段抜きの記事で大きく取り上げるなど(西日本新聞5月10日夕刊)、マスコミも、この問題が司法制度のありようや市民にとっても大変重要な問題であることについて、かなり理解が進みつつあります。  給費制問題は、市民のため、司法制度を守るための戦いです。最後まであきらめない!との弁護士の本領を発揮して、皆さんとともに戦いましょう。 「新人ゼミ」  今月(5月)から、新人ゼミ(正式名称は「新規登録弁護士研修支援者制度」)が始まりました。新規登録後1年以内の会員(本年度は62期生)を対象に、毎月1回(4月以降(今年は5月以降)12月まで、小分けした班単位でのゼミを開くというものです。新人研修プログラムの新メニューで、必修科目になります。新人を10人以内程度に班分けをして(福岡に5班、北九州・筑後・飯塚に各1班)、各班には、執行部や司法修習担当などの経験のある会員から講師が2名、研修委員会から幹事役の会員を1名が張り付けます。テキストには「即時(早期)独立開業マニュアル・Q&A集福岡版」「新規登録弁護士のための民事弁護実務ハンドブック」「弁護士懲戒議決事例集」を原則として使用して、1時間を講義、1時間を質疑応答や討議などにあてます。また、ゼミ終了後には懇親会(任意参加)を開きます。新たに創設された主任指導弁護士制度とも相まって、新人研修の実をあげようというものです。 司法改革による新しい法曹養成制度のもとでは、司法修習期間が1年に短縮されており、前期修習もありません。新人の質の向上を課題として指摘する声も根強くあります。しかも、司法試験の大量合格を受けて、当会でも沢山の新人を迎え入れています(当会の60期~62期の会員は合計191名)が、修習生の就職活動は困難を極め、タク弁(ソク独)、ノキ弁など、弁護士登録後も以前のように先輩弁護士の指導を十分に受けながら育っていくという環境は急速に変容しつつあります。新人弁護士に対する指導・支援や研修は、全国の弁護士会に共通する目下の重要課題です。決して大げさではなく、新人弁護士をキチッとフォローして皆で育ててゆくということは、わが弁護士制度・弁護士自治を堅守するための、大切な取り組みにほかならないのです。  会員の皆さまのご理解を頂きますとともに、ゼミの講師・幹事役の会員各位には大変なご苦労をお掛けしますが、どうかよろしくお願いします。 裁判員制度1年  昨年5月21日に施行された裁判員制度が1年を迎えます。会員の皆さまの精力的なお取り組みのおかげで、おおむね順調に推移していると理解しております。もちろん、実務的な諸課題も見えてきております。その中身は、紙幅の都合上、別稿(「会長談話」)などに譲らせて頂きます。

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