福岡県弁護士会 裁判員制度blog

2008年5月16日

冒頭陳述とは?

「裁判員のための法廷用語ハンドブック」(三省堂)が出版されました。これから、少しずつ紹介していきます。(な)
冒頭陳述とは、検察官や弁護人が証拠調べ手続の最初に述べる事件のストーリーのことです。
○ 起訴状朗読などの冒頭手続(裁判の最初の手続)が終了したあと、証拠調べ手続に入ります。この手続のいちばんはじめに、検察官と弁護人は、各自が証明しようと考えている事件の内容について述べます。これは、冒頭陳述といいます。

○ 冒頭陳述は、あくまで、検察官や弁護人が主張する事件のストーリーで、それぞれが「これが事実だ」と考えている意見にすぎません。事件の内容について争いがある場合、双方から異なった「ストーリー」が述べられることになります。
  裁判官や裁判員の役割は、検察官や弁護人が冒頭陳述で述べている内容が、その後出される証拠にもとづいて、認められるかどうかを判断することです。

○ 検察官、弁護人のそれぞれの冒頭陳述を聞いて、どちらの言っていることが正しいのか決めるわけではありません。冒頭陳述は、案内図です。それぞれの立場から違った案内図が出されますが、この案内図を参考にして、証拠を見たり、証言を聞いたりすることになります。

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2008年5月20日

検察官調書

「裁判員のための法廷用語ハンドブック」(三省堂)より紹介します。(な)

検察官調書(検面調書)とは、検察官が、事件について、被疑者(容疑者)を取り調べたり、被害者その他の関係者から事情を聞いたりして、その内容を書き記したもの。

○ 「検察官の面前における供述を録取した調書」は、これまでは、検面調書と呼ばれていました。これからは検察官調書と呼ばれることが多いでしょう。
 検察官が事情を聞く対象は、容疑者だけでなく、被害者や関係者もふくまれます。検察庁内に限らず、たとえば自宅や病院、または目立たないようにホテルなどで行われる場合もあります。
 容疑者や関係者の同意を得て任意に事情を聞いた場合でも、容疑者を逮捕・勾留して取り調べた場合でも、その記録は検察官調書となります。

○裁判員裁判では、人が見聞きしたり経験したことは、原則として、法廷での証人尋問や被告人質問という形で、証言・供述してもらうという方法がとられます。ただ、例外的に法廷外での書面が証拠として採用されることがあります。その一例が検察官調書です。
 例外的に採用されるのは、次のような場合です。
? 証拠調べ請求をした相手側(たとえば、検察官が請求した場合は被告人・弁護人)が同意した場合
? 供述した人がすでに死亡し、法廷に出てくることができない場合
? 関係者の法廷での証言が前の供述と異なる場合
 ただし、?の場合は、「法廷での証言より、前の供述がより信用できるという特別な状況がある」(特信状況あるいは特信性がある)という条件が必要です。
 たとえば、検察官の事情聴取が終わったあと、公判の始まる前に、証人が誰かに脅されたなどの事情がある場合には、検察官調書作成のときに特信状況があると主張されるでしょう。

○ 検察官調書(検面調書)は、あたかもその人がスラスラと一つの物語を話し、それを検察官が書き取ったかのような体裁になっています。しかし、実際は、検察官がその人から話を聞いて、それを検察官が頭の中で整理して、その整理したものを検察官が文章にしたものです。

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2008年5月23日

員面調書

「裁判員のための法廷用語ハンドブック」(三省堂)より紹介します。(な)

員面調書とは、警察官が、事件について、容疑者を取り調べたり、被害者その他の関係者から事情を聞いたりして、その内容を書き記したもの。

○ 「司法警察員(警察官)の面前における供述を録取した調書」を、略して員面調書といいます。

○ 調書が例外的に証拠として採用される場合があることは検察官調書と同様ですが、員面調書が証拠として採用される要件は、検察官調書よりも厳しくなっています。
  例外として採用されるのは、次のような場合です。
? 証拠調べ請求をした相手側(たとえば、検察官が請求した場合は被告人・弁護人)が同意した場合
? 事情を聞かれた人が死亡したり行方不明になっており、員面調書に記載された供述内容がその犯罪の証明に欠くことができず、その供述がとくに信用すべき状況の下でされたものである場合
 しかし、とくに?の採用は厳しく、員面調書が、事実認定に使用できる証拠として取り調べられることはほとんどありません。
 ただし、証人尋問において、証人が員面調書に記載された供述と異なる証言をした場合、その証言が信用できないということを証明する目的で利用される場合があります。このような目的で使われる証拠を、弾劾証拠といいます。

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2008年5月29日

合理的な疑問(合理的な疑い)

『裁判員のための法廷用語ハンドブック』(三省堂)より、引き続き紹介します。(な)

○ 弁護人による最終弁論の例
  証拠を見て、証拠にもとづいて、皆さんの常識に照らして「有罪であること」に少しでも疑問があったら、有罪にはできません。
  皆さんの常識に照らして「無罪なのではないか」という疑問が残らない程度に検察官が証明していないのであれば、有罪の判決はできません。

 裁判員の皆さんは、「被告人が犯人か、犯人ではないか」という結論を出すことにこだわる必要はありません。皆さんの常識に照らして証拠を検討した結果、検察官が証明しようとしていることについて、少しでも疑問があれば、皆さんは無罪の評決をしなければなりません。
 皆さんは被告人が犯人か犯人でないかを決めるのではなくて、犯人だと断定することに「疑問があるか、ないか」を判断すればよいのです。有罪と無罪を分けるのは、この点です。

○ 評議のとき、裁判官の発言の例
  有罪と判断するには、皆さんが証拠にもとづいて判断して、被告人が間違いなく犯人であることが確実であると言えなければなりません。
  もし有罪らしく見える証拠があったとしても、皆さんの常識から見て犯人でない可能性が残る場合には、それは「確実」とは言えません。

○ 刑事裁判における「有罪判決」のルール
  刑事裁判では、検察官が主張していることと弁護人が主張していることと、どちらが正しいのかを判断するのではありません。検察官は、被告人が有罪であることを証明する責任を負っています。検察官がこの証明に失敗した場合には、被告人は無罪となります。
  裁判員は、検察官が有罪の証明に成功したかどうかを検討すればよいのです。
  検察官は、合理的な疑問を残さない程度の証明を行わなければなりません。合理的な疑問を残さないという意味は、裁判官と裁判員が審理のなかで現れた証拠を検討して、常識に照らして、検察官の主張(被告人が有罪であること)が間違いないと言い切れるということです。したがって、被告人が有罪であることが常識に照らして間違いないとまでは言い切れないときは、被告人が有罪であることについて合理的な疑問が残ったということになり、検察官は有罪の証明に失敗したことになります。このときは、被告人は無罪となります。

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