福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2009年6月 2日

すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言

宣言

すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言

1 県下において深刻化する貧困と社会不安の増大
現在,我国においては,解雇が急増して雇用不安が深刻化するとともに,非正規雇用労働者・母子・高齢者・障害者家庭等の貧困の拡大と生活の窮乏化が進行している。一方,これを補うべき社会保障分野のセーフティネットも崩壊状況にあり,極めて深刻な社会不安が広がっている。
この福岡県内においても事態はたいへんに深刻である。
生活保護行政については,行政による違法な窓口規制によって生活保護を利用できるはずの人が申請に行っても追い返されている実態があり,北九州市においては生活保護から排除された市民が餓死・孤独死するという事件も発生している。
派遣労働者,パートタイマー,アルバイトなどの非正規雇用労働者の多くは,まじめに働いても低賃金のため生活費をまかなうことができず,サラ金などから借金して多重債務者となり,或いは失職して住居を喪失する人も少なくない。福岡県内のホームレスの数も全国で最も増加している。
また,当会が本年3月9日に実施した「生活保護・派遣切り110番」においても,不当な生活保護行政と派遣切りによって多くの県民が苦しんでいる実態が明らかとなった。

2 憲法が保障するすべての人が人間らしく尊厳をもって生きる権利は危機的状況にある
憲法は,個人の尊厳原理に立脚し,幸福追求権について最大の尊重を求め(13条),法の下の平等を定め(14条),勤労の権利(27条)や教育を受ける権利(26条)を保障している。これらの規定によれば,憲法は,すべての人に,公正かつ良好な労働条件のもとで,人間らしく働き,生きる権利を保障している。
さらに憲法25条は,「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定め,「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなれければならない」と定めている。
しかし,前述した貧困と生活窮乏の実態は,これら憲法が保障しているすべての人が人間らしく尊厳をもって生きる権利が危機的な状況にあることを示しており,これらの解決を図ることは,我国の社会において緊急の課題というべきである。

3 当会における緊急対策本部等の設置と取り組み
前述の情勢は,「基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする」弁護士と弁護士会が,すべての人の人間としての尊厳をもって生きる権利を擁護し支援する活動を緊急に展開することを求めている。
当会は,今般,日本国憲法の原理と弁護士法上の使命に鑑み,弁護士・弁護士会として行うべき緊急の取り組みを具体化するため,この問題に関連する各委員会の協議をへて,「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を立ち上げた。また,司法制度委員会の中に労働法制部会を設置して労働者派遣法の抜本改正等あるべき労働法制の調査研究を進め必要な提言を行うこととした。
緊急対策本部においては,生活保護受給を求める申請代理人の活動や違法な派遣切りや雇い止めの是正を求める労働局に対する申告代理人の活動,その他,生存権,労働権を擁護し支援するための各種法律相談活動を担当する支援当番弁護士等による法的緊急支援サービスに取組み,社会的セーフティ・ネットを再構築するために,当会としてできうる限りの活動を推進することをここに宣言する。

4 国・地方自治体及び市民に対する呼びかけ
すべての人の尊厳と生存権を確保するために,国と地方自治体が果たすべき役割と責任は大きいものがある。そこで当会は国・地方自治体に対し,以下の諸方策を実施するよう強く求めるとともに,併せて,広く市民に対して,日本国憲法の理念にたって,真に人の尊厳を基調とする社会に転換するためにともに手を取り合って努力することを呼びかけるものである。
(1) 国は,非正規雇用の増大に歯止めをかけワーキングプアを解消するために,労働法制と労働政策を抜本的に見直すこと。特に労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。
(2) 国と都道府県は,全ての勤労者が人間らしく文化的な生活を営むことのできるように最低賃金を引き上げること。併せて失業者政策を抜本的に強化すること。
(3) 国及び地方自治体は,社会保障費の抑制方針を改め,また,ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように,社会保障制度の抜本的改善を図り,セーフティネットを強化すること。
(4) 国及び地方自治体は,中小企業対策を緊急に行い,中小企業における経営と雇用の維持に対する支援を強化すること。
(5) 国は,障害者自立支援法について,応益負担制度を廃止するとともに,障害程度区分制度を障害者の自己決定権に最大限配慮し障害者のニーズに応じて必要なサービスを受給できるような内容に改めることを柱として抜本的な改正を行うこと。
   
                      2009年(平成21年)5月25日 
                      福岡県弁護士会定期総会


              宣言の理由

第1 拡大し深刻化する貧困とセーフティネットの崩壊
1 貧困と格差の存在
従前から,我国には深刻な格差と貧困の問題が存在してきた。たとえば,貯蓄なしの世帯は,1990年代後半から急増し,2人以上世帯では約2割,単身世帯では約3割に達していた(金融広報中央委員会2007年家計の金融行動に関する世論調査)。国民健康保険の保険料滞納世帯も増加し,保険証を使えない「無保険者」も2007年(平成19年)には34万世帯となっている。また,生活保護利用世帯は112万世帯,生活保護利用者は156万人と(厚生労働省福祉行政報告例2008年4月分),10年間で46万世帯,61万人が増加している。貧困が拡大する中で,わが国の自殺者数は,1998年(平成10年)から10年連続で3万人を超え,2007年(平成19年)の約3万3000人のうち7300人が経済苦を理由としていることが明らかになっている(警察庁2008年6月発表)。
この福岡県内においても事態はたいへんに深刻である。生活保護行政については,行政による違法な窓口規制によって生活保護を利用できるはずの人が申請に行っても追い返されている実態がある。北九州市においては生活保護から排除された市民が餓死・孤独死するという事件も発生している。派遣労働者,パートタイマー,アルバイトなどの非正規雇用労働者は,まじめに働いても低賃金のため生活費をまかなうことができず,サラ金などから借金して多重債務者となっている人も多く存在している。2007年(平成19年)の厚生労働省の調査によると,福岡県内のホームレスの数は1117名にも及んでおり,全国で最も増加している。
また,当会が本年3月9日に実施した「生活保護・派遣切り110番」では,1日で68件の相談が寄せられ,不当な生活保護行政と派遣切りによって多くの県民が苦しんでいる実態が明らかとなった。
2 大量のワーキングプアを生み出した労働法制の規制緩和
 我国においては,もともと多くの女性労働者がパート労働者として不安定かつ低賃金労働に従事してきており,特に,母子家庭のワーキングプア問題は従来から深刻な問題であった。このような従来からのワーキングプア層に加え,1990年代後半以降「ネットカフェ難民」の出現などに象徴されるように新たにワーキングプアに落ち込む人々が急増した背景には相次いだ労働法制の規制緩和がある。
1999年(平成11年)「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(以下「労働者派遣法」という。)が改正されて派遣対象業務が原則自由化され,さらに2003年(平成15年)改正により製造業務にまで拡大された。労働基準法についても従前1年とされていた有期雇用の契約期間の上限が1998年(平成10年)改正に続く2003年(平成15年)改正により原則上限が3年,特例上限が5年に緩和され,「有期雇用契約」による不安定雇用も増加した。
こうした法改正の結果,非正規労働者は,1890万人に及び全雇用労働者数に占める割合は,1992年(平成4年)の21.6%から今や35.5%と過去最高に達した。(総務省2007年就業構造基本調査)。非正規労働者の平均現金給与月額は20万9800円と正規労働者の6割で,特別給与を考慮すると5割の水準にとどまる(厚生労働省2007年賃金構造基本統計調査)。年収200万円以下で働く民間企業の労働者が,2006年(平成18年)には1000万人を超え1023万人にまで増加した(国税庁2006年分民間給与実態統計調査)。勤労世帯(就業中のほか,求職中の世帯を含む。)中,生活保護基準以下の生活を営んでいる貧困世帯の数及び割合は,1997年(平成9年)の458万世帯(12.8%)から2007年(平成19年)には675万世帯(19%)に増加している(総務省就業構造基本調査に基づく後藤道夫都留文科大学教授による分析)。
3,社会不安を顕在化させたセーフティネットの崩壊
 このような中,昨年のアメリカの金融危機に端を発した急激かつ深刻な世界同時不況の波が襲っている。これにより派遣労働者或いはパート・アルバイト等の非正規雇用労働者に対する派遣打ち切り,雇止,解雇等が急増して,雇用不安が一気に強まり,非正規雇用労働者,母子家庭,高齢者障害者等,いわゆる社会的弱者を中心に我国における貧困の問題が一挙に顕在化して,その深刻さの度合いを著しく強めている。
1990年代を通じて実施されてきた規制緩和を軸とした構造改革政策は,一方において日本型雇用の解体や非正規雇用を増大させることによって社会保障への需要を大きく増加させながら,他方において,社会保障そのものを大リストラの対象とし,雇用保険の給付削減,児童扶養手当の縮減等の給付削減や負担増,医療費の国庫負担の削減などによる社会保障費の系統的な抑制を進めてきた。その結果,「介護崩壊」「医療崩壊」等という言葉が飛び交うほどにわが国の社会生活上のセーフティネットは崩壊の危機に直面しており,社会保障の機能不全は極めて深刻な事態にある。
そうした中で失業等による勤労収入の低下が生活の崩壊に直結し,生存権が侵害されるという構造が作られているのである。

第2 憲法が保障する人間らしく働き生きる権利はいま危機的な状況にある
 憲法13条は,個人の尊厳原理に立脚し,幸福追求権について最大の尊重を求めている。また,憲法25条は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障し,この生存権の保障を基本理念として,憲法27条の勤労の権利及び28条の労働基本権は,勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち,勤労の権利及び勤労条件を保障し,経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段として労働基本権を保障している。また,憲法14条は法の下の平等を定めているのであって,結局,憲法は,すべての人に,公正かつ良好な労働条件を享受しつつ人間らしく働き,かつ生活する権利を保障しているというべきである。
しかしながら,前述のとおり,雇用における規制緩和の過度の進展と社会保障制度の大幅な後退という事態が進み,更に,世界同時不況という状況の中で非正規雇用労働者を中心に雇用不安が極めて深刻な状況となっており,これに伴って正にその日の生活も,あるいは明日の命自体が脅かされるという現実が生じている。本来憲法が保障しているすべての人が人間らしく働き生きる権利は極めて危機的な状況に置かれており,ひいては人間の尊厳が脅かされる事態となっていると言わざるを得ない。この状況の解決を図ることは,我国の社会において緊急の課題である。

第3 生存権の擁護と支援のための緊急対策の促進とセーフティネット再構築のよびかけ
1、当会の取り組み
当会は,従前より生活保護問題対策委員会を設置して,生活保護問題を中心に取り組みを進めてきた。本年3月には,生活保護申請等に関して相談活動窓口を設け,当番弁護士の社会保障版との報道もなされた。しかし,前述のような状況に鑑みるとき,単に生活保護の局面のみにとどまらない,労働法制や社会保障制度などをも視野に入れた幅広い総合的な取り組みが是非とも不可欠であるとの認識に立って,この間,当会は,憲法委員会,生活保護問題対策委員会,消費者委員会,高齢者・障害者委員会,精神保健委員会,個別労働紛争問題PT,人権擁護委員会,多重債務者救済本部,両性の平等に関する委員会,子どもの権利委員会及び行政問題委員会など,これらの問題に関連する各委員会において協議を進めてきた。
そして今般,弁護士会及び弁護士として行うべき緊急の取り組みを具体化して今回の深刻な不況と国民生活の窮乏化に多面的かつ総合的に対処するために,当会会長を本部長とする「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を立ち上げることとした。また司法制度委員会の中に労働法制部会を設置し,現在のワーキングプアを生み出してきた主要な法制度である労働者派遣法の抜本的改正を始め,あるべき労働法制を調査研究し必要な提言を行うこととした。
これらによって,今後,生活保護受給権などの権利行使の支援(申請代理人活動)や労働局に対して違法行為の是正を求める申告等の支援(申告代理人活動)など生存権や労働権を擁護し支援する活動に当たる支援当番弁護士による法的緊急支援サービスなどに取組み,また,これらの取組を通じて,社会的セーフティネットの再構築のため,そして貧困と格差の社会を人の尊厳と生存権がまもられる社会へと変えていくために,当会としてできうる限りの活動を推進することを決意した。
2,国・地方自治体及び市民に対する呼びかけ
 もとより,当会及び当会に所属する弁護士のみの力でこの重大な問題を解決するのに十分でないことは明らかである。
そこで当会は,当会としてできうる限りの活動を推進することは言うまでもないが,併せて,憲法上の重大な責務を有している国・地方自治体に対して雇用や社会保障制度などに関して本来行政に課された諸方策を直ちに実施することを強く求めたい。とりわけ,以下に挙げる緊急の課題については,速やかに必要な措置が講じられるべきである。
1)国は,正規雇用が原則であり,有期雇用を含む非正規雇用は合理的理由がある例外的場合に限定されるべきであるとの観点に立って,労働法制と労働政策を抜本的に見直すべきである。また,不安定雇用をもたらす主要な原因となっている労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。
2)2007年(平成19年)最低賃金法改正により考慮事項として「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護にかかる施策との整合性に配慮するものとする」(同法9条3項)とされた。それにもかかわらず,我国の最低賃金は,主要先進国中でも最低のレベルにあり,大幅な引上げがなければ現行水準のままでは労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができない。よって,国は,すべての人が人間らしい生活を営むことのできる水準に,最低賃金を大幅に引き上げるよう施策を講ずるべきである。また,国と都道府県は,失業者政策を抜本的に強化するべきである。
3)社会保障費の抑制を止め,社会保障制度の抜本的な改善を図るべきである。すなわち,ワーキングプアが増大する中で,本来,社会保障施策に注力すべきところ,現行の政策はそれに全く逆行し,憲法の保障する健康で文化的な生活の保障を脅かすものであるから,社会保障費の抑制を止めるべきである。また,ホームレスの人を含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように,社会保険制度の見直しや生活保護制度を利用しやすくすることなどを含め,抜本的なセーフティネットの強化を図るべきである。
4)今日の厳しい経済状況の中においては,単に労働者のみならず中小企業も当然に極めて厳しい経営環境に置かれていることはいうまでもない。したがって,国及び地方自治体は,中小企業への対策を緊急に行い,中小企業における経営とそこで働く労働者の雇用の維持に対して支援を強化することが強く求められる。
5)更には,障害者に対する社会保障政策も抜本的に改められるべきである。もとより,障害者が国家に対して福祉サービスを請求する権利は憲法によって保障された人権として位置づけられるべきものである。しかし,現行の障害者自立支援法は,障害者の福祉サービス需給に関する権利を侵害ないし不当に制限する危険性を有している。ついては,国は,障害者自立支援法について,応益負担制度を廃止するとともに,障害程度区分制度を障害者の自己決定権に最大限配慮し障害者のニーズに応じて必要なサービスを受給できるような内容に改めることを柱として抜本的な改正を行うべきである。

 そしてまた,当会は,このように行政に対して強く要請するとともに,広く市民に対して,真に人間の尊厳を基調とする社会に転換するために共同の努力を進めることを呼びかけるものである。
3、結語
以上の内容を福岡県弁護士会の総意として確認するために,本定期総会において「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を採択し,ここに宣言するものである。
                              以上

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2009年6月 4日

消費者庁関連法成立に関する会長声明

声明

 2009年(平成21年)5月29日,消費者庁及び消費者委員会設置法,並びに同法関連法案が参議院本会議において全会一致で可決成立しました。
 これらの法律は,これまでの産業育成の行政から消費者のための行政に大きく転換し,また従来の縦割り行政を打破して,消費者行政全般を司る司令塔としての役割を果たす消費者庁を設置するものです。しかも,当初の政府案に対し,衆議院での超党派の修正により,内閣府に独自の組織として消費者委員会が設置され,その独立と権限が強化されています。
 この消費者庁及び消費者委員会は,国の仕組みの変革の基点となるものであり,このような極めて重要な国の組織変更を超党派の合意により断行したことは極めて画期的なことであり,高く評価します。
 当会は,2008年(平成20年)6月18日に強力な消費者行政を一元的に担う組織を造ること,地方消費者行政をより充実させること,違法収益のはく奪等に関する実効的な法制度を導入すること等を求める「消費者行政の一元化と地方の相談体制強化を求める会長声明」を発表しています。今回,会長声明で求めた事項につき,その実現に向けた大きな第一歩が踏み出されたことは,繰り返されてきた消費者被害の防止と救済のための大きな前進であって,心より歓迎します。
 同時に,当会は,消費者庁及び消費者委員会設置法の附則並びに衆議院と参議院の附帯決議で,今後の検討課題とされた、地方消費者行政の充実のために多くの弁護士が相談員の方々とともによりよい解決に向けて努力すること,市民の手による消費者被害の防止のための重要な制度である適格消費者団体の福岡県での設立を支援すること,悪質業者が得ている違法な利益を被害者に回復させることなどの課題について,消費者の権利擁護の立場から積極的に努力を続けていく所存です。


2009年(平成21年)6月4日
福岡県弁護士会
会 長  池永 満

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2009年6月19日

福岡県弁護士会会長日記

会長日記

福岡県弁護士会会長日記
その1 予定者から会長就任10日間まで

平成21年度 会 長
池 永  満(29期)

はじめに
月報原稿〆切の関係上、「会長就任挨拶」を掲載していただいているはずの4月号月報も未だ手にしていないのに、早くも5月号掲載予定の原稿を提出しなければならないということで、何を、どのように書くべきものか、いささか戸惑いがあります。(ちなみに、この原稿の締切日は4月10日)
しかし、せっかく貴重な紙面を使わせていただけるのですから、会員の皆さんがこの記事を読まれる段階では事態が進行し時期遅れになっているかも知れませんが、これから1年、皆さんの協力をいただきながら円滑な会務運営をすすめていくためにも、会長としての日々の行動や思いを率直に語らせていただく形で「会長日記」を綴っていきたいと思います。

重点課題の設定作業と役員就任挨拶回り日程の調整
私が会長立候補を決断した直後に田邉前会長から聞いたことは、3月下旬から4月中旬にかけて行われる役員就任挨拶回りが大変過重であり、5月の県弁総会にむけて弁護士会としての基本方針の策定や予算組み等に十分な時間と力を割くことが出来なかったということでした。
そこで私たちは無投票当選確定直後の2月9日(月曜日)から毎週1回正副会長予定者による定例会議(4月からは執行部会議に移行)を行うこととし、前執行部からの引継を受けての合宿(2月28日)や各委員会委員長や次期予定者からの重点課題等に関する意見聴取等の集約を進めて、4月4日の第1回常議員会には重点課題に関する執行部の「所信表明」を提出することができました。
また、重点課題の具体化を検討していただくための関連委員会協議会や担当委員会の対応体制強化等について協議する日程を確保するために、就任挨拶回り日程を大胆に調整し、法科大学院や北九州司法記者クラブなど今年度新たに追加した6団体を加えても前年度から半減(約180を90に)させることにしました。削減の基準としては、・県レベルのものを基本とし、市区レベルのものについては拠点に限り、それ以外は各部会での挨拶回りをお願いする。・就任挨拶目的に限定し、提携業務等の依頼については担当副会長において別途そのための訪問等を行うことにする、というものです。
ゆとりを持った訪問日程にしたため、相手方にあわせて当方で検討中の重点課題について紹介することが出来、相手方からも弁護士会活動に対する多様な意見をお聞きできて良かったと思います。まだ後1日分の日程が残っていますが、それほど疲労感もなく就任挨拶回りを終えることが出来そうです。但し、就任挨拶では失礼した相手方に対する今後のフォローについては忘れないようにしたいと思います。
なお、就任挨拶回りに併行して、弁護士会館や地域における弁護士会の顔である相談センター職員との懇親会を設定し、また各地の相談センターも全て訪問することにしました。そこで浮かび上がった設備上の課題等の改善に関して相談センター運営委員会や各部会での検討依頼を行いました。

委員委嘱を巡る苦行の遂行
私は立候補にあたり、多重会務を解消し「全員野球の弁護士会」をつくりたいと所信を表明しました。
その所信を実行するために、委員委嘱に関しては本人希望と委員長推薦を基本とするが多重会務になる場合には本人希望を優先して調整すること、仮に希望を出さない場合でも1つ以上の委嘱はおこなうこと、従って多くの会員の皆さんに希望調査票を提出していただくために前執行部に無理なお願いをして第2次希望調査表の配布を行ってもらい、その際には希望調査の対象委員会も可能な限り拡大いたしました。 
そうした方針に関しては、前執行部が招集して2月16日に開催された委員長会議においても表明し、委員会が必要な人材については是非本人から希望調査票が提出されるよう手配いただきたいとお願いしました。
委員長会議においては、委員会の必要な人材については委嘱してほしいと言う委員長としては当然の意見も多く出されましたが、会員数が急速に拡大している今こそ多重会務を解消するチャンスだとか、それが実現すれば画期的なことだと思うとして、私の方針の成否を見守ろうとする意見も出されました。私はこの声に勇気百倍の思いでした。多重会務をなくす努力は過去の執行部においても何度か試みられましたが、年々委員会の縦割りが進行し執行部自身が新たに発生した課題に対応するために新委員会やPTを立ち上げざるを得ないということから多重会務者をみずから生み出していくという悪循環から脱出する試みは、挫折の歴史でもありました。
予定者会議でも数度にわたり議論を重ね、今年度においては新たな課題が発生しても安易に新委員会やPTは立ち上げず、既存の委員会や関連委員会の協議により対応すること、むしろ委員会の統廃合を進めて力の結集をはかること等を組織的な重点課題の一つとして取り組むことを確認した上で、前述の委嘱方針にもとづいて相島業務事務局長の大変な作業に依拠しながら委員委嘱作業を進めました。
変化をもたらそうとする以上は色んなリアクションが予想される中で、会長として最終責任を取るためにも私自身がこの作業に全面的に関わることにしました。その副産物と言っては何ですが、それぞれの委員会活動を支えている構造とその特徴や力持ちの配置状況などが会務から遠ざかっていた私の頭にもよく入り、また多重会務の会員とも直接話をすることが出来ました。各部会による県弁委員会に対するスタンスの違いもわかりました。この作業も明日あさっての週末で基本的に完了します。この作業を通じて得たデータや執行部としての認識、出された色んなご意見等を含めて委員長会議や機構財務委員会等にも資料提供し、数年後には1,000名規模になろうとしている公法人としての弁護士会活動における継続性の担保の仕方や委員会活動における世代交替や活性化、委員会の統廃合などをテーマにした会内議論を本格的に進めていきたいと思います。

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2009年6月26日

海賊対処法に反対する会長声明

声明

海賊対処法に反対する会長声明

1 今国会に上程されていた「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案は,6月19日,参議院で否決されたにもかかわらず,同日,衆議院の特別多数決で再可決するという形で成立した。しかし,同法は,以下に述べるとおり,日本国憲法に違反するおそれが極めて強いものである。したがって,当会はこの法律の制定に強い遺憾の意を表明するものである。
                       記
① 自衛隊の海外活動に関する憲法上の制約への違反
同法は,海上保安庁が海賊行為へ対処することに加えて,自衛隊が海賊対処行動を行うことや一定の場合に自衛官が武器を使用することができる旨を規定する一方,その活動地域や保護対象となる船舶について何らの限定も加えていない。しかも,同法は緊急な事態に対処する特別措置法ではなく,恒久的な対応法として位置づけられている。しがたって,同法によれば,自衛隊が,領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項)を大きく超えた全世界の公海上で,全ての国籍の船舶に対する海賊行為に対処し,一定の場合には武器使用まで行うことを可能にすることになる。
しかしながら,日本国憲法は,恒久平和主義の精神に立ち,その第9条は武力による威嚇又は武力の行使を放棄し一切の戦力不保持,戦争放棄を宣言しているのであるから,本来,自衛隊の海外活動については,憲法上大きな制約が課されていると解されるところであり,同法はこの憲法上の重大な制約に違反するおそれが極めて大きい。
② 恣意的な武器使用につながる危険が大きいこと
しかも,同法では,自衛官が船体射撃(海賊船の機関部をめがけての射撃)や危害射撃(人に危害を与える射撃)を行う要件が,「他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由」(同法6条)など,きわめて曖昧な規定内容となっているため,恣意的な判断の下に安易な武器使用がなされる危険性を否定できない。このような権限を自衛官に与えることは,一切の武力行使を禁止した憲法9条に違反するおそれが極めて大きい。
③ 民主的統制の観点からも重大な問題が存すること
さらに,同法は,自衛隊の海賊対処行動の判断は,内閣総理大臣の承認のもと防衛大臣が行うものとし,内閣総理大臣は国会に事後的な報告をすれば足りると規定しており,国会は承認機関ですらない。そして,海賊対処行動が急を要する場合には,内閣総理大臣の承認すら不要としている。このように同法は,海賊対処行動の権限を防衛大臣に集中させた内容となっており,民主的統制の観点からも重大な問題を有すると言わざるを得ない。
2 結論
現に海賊行為が行われているソマリア沖の問題を解決するために我国を含めた国際協力が必要であることは言うまでもない。しかしながら,武力を放棄し恒久平和主義を宣言した日本国憲法を有する我が国がとるべき国際協力の方法は,自衛隊の海外派遣という手段ではなく,無政府状態を原因とする貧困状態の解消に向けた支援活動など非軍事的国際協力によるべきである。したがって,海賊対処法は執行することなく,速やかにその廃止の手続きが執られるべきである。
以上

2009年6月25日
福岡県弁護士会 会長 池 永  満

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