福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2005年12月19日

会 長 日 記 〜東京から金沢へ〜

会長日記

会 長 川 副 正 敏

一 東京〜未決等拘禁制度改革に向けて
 一〇月五日、日弁連の刑事拘禁制度改革実現本部の全体会議が開催され、地方本部長として出席しました。会議では、九月一六日に出された『未決等拘禁制度の抜本的改革を目指す日弁連の提言』(日弁連ホームページの日弁連の活動↓主張・提言↓意見書等に掲載。以下「日弁連提言」という)の確認をしたうえで、今後の運動の進め方などについて討議をしました。
 今年五月一八日、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律が成立しました。これは、長年の懸案であった監獄法改正問題のうち、刑事施設及び受刑者の処遇に関する規定についての改正をしたものです。そして、この改正で積み残しになった代用監獄問題を含む未決拘禁者と死刑確定者については、来年の通常国会での法案上程を目途に、現在日弁連・法務省・警察庁の三者間で協議が重ねられており、日弁連提言もここで議論されることになります。
 提言の要点は次のとおりです。
1 未決拘禁制度の基本的なあり方は、あくまでも無罪推定原則を生かし、これを保障する内容でなければならず、市民としての生活保障、訴訟当事者としての防御権確保が最大限図られるべきである。また、裁判員制度・連日的開廷の実施に伴い、弁護人の接見交通に対する障害を除去する。
2 警察留置場を勾留場所とする代用監獄制度は冤罪と人権侵害の温床であり、国際人権法上もその存続は到底許されない。したがって、これを廃止することを確認したうえで、全面的廃止に向けた確かな道筋・方法を明確にする。
3 弁護人の秘密交通権確保に留意しながら外部交通の拡充を図るべく、電話やファクシミリの使用を導入する。
4 拘置所を含めて夜間・休日接見を原則として認める。
5 長時間・深夜の取調禁止を法律上明記する、未決拘禁者に対する懲罰制度を原則としてなくす、自己労作・教育の機会を保障する、冷暖房を完備するなど、人権侵害を防止し、市民としての生活を保障するための方策を導入する。
6 死刑確定者について、「心情の安定」を理由とする現状の非人道的な処遇を抜本的に改め、人間としての尊厳を尊重した取扱を確立する。例えば、外部交通・図書閲読・差入を原則的に自由とし、他の被収容者との接触を認め、死刑執行の事前告知を行うなどの規定を設ける。
 以上のような提言に対して、法務省・警察庁側の態度は極めて固く、基本的には現状維持の方針であって、ことに最大の争点である代用監獄問題については、これを廃止するどころか、この機会にむしろ恒久化しようとの意向を示しているところです。
 衆議院で圧倒的多数の与党が出現した現在の国会情勢の下で、日弁連の提言を実現するのは容易なことではないと言わざるをえません。しかし、代用監獄廃止を中心とした未決拘禁制度の抜本的改革は、私たちの悲願であり、刑事司法改革の基礎に位置づけられるものです。それは、現在ホットな課題となっている取調全過程の録音・録画の導入と、いわば車の両輪として取り組んでいかなければならないと思います。
 日弁連は一九八二(昭和五七)年から一九九〇(平成二)年にかけて、広範な市民をも巻き込んで、その総力を挙げて拘禁二法反対運動を展開し、これを廃案に追い込みました。このような歴史そのものをご存じでない若い会員も増えた今日、改めてこの問題の重要性に対する共通認識を確立し、今後の立法化作業に向けた対応体制を強化しなければなりません。
 執行部としても、刑事弁護等委員会や刑事法制委員会を中心として、遺漏なき対処をしていく所存です。
 会員各位におかれましては、この機会に日弁連提言及び『自由と正義』九月号の特集「二一世紀の行刑改革」にぜひ目を通され、現時点における問題の所在を改めて確認され、ご意見をお寄せください。

二 金沢〜業務改革シンポに参加して
 一〇月五日の東京・日弁連会館での会議を終えた足で、翌六日には金沢に入り、七日朝から開催された日弁連の弁護士業務改革シンポジウムに出席しました。その内容については別稿で報告されると思いますので、若干の感想を記すことにします。
 今回のシンポは「司法改革と弁護士業務〜弁護士の大幅増員時代を迎えて」と題して、第一「地域の特性に応じた法律事務所の多様な展開」、第二「新たな挑戦に向けて」、第三「ここまで来た司法IT化の波」の三つの分科会が行われ、私は第二分科会に参加しました。
 そこでは、「弁護士業務の新領域を探る」との副題の下に、最近の各種業務領域の盛衰とその要因に関する分析、アメリカの一〇人未満の法律事務所の実情報告などに基づき、特色ある業務分野、例えば交通事故事件、スポーツ法、弁護士取締役、株主代表訴訟、債務整理・倒産処理、包括外部監査、エンターテインメント業界(映画、音楽、出版業界等)、コンプライアンス委員会・企業倫理委員会、敵対的買収などをめぐる現況と展望が提示されました。
 これらを踏まえ、当面の具体的方策として、?弁護士に関する業務規制緩和と権限強化、?日弁連における立法支援センター設置、?民事訴訟の活性化に向けた抜本的改革(民事陪審、懲罰的損害賠償制度など)、?交通事故訴訟などの既存分野の再開発のための日弁連による改革モデルの提示といった「新規業務開発五カ年計画(要綱)」が提言されました。
 弁護士大幅増員時代における業務基盤に対する不安感が漂う中で、新たな業務開拓に向けた弁護士会としての組織的対応が強く求められており、未だ十分とは言えないものの、その端緒を示すものとして、大変に興味深いものがありました。
 当会では、刑事弁護等委員会における刑事弁護実務に関する情報交換、倒産支援センターのメーリングリストでのノウハウのやり取り、高齢者・障害者支援における行政等との連携、交通事故被害者救済センターによる交通事故事件の掘り起こし、行政問題委員会による定期的一一〇番活動、犯罪被害者支援など、さまざまの分野で人権擁護活動とも結合しながら、業務拡充策を展開してきました。これらを「業務開発」という観点からさらに充実させるのはもちろんのこと、シンポで提言された業務分野のほか、信託、地方自治体の私債権処理、第三セクター問題等々、新たな分野に関して、会員だけではなく、会外の関係者・専門家との共同研究を立ち上げるなどして、我々のウイングを大きく拡げていく取り組みを深化させるべきだと痛感しました。この面では、若手会員からの創意に満ちた提案と積極的な行動を大いに期待します。
 目まぐるしく駆けずり回る日々の中で、合間を見て散策した秋の兼六園と武家屋敷跡の風情にほっと一息をつく思いでした。
 このシンポジウムの運営委員として尽力された当会の山出和幸・加藤哲夫両会員に心より感謝いたします。

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