福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2004年5月25日

『住民基本台帳ネットワークにかかる個人情報保護の条例』案の条項についてモデル条例の要件について

意見

 2004年5月25日   福岡県弁護士会 会長 前田 豊

1 目的(第1条) 
  憲法の理念を明文で入れることにより、個人情報の保護が憲法上の要請であることを明らかにし、その重要性を強調することを意図している。
2 用語(第2条)
  別になし。
3 市長(町長・村長)の一般的責務(第3条)
 (1) 本条は,市長(町長・村長)の義務の総論的な規定であるから、「一般的」と明記したものである。
 (2) 「住民票記載事項につき」と規定し「正確な記録」の対象を明白にしたのは、市長(町長・村長)の責務を明確にする趣旨である。
4 電気通信回線による福岡県知事への通知(第4条)
  政令で通知事項が追加された場合に,審議会の意見を聴取するという手続を経、更に、その聴取した意見を市民(町民・村民)に公表することを義務づけることで、政令による追加の事実を公に明らかにし、この是非についての世論を喚起する趣旨である。\n5 処理状況等の審議会への報告等(第5条)
  本条は、市長(町長・村長)とそれ以外の市町村長間で電気通信回線を使って市民(町民・村民)の情報の送受信を行った状況並びに苦情の内容及びその処理の状況を、審議会に報告することによって、情報の送受信の適正さを担保することを目的とするものである。
  本条第2項の1号と2号、3号と4号、及び5号と6号はそれぞれ対比されるもので、相互の関係を比較することによって、不正な情報の請求、もしくは不正な情報の提供(流出)がないかを確認することも可能となる。\n  また、本条第3項については、プライバシーの公開との関係で報告事項の範囲が問題となるが、総務省令の規定を参考に「本人確認情報の提供先、提供を行った年月日、提供した情報の件数及び情報の提供方法」までは許されると考え設けたものである。
本条第4項は、審議会に報告した後、市民(町民・村民)に公表することによって、より一層の不正もしくは不適切な情報の送受信を防ぐとともに、市民(町民・村民)の自己情報のコントロール権の確保に資することを目的とするものである。\n6 送信先の利用状況の審議会への報告等(第6条)
  前条が、市町村間における個人情報の送受信に関する報告に関する規定であるのに対し、本条は、市長(町長・村長)が福岡県知事に送信した個人情報が福岡県知事から先でどのように使われたか(流されたか)を市長(町長・村長)が把握した上で市民(町民・村民)に明らかにすることを目的とするものである。
  本規定によって、福岡県知事が市長(町長・村長)からの報告要求に対して回答義務を負う法的効果を生ぜしめることはできないが、福岡県知事が報告を行わない場合に、勧告をおこない、それでも報告を拒否し続ける場合は、次条の「市民(町民・村民)の基本的人権が侵害されるおそれがある場合」に該当することも考えられるので、その時は「必要な措置」を講じうることになる。
7 不適切利用に対する措置(第7条)  住民票記載事項の漏えい又は不適切な利用により、市民(町民・村民)の基本的人権が侵害されるおそれがあるときは、国等に対し報告を求める等必要な調査を行い、基本的人権が侵害されるおそれが内容に是正措置をとるよう勧告を求めることを、市(町・村)の責務とすることを定めたのが第1項である。
  市(町・村)が個人情報保護のために必要な措置を講じるべき場面を規定したのが第2項である。調査の結果、基本的人権が侵害されると判断された場合はもとより、国等が調査に応じない場合、それ自体が不適切利用を疑わせるものであるし、国等が市(町・村)が必要と思われる是正勧告に応じない場合には、人権侵害を防ぐことをもはや期待し得ない場面であるので、固有の事務として住民票事務を扱う市(町・村)の責務として送信停止等を含めた必要な措置を講じるべきものとしたものである。
  第2項の必要な措置を行う場合には、民主的手続をふみ、市民(町民・村民)にいかなるおそれがあるかという点を広く周知させることを定めたのが第3項の規定である。
  基本的人権が侵害されるおそれが明白かつ差し迫った危険があると認められる場合には、迅速な対応が求められるため、市民(町民・村民)の基本的人権を保護すべき責務を負っている市(町・村)が、審議会への意見徴収等の手続を踏むことなく、必要な措置を講じることとし、他方で、明白かつ差し迫った危険があると判断した根拠及び内容を事後的に審議会に報告することを義務付け、責任のある措置をとるべきことを定めたのが第4項である。
8 不当な目的による取得等の禁止(第8条)  本条は個人情報の取得・保有・譲渡に一定の制限を設け、市民(町民・村民)の個人情報の保護を図ることを目的とする規定である。
  住民票記載事項の取得を無制限に認めることは、当該情報の犯罪への利用等個人の人権侵害を招くおそれがあることから、不当な目的による取得を禁止し、個人の情報の保護を図ることを目的とする。
  第1項においては、取得した住民票記載事項を法により認められている場合を除き第三者へ譲り渡すことは、いかなる目的があろうと正当化されるものではないので、一律に禁止する。
  第2項は、住民票コードの各人への交付により各機関が保有する個人情報の一元化の危険が増大しているため、個人情報の一元化を可及的に防止すべく住民票コードを含む住民票記載事項が記載されたデータベースの構築を禁ずることとしたが、あらゆるデータベースの構\築を一律に禁ずることは市民(町民・村民)の私的領域への過度の介入、営業活動の自由の不当な制限につながりかねないので、業として、かつ当該データベースに記録された情報が他に提供されることが予定される場合にのみ禁止することとした。\n  以上の禁止行為がなされた場合に当該情報の抹消・回収がなされなければ市民(町民・村民)の人権に対する脅威を払拭されないので、当該禁止行為に該当する事実があったと認めるときは、当該住民票記載事項が記録されている媒体の回収、消去等を命ずることができるとして、第3項で事後的な個人情報保護の措置を定めた。
9 関係人に対する調査等(第9条) 本条は前条の措置命令の実効性を確保し、あわせて適正手続の保障を目的とするものである。
  前条の措置命令を発する前提として正確な事実の把握が不可欠であるが、任意の協力を求める形での事実調査しか行えないとすれば事実の把握は極めて困難である。そこで、関係人に対する質問、物件の提出を求めるなどの調査権を付与する。調査に際しては、適正手続を保障するため、関係人の請求があった場合は、身分証明書を提示しなければならないこととする。
10 委任(第10条)
  この条例の施行に関し、必要な事項(細則)は市長(町長・村長)が定めることとする。
11 罰則(第11条)  第8条の規定による不当な目的で取得した住民票記載事項のデータの消去命令に対し従わなかったときや、第9条の質問に対し正当な理由なく拒んだ者に対しては、罰則を規定することにより、調査、命令権限を実質化させる必要があるための規定である。また、罰則については、住民の基本的人権を侵害するおそれがあるという被害の重大性に鑑み、単な過料ではなく、懲役刑及び罰金刑を定めるものとする。住民基本台帳法第44条(住民基本台帳法第30条の43第5項違反)の定める罰則の規定の趣旨からすると、かかる程度の罰則規定を定めることも十分に可能\と思われる。

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