福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2007年7月24日

監視社会を招かないためのルール確立を求める宣言

宣言

1 今、全国各地で、治安悪化対策を理由に生活安全条例が制定され、監視カメラの設置がすすめられている。
しかし、犯罪防止は、貧困や差別など犯罪の根本原因を取り除くための福祉施策の充実も含め、総合的な防止策を多角的に検討すべきであり、市民に対する監視の強化が有効な手段であるかは甚だ疑問である。
かえって、警察等による市民監視や不透明な個人情報の収集・利用は、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会を支える言論・表現の自由に対する重大な萎縮効果をもたらす危険がある。
そもそも、犯罪検挙のための警察権の行使であれば、対象者の人権を制約するものであるから、犯罪の発生を待って、具体的犯罪の嫌疑に比例した限度でしか許されないというのが原則であり、基本的人権を制圧する捜査手段は、法令の根拠を必要とし、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。
犯罪防止のための監視が一定の場合に許されるとしても、具体的にその場所で起こり得る犯罪の軽重や蓋然性を度外視し、抽象的な「安全」や、単なる主観にすぎない「安心感」のために人権を制約することまで許されているのではない。
従って、警察や自治体は、防犯対策を図るうえで、必要最小限度を超えて個人の自由を侵害することのないよう万全を期すべき義務があり、警察や行政機関が、適正な手続に基づかず個人情報の収集・利用をしないための措置をとる必要がある。

2 福岡市の場合、本年度中に中洲地区に設置されようとしている監視カメラの設置・運用は極めて不透明である。
  監視カメラの設置を承認した中洲地区安全安心まちづくり協議会には、博多警察署長が副会長、県警の担当者3名が会員として参加し、福岡市は、同協議会の事務局を務め、自ら600万円を支出する予定であるのに、福岡県弁護士会人権擁護委員会の聴き取りに対しては「中洲地区における犯罪率等のデータは持っていない。監視カメラの詳細は設置主体である商店街に聞いてほしい。」等と回答しており、公金を支出する自治体としての説明責任を果たしていない。
 また、福岡市の上川端商店街(調査当時)に設置された監視カメラにおいては、警察が要請して頻繁に監視カメラのビデオ画像を取得していたという経過がある。
  警察自身による監視カメラの設置の場合は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷ビデオカメラ判決(東京高判昭63.4.1)、西成ビデオカメラ判決(大阪地判平6.4.27)など、令状主義を重視する判決があり、これらの判決によれば、?犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、?証拠保全の必要性・緊急性、?手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
警察自身の設置ではない場合でも、市民の自由が確保されるべき公道に設置する監視カメラは、真にその場所における犯罪を防止する必要性が認められ、かつこれにより侵害される通行人の人権よりも上回る利益が得られる場合に限られるべきである。
 従って、そのような監視カメラの設置に関する基準をはじめ、捜査機関に自由に情報が提供されないよう、適正な手続きを定めてプライバシー権を保障する条例の制定が必要不可欠である。

3 以上の観点から、当会は、警察や自治体等に対し、防犯対策等の策定にあたり、以下の事項に留意するよう提言する。
(1) 防犯対策等の策定にあたっては、制圧される人権の侵害を必要最小限度にするため万全の対策を行うべきである。
(2) 警察や自治体が、直接・間接に市民情報を網羅的に取得したり、取得した情報を統合するなどして、市民生活を監視することを防止するため、条例により、警察や自治体から独立した個人情報保護機関を設置し、同機関に警察や自治体の個人情報の収集・利用のあり方をチェックする権限を付与すべきである。
(3) 公道への監視カメラの設置・運用には、警察が関与すべきではない。
  警察が、監視カメラを設置している団体に対して任意に情報提供を求めうる範囲は、少なくともそこで起こった犯罪に限定し、その他の場所で起こった犯罪のための情報は、令状に基づいて取得されるべきである。
(4) 福岡市は、監視カメラの設置・運用等に関し、適正手続やプライバシー権に十分配慮した条例を定めることなく、街頭への防犯カメラの設置・運用を自ら行ったり公金を支出すべきではない。

  以上、宣言する。

   2007年7月21日
    福岡県弁護士会
   九州弁護士会連合会

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