福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2004年6月 1日

司法修習生の給費制維持を求める声明

福岡県弁護士会 会長  松? 隆

 平成16年(2004年)6月1日

  現在、司法修習生の給費制度を廃止し、貸与制に移行しようとする動きが急速に強まっている。司法制度改革推進本部の法曹養成検討会において、給費制の廃止と貸与制への移行が決められる事態が強く懸念される状況にある。

  日本弁護士連合会及び当会を始めとする多くの単位会は、法曹養成検討会で給費制問題が急展開した昨年8月より、給費制維持を求める声明を次々に発表した。\n
  司法修習生の給費制維持を強く求める主たる理由は、以下にある。
 すなわち、法曹は基本的人権の擁護と社会正義の実現とを使命とする極めて公共性の強い職種である。かかる法曹に対しては、国民より、基本的人権の擁護と社会正義の実現のために質・量ともに十分な各種法的サービスを提供することが期待されている。と同時に、当然のことながらその担い手である人材もまた、質・量ともに十\分に供給し続けることが求められている。
 この人的供給の充実という要求は、21世紀における司法の役割の増大に応じて、いっそう高まっている。そこで、質・量ともに21世紀の法曹界を担うにふさわしい人材を確保するため、一連の司法制度改革の中で、法科大学院を中核とする法曹養成制度が創設された。しかし、司法修習制度自体は、これまでの実務修習制度の有用性に鑑み、この新養成制度のもとにおいても従来どおり実施されることとなった。
 未来の法曹の担い手である司法修習生に対しては、己が基本的人権の擁護と社会正義の実現の担い手であることの自覚を促し、それにふさわしい知識・素養を身に付けさせる必要がある。前記法曹の公益性及び重要性から見て、これもまた国及び社会にとって、極めて公共性・公益性の高い重要事項である。この観点から現在司法修習制は給費制である。そしてその観点は、新法曹養成制度のもとにおいても何ら変わることはない。
 新法曹養成制度においては、司法修習生になる前に2年ないし3年の法科大学院に在学することになり、その間に多額の学資や生活資金が必要となる。これに加えて司法修習生の給費制が廃止され、貸与制などに変更された場合、司法修習生の経済的負担は一層増大し、更なる経済的打撃を与える。その結果、生活費を得るために貴重な時間を取られ、司法修習生に必要な知識・素養を身に付けることがおざなりになる危険がある。あるいは逆に、経済的負担を危惧して有用な人材が法曹を断念する危険もある。いずれにおいても、質・量ともに十分な人材を供給できなくなる結果をもたらし、社会的に大きな損失である。\n よって司法修習生の給費制は強く維持されるべきものである。

  かかる理由から、上記のとおり、日本弁護士連合会及び各単位会は、昨年相次いで給費制維持の声明を発表したのである。司法修習生の給費制は、上記のとおり、法曹が真に、国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命を果たすために不可欠のものであり、これらの声明は、国民の要望に沿ったものである。\n それにもかかわらず、法曹養成検討会で貸与制への移行が論議され、早ければ今秋にも改正案が国会に提出されるという。これは、国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現のために質・量ともにふさわしい法的サービス・法的人材を提供するという法曹の本質に明らかに反している。また、司法修習ないし修習専念義務の本質、貸与制に切り替えた場合の司法修習に対する影響等の重要な問題について、法曹養成検討会で十分な議論が尽くされているとは評価できない。\n なお、貸与制導入を前提に議論されている一定の条件の下での返還免除制度は、事実上の任官者免除制度につながるものであれば到底容認できない。

 よって、当会は、給費制度をめぐる今日の状況に鑑み、改めて司法修習生への給費制度を今後とも堅持するよう強く求める。

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