福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2005年12月 6日

イラクへの自衛隊の派遣継続に反対する会長声明

声明

2005(平成17)年12月6日

福岡県弁護士会 会長 川副正敏


1 当会は、2003年12月2日、常議員会決議に基づき、会長声明で自衛隊のイラク派遣に強く反対する意見を表明し、その後、2004年4月20日に「イラクからの即時撤退を求める会長声明」、同年12月8日に「イラクへの自衛隊派遣継続に反対する会長声明」をそれぞれ発表した。
  当会がかかる会長声明を発表した理由は、?イラク特措法は憲法に違反するおそれが極めて大きいものであること、?自衛隊のイラク派遣は、戦争を違法とし、国連憲章が容認しない武力行使は承認しないという国際社会の原則に違反する疑いが極めて大きいこと、?イラクはまだ戦争状態にあり、かつその全土が戦闘地域であることから、人道復興支援活動又は安全確保支援活動については、我が国領域及び現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行なわれることがないと認められる地域において実施するものとすると定めたイラク特措法第2条3項の要件を満たしてないこと、?これまで、米軍に限らず、市民や子どもを含むイラク国民の死傷者が多数生じたことのほか、サマワの自衛隊駐屯地近くに迫撃砲が着弾したり、邦人をはじめとする各国の民間人等が拘束される事件が続くなど、イラク全土が戦闘地域であって、イラクに安全な非戦闘地域が存在しないことが明らかになったことなど、憲法が掲げる平和主義および基本的人権の尊重という観点から、看過しがたい問題があるとの判断によるものであった。
2 しかるに、現在に至るまでイラク特措法の問題は何ら払拭されていないばかりか、イラク国内は不安定な情勢が今なお続いている。すなわち、米英軍による攻撃はいまだ継続し、爆弾テロにより多くの市民の犠牲者を出す事件や、要人等をねらった襲撃事件が後を絶たないという状況にある。また陸上自衛隊が駐屯するサマワにおいてもロケット弾や迫撃砲による攻撃があるなど、イラクはまだその全土が戦闘地域であると言わざるをえない。
他方、イラクに駐屯していた外国の軍隊は次第に撤退しつつあり、すでにオランダが4月に撤退した。また、ポーランド、ウクライナ、ブルガリアおよびイタリア等が撤退を表明したほか、陸上自衛隊が駐留する南部サモワ周辺の治安維持を担っていた英国軍とオーストラリア軍は来年撤収する方向で検討を行っている。さらに、イラク駐留軍隊を撤退すべきであるとの世論は、日本国内はもとより、アメリカ、イギリスを含めた世界各国で高まりつつある。
こうした状況において、自衛隊がイラクへの駐屯を続けた場合、自衛隊を敵視する勢力からの攻撃が強まる可能性があり、派遣された自衛隊員の生命・身体の安全はいっそう危険にさらされることになりかねない。
3 ところが、政府は、イラク南部のサマワで活動している陸上自衛隊については来年前半に撤収する方向で検討しつつも、本年12月14日の延長期間満了を前にして、国会で十分な議論も行わないまま、再度の自衛隊派遣延長を行おうとしている。また、政府は、仮に陸上自衛隊が撤退しても、クウェートからイラクへ米軍の物資を輸送する航空自衛隊の支援活動は続ける方針をとっている。
  しかし、かかる方針は憲法の平和原則及び国連憲章の原則に違反し、かつイラク特措法第2条3項にも違反するなど、とうてい容認できるものではない。
  そこで、当会は、自衛隊のイラク派遣継続に強く反対し、自衛隊がイラクから速やかに撤退することを強く求める。

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2005年12月14日

福岡法務局大牟田出張所の統廃合に反対する声明

声明

2005(平成17)年12月13日

福岡法務局 御中

       福岡県弁護士会  
              会 長 川副正敏
       同筑後部会
              部会長 中野和信

1 声明の趣旨
 福岡県弁護士会は、福岡法務局大牟田出張所を廃止して柳川支局に統合する方針案に反対し、今後とも大牟田市に存続されるよう求める。
2 声明の理由
  平成17年10月17日、福岡法務局から突如として平成18年10月を目処に大牟田出張所を廃止し柳川支局へ統合する方針案が表明された。
 その理由として、大牟田出張所の登記件数が法務局統廃合基準(1万5000件未満)を下回る1万3000件であること、近くに約30分程度で行くことができる法務局があること等が挙げられている。
 しかし、我々弁護士会は、このような安易な理由で法務局の統廃合を議論するのは、地域社会における各種権利義務関係を明確にしてその社会経済的活動を支えている登記手続への支障をもたらすだけではなく、以下に述べるとおり、法務局が担う人権擁護機能や住民への司法サービスの観点を没却したものとして到底許されないと考える。
第1に、法務局は法務省管轄下において登記制度を担うほか、戸籍の整備や地域における国の人権擁護機関としての役割を持っている。
大牟田出張所の管轄人口は大牟田市、高田町を合わせると15,6万人を擁し、その管轄人口のきめ細かな人権擁護活動が今こそ求められている。
 男女差別等各種の人権問題が未だ根強く残っているところ、かかる人権問題を行政として受け付ける国家機関は法務局しかない。そのような重要な 国家機関が地域から撤退することは地域での人権問題が放置されてしまうことになりかねず、到底容認できるものではない。
 第2に、法務局は裁判所と連携した有機的一体として司法機能を果たしている。その一翼を担う法務局が欠けることは、他の機関の機能低下を招き、ひいては住民への司法サービスが低下することに繋がる。
 例えば、保全処分は一刻を争うことが少なくないところ、供託を行う法務局が近くにあるからこそ迅速な保全手続が出来るのであり、大牟田のように裁判所支部の至近に法務局が無くなれば管轄区域内の保全手続に支障をきたすおそれがある。
 また、後見登記制度でも登記アクセスが重要になっており、従来東京法務局に一元化されていた登記サービスのうち、後見登記証明書の取得については、平成17年1月から地方法務局でも行えるようになった。日弁連ではこれをさらに全国の支局・出張所にも広めるべく運動をしているところであるが、大牟田出張所の廃止はその途を塞ぐものである。これは、ひいては大牟田地域における後見制度の運用を担う家庭裁判所支部の機能低下を招くことにもなりかねない。
 今回の法務局統廃合は政府が進める国家公務員削減計画に基づくものと思われるが、地方の住民サービス・住民の権利擁護に重大に関係する機関を削減することは、地方の切り捨てに繋がるものとして到底容認できない。
  よって、社会正義の実現と人権擁護を担う弁護士会としては、今回の法務局統廃合案に対し、住民の司法アクセスの低下・権利擁護機能の低下を招くものとして強く反対し、その撤回を要求するものである。

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2005年12月19日

会長日記 〜任期の折返し点で思う〜

会長日記

会 長 川 副 正 敏

一 公的弁護態勢確立のための意見交換会に思う
 八月三〇日、日弁連と九弁連の主催による「公的弁護制度の対応態勢確立のための意見交換会」が当地で開催されました。
 二〇〇六(平成一八)年一〇月に始まる被疑者国選を含む公的弁護制度への対応態勢をめぐり、九州各県の弁護士会、ことに離島などの弁護士ゼロ・ワン地域を多く抱える会を中心にして、ジュディケア制だけで弁護人を確保することはできず、相当数のスタッフ弁護士の配置を求める意見が多く出されました。とりわけ、必要的弁護事件が対象となる二〇〇九(平成二一)年に向けた深刻な実情が報告されました。
 他方、国選弁護の運営主体である日本司法支援センターのあり方についての不透明感から、同センターとの契約締結に対する疑義も一部で出されている状況があります。そこで、これを払拭して、一部の会員の過大な負担によるのではなく、広範な会員によって公的弁護を担うことが必須であって、そのための方策を早急に検討しなければならないとの認識で一致しました。
 詳細は別稿で報告されますので、ここでは、会議の終わりに行った私の締めくくりの発言の要旨を掲記し、問題意識を共有するためのよすがにしたいと思います。
 *  *  *  *  *
 梶谷日弁連会長は、常々「司法改革の実行段階は地方の時代」と言われています。
 これは、制度改革の実施に際しては、現場の実情に基づくきめ細かな検討が必要であって、それには地方からの積み上げが重要であることを指摘しているのだと理解しています。そして、公的弁護態勢の確立及びその運営主体である日本司法支援センターの実施設計と施工における課題を考えるうえで、このことはまさに当てはまります。
 いわゆる重罪事件の被疑者国選が開始する二〇〇六(平成一八)年は待ったなしの目前に迫っており、二〇〇九(平成二一)年の必要的弁護事件のそれが始まるのも遠い先のことではありません。
 本日の意見交換会では、各地の実情とこれを踏まえた具体的な問題点が出され、率直な意見交換が行われましたが、それだけにまた、多くの課題が一層浮き彫りになりました。その中で、捜査段階と公判段階のリレー方式や県境を越えた共助、引受け可能な件数枠を個々に定める方式を検討するなど、できる限りジュディケア制で対応するための提案も出されました。
 九州は、大分県弁護士会と福岡県弁護士会が相次いで開始し、その後燎原の火のごとく全国に広がった当番弁護士発祥の地であり、その牽引車としての役割を果たしてきたと自負しています。
 今から一五年前にここ九州で始まった当番弁護士運動は、絶望的と言われて久しい刑事司法の抜本的な再生を実現するための取組の主柱であり、その公的制度化への道筋は私たちが市民に提示した展望でした。だからこそ、「弁護士会の戦後最大のヒット商品」と評され、多くの市民がこの運動に結集してくださいました。
 今日、私たちは少なからぬ不安や困難に直面していますが、今こそ、この原点を想起しなければならないと思います。
 日弁連、九弁連、単位会、そして個々の会員が互いに他は何をしてくれるのかというのではなく、共に何をなすべきかという観点に立ち、一緒にこの変革の時代を担い、それぞれの役割を分かち合うとの思いを共通にして取り組まなければなりません。
 私たちが目指してきたところは、捜査・公判を通じてあまねく国費による弁護制度を確立し、弁護の自主性・独立性を堅持しながら、被疑者・被告人の十全な人権擁護を果たし、適正手続の実質的保障に資することにあるのは言うまでもありません。
 それがまさに始まろうとする現在、様々の問題が顕在化していることは否めません。しかし、そうであればこそ、現場の実情を一つ一つ検証し、その克服のための具体的方策の定立と実践を積み重ねることが求められていると思います。とりわけ、自主性・独立性を核心とする刑事弁護の質の確保、これに沿ったあるべき司法支援センターの組織運営の確立に向けた獲得目標の提示及び国との精力的な折衝、それを支える会内外における強力な運動の展開は、会員の結集を得るうえでも極めて重要です。
 そのために、日弁連と九弁連及び各単位会はそれぞれの立場で最大限の尽力をすることを確認し合って、本日の意見交換会の結びとさせていただきます。

二 東アジアの司法改革管見
1 中国・国家法官学院一行の来訪
 九月一二日に台湾・高雄市の裁判官が日本の家事事件・少年事件に関する調査のために当会を訪問したのに続いて、九月一四日には、中国・国家法官学院の院長Huai Xiao Feng氏を始め、役職員一行四名が当会を訪れ、懇談をしました。
 中国の国家法官学院は、日本の司法研修所に相当する裁判官養成機関です。中国では市場経済化・国際化が急速に深化するのに伴い、法曹養成制度の抜本的改革を含む司法改革が進められています。
 そのような中で、同学院はこのたび、福岡大学当局、特に当会の川本隆・山口毅彦両会員のご努力もあって、同大学との間で学術交流の協定を締結し、今後学生・教職員等の交流・情報交換を重ねて、法曹教育の充実のためにお互いに協力していくことになりました。
 Huai院長と私は、東アジア各国では、法の支配に貫かれた公正な社会を支える法曹の果たすべき役割がこれからますます重要になるとの共通認識の下に、中国と日本の法律実務家はできるだけ交流の機会を持って信頼関係を深め、そのことを通じて、お互いの司法制度や実務を学び合うことが大切であるということで一致しました。
2 台湾の少年法院事情など
 前後しますが、別稿で紹介されているとおり、台湾の裁判官が当会を訪問した目的は、二年後を目途に進められている家庭裁判所創設に向けて、日本の制度とその運用を調査するというものでした。
 一方で、台湾には少年法院という日本の家庭裁判所のうちの少年事件担当部署が独立した形の裁判所があります。その法官(裁判官)は、日本の少年法の理念でもある「少年の健全な育成」の観点に立ち、当会の少年事件全件付添人制度において私たちが現に実践しているような少年への積極的アプローチを自ら行っているとのことでした。
3 進む取調の可視化
 台湾や香港で取調の録音・録画が既に実施されていることは知られています。
 韓国でも、警察・検察自身が「被疑者の人権擁護、捜査過程の透明化」との理念を掲げ、取調全過程の録音・録画実施に向けた準備を積極的に進めています。しかも、その制度化後の運用をめぐる具体的な検討、例えば、公判中心主義・直接主義との関係において、これ(DVD)に証拠能力を付与するための要件はいかにあるべきかといった議論が法曹界内部だけではなく、メディアでも活発に行われています。
 ちなみに、韓国では、陪審制類似の国民の司法参加制度の導入に向けた具体的検討も行われていると聞いています。
 当会では、九月一七日、『密室での取調べをあばく! 〜取調べの録音・録画実現に向けて〜』と題して、可視化シンポジウムを開催しました。そこでは、韓国・ソウルの警察や検察庁に設けられている上品な木製の調度品が置かれ落ち着いたクロス貼りの広い取調室の写真とともに、録音・録画実施の準備状況が紹介されました。他方、実行行為者の供述により共犯者に仕立て上げられて起訴され無罪判決を得た杷木町の中嶋玲子前町長から、自白を得るための苛酷な取調の実態が生々しく語られました。
 このように、後を絶たない捜査過程における被疑者の人権侵害事例に接するにつけ、取調の録音・録画を頑なに拒む日本の警察・検察がその最大の論拠としている「捜査官と被疑者の人間的信頼関係を築くことによって真実の供述が得られる」との論理がまことに空疎に響き、先行している東アジアの国々との落差に嘆息を禁じ得ません。四年余り後に始まる裁判員裁判までには、日本でも是非実現しなければならないとの思いを一層強くしています。
4 むすび
 以上のように、韓国、中国、台湾では、司法制度や背景事情などに違いがあり、内容・程度の差があるのも事実ですが、大筋では、「法の支配」が貫徹する透明・公正な社会を確立するうえで、司法ないし法曹が担うべき役割の重要性に対する基本的認識に立って、様々の面で色々な形の司法改革が進められているようです。
 とりわけ韓国と台湾では、「民主化・透明化」というキーワードの下に、多くの点で、日本より一歩も二歩も先を行く制度改革・実践が官民を通じて意欲的に取り組まれており、学ぶべきものが少なくないことを実感する秋です。
 *  *  *  *  *
 任期の折返し点を通過しながら、これらを始めとする押し寄せる重要課題への取組をさらに強化しなければならないと、焦慮感とともに決意を新たにしています。

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公的弁護制度の対応態勢確立等のための意見交換会

副会長日記

副会長 藤 尾 順 司

一 八月三〇日午後一時から、アクロス福岡にて、日弁連と九弁連の各単位会の担当者の意見交換会が行われました。
  ご承知のとおり、平成一八年一〇月から日本司法支援センター(以下、「支援センター」という)が国選弁護人の推薦等の業務を開始します。また、被疑者国選弁護制度が短期一年以上の重大犯罪を対象にスタート(第一段階)し、平成二一年にはその対象が必要的弁護事件に拡大(第二段階)されます。また、裁判員による刑事裁判も始まります。今後四年間に刑事弁護の環境が大きく変わるという状況を目前にした中で、日弁連が各ブロックを回って意見交換会を行い、対応態勢の構築に向けて準備をしようという趣旨で開催された次第です。
  日弁連からは、松??副会長をはじめ、刑事弁護センターや支援センター等の担当者が計八名も出席され、九弁連から各会の執行部や担当七五名が出席しました。

二 まず、被疑者国選弁護の第一段階、第二段階への対応については、長崎と沖縄を除いて対応できるという回答でしたが、第二段階になると、なんとか対応できそうなのが当会、熊本、大分で、そのほかの会はそれに必要な弁護士の数が不足するので対応が困難ということでした。特に、長崎と沖縄は離島が多いうえ、会員の高齢化など悪条件が重なり、悩みは深刻でした。
  福岡は、シミュレーションでは十分対応できることになっています。しかし第二段階になると、本庁以外の支部では必要な弁護士数が足りませんので、部会間の協力が必要になってくると思われます。

三 次に、少年事件の付添人です。少年法の改正案によると、短期二年以上の事件に限定して国選付添人制度が始まることになっています。しかし、国選付添人選任件数は観護措置決定を受けた少年事件の約一割程度にすぎませんので、福岡のように全件付添制度を実施しているところでは、残りをすべて自主事業として担っていかなければなりません。川副会長は、全件付添を始めた会として、なんとしても全件付添をやりぬく決意であると力強く表明されました。
  このほか、自主事業のあり方、財源の問題、スタッフ弁護士の確保の問題などが議論されました。
  各単位会の状況を日弁連と他の単位会が把握できたことや、いよいよ新しい制度に向けて準備を始めなければならないという思いをもつことができたという意味で有意義な意見交換会でした。

四 最後に、意見交換会の報告からは少し脱線しますが、担当副会長として気になっている点を述べます。
  被疑者国選弁護制度、国選付添人制度、及び裁判員制度はいずれも私たちが長年、要求し、実施を待ち望んでいたものです。今回の改革では完全ではありませんが、ようやく実現することになりました。今私に問われているのは、何よりもこの制度を支えていくに足りるマンパワーを確保することです。支援センター下における弁護士の自主性・独立性維持も、多くの弁護士が担うことが不可欠の前提です。
  しかし、この点で若干の不安を感じています。福岡は他の会に較べて会員数が多いだけに、自分が国選弁護をやめても大丈夫だろうという気分が何となくあるからです。先ほど被疑者国選弁護制度が始まっても、福岡はなんとか対応できるだろうと書きましたが、これはあくまでも、現在、当番弁護士に登録している会員数と同程度の人数が国選弁護をすることを前提にしたシミュレーションの話です。実際にこの程度の人数を確保できなければ、福岡でも対応困難ということにになりかねません。
  この意見交換会で、佐賀県弁護士会から、七〇歳代と八〇歳代の会員三名で年間一六一件もの国選事件を受任しているとの報告がありました。七〇歳を超えて、なお一人で五〇件以上を受任しているというのには大変驚きました。これだけの件数を担当できるのは、自分が国選弁護を支えるのだという気概をもっておられるからではないかと思います。これに較べると、年間一〇件程度の国選弁護で弱音を吐くわけにもいかないのではないかと思います。
 言うまでもないことですが、弁護士でなければ弁護人にはなれないのですから、弁護士及び弁護士会は国選弁護制度を支えていかなければならない責任を社会に対して負っています。今後、被疑者国選制度の開始により、事件数と活動の量が多少増えていきますので、これまで以上に多くの会員が分担していかなければ、被疑者国選弁護制度を支えていくことができません。自分くらい降りてもいいだろうではなく、他の会員と力を合わせて被疑者国選を支えなければという気持ちになっていただきたいと思います。
  すべての会員が支援センターとの間で被疑者国選弁護の契約をしていただきますようお願いします。
  もう少し、支援センターの国選弁護の内容が明らかになった段階で、改めて詳しいご説明とご案内を行う予定です。

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会 長 日 記 〜東京から金沢へ〜

会長日記

会 長 川 副 正 敏

一 東京〜未決等拘禁制度改革に向けて
 一〇月五日、日弁連の刑事拘禁制度改革実現本部の全体会議が開催され、地方本部長として出席しました。会議では、九月一六日に出された『未決等拘禁制度の抜本的改革を目指す日弁連の提言』(日弁連ホームページの日弁連の活動↓主張・提言↓意見書等に掲載。以下「日弁連提言」という)の確認をしたうえで、今後の運動の進め方などについて討議をしました。
 今年五月一八日、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律が成立しました。これは、長年の懸案であった監獄法改正問題のうち、刑事施設及び受刑者の処遇に関する規定についての改正をしたものです。そして、この改正で積み残しになった代用監獄問題を含む未決拘禁者と死刑確定者については、来年の通常国会での法案上程を目途に、現在日弁連・法務省・警察庁の三者間で協議が重ねられており、日弁連提言もここで議論されることになります。
 提言の要点は次のとおりです。
1 未決拘禁制度の基本的なあり方は、あくまでも無罪推定原則を生かし、これを保障する内容でなければならず、市民としての生活保障、訴訟当事者としての防御権確保が最大限図られるべきである。また、裁判員制度・連日的開廷の実施に伴い、弁護人の接見交通に対する障害を除去する。
2 警察留置場を勾留場所とする代用監獄制度は冤罪と人権侵害の温床であり、国際人権法上もその存続は到底許されない。したがって、これを廃止することを確認したうえで、全面的廃止に向けた確かな道筋・方法を明確にする。
3 弁護人の秘密交通権確保に留意しながら外部交通の拡充を図るべく、電話やファクシミリの使用を導入する。
4 拘置所を含めて夜間・休日接見を原則として認める。
5 長時間・深夜の取調禁止を法律上明記する、未決拘禁者に対する懲罰制度を原則としてなくす、自己労作・教育の機会を保障する、冷暖房を完備するなど、人権侵害を防止し、市民としての生活を保障するための方策を導入する。
6 死刑確定者について、「心情の安定」を理由とする現状の非人道的な処遇を抜本的に改め、人間としての尊厳を尊重した取扱を確立する。例えば、外部交通・図書閲読・差入を原則的に自由とし、他の被収容者との接触を認め、死刑執行の事前告知を行うなどの規定を設ける。
 以上のような提言に対して、法務省・警察庁側の態度は極めて固く、基本的には現状維持の方針であって、ことに最大の争点である代用監獄問題については、これを廃止するどころか、この機会にむしろ恒久化しようとの意向を示しているところです。
 衆議院で圧倒的多数の与党が出現した現在の国会情勢の下で、日弁連の提言を実現するのは容易なことではないと言わざるをえません。しかし、代用監獄廃止を中心とした未決拘禁制度の抜本的改革は、私たちの悲願であり、刑事司法改革の基礎に位置づけられるものです。それは、現在ホットな課題となっている取調全過程の録音・録画の導入と、いわば車の両輪として取り組んでいかなければならないと思います。
 日弁連は一九八二(昭和五七)年から一九九〇(平成二)年にかけて、広範な市民をも巻き込んで、その総力を挙げて拘禁二法反対運動を展開し、これを廃案に追い込みました。このような歴史そのものをご存じでない若い会員も増えた今日、改めてこの問題の重要性に対する共通認識を確立し、今後の立法化作業に向けた対応体制を強化しなければなりません。
 執行部としても、刑事弁護等委員会や刑事法制委員会を中心として、遺漏なき対処をしていく所存です。
 会員各位におかれましては、この機会に日弁連提言及び『自由と正義』九月号の特集「二一世紀の行刑改革」にぜひ目を通され、現時点における問題の所在を改めて確認され、ご意見をお寄せください。

二 金沢〜業務改革シンポに参加して
 一〇月五日の東京・日弁連会館での会議を終えた足で、翌六日には金沢に入り、七日朝から開催された日弁連の弁護士業務改革シンポジウムに出席しました。その内容については別稿で報告されると思いますので、若干の感想を記すことにします。
 今回のシンポは「司法改革と弁護士業務〜弁護士の大幅増員時代を迎えて」と題して、第一「地域の特性に応じた法律事務所の多様な展開」、第二「新たな挑戦に向けて」、第三「ここまで来た司法IT化の波」の三つの分科会が行われ、私は第二分科会に参加しました。
 そこでは、「弁護士業務の新領域を探る」との副題の下に、最近の各種業務領域の盛衰とその要因に関する分析、アメリカの一〇人未満の法律事務所の実情報告などに基づき、特色ある業務分野、例えば交通事故事件、スポーツ法、弁護士取締役、株主代表訴訟、債務整理・倒産処理、包括外部監査、エンターテインメント業界(映画、音楽、出版業界等)、コンプライアンス委員会・企業倫理委員会、敵対的買収などをめぐる現況と展望が提示されました。
 これらを踏まえ、当面の具体的方策として、?弁護士に関する業務規制緩和と権限強化、?日弁連における立法支援センター設置、?民事訴訟の活性化に向けた抜本的改革(民事陪審、懲罰的損害賠償制度など)、?交通事故訴訟などの既存分野の再開発のための日弁連による改革モデルの提示といった「新規業務開発五カ年計画(要綱)」が提言されました。
 弁護士大幅増員時代における業務基盤に対する不安感が漂う中で、新たな業務開拓に向けた弁護士会としての組織的対応が強く求められており、未だ十分とは言えないものの、その端緒を示すものとして、大変に興味深いものがありました。
 当会では、刑事弁護等委員会における刑事弁護実務に関する情報交換、倒産支援センターのメーリングリストでのノウハウのやり取り、高齢者・障害者支援における行政等との連携、交通事故被害者救済センターによる交通事故事件の掘り起こし、行政問題委員会による定期的一一〇番活動、犯罪被害者支援など、さまざまの分野で人権擁護活動とも結合しながら、業務拡充策を展開してきました。これらを「業務開発」という観点からさらに充実させるのはもちろんのこと、シンポで提言された業務分野のほか、信託、地方自治体の私債権処理、第三セクター問題等々、新たな分野に関して、会員だけではなく、会外の関係者・専門家との共同研究を立ち上げるなどして、我々のウイングを大きく拡げていく取り組みを深化させるべきだと痛感しました。この面では、若手会員からの創意に満ちた提案と積極的な行動を大いに期待します。
 目まぐるしく駆けずり回る日々の中で、合間を見て散策した秋の兼六園と武家屋敷跡の風情にほっと一息をつく思いでした。
 このシンポジウムの運営委員として尽力された当会の山出和幸・加藤哲夫両会員に心より感謝いたします。

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会 務 報 告

副会長日記

副会長 三 浦 邦 俊

 会務報告も三回目、この記事が会内に配布されるときは、忘年会シーズンも真っ盛りという時期であろうと思われます。執筆時期は、平成一七年一〇月初め、夏も終わり、秋の足音が云々という挨拶をすべき頃ともいえるが、会務は正に正念場、これからクライマックスとも言える時期に差し掛かっています。
 秋の行事の多さと、今後のことまで考えると、現在の弁護士会の活動を維持、発展させていこうとすると、現在のシステムでは、対応できなくなっているのではないかという気がします。
 本年度の目玉は、司法支援センター問題と、裁判員制度に対する対応といわれておりましたが、前者については、予算要求に向けての種々の活動が一応終わり、八月三〇日には、九弁連と日弁連の主催で、アクロス福岡で、公的弁護士制度に対応と態勢強化のための意見交換会が実施されました。ところが、九月に入った途端に、裁判員制度の広報活動が三庁合同でおこなわれることになり、そのための連絡協議会が九月一日に発足し、九月二六日に、三庁合同の記者会見、同二七日には裁判員制度模擬裁判、一〇月一日は裁判員フォーラムの開催、同四日及び六日には街頭におけるビラ撒きなどを三庁合同でおこないました。このための準備の打合せの回数も、相当回に上りました。
 裁判員の関係では、一一月一六日には、弁護士会が中心となって裁判員シンポを企画しているところですが、これ以外にも、九月一六日には、高齢者・障害者のシンポジウムと専門職団体の定期総会、九月一七日には取調可視化のシンポジウム、九月二二日には第九回の全国仲裁センター連絡協議会、一〇月七日は金沢市での業務改革シンポジウムなどにも参加し、台湾の裁判官との交流会なども実施しました。今後も、各弁連大会、人権シンポ、釜山弁護士会との交流会などの行事が目白押しの中、種々の課題の処理をおこなっていくことになりますが、担当委員会への出席に関しては、いろんな行事とぶつかってしまう関係で、皆勤賞にはほど遠い状態であり、頼りは、委員会メーリングリストと議事録という状態にあります。各副会長が、担当する委員会の数が多くなり過ぎていることと、それぞれの委員会の活動が活発であるか、あるいは、問題を多く抱えていることが原因ですが、息つく暇もない有様です。しかし、自分の仕事をおこなっているときには味わえない体験の連続で、精神的に参ったり、焦るような場面はなく、案外、執行部ライフをエンジョイしているのかもしれません。某会長経験者から、「権力の座にすわる気分も悪くなかろうが」などとからかわれても、気にすることなく会務を消化しております。会館に居る時間が長くなればなるほど、また、メーリングリストを眺めている時間が長くなれば長くなるほど、福岡県弁護士会の従来からのシステムの粗に気がついてしまいます。アーッと言いながら、また、仕事が増えたと思いますが、気がついた者が処理をしなければ、数年は改善されないと思うと、どうしても今年中にという自虐的気分になり、益々、仕事が増えるという悪循環?に陥ってしまいます。
 唯一、神経を使うことは、市民からの会員に対する苦情を取扱う市民窓口を担当するときです。苦情のうちの大部分は、苦情を入れられる市民側に問題があるケースですが、明らかに弁護士側に問題があると思われる事案もあり、懲戒請求書の用紙を交付せざるを得ないケースもあります。他方、懲戒や紛議までに至らないにしても、法律相談を受けた弁護士の態度が横柄だった、相談中あくびをされた、相談中、腕組みをして、相談者の顔を見ようとしなかったなどという苦情もあり、窓口担当者としては、「申し訳ありません。」、「会員に周知するように指導します。」などと謝る場合もあります。この辺りは、マナーの問題であるわけですので、会員の皆様は、充分ご注意して頂くよう改めてお願い申し上げます。
 担当する委員会関連で、今年から試験的にでも実施してみようということになった点が、全会員を対象としたメーリングリストの開設です。今秋は三回にわたって全員協議会が実施されることから、会内議論の場として、実際の協議会の場以外に、設置してみるということにしたものです。ホームページ委員会では、従来から全会員を対象とするメーリングリストを開設すべきであるとの議論があったものですが、余計なメールが大量に入ることを嫌う会員もある等の理由で実施されていなかったものです。全員協議会については、従来から参加者が少なくなっている傾向と、日程が合わないという苦情があったものですが、これを一挙に解決するということが出来るかと思います。この点、ホリエモンのライブドアなど、全社員を対象とするメーリングリストを活用している企業は少なくないと思われ、弁護士会としても、メーリングリストの活用を図っていくことで、会内の情報伝達をスムーズに出来る等の効用があると思われます。一度、実験してみて今後の活用方法を考えたいと思います。
 会務の様子を報告申し上げれば、右の通りですが、他方で、健康第一と考え、個人的には、今年は、これまでになく休日にゴルフに行く回数が増えております。会長以下、他の役員も、山登り等で、体力をつけて、残りの任期を乗り切ろうとしており、まずは、執行部全員、元気で執務をおこなっております。

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