福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2006年10月25日

筑前町の中学生いじめ自殺事件の実名報道に対する会長談話

会長談話

2006年10月25日

福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫


 株式会社新潮社は,10月19日発売の「週刊新潮」において,福岡県筑前町の中学生いじめ自殺事件について,自殺した子どもの実名を挙げて報道した。

 しかし,自殺した子どもについての実名報道は,遺族の明示した意思に反して行われ,かつ,その報道内容からすると実名報道する必要性は全く認められず,さらには,興味本位で子どもの名誉に対する配慮を欠くものであって,子どもや遺族の名誉・プライバシーを著しく侵害するおそれがあると言わざるを得ない。

 そもそも自殺した子どもの実名は,その遺族を含め,極めて私的な生活に関わる事項であり,プライバシーとして十分に保護されるべき性質のものであって,それが報道されたときには,報道された者の私生活の平穏が害されることは甚だしいと言わざるを得ず,遺族の承諾なく報道することは原則として許されないものである。
 もとより報道の自由は尊重されなければならないが,それは公共性・公益性のある事項について,市民の知る権利に奉仕することから認められるものである。本件において,自殺した子どもを実名報道することに公共性・公益性があるとは到底言えず,報道の自由の名のもとに実名報道をすることが正当化されるものではない。

 我が国が1994年に批准した国連子どもの権利条約16条には,いかなる児童も,その私生活等に対して,不法に干渉されない権利を有すると規定されており,こうした国際社会の普遍的な原則にも抵触する重大な問題である。

 ところで,新潮社は,過去における犯罪少年の報道に関しても実名報道をくり返し行い,その都度,日弁連や法務省人権擁護局から人権侵害のおそれ等を指摘されていた。加えて,今回いわば被害者としての立場にある自殺した子どもの実名まで,その遺族の意思に反して報道するにいたっては,報道される者に対する配慮を著しく欠くものであって,その報道姿勢については強く批判せざるを得ない。

 以上の観点から,当会は,新潮社に対し,速やかに被害回復のための是正措置を求めるとともに,マスメディア全体に対し,人権に対する配慮を欠いた報道を行わないことを強く要望するものである。

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