福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2006年9月 1日

例外なき金利規制を政府に強く求める会長声明

声明

平成18年9月1日

福岡県弁護士会 会長 羽 田 野 節 夫

多様な現在の貧困の原因のうち,高金利が貧困問題の重大な原因であることがかねてから指摘されていた。すなわち,1962年に米国で発表された消費者利益保護に関するケネディ教書において,「消費者の所得を増加させようと努力するよりも,同じ努力をするのならば,消費者の所得をできるかぎり有効に使う努力の方が,多くの家庭の福祉の増進に大きく寄与することができる」とされているとおり,消費者の利益を保護するためには,家計にとって完全な冗費である高金利の支払いを許容し続けるべきではない。ところが,我が国は,未だ高金利を認めているために,2000万人にも及ぶサラ金・クレジット利用者の日々の生活・生存が危機に直面し、経済苦を理由とする自殺者が年間8000人とも言われる事態にあること,国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障すべき生活保護行政においても,高金利を原因とする多重債務問題が大きな問題を投げかけていることを認識できる。
政府与党は、平成18年7月6日、「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」をまとめたが、その内容は、少額短期の貸付や事業者に対する貸付につき特例金利を認める余地を残しているなど、未だ極めて不十分な内容であると言わざるを得ない。
その後金融庁は、貸付金利の上限を引き下げるのに併せ、少額短期の貸し付けについては、上限金利の上乗せを認める方向で検討に入ったと報道されている。当会は、断固としてこれに反対し、改めて社会的・経済的弱者の生存権の保障・救済という観点に立ち、以下の内容を含む例外なき金利規制を政府に強く求めるとともに、今後、多重債務問題に苦しむ市民を行政・司法といった枠にとらわれず,できるだけ広く救済していくために最大限の努力を尽くすことを誓い、ここに声明する。

1.出資法の上限金利年29.2%を、利息制限法で定める年15%から20%の制限金利まで引き下げること。
2.貸金業の規制等に関する法律第43条(みなし弁済)を撤廃すること。
3.「日賦貸金業者及び電話担保金融に対する特例金利」を直ちに廃止すること。
4.少額短期の貸付や事業者に対する貸付も含め全ての貸付について特例金利を認めないこと。
5.保証料・振込手数料については、利息概念に含めること。

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2006年9月12日

福岡県弁会長日記〜6月中旬から7月中旬の会務活動

会長日記

会 長  羽田野 節 夫

1.6月中旬より、第60期司法修習生を迎えて!
 去る6月23日、第60期司法修習生(103人の修習生合同開始式が開催された。
 従来60人位だった修習生がついに100人の大台を超えた。
 福岡地裁簑田所長、福岡地検絹川検事正についで、福岡県弁会長として概略次のような話をした。

(1) 諸君のこれからの1年数ヶ月は、まさに実務修習という習いごとをする時期である。
 習いごとと言えば、世阿弥が開いた「能」という芸能の世界で「守」「破」「離」という言葉がある。
・守は、型を守ること
・破は、型を破ること
・離は、型から離れて、独自の境地を作ること
 今、諸君は、「守、破、離」の守の時を過していることとなる。
 守の型を守るということは、我々法律の世界で言えば、基本となる原理原則をしっかりマスターすることである。そのためには、最初が肝心。人との接し方、礼儀作法が大切です。我々法曹、とりわけ弁護士は、人との信頼関係を構築して、初めて、有利不利を問わず全ての事実を明らかにしてもらえることとなる。初対面の方に、無礼、無作法に及んだり、尊大に振舞えば、依頼者との信頼関係が築けない。どうか礼儀を弁えることを肝に銘じて欲しい。

(2) 何事にも好奇心を持つことが大切。
 昔、私共が学生時代に、「ベトナムに平和を市民連合」の代表者だった作家の小田実氏は、若い頃、「何でも見てやろう」という気持でいろんなことに好奇心をかきたて、それが肥やしになったとのことでした。

(3) 最後に、諸君は「何故法曹になりたいのか」という動機付け(モチベーション)を今一度考えなおして欲しい。そのモチベーションを高めて、高い志を持続させることが、諸君を大成させることとなる。
その後、7月7日、当会主催の修習開始式を経て、修習生歓迎会を開催したところ、総勢200人を超える会員らが集まり、盛況だったが、個々の修習生の顔が見えなくなる嫌いがある。


2.裁判員模擬裁判を傍聴!

(1) 7月1日(土)、福岡のロースクール生を対象とした裁判員模擬裁判が福岡高裁裁判官を中心として開かれた。なるべく多数の裁判員に関与させる趣旨で、裁判の合議体を三班作り、各々裁判長を高裁の刑事部総括が勤めた。事案は、これまでも何度か題材となった、スナック入口前の殺人未遂事件。橋山弁護人の活躍も空しく、三班とも有罪となった。終了後の座談会の席上、ロースクール生に対し「裁判員になれと言われたらなりたいですか?」との質問に15人中13人が「なりたくない」と答えたため、龍岡高裁長官はショックを受けたと感想を述べておられた。

(2) 7月4日(火)〜6日(木)と三庁合同の裁判員模擬裁判が新しい事件(共犯者による強盗傷害事件)によって実施された。弁護人役は3人。安武雄一郎会員と中原昌孝会員(新人)と裁判官による3人の弁護体制だった。
 事案は、刑訴法321条1項2号書面の所謂、特信性が問題となる事案で、裁判員には少し難しかったと思われる。安武主任弁護人の無罪主張は、前掲書面が採用された時点で終えた。
 終了後の座談会では、裁判員の服装が問題となり、裁判終了後、裁判員の顔が特定されないためにも裁判員用の何らかの法衣があった方が良いのではとの意見が出されていたのが印象的である。


3.健康がなにより!
 会務活動は、膨大な資料に眼を通す必要があり、勢い、読み残しを資料としてカバンに詰め込み、事務所と会館を往来する。資料が多くなるにつれカバンも大きくふくらみ重くなる。重いカバンを持って私の事務所から会館まで往復するのが苦痛となり、ついつい車で通勤することとなり、運動不足となる。夕方は、何かと、やれ歓迎会だ、懇親会だと宴会が重なり、ついつい度が過ぎて健康を害する悪循環を積み重ねる。
 この原稿を書いている頃(7月10日夕方頃)、訃報を受け、衝撃が走った。日弁連事務次長の矢澤昌司弁護士(41期)が享年49歳の若さで、くも膜下出血で逝去された。あまりにも痛ましく悲しい知らせである。同氏は、木上勝征先生の下で勤務され、修習時代を含め5年間福岡にいたので、存知あげていただけに悲しみは大きい。今年5月26日岡山で開催された日弁連定期大会での活躍振りが眼に焼き付いている。また、6月上旬頃に御逝去された吉田保徳先生(享年66歳)も一人娘を残して旅立たれてさぞかし無念だったでしょう。
 いずれにしても、健康のありがたさを思い知らされる。不健康のスパイラル生活を送っている私自身、矢澤先生や吉田先生の死を無駄にしてはならないと自覚する。 合掌

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会務報告〜日本司法支援センターの民事対応態勢について

副会長日記

副会長  作 間  功

 平成18年は、長年にわたって議論されてきた司法改革の実行の年であることは言うまでもありません。ここでは私の担当の司法支援センターの民事関係についてご報告します。

1.日本司法支援センターに関する実務担当者会議(民事対応態勢)の開催
 これまで刑事弁護対応態勢が主に議論されてきましたが、民事関係について7月11日、日弁連にて全国的な協議会(「実務担当者会議」)が日弁連クレオにて開催されました。しかし、問題はまだ山積です。
 第1は、コールセンターに関してです。コールセンターとは、全国からの電話による問い合わせについて司法支援センターが東京にて一括して対応し、相談機関の紹介などの情報の提供業務を実施することをいいます。
 「法律相談はしない」というのが建前です。電話のオペレーターは弁護士ではありませんので、当然です。しかし、一言で終わるようなものまで一切相談は駄目だというのでは、市民からのニーズにこたえられないとのことで、「一般的な法制度」の説明はする、そのため弁護士をスーパーバイザーとして配置する、また、「FAQ」とよばれる「良くある質問と答え」をマニュアルとしてオペレーターに配布して対応してもらうとのことでした。しかし、「一般的な法制度」と「法律相談」の区別は困難です。弁護士会としては、さらにこうした司法支援センターの対応が弁護士会・弁護士による相談業務にどのような影響が出るかも気を配る必要があるように思います。
 次に、オペレーターはマニュアルに従い、「適切な相談先」を紹介するわけですが、そのマニュアルは適正なものでなければなりません。会議では「『土地収用についての不服申立』について、紹介先を弁護士会とともに司法書士会としているが、この問題は司法書士では無理である」という指摘がなされ、日弁連も関与している司法支援センター作成のFAQについての疑問が呈されました。
 さらに、オペレーターは適切な対応をしなければなりませんので、そのための会話マニュアル(「トークスクリプト」と呼んでいます)が用意されるとのことですが、「適切な相談先」を紹介するにいたるまでの会話の流れの中で、弁護士と司法書士との振り分けをどうするかという点で大きな問題を孕んでおり(先に試行された茨城では、司法書士会が「無料」をうたい、相談者の多くが司法書士会に流れたとのことでした)、円滑な運営に向けての調整が重要な課題となります。
 10月2日の「法テラス」オープンまで時間がありません。さらに議論を詰めて、より良い制度にしていく必要があります。

2.司法支援センター福岡地方事務所に対する申入れについて
 日弁連は、日本司法支援センターに対し、6月15日、日本司法支援センターにおける情報提供業務(上記のコールセンターのことです)に関し、要旨、日本司法支援センターは公的性格をもつことから法に違反する疑いのある運営をしてはならず、また相談者がたらい回しにされるような事態は厳に避けなければならないとの観点から、日本司法支援センターにおける情報提供業務において、利用者に弁護士以外の隣接法律専門職団体を紹介する際、当該隣接法律専門職者が法律上取扱うことのできる職務範囲を明確にした上、その枠内でなされるべきであるという考えに立ち、相談機関を紹介する段階において隣接法律専門職者の職務範囲に入るかどうか明らかでない場合には、当該隣接法律専門職団体を紹介することのないようにされたいという申入れをしました。
 上記要請は、情報提供業務に関するものですが、上記要請の趣旨は地方事務所が実施する法律相談業務(いわゆる扶助相談のこと。扶助協会時代は弁護士による相談のみが実施されていました)においても妥当するものと考えられるため、当会は、福岡地方事務所に対し、福岡地方事務所において隣接法律専門職者による法律相談を実施する場合には、当該隣接法律専門職者が法律上取り扱うことができない相談、及び法律上取り扱うことができるかどうか不明確な相談を隣接法律専門職者において実施することがないよう十分配慮し、もって、法律相談業務の適正な運営を行なっていただくよう要請しました。

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2006年9月14日

「政治家の思想・言論の自由を封殺する一切のテロ行為を断固として許さない」会長声明

声明

2006年(平成18)年9月13日

福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫

1、本年8月15日早朝、小泉首相は、国の内外から反対の声が強かった靖国神社への参拝を全国民注視の中で、実行した。
 自民党の元幹事長で山形県選出の衆議院議員加藤紘一氏は、かねてより小泉首相の靖国神社への参拝を批判し、終戦記念日の参拝に反対し、当日の小泉首相の行動に対し、マスコミを通じ批判していた。
 加藤紘一議員が自己の信念に基づき小泉首相の言動を批判するのは、思想、言論の自由が保障されている現代社会において、政治家として当然のことである。
2、然るに、本年8月15日夕刻、山形県鶴岡市に所在する、加藤紘一議員の実家と事務所が放火により全焼するという事件が発生した。新聞報道によれば、この放火事件は、小泉首相の靖国神社参拝についての加藤紘一議員の批判発言に対して、放火という暴力行為によって抗議しようとした、右翼団体に所属する男性の「政治的テロ行為」であることが明らかになった。
 このような政治家の身辺に対するテロ、暴力行為は、それによって、他の政治家や他の諸団体、更には、国民の言論の自由や、政治活動の自由をも牽制し、健全な批判精神は元より、自由な意見発表などの言論活動を萎縮させる効果をもたらし、ひいては、マスコミの報道の自由に対してさえも著しく悪影響を与えるおそれがある。
3、とくに、今や、自民党の総裁が交代し、新政権の発足が予定され、憲法改正が具体的政治日程にのぼっている頃である。
 当然ながら、憲法改正問題は、民主主義国家としての我が国最大の政治課題である。
 今後、憲法改正の是非が国民の間で自由に、徹底的に論議されなければならない。
このような時にこそ、政治家に対してはもちろん、国民も、マスコミも、等しく、思想、言論、表現、報道の各自由が保障されるべきことは言うまでもない。自由で徹底的な議論や論争によってしか、真に国民の自由と権利を守る憲法は誕生しえないからである。
4、今回のような、政治家の言論をテロ、暴力によって封殺するような行為を断固として許してはならない。
 福岡県弁護士会会員一同は、我が国の民主主義を守るためには、憲法で保障された思想、言論の自由、そして、政治活動の自由を絶対に保障すべきものと考える。
 今後、再び、思想、言論の自由を封殺する一切のテロ行為を断固として許さない意思を内外に明らかにし、この声明によって、思想、言論の自由、及び政治活動の自由の大切さを強く表明するものである。

                                                       以上

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いかなる特例も認めない上限金利の引下げと利息制限法の厳守を求める緊急会長声明

声明

2006年(平成18年)9月13日

福岡県弁護士会会長 羽田野 節夫

 本年7月6日の自民党と公明党の「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」により、出資法の上限金利の見直し等を検討していた金融庁及び法務省は,9月5日,その内容を明らかにした。これによると、現行グレーゾーン金利を4年間存続させるとともに、その後、「少額短期特例」,「事業者向け特例」として,いずれも年利28%の新グレーゾーン金利を認め,しかも、現行の利息制限法の金額区分を変更して、元本10万円の定めを50万円に、元本100万円の定めを500万円に変更するというものである。これによると、元本10万円以上50万円未満のものについては、従来の18%から20%に、元本100万円以上500万円未満のものについては、従来の15%から18%に引き上げとなる利息制限法の大改悪である。
 しかし、今回の法改正の目的は、最高裁判所が貸金業規制法43条(グレーゾーン金利)の適用を否定して利息制限法による債務者救済を図る判決を相次いで示したことを踏まえ、金融庁の「貸金業制度に関する有識者懇談会」や7月6日の自民党と公明党による前述の「基本的考え方」が、深刻な多重債務問題を解決するために、出資法の上限金利を利息制限法の水準まで引き下げるという基本方針にもとづき行われているものである。
 ところが、この度、金融庁及び法務省が明らかにした前記内容は、「特例」という形で利息制限法による金利の一本化までに最長で9年間程度を要する上、特例の高金利の恒久化すら懸念され、しかも利息制限法の改悪を行おうとしているものである。これは、深刻な多重債務問題を解決するため、312万人を超える高金利引下げを求める署名や、39都道府県、880を超える市町村議会(福岡県においては、県議会をはじめ54議会)の意見書に現れた、多重債務問題の早期かつ抜本的な改革を強く望む国民の声に逆行するものである。
 よって当会は、重ねて政府及び国会に対し、直ちにグレーゾーン金利を廃止し、出資法第5条第2項の上限金利を利息制限法第1条の制限金利まで引き下げ、少額短期特例や事業者特例を設けず、また利息制限法のいかなる改悪も行わないよう改めて強く求めるものである。
以 上

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